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LOWE IF_592_第04話2

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:46:12

ミネルバに戻った彼らが眼にしたのは、ボロボロになった母艦の姿だった。進水式もまだだというのに、歴戦の艦、というには傷が深すぎた。
装甲は岩の衝突によってへこんでいるところがあるし、スラスターの一部も爆発してしまったのか、焼け焦げていて、使い物になりそうもない。
武装の一部も傷だらけになっていた。つい先ほどまで綺麗な状態だったのが嘘のようだ。
が、その事で嘆いているわけにもいかず、彼らはミネルバ付近に浮遊している岩を除去し、何とか航行可能にまで応急処置を済まし、宙域を離脱した。
現在は付近まで来ていた補給艦に、ミネルバが襲撃後そのまま搬入できずじまいだった本格的な装備や補給物資を貰い、ミネルバ本体の修理のためにザフト領域の地球衛星軌道上を漂っていた。
幸い、包囲網はできているらしく、強奪犯達も簡単には抜け出せないだろうから、その処置は委員会にゆだねられていた。
ミネルバクルー達にやっとのこと、つかの間ではあるが休息が訪れていた。

「ふぅ…ブラストの意味ないんじゃない?この動きじゃ…。今度からシンが出るときはフォースかソードがいいな。ルナも…ガナーはなぁ…ブレイズのほうがいいんじゃないかなぁこれ」
「…」
「いい加減機嫌治せよ、ハロ」

と、そんな中。ケイは一人部屋に戻って、貰った戦闘データの解析をしながら、ハロの調子を見ていた。
長い間ボストンバックの中で放置されたのがそんなに気に食わなかったのか、ハロの機嫌は最悪のようだ。話しかけても答えようとしない。
まるで感情があるかのようなそのロボットに少し興味を持ちつつも、そっとその機体を撫でてやる。

「ラクスだって忙しいんだからさぁ。もう少し我慢しろって。もうちょっと落ち着いて、そのへこんだ体治したら、彼女の元に戻してあげるよ」
「ハロハロ」
「うん、約束する」

突然のハロの声に、ケイは苦笑しつつ、戦闘データのほうへ眼を向ける。丁度、レイの場面になっていた。
ケイの表情を真剣なものに変えてその場面を見る。エグザスとの戦闘を見て、ケイはそのザクの姿にクルーゼが操っていたゲイツを投影する。
確かに、似ていた。が、しかしやはりクルーゼのほうが動きがいい。経験の差か、それともやはりクローンといえども癖の違いが出るのか。
そういえば、自分もオリジナルも癖は似ているものの、好みとしていた距離というのが違っていた。オリジナルは接近戦が得意だったらしいし、
対して自分は遠距離からの攻撃のほうが好みだったといえば好みだった。まあ、あのラクスにフリーダムを与えられたというのもあるかもしれないが。

「…ふぅん。まあ、そこそこってとこかな。総合的にはよくやれてるみたいだし…。まあ後は経験で何とかなるかな。…けど、実戦、か」

椅子にもたれながら、ケイはコーヒーを一口二口飲む。少し前まで平和だった。だが、それはもろくも崩れた。あのミネルバを襲ったダガーLを見ても、敵は恐らく連合だろう。
連合にはブルーコスモスという反コーディネイター組織が絡んでいるため、その過激派が何かを漬け込んで戦争をしたがっているという可能性も捨てきれない。色々と複雑なのだ、地球は。
ザフトという軍組織に入ったケイだったが、正直言って、いや誰もが思っているだろう。戦争などしたくはない。戦争など起こって欲しくない。
だがしかし、自分はただの一兵士だ。どう言える立場ではない。
だから、最善を尽くす。

「さってと…」

ケイはあるファイルを開く。そこにはアーモリーワンでラクスのジンが使用していた対MS用大型ライフルのデータや他にも怪しげな武装やMSのデータが映されていた。
所謂ブラックボックスと呼ばれている、いわばケイの趣味的なものも兼ねた企画書だった。

