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LOWE IF_592_第03話

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:41:28

初めてあの人に出会ったのは、連合前線基地攻略戦の時。
あの事件の後、私は怪我を負った持ち主に代わって、ジンのパイロットを務めることになった。その最初の任務がザフト本隊との連携だった。
前線基地の連合軍がザフト本隊と戦っているうちに、私達レジスタンスが基地へ強襲するという作戦だった。勿論、本隊からも数体その援護をしてくれる人物がいた。
それが、ハイネ隊長だった。
オレンジ色に染め上げられた、その彼専用のシグー。威風堂々。その時から、私は彼に憧れの情を抱くようになった。
いざ作戦が始まり、前線基地から主力部隊がいなくなったところで私とハイネ隊長は突撃した。
そして、初めて人を殺した。
その時は無我夢中でわからなかったが、しかし、作戦が成功した後、私はその光景を見て、思わず、いや躊躇なく吐いてしまった。
そんな私を、ハイネ隊長は慰めてくれたが、それでも私は。

人を殺める。私は、ついに戻れない場所まで来てしまったのだと、認識せざる得なかった。

第三話 I HATE IT

「…」

アビス達をやり過ごしたラクスのジンはミネルバへと向かう。ラクスが操縦している後ろでは、キラが色々と考えに更けこんでいた。
周りでは、ザフト兵達があわただしく動き回っている。警備に出ているMS達もいた。そんな中でけが人も多く見られた。
どうやら、今回は手荒くやられたらしい。ここに避難してきたのだろうか?泣き叫ぶ子供の姿を見ると、少し心が痛んだ。

「…こんなになるまで、私達は…」
「…後悔しないでよ、ラクス。僕達はやれることをやった。僕達がアビスと戦わなかったら、もっと酷い事になっていたかもしれないんだ」
「そう、ですわね…いえ、私が力不足だったから…」
「一人でどうにかできた状況じゃないだろ?」

ケイはケイらしい言葉を浮かべ、それでラクスを励まそうとしたが、ラクスは自身の力量のなさに落胆するばかりだったので、あえてケイは厳しい言葉を投げかけた。
確かに、ケイのいうとおり、ラクス一人で解決できるようなことではない。寧ろ、ラクスはよくやったほうだろう。
要は全体がいけなかったのだ。ザフトの危機管理の甘さが浮き彫りになってしまった事件となってしまったのだ。

「…はい」

ラクスは俯いたまま、返事をした。やはり何処か引っかかるものがあるようだ。そんなラクスの正直なところを見て、ケイは苦笑した。
それと同時に、彼女がお嬢様だったときはどんな人物だったのか、それも少し気になっていた。

「ま、そう自分の力量不足を呪うなら、もっと努力すればいいさ。起こってしまったものはしょうがない。これからどうするかだ」
「はい、ケイさん。…ところで、さっきから何をお悩みなのですか?」
「え?うん、まあね」

先ほどからケイは色々と考えていた。それは、奪われた三機について、いかに対処するか。テストしたライフルの修理、改良についてとか。
はたまた、ドサクサ紛れに触ってしまったラクスの胸の形の良さだとか。最後は本当にくだらなかったが、健康優良青春男児としては、ちょっぴり嬉しい事だった。

「(そういや、あっちのラクスよりこっちのバカピンクのほうが胸大きいや…)」

自分の手のひらを眺めて、ラクスの胸の感触を思い出してみる。少しばかり興奮しすぎたか、顔が真っ赤になった。
それと同時に、あの時、ヤキンドゥーエのときはこんなうつつを抜かす暇などなかったな、と思い出して、今の生活がいかに恵まれているかを感じていた。

「どうしたんです?」
「あ、いやなんでもない!なんでもないぞぉ!」

と、急にラクスに声をかけられたケイは、慌てて誤魔化しながらラクスの顔から視線をそらす。
そして、何度か荒く深呼吸をしながら、心を落ち着かせた。全く、これが前大戦の英雄だというのだと誰が信じるだろうか。
しかし、少しずつケイ・クーロンにも人間性というものが身にしみてきたようだ。
感情を当たり前に表現して、バカみたいに笑ったり、こんなことをしてみたり。
そういえば、趣味も増えて、最近なんかは音楽を聴いたり、映画もよく見るようになった。
健康的になったものだ。ケイはしみじみそんなことを考えていた。

