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KtKs◆SEED―BIZARRE_第37話

Last-modified: 2010-05-15 (土) 15:56:35

 『PHASE 37:BIZARRE』

 
 

《bizarre》
bi・zarre /bɪzάɚ|‐zάː/
―【形】 奇妙な.奇怪な.異様な.信じられない.
用例
his bizarre behavior 彼の奇矯な行動.
〜・ly【副】
〜・ness【名】

 

(参考:新英和中辞典 研究社)

 

・ビザール。語源はイタリアとされ、bizzarro(怒りっぽい)が変化したものとされている。英語にはフランス語経由で取り入れられた。スペイン語、イタリア語、ポルトガル語、フランス語に共通する意味は「奇妙な、風変わりな」である。
 ただし、ポルトガル語では「上品な、高貴な」、スペイン語では「勇敢な、雄雄しい」の意味が含まれる。

 

   ◆

 

 ―――CE73年。
 その年は、人類の歴史の中でも重大な年であった。そのことに、異論を差し挟む者はいないであろう。
 コロニーの墜落という大惨事を始まりとし、英雄たちの激闘、新兵器の躍進、ロゴスという社会を裏から操ってきた秘密組織の暴露、そしてその先にある終焉に至るまで、息つく暇もない濃密で苛烈で急速な時代の流れが存在した。
 しかしそれだけではない。この年が、他と比べて特殊なのは、ただ真面目な歴史書に載るだけの理由にとどまらない。
 もちろん、表向きだけでも特殊なことは確かだ。戦争の火種からして凄まじく、火の燃え上がり方も自然ではなく、何かが裏で蠢いているのが伝わってくる時代である。
 その裏のすべてが、一見明かされて見えるようで、ロゴスだのブルーコスモスだのだけでは説明のつかないことがあまりに多い。何かしらの陰謀、鬼謀の匂いがそこかしこから漂ってくる。
 しかし、それだけではない。歴史の教科書に掲載されることはない、どうにも真面目になりきれない、突飛な事柄において、この時代は特殊であり、異様であり、何よりも、奇妙なのである。
 オーブの謎の生物兵器事件や、時が巻き戻った戦場、不死身の黒衣のテロリスト、英雄パイロットを襲った砲身無き狙撃、などなど。数え上げればきりがない。
 乱世においては人々の心の不穏ゆえに、怪しい噂がたつのは珍しくはないといえど、その数は異常、しかも、どれも実際にあったという証言、証拠が多すぎた。
 この特殊性ゆえに、この時代に対して人々は呼び名をつけた。

 

 人はこの時代をこう呼ぶことになる。

 

 すなわち、『BIZARRE73』―――『奇妙な73年』と。

 

   ◆

 

 セイバー撃墜後、フリーダムはアークエンジェルに戻り、そのままアークエンジェルも海に向けて撤退した。反乱を起こし、アークエンジェル接近の報告を遅らせたり、ヴェルサスたちを手引きした裏切り者のオーブ兵士や政治家はほぼ全員逮捕された。
 アークエンジェル襲撃後、オーブはその後の処理に追われていた。戦闘は短時間のもので、全体的な被害は前回の連合軍との戦いよりは少なく済んだが、小さなものとは言えない。予定されているロゴスへの総攻撃に参加することは断念するしかない。
 後々、全世界が参加する計画に参加できなかったことは響くかもしれない。カガリ、ユウナをはじめとする政治家たちは頭を痛めるのだった。

 

「さて……お前たちの処遇だが……」
 アークエンジェルがオーブを去った次の日、山積みする問題の中、カガリは問題の一つに決着をつけることにした。
「お前たちの提案に同意しよう。一時的に……あくまで一時的に手を組もう。前回の私に対する暗殺事件や、今回のクーデター参加、その他もろもろは見逃してやる。
 そして、既にヴェルサスは私を誘拐した犯人として指名手配されているが、その捜査権をお前らにくれてやろう。その後もオーブの捜査官なりに雇うことも検討しよう」
 忌々しそうに睨みつける相手は、石像のように沈黙して微動だにせずたたずむリゾットだ。
「だが、法を犯すようなことがあれば……」
「安心しろ。その辺りは弁えているさ。あんたの顔に泥を塗るような真似はしない」
 リゾットはそう請け負う。カガリは信用したわけではない。何せ相手は筋金入りの殺人者だ。ペッシに至ってはオーブ兵を何人も殺している。恨みも怒りもある。それでも下手に目の届かぬところで動かれるよりはましだと判断して、彼らを雇うことに決めたのだ。
 彼らはヴェルサスがアークエンジェルに乗っているという情報を手に入れ、そこからクライン派に目をつけて情報をさぐり、オーブへの襲撃まで突きとめて網を張った。彼らの能力は恐るべきものがある。
「そう簡単に納得すると思うな。目は光らせているからな……。今は全員、割り当てられた部屋で待機していろ。くれぐれも勝手な真似は慎め」
「了解した」
 そして話は終わり、リゾットはカガリの執務室を後にした。

 