「あのライフル勿体無いなぁ〜。レイ辺りに使わせようっかなと。ああっとブラストも何か利用できないかなぁ。こう、ミネルバの艦砲にするとか?ケルベロスを砲か…いいじゃないか…。あ、でもプログラム追加するの僕か。めんどくせ。
あっと…インパルスの変形パターン増やせないかなぁ。スカイグラスパー形態とか。フォースシルエット使えば出来そうなんだけどなぁ。うーん…調達してもらうか、グラスパー…」

ビー

と、そんな所へケイの部屋のインターフォンがなった。画面を見てみると、どうやらレイのようだ。ケイは椅子から立ち上がって、ドアを開ける。

「突然すまない。暇か?」
「ああ〜…うん。まあ。ちょっと待ってもらえれば」
「分かった」

ケイはパソコンに戻り、先ほどのデータを纏めたものを携帯用のフラッシュメモリに保存し、それをポケットの中に入れる。そして、改めてレイの前に立った。

「で?」
「ちょっと来てもらいたい。会ってほしい人物がいるんだ」
「はあ。まあいいけど」

ケイは頭を掻き、欠伸をしながらレイの後を付いていく。そんなだらけたケイの反応には無関心なレイはどんどん進んでいく。
暫くミネルバの奥へと歩いてゆき、たどり着いたのは艦長室。ここは艦長であるタリアが使っている私室だ。ということは、タリアに自分を合わせたいというのか。首をかしげるケイを尻目にレイはブザーを鳴らす。

「議長、彼を連れてきました」
「議長!?」

レイの思わぬ言葉にケイは思わず甲高い声を上げてしまう。それを見たレイは口にしぃっとケイを黙らせる。

『レイか。うむ、入ってくれ』

中から聞き覚えのある、凛々しそうな男の声が聞こえてきた。テレビの演説で、何度か耳にした、あの声。
ケイは口元をピクピクと動かしながら、レイを睨む。

「はっ…。ケイ、今から議長と面談してもらう。議長はお前という存在に大変興味を惹かれている。ぜひ、一度会って話してほしい。それが、かならず議長やお前のためになるからな…」
「僕のためってね…。君さ、もうちょっと前置きっていうか、こう…時期を待つということができないの?」
「気にするな、俺は気にしない」
「気にしろよ!!…まあいいや。入ろうか」
「ああ…」

ケイは頭を抱えながら、レイと共に部屋に入る。そこには、やはりプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルその人がいた。
彼は座っていたソファーから立ち上がり、柔らかな笑顔を浮かべながらケイとレイに歩み寄る。そのケイの後ろのドアが閉まり、そこにレイが立つ。これで逃げられないか。デュランダルはケイの前に立つと、その左手をケイに差し出した。

「ケイ・クーロン君、いやキラ・ヤマト君だね?」

デュランダルの言葉に、ケイは眉を少しだけ跳ね上げながらも、その差し出された手を強く握る。少しばかりの宣戦布告だ。
ケイは正直言って、テレビで見ていたときにもあまりいい印象、というより腹黒い何かを感じてあまり好意的に取れない。油断できないこの雰囲気がいやだった。

「僕はケイ・クーロンです、議長。お会いできて光栄です」

ケイは笑わないまま、威圧するつもりで冷たい視線で言った。その表情に抑えることなく、デュランダルは手を離す。

「こちらこそ、君に会えて嬉しいよ。…まあ掛けてくれ」
「(…食えないおっさんだなぁ。やりにくい)どうも」

口が裂けても決して出せない事を心に思いつつ、デュランダルと向かい合う形でソファーに座る。艦長専用、ということか上等なようで、感触は柔らかかった。
ふと扉のほうを向きなおしてみる。レイがいつの間にかいなくなっていた。つまり、味方もいなければ敵もいない。
やれやれと思いつつ、ケイはため息を吐いた。それを知ってか知らずか、ふっと笑ってから話をはじめた。

「それにしても、レイから話を聞いたときは驚いたよ。君が、このミネルバの一整備兵をやっているとはね。てっきり、ラクス・クラインとどこかで隠遁生活を過ごしているものだと思っていた」
「あながち多分間違ってないでしょうね。僕も、プラントで好き勝手に過ごしているだけです。自分の好きな事をしている。それだけですよ。責任だとかなんだとか、あるんでしょうけど。今日はそれを問い詰めに来ましたか?」

