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KtKs◆SEED―BIZARRE_第48話

Last-modified: 2011-12-26 (月) 17:10:29
 

 『PHASE 48:覚悟の時』

 
 

 アウルが倒されてからも、シンは粘り強く戦い続けていた。」
だがシンにはそれが戦いといっていいものか、もはや自信がなくなりつつあった。

 

強い。それは今更言うまでもないことのはずだが、それでも認識以上に強いと言わざるを得ない。
シンも『SEED』を目覚めさせているのに、その反応速度、その空間把握能力を更に上回っている。
シンはもはや攻撃にまで手が回らず、完全の防御のみを行うことで、どうにかしのいでいる状態だ。
だが、ことはただ力の強弱の問題でもなかった。
それは、アウルも撃ち抜かれる瞬間に感じ取った、キラの『虚無感』。
まるで機械か、何かの現象と相対しているような、生き物らしからぬ気配。
それを味わうがゆえに、シンはこのままでは駄目だと確信する。
たとえ仮に、ストライクフリーダムを撃墜することができたとしても、
それはキラ・ヤマトに勝利したことにはならない。
なぜならキラはここには『いない』から。
ここにいるのは、ただの何物でもない自動戦闘機械に過ぎないから。
たとえ倒したとしても、意味が無い。
それでは皆の、ポルナレフの、アスランの想いを、果たすことはできないから。
だからシンは、まずキラを人間にするところから始めなくてはならなかった。

 

(とはいえ、どうすりゃいいんだ?)
 シンは自他共に認める、単純な頭を振り絞って考える。
(今のこいつは人間ではない。なぜだ?
 洗脳………いや、洗脳にしても、洗脳を受け入れてしまう下地があったのだろう。
 アスラン隊長の話は、少しは通じたというから、その後………隊長が落とされて?
 友達を失ったと思ったショックで?)
 銃弾のような速度と、一突きで針の穴も通すような精密さと、
背筋も凍る冷たさとが同居したビームサーベルの一閃を、デスティニーはかろうじてかわす。
その間も、シンは思考を緩めない。
(心を閉ざした。なら心が開くくらいに、人間らしい感情を爆発させる………
 それなら簡単だ。要は………驚かせてやればいいんだ)
 シンはごく単純に、明快に、答えを導き出す。
しかしその回答を出すための公式をどうするかであるが………

 

「ないわけじゃ、ない。やってみるか」

 

   ◆

 

「ほれほれどうした兄ちゃんたちよぉ! もっと頑張んなくちゃ、そろそろぶっ殺しちゃうぜぇ!?」

 

 心底楽しげな、とことん邪悪な笑い声が、ポルナレフたちに向けられていた。
(くうっ、調子に乗りやがって! だが不味いのは確かだぜチクショウ!)
 現状は完全に防戦一方だった。
既にアヴドゥルの体はほとんどフジツボに覆われ、花京院の左腕を完全に侵食していた。
アヴドゥルは言うに及ばず、花京院ももはや歩くのも精一杯という様子で、息を荒げている。
とても攻撃の余裕はなく、ポルナレフとイギーとで、ゲブ神とダークブルームーンの攻撃を
防ぐことしかできない。
(相変わらず憎たらしい敵だぜ。
 地力は大したものじゃないが、水中に敵を引きずり込んだり、力を吸収したりと、
 敵の力を下げる戦法は一級というしかねえ。
 だが逆に言えば、この戦法に何か穴を見つけることができれば、戦況は覆る!)
 テニールの強さは奇策の強さだ。正道のものではないゆえに、読みづらく、かつ嵌れば非常に危険だ。
しかし破られれば二度は使えず、敗れるしかないという欠点もある。
「花京院。なんかいいアイデアはねーのかよ。やべえぞこのままじゃ」
「わかっているが………正直これという案は無いな。
 奴とゲブ神のンドゥールとの連携はまさに完璧だ。付け入る隙が」
 無い。そう言おうとしたところで、花京院に疑問が生まれた。

 

「ん! どうした、何か思いついたか!?」
「いや………アイデアというわけじゃないんだが、奴らの連携が少々完璧すぎるような気がしてな」
「何? どういうことだ?」
 ポルナレフの訝しげな声に、花京院は答える代りに、
気力を絞ってハイエロファント・グリーンの腕をテニールに向け、
「エメラルド・スプラッシュ!!」
スタンドエネルギーによる弾丸を発射した。10発の弾丸は正確にテニールを襲うが、
すかさずカーテンのように広がったゲブ神の水が、テニールを守った。
「だから効かねえんだよ。物分かりの悪い奴らよの〜、くっはっはっはっは!」
 嘲笑するテニールは無視し、花京院は己の疑問を更に深めた。

