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KtKs◆SEED―BIZARRE_第16話

Last-modified: 2008-06-28 (土) 00:06:16

今まで出たジョジョキャラ一覧

『ザフト』
J・P・ポルナレフ、虹村形兆

『スリーピングスレイヴ』
ブローノ・ブチャラティ、レオーネ・アバッキオ、ナランチャ・ギルガ、ダイアー

『ブードゥーキングダム』
チョコラータ(離脱)、フェルディナンド博士

『連合軍』
ルドル・フォン・シュトロハイム

『オーブ』
ウェザー・リポート、フー・ファイターズ

『アークエンジェル』
ドナテロ・ヴェルサス、ンドゥール、セッコ、チョコラータ(治療中)、デーボ

『無所属』
吉良吉影(死亡)、グレーフライ(死亡)、リゾット・ネエロ、プロシュート、メローネ、ホルマジオ、ギアッチョ(死亡)、モハメド・アブドゥル、イギー、スピードワゴン(オーブ専属ではない)、重ちー(オーブ専属ではない)、辻彩(ザフト専属ではない)

 
 

1部・スピードワゴン、ダイアー
2部・ルドル・フォン・シュトロハイム
3部・J・P・ポルナレフ、モハメド・アブドゥル、イギー、グレーフライ、ンドゥール 、デーボ
4部・虹村形兆、吉良吉影、重ちー、辻彩
5部・ブローノ・ブチャラティ、レオーネ・アバッキオ、ナランチャ・ギルガ、リゾット・ネエロ、プロシュート、メローネ、ホルマジオ、ギアッチョ、チョコラータ、セッコ
6部・ウェザー・リポート、フー・ファイターズ、ドナテロ・ヴェルサス
7部・フェルディナンド博士

 
 

   ガンダムSEED・BIZARRE

 
 

 『PHASE 16:略奪者の眼』

 
 

『恐竜』。英訳すれば『恐ろしい蜥蜴(ダイナソー)』。東西の両方から、恐怖を持って語られる古代生物。

 そんな恐るべき怪物たちの中でも、頭が良かったとされるのが『ラプトル』と俗に言う小型肉食恐竜である。
 その化石から推測される捕食者としての能力は、恐竜という種の中でも随一であった。ラプトルとは、ラテン語で『略奪者』『猛禽』を意味する言葉である。

 

「ギャアアアアアアス!!」

 かつて、ブルートであったものは獣としての声をあげた。
 その眼はアスランとシンを、敵としてではなく、ただ一方的に襲撃し、切り裂き、肉塊にするための目標としてのみ、捕らえていた。
「っ!!」
 そこでアスランが銃の引き金を引いた。戦闘技能においてはまず間違いなく、この世界でもトップクラスの実力の持ち主の早撃ちである。
 射線はずれず、正確に、その獣脚類の頭部と胸部に2発ずつ、計4発の弾丸が飛来した。
 だが、

 

 ブブブブンッ!!

 踊るような足さばきで、恐竜は弾丸の射線から移動したかと思うと、太く強く、鞭のように俊敏な尾を振り回し、アスランを打ち払った。
「がはっ!?」
 あまりの速度に、アスランの目には映らなかった。アスランは銃を手放し、2メートルばかり吹っ飛ばされる。だがそこで幸運が彼らを味方した。
 地に落ちた銃が、その衝撃で火を吹いたのだ。
「アギャアアァアッ!!」
 予想の外からの一撃は、この高速の捕食者もよけられなかった。脇腹に一発をくらい、倒れ込む。
「ギャアアアアッ!!」
 痛みにのたうちながらも、まだまだ動くことはできるようだ。
 人間に当たればたとえ急所でなくとも、その衝撃によって命を奪える大口径の弾丸を食らって、なお動いていられる。人間の筋肉とは桁が違うのだろう。
「ぐっ、くっ、逃げるぞシン!」
「はい!」
 アスランは痛みをこらえて起き上がり、走り出す。
「早く……MSを……」
 だが格納庫の角を曲がり、十メートル程度走ったところで、二人を更なる悪夢が襲うこととなった。

 

「アウッ、アウッ」
「ブハアア〜〜」
「グルルルルル……」

 無数のうなり声と、詰まれた鉄棒や工具といった資材やらの物陰からはいでる、影、影、影。

「おいおいおいおい……」
 シンの顔に冷や汗が浮かぶ。アスランにも浮かんでいるだろう。
 二十頭近い、化け物の群れが彼らを取り囲んでいた。
「どうする……さっきの動きからして、あいつらは銃弾の動きすら見えているぞ」
 アスランの問いに、シンは目を左右に動かしてから答えた。
「隊長……その軍用車」
 二人のいる位置から右斜め前方にほんの3歩も歩かぬ場所に、連合軍の装甲車があった。嬉しいことに機関銃つきだ。
「あれに乗るのか? だが、こいつらの速さ考えると、たどり着けるかどうか……。それに、俺たちにはキーがない」
「それでもこのまま喰われるよりは、希望があるでしょう」
 不安要素を振り捨てる。アスランも仕方なしと頷いた。
「じゃあ3秒後、同時に走るってことで」
 二人は、恐竜に作戦を気づかれぬよう、自動車から視線をそらす。

(1……2……)

 恐竜たちは、二人にジリジリと近づいてくる。一気に襲い掛かってこないのは、銃を警戒しているのだろう。その程度には知恵もあるということだ。二人との間隔は一番近いもので6メートル辺り。

(……3ッ!)

