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KtKs◆SEED―BIZARRE_第47話

Last-modified: 2011-11-13 (日) 14:00:49
 

 『PHASE 47:DESTINY』

 
 

 キリキリという耳障りな音を立て、ジブリールの機械の腕が、人体では構造上できない曲がり方をする。
細身のジブリールに合わせ、シュトロハイムのそれと比べるとスマートに仕上がった腕だが、
もし殴られでもすれば、人間などボロ雑巾のようにひきちぎられるだろう。
「下がっていてください」
 アスランはカガリ、ユウナ、デュランダルをかばい、前に立つ。
「アスラン・ザラか。ザフトの英雄、だが………この数、この力に勝てると思うのか」
ジブリールは嘲笑し、指揮棒を振るように、あるいは猛獣使いの鞭を振るうように、
奇妙な曲がり方をした腕を勢いよく振るう。直後、周囲にいたファントムペインの兵士たちが動いた。
まだ高等学校に通う程度の年齢である少年たちは、残像も見えぬような速さで拳銃を抜き、4人に向ける。
向けられた銃口の数は六つ。
この狭い屋内で、今の配置で、同志討ちにならずに撃つことのできる最大の数だ。
だが引き金が絞られるよりも前に、その銃を握る手全てに、穴が開いた。

 

「グッ!」
「ギャッ!」
「ヅゥッ!」

 

 六つの悲鳴が上がり、少年たちは血が流れ落ちる銃痕を抑えた。
一瞬にして6発の銃弾を、正確に命中させたアスランは、冷静に弾丸を補充する。
その眼には、黒い炎が燃えていた。

 

「き、貴様………!」
「………人間をやめたと言ったな、ジブリール」
 表情を歪めて睨みつけるジブリールに、アスランは冷徹に告げる。
「そんなことで強くなれるほど、甘いものじゃないぞ」
「!! ―――殺せぇ!!」

 

 再び降った命令により、ファントムペインたちは、銃から白兵戦に切り替える。
動いて狙いをつけづらくする気だ。
手の傷に対する怯みもなく、コーディネイターへの憎悪を燃やし、走る。その速さは野獣並みだ。
しかし、

 

「甘いと言った!」
 瞬時に全体の動きを見定め、それぞれの足を銃撃する。腱を穿たれた兵士たちは次々と倒れていった。
「薬物や洗脳、遺伝子調整、機械化改造、そんなもので強さは手に入らない。
 自分自身の意志を持たなければ、それはただの力。『強さ』には至らない。ただの、操り人形だ!」
アスランたちとファントムペインたちとの間にある距離はせいぜい10メートル。
だが、それは詰めるにはあまりに長い距離となっていた。

 

「代表たちは、俺がこの場を抑えているうちに逃げてください」
「け、けれど」
「早く! あと何十秒持ちこたえていられるかわからない!!」
 有無を言わせぬアスランの必死の言葉に、カガリは苦渋に表情を歪めたが、すぐに決断し、
「わかった。だが、お前もちゃんと後から来るんだぞ!」
「………了解」
 この場では足手まといになるしかないとわかっていながらも、この場を離れることを悔しく、
情けなく思わずにはいられない。
それでも、この場にいたい気持ちを押し殺して、カガリは率先して走り出す。
ユウナ、デュランダルも複雑な表情でそれに続いた。

 

「ちぃっ! 役立たずどもめ!」
 痺れを切らしたジブリールが遂に自ら動いた。
その速度はエクステンデッドを遥かに上回り、踏み込んだ床がひび割れ砕けるほどの力を持っていた。
対してアスランはその勢いに退くどころか、強く前進する。
いつの間にか手にはナイフが輝いており、いつ抜いたのか見えた者はその場にいなかった。
ジブリールは接近してきたアスランを、蠅でも叩くかのように、腕を振り下ろした。
武術の一欠片も含まない、素人の攻撃。だが、その威力は致命的なものだった。
アスランは横に飛び退いてかわしたものの、当たっていたらそこで絶命していただろう。
アスランはジブリールの側面に立つと、ナイフをジブリールの右耳に向けて突き込んだ。
だが、急遽アスランは攻撃を中止し、その場に深く伏せる。
そのアスランの頭の上を、弾丸が通り過ぎていった。
見れば、ジブリールの腹部の、臍の位置辺りには、前後左右と斜めに向けて銃砲が取り付けられていた。
八方に向けて弾丸を発射することができるわけだ。
(立ち上がれば、的にされる)
だが、このままの姿勢では思うように動けやしない。
ジブリールもそれを理解しており、嫌な笑みを浮かべる。
「薄汚いコーディネイターが………死ぬといい」
本当に害虫に対する行為をするのと変わらぬ感覚で、ジブリールは死に至る蹴りを放った。
まともに受ければ良くて内蔵破裂。悪くすれば上半身と下半身が泣き別れになるだろう。
だが避けるために体勢を直せば、銃弾の洗礼を受けることになる。
「くうっ!」
 アスランはすぐさま決断する。右足をスイッチを捻るように動かした。

 

 ガキャッ! ドシュッ!!

「なぁっ!?」

 

 ジブリールの驚愕の声が上がる。
アスランは、しゃがみこんだ体勢からは考えられないほどに素早く、高くジャンプしていた。
銃撃が間に合わぬほど速く、天井に届きそうになるほどに高く。
それはアスランの運動能力によるものではない。潰れた右足の代わりに取り付けた義足、
その内部に仕込まれたスプリングによるものだ。
元々は蹴りの威力を増大させるための装置だが、今回は跳躍に使用された。
そして、
(よし! 狙ったわけではないが、この間合い、この落下地点、ベストだ!)
ジブリールの戦闘力は高いが、彼は訓練を受けているわけではない。
予想を外れた事態への対応力がなっていない。
アスランは空中にいる間に、銃をジブリールの生身である頭部に向ける。
「仕留める!」

 

 ドグオガッ!! バウンッ!! ジュゴォッ!!

 

 アスランは、爆音と共に撥ね飛ばされた。

 

(!! !! !??)

 突然襲いかかってきた力に、アスランは抵抗する間もなく吹き飛ばされ、
木の葉のように回転し。気がついた時には床に転がされていた。

(何だ………何にやられた? もしやスタンド、いや、一瞬だが何かが通り過ぎていくのが見えた。
 実体だ。だが、触れたわけではない。通り過ぎた時に発生した衝撃波で吹っ飛ばされた。
 一体どういった攻撃なんだ?)

「アスラン!!」
 衝撃で頭をくらくらさせてしまうアスランの耳に、聞きなれた声が届いた。
「カガリ………なぜ」
さきほど走り去ったはずのカガリたちが、そう遠くない場所でこちらを見ていた。
なぜまだそこにいるのかという疑問は、カガリたちの向こう側にいる人影に気付いた時に氷解した。
「まだ敵がいたのか………」
「ああ、挟み撃ちだ。私たちだけじゃ、この場を逃げられない」
アスランは、それでは仕方ないと思考を切り替え、せめて先ほど起こったことを把握しようと、
カガリたちに目を向ける。

 

「今………どうなった? 何があった?」
 対するカガリたちは、心なしか顔を青ざめさせていた。
「み、見たぞ。だが、まさかあんな………」
「信じられない………スタンド能力っていうのは、あんなことまで………」
 震えた声を出しながら、カガリとユウナは上に視線を向けている。
アスランがその視線の行きつく先を見ると、そこには天井が『無かった』。
「…………!?」
 建材が砕けて、天井に穴が開いていた。
その穴は階層を突き破って、空まで続いているのがかすかに見えた。
(あの穴………あれが攻撃の正体? 攻撃は外から、空から来た………?)
「ちっ、まさかただのコーディネイター一匹のために、お前の手を借りるとは思わなかったが、仕方ない。
 ここは手早く片付けることにしよう。やれ、ウェストウッド」
「了解だ」
 考え込むアスランが答えを出すのを待たずに出されたジブリールの命令に、
カガリたちの後ろに立つ人影が応えた。
髪を頭部のラインがわかるくらいに短く切った、筋肉質の男である。男は『力』を発動させた。
アスランは痛む体を必死で動かそうとするが、間に合うことなく『それ』は来た。

 

『それ』は空から、天井をいともたやすく突き破り、真っ赤に燃えるその姿をさらした。
それはただ一直線に突き進むものであった。

 

(う、わぁ)

 

 アスランは、非常にゆっくりに感じられる一瞬を味わっていた。
脳内麻薬云々による錯覚か、SEEDによる能力の向上かは知らないが、
ただ、アスランは迫りくる『それ』を正確に認識し、その正体を理解し、
そのうえで、もう自分の死は避けられないと悟った。

 

(隕石、だと?)