 

「ポルナレフ………いくらゲブ神を操るンドゥールの聴覚が優れているといっても、
 あの反応速度はさすがに速過ぎるとは思わないか?」

 

 そう言われ、ポルナレフは考え込む。
「………確かに、この至近距離で、発射された後のエメラルド・スプラッシュの風切り音を聞いた後で、
 行動して間に合うというのはちと厳しいか? だが微妙………絶対無理ってほどでも………」
 そこでアヴドゥルが口をはさむ。

「いやポルナレフ。確かに、ンドゥールの力を持ってすれば絶対に無理とは言わない。
 だが危険はある。そんな危険に、あのテニールが身を委ねると思うか?」
「………確かに。じゃあやはり、もう少し確実な手段で、こちらの攻撃を捕らえている?」
「ああ。そう難しい話じゃない。
 この場ではハイエロファント・グリーンは得意の身を隠しての行動もできない。
 ハイエロファントが攻撃態勢をとったら、その瞬間に動けば間に合う。
 ただ、目が見えるなら攻撃の前兆を捕らえるのは簡単だが、ンドゥールには……」
「無理だな。とすると………テニールが」
「何かしらの合図を送っている可能性が高い」
 しかし、テニールは動いていない。ンドゥールに合図をするには音を出す必要があるが、
 そういった動作はしていない。無線か何かで連絡を取っている様子もない。
「ではどうやって………」
「………私にアイデアがある」
 アヴドゥルがほとんどの力を吸い尽くされた体から、本当に最後の残りカス程度の力を振り絞り、
スタンド、『魔術師の赤(マジシャンズ・レッド)』を発現させる。
鳥人が胸の前に掲げた手と手の間に、炎の塊が浮かぶ。
炎は膨れたり縮んだりと形を変えながら、大気を炙って揺らがせていた。

 

「たった一度のチャンスだ。もう力は完全に尽きる。一度ですべてを決めてくれ」

 

   ◆

 

 キラはどこまでも正確に、ストライクフリーダムを操っていた。
 その動きに微塵のブレもない。

 

 あらゆる行動が最善最優。その正確さはまるで未来でも見えているかのような、
敵の方から攻撃に当たりに行っているかのような、いっそ魔的なものを感じさせた。
しかし幾度、敵を落とそうと、屠ろうと、そこには高揚感も満足感もない。哀しみも後悔もない。
ただ機械のように、ただ成すだけ。他に何もないから、ただ息をするように戦争する。
すでに心は動いていないキラであるため、今までで最も長く攻撃をしのぎ、
生きながらえてきたデスティニーという敵に対しても、驚きも苛立ちも持たなかった。
ひときわ強い敵であっても、敵である以上、攻撃して倒すこと以外にすることはない。
手強かろうと恐怖することも焦ることもない。キラにはわかっていた。
このまま攻撃していれば、いつかは確実に落とせると。
それは、将棋やチェスの名手が、何十手先も読み尽くし、
何十手前からでもどちらが勝利するか読み取れるようなもの。
最善の手を撃ち続け、相手の手を読み続け、最終的にこれ以上ない完璧な最後を迎える。
それは誰を相手にしようと、変わらぬ末路だ。
必ず勝てると理解しているからこそ、その勝利はもはや約束されているからこそ、
キラの心は平静で空っぽで、どうとも感じることはなかった。
高揚感も罪悪感も、何一つ思うことはなかった。

 

(次の攻撃は右からサーベルで振り下ろし、次にやや下がりライフルを向ける。
 攻撃と攻撃の合間にビーム砲撃………それで終わり)

 

 そしてついに、キラはチェックメイトの時間に到達した。
予測通り、デスティニーの斬撃が来る。
それを最低限の動きでかわし、かすめるギリギリの距離を通過していく光の刃を、恐れもなく確認する。
その後、やはりこれも予測通り、後ろに退いたデスティニーに向けて、すかさずキラは砲撃を行った。
完璧なタイミング。かわす余地はない。実際、かわすことはできなかった。
ビームは命中し、そしてまた一つ、喜びも哀しみもない勝利が、キラの履歴に追加される………
………はずだった。

 

「………? え?」

 