 二人が同時に地を蹴り、自動車へ飛ぶ。その動きに反応して、ラプトルたちも一斉に飛んだ。
 アスランは背後でガチンという音がするのを聴いた。恐竜の口が勢いよく閉まる音だ。その後、一瞬前まで、二人がいた場所に恐竜たちが飛び降り、ドダドダと押し合いへし合いをしているだろう音が聞こえる。

(よしッ!)

 怪物たちより一つ、先んじた。シンよりやや前を行くアスランが、心を喜びに満たし、装甲車に手を伸ばす。

 その手を、冷たい眼光がさえぎった。

「え?」

 突然、一体の恐竜がアスランの前に出現する。瞬間移動でもしたかのように突然に。走り寄ってきたのではない。
 車体の下に潜り込んでいたのだ。それが這い出て立ち上がった。それだけのこと。それだけで、アスランの希望のすべてが失われた。

「ギャアアアアアアアス!!」

 意表を突かれ、思考を停止させたアスランは、ラプトルにとってもはやウサギよりもか弱い『エサ』にすぎなかった。
 そして、ラプトルの自慢のかぎ爪が、アスラン目掛けて飛び掛る。

「オラアッ!!」

 シンが掛け声と共に、アスランの前に出る。その手には、基地建設用の資材である、細長い鉄棒が握られていた。
 その鉄棒が、ラプトルの顔面を強打した。素人のバットのスイングのような、力任せのものではない。理に適った、無駄な力みのない『剣撃』である。アスランに視線と意識を向けていたラプトルはそれをかわせなかった。
「隊長ッ!!」
 ポルナレフより教わった剣でラプトルを打ち倒したシンは、装甲車に乗り込みながら、反応の鈍い上司の名を呼ぶ。
「あ、ああっ」
 我に返ったアスランも装甲車に乗り込む。
「ラッキー! キーつきっぱなしですよ!」
 キーがついていたのは幸運だったからではない。その装甲車に乗っていた者が、キーを取る余裕もない状況にあったというだけである。
 しかしシンは気にすることなく、すぐさまエンジンをかけ、アクセルを踏み込む。

 ゴワオォ!!

 力強い音を響かせ、装甲車は発進した。群がるラプトルを蹴散らしながら、MSを置いた場所へと進路を向ける。

 

「追ってくる!」
 アスランが備え付けの機関銃を手に取り、背後のラプトルへと撃ち放つ。無数の弾丸を乱射されて、しかしそれをラプトルたちは見切り、かわしていた。
 避けきれぬ者もいないではなかったが、致命傷を負う者はいなかった。
「なんて奴らだ……」
 コーディネイター。遺伝子工学によって産まれた超人。ナチュラルとは比較にならぬ身体能力の所有者。コーディネイターはそう自画自賛する。
 だが、それも所詮は『人間』という枠組みを逸脱したものではない。
 道具を生み出し使うために進化した手は、敵を引き裂く爪も力もない。重い脳を支えるための二本の足は、逃げるにも追うにも遅すぎる。
 野生という舞台では、コーディネイターもナチュラルも大差なく、貧弱だ。野獣に敵うべくもない。

 

 だが殺傷には至らずとも足止めはできる。奴らの爪や牙も、装甲車までは切り裂けまい。そう考えた矢先、すでに別の手が打たれていた。

「……隊長。なんか変なのが出てきましたよ」
 シンが警戒感のこもった声をあげる。見れば、道の前方の脇に、ラプトルとは違うタイプの恐竜がいた。
 体型はラプトルと同じ二足歩行だが、牙や爪はない。代わりに、妙に頭頂部が盛り上がっており、ヘルメットを被っているようだった。
 そいつは、装甲車を見据えると、首を下ろし、頭頂部をこちらに向け、突進を開始した。
「突っ込んでくるッ!!」
 シンがアクセルを強く踏む。急加速した装甲車は、そいつの突進をやり過ごした。そして、そいつは装甲車の代わりに建物の壁に激突する。
 重い音をたて、コンクリートの壁に罅が入った。その頭突きの威力を思い知らされる。
「あんなのくらったら、装甲車でもやばいな……」
 爪や牙で切り裂けなくても、純粋な『力』の激突を受ければ、装甲自体は貫けなくても、車体はひっくり返される恐れがある。
 危惧するアスランに、シンは悪いニュースをもたらした。
「そのやばいのが、ゾロゾロ出てきましたよ!」
 さきほどの同じタイプの恐竜、俗に『石頭恐竜』と呼ばれる『パキケファロサウルス』が五頭、前方に待機していた。
 そしてそれらが、それぞれ別の方向から違う速度で、ミサイルのように突撃してくる。

