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LOWE IF_592_第03話2

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:44:06

さて、こうしてボギー1を追うこととなったミネルバだったが、暫くは戦闘もなく、待機任務についていた。
その中で、ラクスとケイはジンの最終調整のために格納庫に来ていた。そこにはルナマリアも混じっていた。

「しっかし、この先ジンで大丈夫なんですか?」

ルナマリアがラクスのジンを眺めながら言う。それに対し、自信ある表情でケイが言い返す。

「これが大丈夫なんだよね。僕が整備しているし。それに、ナタリーとこのジンの相性は最高にいいようなんだ」
「へぇ…まさに相棒、ってとこね」
「はわぁ〜…ブースタープログラム調整終わり!ですわぁ…」
「まあ一部はゲイツとかのパーツ使わせてもらってるけどね、こっそり」

ケイはウインクをしながら舌を出して言った。
わりとお茶目な人だ、この人は。そうルナマリアはケイに対して印象を感じた。

「まあ、あんな強運は二度と続くとは限らないし、次は僕も行かないし、少しは気を引き締めなよ、ナタリー」
「わかってます。はぁ…でも、そう考えると不安で不安で」
「なぁに言ってるんですか、ナタリーさん」
「え?」

不安そうな表情を浮かべながら操縦席に座っているラクスに対し、今度はルナマリアがウインクをして、明るい声で言った。

「今度は一人じゃなくて私達もいるでしょう?」
「あ…そう、ですわね!うん!ルナマリアさんやあのインパルスがいれば心強いですわ!」

一瞬きょとんとした表情を浮かべていたラクスだったが、そのルナマリアの言葉の心強さに安心感を覚えたか、ルナマリアの手をいきなり掴み、上下にぶんぶんと振り回す。
そんな彼女の様子にルナマリアは困惑しながらも苦笑していた。

「あ。ていうか、何を私一人で突っ込もうという気でいたんでしょう…あ、恥ずかしい…自分の実力におぼれて…まだまだ努力が足りないですわ」
「まぁた、それ?まあいいけどさ。まあナタリーはこういう人なんだ。ってははは!」
「あ、はは。面白い人なんですね、ははは」

と、ラクスは急に冷静になり、自分の発言がいかに調子付いたものかと思うと、急に恥ずかしくなってきた。顔が真っ赤になり、ケイとルナマリアはそれを見て笑ってしまった。
そんな彼らに対し、ラクスは更に顔を真っ赤にして怒った。

「な、何で笑うんですの!?」
「だ、だって顔真っ赤なんだもん、トマトみたいだよ。あははは…」
『MSパイロットへ通達。これよりブリーフィングを開きます。MSパイロットと整備班長マッド・エイブスとケイ・クーロンは会議室へ集まってください…繰り返します…』
「あら」
「お」

と、ここで格納庫にアナウンスが流れた。どうやらこれからの対策をとるようだ。ケイは首を回しながら面倒くさそうに言う。

「面倒くさいなぁもう…説明しろっての?やめてよね、どうせ皆僕の説明なんか退屈でしょうがないんだろ?ったく…」
「なぁに自虐的になっているんです!私が最後まで聞きますわ!」
「…いっつも最初に寝るくせに…」
「何か言いましたか?」
「いいえ別に。さあ行こう!」

やっぱり変わった人たちだ。そう思いつつ、ルナマリアはケイとラクスと共にブリーフィングルームに向かっていった。

「それにしても、ケイさんって結構男前ですね!」
「そうかい?いやぁ、それほどでもぉ」
「ケイさん、鼻の下が伸びてますわよ…」

その途中、ルナマリアがケイに積極的にアタックしたり、それにラクスが少しだけ嫉妬感を覚えたりと、まるで過ごせなかった青春時代をすごしているようで、ケイは満更でもなかった。アークエンジェルに戻ったころも、エターナルにいたころも、こんな経験はなかった。
自分がクローンとして生まれてきて4番目くらいに良かったと思った出来事だった。