 キラのもはや思考とは言えない、ただ勝利の方程式をはじき出すだけの機械的な脳に、
一瞬ノイズが走った。
ありえないバグ。間違った現実。
キラは運命を覆す不条理に出会ったかのように、呆然と、健在なデスティニーを見つめていた。
「な、何が一体………」
それは、太陽が西から昇るようにありえないことだった。
当たらなかったのならわかる。
だが、確かにビームが直撃してなお、何事もなく存在しているのはどう考えてもおかしい。

 

「何だ。なぜ? なぜ!?」
 理解不能の文字が、キラの脳を駆け巡る。しかし、ただ混乱していてはやられてしまう。
キラは混乱しながらも、その体は自然と最善の動きをとっていた。
デスティニーからのビームを素早くかわすと、3回連続でビームを放つ。
そのうちの一つが、デスティニーを突き刺した。
だがそのビームもデスティニーの体表で弾け、跳ね返ってしまう。
「馬鹿な………!」
 キラの心の中は、混乱を超えて、もはや恐怖の域にさえあった。
いくらなんでも、デスティニーにここまでの強度があるわけがない。
人間でいえば、銃弾で撃たれたのに弾を弾き返したのと同じだ。理不尽極まる光景だった。

 

(こんなことがあるはずない! このストライクフリーダムだってビームが直撃すれば破壊される。
 撃って壊れないMSなんてそんなものが………ハッ!)

 

 そこで、キラは思い当たった。撃って壊れないMS、そんなものが存在するのだと。

「………そういうことかッ!」

 恐怖、それは謎あるがゆえ。理解してしまえば、もはやそれは恐怖たりえない。

 

「やあああああああああッ!!」

 

 雄叫びと共に、キラは一直線にデスティニーへと突進した。
デスティニーはその突然の攻撃に意表を突かれたか、まごつきを見せた。
あっという間に間合いを詰めたストライクフリーダムは、踊るような機敏さで回転しながら、
デスティニーの背後に回り込んだ。
デスティニーは振り向こうとするが、まだ反転が終わらぬうちにストライクフリーダムの攻撃が
運命の名を持つ機体を襲った。
嫌な音を立てて、デスティニーの左腕が砕け折れて吹っ飛んだ。
ストライクフリーダムが放ったのは、腰に備え付けられていた
『MMI−M15E クスィフィアス3レール砲』、電磁誘導によって弾丸を動かし、高速で発射する、
いわゆる電磁レールガンである。
ビームに比べて強力と言うわけでないにも関わらず、その攻撃は確かに効いた。

 

「ビームははじくが、実体弾は普通に効果がある。
 やはりそうだ………お前はさっきまでの相手じゃ、ない!!」

 

 キラが断言すると同時に、デスティニーの姿が揺らいだ。
揺らぎは次第に大きくなっていき、ついには機体の姿がほつれる様に裂けはじめた。
そしてその裂け目から、光が漏れる。それは目もくらむような黄金の輝きだった。
「いつの間に入れ替わったんだ………アカツキのパイロット!」
 デスティニーの姿が消えた後に残されたのは、全身金色に彩られたMS、
ビームを跳ね返す鏡面装甲『ヤタカガミ』を備えた『ORB−01・アカツキ』。
ウェザー・リポートの乗るMSであった。
「もうばれたか。だが目的は達成できたようだ」
 ストライクフリーダムからの通信を拾い、ウェザーは笑う。
彼の天候操作により、空気を歪めて蜃気楼を造ってこっそりと入れ替わり、
アカツキをデスティニーと思い込ませていたのだ。

 

「このっ!」
「アンタの相手は俺じゃないぜ」
 キラはビームサーベルで、鏡面装甲に覆われていない目の部分を突き破ろうとするが、
ウェザーはそれ以上相手にすることなく退く。
片腕を失ったアカツキは、もはやこの戦いでは足手まといと判断し、戦線離脱した。

そしてアカツキと場を入れ替えるように、デスティニーが脇から現れた。
蜃気楼ではなく、本物のデスティニーであり、シン・アスカだ。

 