「かわせーーーッ!!」
「うおおおおおおお!!」

 シンが吠える。彼はその強烈な頭突きをよけるべく、死に物狂いでハンドルを回していく。

 まず一頭をかわす。続いて二頭目もかわした。だが、敵は石頭恐竜ばかりではない。
「このぉっ!!」
 回避するためにスピードを落とした装甲車を、後方からラプトルが襲う。
 流れ弾となった石頭に突っ込まれ、何頭かがひっくり返っていたが、ラプトルは怯むことなく追走してきていた。
 アスランは操縦をシンにたくし、機関銃を動かして対抗する。
「三頭目ッ!!」
 残り二頭となったところで、予想外のことが起こった。機関銃に撃たれ、吹っ飛び倒れたラプトルが、別のラプトルに蹴り飛ばされ、車体の下に巻き込まれたのだ。
「んなぁっ!」
 異物をタイヤに巻き込んだことで、急激に速度が落ちる。そこにパキケファロサウルスが2頭、ほぼ同時に頭突きをくらわせた。
 装甲車の進路がその力でずれる。シンが進路を直す前に、装甲車は格納庫の壁に衝突し、停止した。

「くそっ!!」
 機関銃の弾雨をもかわし、動けぬ獲物にラプトルが迫る。

「「「ウッシャアアアアアッ!!」」」

「もう……駄目か」
 アスランはうなだれる。もはや甲子園優勝チームに、バットももったことがない茶道部かなにかが挑戦するようなもの。勝ち目がない。
「何言ってるんですか! こんな、ところでぇぇぇッ!!」
 シンはさっきの鉄棒を握り締め、ラプトルを迎え撃つ。噛み付こうと大きく広げられた口に、一撃をくらわし、牙を半分ぐらい圧し折りながらラプトルを吹っ飛ばした。
 だがそこまで。鉄棒を振り下ろしたことで無防備となったシンに、別のラプトルが襲い掛かる。

「くっそおおぉぉ!!」

 ボッグオオオオオオン!!

 炎の嵐が、ラプトルを吹き飛ばした。

「……ええ?」

 空気がいやに熱くなり、シンたちの体から汗が湧き出る。吹き飛んだラプトルたちは、皮膚に軽度の火傷を負い、悶えていた。
 他のラプトルたちはこの怪異に困惑しているらしく、動きを止めている。

「間一髪だったな……」
 装甲車がぶつかった格納庫の中から、足音と共に声がする。
「私以外にも、まだ人間がいたのか」
 空の下に顔を出したその男は、黒い肌をしていた。顔立ちはお世辞にもハンサムとは言えないが、彼をブ男と言えるのは、よほど肝の据わった人間でなくては無理だろう。
 その静かな迫力には、並みの人間では歯が立つまい。

「ふむ……妙だな。君とは初めてあった気がしない。その危なっかしいところが、誰かに似ている気がするよ」

 男の後ろから犬が一匹、姿を現す。白黒模様の由緒正しい血統書付きのボストン・テリアである。
 小さな体躯でありながら眼光は強く、恐竜にもまったく臆していないようだった。
 黒い男は、火傷を負いながらも戦意を衰えさせず、立ち上がるラプトルたちを見据え、次の行動を決める。

「こいつら全部を相手に勝つのは難しいな。逃げるとするか。イギー、協力してくれ」

 イギーと呼ばれた犬は、「ったく、しょーがねーなー」とばかりに、鼻を鳴らす。

 見るべき者が見れば、この一人と一匹の前に、二体の異形を見ることができただろう。

 一体は、紅蓮の炎をまとう、鷲の頭を持った逞しい長身の男。古代エジプトの神々を思わせる姿。
 そしてもう一体は、上半身の形状は犬に似ている。下半身には後ろ足がなく、代わりに二つのタイヤがついている。
 顔は奇怪な仮面のようで、インディアンがつけるような羽飾りをつけていた。

 鷲の頭の男の名は『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』。仮面をつけた方の名は『愚者(ザ・フール)』といった。

 

 恐竜たちは、その異形の二体を見ることはできぬ。ただ本能で理解した。
 いやなものがいると。自分たちに、歯向かうものがいると。ならば歯には歯を。『牙』を。

「ギャアアアアーーース!!」

 黒い男に向かい飛び掛る。そして、

「『マジシャンズ・レッド』!!」

 男の声と共に、熱が生まれた。物理法則を無視して突如生み出された炎が、野獣を炙る。
「ゲエッ!!」
「ウゲエッ!!」
 さきほどと同じように、恐竜たちを弾き飛ばした。その異常現象に、二人のザフトレッドが反応する。

「あ、あんたそれ」
「まさか」
「「スタンド使い!? ……え?」」
 シンとアスランは、互いに見詰め合う。
「知って、いるのか?」
「隊長こそ」

 そうしている間に、ラプトルたちは立ち上がる。今、またしても攻撃は防がれたが、その反復は、彼らに一つのことを理解させた。

『この攻撃は……自分たちを死なせない』

 この熱も痛みも、薄く傷つけることはあっても、殺すことはない。なぜだかわからないが、この力は手加減をしている。
 それならば負けは無い。そして攻めることを止めなければ……勝つのは殺意のある側だ。彼らは勝利を確信した。