「………はぁっ! こ、怖かった!!」
 カガリは盛大に息を吐き出し、全身から汗が噴き出る。震えが走って止まらない。かつて自分を殺しかけた相手と一対一で話していたのだから無理もない、
「正直、今すぐ牢屋に放り込んでおくべきなんだろうが……奴らは大人しく閉じ込められているような奴らじゃなし、政治をする者として裁判もなしに無抵抗の者を殺傷するわけにもいかん。忌々しいが……こうするしかないか」
 ともあれ一つの件に思い悩み続けるわけにもいかない。もしも、一つの件に思い悩み続けることが可能なら、それこそそうしたい一件があった。気にしてもどうしようもないとわかっていても、気にせざるをえないことが。

 

「………アスラン、どうしてるかな」

 

   ―――――――――――――――――――――――

 

 病院の一室に、二つのベッドが並べられており、それぞれのベッドに男が一人ずつ横になっていた。二人とも全身に包帯を巻いており、全治までには時間がかかると見受けられた。
「一月もあれば義手と義足ができるとさ。いつまでも落ち込むなって! ロゴスとの決戦には参加できねえのは残念だけどよ」
 ポルナレフは、隣で寝ているアスランに話しかける。
「いや……わかってはいるんですけどね」
 言葉を返すアスランのまとう空気は、相変わらず重く暗いものがあった。
「さすがに足を失うというのは……きついですよ」
「命失うよかマシだろ? 何、すぐ慣れるさ。俺、体の部分半分くらい無くして車椅子生活送ってたことあるけど、結構なんとかなるもんだぜ?」
(昔って………?)
 矛盾した言い様に疑問を抱く。普通ならばホラだと思うところだが、この男なら何かしら奇妙な体験をしていてもおかしくはない。アスランは深く突っ込まず、受け入れることにした。
「そういえばユニウスセブンでの戦いでも腕を切断していたはずですが、今回は治せないんですか?」
「ああ、あれか。あれは知り合いのスタンド能力によるものなんだが……今回は無理だな。あれは千切れた部分が綺麗に残っていないといけねえ。後遺症なくくっつけられるってだけで無から再生できるわけじゃねえんだ。
 アスランの足は潰れてるし、俺の腕は手荒く扱ったせいで接合に適さなくなってる」
 回収して調べたものの、蹴ったり踏み台にしたりしたため、骨は砕け、筋肉は破れ、使い物にならないらしい。
「ポルナレフさんは気楽ですね……。いくら高性能の義手があるからって、生身の腕とは差異が出る。以前のような操縦は望めなくなりますよ?」
「練習すりゃいいんだろうが。友人の爺さんも片腕でバリバリ戦ってたし、こんくらい大したもんじゃねえって!!」
「………確かに」
 アスランの頷きには、哀しさや寂しさが含まれていた。彼も、片腕、片足、片目を失いながらも、一流レベルのパイロットであった男を知っている。
 ザフトの先輩であり、英雄であった男。共に戦い、理想を叶えようと奮起した人間。キラとラクスの保護者の一人として彼らと暮らし、彼らと共に行動していた大人。
そして、キラの言葉によれば、今はもういなくなってしまった男。

 

(それがキラをああまでにしてしまった……。そのトラウマが、ヴェルサスに付け込まれたのだろう。ならば、同じ状況を作れば、ヴェルサスの洗脳を解けるかもと思ったが)
 あれでは余計キラを追い詰めてしまっただろう。早く自分が生きていることを公表しなければ、キラは完全に壊れてしまうかもしれない。
(無力だな……俺は)
 結局失敗してしまった。状況は悪化していくばかりだ。
 どうすればいいのか。どうすればよかったのか。
 自分は。自分たちは……。

 

「なあ、またどうにもならねえことで落ち込んでないか?」
 急に声をかけられて、アスランはハッと顔を上げた。
「駄目だぜ。そういう風になんのは。悩むのも落ち込むのもいいが、閉じ籠るのは駄目だ。進もうと戻ろうと、動くのをやめちゃいけねえ。そして動くときは外から目と耳を閉ざしちゃいけねえ。自分だけでやろうとすると、潰れるのが関の山だ」
 その言葉には実感が込められていた。何かしら経験があるのだろう。

 

「それで、言うべきことは言ったのか?」
 ポルナレフの質問は言葉が少なかったが、アスランはその意味を汲んだ。
「……ええ」
 キラに言いたいことは言った。自分が何を思っているかを。キラにどうあってほしいかを。このままではいけないと。生きていてほしいと。
「そうか……なら、役目は果たしたんじゃないのか?」
「………けれど、伝えただけです。まだ辿り着いては、いない」
 そして、戦場に出ることのできなくなった自分に、キラと話す機会は巡ってこないだろう。
「はは、そいつは俺もお互い様だ。だけどまだ、キラ・ヤマトと話をしたい奴が一人残ってる。そいつが俺たちのすべきことを受け継いでくれるさ」
「シン………ですか」
 自分が『道』を教えた少年の、強く熱い目が脳裏をよぎる。
「俺も言うべきことを言った。そしてお前が更にそこに重ねた。なら次くらいには辿り着くんじゃないのか? 少なくとも、先に進んでいるんだから、何もできなかったなんてことはない。そして生きているからには、これからだってできることはある」
 だから、とポルナレフは笑った。