「(しかし、こんなことハイネさんにばれたら殺されるな…僕。しかし、いい形だった!)」
「あ、つきましたわよぉ」

小さくガッツポーズをするケイを尻目に、彼らを乗せたジンはミネルバのドックに入り、そのまま飛び上がってミネルバのカタパルトのほうへと向かう。
先ほど損傷したウィングが気になりはしたが、上手く着地し、ミネルバ内部へと入っていく。と、格納庫へとたどり着くと、そこではなにやら修羅場が繰り広げられていた。

「お前達、軍のものではないな!何故その機体に乗っている!?」

ザフトレッドにミニスカートという、なんとも奇妙な組み合わせの、赤い跳毛の少女が、目の前にいる二人組みにマシンガンを向けていた。一人は青い毛に緑の服に青い上着。もう一人はワインレッドのシンプルな上着を着ている金髪の少女だった。

「…!?か、カガリ!?」

一瞬こちらを振り向いたその少女の顔を見て、ケイは驚いた。それもそのはず、その少女とはケイのオリジナル、キラの姉カガリ=ユラ=アスハその人だった。
ケイ自体もテレビ越しでオーブの代表に就任していた事は知っていたが、まさかここに来ているとは予想外だった。

「カガリ様って…あのオーブの?」
「そう。そして、僕のオリジナル、キラ・ヤマトの姉さ。まあ、僕も姉のように接していたけど…なんでここにいるんだ?ということは、あの隣にいるのはアスランか?アスランもオーブにいたのか…」

まさか、昔の友人にここで出会うとは思わなかったが、今ここで自分やラクスの正体を知られるのは得策ではない。
もしかしたら、すでにもう一人のラクスが『キラ・ヤマト』を作り出し、溶け込ませているのかもしれないからだ。
しかし、難題だ。アスランは適当にはぐらかせるとしても、カガリは直情故にしつこい。特に、自分に対しては。そういえば、このラクスとカガリは面識がないんだった。それも踏まえねば。そう考え、ケイはラクスに指示を送った。

「ナタリー。とりあえず修理しないと。スクーターも降ろしてさ。それと、絶対に僕の事やラクス自身のこと、言っちゃだめだよ。
僕はもうケイ・クーロンなんだし、クライン派の人たちが何処で聞いているかもわからないしさ」
「あ、はいはい…わかってますわ。宜しく御願いします」

ケイはバンダナを頭に巻き、少しオシャレな伊達眼鏡をかけ、ラクスも髪を結んで、少しわかりずらくする。
とはいえ、ラクスに関しては明らかに傷が見えるので、本人とは思えない、というのもあるので、別にこうまでしなくても似ている人、になるが。

「ハッチ、開けます」
「はい」

ラクスはジンのハッチを開け、一旦ケイを降ろす。ケイは降りた後、まず周りの人間に対して言った。

「はいはい、邪魔邪魔!今から修理するんだから、もっと離れて!」

その時、カガリはケイの顔を見て、何か引っかかるものを感じていた。一方のアスランのほうは赤毛の少女にも警戒をしなければならなかったので、それどころではなかった。
しかし、その場ではカガリも"何か引っかかるもの"としか感じる事ができず、この状況では問い詰める事ができない。
どこかで、いや絶対に見たことがある顔。そして、声。しかし、眼鏡やバンダナのせいでいまいち思い浮かべているものと合致させる事ができない。そんな様子にケイは気がついていながらも、あえて無視し、ラクスに指示を送る。

「よぉし、ナタリー、手をゆっくり降ろして!」
「え?こうですか?」
「馬鹿!自分の手を下ろしてどうする!ジンのだよ!」
「わ、わかってますわよ!もう!」

軽い漫才をやった後、クーロンはケイの指示にしたがって、スクーターを乗せていたジンの手をゆっくりと下ろす。ケイは下ろされた手に乗り、スクーターを回収した。

「よぉし!ナタリー、ジンを格納してくれ!」
「了解ですわ」

腕を振って、ラクスに指示を送るケイ。ラクスはハッチを閉めて、自分に指定されていたハンガーに向かってジンを歩かせた。
そして、慣れた動きでハンガーに固定し、ジンを収容した。

「さてっと…」

ケイは一度バンダナを外し、髪を後ろに撫でて整える。その時、ケイの横顔をちらっと見たカガリは、先ほどの引っかかりが取れたような気分になっていた。そして、アスランの肩を掴み、ケイのほうを向いて言おうとした。