「なんと頭のいい奴らだ。どうやら気づいてしまったようだ」
「気づいたって何をだよ! えーと」
 シンの問いに、男は答える。

「私の名はモハメド・アヴドゥル。こっちの犬はイギー。そして何を気づかれたかというと……私がこいつらを殺せないことにだ」

 アヴドゥルは、ラプトルの怯まぬ様子からそう判断した。
「殺せない? あんたがスタンド使いだっていうなら、いくらこいつらが強くても手も足も出ないわけじゃ」
「そうじゃない……私のスタンドは炎を操れる。攻撃力ならばスタンドの中でも上位に入ると自負している。だがそういうことではないのだ」
 アヴドゥルのスタンド、『マジシャンズ・レッド』であれば、恐竜たちを倒すことはたやすい。
 かつて、宇宙はビッグバンという炎によって始まった。『魔術師(マジシャン)』は、タロットにおいて1番目のカードであり、始まりを暗示し、始まりである炎を操れる。その力は鋼鉄も一瞬にして熔解させるほどだ。
 それでも、アヴドゥルに彼らを殺すことはできなかった。

「この恐竜たちは、本物の恐竜ではない。どうやら君たちは、スタンドのことを知っているようだが、彼らはおそらく、何者かのスタンド能力によって恐竜にさせられた、人間なのだ」
 二人はその言葉にハッとする。あまりの展開に忘れていたが、ブルートが恐竜に変化していったことを思い出せば、それが事実であることがわかる。
 つまり、この恐竜を殺すことは、人間を殺すということなのだ。
 いくら敵である地球軍人であっても、何者かに操られているものを殺すことが許されるだろうか?

「恐竜に傷つけられると、その人間も恐竜になる。この恐竜たちの中に、私の友人たちもいるのだ。軍とは何の関係もない、平凡な一般人である者たちがな」

 シンもアスランも言葉が無い。
 相手が敵の軍人であるというならば、相手も死ぬ覚悟はできていたと、このような形でなくても殺しあうことになったと、自分を納得させることはできる。
 だが一般人を殺すことは、何の言い訳もできない。
 だがこのままではこっちが危ない。アヴドゥルの炎も決定打とならないと理解した恐竜たちは、今度は炎も突き破って攻撃してくるかもしれない。

「だがやりようがないわけではない……イギー! 奴らの眼を狙え」

 ブチの犬は一声鳴くと、自らの才能を解放する。
『ザ・フール』。タロットにおいて0番目のカードたる『愚者』。トランプにおけるジョーカー。無知、閃き、直感、変化、柔軟といった、これからの可能性を意味する。
 その能力は、『砂』。砂となって変幻自在に姿を変え、散らばっても寄り集まって再生できる。単純な力押しでは倒せないスタンドである。

 イギーの一声でザ・フールは散らばり、恐竜たちに、見えざる砂が襲い掛かる。その砂には何のパワーも殺傷力も無い。ただの砂と変わらない。
 だが、それがもたらす効果は劇的なものだった。

「ギャアアアーーーン!!」
「グギャア!!」
「アンギャアァァア!!」

 恐竜たちは一体の例外もなく、痛みと怒りに悶え叫んだ。

「な、何をしたんだ?」
「眼を塞いだだけだ。こいつらは恐ろしく優れた『動体視力』を持っている。それこそ弾丸すら見切るほどのな。その分、頼りの眼が利かなくなったときの動揺は大きい。イギーの砂のスタンドによって、彼らの眼に砂を入れたのだ。今のうちに逃げるぞ。急げ」
「あ、ああ」
 シンは鉄棒を握り、アスランは落とした拳銃の代わりに装甲車内に置かれていた拳銃を拾い、走り出すアヴドゥルとイギーについていく。
 対抗策を見つけられた以上、装甲車を使うメリットは少ない。装甲車は乗り捨てられることとなった。

「スタンド使いを倒せば彼らも元に戻るのだろうが、探している余裕はない。逃げて体勢を立て直すしかないな。君らは服装からしてザフトのようだな。向かうあてがあるのか?」
 物陰に潜みながらそろそろと移動しながら、アヴドゥルが問い、アスランが答える。
「ちょうどこの方角へまっすぐ行った場所に、MSを二機、置いてあります。あれならいくら恐竜でもどうしようもないはずです」
「それは助かる。ところで、私たちが名乗ったのだから、君たちの名も教えて欲しいのだが」
「ああ、すみません……私はアスラン・ザラ。そっちは、シン・アスカ」
「よろしく」
「うむ、よろしく……待った!」
 アヴドゥルは大きな身を可能な限り縮こませる。シンたちも見習い、身を潜めた。
「どうしたんですか?」
「奴らだ……」
「なぜわかるんです? 音も何もしませんでしたが……」
 アヴドゥルはアスランにとっては何も見えない虚空を指差し、
「『スタンドの火』だから君には見えないし、恐竜たちにも見えないが、そこに炎の塊が浮かんでいる」
 スタンド使いが見れば、そこには前後左右上下に配置された六つの炎が、細い炎の糸でつながりあっているのが見えただろう。
 アスランも、その辺りが『熱い』ことは感じ取れた。
「この炎は生物探知機だ。人間、動物の呼吸や皮膚呼吸、物体の動く気配を感じとる。『スタンド』のエネルギーの動きもわかる。半径15m以内にいるものなら、どの方向にどんな大きさの物が隠れているかわかる」
 ついでに言えばイギーの鼻もある。砂中に潜む水のスタンドや、幻を生み出し隠れ潜むスタンドも、この犬の嗅覚からは逃れられなかった。
 彼らから隠れるには、それこそかつてのように、この世界から消滅するくらいのことが必要となる。