 

 この地球の回転軌道上には無数の岩石や塵がただよっており、
それが毎秒平均400個の割合で地球に向かって激突して来ているというが、
ほとんどの岩石は地上にまで届かず燃え尽きてしまう
しかし、宇宙船が宇宙から地球に戻ってくる時の突入角度『6.5度からプラスマイナス0.9度の間』を
通過すれば、大きさや重量もあるだろうが、大気ではじかれたり燃え尽きたりせずに、形を残して、
地上まで到達できる岩石もあるだろう。

 

 それこそが、この男、ヴィヴィアーノ・ウェストウッドの『力』。

 隕石を降らせる能力、『プラネット・ウェイブス』。

 

 アスランはとっさに腕を顔の前で交差させて防御の体勢をとるが、
3000度の高温に燃え盛って突進する岩石の前には、おそらく腕ごと突き破られてしまうだろう。
「アスラン!!」
 カガリの絶叫が響く。そして次の瞬間、

 

 ドガァッ!! ズガガガガガガガガガガガガガアッ!!!

 

 隕石の激突音とは種類の違う轟音が、『聞こえる者』の耳にのみに響き、
隕石は割れ砕け、アスランを傷つけることなく四散した。
「な、何が………」
「今回みたいなのは、かなり特別だ。だから次はあまり期待しない方がいい………」
 茫然とするアスランに、天井から声が届く。見上げると、アスランの真上の天井の板が外れ、
そこから顔が覗いている。また、アスランの眼には見えなかったが、
頭上には先ほど備え付けられた機銃によって、隕石を破壊した小型戦闘機が旋回していた。
「あんたたちは!」
 アスランが呼ぶと同時に、彼らは下に降りてくる。人数は3人。
「貴様ら!」
 ジブリールが憎悪を込めて叫ぶ。
「よう、懐かしいなジブリール」
「スリーピング・スレイヴ………貴様らどこまで私の邪魔を………!!」

 

 治安維持特別部隊『スリーピング・スレイヴ』。
かつてジブリールがその力を利用するために造った部隊は、今や最悪の敵としてその牙を剥いていた。
レオーネ・アバッキオとナランチャ・ギルガ。熟練のスタンド使い二人の参戦であった。
そして、
「おい、俺は無視かよ。悲しいじゃねえか」
 帽子を被った男が死地に臨んでなお、軽妙な口調で自己を主張する。
「スピードワゴン………お前も」
「どうにか元気そうだな。カガリ、ユウナ、そしてデュランダル議長も」
3人の味方の登場に、カガリたちに希望が芽生える。
だが、その希望を摘み取ろうと言うように声があがった。

 

「どうやら、私の出番となる世界のようです」

 

 ファントムペイン部隊の陣形の奥から、明らかに毛色の違う人物が現れた。
黒い肌の青年。耳回りや後頭部に髪は無く、頭頂部辺りにのみ、癖のある黒髪を残している。
両目付近には変わった模様が描かれていた。
サボテンのように棘の生えた奇妙なズボンをはき、一度会ったら忘れられそうにない外見である。
「ああ、そうだな。スタンド使いまで出てきては、そうしてもらうしかない」
 ジブリールは頷き、男を前へと促す。
「チョコラータ、リンゴォ・ロードアゲイン、フェルディナンド、
 ストレイツォ、アヌビス神、ヴァニラ・アイス………」
 ジブリールが並べた名前のいくつかには、アスランたちにも聞き覚えがあった。血の記憶と共に。

 

「何人もいた我が特殊部隊『ブードゥーキングダム』も、もうこの二人しか残っていない。
 だが、貴様らに死の運命を決定づけるには充分すぎる戦力だ!」

 

 自信を持って言い切るジブリールに、黒い肌の青年もまた、静かな確信を持って応える。

 

「はい………お任せください。
 このマイク・Oの『チューブラー・ベルズ』を持って、ただちに始末する世界にします」

 

 その男、マイク・Oは、長く鋭い釘を数本取り出し、ハンマーで叩く側である頭の部分を口につけた。

 

「プゥウウウウウウウウウ!!」

 

 強く息を吹き込む音が、周囲全員の耳にまで届く。
釘があっという間に風船となって膨れ上がった。かと思うと、マイク・Oは慣れた手つきで風船を結び、
犬の形のバルーンアートに仕上げた。
「ナランチャ!!」
 バルーンアートが完成したと同時に、アバッキオの声があがる。
声が引き金となってエアロ・スミスから銃弾が乱射された。
だがマイク・Oはその攻撃に何も動こうとはしなかった。
必要無かったからだ。彼を護るように、突如、何本もの金属の管が出現したために。
銃弾は鋼管に阻まれてマイク・Oに当たることはなかった。
「すでに建物の水道管やガス管を拝借し、膨らませて飛ばしていた世界………」
 そう呟いたマイク・Oの手には、既に3つの『バブル犬』が完成していた。
「それが我が『チューブラー・ベルズ』の世界だ」
 マイク・Oが手を離すと同時に、バブル犬は意外な速さでナランチャに襲いかかった。
「うおおお!?」
 脅威を前に叫ぶナランチャのエアロ・スミスが、バブル犬1体を撃ち貫いた。
風船が割れる時の強い音が炸裂し、そして元の釘へと戻る。
しかし釘はその勢いのままに飛び続け、形状が空気抵抗を受けにくいものになったために、
むしろ速度を増して、ナランチャの左腕に突き刺さった。

 

「痛ってえええええ!!」
「ナランチャ! ちい!!」
 アバッキオもまた自分のスタンド『ムーディー・ブルース』を出現させた。
(まずは一番攻撃力のあるナランチャから殺る気か。
 だがこの攻撃、金属を介さなくてはいけないから速効はできない。
 破壊力も低い。風船を作らせなければ、何てことは無い!!)
 アバッキオはマイク・Oへとムーディー・ブルースを走らせる。
ムーディー・ブルースの戦闘能力は人間並みだが、射程距離は長い。
本体は距離をとったまま戦うことができる。
 しかしスタンドがマイク・Oへ辿り着く前に、天井が砕けて残骸が落下した。
「! 隕石!」
 アバッキオの視線が、もう一人の敵スタンド使い、ヴィヴィアーノ・ウェストウッドに流れる。
幸い、隕石自体は誰にも当たることなくウェストウッドに引き寄せられ、彼に直撃する寸前で燃え尽きた。
「よそ見している暇があるのか?」
「!!」
 いつの間にかジブリールがアバッキオの傍にいた。
(甘く見ていた! サイボーグの速度! この間合い、避けられない!)
 鉄腕が振るわれる。
「アバッキオ!!」
 スピードワゴンの帽子が投げられる。回転する帽子の縁は刃となり、
ジブリールの腕――関節部に食い込んだ。
「何!?」
 一瞬、腕が止まった隙にアバッキオは後ろに飛び退いて距離をとる。

 

「ぐぅ………小細工を。まあいい」
 ジブリールは帽子を放り、
「ウェストウッド、20ほど落とせ」
「「「!!」」」
 カガリたちが息をのむ。彼女らがその衝撃を受け止める前に、それは来た。
灼熱した流星の雨が、頑丈に築かれた建物を紙のように突き破りながら落ちてきた。
隕石はウェストウッドに向かって飛んでいき、ウェストウッドに触れる直前で燃え尽き、崩れ消える。
 隕石自体だけではなく、建物の瓦礫もまた落下物としてカガリたちを襲う。
「こ、の! エアロ・スミス!!」
 ナランチャは、カガリたちに落ちる大きな瓦礫を機銃で破壊する。だがすべてとはいかない。
「こんな無茶苦茶な攻撃! 味方にも当たるぞ!?」
 必死で身をかわしながらカガリが怒鳴る。だが、その対策を敵が考えていなかったわけではなかった。
「問題はない。既に………」
ジブリールやファントムペインたちに落ちる隕石や瓦礫は、いつの間にか空中に浮かんでいた球体に触れる。
球体は割れるが、落下物はその弾力で僅かにはずみ、軌道を変え、誰もいない場所に落下する。
「既に銃弾を風船に変えて、空中に漂わせている世界………」
 逃げまどうカガリやユウナたち。アバッキオやナランチャのように戦闘経験を積んだ者ですら、
落下物に対しては避けるしかない。しかし、マイク・Oの眼に、ただ逃げる以外の動きが映った。
落下物を、いつどこに落ちているのかわかっているかのように難なくかわし、
軽く柔らかい動きで、そのうえで炎のように激しい勢いをもって、こちらに迫る人影を。

 