「よくやってくれたウェザー。そして、ようやく会えたなキラ・ヤマト!」
「何を言っている!」
 シンからの通信に、キラは怒り混じりに言う。
ようやくも何も、今まで戦っていたというのに、何を今更言っているのか。そう思ったゆえの言葉だった。
だが、シンの考えは違っていた。
「今まで俺と戦っていたのはアンタじゃない。ヴェルサスに操られた殺人機械だ。
 だが今のアンタは、どうにかちゃんと『人間』だ」
 そうでなければ、小細工を使われ、欺かれていたと知ったことで怒りを抱いたりはしない。
こちらの言葉にわざわざ答えたりはしない。
キラの予想も想像もしていなかった不条理をぶつけることで、
キラに驚きという人間らしい感情をもたらずことに成功したのだ。
そして、いったん感情が漏れ出せば、そこから催眠は解けていき、
そして今、ようやくシンは本当の『キラ・ヤマト』と出会えたのだ。
「そう、こっからだ。こっからが、ようやく本当の、戦いだ!」
「何を言っているんだ………何を考えている!」
「俺の考えていることは、たった一つだぜ。たった一つのシンプルな望みだ」
 シンは己の心からの言葉を口にする。それは単なる宣言ではなく、自分自身への誓いの言葉だった。

 

「『俺はアンタをぶっ倒す』」

 

 対するキラは、一瞬気圧されたように黙り込み、やがて暗い声を捻り出す。

 

「………やめてよね。君なんかが、僕に勝てるわけ………ないだろぉ!!」

 

 激高と共にストライクフリーダムの剣が振るわれる。
その剣筋は、激高していてもなお、確かで精緻なものであった。
激しさが加わった分、先ほどまでより恐ろしくなったかもしれない。
しかしそれを、シンは巧みに受け流し、

 

「上等だ! 俺の名はシン・アスカ!
 アンタと戦った我が師、J.P.ポルナレフの雪辱を晴らすため、
 僚友アスラン・ザラの想いを継ぐため………
 このデスティニーを持って、アンタを倒す! キラ・ヤマト!!」

 

誇り高き騎士の如く凛々しく、ストライクフリーダムへと真っ直ぐにビームサーベルを突き付けて、
『カッコよく決めた』のだった。

 

「おぉおおおぉぉぉぉ!!」

 

 キラは、先ほどまでの様子では考えられない雄叫びをあげ、ビームサーベルを両手に備えて突撃する。
シンはひとまずビームライフルを放ち、牽制をするが、
キラはビームを避けるでなく、シールドで防ぐでなく、
「こんなもの!」
 サーベルで、ビームを斬り払った。

 

「マジかオイ」
 さすがにシンも呆れる。音よりも速い光撃を斬り払うなど、師であるポルナレフにもできない。
(いや、教官が話した中に、光速の敵を斬った話があったな。
 速さは見きれなくても、軌道上に剣を置くことで、相手が自分から斬られにかかってくる……と。
 つまり、こいつは撃たれる前に、銃口の方向からこっちの射線を読んでいるわけだ)
ならばと、シンはミラージュコロイドを散布させながら動く。
すぐにコロイドにデスティニーの姿に映り、ぶれて見え始めた。
「くっ!」
 キラはビームを斬るのをやめ、シールドを構える。
デスティニーの姿がぶれて、ビームライフルの方向から、ビームの射線が見極められなくなったのだ。
防御に力を裂いたため、ストライクフリーダムの動きが鈍くなる。
サーベルが届く位置まで近づくのが難しくなり、キラはビームによる遠距離攻撃に切り替える。
高エネルギービームライフルと、カリドゥス複相ビーム砲が同時に発射された。
 デスティニーはそのビームをかわしていくが、ついに右つま先がビームにかすり、足が爆発する。

 

「こ、れくらいでぇ!!」
だがシンは怯まず、逆に思いっきり前進した。
ビームの射線スレスレを飛び、ストライクフリーダムへと突進していく。
「『逃げる』なんて高等技術、俺に使いこなせるもんじゃない。
 俺には、こっちが合っている。ですよね教官!!」
 ポルナレフの教えを思い出し、シンはフラッシュエッジ2ビームブーメランを取る。
投げられたビームブーメランは、キラのシールドを左腕ごと容易に切断し、
ストライクフリーダムの背後へ飛んでいく。
そして反転してきたブーメランはストライクフリーダムの背中に向かうが、
キラはビームライフルで撃ち落とす。片腕を失っても、その射撃に微塵の乱れもない。
だが、ブーメランを撃ち落としている間に、シンは間合いを詰めていた。
アロンダイト・ビームソードを握り、横薙ぎの一撃を振るう。
それをストライクフリーダムはバーニアを停止させ、落下してかわす。
ストライクフリーダムは斬撃をかわした後も、更に落下を続ける。
それを追い、デスティニーもまた落下していく。