「(ああ、もうミネルバ最高!)」

そんな事を考えつつ、そんなこんなで、すぐにブリーフィングルームへとたどり着いた。

「あ」
「ん?」
「あら」

と、そこでシン・アスカとレイ・ザ・バレルと扉の前で出会った。ルナマリアは地面を蹴ってラクスとケイの元を離れ、彼らの元へと行く。

「ルナ。何処行ってたんだ?」
「ちょっとケイさんとナタリーさんと喋ってたの。ね?」

ルナマリアに振られ、ケイは頷いて答えた。

「ああ、まあね。君は…インパルスの?」
「ああ、そうだ。あんた達は…あの時のジンの」

シンは急に思い出したように少し驚いてみせる。ラクスは微笑みながら敬礼をしていった。

「ミネルバに所属する事になりました、ナタリー・フェアレディです。宜しく御願いしますわ」
「ああ…こちらこそ。俺の名はシン・アスカ。宜しくな、ナタリーさん」

シンは敬礼を返す。ラクスはシンの言葉を聴いて、少し笑った後に言った。

「ナタリーでいいですわ。シンさん」
「そ、そうか。わかった」

シンはラクスの柔らかく、それでいて優しい雰囲気に少し見とれていたが、すぐに気を取り直して差し出された手を握る。
女性にしては少し大きいような気もしなくはないその手は、温かかった。

「ああ、そうだ…こっちはレイ・ザ・バレルって言って俺の同僚なんだ。な、レイ…ってどうしたんだよ?」
「レイ?」

と、シンがレイの事を紹介しようとした時、レイは何かに驚いたように眼を見開いてケイの事を見つめていた。
まるで、何か恐ろしいものを見たかのように、少し体も震えていたのだ。

「おい、レイ?どうかしたのか?」
「…あ…な、何だ?」
「何だじゃないわよぉ。どうしたの、一体?」

シンがもう一度肩に手を置きながら声をかけて、やっとレイははっとして返事をした。そんな様子にルナマリアは心配そうな表情で彼を見ていた。

「い、いや…何でもない。少し、知合いにそっくりだな、と思ったんだが、違った」
「そうなの?」
「そうだ。…レイ・ザ・バレルです。宜しく御願いします」

レイはケイとラクスに対して手をさし伸ばした。その表情はまだ何処かおぼつかない様子ではあったが、クールなものだった。

「うん、宜しく…ね」
「宜しく御願いしますわ!」

ケイとラクスは順々にその手を握った。その時、ケイは少しばかり力強く握られた感覚を覚えたが別段気にしはしなかった。

「おい、そろそろ始めるぞ!早く入れ!」

と、ここで先にブリーフィングルームにいたミネルバ副官アーサーが彼らに部屋に入るよう促す。
彼らは少し慌てて部屋に入り、各々の席に座り、会議の開始を待つ。そして、アーサーの言葉で会議は始まった。

「さて…貴公らも分かっている通り、現在ミネルバは強奪されたMSガイア、アビス、カオスを追って、ボギー1の追撃任務に入っている。
ボギー1はかなりの高速艦だ。そこで、我らはこれを補足と同時に背後より叩き、三機のMSを奪還、または撃滅する。
その奇襲隊をシン、ルナマリア、ショーン、そしてナタリーに任せる。レイとゲイルはこの艦の護衛だ。恐らく、あのMAも出てくるぞ。気合を入れろ」

アーサーの言葉に、MSパイロットたちは息を呑んだ。無理もない。今まで訓練生だった彼らが、いきなりの実戦。しかも一番失敗すれば死亡率が高い奇襲作戦。
彼らだけではなく、ラクス自身も手に汗を握っていた。

