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LOWE IF_12_第05話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 23:13:25

物事は、そうそう上手くはいかぬものだ。
 万全に万全を期しても、失敗してしまう。
 ましてや争いとなると、相手も万全に万全を期すから、確実に思った通りに運ばない。
 今、私の目の前でも、誤算が起きている。
 あと少しで、因縁の艦、アークエンジェルが沈もうとしている時に、あの疫病神が降り立った…。
 ヤツは、今度はどんな災厄を振り撒くのだろうか?
 あと、何故か興味が湧いて連れてきたこの少女が、『鍵』の運び役になるか…。
 やはり、こう予測できない事が起きるのは楽しい。
 なんといったって、これは自分の全てを賭けた『賭け』なのだから…。

 
 
 
 
 
 「こちらキラ・ヤマト!援護します!今のうちに退艦を!」
 アークエンジェルの甲板に着地したキラは、マリュー達に退艦を促した。
 アークエンジェルは、少し見ただけでも、総員退艦状態だったからだ。
 しかし、敵は容赦無く接近してくる。
 キラは近づいてきたジンに、ビームライフルを連射する。
 全て一発目をわざとかわさせ、回避先を読んだ二発目が、コックピットや、グゥルを貫く。
 それでも、敵は止めなくやってくる。
 ライフルの過熱を防ぐために、イーゲルシュテルンも併用し、更には
 アーマシュナイダーまで投げる。
 その鬼神の如き強さに、クルーはただただ見ているばかりだった。

 「マリューさん!早く退艦を!」
 その言葉に、クルーははっと我に帰る。
 が、ここで降りる訳にはいかない。
 「本部の地下に、サイクロプスがあって、私達は囮にっ…!
  作戦のなの、知らなかったのよ!」
 手短に伝えようと、マリューは焦ってしまったが、概要は伝えられた。
 「だから、ここでは退艦出来ないわ!もっと基地から離れなくては!」
 「………わかりました。」
 少し考え、キラは全周波数の通信で語りかける。
 「ザフト、連合、両軍に伝えます。一度しか言いませんから良く聞いて下さい。」
 「なんだ?」
 連合軍、ザフト軍、共に戦闘の手は休めずに、スピーカーにも注意を向ける。
 
 「アラスカ基地は、間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します!」
 「なんだと!?」
 その言葉に、連合提督が驚愕する。
 
 「両軍とも、直ちに撤退して下さい!簡単に言うと、死にたくなかったら逃げろ!」
 「隊長!」
 クストーの艦長が、クルーゼに判断を仰ぐ。
 「まさか、こんな事になろうとはな…。」
 
 「下手な脅しを!」
 イザークは、キラの言葉を、単なるハッタリと受け取った。
 それが普通の反応だろう。
 今自爆すれば、自軍の兵も死ぬし、本当だとしても、そんなことを明かすはずも無い。
 イザークは、デュエルをストライクに接近させるが、それを見たキラは、
 ライフルの残弾が少ない事を確認し、ストライクを跳躍させ、デュエルに接近する。
 突然近づいてきたストライクに、イザークは太平洋の事をおもいだした。
 「キシャマァァァァ!傷が疼いちまうだろーがぁ!!」
 このストライクが、今まで自分を苦しめてきたものとは違うとイザークは思っていたが、
 やはり同一種というだけで、恨みが込み上げてくる。
 ビームサーベルを抜き、振り下ろす、がシールドで防がれてしまい、払われる。
 ストライクもサーベルを抜き、横一文字に切り払う。
 「言っただろう、死にたくなかったら!」
 デュエルは、ぎりぎりでかわそうとしたが、足を切られ、グゥルから落ちてしまう。
 「逃げろと!」
 デュエルは、海に落ちていくが、偶然近くにいたディンが拾ってくれた。
 「くそっ、くそっ、くそぉぉぉ!」