「アスラン・ザラか!」
 マイク・Oはアスラン・ザラのプロフィールを脳内で再生する。
その戦闘力、判断力をかんがみて、スタンド使いでないといえども油断していい相手ではないと判断する。
「だが、もはや『チューブラー・ベルズ』の為の金属は、いくらでもある世界だ!!」
 マイク・Oは傍らに落ちた瓦礫の一部を蹴りあげ、飛んだ破片を掴む。
その破片は、建築物に埋め込まれた鉄筋であった。
一息で鉄筋を膨らませ、手早く『バブル犬』を造り出す。経過時間、わずかに5秒。
そしてバブル犬をアスランへと向かわせる。
「くっ!」
 バブル犬はアスランの左手へとまとわりついたかと思うと、ガブリと音を立て、『噛みついた』。
「な、ぐあああ!!」
 傷つけられるという覚悟くらいはしていたアスランだったが、
バブル犬の行動はそれだけではすまなかった。
バブル犬はゴムのように体を変形させながら、傷口から潜り込んできたのだ。
皮膚の下、筋肉を伝い、上へ上へと昇ってくる。
「このっ!」
 引きずり出そうとしても、ゴムのように伸びるだけで昇ってくるのを止められない。
アスランはすぐに決心し、銃弾を自分の腕に撃ちこんだ。
強い音をたてて風船が割れ、バブル犬の動きは止まったが、風船が鉄筋に戻り、
腕に食い込んだままになってしまう。

 

(下手に抜けば出血が酷くなる。ここは手をつけない方がいいな。それは仕方がないとして………)
 バブル犬に対処している間に、既に10匹のバブル犬が浮かんでいた。
(この腕で、切り抜けられるか………?)
 銃弾にも限りがある。しかも一人でとなると、
「せめて相討ちに持ち込めれば………」
 心臓を食い破られても、マイク・Oに一発を撃ち込もうという覚悟をしていると、

 

 ドゥン! ドゥン! ドゥン!

 

 銃声が響き、3匹のバブル犬が破裂して鉄片に戻る。だがそれはアスランによるものではなかった。
「カガリ!」
「アスラン。またお前、勝手なこと考えてるんじゃないか?」
 彼女の手には、スピードワゴンから借りた拳銃がある。
「覚悟ってのは死を受け入れることじゃない。生きる希望を掴みとるためのものだ。
 私は、みんなからそう学んだぞ」
「カガリ………そうだな。君と一緒なら………」
 アスランは立ち上がり、マイク・Oを見据える。
その双眸に宿っていたのは、己自身さえも殺して死地へと挑む、漆黒の炎ではなく、
愛する者と共にあるための、黄金の輝きであったように見えた。

 

   ◆

 

「おいどうするよアバッキオ!!」
 瓦礫を砕き、隕石を防ぎ、バブルの群れを弾き、
ファントムペインの兵士を打ち倒しながら、ナランチャは叫ぶ。
彼はこの場の誰より仕事をしているといってもいいだろう。
エアロ・スミスの乱射は、このような多数の敵相手には相性がいい。
とはいえ、さすがに一人では限界がある。

 

「ファントムペインの連中は適当でいい。身体能力は高いが、ステラたちと比べれば低レベルだ。
 数をかき集めただけのようだな。隕石や瓦礫と同じ障害物程度と見なせ。
 敵と見る必要があるのは3人だけだ」
 実際、現在も死亡を免れていて、かつ練度の高いファントムペインは各最前線に送られており、
すぐに集められるものではない。
ゆえにここにいるのは、まだ訓練中の者か、あまり『使えない』者ばかりであるということだ。
見たところ、死を恐れることは無いが、愚直に過ぎ、慎重さに欠ける。
アスランの言った通り、ただ命令を聞くことしかできない人形のようだ。
ステラたちのように感情さえ無い。意図的に感情を消されているのだろう。
(言うことさえ聞けばそれでいいってぇコンセプトで調教したんだろうが、
 その分判断力、応用力に欠けて、戦闘能力自体が低い。戦士としては、本末転倒だな)
 一口にファントムペインと言っても、教育するラボや、部隊の指揮官の方針で
どのような兵士になるかは異なる。
ステラたちは殺人や戦闘を楽しみこそすれ、恐怖や躊躇いを持たないように教育されたが、
コーディネイターに対する特別な敵愾心はあまり無かった。
 それとは別に、コーディネイターへの憎悪を強く植え付けられた兵士もいるし、
あらゆる感情を氷のように封じられた兵士もいる。
今、相手にしている兵士たちは、ただただ命令を聞くことのみを目的として教育されてきたのだろう。

 

「敵と言えるだけの力と意思を持った奴は、あのジブリール、ウェストウッド、
 マイク・Oって奴らだけだ。ナランチャ、お前には露払いを任せる。
 俺たちがあの3人を倒すまで、他の奴らが邪魔しないようにフォローしてくれ」
「え、で、でも俺がいなくていいのか?」
 ナランチャが戸惑いの声をあげる。
「舐めんなガキ。お前がいなくたって楽勝だよ。それと………デュランダル議長さんよ」
 アバッキオは、睨むだけで子供を泣かせられる眼差しを、デュランダルに向けた。

 

「お前には何が何でも生き延びてもらうぜ。手足の2、3本ちぎれようとも、絶対に生きていてもらう。
 そうでなきゃあ、また世界が混乱して、ブチャラティの目標が達成されなくなっちまうからな。
 だから、覚悟をしろよ?」

 

 デュランダルはその苛烈な凄味に息をのむ。つまりアバッキオはこう言っているのだ。
たとえ生きることが死ぬよりつらいような恐怖と苦痛に襲われようとも、絶対に死に逃げさせはしない。
デュランダルの意思など無視して生きさせてやる、と。
そしてそのためであれば、自分は死ぬことも厭わない、と。
「ううう………」
 その時、デュランダルは敵以上に味方に対する恐怖に呑まれ、呻きを漏らした。
死に対する覚悟はしていたつもりだったが、生きるのにこれほど勇気を必要とされるなどとは、
デュランダルは思ってもいなかった。

 

「さてそれじゃあ………まずはあいつだな」
 言うべきことを言った後、アバッキオは標的に視線を移す。
鍛え上げられた肉体を持つ男。男の身のこなしから、かつて警察官として犯人捕縛の為の武術を
トレーニングしたことのあるアバッキオには、男が何らかの武術を修めていることを読み取る。
少なくとも素人ではない。
 ヴィヴィアーノ・ウェストウッドは、血に飢えた獣のような顔つきで、アバッキオの視線に応える。
その背後には、肌の下の筋肉をさらした、人体模型のようなスタンドが控えている。
隕石を引き寄せるスタンド『プラネット・ウェイブス』だ。

 

「ふん、聞こえてるぜ。また随分と甘く見てくれやがって。
 このムカツキ、てめえをぶち殺してスカッとはらしてやる!」

 

   ◆

 

 ジブリールは不愉快げに鼻を鳴らす。
隕石の雨を降らせて、結局一人も仕留められなかったためだ。
その上、今目の前に立っている男も腹立たしい。
「つれねえじゃねえか。そんな顔するなって」
 その男、スピードワゴンは先ほど投げた、金属の刃を縁に秘めた帽子を拾い、埃をはたく。
「貴様………まさか貴様がこの私と戦うというのか?」
「ああ。いけないか?」
 ジブリールは酷く侮辱された気分になっていた。
人間を超越した自分と、対等のつもりでいるなどと許し難い傲慢と映った。
「ふざけるな!! 貴様ごときがッ!!」
「スタンド使いはスタンド使い同士で戦う。そうでない者はそうでない者同士で戦う。
 わかりやすいだろう? 別にふざけちゃいねえさ」
 ジブリールの激怒を、柳が風を受け流すがごとくに、気にもせずスピードワゴンは笑った。
「だからさ、てめえごときは俺程度で十分ぶっ倒せるって言ってんだよ。わかったか小僧?」
 精神的にはジブリールの倍以上の年齢を経てきた男は、最新鋭のサイボーグソルジャーを相手に、
格上が格下をたしなめ叱るような仕草で対応した。

 

「………もういい」
 そしてジブリールは、もはや怒りのあまりに顔色を赤を通り越して、蒼へと変化させながら口を開いた。
「貴様は………生まれてきたことをたっぷりと後悔しながら、死んでいけ」
 怖気を感じさせる冷たい声。ヘブンズベースで戦闘が行われる以前のジブリールには出せなかったであろう
圧倒的な力を手に入れた自負を持つ、暴君の声。だがスピードワゴンはそれさえも耐える。
「怖くないとは言わねえが、それでも『奴ら』ほどじゃねえ。
 行くぜユウナ。恐怖を乗り越えて、踏み潰してやろうぜ」
 声をかけられたユウナ・ロマ・セイランは渋面を浮かべる。
「戦うのはいいんですけどね、あそこまで煽らなくてもいいんじゃないですか?」
 スピードワゴンから渡された銃の安全装置を外しながら、文句を述べるユウナに、
スピードワゴンはちょっと悪かったなぁという誤魔化し笑いを浮かべ、
「いや、嫌な奴のこと思い出しちまって、つい、な」
「まあいいですよ、今更ですし。それよりも」
 ユウナは真剣に表情を引き締める。
「勝てるんですよね?」
「はっ、当たり前だろう。こいつは所詮」
 スピードワゴンは帽子を被り、位置を整え、断言する。