にやっと笑いながら、あえて挑発的な態度をとるケイ。やれやれ、二年前に比べて大分ひねくれたものだと心の中で苦笑しながら。
しかし、対するデュランダルの表情はまだ柔らかい。どちらかといえば、困惑しているといったところか。

「いやいや、そんな事はない。寧ろ、私は感謝しているんだ。ラウ・ル・クルーゼはこの世界を呪い、そして絶望を覚えていた。私は、彼の友人だというのに彼の事をわかってやれなかった。誰も彼の事をわかってあげられなかったから、彼は手段を見誤った。
そしてパトリック・ザラもムルタ・アズラエルもね。もしあの後ジェネシスが発射されていれば、地球もプラントも、全て終焉を迎えていただろう。君は、いや君達は人類を救った英雄だ」
「英雄扱いなんてごめんですよ、僕は。結局利用されていただけなんだから。確かに、あの戦いは酷いもので、見ていられるものじゃない。だけど、冷静に考えれば僕達がやったことはただの思い上がりだ。上手くはいきましたけどね。それに僕はそんな器じゃあない」
「捻くれているな君は。まあ、その出生では仕方あるまいな…。…君から見て、クルーゼはどう思えたかね?」

デュランダルの顔が少しばかり暗くなる。なるほど、これが聞きたかったのか。ケイは猫背にして、ソファーの前にある机に手を合わせて乗せて言った。

「僕自身、否定は出来ませんでしたよ。その時は守りたい世界があったから彼を殺したに過ぎません。でも、時々考えます。彼の言った事は正しいってね。
欲望に汚れた世界の上に憎しみや悲しみなどの業を重ねてきた人間達。ナチュラルもコーディネイターも皆欲塗れだ。自分のほうが優れている。自分のほうが金持ちだ。だから力を持つべきだ。
僕もクルーゼも好きでこう生まれたくはなかったのに、そう生ませたのは人のエゴだ。憎しみを作り出したのは、一体誰だ?人ですよ。そう考えると、救えない存在ですよね、はは」
「…まるで世間話をするような感覚で言うね、君は」

ケイの乾いた笑い声と少しばかりの狂気に流石のデュランダルも何か得体の知れない恐怖を感じる。しかし、ケイの体からすぐにそれはなくなり、少しばかり人間らしい笑顔を見せる。

「でも、そんな腐った世界にも、いや腐っているからこそ何かいいところって言うのは見つかるんですよね。それに、世界を綺麗にする方法は滅ぼすだけじゃあない。何か、方法があるはずなんです。
まあ、僕は知りませんけどね。ただ、僕は一人の女性がいるから、死なせたくないし死にたくないだけです」
「…ナタリー・フェアレディかね?ジンのパイロットの…」
「ええ」
「彼女は何者なんだね?経歴を見せてもらったが、謎が多すぎる。それに…この顔は、ラクス・クラインそのものだ」
「あ、わかります?」

驚いたように眼を見開かせるケイだが、その口元は笑っていた。あんなに正体が暴かれる事を危惧していたのにもかかわらず、全くその素振を今は見せていない。そんな彼の反応にデュランダルは驚いた様子で彼を見ていた。

「まさか…本人かね?」
「まあ今はナタリーという事にして置いてあげてください。彼女は今を一生懸命生きているんですから、その邪魔をしないであげてくださいよ。もしその邪魔をするというなら、殺しますよ」

ケイは笑みを消し、デュランダルを睨みつける。その瞳からは濁りきった狂気と凄まじいまでの純粋な想いが混ざり合い、何か、不安定さを見せていた。
決して混ざり合う事のない二つが混ざり合っている。しかしそれは、一つのバランスが崩れれば崩壊するのだろう。アンバランスな存在、それが今のケイ・クーロンなのだろうか。