 

「今度カガリと会うときは、もう少し元気でいてやることだ」
「………はい」
 そう答えたアスランは、少し前よりは顔色に生気を帯びていた。

 

「ところで……ポルナレフさんはどうするつもりですか?」
「へ? 何が?」
「あなたがザフトにいたのは、仇の情報を得るためだったのでしょう? その仇を討った以上、ザフトにとどまる理由はありませんよね?」
 確かにストレイツォを倒した以上、ザフトにいなくてはいけない理由は無い。そもそもポルナレフは腕こそ立つが、軍人のように、真面目さを必要とされ、上下関係を徹底される職業は向いているとは言えない。
「うーむ、そうは言っても軍関係の知り合いも増えて、しがらみができちまったしなぁ。こんな大変な時期に抜けるってのもアレだし、状況が落ち着くまではとどまるさ。落ち着いた後は……その時考える」
「いい加減ですねぇ」
 頭を掻きながらやや悩みながら言うポルナレフを見ながら、アスランはできれば彼にザフトにとどまっていてほしいと思った。
 ザフトは成立から今に至るまでの歴史が浅いだけに、『大人』という奴が少ないのだ。能力主義であるがゆえ、優秀でさえあればアスランたち若い兵にも、重要な地位と役目を与えてきた。それはそれでいいのだが、優秀なだけでは駄目なこともある。
 その足りない部分を立派におぎなえるものが、ポルナレフにはある。自分がオーブに戻った後でも、彼がいれば安心できる。キラたちの暴走の理由の一つである、何かしら怪しい議長が何かやらかそうとしても止めてくれるだろう。
 それにオーブとしても、彼のような有力な知己がいることは望ましい。貴重な橋渡し役となる。
(けどそれは俺が言うようなことじゃあないな……)
 軍に残ってほしいと思う反面、ポルナレフには彼らしく自由に生きてほしい。縛られていてほしくない。そんな思いもあるアスランは、自分の希望を口にはしなかった。ただザフトのことを考えたついでにこう言う。

 

「シンたちはどうしてますかね?」
「さーて、仲良くやってりゃいいんだが………」

 

   ―――――――――――――――――――――――

 

 送られてきた資料を読み込み、タリア・グラディスはこの戦争が始まってから何度目になるかわからない溜息をついた。
「まったく、なんでこんな時に……」
 オーブが、そしてアスランとポルナレフが、ロゴス追討作戦に参加できなくなったのは痛い。それでも負けるとは思わないが、かなりの戦力ダウンになる。
「それでも、やめるわけにはいかないけどね……」
 タリアは窓の外を眺める。そこにはほんの数日前まで敵だった連合軍の戦艦が並んでいた。あらゆる国の艦やMSが所狭しと集まっている。
 ザフト基地、ジブラルタルにて、対ロゴス軍は集結しつつあった。その標的はこの基地の目前に位置する、連合軍の指令本部であったアイスランドの軍事要塞、『ヘブンズベース』である。
(『ヘブンズベース』………『天国の土台』? 軍の基地を土台とした天国なんて、住みたいとも思わないけど)
 ちらりとそんなことを考えながら、タリアは一変した状況を再確認する。
 シュトロハイムの演説と、デュランダルの賛同により、世界は一気に反ロゴスの流れに傾き、ザフトと地球連合の間には休戦が成った。そしてロゴスを完全に潰すことを目的として各国は団結し、その中でヘブンズベースへの攻撃は決定された。
 ロゴスの重鎮たちはほぼすべて捕らえられた。『ほぼ』に当たらない例外は、市民たちの暴動によって私刑にあい、殺された者のことであり、実質、一人を除いた全員が無力化されたのが現状である。
 しかし最後に残った一人は、いまだに凶悪な権力と軍事力を持ち、世界の敵として君臨していた。その一人とは勿論、ロード・ジブリールのことである。ブルーコスモス過激派にとってのカリスマとして君臨する彼は、今、ヘブンズベースに籠城している。
 総司令部の名に恥じぬ巨大な戦力を内包するヘブンズベースだ。迂闊に手は出せない。戦力は出し惜しみせずにつぎ込むこととなり、現状がある。
 この雑多なまでに各国の軍が集まった討伐隊において、部隊編成や指揮系統の確立はまだなされていない。
 だが、基本的にこのジブラルタルに集結した軍隊の最高司令官は、現在すでにこの地に直接赴いて、辣腕を振るっているデュランダル議長が務めることになるだろう。
 プラントの代表が働いている間、もう片側の陣営における代表がどこにいるかというと、こちらは宇宙に出ていた。現在、ザフトの軌道要塞『メサイア』にいるシュトロハイムは、ヘブンズベース攻撃と合わせて連合の月面基地を攻める予定となっている。
 機密度が高いために、シュトロハイムたちも詳しくは知らないものの、月面には連合の新兵器が建設されていることがわかっていた。新兵器というくらいだから、相当に強力なものであることは想像に難くない。使用される前に破壊する必要がある。
 かつて自分が配属された基地を、かつて敵対し戦った相手と共に攻める。中々皮肉で悲劇的な話であるが……シュトロハイムのことであるから、そこまで深く気にはしていないだろう。
(確か月基地攻撃の部隊は、前大戦後、プラント臨時評議会の最年少議員を務めたイザーク・ジュールが隊長となっている、ジュール隊をメインにした部隊編成にしたということだけど……)
 ルドル・フォン・シュトロハイムとイザーク・ジュール。
(………かなり騒々しいことになりそうね)