 

「蚤と同類よぉ!!」

 

   ◆

 

 花京院は冷静に戦況を分析する。
新たな敵が一人増え、こちらは味方が一人減った。
フジツボにエネルギーを吸い取られたアヴドゥルは、もはや歩くこともままならないほど疲労困憊している。
まともなスタンド攻撃はできないだろう。強力なスタンド使いである彼の脱落は痛い。
しかも、動けないとなると敵の攻撃にさらされやすくなる。
アヴドゥルを守るために更に戦力を割かなくてはならない。今はイギーにその役目は任されている。
 そして新たな敵、キャプテン・テニール。『暗青の月(ダークブルームーン)』のスタンド使い。
力を吸い取るフジツボを使う厄介なスタンドだが、その本領は水中戦にある。
陸上ではその真価を発揮しきれない。
純粋な戦力としては、そこまで恐るべきものではない。

 

(まずは手早くテニールを倒す!)

 

 花京院はハイエロファント・グリーンの両手をかざさせ、
「エメラルド・スプラッシュ!!」
 緑に輝くエネルギーの弾丸がテニールに向けて発射される。
だがテニールは恐怖の一筋も見せない。ダークブルームーンのパワーもスピードも人間並み程度であり、
エメラルド・スプラッシュの全弾を防ぎきるには心もとない。
だが風切り音に反応したゲブ神が、テニールの周囲に立ち昇ってエメラルド・スプラッシュを叩き落とした。
幾つかはゲブ神の水を貫いて向こう側へ抜けたが、威力の弱まった弾丸は、
テニールにも充分に防ぐことができるものだった。
「くくく、そっちが弾丸なら、こっちも弾丸でいくぜ!」
 テニールがそう言い放った時、上へと伸びあがったゲブ神が激しく横回転した。
その回転の遠心力を伴い、ゲブ神の内部から円盤投げのように、
十数個の平たい円状の物体が『投げ』つけられる。
「ぐあっ!?」
 その物体は、花京院の肉を切り裂いた。深手ではないが、傷には違いない。
(一つ、二つ………くっ、あの一瞬で五つも傷をつくってしまった。しかしこれは………)
「これは、ダークブルームーンのウロコ、か」
 飛ばされてきたのは、かつてダークブルームーンが海中で承太郎と戦った時、
承太郎を傷つけたウロコのカッターだ。

 

「そう。ダークブルームーンが投げつけたところでたかが知れてるが、
 ゲブ神の速度なら鋭く、しかも一回で大量に投げられる。
 幾ら小さい傷とはいえ、塵も積もれば山となるぜぇ?」
 テニールが脅すように話す間にも、ゲブ神は更に花京院にウロコを投げつけてくる。
「くっ!」
「任せな!!」
 そこにポルナレフが立ち塞がり、チャリオッツの剣さばきによってウロコは全て薙ぎ払われる。
その合間を縫い、花京院はまたもエメラルド・スプラッシュを放った。
「効かねえっての!!」
 だがやはりその攻撃はゲブ神によって防がれる。
テニールの周囲を蠢くゲブ神の水は、今や攻防一体の自動装置となっている。
長距離攻撃にはバリアーとなり、近寄ればダークブルームーンとの共同攻撃を行ってくる。
 直接的な戦闘力はさほどではないが、倒し難い相手だ。互いに有効な攻撃手段がない。
「ち、弱いくせに面倒な……」
「負け惜しみにしか聞こえねえなぁ。それより、そっちの兄ちゃんの心配をした方がいいんじゃねえか?」
 呻くポルナレフを相手に、テニールは嘲りの笑みを浮かべて顎をしゃくる。
「!! 花京院!」
「ああ………少しまいったなコイツは」
 花京院の腕に、フジツボが張り付いていた。
フジツボは急速に数を増していき、すぐにも全身を覆いそうな勢いだ。
先ほどのウロコにくっついていたのだろう。

 

「動けなくなるのも時間の問題だぜ? 足手まといが二人に増えて、どこまでしのげるかな?」

 

   ◆

 

 スタンド使いという存在には、幾つかの法則が確認されている。その一つとして、

 

『スタンド使いとスタンド使いは引かれ合う』

 

 そういう法則が存在する。根拠も証拠もあったものではないが、
スタンド使いはその法則が真実であることを、自ら経験して知っている。
地球とリンゴが重力によって引かれ合うように、力在る者同士は引かれ合う。
また、

 

『スタンド使いは他者に影響を与え、新たなスタンド使いを目覚めさせる』

 

 そんな法則も存在する。力ある者は、他に影響を与える。
かつてDIOという男がスタンドを目覚めさせた影響で、ジョースターの一族にも
スタンドが目覚めたように、あまりに強い力は、新たな力を芽生えさせることがある。

 

 この二つのことは、何もスタンドに限ったことではない。
歴史書のページをめくってみれば、強い力やカリスマ、知性、才能を持つ者が、
一つの場所、一つの組織、一つの時代に、まるで仕組まれたように現れ集うことは、
別に珍しくもないことがわかるだろう。

 

 力と力は引かれ合い、力は力を目覚めさせる。科学的に根拠は無いが、そういう運命が存在しうる。

 彼らが今ここにこうして集っていることも、そんな力の法則に従うものだったのだろうか。

 

「このっ、風船なんかにぃっ!!」

 

 カガリの弾丸がバブル犬に叩き込まれ、破裂させる。
「カガリ後ろ!」
 そうして前方に意識を集中させている間に、彼女の背後に忍び寄っていたバブル鳥を、
アスランが撃ち抜く。
彼らの息は合っているとは言い難かった。連携は上手いものではなく、隙も穴もたくさんあった。
その拙い連携の隙を突かれ、バブル犬による攻撃を受けるたびに、慌てて銃を向け、
ギリギリのところで敵を撃ち、何とかその場をしのぐ。
だがそれは本当にギリギリで、いつ崩れてもまったくおかしくない戦況だった。
(そう。簡単に崩せる世界の動きだ。なのに………なぜだ?)
 マイク・Oは、今の状況が理解しきれない。
まったく訓練されていないチームワーク。なっちゃいない共闘態勢。
にもかかわらず、その二人は負けなかった。
もはや風前の灯の状態でありながら、その風前の灯をずっと保ち続けている。
マイク・Oが次々と創りだしているバブル犬に囲まれてだ。
二人の表情に危機感はあっても悲壮感はない。可能性は0ではないという希望が存在している。

 

(はっきり言って絶望的な状況だが)
(不思議と力が湧いてくる。まるでアスランが、私に力をくれているようだ。
  危うい所で、何となく上手く体が動いてくれる)
((まだまだ戦える!))

 

 マイク・Oはさすがに危機感を抱く。
この世界有数の戦闘能力の所有者であるアスラン・ザラはまだわかる。
だがいくら多少の経験があるとはいえ、素人に毛が生えた程度の実力しかない
カガリ・ユラ・アスハまで保っているのはなぜなのか。
(精神的な根性や執念だけでカバーできる世界ではない。
 いや待て………本当にカガリ・ユラ・アスハは、素人の世界か?)
 マイク・Oはふと考え付いたことがあり、カガリの動きをもう一度、注意深く見つめる。
 今一度、カガリへとバブル犬が近づき、そしてすんでのところでカガリがそれに気付き銃を撃つ。
(! これは!)
 眼で見える動作は確かに鍛えられたものではない。速さも技能も平均よりは上だが、一流には程遠い。
だから気付かなかったが、彼女はおかしい。不可思議だ。

 

(あのバブル犬の攻撃への対応………できるはずはない。
 あの攻撃に、彼女の反射神経で対応しきれるものか? 
 いや、あれは死角だったし、タイミングから見ても無理な世界だ。
 つまり、あの襲われた一瞬だけ、彼女の能力が上がった………?)
マイク・Oの背筋が冷たくなる。
理由はわからないが、カガリにはマイク・Oが理解しきれてはいない謎がある。
不確定要素、それは強敵であるとわかっているアスランよりもなお危険だ。
「カガリ・ユラ・アスハ、ただちに処刑する!」
 マイク・Oは、今までアスランとカガリ、二人に振り分けていたバブルによる攻撃を、
カガリ一人へと集中させた。
チューブラー・ベルズの魔物たちの動きが一気に変わり、カガリに殺到していく。
「なんっ!?」
 カガリは叫びながら、敵がなぜかわからないが、本気を出したことは理解できた。
今まで余裕があった攻撃に、切羽詰まった、全力を注ぎ込んだものだと感じられた。
なればこそ、彼女は自分ではこれを防げないと理解した。

 

「だ」
 少し前までの彼女なら、諦めていたかもしれない。けれど、
「だからどうしたぁ!!」

 

 彼女は銃を向けたのだ。
そしてその瞬間、戦闘中に危機に陥るたびにチラチラと響いていたものが、ひときわ強く、頭の奥で、

 

 プッツ〜〜〜〜〜〜ン!!