「はっきり言うね、君も。まあこちらとしても君もラク…いやナタリー君もプラントのために働いてくれている。どうしてこれの邪魔をしようか。私は、その支援をしよう。但し、君達がもしプラントの害となるならば、その時は…わかっているね?」
「僕は兎も角、彼女がそんな事をするとは思えませんけど。まあいいや、お互い、あまり深いところまで干渉しないようにしましょう。それが、お互いの身のためでしょうし」
「どういうことかね?」
「僕という存在というのを利用されないための保険を、僕が持っているという事です。まあ色々と黒〜い噂、聞いてますから。貴方の、いや…この部屋の持ち主のね」
「…」
「貴方と艦長さん。いい関係だったみたいですねぇ。まるで、恋び」
「キラ君」
「僕はケイです」

先ほどの雰囲気をなくし、デュランダルは静かに、だがまるで逆鱗に触れたように、ケイを怒りを含んだ瞳で睨みつける。対するケイはそれを真っ向か受けるように挑発的な笑みを口元に浮かばせていた。
ケイの指摘通り、デュランダルとミネルバ艦長タリア・グラヴィスは肉体的関係を持っていた。しかし、二人の間に子供が生まれなかった関係もあり、彼らは別れてしまった。
コーディネイターは、その同じ民主間では出生率が低く、それは世代を追う毎に低くなっていく。その悲劇が、二人を裂いたのだ。
しかし、更に不幸なのは、その噂がどこからか流れていて、タリアが色仕掛けでこの立場を貰ったという風に言われているのだ。
別にそんな事がないのだが、ケイがこの事実を広めればタリアの立場は危ういだろう。因みに、ケイ自身は別にこれを知っていたわけではなく、タリアとデュランダルが仲が良い関係だという噂と、
そういう噂から、少しばかり釜にかけてみたのだ。そしたら出てきてしまった。自分の勘の出ところの悪さに少しケイは心の中で苦笑してみる。

「何が望みかね、ケイ君」
「今言ったでしょうに。つまり、お互い必要になった時になるまでは秘密を明かさない事。まあそれと、そこの冷蔵庫に入っているであろうお酒を一個拝借したいことですかね。それ以上は望みません。ああ、そうそう。こちらからの口止め料ということで、
何だったらこのデータでも使ってください。あなたは強いMSが好きなようですから。ただ、あんまり核とか使わないでくださいね、危ないから」

ケイはポケットから携帯用メモリをデュランダルに投げ渡す。それをデュランダルは受け取り、そしてため息をつく。

「…ふぅ…まあいい、これはありがたくいただく。それにしても、正直、君がそこまで腹黒いとは思わなかったよ、ケイ君。戦時中のキラ・ヤマトの人物像から想像してね」
「僕も、貴方の奥底の黒い部分にびっくりしてますよ」

お互い腹の探りあいを終えたところで、二人は笑みを浮かべて握手をした。だが、二人とも眼が笑っていない。
お互いがお互いを危険人物だと認識し合い、そして牽制しあっている。握り合っている手も、何処か力が入っているようだ。

「…ところで、君のことは姫やアスラン君は知っているのかね?そしていい加減手を放したまえ」
「いいえ、教えるわけないでしょう?教えたら彼らや僕らがクラインの過激派に消される可能性だってあるのに。怖くて話せやしません。ていうかそっちが放せよ」

お互いの手をより強く握り、お互いの表情が痛みで歪みつつも笑いながら会話を進める。

「そういえば、僕の事、カガリは気づいているようですけど。アスラン、何か言ってましたか?(痛いな、畜生。このおっさん意外と力あるな)」
「いいや、何も?姫は気がついていたのか(これがスーパーコーディネイターというものか、しかぁし!)そんな素振は見せてなかったけどな、ふん!!」
「ぎゃ!!あだだだだだだ!!すいません、調子乗りすぎました!!」

意地になってデュランダルに対抗していたケイだったが、更に意地になったデュランダルが命一杯力をこめてケイの手を握ったため、その痛みに負けて、悲鳴を上げながら手を振り回した。
それに満足したか、デュランダルは得意げに笑いながらソファーに再び座る。対してケイは悔しそうな表情で涙ぐみながらソファーに座る。