「キ―――」
「ケイ!!」

そのカガリの声を遮る様に、整備長のマッドがケイの元へと歩み寄る。ケイはバンダナを再び頭に巻きながら、マッドのほうを振り向いた。

「ケイ、無事だったか。それに、嬢ちゃんも」
「おやっさんこそ、無事でしたか。よかった」
「マッドさんとケイさんがあの機体を整備しておいてくれたお陰ですわ。でも、少し壊してしまいましたけど…マッドさんもご無事でなによりですわ」

そのケイとマッドの下に、ラクスもジンから降りて合流して、お互いの無事を確認し、安堵の言葉をかけていた。
ただ、ラクスとしては、普段から整備へいたちが万全にしてくれている機体を損傷させてしまった事が気がかりのようだ。
そんなラクスの言葉にマッドは首を横に振って微笑みながら言った。

「嬢ちゃんが無事で何よりだ。旧式でよくがんばったよ」
「(柄にもない事をまあ…僕には拳骨食らわしたり、川に放り込んだりするくせに)」
「なぁにぐずぐずしているんだ、ケイ!お前はそのスクーターをどこかに保管しておけ!その後、ザクの整備を手伝え!
よぉし、第六班から七班はルナマリア機の修理だ!!3班はジンの修理を急げ!」
「りょりょうかい!」
「了解!」

マッドの怒鳴るような指示にケイら整備兵達の顔が引き締まり、先ほどの静寂などどこかへ言ってしまったかのように慌しくなった。
そんな整備兵達が慌てて動く中、ケイはそそくさと移住区へと向かおうと通路へ、スクーターを荷台に乗せて歩いていった。

「あ、待て!」
「動くな!!」
「私を行かせてくれ!あいつは…!」

そのケイを呼び止めようとカガリは足を動かそうとしたが、赤毛の少女、ルナマリアによって制止させられる。
カガリはなんとかケイの元へ行こうとするが、上手い言い訳が思いつかない。
そんな彼女の様子を見て、アスランは一度ため息を吐き、先ほどから言おうとして、ごたごたになってしまった事を改めて言った。

「…銃を下ろせ。こちらはオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハ氏だ。俺は従事のアレックス・ディノだ」
「(なるほどね。アスラン、君も自分を偽っているんだ)」

キラはアスランが何故オーブにいるのかがわかった。あのヤキンのときの二人の親交から考えても、そしてザフトにおけるアスランの立場を考えれば妥当な線なんだろう。
つまり、今ではオーブのアレックス・ディノとして生きているのだ。自分が、ケイ・クーロンとして生きているのと同じく。

「代表はデュランダル議長との交渉中、此度の騒動に巻き込まれ、已む無くあの機体を拝借した。
代表は怪我を負ってらっしゃる。医務室で治療させていただけないだろうか…。丁度、彼も移住区へ行くのだろう?」
「(な、なんだってぇ!?)」

だが、この言葉は理解できなかった。もう少し早く出て行けばよかったとケイは後悔した。そしてそれと同時にアスランのことを恨みそうになった。

「あ、アス…アレックス…」
「…オーブのアスハ…。俄かに信じがたいですが、怪我人であれば、それに対する処置はしなければなりません。えっと、ケイさん、ですよね?」
「いや、うんそうだけど」
「連れて行ってくれませんか?念のため、私も行きますから」

頼りのルナマリアも頼れず、ケイは大きくため息を吐いて観念した。

「わかりました。じゃあお連れしますよ」
「あ、じゃあ私も」

と、このメンバーにラクスが加わったところで、ケイはまた心の中で項垂れる。

「(熱血バカピンクに生意気小僧。それにアホ毛レッドか…頼りないなぁ、この艦)」
『本艦はこれより発進します、各員は所定の作業についてください。繰り返します…』

もはやケイの言葉は、唯単なる八つ当たりにしかならなかった。艦内アナウンスも、何時もより空しく聞こえていた。

さて、強奪されたMSを追い飛び出したインパルスとザクの援護のために、アーモリーワンを発進しようとするミネルバ。そんな中を、憂鬱そうな表情で進むケイと警戒心丸出しのルナマリア。
そして警戒心ゼロのバカピンクことラクスがアスランとカガリを連れて医務室へと向かっていた。