 

「中々、熱くなってきたじゃないか、キラ・ヤマト!」
「黙れ………お前なんかどうでもいい………僕は戦う………いい加減に落ちろ……
 …お前を落とす………それだけが僕の全てなんだ!!」

 落下しながらビームを撃ち合い、叫び合う。
「戦いだけがアンタの全てか? 前のアンタは馬鹿で考え無しだったけど、今よりまだマシだったぞ!
 まだ自分ってものがあった! 自分の理想があって、欲望があって、我儘があったぞ!
 少なくとも、言いなりの人形なんかじゃなかった!」
「煩い……! 僕にはもう……自分のものなんて無い。みんな、失った。傷ついた。
 バルトフェルドさんは死んだ、アスランも足を失った………僕のせいだ。
 何も無ければ、もう、これ以上失わなくていい!!」
 そして2体のMSは地上へと到達する。
ストライクフリーダムは大地に立ち、片足を失ったデスティニーは、地表より少し上を飛んでいた。

 

「そんなことでか! まったく勘違いした奴だな!
 いよいよもってそのMSから引きずり出してやりたくなった!」
「君に何がわかる!」
「わかるかだって!? 知ってるんだよ!
 アスラン・ザラも、カガリ・ユラ・アスハも、ミリアリア・ハウも、
 みんなアンタのことを心配しているってことをなぁ!!」
「ッ!!」
「さっさと片付けて、あいつらに向かって『迷惑かけてごめんなさい』って言わせてやる!!」
「……だ、まれぇ!!」

 

 キラは絶叫と共にビームを乱射する。
ビームはデスティニーには当たらず、周囲のビルや道路を破壊する。
爆発と共に煙と瓦礫が飛び散り、辺りの視界を遮っていく。
「今更、こんなもんで止められるかよ!」
 乱射されるビームに対し、シンは真っ直ぐに突進する。だが、それはキラの計算通りだった。
(来い! 君の言葉を止めてやる!!)
 キラは暴走したわけではない。感情的になっていたのは確かだが、
シンを葬る策をちゃんと用意していたのだ。キラがこの場所に落下してきたのは、偶然ではない。
(君が気付いていないこと。君の背後に落ちている物。
 この爆煙で、もう見えないだろうけど……それがある)

 

 それは、さきほどキラが砕き落とした、『アカツキの左腕』。

 

(その位置は憶えている! 角度も、完璧だ!)

 そして渾身のビームが発射された。

 ビームはデスティニーの脇を通り、煙を引き裂き、アカツキの残骸へと当たって、『反射』する。
(計算通り! 反射したビームはデスティニーの背中を確実に貫く!
 周囲のビルに邪魔されて、避けることもできない! そもそも気付いているはずがない!
 これで………)
 キラの顔に、笑みは無い。喜びも無い。ただ、虚無へと戻ろうとしていた。

 だが、

 

「―――………」

 デスティニーの左手が、背中に回された。
そして、手のひらが開かれ、背後から迫るビームが、その手のひらに直撃し―――消し去られた。

 

「え?」

 

 キラはビームに当たって、なおこちらに向かってくるデスティニーを前に、完全に無防備のままだった。
それほどの驚愕だったのだ。
防いだ理屈はわかっている。デスティニーのデータはターミナルから渡されている。
その左右の手のひらに装備された『パルマフィオキーナ 掌部ビーム砲』についても知っている。
手のひらに付けられた小型ビーム砲。それによってビームを相殺させ、防いだことはわかる。
だが、

「なぜわかった! 視界も防いだはずだ! まさか、最初から僕の策に気付いて」

 その問いに、シンは簡潔に答えた。
それは、どれほど強くとも、目をそらし逃げ続けるキラには決して持てぬ物。

 

「『凄み』」

 

 そして、シンは右手のアロンダイトを振るう。キラも遅ればせながら動き、ビームサーベルを閃かせた。

 2体のMSが交差し、次の瞬間、デスティニーの首が切り落とされた。
返す斬撃で、左腕が断たれる。そして左足を失っていたデスティニーは、大地に接触し転倒する。

 

倒れ、動かなくなったデスティニーの右手に、アロンダイトは無かった。

「………俺の勝ちだ」

 