 

 弾けた。
(!!)

 

 気付いた時には、カガリは自分でも意識しないうちに、
一発の弾丸で同軌道上のバブル犬3体を撃ち抜いていた。
(これ、は)
 今の感覚を、彼女は知っている。
殻に閉じ込められた意識が拡散し、すべての感覚が明敏になり、世界が広がったような感覚を知っている。
 かつて第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で友を失った時、怒りと悲しみの中で解き放たれた力。
実に2年ぶりの感触。

 

『SEED』

 

力と力は引かれ合い、力は力を目覚めさせる。スタンドしかり。重力しかり。運命しかり。
そしておそらく『SEED』もまた、同じような法則性があるのだろう。
『SEED』を最初に発現させた人物は、キラ・ヤマト。
そのキラとの戦いの中でアスラン・ザラもまた、『SEED』に目覚めた。
そしてカガリ・ユラ・アスハ、ラクス・クライン、そしてシン・アスカもまた、
彼らに出会ってから『SEED』に目覚めた。
『SEED』に目覚めたものは、互いに近しい者ばかりだ。偶然と片付けるには、都合が良すぎる。
『SEED』を持つ者は、引かれ合う。
『SEED』を持つ者の近くにいる者もまた、『SEED』に目覚める。
根拠は無い。しかし実際に起こったことを見れば否定しきれない事実だ。

 

 そして今、アスランの『SEED』は、隣で戦うカガリの『SEED』を、再び目覚めさせた。
カガリはバブル犬の強襲をことごとく防ぎ、避け、破壊する。
そこにアスランも援護に加わり、バブル犬の群れの方が逆に押され始めた。
「カガリッ!」
「アスランッ!」
 互いに名を呼び合い、見つめ合い、ほんの少し目くばせをする。それだけで行動は決定された。
 二人は素早く弾丸を詰め替えると、前方、マイク・Oのいる方向に存在するバブル犬を正確に撃ち砕き、
隙間を開いた。
「行けっ!」
 アスランの声に、カガリは走り出す。その走りに澱みは無く、力強さに満ちていた。

 

「こ、こんな馬鹿な」
マイク・Oの表情に怯えが生まれる。
危険性は感じていたが、所詮は毛色の違った猫だと思っていたのが、本当は虎であったのだ。
「ぐ、う、うう」
 群がるバブル犬に対し、まったく無傷でいるとはいかなかった。
だがアスランもカガリも、噛みつかれた時は体内に入り込まれる前にすぐ、
自分の絶妙な角度で肉を傷つけないように、皮だけを弾きとばすように自分の体を撃ち、
被害を最小限にとどめていた。
 生半可な攻撃では止められはしない。その迫力、その覚悟に、マイク・Oは確かに気圧されていた。
「うう、ううう」
 釘を持つマイク・Oの手が震える。
「ふ」
 だが、
「ふざけるなこの女ァ!! 貴様のような素人が勝てる世界なものかァ!!」
 プロとしての矜持が、怯えを吹き飛ばした。
その覇気に呼応するように、バブル犬、バブル鳥の動きが活発になる。
更なる勢いで襲い来る風船の獣を、アスランとカガリは吹き飛ばしていく。
(より精密な射撃力があり、誤射して味方を撃つ心配の低いアスランを援護として、
 勢いのあるカガリが突撃するという世界か。
 だが、そう、いくら能力が上昇したとしても、所詮は素人の世界なのだっ!)

 

 カガリがマイク・Oを撃てる距離まで、ついに迫った。
もう、邪魔するものはない。自分に向けられる銃を前に、マイク・Oは唇に釘を当てる。
「最後の勝負の世界か!」
 言ったが早いか、マイク・Oは一息で風船をパンパンに膨らませる。だが、
「この距離なら、銃の方が早い!!」
 その風船をバブル犬にまで仕上げる前に、カガリは引き金を引いた。

 

 ガキリ

 

 銃は金属の噛み合う音をたてただけで、弾丸を吐き出すことはなかった。
一瞬、思考を真っ白にして表情を固めるカガリに、マイク・Oは静かに言う。
「撃った弾の数は数えておくべき世界だったな。その種類の銃に入る弾数は、既に尽きている。
 そう、所詮は素人の世界だ」
 そして懐に手を入れたかと思うと、一瞬後には手に握られた銃の口が、カガリの心臓部に向けられていた。
「そして、この距離ならスタンドより銃の方が早い。それは正しい世界だ」
 マイク・Oは気負いの無い、ごく自然な呼吸で、引き金を引いた。

 

 耳に痛い強い音が弾け、その音とほぼ重なる調子で、金属同士が強くぶつかる音が響いた。
「!?」
 カガリもマイク・Oも、同時に驚く。
カガリへと撃たれた弾丸を代わりに受けたのは、
カガリとマイク・Oの間に差し込まれるように飛んできた、太い金属の棒のような物体。
 カガリは反射的にその物体が地面に落ちる前に、両腕で受け止めた。
「こいつはっ!」
 カガリはすぐにその物体が何であるかを理解する。
それがアスランに届けられた時、カガリも好奇心からその手に触り、いじり回して遊んだものだ。

 

「使え!」

 

 叫んだのは、床に座った体勢のアスランだった。
戦場でなぜ、無防備に座っているかと言えば、立つために必要な物が、今無いからに他ならない。
そしてそれは、今はカガリの手の中にある。
「くぅッ!」
 驚愕から覚めたマイク・Oが、再び攻撃の意思を宿したとき、
既にカガリの手の中の物、『アスランの義足』は、その足の裏をマイク・Oの顔面へと向けていた。
「アスランキック! くらうか!」
 ニィという笑みを見せて、カガリは義足を捻る。
そのスイッチの感覚は、義足をいじった時に学習済みだった。そして、

 

 ドシュッ!! ズグジャッ!!
「ぐぶっ!?」

 

 バネが弾け、マイク・Oの顔に足の裏が叩きつけられた。
強力なスプリングの威力は、大の男を数メートルも吹き飛ばし、壁へとしたたかに打ちつけた。
 一瞬、壁に貼り付けられたかのように動きを止め、やがて思い出したかのように
ズルリと壁を滑って床に崩れ落ちる。
顔の骨がどこか砕けたらしく、造形は崩れ、白眼をむいていたが、
まだかろうじて死んではいないようだった。
しかし意識は間違いなく失われている。
その証拠に、空中に漂っていたバブルの全てが、元の金属に戻り、落下していく。
ポツポツと落ちてくる金属片をうざったく思いながら、カガリはアスランに向けて、義足を投げる。

 

 ゴズン!
「ぐお!?」

 

 その義足は、アスランの近くにまで迫っていたエクステンデッド兵の顔面を直撃する。
動きの止まった兵士は、アスランに足を撃たれ、戦闘不能になった。
「まだまだ終わったわけではないみたいだ。休んでいる暇はないぞアスラン!」
「そうみたいだな。だがまあ、何とかなるさカガリ」
アスランにしては楽天的と思える台詞をあげて、彼は義足をつけ直す。
そして二人は、いまだ終わらぬ戦いの続きへと立ち上がった。 #br

 

   ◆

 

 サイボーグ戦士の性能は、第2次世界大戦中に基礎が生み出されたとは思えないほどの高性能である。
人間離れした速度を出すことができ、それぞれの装備も思い通りに作動できる。
活動時間も長く、腕や足など一部が壊れても全体に影響が出ることはない。
超合金でできた肉体は、生半可な拳銃程度で破壊できはしない。
つまり、ユウナとスピードワゴンにはロード・ジブリールを倒すことはできないということになる。

 

「こ、のぉっ!」

 

 スピードワゴンの発射した大口径の弾丸が、ジブリールの足に着弾する。
その衝撃でジブリールは前方に半回転し、床に顔面を激突させそうになるが、
その前に手を床につき、後方転回して着地する。
「ふん、だんだんこの体の使い方がわかってきたぞ」
 ジブリールの足には弾痕はついたが、装甲を破ることもできなかった。
転倒しそうになったことを怒るでもなく、買ったばかりの自動車の慣らし運転をするような感覚で、
彼は二人に相対していた。
「次はこいつだ」
 ジブリールが右腕を伸ばす。
スピードワゴンに向けられた右腕は、カシャンという軽い音をたてて装甲が割れて開き、
内蔵された銃身が姿を現した。