「(…やっぱり、この男…)」

そんな中、一番前を歩くケイの背中を見て、カガリは疑念を確信へと変えつつあった。この男とよく似ている男を、自分は知っていた。
しかし、わからないのは何故その男がここにいるのか?いるはずもない、ザフト艦の中にだ。
カガリの心で色々問い詰めたい気持ちが逸る中、ラクスが彼女に声をかける。

「それにしても、こんな近くでオーブの代表、カガリ・ユラ・アスハ様に会えるとは思いもしませんでしたわ」
「…ん?そうか、ありがとう」
「私、テレビで貴方様が映っていた所を見て、なんて力強そうなお方だなぁと思っていましたが、やはり近くで拝見させていただきますと、風格が違いますわね」
「(いや、強情っていうんだ、それ)」

憂鬱から面倒くさそうな表情にして、ケイは心の中で突っ込みを入れた。

「ありがとう、そういう言葉をもらえると、私も励まされる。…名前は?」
「ナタリー・フェアレディですわ、カガリ様」

微笑むカガリに満面の笑みで自己紹介をするラクス。
奇妙な光景だ。と、ケイは考えた。とはいえ、あのバカピンクでは仕方がないか。あまりに性格が違いすぎるうえに、このラクスとはカガリは初対面なのだから。
それはそうと、アスランくらいは気がついてもいいような気がするのだが、まあそれも杞憂で終わってくれればいいだろう。

「ありがとう、ナタリー。いつか、お前と食事でも一緒にしたいな」
「ええ、こんな緑服の弱輩者でよろしければ、いつでもお付き合いさせていただきます!」

この図々しさもまた、あのラクスに…ないのかあるのか。微妙なところだった。

「(さてそろそろ)」
「ところで、お前」
「(来たなあ)」

ついに自分のほうへ話題が振られたかと思うと、ケイは気が締まる。ここで誤魔化せるかどうか、それで全てが決まる。
そう、自分は"キラ・ヤマト"でもそのクローンでもなく、ケイ・クーロンとして生きるのだ。
そのためにも、カガリを突き放す必要があった。

「…キラなんだろ?お前。…何でお前がここにいるんだよ!」
「代表!?」
「…?」
「…」

また直球勝負できた。こういうときはこう、カーブとかで様子見なんじゃないの?とかくだらない事を考えつつ、ケイは反論する言葉を捜す。

「…誰です?それ。僕の名前はケイ・クーロンですよ?紹介が遅れましたが」
「とぼけるな!私がお前を間違えるわけがないだろ!?大体、お前は…」
「代表!…失礼した。代表の知人がよく似ているもので」

第一ラウンドはケイの勝ちである。ケイはカガリに素っ気無い返事をすれば、必ず食いついてくると踏んでいたため、あえてわざとらしい態度をとっていたのだ。
案の定カガリは食いつき、何もかも口から吐き出そうとしてしまった。それをアスランが必死に宥め、ケイに謝罪する。
しかし、アスランがどう止めようとももう遅い。もはや『ラクス』が更なる『キラ・ヤマトの代理人』を用意しているのは明白になった。
鍵の一つは手に入った。

「(ま、まだまだ足りないけどね)」

そう考えつつ、ケイは眼鏡の位置を直しながら更に言った。

「いえ、それは別に構いませんが…。しかし、そういう事をあまり大声で言わないほうがいいのではないのですか?代表さん」
「何!?」

ケイの突然の言葉に、カガリは怒りをこめた表情をして彼を睨んだ。だが、ケイはひるむことなく指摘していく。

「仮に僕が『キラ』だとして、じゃあ貴方が知っているキラさんというのは何なんですか?」
「いや、それは、その…こっちに来ているのかもしれないじゃないか!」
「じゃあ何故わざわざ貴方にケイ・クーロンと名乗らなければいけない?」
「そ、それは…」
「この場であれば貴方に対して僕はキラ・ヤマトだと名乗ればいい。何の都合も悪くもないのに。でもケイ・クーロンと名乗っている。何故?
それは僕がケイ・クーロンという名の男であり、キラ・ヤマトではないから。なのに、貴方は僕をキラ・ヤマトだと決め付けている。
そうやって、貴方は自分が正しいと信じて、周りを信じないのですか?」
「そんなことは…」
「はっきり言って失礼ですよ、貴方。僕に対しても、貴方が知っているキラ・ヤマトさんにも」