 『おい、帰還するぞ。』
 その通信は、助けてくれたディンからだ。
 「だがまだ」
 イザークは、反射的に反論しようとしてしまう。
 『足が無きゃ戦えんだろう、それに…。」
 「なんだ?」
 『連合の部隊が必死に脱出しようとしているらしい…。』
 「何?それは…。」
 『ま、ただ逃げたいだけかもしれんが…、気になる。』
 イザークは、カメラを回し、ストライクを見る。
 ストライクは、ディンのマシンガンを紙一重で避け、そのままコックピットにサーベルを突き刺した。
 鬼の様な強さ…、しかしさっきの通信は、明らかに少年のものだった。
 一体何故彼は、あんなことを言ったのだろう?
 イザークは、呆然とストライクが戦う様を見ていた。
 
 とりあえず、作戦は成功だろう、アークエンジェルへの攻撃は、自分が来た時より、
 少なくなっている。
 中央から、距離をおこうとしている部隊もあるくらいだ。
 先ほどの通信は、味方に突破を促し、敵に動揺を与える目的のものだった。
 しかし、弾は切れ、推進用のバッテリーも残り少ない。
 もう長くは戦えないだろう。
 そんな事を思いながら、キラはサーベルでディンを斬る。
 そして斬ったディンを蹴り、その反動を生かし、ブースターを吹かせ、他の敵に向かう。
 飛んで来る銃弾を無理矢理急制動をかけてかわし、サーベルで貫く。
 アークエンジェルに着地し、辺りを見回すと、敵はもういなかった。
 どうやら敵の包囲網は突破したらしい。
 味方の船も、二隻生き残っている。
 もっとも、その艦も、総員退艦しているのだが。
 片方の艦がゆっくり沈んでいくのをキラが見たとき、それは起こった。

 「歩兵隊は、いつ頃来る?」
 「あと、15、6分ってとこだろう。」
 ザフトのモビルスーツ隊は、既に中枢部まで侵攻していた。
 しかし、これ以上はモビルスーツでは進めない。
 「じゃあ、外に出てもう一暴れ、…ん?」
 ブゥン、と全ての機器が落ちた。
 故障か?
 いや、エラーコールは鳴ってないし、第一全ての機器が同時に落ちるなんて事は、有り得ない。
 しかし、彼は先ほどの通信を思い出した。
 ひょっとして、あの通信は――
 そこで、彼の思考は途切れた。
 マイクロ波が、彼の体を沸騰、爆発させたからだ。
 これが、サイクロプス。
 強力なマイクロ波で、半径10キロ内の全てを崩壊、沸騰させる、いわば巨大な電子レンジ。
 
 「サイクロプス起動!」
 「機関全速、退避ー!」
 アークエンジェルでは、マイクロ波の影響で起きた光を観測していた。
 その光の過ぎ去った所では、モビルスーツが爆発し、建物が崩壊していく。
 逃げようと、ブースターを全開にしてモビルスーツが退避していくが、マイクロ波とは速度が
 違い過ぎて、悪魔の光に爆破されていく。
 アークエンジェルも、必死で逃げようと煙を噴きながら機関を全開にする。
 ストライクは、アークエンジェルの上に立っていたが、下に逃げ遅れている内火艇を見つけた。
 キラは、すぐさまアークエンジェルから降り、その内火艇を拾い上げた。
 既にPSダウンしているが、残り少ないバッテリーでストライクは飛び、アークエンジェルの
 中に着艦すると同時にバッテリーが切れ、ストライクは格納庫に崩れ落ちた。
 
 爆心地を中心に、半径10キロは大地すらも沸騰し、海や河川では水蒸気爆発が起きる。
 そしてその跡には、巨大なクレーターが出来、海の水がそこに流れ、上空にはオーロラが
 できている。
 この世のものとは思えない光景。
 その場で生き残った誰しもが、その光景に恐怖を感じていた。
 ――ただ一人を除いて。
 (どうやら、まだまだ『賭け』は続けられそうだな…。)
 全員がこの非現実的な光景をみつめていて、クルーゼの笑みを見た者はいなかった。

 アークエンジェルは、爆心地から30キロほど離れた海岸に着底していた。
 このくらい離れれば、ザフトも来ないだろうと、皆安堵感を噛み締めていた。
 ストライクは、バッテリーを充填しても立ち上がらなかった。
 パイロットのキラが、完治していない体で高機動戦闘をして、気絶していたからだ。
 とりあえず、格納庫のクレーンでハンガーにかけ、外から開けてキラを医務室に運んだ。
 