「奇襲、ですか。敵が待ち伏せしているという可能性は?」
「否定できない。しかし、こちらには時間もあまり残されてはいない以上、こちらから仕掛けるしかない。MS各隊は全力を持って速やかに敵戦力を排除する事。
それに、どこの部隊であれ、ここはプラントの領域。奴らも足を止めているほど暇ではないだろう。ならば、速攻をしかけ、奴らの足を止める。そうすれば、他の部隊も包囲網を作る事ができるしな。
慎重に行き過ぎて、敵を逃がしてしまうようではザフトは世界の笑いものだ」
「どちらにしろ、待ち伏せされてようがされていないであろうが叩いてみないと始まらない、か。だけど、それって危険すぎませんか?」
「まあ、そう言うな。そこで開発に関わっていたケイとマッド主任を呼んで、対策を練ろうということだ。では、お二人とも」
「はい」
「うい」

マッドとケイは席から立ち、コンソールの前に立ってスクリーンにデータを表示させる。スクリーンにはアビス、カオス、ガイアの細かいデータが載っていた。

「さて、まずカオスですが、我が軍が独自に開発した"ドラグーン"システムを簡易化した空間自律ポッドを装備しているのが特徴です。
これは、空間認識能力がなくとも使える代物ですが、その分動きは単調になりがちです。というのも、フォーメションを組ませて、そこから先はコンピュータの自己判断という形式をとっております」
「しかし、元々が空戦などの空間戦闘を得意としている機体ですので、宇宙空間での戦闘では一番手強いといえるでしょう。それに、インパルス同様オールラウンダーなので、弱点という弱点は火力不足くらい…」

スクリーンをレーザーポインタで色々と指しながら説明するケイとマッド。その様子を、レイは何か考えるように見ていた。
いや正確に言えばケイを何か憎しみをこめたような目つきで、だが。

「(あの男…間違いない。しかし、奴が何故ここにいるんだ?奴はラクス・クラインと共に姿を消したはず…いやしかし、そんな事はどうでもいい…)」

そう、この男、レイは何かケイと因縁を持つ男だった。いや、正確に言えばケイになる前、キラ・ヤマトだった時の彼とか。
そんな事は露知らず、ケイは説明を続けていた。

「ガイアは元々地上戦を想定した機体です。なので、宇宙空間での動きはもっとも鈍いと考えてよいでしょう。火力も弱く、これは…」
「(奴を消さなければいけない…ギルのために…ギルの目指す世界のために…!!)」

と、そこで何かに気がつき、席のほうへと視線を送る。それに気がつき、レイは顔を俯かせて視線をそらす。
ケイはレーザーポインタを置き、近くにおいていた本を片手にレイのほうへと歩いていく。
ばれたか?いや、それにしては本とは一体?と思ったその時、すでにケイはレイの後ろを通りすがり、そして。

「寝るなバカピンク!!」
「あたぁ!!」

…ラクスの頭に本が叩きつけられた。かなり分厚いものだったので、ラクスはその痛みで頭を抑えて机に伏せている。
ケイは呆れたようにため息を吐いた後、スクリーンの元へと戻っていった。

「…続けます」

結局、レイの視線はばれておらず、レイはため息を一つ吐いた。そんな彼の心情は表出ることなく、そのまま会議は進んでいった。
さて、この後ケイとマッドの解説も終わり、細かな決定事項を決めて会議は終了した。
ラクスらMSパイロット達が部屋から出て行く中、ケイとマッドとレイだけが残っていた。

「んじゃ、ケイ。ザクのビームライフルとインパルスの調整、それとジンの武装チェックしておけよ」
「はい」

先に仕度を済ませたマッドはケイにやるべき事を与えてその場を後にする。ケイはパソコンを閉じたり、書類を集めていたが、先ほどから座ったまま動かないレイを見つけ、声をかける。

「どうしたんだい?レイ君。皆行ってしまったけど…」
「…」

先ほどの態度とは打って変わって、レイは無口のまま何も反応を示さない。いや、俯いているその顔からは何か唯らぬものを感じ取れる。
ケイはそんな彼の表情を、書類の整理をしていたためにうかがうことができず、そのままの調子で喋り続ける。