 

 その光景を思い浮かべようとして、頭痛がしてきたので取りやめるタリアの耳に、窓の外からの音が届いた。また、新しい艦が入港したのだ。その入ってきた艦を何気なく見て、タリアは息を呑んだ。
 その艦は地球連合海軍の大型強襲揚陸艦。旧式の艦艇にMS搭載機能を加えた改修艦、いわゆるスペングラー級と呼ばれる艦だ。タリアはその艦を幾度も見てきた。その艦に乗る者たちと幾度も戦ってきた。戦争が始まるより前から。

 

「わかっていたけどね……彼らも来ることは」

 

 その艦の名は『J.P.ジョーンズ』。

 

「けれど………シンたちはどう思うかしら」
 艦から人が降りてくるのが見えた。人数は十数名ほどで、その内の四人は、以前タリアも、ミネルバ艦内で見た顔だった。かつて捕虜となった金髪の少女、筋肉逞しい壮年男性、活発な印象の若者――中でも注目せざるを得ないのは、ルナマリアと親交があったという黒髪の青年。

 

「ファントムペイン……治安維持特別部隊『スリーピング・スレイヴ』隊長………ブローノ・ブチャラティ」

 

 彼らが今、ジブラルタルに降り立った。

 

   ―――――――――――――――――――――――

 

「痛えな……くそ……」
 ヴェルサスはリゾットにやられた足に巻かれた包帯を、呻きながら取り替えていた。赤黒く染まった包帯をゴミ箱に投げ入れる。
「まだ疲れがとれない……さすがにビーム砲を掘り起こすのは無茶だったか……。気絶するまでスタンドパワーを振り絞るなんてやったことなかったが、下手すりゃ消耗して死んでたかもな。自重しよう」
 言いながら、各国のマスコミから流されるニュースや、クライン派の諜報員が集めた情報、ケンゾーの教団から渡ってきた報告などに、ざっと目を通す。正直、半端な量ではない。投げ出したくなるが、これからのことを考えるとそうもいかない。
「まあもう少しの辛抱だ。この非常時に、あれが出てこないなど考えられん。出さない奴は相当の阿呆だ」
 気だるい体をひねりながら、資料の一つを取る。
(しかしキラはどうしたものか……茫然自失になりながらも、帰巣本能に導かれたようにアークエンジェルに戻ってはきたが、取り乱すこともなく、何も聞かず何も話さず………まるっきり人形だな。
 何か言えば二つ返事で従うが、あれじゃ『死ね』と言ったらそのまま自殺しかねない)
 完全に心を閉ざし、自分では何も考えず、他人の言うことに反応するだけに成り下がってしまっている。バルトフェルドが死んだ時よりも更に症状が悪化している状態だ。今は部屋に閉じこもって、何もせずにベッドに横たわっている。
(どうやらアスランは生きているようだし、そのことを教えれば少しは生気も戻るかもな。このままでも扱いやすくていいが、ラクス辺りが心配してまた予想のつかない行動に出られても困る。
 いやまあどう転ぼうとあの女はどうせまた滅茶苦茶やらかすんだろうが、せっかく現状維持していられるんだ。余計なおせっかいをされたくない)
 オーブの政権奪取に失敗した彼らは、現在また海に沈んで隠れ潜んでいる。失敗の報告はラクスには既にしてある。返事は、『しばらくは待機』とのことだ。
 現在準備している新型兵器が完成したら、また何かしらの行動を取るつもりらしいが、それまではこのまま動かずにいていい。
(タイムリミットは……ロゴスが潰れて、戦況の決着がつくまでか。デュランダルのデスティニープランが実行されるかどうかは、こうなるとわからんが、結局ラクスはシュトロハイムもデュランダルも『悪』とみなしているし、最終的には戦闘をしかけるだろう)
 それが、この世界における規定の流れだ。スタンド使いたちが大量に参加したこの物語は、多くの部分で変わっているが、デストロイの破壊活動、ロゴスの暴露、そして最終決戦と繋がる、大きな流れが完全に変わっているわけではない。
(だから俺の原作知識もまだ役に立つというものだが……これ以上は期待できない。早く結果を……!!)
 ヴェルサスは、最初見間違いかと思った。
 都合が良すぎる。求めていたものが、このぎりぎりの状況で手に入るなどと。
「く、くふ、くはははは! はっ、ははははは!! そうか、あれが遂に動いたか!!」
 それは彼がラクスの下についた理由。クライン派の情報網を駆使して探し続けたもの。『彼』がついに姿を現したのだ!
「いるんだな! ヘブンズベースに! ジブリールのところに! 奴が! まったく手を焼かせてくれた!」
 興奮と歓喜を鎮めるように顔を手で押さえ、それでも笑いを堪えきれずに声をあげる。
「ならばいい! もう後はすべて俺の思いどおりにするだけだ! ラクス・クライン! キラ・ヤマト! もう遠慮はいらないなぁ! 好きなだけ命令するなり引き籠るなりやってくれ! 俺は俺で好きにやるからなぁ!! くひひひふははひは!!」
 その日、彼はいつまでも笑い続けた。長年の恋が実った少年のように。束縛から解き放たれた獣のように。