 アロンダイトは、ストライクフリーダムのエンジンを貫いていた。
更に、その胸部のコックピットには傷が刻まれ、穴が開き、キラの姿が垣間見えている。
やがてストライクフリーダムがぐらりと倒れ、大地に転がる。
その衝撃で、コックピットからキラの体が投げ出された。
「………死んじゃいないだろ? まだ、これからだもんな」

 そしてシンもデスティニーから降りる。決着をつける覚悟を持って。

 

   ◆

 

 炎が周囲を蹂躙する。アスファルトを溶かし、大量の煙を立ち上がらせ、木々を燃やす。

 アヴドゥルの必殺技、『クロス・ファイアー・ハリケーン』の威力だった。

「は………ははははは!!」

 だがテニールは笑う。なぜなら、アヴドゥルの炎によって、
テニールはまったく傷ついていなかったからだ。
「残念だったなぁ。最期の力を振り絞っても、この俺を倒せなくてなぁ!!」
 動けぬアヴドゥルの攻撃では、テニールまでは届かなかった。
彼の周囲にたゆたう、ンドゥールのゲブ神も同様だ。
「エメラルド・スプラッシュ!!」
 笑い続けるテニールに、花京院が弾丸を放つ。だが、即座に動いたゲブ神によって大多数を防がれ、
残りもテニールによって弾かれる。さきほどまでと全く同じだ。
「ははっ! だから効かねえって言ってるんだよ!!」
 もはや打つ手はないと思っているテニールは、自分からポルナレフたちへと近づいていく。
完全に調子に乗っていることがわかった。
「………行くぜ。イギー!!」
 ウオン、と返事をしたイギーを肩に乗せ、ポルナレフは走り出した。
テニールに向かい、マジシャンズ・レッドの炎に熱された空気と大地の中を。

 

「カミカゼトッコーってやつかい? 無駄無駄だぜぇ?」
 テニールが揶揄し、ゲブ神が迎え撃つ。鉄をも切り裂く爪が、ポルナレフへと襲いかかった。
「シルバー・チャリオッツ!!」
 刺突の連撃が、水の爪を貫き、かき乱す。水は飛び散り、またすぐにまとまり、また爪を尖らせる。
「だから無駄だってんだろ!」
 ポルナレフがゲブ神の相手をしている間に近づいたダークブルームーンが、こちらも爪を振り下ろす。
ポルナレフの左頬が裂かれ、血が流れる。
だがより重大のことは、その頬にフジツボもくっついたことだ。
「ははっ、これでもうお前もお終いだ!」
 増殖し始めたフジツボウロコに不快感を覚えながら、しかしポルナレフは動じなかった。
「お終い? そりゃてめえのことだろ?」
「………なんだと?」
 訝しげに唸るテニールに、ポルナレフは顎をしゃくる。
テニールは視線を動かし、そして顔を引きつらせた。

 

そこには、ザ・フールを現わしたイギーと、そしてザ・フールの顎に咥えられた、
魚型のスタンドの姿があった。

 

「てめっ! まさかそれ!」
「エメラルド・スプラッシュ!!」
 テニールが慌てふためいているうちに、花京院の弾丸が発射された。
今度はゲブ神が間に合うことはなく、テニールはまともにその攻撃を食らって吹き飛ばされ、
街灯に叩きつけられる。
「ウッゲェェエェェ!?」
 ポルナレフがテニールに近づくと、ゲブ神も襲ってきたが、
シルバー・チャリオッツの剣は、水の爪を素早く吹き飛ばした。
もはや、テニールとゲブ神は分断された。連携のとれていない今、恐ろしいことはない。
「ゲブ神の反応が良過ぎたんでな。何か仕掛けがあると思ったが、
 お前がンドゥールに連絡している様子は無い。ならどうやって? そこで、アヴドゥルの能力だ。
 マジシャンズ・レッドの炎の探知機。あいつが炎を出した時のこと、憶えてるか?」

 

『炎は膨れたり縮んだりと形を変えながら、大気を炙って揺らがせていた』

 