 

「BAN(バン)!」

 

 子供が遊ぶようなふざけた口ぶりで、ジブリールは銃を作動させた。
無数の弾丸が飛び散り、スピードワゴンを襲う。
「ぐっ!」
 スピードワゴンは腕で身をかばいながら右に飛び退いた。
防弾服を着てはいるが、その防御力を過信すべきではない。
追撃をかけようとするジブリールだったが、
「おっと」
 隕石がジブリールの付近を通ったため、とっさに動きを止めた。
その隕石は何物にも当たることなく、ウェストウッドに引き寄せられ、彼に当たる直前で燃え尽きた。
「いけないな。つい止まってしまった。平気だとわかっているのだがな」
 ジブリールたちの頭上にはチューブラー・ベルズによってつくられた風船が浮かんでおり、
自動的に動いてジブリールたち味方陣営から隕石を護っている。
よほど運が悪くなければ、ジブリールたちが隕石を受けることはない。
「しかし散弾銃は狙いをつけずともいいが、威力が弱いな。
 シュトロハイムが腹につけているような機関銃はさすがに腕には収納しきれんし………課題だな」
 余裕の表情のジブリールに向けて弾丸が飛来する。

 

「ぬうっ!?」
 余裕が消し飛び、焦った様子で顔を防御する。
生身の部分で最も重要な脳に攻撃をくらうのは流石にまずい。
ジブリールにとっては幸いなことに、弾丸は頭部に当たることなく手に防がれた。
「この小僧が………!」
「ひ!」
 憎悪に染まった眼光で、弾丸を撃った者、ユウナを睨む。
ユウナが思わず悲鳴をあげるほどに、獰猛な邪気が放たれていた。

 

「貴様ごとき無能者が! コーディネイターの小便よりも、汚らしい! 鉛玉なんぞを、この俺にィ!」

 

 激昂の叫びと共に、散弾銃が放たれた。
「危ねえ!」
 スピードワゴンが走り、ユウナを突き飛ばす。
そのためユウナの体を弾丸が抉ることはなかった。
スピードワゴンの方も、多少撃ち込まれはしたが、防弾服を貫くことはなかった。
問題は、弾丸そのものではない。
(ちい! 体勢が悪い!)
 ジブリールは凶悪に唇の端を吊り上げ、自分に対して側面を向け、
攻撃に対処しづらい姿勢となってしまったスピードワゴンに襲いかかった。
襲うとはいえ、何のことは無い、ただ無造作に殴るか蹴るかするだけだ。
ただそれだけで、十分に殺傷できる。
踏み込みの力で床に罅を入れながら迫るサイボーグに対し、スピードワゴンは覚悟を決める。
回避はもはや間に合わない。迎撃できる力も無い。ならばと。
「おぉっ!」
気合いの声を上げ、スピードワゴンは退くことなく、逆に踏み込んだ。
酷薄な北風に立ち向かうバイキングのように。
そしてジブリールの肩に自らの手をかけ、馬跳びのごとく跳び上がり、
ジブリールの突進を越えて、向こう側へと身を躍らせた。

 

「! おのれぇ!!」
 ジブリールは自分の頭上を跳び越えられた屈辱感に怒りを更に燃え上がらせ、
体を反転させ、同時に腕を伸ばして振り回した。

 

 ズグッ!

 

 その腕が、ジブリールを跳び過ごしていまだ大地に降りることもなく
空中に存在していたスピードワゴンの脇腹をかすめた。
ただかすめただけで、防弾服は引きちぎられ、大の男の体重が吹っ飛んだ。
床に転がったスピードワゴンは、肋骨に少なくとも罅程度は入っているだろうことを認める。
それでも、あのまま何もしないよりは遥かにマシであった。
回避できなければ死んでいたのは、コーラを飲んだらゲップをすることより確実なことだった。だが、
(やっべぇ………)
 だが、そのダメージは体に響き、痺れを残していた。
すぐに動くのは無理であり、しかしすぐに動かなくては、ジブリールの追撃に間に合わないことは明白。
「ほんの少し、ほんの数十秒、寿命が延びただけのことだぞ。クズめが!」
(奴を倒す手が無いわけじゃない。だが、これじゃもう………!)
 ジブリールがスピードワゴンにとどめを刺すため動こうとする。
だが、すぐに歩みを止めて、頭部を腕でかばった。一瞬後、腕に何かが当たり、音を立てた。
「また貴様か。もうそんなものは通用しない。
 戦場で視野を狭くするようなミスを、この私が何度も犯すと思っていたのか?」
 ジブリールは、銃を自分に向けて震えるユウナを睨んだ。
「ふ、ふひぃ、ひぁぁぁぁ………」
 震えて後ずさるユウナに、ジブリールは侮蔑を込めて鼻を鳴らした。
「フンッ、貴様ごとき蠅のような者は、叩き潰されて消えるがいい」
 ジブリールはユウナに近寄ると、右腕を上げた。

 

 そして、物質が砕け散る音が響いた。

 

「な……な………」

 

 震えの混じった声。

 

「なんだこれはぁぁぁあぁッ!!」

 

 それは右腕を砕かれたジブリールの声だった。

 

「いやはや………僕の運も捨てた物じゃないねぇ。ほんとにこうなるとは」
 ジブリールの前に立つユウナは、さきほどまでの情けない半泣きの表情が嘘のように笑った。

「なぜだ! なぜ隕石が私に当たる!?」

 

 ジブリールが振り上げ、振り下ろそうとしていた腕は、修復不可能なまでに砕けて圧し折れていた。
それをなしたのは、宇宙からの一撃。
ヴィヴィアーノ・ウェストウッドの『プラネット・ウェイブス』による隕石攻撃であった。
「きさ、貴様、ウェストウッド! なぜ、なぜ私を守らん!? マイク・O………」
 激高してマイク・Oを怒鳴りつけようとしたジブリールが見た物、
それは、無様に倒れたマイク・Oと、ファントムペインたちとやりあうアスランたちの姿だった。
既にジブリールたちを隕石から守っていた風船も無くなっている。
「戦場で視野を狭くするようなミスを、また犯しちゃったみたいだねえ、ジブリール?」
「だ、黙れェ!! 貴様らごとき、腕一本失ったからといってどうにでもォ!!」
 残った左腕をユウナに向け、激怒のあまり泡を吹いて叫ぶジブリールだったが、
ユウナはまったく恐れ入らなかった。
「あー、それなんだけど、隕石が貴方に当たったのは策というわけじゃないんだ。
 そりゃあ、隕石があのウェストウッドとやらに引き寄せられているようではあったから、
 もしも隕石が当たったらラッキーかなって程度で、この位置まで誘導したはしたけど」

 

 ユウナは今、ウェストウッドとジブリールの間に立っている。
だから隕石が引き寄せられてきても、ユウナはジブリールを盾にできた。
だが、そもそも隕石がいつ降ってくるか、どちらから降ってくるかなどわかりはしない。
「本当は、僕がたとえ死んでも、その攻撃をすることで、僕に意識を集中させることで、
 貴方が隙を見せてくれさえすればいい。そう思って僕を襲うように貴方を誘導しただけにすぎないんだ」
「隙………だと?」
 そして、ハッとした表情で後ろを向くと、そこには予想外の出来事から思考の外に置いてしまった男、
スピードワゴンがいつの間にかいた。ジブリールのすぐ傍に。

 

「3度目の、ミスだね」

 

 そんなユウナの声を聞きながら、ジブリールは唯一の生身の弱点である頭部を
残された左腕でガードする。だが、スピードワゴンは頭部には目もくれず、
ジブリールの胸部に大口径の拳銃を押し当てると、トリガーを引いた。

 

 ズガガガガガガ!!

 

 同じ個所目がけて幾度も放たれる弾丸は、

 

 ドズゥンッ!!