「ふふん、大人を嘗めないでくれたまえ。…しかしだな、色々と味方は増やしておいたほうが良いのだぞ?特に、姫は直情で正義感溢れる人だ。君の事を知れば、なんらかの援助をしてくれるはずだし、
アスラン君は君の親友だろう。…そういえば、アスラン君は君やナタリー見て気がつかなかったのかね?」
「あーいたた…ええ、まあそうですけど。僕個人としては、ケイ・クーロンとしていきたいわけで、あんまりそういうのに頼りたくないんですよ。それにカガリは頭悪いし、アスランだって優柔不断だからどっちに付くか分からないし。
それ以上にもし議長がアスランだったとして、偽者だけど賢くて、一見すると聡明で綺麗なピンクと、傷だらけでバカで単純でアホでやかましいくらいの熱血なピンクとどっちを選びます?」
「難しい質問だな。私だったら前者の恐ろしさを知っているから、後者を選ぶが」

デュランダルは少しだけ悩んだ後、敢えて自身の視点の意見を述べてみる。確かに綺麗なラクスは魅力的だろうが、それは表面的なことだ。クローンを平気に生み出し、自分のこまとして働かせている彼女の真意が読めないのだから、読みやすいほうを選ぶべきだろう。
それに対し、軽くデュランダルを指差しながらケイは言った。

「僕でも後者を選びます。好きですしね、やかましいの。でも、何も知らないアスランだったらどうでしょ?」
「う〜む。まあ前者を選びたい気持ちがあるだろうな。人というのは、より良きものを選びたがるのが性だ。だからナチュラルはコーディネイターを生んだ」
「まあ、アスランが気がつかないのはそういうことですよ。ある程度おろかのほうが可愛げがあるはずなんですけどね。デコは以前のラクスについて、人が変わったけど、彼女も大人になったのだろうと言ってましたし。
つまり、彼女がバカピンクから黒ピンクに進化したと錯覚をしているわけです。許婚の癖に」

微笑しながらため息を吐くケイ。デュランダルは少し呆れた表情で言った。

「君は本当に遠慮のない男だな。まあ確かに、昔のラクス・クラインはテレビで見ていてもあまり頭のいいと言えない発言をしていたが、それでも真っ直ぐだっただろう。それに、彼女は父親の行いに対し、反対したと聞くしな」
「え、そうなんですか?」
「ああ、噂だが。彼女の父、シーゲルがニュートロン・ジャマーの投下指示を出したのは知っているか?」
「ええ、まあ。知ったのは最近ですけど」
「エイプリルフール・クライシスを起こしたのは彼だ。その時も彼は生粋のナチュラル嫌いの一人だったからな。だが、娘であるラクス・クラインはその所業に反対し、一時は家出もしていたくらいだ。
その後、血のバレンタインなどを経て、彼は自分の行いを悔い、ナチュラルとの融和を図った。まあ、彼なりの贖罪、といったところか」
「(家出、ね。あのバカピンクの事だからなぁ)だけど、彼は殺された」
「そう、しかも自分の娘…いやその偽者の所業によってな。彼女はそれを知っているんだね?」
「ええ、少し後悔しているようでしたが。まあ、でも結果的に戦争が終わったので、許せないけれど、それ以上は何も言わないと」
「そうか…私としては止めてもらいたかったんだがな…。しかし、彼女を含めた三隻同盟がジェネシスを破壊したなどのお陰で、前回は上手くいってしまった。
誰にも何も言えることはない。今のまま隠居し続けるのであればの話だが…。全ては遅すぎた」
「まあ、今は未来の事を考えましょうよ。僕だって、まだ解決していない問題がありすぎて、困っているんだから」
「そうだな。今はお互い目の前の事を片付けるとしよう。奪われた三機のMSも追わねばならないからな。君達の事は姫には内密にしておこう。暫くは、君達が自由にやってくれたまえ」
「ありがとうございます、議長」

ケイは議長に不敵な笑みを浮かべながら敬礼し、ちゃっかり酒を貰ってその場を後にした。

そんな会談があった中、シン・アスカは一人ミネルバのトレーニングルームに向かっていた。待機任務中ではあるが、やることを全て済ませた後だったので何もする事がなく、気分転換にトレーニングでもしようと思っていた。
ゆったりとした足取りでトレーニングルームへと歩いていく。