「ルナマリアさんもシン君もレイ君も訓練生だからな、しっかり生き残れるよう、僕らがしっかり整備してあげなきゃね。じゃないと、折角の―」
「ふざけるな」
「え?」

レイの突然の言葉に、ケイは顔を上げてレイを見る。レイの瞳は、それを覗き込んだだけで凍てつきそうなほど、冷たい。
ケイは事態を把握できず、少し戸惑いながら言った。

「え、え?僕なんか気に食わない事言ったかな?参ったな…」
「そうじゃない…。いや、気に食わないさ、お前が」
「…どういうことだよ?」

レイの態度にさすがのケイも怒りを感じ始めたか、まとめていた書類を少し手荒く机に置き、睨みながら少しだけレイのほうへ歩み寄る。
レイも負けじと睨み返し、言った。

「俺の姿を見て、何にも感じないんだな」
「どこかでお会いしたかな?」
「"キラ・ヤマト"」
「!」

挑発に挑発を返してみたが、次にレイが発した言葉に、ケイは少しだけ反応を示した。突然だった。何故この青年が、その名を自分に言うのか?

「…図星か…誤魔化したところで何も変わらん。お前は感じないだろうが、俺はお前の存在を感じ取る事ができる」
「気持ち悪いな。…確かにアスハ代表にもキラ・ヤマトだとは言われたけど、僕はケイ・クーロンだ」
「ふざけるな!」

レイは先ほどの冷たい表情とは一転し、怒りを露にして机を叩き立ち上がる。
ここが防音加工を施された場所でよかった。しかも、監視カメラもないから会話を聞き取られる事もない。

「ふざけてなんかないさ。それに悪いけど、君は誰だ?僕の記憶の中には、君と同じ顔を持つ人間は…一人くらいか」
「その一人だとしたら、どうするかね?キラ・ヤマト…俺は、ラウ・ル・クルーゼだ…!」

一瞬、ほんの一瞬だったが、ケイの頭の中にヤキン・ドゥーエのときの記憶がはっきりとした光景として映し出された。
世界を滅ぼそうとした男、ラウ・ル・クルーゼ。自分が倒した男。
しかし、目の前にいる、クルーゼと名乗った青年は彼よりも若い。ともなれば答えは絞られる。
自分と同じ存在、クルーゼと同じく、呪われた子。クローン。
ケイは一度ため息を吐いた後、レイを睨んだまま言った。最大限、動揺しないよう気を強く持ったまま。

「だったらどうする?僕をこの場で殺して、また世界でも滅ぼすつもりかい?ラウ君。いやレイ君」
「…俺はそんな事は毛頭ない。ただ、お前には消えてもらう。これから生まれる、新世界のために。安心しろ、俺も直に行くからな。
人の夢、人の未来、その素晴らしき結果、キラ・ヤマト!お前のような存在はもういらないんだ!」

レイは銃を取り出し、ケイに向けて構える。丁寧にサブレッサーまで付けられていた。
ケイはもう一度ため息を吐き、両手を挙げる。しかし、強く言い返す。

「僕はケイ・クーロンだ」
「まだそんな口を開くか!」
「話は最後まで聞け」

この場に及んでまだケイと名乗る目の前の男にレイは激昂し、引金を引こうとしたが、次の瞬間、ケイの表情が硬く冷たく、そして狂気があるものに変わり、思わずためらってしまった。ケイは少しにやけながら、机の上に座って話し始めた。
この男は、こんな表情をする男だったか?レイは戸惑いながら、不思議とその話に耳を傾けてしまった。

「まず、君はアル・ダ・フラガのクローン、つまりラウ・ル・クルーゼと同じ、という事なんだね?」
「ああ、そうだ。お前という存在を作り出されるために作られた、出来損ないといわれた者の生き残りだよ」
「僕も同じさ」