「来たぞ」
 アスランの目に、ラプトルが一体こちらに歩いてくるのが見えた。そいつはガフガフと鼻を鳴らし、臭いを嗅ぎながら、三人と一匹の方に向かってくる。
「ば、ばれているのか?」
「シッ、身動きするな。大丈夫、わかってはいない。あいつらは動体視力が異常に優れているくせに、なぜか止まっているものを見ることはできないらしい」

 動かないものを見る力を静止視力というが、カエルなどはこの力がない。
 『動くものはエサや敵といった重要なもの』『動かないものはどうでもいいもの』と判断し、動かないものを見る必要がないとしている。
 彼らの貧弱な脳では、必要の無いものまでいちいち処理していられないため、止まっているものの情報を切り捨てているのだ。

「だから息を潜めてじっとしていろ。絶対に動くな。声を出すな」
 やがて、ラプトルはゆっくり彼らに近づいてきた。そして座り込むシンの前に立つと、よりいっそう鼻を鳴らし、鼻先をシンの顔に突きつける。
「フーッ、フーッ!!」
(うっ、ぐっ、ほ、本当に見えていないんだろうなぁ……!)
(我慢するんだ! シン!)
 シンは逃げるなり攻撃するなりしたくなる衝動を必死に抑える。何もしないことの恐怖がこれほどのものとは、初めての体験であった。
「フシュー……」
 ラプトルは、首を揺らしシンの顔から、首筋に鼻先を移動させる。そして胸、腹をなぞり、開かれた足の間までたどりついた。

「クン、クンクン」

(おい、おいおいおい、そ、そこはシャレにならねえ!?)

 そこは、ナチュラルであろうがコーディネイターであろうが、共通する男性最悪の弱点。
 シンのみならず、イギーすらも含めたその場の全員が、自分が同じ状況になったらと考え、恐怖を抱く。

「フー、フゥー、フシャアアァァーー!!」

 ついにラプトルの口が開かれた。不気味に白い牙と、赤い舌が異様なコントラストを見せる。シンは恐怖を通り越して吐き気さえ覚えた。

(〜〜〜〜〜〜ッ!!)

 バグンッ

 ラプトルの口が閉じる。
 シンは、声も出なかった。
 アスランもアヴドゥルもイギーも同様であった。

 ラプトルは、彼らの内心も知らず、座り込むシンの股間の前に落ちていた『小石』を、一つくわえて、

「ゴクン」

 飲み込んだ後、シンたちから離れていった。

「「「「……………ハアッ!!」」」」

 全員が息をついた。
「こ、怖かった……!」
 あの負けず嫌いのシンが、素直に恐怖を認めた。無理も無い。股間を食い裂かれそうになったのだから、当然だ。
「よく耐えてくれた」
「つーか、怖すぎて何もできなかったって感じですけどね」
 シンは蒼ざめた顔のまま苦笑する。
「しかしあのトカゲ野郎、なんだって石ころなんか食べたんだ?」
「『胃石』というやつだろう。胃の中にある消化の悪いものを、石を使ってすり潰すんだ」
 ぼやきはしたものの、さして興味もなかったシンは、アスランの答えに、「へ〜」とだけ言った。

「安心している場合ではなかったな。行くぞ」
 炎の生物探知機を掲げ、アヴドゥルが歩き出した。

 

 探知機によって接近を知り、そのたびに身を固めて恐竜たちをやりすごしているうちに、ついにシンたちはMS二機の側までたどり着いた。

 

「あれか……見事だな。MSのことなどさっぱりわからないが、強そうだ」
「実際強いですよ?」
 感心するアヴドゥルに、シンが自慢げに言う。
「近くに敵は?」
「ふむ……炎の探知機に反応はない。イギーの鼻にもだ。恐竜の待ち伏せなどはないようだな」
「よーし、じゃあ早いところおさらばといきますか!」
 シンがインパルスへと足を向けようとした瞬間、

 

 ボッ! ボボボボッ!!