「あ…」
「あら?」

と、目的地にたどり着いて中に入ると、そこには桃色の髪を持つ少女ナタリーことラクスがサイクリングマシンに乗っていた。
さわやかな汗を掻いていて、汗臭いはずなのに何処か青春らしさというか、爽やかな空気が流れている、気がする。

「シンさんもトレーニングですか?」

ラクスは汗をハンドルにかけていたタオルで拭きながらシンのほうを向いて言う。シンはランニングマシンのほうへ歩きながら答えた。

「ああ、うん。まあ…そんなところかな。あんたもトレーニングか?」
「私の場合は日課ですから」
「そう、なのか?お嬢様だと思ったから、こういうことしないと思った」

言葉使いやその雰囲気から、シンはラクスがどこぞのプラントの議員の娘、もしくは有力者の娘だと思っていたが、どうやら先入観だったらしい(あながち間違えではないが)。
今のラクスからは土臭さというか、何か親近感のようなものが沸いてきた。

「まあ、一応貴族の娘なんですの、私。といっても、もうすでに没落していますが…」
「そうだったのか…ごめん」
「いえいえ、お気になさらず」

ラクスは眉毛を八の字にしながらシンに言う。その表情は、何処からどう見ても普通の少女だ。

「…でもさ、よく軍に入れたな。俺だって、士官学校入るの結構苦労したんだぜ?」
「いや、まあその…色々ありまして。大きな声で言えませんけど…正式な手順踏んでないんです…」
「はあ!?」

ラクスの思わぬ言葉にシンは声を張り上げてしまう。それをラクスは慌てて人差し指を唇に添えて静止させる。

「…どういうことだよ?」
「いや、まあ…実はレジスタンスを経て、色々と前大戦のごたごたを利用して入ったんですよね…。まあ、だから…そのレジスタンスの人達を助けたかったんです」
「すごい人生だな…一角のお嬢様からレジスタンスメンバー、そして軍人か。ということは、あのケイって奴も同じなのか?」
「え?」
「すげぇ仲良さそうだしさ。長い付き合いなのかなって」
「彼とは軍のほうで知り合いましたの。2年の付き合いですわ。大切なお友達です」
「大切なお友達、ね」

まあそうなんだろうな、とシンは苦笑しながら納得してみる。その様子に気がついたか、きょとんとした表情でラクスは彼を見つめていた。

「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ」
「はあ…あ、そういえばシンさんはどうして軍に入ったのですか?やっぱり、軍人に憧れてですか?」
「ん?ああ…」

「そうだな、あんただけつらい過去を思い出させちゃって、俺が話さないなんて不公平だよな」
「いや、そんな」
「気にするなって。…俺、本当はオーブで生まれてオーブで育ったんだ。至って普通の、普通の家族の中に。贅沢な生活じゃなかったけど、妹もいたし、俺幸せだったんだ。
だけど、ある日、それはズタズタに壊された。オーブは連合に攻められた」
「…二年前の」
「そう。連合の侵略にオーブは、人々の避難もままならない状態で抗戦した。その結果があれだ。俺の家族も、避難の最中、俺と妹の携帯を残して…」
「シンさん…」
「…俺は憎んだ。あの時、俺達を虫けらのように吹き飛ばしたあのMSを。白い悪魔を…そして、理念を謳っておいて、勝手に戦争をおっぱじめて勝手に死んだアスハをな」

シンの静かではあるが確かに赤い瞳の奥に持っている憤怒と憎悪にラクスは言葉を失う。
それもそのはずだ。彼女は知っている。そのMS、フリーダムの事を。そして、その搭乗者が、キラ・ヤマトことケイ・クーロンだという事を。だから、あの時様子が変だったのだ。
ケイにとって、あの頃は何もかも必死だったのだろう。『生まれて』間もない彼にとって、『ラクス』は絶対的な存在だっただろうし、彼女から渡されたフリーダムで何もかもが守れると思っていた。
本当に、人がいるなんて思ってもいなかったのだろう。事実、彼が話したことだ。
彼はその時の事を後悔していた。あんなに地面に向かって発砲して、人が残っていたらとどうしていたんだと。
そして、それは現実となってしまった。彼は、多分知っているのだろう。だから、あんなよそよそしかったのだ。あの時。出撃前の時。
ラクスは、その事を思うと何か心の中が張り裂けそうになった。だが、自分にできる事など少ない。これはシンとケイの問題なのだから。
他人が口出しできるほど、簡単な問題ではない。しかし、ラクスは言いたかった。言葉では分からないが、少しずつ、だが確実に憎しみに囚われつつある彼に対して。