 

   ―――――――――――――――――――――――

 

 シンたちは、どんな顔をして、どんな言葉を放てばいいのかわからぬままに彼らを出迎えた。シンとルナマリアは緊張して固まり、レイと形兆はいつも同様、特に興味なさげに、ウェザーとFFは子供を見守る親や年上の兄弟のような表情であった。
 しかしそんな微妙な空気をものともせず、笑顔で駆け寄ってきた者がいた。ステラ・ルーシェだ。
「シン!」
 輝く笑顔で、少女はシンに思い切り抱きついた。勢いがついていたため、シンは危うく背中から倒れこみそうになるが、踏みとどまる。
「ス、ステラ?」
「うん! 会いたかった! シン!」
 あまりにあけっぴろげな好感に戸惑うシンに、別の声がかけられた。
「そうか。君がシンか」
 シンは声の主に見覚えはなかった。一度見たら忘れることなどできやしないだろう。仮面を被った男などというのは。
「俺はネオ・ロアノーク。ステラたち、ファントムペイン部隊の隊長を務めている。君には、礼を言いたかった」
 ネオは手ぶりでステラにシンから離れるよう伝え、ステラがどいたところで手を差し出した。
「ありがとう……海でステラを助けてくれて。戦場で命を奪わないでくれて。支えになってくれて、本当に、感謝する」
「あ、いや、俺は別にそんな……」
 反射的に差し出された手を握りながら、シンは妙に慌てる。敵として、顔も知らずに殺しあった相手から、こうも真摯に感謝されるとは思わなかった。
「いや、俺たちでは歳も合わないし、立場もあって、中々うまくいかない部分もあるんでな。この件に関しては、感謝してもしきれない。だから……」
 ネオはやや口ごもり、
「ステラにだけは、これからも今まで通りにしてくれないか? 敵同士であった以上、無心でいるなどできない相談だろうが、どうか頼む」
「……………!!」
 シンは、更に呆気にとられた。凄腕の敵将が、まさかこんな私的な、ただ一人の部下だけのためにこのような発言をするなど、考慮の外であった。一瞬、何らかの裏があるのではないかと疑ったが、仮面の裏から覗く視線は本気と思わざるをない強い輝きがあった。
「………言われるまでも、ないですよ。俺は、ステラを守ってやるって約束したんですから」
「そうか………安心したよ」
 やや気恥ずかしげに言うシンに、ネオは微笑みを見せる。それは、娘の幸せを喜びながら、一抹の寂しさを滲ませる父親のようだった。その微笑みを受け、シンは何も言えなくなる。ただ、この男のことは信頼できると、シンは理屈なしに受け入れたのだった。
「あー、ちょっとお話し中悪いんだけどさ」
 二人が言葉をなくしてたたずむだけになったところで、黒髪の若者が話しかけてきた。シンはその若者を見たことがあるような気がした。ただどこかですれ違ったなどということではなく、短いながらも言葉を交わしたような気がした。
「うん? どうしたナランチャ」
 ネオがナランチャと呼んだ男は、シンの姿を上から下まで眺めまわし、
「なあ、あんた以前にも会ったことなかったか?」
 と、訊ねた。
「え………ええと………あ!」

 

『あー、お供え物持ってくるべきだったか?』
『ここの花を吹き飛ばすってことはよー、ここで慰霊されてる人たちや、慰霊している人たちの想いを侮辱するってことだろ? そんな奴を許すわけにはいかねーよ』
『別に許されなくてもかまわねえさ。地獄に落ちても別にいい。けど、生きている者として、死んだ者の想いは受け継がなきゃいけねえ。その想いが侮辱されたことを、見過ごすことだけはできねえぜ』

 

「オーブで、慰霊碑の前にいた………」
「………おお! あんたか! 思い出した思い出した!!」
 顔をほころばせるナランチャと共に、シンは、ステラに続いて彼とも偶然に会っていたなんて、運命というのはつくづく奇妙なものだと驚いていた。
 ナランチャとは一度会っただけだが、シンにとっては強く考えさせられる言葉を聞かされた印象深い相手だっただけに、感慨も更なるものだ。ナランチャの方はそこまで深く考えてはいないようであるが。
「しかし、結局あれだな」
「あれ?」
 ナランチャは笑って言った。
「結局、手伝うことになったな」

 

『あー、花吹き飛ばすような奴がいるんなら、俺がやっつけてやってもいいぜ?』
『え? そうか? 手伝ってもいいぜ?』

 

 オーブの墓碑の前で、ナランチャはそう言っていた。その意味をわかってはいなかったろうが、助けになろうというのは、確かな優しさであり、正義だったのだろう。
「………そうなっちゃったな。確かに」
 シンは苦笑する。さっきまで身構えていた自分と、すっかり彼らのことを好きになっている自分とのギャップが妙に可笑しかった。