 

 ついに装甲を貫き、内部へと届いた。
「………? く、くははははは!? 何だそれは! そんな一発で、この私を倒せると思ったのか!?」
 サイボーグは、どこか一部が壊れた程度で動きを止めはしない。
たとえ下半身と上半身が泣き別れになろうと、上半身だけは動くことができる。
ジブリールは笑いながら、さきほどアスランを狙った腹部に備わった、
八方へと向けられている銃を発動させようとし、そこで笑いを止めた。
「な、なんだ………銃が撃てない………いや、か、体が、動かん………!?」
 ジブリールは顔を左腕でかばった状態で、凍りついたように動きを止めていた。

 

「確かに、サイボーグは大抵の箇所が壊れても全体は壊れない。
 だが、今俺が撃ち抜いたのは、脳からの命令を全身に送るメイン回線の部位。
 そこを切断すれば、もうサイボーグは動けない」
「な、なんで貴様が連合軍部の極秘情報であるサイボーグの内部構造を知っている!?」
 もはや動かせるのは機械化していない首から上だけとなったジブリールに、スピードワゴンは笑う。
「そのサイボーグを造った組織と、俺が最高責任者をやっていた機関は、
 ある目的のために協力していたことがあってな。その時に多少は情報を得ていたんだよ」
「そ、組織? 最高責任者? どういうことだ!?」
 戸惑うジブリールに、スピードワゴンは脇腹の痛みをこらえ、拳を握り締める。
「こう見えて、長く生きているんでね。意外と物知りなんだよ!!」
「ひぃっ!」

 

ドグシャァッ!!

 

 拳がジブリールの顔面に叩き込まれ、ジブリールは声も無く意識を闇に沈めた。
一息ついてスピードワゴンはユウナの方を向き、

 

「お前もたいがい無茶すんなぁ」
 どこか、懐かしいものを見るように微笑んだ。

 

「かっこつけたいんですよ、彼らの前ではね」
 ユウナもまた、まだ戦っているアスランとカガリにチラリと視線を送った後、微笑みを返した。

 

   ◆

 

 ヴィヴィアーノ・ウェストウッドは、その凶暴な外見の割に、冷静に戦況を見る男だった。
「『エアロ・スミス』!!」
 ナランチャがファントムペイン兵を薙ぎ倒しながらも、隙を見て機銃を掃射するも、
ウェストウッドは常にある程度の間合いをとり、攻撃を避ける注意を怠りはしなかった。
ナランチャのエアロ・スミスを、この場の最強戦力と見切っているゆえだ。
「ハンッ!」
 ウェストウッドは機銃による攻撃を容易くかわす。その動きは鍛え上げられた見事なものだった。
対して、アバッキオは攻めあぐねていた。アバッキオのスタンドに長距離攻撃の手段は無い。
攻撃するには近寄るしかないが、半端に近寄れば隕石に打ち倒される。
ムーディー・ブルースの力では、隕石を防ぐことはできない。
「へへっ、どうしたよ………来ないのかい?」
 嘲笑するウェストウッドに、アバッキオの表情が怒りに歪む。
だが、次にウェストウッドがとった行動は、アバッキオの意表を突くものだった。

 

「ケッ、お前がこっちに来るのが怖いならよ………こっちから行ってやるぜッ!」
 ドギャアァン!

 

 巨体に見合わぬ速度と身軽さで跳び上がり、あっという間にアバッキオとの距離を詰め、
右側から攻め込んできた。
「な、ムーディー・ブルース!!」
 スタンドを表し、アバッキオは迎撃を試みる。
だが、ウェストウッドは驚愕の素早さでムーディー・ブルースの背後に回り込むと、
プラネット・ウェイブスと重なった太い腕でスタンドの体を掴み、引きずり倒した。
一瞬にして関節技、デッドロックをかけられ、常人レベルの格闘能力しかないムーディー・ブルースは、
抵抗できずに倒される。

「がはっ!」
「とった!」

 まさかウェストウッドがここまで格闘戦に長けているとは、アバッキオも考えていなかった。
スタンドを抑え込まれ、本体であるアバッキオも呼吸困難になり、痛みを覚え、膝をつく。

 

「俺はな………以前は刑務所の看守だった。
 そこで毎日のように、てめらみてえな社会の屑を抑えつけていたんだ。こんなふうにな………。
 てめえらごときに盾突かれることほど頭に来る事はねぇぇえええ! いつもそう思って働いていた」
 呟きながら、ウェストウッドはスタンド能力を発動させる。
遠く、高く、雲を抜け、空さえも越えた、宇宙と呼ばれる領域で、岩石が一つ、軌道を変えた。
「ナメやがっててめえ! この苛立ちをはらしてやる! キレまくってはらしてやる! スカッとキレまくってはらしてやる!はらしてやるはらしてやるスカッとスカッとはらしてやる! 俺は最強だ! はらしてやる!!」
 そして隕石が降り注ぐ。スタンド能力に影響された隕石は、スタンド相手でも通用する。
ムーディー・ブルースを貫くには充分な威力だ。
そしてウェストウッドには届く前に燃え尽き、彼を傷つけることはない。
ナランチャが助けようにも、下手に攻撃すればムーディー・ブルースまで傷つけてしまいかねない。
「げほっ………かはっ…………」
 アバッキオは息も思うようにできず、苦しげに表情を歪める。それでも気力を振るい、能力を発動させる。

 

「『ムーディー・ブルース』!!」

 ザザッ、ザザザザッ、ザザッ! ピピピピピピピ、ピピッ! ドギューンッ!

 

 ムーディー・ブルースの能力。人物やスタンドの過去をリプレイする力。
リプレイする際、その姿形は変形し、リプレイ対象そっくりになる。
その力により、ムーディー・ブルースの姿が変化していく。
リプレイ対象は、周囲でエアロ・スミスに撃ち倒されている、ファントムペイン兵の内の一人だ。
適当に目のついたものを選んだ。
「ぬっ、こ、こいつっ!」
 ファントムペインは皆、少年の域を脱していない年齢で、ムーディー・ブルースに比べれば
肉体も小柄になる。ムーディー・ブルース本来の姿よりも、やや小柄な体格の存在をリプレイしたことで、
デッドロックに微かな隙間が生まれる。
「逃げろ!」
 その隙を逃さず、ムーディー・ブルースはウェストウッドの腕の中から抜け出し、
アバッキオの隣に戻る。ほぼ同時に天井が砕け、隕石が姿を現した。
「チッ! 襲え! ファントムペインども!」
 自分の間際まで迫る隕石に対し反射的な反応さえ見せずに、ウェストウッドは周囲の兵士たちに命令する。
その命令に機械的な俊敏さで応対したファントムペインたちは、アバッキオたちへと銃を向け、
そしてエアロ・スミスに薙ぎ倒された。

 

「大丈夫か? アバッキオ」
「ああ………だがあの野郎、隙が無い。遠くからの攻撃は目ざとく防がれ、近づけば押さえ込まれる。
 筋肉質な外見のくせに意外とクレバーな奴だ。
 今も、ムーディー・ブルースを取り逃したらすぐに、壁を造りやがった」
ファントムペインは攻撃手段として使われたのではない。
エアロ・スミスの攻撃からウェストウッドを護る、肉の壁とされたのだ。
「味方の犠牲を何とも思っていない、恐ろしく冷酷なやり方だが、有効ではある。
 この油断の無い敵をどうやって切り崩す………?」
 ファントムペインという壁が無くなるまで戦い続けるか? いや、それは向こうが許さないだろう。
格闘能力は敵の方が上である以上、アバッキオはまた同じ攻撃を受けても、防げるとは言い切れない。
そして今度スタンドを捕らえられたら、もう逃げられないだろう。
変わる体型に合わせて締めあげてくるに違いない。

 

(こいつらの目的はまずデュランダルだ。俺たちは目障りな邪魔者ってだけだ。
 だが、デュランダルを直接攻撃することはできない。
 ファントムペインのナイフや銃程度なら、スタンドで防げるから意味が無い。
 まず俺たちを排除してから。それが基本だ。
 そして、まず戦闘能力の低い俺を排除すれば、もうナランチャだけでは大勢の敵から
 デュランダルを護りきれなくなる。それで終わり。
 つまり俺が倒されるかどうかが鍵だ。そして俺を倒す方法だが………)
 アバッキオは思考を巡らせる。
(野郎は接近戦を挑んでくる。エアロ・スミスの精密動作性の低さじゃ、
 接近戦に持ち込まれると、俺まで攻撃に巻き込んじまうから、ナランチャの邪魔も入らない。
 そして、接近戦での力は奴の方が高い。必勝法というわけだ。どうする………)

 

 悩むアバッキオにかかる声があった。
「君………こんな時に申し訳ないが、聞きたいことがある」
「何?」
 ギルバート・デュランダルが、教会に告解を求める信者のような顔でアバッキオを見つめていた。

 

「君らは、なぜこうまでして戦うんだ? 
 たとえ、今ここで勝ったとしても、また戦いは起こるだろう。 
 人間は己の運命を受け入れず、他人を犠牲にしても抗おうとする生き物だからだ。
 希望し、夢見て、戦い続ける。
 だが所詮、人は運命には逆らえない。得られぬ物はある。叶えられない夢はある。
 人は自分の夢に裏切られ、傷つき、絶望し、苦しみ続ける。
 だから私は、デスティニープランをたちあげた。
 夢などいらない、確定した運命を絶対のものとするために。
 人は皆、『運命の奴隷』なんだ。運命を相手に足掻いても不幸になるだけだ。
 ならばいっそ運命を神として、服従した方が安楽に生きられる。
 君らもわかっているはずなのに、なぜ諦めない?
 どうしてこんな先の見えない戦いを、続けることができるんだ?」