 

 炎の探知機の一つが、突如反応を示して燃え上がった。
「なっ、この反応は、上!?」
 アヴドゥルが顔を上げたとき、彼が見たものはラプトルの足だった。
「ギャアアーース!!」
「がはっ!!」
 背中に飛び掛られたアヴドゥルは、地面に倒れ込む。
「マジシャンズ……」
 ラプトルに馬乗りにされたアヴドゥルは、スタンドを出そうとした。しかし、

 

 ドサッ、ドサッ、ドサッ、

 

 次々と周囲に落下音が響く。それらはすべて、ラプトルであった。
「そ、空からだとぉ?」
 アヴドゥルは三頭のラプトルに押さえ込まれ、スタンドを出したところで、倒す前に食い殺されるのは確実と言う羽目になった。
 空には、ラプトルたちを運んだものが舞っていた。
 体長2メートルを悠に越え、尖った嘴は肉をつつくのに都合が良さそうで、目は不気味にギョロついていた。翼を備えていたが、鳥のような羽毛ではなく、蝙蝠のような皮膜でできていた。
 それは『翼竜』と呼ばれる、空の恐竜。正確には恐竜とは違う種に分類される、鳥が出現する以前の、天上の支配者。
 そのうちの数体は、足にラプトルを掴んでいた。アヴドゥルたちの頭上にまでくると、その足が放される。 ラプトルたちは猫のように体をひねり、難なく着地していった。

 

(探知機でも探れない、高い空からか……迂闊だった)

 

「ウシャアアア!!」
 ラプトルの一頭が、シンに蹴りかかる。その足の大きな鉤爪は、肉を切りえぐるのに適していた。
「シン!!」
 アスランが叫ぶが、どうしようもない。シンの首が切り裂かれようとしたとき、
「ギャンッ!!」
 その一撃を、代わって受けたものがいた。
 イギーだ。その小さな体は吹っ飛んで、大地に落ちて転がった。
「「「イギー!!」」」
 シンがイギーに駆け寄る。手で触れようとするシンを前に、イギーはヨロヨロと立ち上がるが、爪は彼の体を確実に傷つけていた。傷自体は致命傷ではない。だが傷つけられたことは致命的だった。
「アグ、アガグ、アググ……」
 イギーの皮膚がだんだんと、毛からウロコへと変わっていく。眼が冷血動物的な感情を映さぬものとなっていく。
「しまった……『感染』してしまった」
 アヴドゥルの悲痛な声があがる。
 恐竜に傷つけられたものは、恐竜にされる。このルールは、人間ならぬ犬に対しても当てはまった。
 アヴドゥルとて人ごとではない。今も彼の背中にのしかかるラプトルの爪が、少しでも背中を傷つければ、アヴドゥルもまたトカゲの仲間入りを果たすのだ。
「よし……よくやったぞ」
 シンたちの背後、基地の方から、知らない声が響いた。
「スタンド使いである一人と、一匹は捕らえた。もはや怖い物はない」
 その声の主である男は、ラプトルにまたがっていた。女性的で神経質そうな顔立ち。細い体躯。厚い唇に紅を塗り、この暑い島で毛皮のフードをかぶっている。胸には薔薇の花を六つ、飾っていた。ファッションにはこだわっているようだが、正直変だ。
「貴様……何者だ!」
 アスランが拳銃を向ける。
「……おい、君は何をしている? 銃なんか向けて、弾丸を飛ばす気か? この大地にゴミを撒き散らす気か?」
 男は顔をしかめてアスランを指差し、場違いな文句をつける。
「そういうものを捨ててんじゃないぞ。そういうものを適当に捨てる行為はだな……この『大地』を敬っていないことの証明だ。そんなに君は偉いのか? 君はこの恵みある『大地』より偉いっていうのか?」
 男はその場の主人とでも言うように、周囲を見下ろしている。
「……だが大地を尊敬しないゲス者とはいえ、私の方から礼節を欠くのもなんだな……自己紹介をさせていただこう。私の名はフェルディナンド。フェルディナンド博士と呼べ。能力は生物を恐竜化させる『スケアリーモンスターズ』。
この基地中の人間を恐竜にし、君らを捕まえて、ミネルバに戻した後に恐竜化させる。君らはミネルバの全クルーに襲い掛かり恐竜化を感染させる。労せずしてミネルバは終焉を迎えるという筋書きさ」
 その男フェルディナンドは、学生に講義をするように説明を行なう。勝利を確信しているのだろう。
「あんた……仲間をこんなにして、平気なのかよ!!」
 シンが怒鳴る。連合軍人とはいえ、人間でないものにされ、いい様に操られるなどほってはおけないのだろう。
「大事の前の小事だ。それにそいつらも、こんな基地など造って『大地』への礼節を欠いた。罰としては軽いものだろう」
「なっ……!」
「かつて『恐竜』がこの地球で繁栄したのに、突如滅んだのはなぜかわかるか? それはこいつらが!『尊敬』という概念を知らないアホ頭だからだ!『大地』を『尊敬』しない! だから滅んだ!
 わたしは科学的にもつながる話をしている。『大地』を汚せばその報いは君ら自身ひとりひとりが受ける!! その深い因果関係をこいつらの脳ミソでは理解できないのだ!」
 フェルディナンドは自ら操り、自分を守る生物を盛大に罵倒した。
「そして貴様らコーディネイターはこいつら以下のアホ頭だ! あのユニウスセブンなどというガラクタで、こんなにも『大地』を傷つけた! 貴様らのような遺伝子組換え動物ごときが!
 だから私はここにいる! 貴様らのような悪魔以下のクズを浄化するために、私は神よりつかわされたのだ!!」
(なるほど、こいつは本当の『ブルーコスモス』というわけだ)
 アスランは寒気を覚えながら理解する。フェルディナンドは本気で言っている。コーディネイターの能力への嫉妬も何もなく、戦争の敵としてでもなく、ただ大地を汚すということのみを理由に、コーディネイターを敵視している。
 シンも、相手のイカレ具合を悟ったようだ。何を言っても無駄と、黙って睨みつけている。
「まあとにかく、君らには恐竜になってもらう。言っとくが、その拳銃を使っても無駄だぞ。こいつらは史上最強の護衛であり、攻撃生物なのだから……やれ!!」
 その言葉にラプトルたちが、シンたちを囲む輪を小さくしていく。
「クソッ!! 身勝手な思想のために何の関係もない人間まで巻き込むとは……許せん!」
 今度はアスランも諦めなかった。絶望感よりも、フェルディナンドへの怒りのほうが勝っていた。
(刺し違えてでもこいつを倒し、この人たちを救ってやる!!)
 悲壮な覚悟を固めようとしたアスランに対し、
「隊長。その台詞は違いますよ」
 イギーの側で座っていたシンが、快活な笑みを浮かべて言った。
(オーブに住んでいて、アスハの味方で、そのくせ急にザフトで俺の上司になって……正直行動の読めない、相性の合わない先輩だと思っていたけど、気が合うとこも、あるみたいだな)
 シンはアスランに教える。悪党相手のやり方を。
「いいですか……こういう外道を相手にする時は、今から言うような台詞を吐いて戦うんすよ……」
 シンは、アスランに全面的に賛同していた。吐き気をもよおす邪悪とは、自分のためだけに弱者を利用し踏みつける奴のことだ。それを許せはしない。
 シン・アスカとして。J.P.ポルナレフの教え子として。