 
 

 シン、ステラ、ネオ、ナランチャの四人を、形兆は熱の無い視線で見つめていた。彼は命令を下されれば、遂行することに疑問はない。昨日の敵と手を取り合えと命じられればそうするまでだ。が、ふと隣のレイの雰囲気が変わっていることに気がついた。
「どうしたレイ? 何か気になることでもあるのか?」
 さっきまで形兆と同じく、興味なさげだったレイが強い関心を向けているように見受けられた。その視線の先は、
「………あの白仮面か?」
「いえ、何がどう、というわけではない………はずなのですが」
 どうしても気になる。レイは自分の感覚に戸惑いながらも、気のせいであるとも思えなかった。しかし、その疑問を払拭することはできなかった。横やりが入ったためだ。
「おい、ちょっと聞きたいんだがな」
「ん?」
 視線を向けると、緑に髪を染めた少年が鋭く睨みつけていた。
「この中で、暗緑色のザクに乗っているのは誰だ?」
「………俺だ」
 問いの意味は不明だったが、嘘をついても黙っていてもいずれわかることと考え、形兆は正直に教えてやった。
「へえ………そうかい」
 少年は不敵な笑みをつくった。
「俺の名はスティング・オークレー………カオスのパイロットだ」
「ほう………それで?」
「大したことじゃねえさ………ただ、俺はてめえを倒す。そう予告しておいてやるぜ」
 宣言の内容については形兆は驚かなかった。放たれる殺気からすれば、その程度の考えは抱いていて当然。ただ、なぜ敢えて宣言するのかは分からなかった。
「これから、共同戦線を張る相手にか? 友軍でありながら俺を倒すと?」
「ああ。あんたの方はともかく、俺はアーモリーワンでてめえに邪魔されてから、てめえをいつかぶっ潰すと決めていたんだ。生まれてこの方、一度目で潰せなかった相手ってのは、てめえが初めてなんでな」
 アーモリーワンでは、ダイアーの助けがなければ命さえ危うかった。あの時より、形兆はスティングのこだわりとなった。
「なるほど……それでは、ロゴスとの戦いの最中に後ろから撃つとでも?」
「見くびってんじゃねえ! そんな真似誰がするか! 俺は正面からてめえに勝つ。誰がどう見ても確かにわかるように。偶然とか幸運とか、そんな要素が入らない、完全に決定的に、俺がてめえより上だと証明できるような勝ち方でだ!!」
 形兆は黙って聞いていた。
「だから………俺以外の奴に殺されるなんて下手を打つんじゃねえ……。いいな」
 一方的に言いきると、スティングは場を離れていった。
「あー、ま、適当に相手してやってよ。あいつ結構馬鹿だからさ」
 水色の髪の少年、アウル・ニーダは形兆にそう言うと、スティングの後を追いかけて行った。
「………休戦中とはいえ、敵陣営にいた者を、放置してよろしいのでしょうか?」
 小さくなっていく二人の少年の背中を見ながら、レイが意見する。このままミネルバ艦内を監視もつけずに歩きまわらせていいのかということだが、
「ほっとけ。わざわざあんな少年漫画みてえな宣言するような馬鹿だ。下手な工作をするとも思えん」
 形兆は、スティングがスパイのような小難しいことのできるタイプではないと判断した。外面を取り繕うくらいはできようが、本質的に真っ直ぐで、裏工作などは不得手だろう。
(しかし、俺を倒すとはな……いちいち馬鹿に付き合う義理は無いとはいえ……)
「やっぱ負けるのは、嫌いだな」
 スティングを馬鹿にしつつも、無視することもできない形兆は、せいぜい倒し返し、叩き潰してやることにした。それは、ただ作業的に敵を倒してきた戦争より、なぜだか心が躍った。
「あー……結局俺も馬鹿なのかね?」
 誰ともなしに呟く形兆を、レイは何か複雑な心地で見ていた。
(スティングと名乗る少年………彼は連合のエクステンデッド………肉体を薬物で強化され、幼少より自分の意志を無視され、戦闘兵器として教育されてきた存在。運命に縛られてきた存在。俺と同じように。だが………それなのに)
 生きていると感じた。強い意志を感じた。自分で自分の生き方を決めるという意志を確かに感じた。
(俺と、何が違う?)
 オーブからの報告によると、ストレイツォはポルナレフによって討ち果たされたという。
 自分が欲した明日を、与えると言った怪物。自分が欲した命を、永遠に保ち続けると語った吸血鬼。自分はその誘惑を退けた。
 そのストレイツォが死んだと聞いた時、レイは変に納得した。不死身であっても、やはり死ぬのだ。自分も彼も変わらない。遅いか早いかの違いだけだ。だが、だからこそ、レイは自分に失望する。
(俺が短命であることも、その短命が他人の勝手な意思によって押し付けられた、理不尽な運命であることも、俺が生きることを実感できていない理由にはならない………!!)
 コニールに感じたもの。スティングに感じたもの。今までは形兆から感じられず、最近になって形兆から感じられるようになったもの。
 ただ流されるのではなく、自分の意志で生きること。ストレイツォの手を払った日より、そうなりたいと思い続け、いまだにそうはなれていない。
(俺は………生きることが、わからない………!!)
 レイは知らず、唇を噛み締めていた。