「あれでまず調べていたんだ。この周囲に他の誰かがいないか………そして、見つけた。
 何のことは無い。ここの状況を見て、ンドゥールに伝えていたのは、お前ではない別の奴だったわけだ。
 そこの魚みてえなスタンドだった」
 ザ・フールに捕らえられた小さなスタンド――『クラッシュ』。
この遠隔自動操縦型スタンドが、ゲブ神の中に潜み、こちらの動きをその目で観察し、
目の見えないンドゥールに伝えていたのだ。
「いるとさえわかれば、俺の目とイギーの鼻で、何とか場所はわかる。
 こちらに気付いてないと油断している奴を、捕らえるのは簡単なもんだ。
 これでもう、こちらの動きは伝わらない。望遠鏡か何かでこちらを見ようにも………」
 ポルナレフは周囲に視線を向ける。街路樹が燃え、いまだに煙が立ち昇っている。
 煙に邪魔されて、この辺りは遠くからは見えなくなっている。
 この場を見るには、この場にいて見るしかない。
「てことで、もうゲブ神は信頼できねえ。はっきり言うぞ。お前はもう」
「ひ、ひいいいいい!!」
 テニールは一か八かの攻撃を仕掛けるが、
「お終いだ!!」
 シルバー・チャリオッツの連撃によって、3階の高さにまで吹っ飛び、
終戦条約調印式の会場のあった建物の窓に突っ込んだ。

 

「おっと、逃がしちまったなこりゃ。けどまあ」
 ポルナレフは頬に触れ、フジツボが取れていることを確認する。
アヴドゥル、花京院の二人の体からも、フジツボが剥がれ落ち消えていっている。
「あいつはもうリタイアだろう。あとは………」
 残ったゲブ神は、ポルナレフたちにはまったく頓着せず、イギーへと走った。
シルバー・チャリオッツとハイエロファント・グリーンが攻撃し、その体を飛び散らせるが、
ソフトボール2個分程度の大きさだけとなって、なおイギーに向かって走る。
「グオンッ!!」
 イギーは吠えて、ザ・フールをけしかけるが、ザ・フールのスピードは速い方ではない。
攻撃は外れ、ゲブ神は捕らえられたクラッシュに触れた。
あの程度の大きさのゲブ神では、ザ・フールを破壊することは難しいと思われたが、
クラッシュはゲブ神に包まれたかと思うと、一瞬にしてその場から消滅した。
クラッシュの特殊能力、水から水へと瞬間移動する力だ。

 

「!?」
 ポルナレフたちが驚いていると、ゲブ神は急に形を崩し、大地に流れ落ちる。
シルバー・チャリオッツが剣を突き立ててみたが、もはやスタンドパワーは感じられず、
ただの水に戻っている。
「………逃げたみたいだな」
 策が破れた時点で、この場は諦めたらしい。
「ひとまずは、我々の勝利ということですか」
「そのようだな」
 花京院とアヴドゥルも頷く。しかし、二人ともフジツボに力を吸い取られ、
もう立っていることもできない様子だ。危ないところだった。

「だが、あの魚………瞬間移動か? 厄介なのがンドゥールとコンビを組んだみたいだな」

 ポルナレフは、いまだに残った復讐者のことを想い、ため息をつかずにいられなかった。

 

   ◆

 

「失敗だ。離脱する」

 

 ビルの頂上に立つンドゥールは、傍らの男に呼び掛ける。
その男はスクアーロ。目の見えぬンドゥールに、視覚情報を教えていた、
『クラッシュ』のスタンド使いだ。
「ああ………だがテニールはいいのか?」
「助けるほどの義理は無い。所詮、金のみによる絆だ。お互いにな」
 スクアーロにしても、真剣に助ける気はなかったらしく、あっさりと納得する。
「俺としても目的がある。これ以上危ない橋を渡る気はないが………これからどうする?」
「ヴェルサスからの命令は果たした。俺の目的は、今はまだ果たせんようだ。
 これ以上、この国にいることはない」
「わかった。まあしばらくはコンビを組ませてもらうぜ。俺の本当の相棒が見つかるまではな」
 スクアーロは、おそらくこちらに来ているであろう、共に命を散らした友のことを想った。
「ああ………ヴェルサスが何をするつもりか知らぬが、下手にこの場にとどまって巻き込まれる気はない。
 この国は早々に出るとしよう」

 

 ンドゥールたちは、歩き出す。
それぞれの目的の為、未来の為、悪であり続けながらも、彼らは歩いていくのだ。
大切な人を心に宿して。

 

   ◆

 

「ヘイ、キラ・ヤマト。起きな。まだ終わっちゃいないぜ」

 

 シンはコックピットから飛び出し、まだ倒れたままのキラに呼び掛ける。
キラは薄く目を開くと、ゆっくり上半身を起こした。
「まだ、僕に用があるのかい?」
「当たり前だ。まだ半分くらいしか、達成できちゃいない」
「………僕を殺すのか?」
「今のアンタは殺すまでも無く、死んでるようなモンだ。
 許すわけじゃないが、殺したところで、どうなるもんでもない。だからここは逆に考えてみるさ」
 シンはキラに向けて、手を伸ばした。
「帰って来い。隊長たちのいる方に」
 それが、シンの目的のもう半分。
ブッ倒すことで、目的の半分は果たしたが、そっちがまだ残っている。