ケイの言葉に、レイは更に戸惑いを隠せない。真顔で何を言うのだ、この男は。しかし、そんな彼に構わずケイは続けた。

「君は僕をキラ・ヤマトだと思っている。それ自体は全く間違っちゃいない。だけどね、僕は君と同じ存在さ。一人の人間のエゴによって生まれ、そのエゴの手伝いをさせられ、そして一度は世界を呪った、ラウ・ル・クルーゼとレイ・ザ・バレルと同じ、ね」
「何だと…!?」
「僕はキラ・ヤマトのクローンさ、レイ君。大きい声じゃ言えないけどね」

ケイは威圧はそのままに口をにやけさせる。その表情は何処か、狂気染みたものだった。そうまるで、ラウ・ル・クルーゼが世界を呪い、そして滅ぼそうとしていた時のように。

「キラ・ヤマトの、クローンだ、と?馬鹿な!」
「本当の事さ。自分でも認めたくはなかったけどね。今では、大きな試験管から出された時の記憶だって残ってて、思い出すたびに反吐が出る。
生み出した奴らをこの手で殺してやろうとも思ったこともあった」
「…」
「でもさ」

ケイの表情が一気に和らいだ。

「僕は僕じゃない?どんな生まれ方をしようとも、どんな運命が待っていたとしても、僕は僕だ。キラ・ヤマトじゃなく、「ケイ・クーロン」だ。 確かに、過去は消せないものだ。だから、ラウ・ル・クルーゼを殺した僕が君に恨まれるのは仕方ない事なんだろうけど、それはキラ・ヤマトではなくケイ・クーロンとして受ける。
君も、二度と自分がラウ・ル・クルーゼってほざくな。それはクルーゼに失礼だ。クルーゼはクルーゼ、レイはレイだ。
君の思いも願いも、そしてその僕を消したいという感情も全部君のものだ。誰でもない、レイ・ザ・バレルのものだ」
「…」
「レイ・ザ・バレルとして復讐するというなら、僕は受けてたつ。だけど、あくまでクルーゼというならば、僕はその憎しみを受けない。
理不尽だからね、死んだ人間の代弁者を語られるのは。死んだものの意思を受け継げられる奴なんていやしない。それは自分の意思だからね。
自分の意思は自分の言葉で伝えなければいけない。自分の意思は、自分の体でぶつけなければいけない」
「…お前は、どうしてそんなに笑っていられる。そんなに平然としていられる?何故、ラウのようにはならなかった?」
「…人を信じているからじゃないかな?少なくとも、一人だけでも。君だってそうなんだろ?」
「そう、だな。俺は議長を信じて、議長が作る世界を信じて生きている。お前は?」
「僕か?僕は…そうだね、あの熱血バカピンクが危なっかしくて、見てられないんだ。バカでさ、ドジでマヌケで泣き虫で。でも、何かをしようと一生懸命なんだ。
彼女だって酷い眼にあっているはずなのに、めげずにひねくれずに。そんなの見せられたら、自分が世界を呪っていた事なんてバカらしく思えてくる」

ケイはラクスの事を思い浮かべる。自分を助けてくれた、あの日の笑顔を。
彼女がいなければ、キラ・ヤマトを演じ続けていたか、ラウ・ル・クルーゼと名乗って、世界を滅亡させようとしていただろう。
何気ない言葉だったが、それはケイを救ったのだった。

「バカな奴なんだよ、あいつは」
「…ナタリー・フェアレディのことか?」
「うん。今じゃ、あいつに会えただけでも生まれて来てよかったと思う」
「…そうか…」
「さて、どうする?撃つの?撃たないの?撃たないんだったら僕仕事に戻りたいんだけど」

と、ケイは机から降り、再びレイと向かい合う。あまりに無防備だったが、レイは撃つ気にはなれなかった。
目の前にいる男も、業を背負って生まれた人間だ。自分と同じく、呪われた存在。
しかし、なんと清清しいことだろうか。