カガリを追い詰めるケイ。それを呆然と見ている外野。少し気が引けたが、仕方がない。キラを少し否定するのもだ。
先の大戦ではそんなに気にしはしなかったが、交流関係が広くなったお陰で色々と気がつかされた。カガリは直情過ぎるのだ。
だから、はっきり言って政治家には向いていない。どちらかといえば軍人など、義憤に燃えるような人物なんだろう。
しかし、彼女には父親のあとを継ぐという使命感に燃えているのだ。ただ、燃えているだけなのだ。
気がつかなければならない。そのためには、自分を変える必要があると。

「(…まあ、変えられても変えられないものだってあるけどさ…)」

何となく言ってみる一言。しかし、彼はこの言葉を自分が受ける事になるとは今は思いもしなかった。

「思ったことをすぐに口にして、それで人が傷つく事もあるというのに。あまり直情になりすぎるのも問題ですよ」
「…いい加減にしてもらおうか?」

と、ここでずいっとアスランが二人に割ってはいる。冷静を装っているが、そのうちには怒りの炎が混じっているようだ。

「確かにこちらの言葉はそちらの気分を害してしまったのかもしれない。しかし、今は医務室に連れて行ってくれないか?文句なら後で俺がゆっくり聞こう」
「…いえ、こちらこそ。では行きましょう」

ケイはあえて、その誘いに乗らず、素直に謝る。そして、再び一行の前へと歩き出した。そんな中で、カガリは豪く落ち込んだ様子でいたようだ。
そんなカガリの様子にケイは一安心した。正直、外交問題にならないよう、繊細に事を運ぶ必要があったため、内心では疲れていた。
できるならこのままベッドに潜り込んで眠りこけたい。
そんな様子を、ルナマリアとラクスはきょとんとしながら眺めていたままで、会話が終わって、やっとお互いを見合って言った。

「えっと…ケイさんってあんな人なの?」
「まあ気難しい人なんですの。色々と…」
「どういう関係なの?あの人と。ジンから一緒に降りてきたって事は、行動を共にしてきたんでしょう?」
「え?あ、まあ…う〜ん…どんな関係って言われましても…大切なお友達、ですわ」
「へぇ〜大切なお友達、ね」

ラクスの言葉にケイが内心少しだけ傷ついたのは内緒だ。そんな彼を、にやにやとしながらルナマリアは見ていた。

「と、ところで…この艦はアーモリーワンを出立したようだが、そんなにプラントの損傷は酷いのか?」

と、こんな会話の中、痛まれなくなったか、カガリは自ら話題を振る。どうやら事情を読めないらしい。

「え〜っとわかりませんわ」
「わからないって…ああ、そうか。お前もさっきついたばかりだったな…」

一瞬、事態を把握していないラクスを問い詰めようとするが、自分より遅く来た彼女が事情を知っているわけがないと判断し、ルナマリアのほうへ視線を送る。
ルナマリアは別段答えることなく、黙って歩いていく。と、その時だった。

『ミネルバ発進!コンディションレッド発令!コンディションレッド発令!MSパイロットは速やかにブリーフィングルームへ召集してください』
「…!!」

突然のアナウンスに、その場にいた人間は驚いた。そんな彼らの横を、あわただしくミネルバクルーたちが走り回る。
そんな艦内の様子から一つの危惧を感じ、アスランがルナマリアに問い詰める。

「戦闘に出るのか!?この艦は!!」
「あ…」
「アスラン!…あ」

その様子にいてもたってもいられなくなったか、カガリは思わずアスランの名を言ってしまう。
言ったところで、はっと気がついたがすでに時遅し。あたりは気まずい雰囲気が漂う。

「アスラン?」

ルナマリアがアスランをじっと見つめる。そんな中、ケイは思わず吹きそうになるのを必死に押さえて回りと同じ表情をし、ラクスはすでにブリーフィングルームへと向かって行った。
思い立てばすぐ実行。彼女の優先順位は、任務のほうが、安全なミネルバの中での護衛よりも高くなっていた。

「くっそー!!」

一方、宇宙空間ではシンのフォースインパルスとレイのザクが、強奪されたMSの追撃中正体不明のMAと戦闘を繰り広げていた。
敵はかつてのメビウスを思わせるような流形フォルムの戦闘機で、しかもガンバレル系のポッドを装備していたためにできる空間戦法にシンは苦戦を強いられる。