 ブリッジでは、助かったにもかかわらず、暗い雰囲気が漂っていた。
 「これからどうする?」
 「通信の方は、Nジャマーと磁場の影響で、今のところ全く通じません。」
 「応急処置をして、自力でパナマまで行くんですか?」
 「歓迎してくれんのかねぇ、いろいろ知っちゃてる俺達をさ。」
 「命令なく戦列を離れた本艦は、敵前逃亡艦、ということになるんでしょね。」
 そのマリューの言葉に、全員が肩を落とした。
 敵前逃亡は、確実に銃殺刑だ。
 命からがら逃げ延びたのに、殺されるために味方の元に戻る。
 誰でも虚しくなるだろう。
 だが、ドアが開きそこから初老の男が、数人の兵を連れて入って来た。
 「あなたは?」
 「ユーラシア連合所属、地球連合海軍、第五艦隊司令、ユキカゼ・ナガト中将だ。」
 「えっ?あっ、大西洋連合所属、地球連合宇宙軍、アークエンジェル艦長、
  マリュー・ラミアス少佐です。」
 いきなりの上官の登場に、マリューは慌てつつも、敬礼と自己紹介を忘れなかった。

 「どうやら、敵前逃亡の事で、落ち込んでいるらしいね。」
 ユキカゼは、ブリッジの雰囲気を感じて、言葉を発した。
 「まあ、その事だが、どうやら君達を助けてあげられそうだ。」
 「えっ、あっ、でも、どうしてここに?」
 何故ユーラシアの提督がここにいるか、マリューには理解できなかった。
 「いや、あのストライクという機体が、逃げ遅れた私達の内火艇を助けてくれてね。
  後でそのパイロットに礼がいいたい。」
 「あ、はい。」
 「さて、話を戻すが、君達、ユーラシア連合に来ないか?」
 「えっ?」
 全く知らない将官に、マリューは完全に混乱していた。
 「命の恩人だからな、まあ来ないにしても、軍法会議で手助けしてやろう。
  私も掛けられることになりそうだからな。」
 「でも、敵前逃亡だから、確実に銃殺刑じゃないんですか?」
 これはムウだ。確かに、軍法会議には弁護などは無く、ただ行った行為を罰せられるだけだ。
 「いや、今回の事には、ユーラシア連合全体が激怒しておろう。
  判事にユーラシアの将官は確実にいるから、無罪は無くとも銃殺刑にはならん。
  大西洋連合に戻って、軍人としてのけじめをつけるか、
  それとも、ユーラシア連合に来るか、諸君等が決めよ。」
 その言葉に、ブリッジは騒然となった。
 つまりは、自分達は助かるということなのだ、皆が喜んだ。
 しかしマリューは悩んでいた、ユーラシアに行くか、大西洋に戻るか。
 マリューはマイクを取って、艦全体に伝えた。
 『全員、至急甲板に集合、繰り返す。』
 結局、一人一人に判断を仰ぐことにした。
 自分一人で、こんな重大な事を決めるわけにはいかないと思ったからだ。

 甲板に集合したクルーに、マリューは先ほど言われた事を伝えた。
 クルー皆が考え込んでいるが、意外と早く答えてくれた。
 「艦長に任せますよ。」
 「え?」
 「そうだな、ここまで一緒に来たんだ、一蓮托生ってやつですよ。」
 クルー皆が、そのような言葉を言ってくれている。
 「皆…。」
 キラは依然医務室で気絶しているが、マリューは決断した。
 「皆…、軍人としてけじめをつけましょう。
  大西洋連合に戻ります。」
 その言葉に、クルー全員が賛同の声をあげた。
 「わかりました、さっさと機関修理しなきゃな!」
 「通信も回復を試みてみましょう!」
 皆が命じられる事無く、それぞれの仕事にとりかかった。
 「皆、ありがとう…。」
 
 
 
 
 
    ―戦友というのは、どんな関係の人よりも信頼できる人―
                      ―マリュー・ラミアス―

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