「完全に許したわけじゃない。俺はやっぱりお前を憎んでいる。だが、撃たない。今はお前には生きていてもらいたい。貴方や俺、ラウのような存在を二度と生み出さないためにも、俺たちは作るべきだ。二度とそのような存在が生まれない世界を、な
だが、もし貴方が議長の足かせになるようであるなら、俺はお前を殺す。ラウ・ル・クルーゼではなく、レイ・ザ・バレルとしてな」
「そうか。今のところは僕は邪魔する気はないから安心してよ。だけど、その時は受けて立とう。ケイ・クーロンとして」

ケイとレイはお互いの拳同士をこつんとぶつけた。そして、互いに軽い笑みを浮かべる。

「さあてと、そろそろおやっさん切れてるな。行かなきゃ」
「すまない」
「気にするな、僕は気にしていない」

そういいながら、書類を持ち、ケイは手を振ってその場から立ち去っていろうとしていた。と、その時レイは何かを思い出してケイに伝える。

「一つだけ忠告を与えよう」
「ん、何?」
「お前がケイ・クーロンとして生きていくなら、なおさら聞いておいたほうがいい」

レイは一つだけ間を置き、そして口を開く。

「貴方はシンの仇だ」
「…!」

レイの一言は、酷く冷たくて、そして確実にケイの心に突き刺さった。

『スクール時代にあいつから聞いたことがある。オーブ出身のあいつが、何故ザフトにわたったか。先の大戦で連合とオーブとの戦いの際、あいつの家族は流れ弾に巻き込まれて全員死んだそうだ。 それが、貴方が乗っていたフリーダムの攻撃だったんだ』
『そ、んな…そんな事って…』
「でもさ、こんな調整でいけるのか?もうちょっとFCSの調整をしておきたいんだけど」
『事実だ。あいつ自身がその眼で見て、その心に刻んだ事だからな。その復讐と、二度とそんな犠牲者を出さないためにも力が欲しいとあいつは言っていた。だからザフトに来た。
…まだ、お前がフリーダムのパイロットだという事は気がついていないが、それも時間の問題だろう。その時は、覚悟したほうがいい』
『はは…覚悟していた事だったのになぁ。そういう、シンのような存在がいるとはわかっていたのにさ。いざ聞かされると、震えが止まらないや』
「おい、聴いているのか?」
『…名を変えようとも、変えられないものだってある…ケイ・クーロン、お前はあいつに殺される覚悟は、出来ているのか?』
「おい!」
「あ…な、何?ごめん聞いてなかった」

突然、会議室だった風景にシンの声が混じり、そして彼の怒鳴り声でケイは現実に戻され、インパルスのハッチのところで作業をしていた自分に戻った。
あの後、レイに聞かされた事実の事で頭が一杯になっており、ケイは仕事の事もおろそかになっていた。
しかも、今現在しているのがシンの機体の調整なのだから、なおの事、レイの言葉を思い出してしまうのだろう。
そんな思いも露知らず、シンは呆れたようにコンソールを叩き始める。

「FCSの調整、まだ終わってないんだよ」
「そうか…いや、ごめん。何かぼぉっとしてた…。シン君、ちょっと頼みがあるんだけど」
「シンでいいぜ。で?」
「じゃあ、シン。一回引っ叩いてくれ。頬らへん」
「おいおい…」
「いいから」

ケイは真剣な眼差しでシンを見つめた。突飛もないことを言われ困惑するシンだったが、こうまで言われては仕方がないと思い、
コンソールをいじっていた右手を放し、ケイの頬向かって思いきり振り払った。
パアン!と威勢のいい音を格納庫中に響かせ、その場にいた全員の注目を浴びる中、頬を手のひらの形に赤くしたケイは首を回して気合を入れなおした。