 

「我が名はシン・アスカ。ザフトの同朋アスラン・ザラ、そしてアヴドゥルとイギーのために。操られている人々の尊厳のために……」
鉄棒を振りかぶりながら立ち上がり、鉄棒の先端をフェルディナンドに向けた。
「この俺が貴様に死を与えてやる……フェルディナンド! こう言って決めるんだぜ?」
「……ふん!」
 フェルディナンドは黙って聞いていたが、聞き終わると馬鹿にした目でシンを眺め、
「命令する。その馬鹿の方は殺していいぞ。一人いれば十分だからな」
「「「ギャアアアアアーーース!!!」」」
 ラプトルが吼えた。血に飢えるままに、恐るべき怪物どもは新たなる犠牲者をつくりあげようと、走り出す。
 同時にシンもまた、フェルディナンドに向けて足を動かす。
 十体もの攻撃生物と、一人の類人猿が、正面からぶつかり合おうとしていた。
「シン!!」
 アスランが援護の銃を向ける。だがその銃は、さきほどの通信機同様、ラプトルによって弾き落とされる。
「くうっ!!」
 拳を放ち、そのラプトルの顎を打ち抜く。だが人間であれば軽く脳震盪を起こす一撃も、恐竜には少々痛いだけだった。
「お前たちは本当にアホだな!! こいつらの動体視力はッ! この世のあらゆる生物をはるかに上回る無敵さなのだッ!」
 フェルディナンドが勝ち誇るのと、
「かかってこいよッ ホラァ!!」
 シンがその手の鉄棒で、恐竜の頭を打ち倒すのは、ほぼ同時であった。
「………なに?」
 ラプトルの牙がシンの喉笛を狙う。その開かれた口に、シンは逆に拳を突っ込む。
 そしてラプトルの舌を掴んで引き倒し、相手の勢いのまま、背後へ投げ飛ばす。
 次に尾がひるがえり、シンを叩こうとする。シンはしゃがんでそれをやり過ごし、そのラプトルの軸足を蹴ってこかし倒す。
 立ち上がりざまにまた一頭のラプトルの顎に、鉄棒を突き上げて強打する。左右双方から襲い掛かる爪を、高く跳んでかわした。その飛距離は、とても人間技ではなかった。
「なっ、なっ、なあっ!?」
 フェルディナンドが素っ頓狂な声を出す。
「どういう事だ! なんだあれはあぁ!!」
 アスランはシンの圧倒的な動きを呆然と見ていた。他の恐竜もシンの戦闘を見ていた。
「あんな動き、人間の筋肉や骨格でできるものじゃないぞ」
 そしてシンの肌が、罅割れたように荒れているのを見る。その眼が人ならぬ色に輝きはじめていた。
「シン……お前、わざと恐竜化したのか!!」
 シンの右人差し指の先から、一筋の血が流れていた。それは、恐竜になろうとしていたイギーの爪に、わざと自分の指先を押し付けてつけた傷。
 あえて『感染』することで、恐竜と同等の能力を得る。いや、コーディネイターであり訓練をつんだシンであれば、最も強い恐竜となれる。
「この意識がッ! 消えるッ! 前にィッ!!」
 ラプトルの爪がついにシンの身体に届く。肌が裂けるが、シンは痛みをこらえてそのラプトルを打ち倒す。
 十頭のラプトルを、ついに突破し、フェルディナンドの目の前に立つ。
「うおおぉぉぉおぉぉぉぉ!!」
 鉄棒を構え、元凶に向けて突き出そうとした。
「ケエェェェェン!!」
 背中に重い衝撃。シンの身体が押し倒され、潰される。
「があッ!!」
 いつの間にか、空中を旋回していた『翼竜』たちが舞い降りてきていた。そのうちの一頭が、シンの背中に乗っている。更に一頭がシンの足を抑えた。
「く、ううああ」
 シンのうめきにフェルディナンドが嗜虐的に微笑む。
「君なんかの小細工で何ができるものか。所詮君に何もできるはずはない」
 フェルディナンドはラプトルに命じ、シンに近づかせる。シンの苦しむ顔を見て、焦らせられた屈辱を晴らすために。
「遺言でもあるかい? 君ももはや私の支配化に入るようだが、やはり君は殺しておくことにするのでね」
 そんな言葉に、うつ伏せにされ顔を上げて睨むシンは、低く小さな声で言う。
「……んでおいたんだ」
「うん?」
 フェルディナンドはシンの声をよく聞くため、頭を下ろして耳を近づける。
「イギーの側から立ち上がる前に……飲み込んでおいたんだ」
「飲み込んだ? 何を?」
「『胃石』」
 ブッ!!
 恐竜となったシンは、あらゆる力が飛躍的に高まっていた。動体視力。筋力。速力。機動力。反射神経。聴力。嗅覚。触覚。そして、肺活量。
 シンが吐き飛ばした『石』は、その肺活量によって凄まじい勢いで飛び、