 
 

 ルナマリアは喉をカラカラにしながら、ブチャラティを前にして立っていた。シンはネオたちと話している。レイは自分の思いで手いっぱいだ。ウェザーとFFは、ダイアーとアバッキオを相手に、マンガであれば読み飛ばされるような、特に面白くもない軍事的な真面目な話を行っている。
 ルナマリアの手助けができるような人間はいなかった。
「あ……の……」
 意味のある単語を紡げないルナマリアの心中を察してか否か、ともかくブチャラティの方から言葉が放たれた。
「ルナマリア」
「は、はい………」
 ブチャラティの眼差しは真剣で、ザフトとしてのルナマリアに対する敵意はなく、逆に負い目もなく、ただ真っ直ぐに一人の少女を、かつてと同様に見つめていた。
「この間はつらい思いをさせたと思う……決して、意図したことではなかったが、それでも君を傷つけたことは事実だ。すまなかった」
 ルナマリアが拍子抜けするほどに素直に、彼は頭を下げた。
「しかし」
 頭を下げたうえで、ブチャラティは続けた。
「君がなお俺を許せないとしても、また仲間の仇として復讐を考えているとしても………その怒りを俺は受け入れることはできない。これからの戦いがあり、俺の力がまだ必要である以上、君の攻めを負う余裕はないし、立ち止まってもいられない。だから」
 それはルナマリアが聞いたブチャラティの言葉の中で、最も冷たく、最も真剣で、
「君が俺の敵となるというのなら、俺は君を………討つ」
 そして恐ろしい言葉だった。

 

「私は………」
 その言葉に対してルナマリアは、不思議なほどに穏やかな気分だった。
 正面から向けられた殺意。しかしそれは逆に言えば、ごまかすことなく向き合ってくれたということでもある。
 本来なら、ただなだめて、機嫌を取り、穏便にすませることもできたはずだ。このような宣言をせずともすむ手法は、幾らもあったはずだ。けれど彼は、堂々と言うことを選んだ。
(まったくこの人は……)
 彼は彼女を一人前の戦士として、舐めることなく、真っ向から立ち会っているのだ。それが誇らしく思えてしまう。戦士として、人間としては見ていても、女として見てくれてはいないようなのが引っ掛かるが。
(なんて鈍感で、冷徹で、不器用で、無神経で………)
 多少、良い方に見過ぎだと思わなくもないが、
(それでも………結局のところは惚れた方が負けかぁ)
 そう思ってしまった以上、ルナマリアは白旗を掲げるしかなかった。
 ウェザーに相談した時、彼はルナマリアに言った。『許されない恋であっても、その想いは間違っていない』と。『無理に忘れてしまおうとするな』と。
 そして今、実際に会ってみてよくわかった。忘れるなんてはなから無理だったということが。
(確かにこれをなくすくらいだったら………馬鹿な女になっても、諦めない方がましか)
 この期に及んで、彼のいいところを探してしまい、そして彼と会うことで力が湧いてくるのだから、最早処置なしである。
「条件が一つあります」
「条件?」
 ルナマリアは、ちょっと戸惑い顔のブチャラティに、精一杯小悪魔じみた笑顔(妹が得意な奴だ)を浮かべて言ってやった。
「今度、食事を奢ってください。ディオキアの喫茶店よりも高級なやつを」
 その言葉、というよりむしろ笑顔にブチャラティは驚くが、すぐに安堵の微笑を少し漏らして、
「わかった。いいところを探しておくとしよう」
「はい!」
 ルナマリアは、今度は太陽のような満面の笑みで頷いた。ブチャラティはわかっていなくとも、これは実質デートである。このチャンスを最大限に活かすとしよう。
 そう考える彼女だったが、そこに思わぬ邪魔が入った。
「残念ですが、それは少し不都合があるかと」
 いつの間にか、ブチャラティの背後に一人の女性が立っていた。長い黒髪を一本にまとめ、白刃を想わせる鋭い美貌を、今は冷たく強張らせている。
「レナ? いつの間に?」
「今さっきです。それより、そこのザフトの方………ブローノ・ブチャラティ隊長は大変お忙しい方です。高い地位と権限を持つ人間は、それ相応の義務と責任、そして仕事量を伴うもの………ただの『知人』と、食事をする暇はないのです」
 彼女はレナ・イメリア。その名も高き『乱れ桜』。軍人としてはアバッキオたちより遥かに経験豊富であり、彼らの指導教官でもある。
 そのことをルナマリアは知らない。ただ一つ知らなくても理解できることがある。
((こいつは敵だ………!!))
 ルナマリアとレナ、二人ともが二人とも、同じ認識を同時に済ませていた。
「………あら? それは他人のあなたが決めることですかしら。えーと………『おば様』?」
 ルナマリアの言葉に、レナのこめかみあたりで、ビシリと音が立ったような気がした。
「………私の名は、レナ・イメリアです。ともかく、隊長が『お子様』に付き合って仕事をおろそかにすることは、直属の部下として承諾いたしかねます」
「私はルナマリア・ホークです……ブチャラティさんとは色々とありまして………少し責任を取っていただかなくてはいけないんですよー。だから、『ただ』の部下の方は口を出さないで欲しいんですが………」

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………!!