「よし、起きた。さあ、FCSの微調整始めちゃおうか」

その異様な雰囲気にシンは少々引き気味だったが、彼も気を取り直し、FCSの調整をはじめた。
その作業をしている中で、少しだけケイは自己嫌悪に陥る。

「(これじゃあ駄目なんだよ、これじゃ。何ちょっとだけ満足してるんだ僕は。最低だよ、全く)」

少しだけこれで復讐された気分に陥っている自分が嫌になったようだ。それもそのはず、自分が催促して実行させているのだから、それは復讐とはいわない。
ただ、今までこういう人物がいることは分かっていたのにもかかわらず、いざ目の前にいる状況になると、怖くなる。
どう接すればいいのか、どう謝ればいいのか、自分は何が出来るのか。
そう考えると、ケイは頭の中が混乱しそうで、気を取り留めるだけで精一杯だった。
だが、その時。格納庫中に響きわたった声にケイははっとする。

「そもそも何故必要なのだ!そんなものが今更!」

レイとデュランダルに連れられ、アスランと共に格納庫へやってきていたカガリの怒りの叫びが響き渡る。
前の大戦で様々な友人や肉親を失ったカガリにとって、このように大きすぎる力を持つ事は危険で、間違っていると思っていたのだろう。
事実、今MSを奪われてしまった。そのために戦争が起こったとしても、過言ではない。
だが、その声は、何処か説得力にかけるものだった。政治家のとしての彼女の言葉は、ただ感情に任せている言葉でしかない。
それを感じているのか、はたまたは…。シンはコアスプレンダーのコクピット席で、俯きながら震えていた。
そんな彼の心情が分かるのは、目の前にいるケイだけだった。

「シン…」

そうか、レイが言っていた。そしてあれは、ウズミ=ナラ=アスハが引き起こした惨事とも言える。そして、それがアスハ家への恨みとなっても、無理はない。寧ろ当然なのかもしれない。

「我々は誓ったはずだ!もう悲劇は繰り返さない!互いに手を取って歩む道を選ぶと!」

その言葉を聴いた瞬間、シンは眼をこれでもかというくらいに開き、そしてコクピットから飛び出して叫んだ。

「さすが、綺麗事はアスハの御家芸だな!!!」
「シン!?」

先ほどのカガリの叫び声とは比べ物にならないほど、力とそして、憎しみをこめられた心からの叫び声。それは、整備士のヴィーノやルナマリアなどの周りのものを唖然とさせ、そして、ケイの心の中に響いた。

「(…きれいごと、か)」
「シン!!」

ケイがコアスプレンダーの前で愕然として考えている中、思わずレイがシンのところへと飛んでいく。
確かに魂の叫びには違いないが、これは明らかにアスハに対する暴言であって、外交問題になりかねない。だが、ここでシンに対し救いの手がさし伸ばされる。

『敵艦捕捉、距離8000、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ!』

敵艦が見つかった。この知らせが流れた瞬間、辺りの雰囲気が一気に変わる。

「来たぞ!最終チェック急げ!!ヴィーノ、何をぼやっとしている!ザクのチェックをしろ!!」
「うわ、やべ!!」

マッドの声が格納庫中に響き渡り、名指しされたヴィーノは急いでザクの調整に飛ぶ。

「ケイ!お前は嬢ちゃんの機体だ!!」
「了解!!シン、戦闘中はアスハの事は忘れなよ!」
「言われなくても…!レイ、そこにいると危ないぞ!」
「シン!!…くそっ!申し訳ございません、議長!この始末は後ほど必ず!!」

レイはシンを問い詰めようとしたが、その前にコアスプレンダーのハッチが閉まり、レイは仕方なくデュランダルとカガリに謝罪の言葉を代わりに言って、自機のところへと飛んでいく。デュランダルはすぐにカガリのほうへと向きなおし、頭を下げる。