 

 メシャア!!

 

 フェルディナンドの右目に突き刺さった。
「ぐああああああああ」
 フェルディナンドは生じた痛みに顔を抑える。思わず身体を丸め、バランスを崩した彼は、ラプトルから落ちることとなった。
 シンの目の前に。
「目がッ!! くそう、目がァッ!!」

 

 ゴズッ!!

 

 苦しむフェルディナンドの頭に、鉄棒が振り下ろされた。
「ギャアッ!!」
 寝たままの姿勢で放たれた攻撃に、大した力はない。だが、フェルディナンドを横倒しにするのには充分であり、それによって、フェルディナンドはちょうどいい位置に移動した。
「目なんか、気にする事はない……すぐに何も気にならなくなるから……」
 シンが鉄棒を突きつけるのに、ちょうどいい位置に。
「ま、待て! 頼む許してくれ!! 降参する、捕虜になるから!」
 フェルディナンドは、恐竜に命令することも忘れ、混乱するままに声を出す。
 シンはフェルディナンドの痛む右目に、鉄棒の先端を当て、
「悪いが……もしあんたが約束を破り、もう一度俺たちに牙をむいたら、俺たちにはどうしようもない。あんたを信じられるほど、俺は強くないんだ。だから、身の安全のために俺はあんたを」
 シンの目に、強い決意が灯る。これは正義ではないかもしれない。だが、行なわなければならないのなら、それは自分がやらねばならない。
「殺さなきゃいけない!!」

 

 ズンッ!!

 

「あっ、ぐっ……」
 鉄棒は、フェルディナンドの右目を貫き、脳へと達する。
「……………―――――――」
 フェルディナンドは、口を開けて悲鳴を出そうとして出せぬままに、意識を永遠に手放した。

 

   ―――――――――――――――――――――

 

「うん……?」

 

 シンの上に乗っていた『男』が、首をひねりながら彼の背から降りる。
「ありゃあ? 俺たちはどうしていたんだ?」
 恐竜になっていた間の事は憶えていないらしい。押さえつける者のなくなったシンは、やれやれと立ち上がる。
「あっ、アヴドゥルの兄さん!」
「モハメド! なあ、俺たちどうしてたんだ? 訴えは受け入れられたのか?」
 アヴドゥルは現地の友人に囲まれ、どう説明した物か困っていた。イギーは傷を舐めている。重い傷ではなかったようだ。
「よくやったな。シン」
 アスランは控えめに微笑み、シンを誉める。
 素直に誉められた経験の少ないシンは(ポルナレフはひねくれた誉め方をすることが多い)、その賞賛にやや照れながら笑う。クタクタに疲れたが、ひとまずはめでたしめでたし……
「おい……こいつらザフトじゃねえか?」
 連合軍人が、指差して言った。
「てことは……敵だなてめー」
「なに!」
「敵か!」
「敵かッ!」
 その場の軍人たちが、シンとアスランに注目し口々に言う。
「敵かッ!」「敵かッ!」「敵かッ!」「敵かッ!」「敵かッ!」「敵かッ!」「敵かッ!」「敵かッ!」「敵かッ!」
 二人は、三十人以上の敵兵に囲まれていた。

 

「「うええええええええ!!」」

 

 二人のザフト兵の情けない声が、重なった。

 

シン、アスラン……どうにか囲みを突破し、MSに搭乗。基地を制圧
フェルディナンド『スケアリーモンスターズ』……死亡、再起不能(リタイア)
アヴドゥル、イギー……疲れが取れるまで村にとどまる。また旅立つ予定
現地の人々……基地制圧後、ザフト兵と交渉。連合軍人の暴行事件について調査してもらうことを約束する
ミネルバ……スエズへ

 
 

TO BE CONTINUED