 

しかしキラは力なく首を横に振り、
「………無理だ。僕には、もうそんな資格はない。
 僕には、もう戦って、人を殺すしかできないんだ。
 そんな僕が、アスランやカガリのところに、行けるわけないだろ」
 予想通りの返答に、シンはため息をつく。
「本当にわかっちゃいないなアンタ。それでも、アスラン隊長たちは、
 そんなアンタでも帰ってきてほしいって思ってるんだ。
 それにな、アンタは、戦うだけの人間じゃないさ」
「知ったふうなことを言うな!!」
 キラは涙を流して激昂する。この怒りはシンへのものか、自分へのものか、
どうにもならない運命とやらへのものか、それはわからない。
それほどキラの心はもうグチャグチャで、どうしようもなくなっていた。

 

「はぁ………わかった、俺が証明してやるよ。アンタがまだ、救われる価値があることをな」

 

 そしてシンは、拳銃を抜いた。
一瞬、キラはビクリとするが、シンから殺気のような感情を感じられず、疑問そうに銃を見つめる。
対するシンは、思い出していた。
ロドニアのラボで聞き、そしてキラと海上で戦った時に思い出した言葉。

 

『一つだけアドバイスだよ、お兄ちゃん』

 

 それはどことも知れぬ、闇の中での言葉。

 

『もしも心迷った時は……』

 

 大切な家族からの言葉。

 

『撃つべきじゃないよ』

 

(わかっているマユ。俺はもう覚悟を決めた。俺はもう――)

 

 シンは銃の安全装置を外し、その銃口を、

 

(迷わない!!)

 

 己のこめかみに向けた。

 

 ドゥンッ!!

 

 銃声が響いた。銃口からは硝煙が立ち昇っている。
だが、放たれた弾丸は、シンの脳を撃ち抜いてはいなかった。
銃を握っていた腕は、別の手に掴まれ、銃はこめかみから引き離されていたから。
「………ほら」
 シンは、自分を押し倒し、自分の手を必死の表情で掴んでいるキラに、声をかけた。
「やっぱりアンタ、戦いだけじゃないですよ」
「き、君は、何をやったかわかっているのか!
 今、僕が君を止めなかったら、死んでしまっていたんだぞ!!」

 

 実際、引き金は引かれている。銃弾は放たれている。
もし、あの一瞬でキラが飛び起き、シンを突き倒し、その手を引っ張らなければ、
確かにシンは、今頃脳漿を地面にぶちまけていただろう。
「ああ………けど、アンタは止めてくれただろう?」
「………そんな、そこまで、そこまで僕を信じたっていうの? こんな僕を、信じたって言うの?」
「うぬぼれるなよ。そこまでアンタのことを信じちゃいないさ。
 けど………アスラン隊長や、カガリ代表は、アンタのことを信じている。
 俺は彼らのことは、まあ大体は信じられる。だから、彼らが信じるアンタを信じることにした。
 それだけさ」
 シンは呆然としているキラに、続けて言った。
「それよりさ、アンタはまだ、人の命を助けられるだけの、力と心がちゃんとあるじゃないか。
 まだ、アンタは落ち切っちゃいない」
 キラの顔が、クシャクシャと歪む。
「だから………こっちに来い。そして、彼らに会ってやってくれよ」
 キラの双眸から涙があふれ、彼は声をあげて泣き出した。
何分か、何十分か、泣き続けた後、キラは力尽きたように眠りに落ちた。
その寝顔は、どこにでもいる少年のものと、何も変わらなかった。

 

「………さて」

 

 そしてシンは立ち上がり、その足を会場の方へと向ける。
デスティニーが壊れた今、もう彼はこの戦場から撤退するべきなのだろうけど、シンには感じられたのだ。
そこで、何かが起きると。何かが待っていると。
それは『SEED』の力か、『凄み』か、ただのなんてことのない『勘』なのか、わからないが、
シンは行くことに何の疑問もなかった。

 
 

 かくして、一つの決着がつき、シン・アスカは次なる決着をつけにいく。

 

 既に覚悟は、できていた。

 
 

TO BE CONTINUED