「本当に申し訳ない…姫」
「え?」
「彼はオーブからの移住者なので、よもやあのような事を言うとは思いもしませんでしたので…」
「え…?」

オーブからの移住者が何故、自分に対し、こんな憎しみをこめた言葉を投げかける?
カガリは戸惑った。
そんな彼女を尻目に、戦闘準備は着々と進んでいく。ラクスのジンもまた、武装チェックに追われていた。

「アーモリーワンのときのマシンガンは腰に装着してあるけど、VPS装甲相手じゃ効果は薄い。対MS用大型ライフルもそうだ。
そこで今回はザクのビームライフルを装備させてもらってる。機体の出力に依存しない、エネルギーパック形式の優れものだ。
これなら」
「ねえケイさん」
「ん?なんだいナタリー?」

と、不意にラクスがケイに声をかける。その表情は何処か複雑そうだった。

「さきほどの、シンさんの言葉なんですけど…彼、相当オーブのことがお嫌いのようですわね」
「あ?ああ。そうみたいだね。ちょっと事情があるみたい」
「そう、ですか」

ラクスは更に鎮痛そうな表情を浮かべていた。そんな彼女の心情を読み取ってか、少し苦笑しながら肩を叩いてケイは励ます。

「あまり気にするなよ、ナタリー。僕らがでしゃばったところで解決できるような問題じゃなさそうだしね。今は、任務に集中したほうがいい。絶対に生き残ってきなよ」
「わかっていますわ。…でも、デブリ戦ですかぁ…あんまりいい思い出ないんですよね」
「二年前とは違うんだ、もっと自信持って!ビームライフルの予備パックは左腕の対ビームラウンドシールドの中に仕込んどいた。玉切れになったらすぐに補給しなよ。
ラウンドシールドもおまけ程度に考えてもらったほうがいい。あと、捕獲用ネットを仕込んだ特殊ミサイルも腰につけている。まあ、後はナタリー次第だよ」
「了解ですわ。では、行って参ります」
「ああ、気をつけて!」
『ナタリー・フェアレディ、ジン発進スタンバイ!』

ラクスはヘルメットのバイザーを閉め、息を吐きながらジンをカタパルトへと歩いていく。二、三度呼吸をして息を整えるたびにバイザーが白く曇る。

「ナタリー…貴方なら大丈夫、大丈夫…やれますわ…やれます…」

ラクスが呪文のように何度も何度も自分に言い聞かせている間にも、カタパルトを踏み、ジンは発進準備を整えられた。

「(でも)」

気がかりなのは。ケイとシンの事。ケイは何を隠している。多分、先ほどのカガリとシンの確執に関係するんだと思う。
ケイの過去は大体聞いたつもりだったが、分からない事はまだまだ多い。いや、分からない事のほうが大部分なんだ。
こういうとき、自分の無力さを呪いたくなる。自分は彼らではないのだから何も出来ない。そう、考えてしまう。

「(私って駄目ですわね…本当)」
『プラットホームのセットを完了。中央カタパルトオンライン。気密シャッターを閉鎖します。コアスプレイダー全システムオンライン』

人間なんだから当たり前じゃないか。何でもできる、私はケイを救える、シンを救える。そう考えるのはただの自惚れ者のいう事だ。
だけど、自分の意見をぶつけてみたい。彼ともっと話をしてみたい。彼女と話をしてみたい。
顔と顔を向き合って、眼と眼を向き合って。全部知りたいという望みは、ただの迷惑かもしれないけれど。
少し、少しだけでもいい。自分が彼らの救いになれるのであれば。
彼らを理解したい。憎しみも愛も全部。高望みなのは分かっているけれど。それが、どれだけ僭越なことだとしても。

『ジン、カタパルトエンゲージ』
「ナタリー・フェアレディ、ジン、参ります!!」

誰かの力になりたい。その思いを乗せて、ラクスはジンと共に、デブリの宇宙へと飛び出していった。

第四話 『世界が終わるまでは』に続く

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