 

 この状況で何言っている。いかれているのかと怒鳴りつけようかと思ったアバッキオだったが、
あまりにデュランダルの眼がすがりつくような様子だったので、
ウェストウッドの様子を注意しながらも、答えを返した。

 

一度、命を終えたあの日、今にも落ちてきそうな空の下で、自らが得た答えを。

 

「………そうだな。他の奴らは知らないが、俺は『平和な世界』なんて結果だけを求めてはいない。
 結果だけを見てると、たどり着けないことに苛立ち、諦めたり、
 結果の為には手段を選ばないって考えになって、最終的には本来の目的さえ見失ってしまうもんだ」

 

かつて、アバッキオが警官だった頃、薄汚れた社会に対して失望し、諦めた果てに、
自らもまた汚れてしまったように。

 

「大切なのは、結果へと至るまでの意志の方なんだ。
 そこへ行こうという意志さえあれば、たとえ今はまだたどり着けなくても、いつかはたどり着けるだろう?
 どんなに長い道であっても、少しずつ近づいては行ける。向かっているわけだからな。
 たとえ、俺自身がたどり着けなくても、意志は次の誰かに受け継がれる。
 いつかは誰かがたどり着いてくれるさ。そう思うからこそ、俺は続けられる。
 真実に向かおうとする意志があるなら、運命なんてものに思い悩んでいる暇は無いさ」

 

 その言葉には実感があった。ただの教訓話ではない、重みがあった。
 だからこそ、デュランダルは、

 

「ははっ」

 

 笑った。諦めの笑みだった。

 

「これで答えになったかどうかわからないが、俺が言えるのはそれだけだ。
 もういいだろう。これ以上は………」
「ああ、もういいさ」
 デュランダルは前に出た。

 

「「「!!?」」」

 

 全員が混乱した。護られるべき者が、護られていなければいけない存在が、前線に出てきてしまった。
敵も味方もとっさに行動がとれない中、デュランダルは歩みを進める。
そしてウェストウッドの間近まで来たところで、

 

「どうした? 黙っていていいのかい?」
 右手で銃を抜き、ウェストウッドに向けた。

 

「!! こいつを殺せぇぇぇぇっ!!」

 ウェストウッドの声にはじかれ、ファントムペイン、そしてアバッキオとナランチャもまた、
行動を再開した。ファントムペインたちはデュランダルに対して、各々の銃を向ける。
「『ムーディー・ブルース』!!」
「『エアロ・スミス』ッ!!」
 アバッキオたちはそれぞれのスタンドを出現させ、可能な限りの速度を出した。
左右から繰り出される銃弾がデュランダルを穿つよりも早く、
彼らの分身はデュランダルの両脇に辿り着き、弾丸からかばう。
そのおかげでデュランダルは左右からの攻撃からは護られた。
デュランダルの体よりも小さいエアロ・スミスがかばった側からの攻撃が2発ほど、体をかすめただけだ。
だが、正面からの攻撃からは護れない。
「ナメやがっててめぇっ!」
 ウェストウッドは自分に向けられた銃に怯むことなく、その銃を握る右手を手早く掴み、
鮮やかな動きで捻りあげた。銃は衝撃でとり落とされ、床に音を立てて転がる。
それを確認した後、ウェストウッドは床を蹴り、後ろに下がって2体のスタンドから離れる。
「スタンド使いでもねぇクセに、この俺に歯向かいやがってカスがっ!」
 そして『プラネット・ウェイブス』の力を発動させる。十秒も経たぬうちに、隕石は降りてくるだろう。
だが、デュランダルの顔に関節技をかけられていることによる苦痛はあっても、恐怖は無い。
ただ締め上げられていても、よく聞こえる声で、静かに、

 

「………君の次の台詞は、『終わった! 最強はこの俺だ』だ」
 そう言い切った。
「終わった! 最強はこの俺だァァァァァ!! ………ハッ!?」

 

 手品を見ていて味わうような、ちょっとした驚きが、一瞬、ウェストウッドの思考に空白をつくった。
その瞬間をつき、デュランダルは行動する。締め上げらている右腕の影響を受け、
肩より上に上げることはできず、攻撃できるほどの力も込められない左手。
だが、ズボンの左ポケットからナイフを取り出し、床に落とすくらいはできた。
そして、

 

「アバッキオ!」
 名を呼び、足でナイフを蹴り出した。

 

 その呼び声に反応し、ファントムペインの相手はスタンドに任せて、アバッキオが疾走を開始する。
走ることをやめぬままにナイフを拾い上げ、ウェストウッドへと突進する。

 バゴォ!!

 隕石が天井を砕く音がした。だがアバッキオは動じずに走り続け、ウェストウッドの目の前にまで届く。
そして、デュランダルを捕まえているがために、両腕は使えず、攻撃もできず、
逃げること、避けることもまともにはできないウェストウッドにナイフを向ける。
「お、おおおおお!?」
 デュランダルを腕から放し、攻撃を避けようとするが、もう遅かった。

 

 ビュバッ!
 ウェストウッドの喉元にナイフを突き立てた。
「ぐぶっ」

 

思いのほか、地味な呻き声をあげ、ウェストウッドの体がよろめいた。
アバッキオが更に攻撃しようとしたところで、
「危ない!」
 アバッキオの体がデュランダルに引きずり倒される。
その直後、アバッキオの低くなった頭の上を、隕石が通り過ぎていった。
あのままであれば、アバッキオの頭は電子レンジに入れられた卵のように、破裂していただろう。
隕石はそのままウェストウッドの間近で消滅し、隕石が消えるとほぼ同時に、
ウェストウッドの目からも光が消えた。足から力が抜け、その身を床に崩れさせる。
それを確認した後、アバッキオは後ろを振り向く。そして、その時にはファントムペインの兵団も、
ナランチャ、そしてアスランやスピードワゴンによって全滅していた。
「………どうやら、終わったようだな」
 アバッキオは一息つき、自分を救ったデュランダルを見る。

 

(この男は、敵の、そして俺たちが取るだろう行動をすべて読み切っていた。
 自分がファントムペインに攻撃されること。
 それは俺たちが護ること。
 残されたウェストウッドに捕まること。
 その時関節技をかけられるのは、銃を持った右手であること。
 左手は自由であること。
 倒れたファントムペインから奪っておいたナイフを、左ポケットに入れておくこと。
 そして俺が走ることも、すべて)

 正直、見くびっていた。さすがは、この世界を意のままに動かした黒幕、神算鬼謀の士ということか。

 

「………礼を言うべきだろうな。グラッツェ(ありがとよ)、デュランダル議長」
「フフッ、気にすることは無いさ。むしろ礼を言うのはこちらの方だ。
 君のおかげで、私はようやく諦められたのだから」

 デュランダルは晴れやかに笑う。いつもの、どこか裏のありそうな笑みではなく、
子供のような明るさを持った微笑みだった。

 

 彼はようやく、諦められた。『デスティニープラン』を。
人類を救うという責任から、運命を持って世界を統治するという重圧から、解放されたのだ。
もはや迷い始めていた大望を、終えることができたのだ。

 

(私の負けだ。理屈ではない。
 君のことが『羨ましい』………そう思えてしまったから、もう私の負けなんだ。
 運命がどこに向かっているかも、夢が叶うかどうかも、君らには関係ないんだな。
 自分が正しいと思っている道を歩んでいるから、君らはそうも眩いのだな)

 

 デュランダルは互いの無事を確かめあう、アスランたちを見つめながら心の中で呟く。

 

(少し前までは、私も正しい道にいると思っていたのに、君たちがあんまり眩すぎるから、
 そうも思えなくなってしまった)

 

 自分は絶望から逃げるために、己の望みを捨て、運命に従うことにした。
だが彼らは、絶望を超えて、運命さえも受け入れ、己の道を歩むことにした。
それこそが人間にとって最も価値のある、勇気のなせる輝きなのだろう。
それは、かつてこの場にいるユウナが、アスランが、カガリが、
スピードワゴンが、アバッキオが、ナランチャが見た物で、
ついにデュランダルも見ることができたのだ。

 

「『スリーピング・スレイヴ』………か。人は皆、『運命の奴隷』だけれど、
 せめて君らが、その名の通りであることを祈ろう。
 目覚めることで、意味のあることを切り開いていく、『眠れる奴隷』であることを………」

 

 こうして、ギルバート・デュランダルとロード・ジブリール、二人の野望は同時に終わりを告げたのだ。

 
 

TO BE CONTINUED