「さぁて、その機体も頂こうか!」

そのMAのパイロット、仮面をつけた金髪の男は不適に笑いながらインパルスを追い詰めていく。一方シンのほうはガンバレルを必死に撃ち落とそうとするものの、まるでそれ一つ一つがシンの思考を読取っているかのごとく避けては反撃のビームを撃ってきた。シンはいくつかは見事に避けては見せたものの、やはり避けきれず、シールドで何とか持たせてみせた。

「演習では、こんな!」
『シン!ぼぅっとするな!』

と、そこへ金髪のザフトレッドの男レイのザク・ウォーリアがたどり着き、シンを襲ったガンバレルの射撃をザクのシールドで防ぐ。
そして、専用ビームライフルを構えてガンバレルを狙い、数発撃つ。そのうち一発が命中し、ガンバレルが爆発した。

「ほう…」

MAのパイロットはそのレイの射撃能力に感心しながら、標的を彼に絞る。この様子ではインパルスは後回しにしても良い、そう感じたからだ。
レイは予想通り、自分に攻撃を仕掛けてきた。彼はすぐさまスラスターを吹かし、ガンバレルをインパルスから引き離すように避ける。
そして、シンに対して叱咤した。

「突っ立ていたら、唯の的だぞ!!」
『わかっているけど!』

言い返してみるが、状況は最悪だ。先ほど動き回りすぎた所為もあり、インパルスのエネルギーは底を迎えようとしていた。それに、敵のMA相手に自分は唯の赤子のようにあしらわれている。
自分の敵う相手ではなかった。しかし、それが一番シンにとって気に食わなかった。
演習では、全てが上手くいっていた。赤服にも選ばれた。なのに、敵わない。

「くそ、こんな、こんな事!!」
『事実だ、認めろ!!だが落ち込んでいる暇はない!こいつは普通の敵ではない!こいつを叩かなければ、先へ進めない!』
「畜生ぉぉ!!」

この時、MAのパイロットは不思議な感覚を感じた。頭に電撃が走ったと思えば、相手の声が少しだけ聞こえたような気がした。

「な、なんだ…この感覚…」

一瞬戸惑いながらも、男は気を取り直してガンバレルをザクへと飛ばし、牽制しつつ、ビームカッターを出していたほうで切りかからせるがレイはそれを読んでいたように避け続け、MAへとライフルを撃つ。男は舌打ちをしながら、機体にブレーキをかけ、それを避ける。
お返しにと本体頭に付けられていたビーム砲で反撃する。レイはザクの上半身だけを反らし、その慣性で機体を回転させながら避け、そのままライフルを放つ。

「す、すげぇ…」

そのザクとMAの攻防を目の当たりにしたシンだったが、自分が除け者になっていた事に気がつき、インパルスのビームサーベルを取り出させて慌てて現場に向かう。
が、それに気がついた男はガンバレルを二基、インパルスに向かわせ牽制する。
一発、二発…三発目は避けられず、シールドで防いで、再び突撃する。

「新型君もやるようになったねぇ、だが!」

フランクな口調でシンのことをほめる男。その表情にはまだまだ余裕がありそうだ。現に、彼はMAを軽やかに動かし、ギリギリのところで避け、ザクを振り切って、ビームサーベルでインパルスを切り掛かる。
その突然の攻撃にシンは対応しきれず、左腕をもっていかれた。

「な!?」
「さあ、止めと行こうか!」
「そうはさせるか!」

驚愕するシンを尻目に男は止めを刺そうと反転し、再びビームサーベルを発動させて突撃する。しかし、そこへレイがザクを反転させず、わき腹の隙間から後方へと射撃する。

「何!?」

男はMAの機首を上に向かせて急停止させ、そのまま飛び去る。

「危ない危ない…まさか、あんな芸当も出来るとはな。あの白い坊主はただものじゃあなさそうだ。それに、あの新型君も」

言葉とは裏腹に、男は何処か愉しそうな表情を浮かべていた。指揮官である前に、戦士としての魂が彼の戦闘本能に火をつけようとしていたのだろう。
しかし、そうなる前に、男の魂は鎮まってしまった。

「ん…?敵艦…新型か。こりゃ、遊びすぎたかもしれんな。ま、欲張りすぎは元も子もなくすか」

敵艦がプラントの影から姿を現そうとしたのを確認したのだ。敵艦は何かの信号を発射している。
それを見るや否や、こちらに牽制しつつ、二体のMSはその艦へと飛び去っていった。
至極残念そうな表情を浮かべ、男は近くで逃亡中の母艦へ向かう。そして、すぐに着艦し、ブリッジへと指示を送る。