 

 空気が澱み、軋む。大地が唸り、響く。
 そんな錯覚が、ブチャラティを襲っていた。彼には何が起こっているのか理解が及ばなかった。ただ、長年の戦闘経験が、
(ここはやばい! だが、逃げることができるか!? しかし、それ以外にはどうしようもできない………!!)
 そんな絶望を訴えかけていた。
(アバッキオ! ナランチャ! ダイアー! ネオ! 誰か!!)
 ブチャラティは周囲の部下に救いを求める視線を送るが、誰もが青ざめた顔で、恐れを含んだ表情で首を振るばかりだった。
 ブチャラティは更に絶望したが、恨みはしなかった。自分が彼らの立場でも、やはりどうしようもなかっただろうから。
 結局、女の戦いは、ロゴスとの決着がついた後に持ち越されるということになったが、その後もブチャラティはミネルバ内を案内するルナマリアと、護衛の名目で付き添うレナのいがみ合いに、悩むことになるのだった。

 

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「ZGMF−X42S『デスティニー』、ZGMF−X666S『レジェンド』………、完成したか」
 工廠からの報告を聞き、デュランダルは頷いた。

 

『運命(デスティニー)』
『伝説(レジェンド)』

 

 ザフトの最新鋭の機体。この戦争に勝利をもたらすための至上の兵器。
「しかし………」
 デュランダルの顔は暗い。元々、デスティニーはシンに、レジェンドはアスランに与える予定であった。しかし、オーブからの報告によると、アスランは重傷を負い、戦えるような体ではないという。
(セイバーの撃墜はともかく、ポルナレフに続いてアスランまでか………惜しい戦力であるが、仕方がない。レジェンドはレイに託すとしよう)
 デュランダルは速やかに決定する。最善の選択をなせなくても、常に次善の選択を用意しておく彼の慎重さがなせる、決断の速さだ。
(しかしアークエンジェルは早急に討たねばならないな………ラクス・クライン……彼女がこれほど厄介になるとは思わなかった。裏舞台に引っ込んで大人しくしていてくれればいいものを)
 既にオーブと協力し探索に力を入れている。見つけたらすぐさま、部隊を向かわせることになっている。既に『エンジェルダウン作戦』として、軍部に命令済みだ。
(ラクスは完全に罪人として裁いてしまうとしよう。ミーアのことは、素直に謝罪すればすむだろう。ラクスの名を騙ったといえ、彼女にさせたのは激発しそうな民衆をなだめることや、戦意を鼓舞すること程度………何も軍事的、政治的な命令をしたわけではない)
 実際、ラクス・クラインに軍事や政治を左右する権限は無い。ゆえにミーアの発言には影響力はあっても強制力は無い。権限的にはテレビでコメントする評論家や知識人と大して変わりは無い。
 偽物を使ったということは責められるだろうが、それもプラントを一つにまとめ、破局を防ぐためだと強調すれば、実際の結果が良好と見える以上、今のデュランダルを失脚させるほどのことはないだろう。
(ラクス以上に重要なのはシュトロハイムだ。彼と私の世界への影響力は同程度。ならばこれからの業績がものを言う。そのためにも………完璧に達成させねばならない)
 月への攻撃を任されたシュトロハイムの存在感を思い、デュランダルの心に熱が生まれる。それは一方的に謀略を巡らしているうちは生まれなかった、対抗心と呼ばれる感情だった。
(このヘブンズベース攻略作戦……『オペレーション・ラグナロク』を………)
 デュランダルはシンとレイへ、出頭命令を出す。二人に新たな力を与えるために。自分の望みを果たすために。

 

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 ラグナロク。
 それは北欧の神話・伝説における、神と魔の最終戦争。神話において、世界は巨人の屍によって創られた。頭蓋骨は天に、胴体は大地に、血は海になった。世界は殺害によって始まったがゆえに、その終わりもまた血塗られた戦争によって彩られる。
 神と魔はどちらも勝利することはできず、殺しあいの果てに双方相討ちになって、世界は炎に包まれて崩れ去る。そして世界は滅び、その滅びの中から、新しい神々の世界が生まれてくる。旧時代の終わりと新時代の始まりとなるのだ。
 ラグナロクという言葉は、大作曲家ワーグナーによって『神々の黄昏』という、詩的な訳され方をしたが、本来は『神々の運命』を意味する。神々もいずれは死に絶え、世界が滅ぶことはとめることができない。
 神々さえも逆らえない『運命(デスティニー)』。変えられぬ破滅の『伝説(レジェンド)』。それが『ラグナロク』の真意。

 

 これより始まる、人の世のラグナロクは、いかなる過程と結末を迎えるのか。その運命を、彼らは超えられるのか。それは誰にもわからない。人も神も、運命の前には等しくただ祈るしかない。

 

 この『奇妙』な時代に、『高貴』なる覚悟と、『勇敢』ある魂のもとに、正しいことが行われ、奇跡が生まれるということを。

 
 

TO BE CONTINUED