「リー、逃げるぞ!!」

指示を受けた副官イアン・リーはすぐさまブリッジいるクルーに通達する。

「よし、これよりガーティー・ルーは本域より離脱する!進路イエローアルファ!全速前進!」
「了解!進路イエローアルファ、全速前進!」

ガーティー・ルーは機関最大にし、その機動力の全てを使って、現場に急行してきたミネルバから逃げようと試みる。
その様子はミネルバブリッジでも確認でき、艦長タリアはクルーたちに指示を送る。

「これより"ボギー1"を追います!進路イエローアルファ!」
「進路イエローアルファ!」
「シン達は?」
「もう少しで着艦完了します!」
「急がせて!シン達が着艦すると同時に機関最大!」
「ナイトハルト、てぇ!!」

シン達が着艦する間も、ミネルバはボギー1とコードネームを付けられたガーティー・ルーにミサイルを撃ち込む。ガーティー・ルーは船底に付けられているイーゲルシュテルンを撃ち、ミサイルを迎撃する。

「着艦完了しました!」
「よし、ミネルバ前進!同時に、ボギー1のエンジンに向けて射撃開始!!」
「了解!イゾルデてぇー!」

ミネルバの副砲が火を噴く。二発の砲弾がガーティー・ルーのエンジン目掛けて飛んでいくが、瓦礫に阻まれ、その前に爆発した。
続けて第二弾が発射されそうになった時、先ほどの男がブリッジに上がった。

「すまない、遊びすぎた」
「ネオ大佐」
「敵も中々やる。どうやら、アウルを撃退したジンもいるようだし…ザフトも呆けてはおらんか」
「敵艦尚も接近!ブルー0、距離110!!逃げ切れません!!」

オペレーターが絶望した表情を浮かべて、状況を報告する。それを聞いた先ほどの男、ネオは舌打ちをしつつ指示を送る。

「両舷推進剤予備タンクともども切り離して爆発させろ!!アームごとでいい!奴らの鼻っ面にぶつけてやれ!同時に上げ舵35、取り舵10、機関最大!」

ネオの指示通り、ガーティー・ルーの推進剤予備タンクを切り離し、ミネルバ向けて流す。
タリアはそのガーティー・ルーの行動に驚きつつも、すぐに言った。

「撃ち方待て!面舵10、機関最大!」

タリアはそれが機雷代わりだと判断し、すぐに攻撃を止めさせて回避行動に移させる。予想通り予備タンクは爆発し、ミネルバは爆煙の中を突き進むことになってしまった。

「くぅぅ!」
「うわあ!」
「きゃああ!!」

ミネルバブリッジ内で悲鳴が響き渡る。それだけでは終わらず、ミネルバ内全体で振動が起こり、クルー達は何かにつかまって耐えるしかなかった。
爆破によるダメージはないものの、ミネルバは完全にガーティー・ルーを見失ってしまった。

「各ステーション、状況を報告せよ!」
「くっ…バード、索敵を急いで!アンチビーム爆雷発射!次は撃って来るわよ!」
「いえ…敵艦、離脱しました。レッド88、マーク6チャーリー、距離500」

必ず反撃を仕掛けると踏んだタリアだったが、予想は外れた。バードの報告どおり、彼らは反撃を行わず、その全力を持ってこの宙域から離脱していった。
タリアは深くため息を吐き、帽子を脱ぎながら言う。

「…やられたわ…こんな方法で逃げるとはね…」
「大分手強いようだな」

と、深く艦長席に背も垂れるタリアに、ゲスト席に座っている長髪の男、プラントの最高評議会議長、ギルバート・デュランダルが表情を変えずに言った。
タリアはデュランダルのほうを向き言った。

「なら、尚の事このまま放置しておくわけには行きません。そんな連中に機体が渡れば…」
「ああ、そうだな…」
「今では下船してもらうわけにもいきませんが、我らはこのままあの艦を追うほうが良いと思います。議長のお考えは?」
「私のことは気にしないでくれたまえ、艦長。私だってこの火種、放置したらどれほどの大火になって戻ってくるか…それを考えるのは怖い。
あれの奪還、もしくは破壊は現時点での最優先責務だよ」
「ありがとうございます」

デュランダルの言葉に満足そうな笑みを浮かべるタリア。そして、表情を真剣なものに変え、指示を送っていった。

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