「俺は…守れなかった。父さんを、母さんを、そしてマユを…!俺は守るための力が欲しい!俺が守りたいものを守れるだけの力を!!」
「…そして、ザフトに入ったのですね。ご苦労を重ねてきたのでしょう…。あの、シンさん。憎しみを持つ事自体、本当に悪い事じゃないと思うんです。それが道理ですし…。私が同じ立場だったら、そうしています。
でも、憎しみに囚われないでください。憎しみだけに囚われると、守りたいものも傷つけてしまいます…。何もかも、見えなくなってしまいます。
守りたいものを守る。その想いを大切にしてくださいね」
「…」
「あ…も、申し訳ございません!私ったら、何を過ぎた事を…本当にす、すいません!ああ、バカですわ私…」

ラクスはシンが自分の言葉が癪に触れたのだと想い、必死に謝罪の言葉を投げかける。その光景は何処かこっけいだ。
事実、シンは少しばかり、自分の何がわかるんだとイラついていたが、この光景を見て、そんな考えはばかばかしいと思い、ふっと笑った。

「あんた、純粋に俺の事心配してくれてんだな。ありがとな。少し、気が楽になった」
「は、え、いや…その。あはは…」

先ほどの焦燥はどこへやら。今度は顔を真っ赤にしてラクスは苦笑した。それに釣られ、シンも少し苦笑する。

「あんたって、あの時もそうだけど、一生懸命なんだな、いっつも。どうやったらそこまで一途になれんだ?」
「う〜ん…まあ色々と若輩ですから、私は。体力もナチュラルのそれと変わりませんでしたし、多分そこからなんだと思います」
「なるほどな」

なにやら納得したかのように頷くシン。ラクスの体はアイドル時代のそれとは違い、少しばかりがっちりしている。コーディネイターは鍛えずとも基礎能力はナチュラルのそれを凌駕しているものが多いのだが、
彼女の場合はそういう作りにされなかったようだ。事実、シーゲルはラクスのコーディネイトをする際、政治に利用できるようなことしかしなかった。そんな体を見たシンはランニングマシンの設定を行い、走り出す。

「んじゃ、俺もあんたに負けないくらい努力しなきゃな。そうじゃなきゃ、守れる力なんて持つ事なんかできやしないからさ。それに、赤服の面子もあるし」
「うふふ。では、年長者として私もがんばらないといけませんね!」

ラクスも気合を入れなおし、サイクリングマシンのペダルをふみ、早くこぎ始めた。ただ、気合の空回りですぐに息切れし、酸欠状態になりかけてシンに笑われていたが。
…彼女らは知らない。こんな微笑ましい日常の中で、おぞましい憎悪が動き出していようとは。
そして、それが世界を巻き込む混乱のトリガーとなってしまうとは。
彼女らは知らない。

ユニウス・セブン

かつて、ここには喜びがあった
かつて、ここには希望があった。
かつて、ここで悲劇があった。
そして、今は怒りしか残っていない。

廃棄された農業用プラント・ユニウスセブン。かつてここには多くの人々が住み、プラントに支給される食物が作られていた。
ここは、プラントの人々にとって独立を象徴する場所であり、そして生命線であった。
しかし、地球連合軍の核攻撃により、多くの人は核の炎で焼き払われ、そしてユニウスセブンはその機能を失った。後に言う『血のバレンタイン』である。
これが切欠で連合とプラントとの対立は激化し、地球全体を巻き込んだ大戦が始まった。もっとも、コペルニクスの悲劇など、それ以前からナチュラルとコーディネイター間にはごたごたがあったわけだが、
その場所で、前大戦の停戦条約、ユニウス条約が結ばれた。悲劇が二度とおこなぬよう、ナチュラルとコーディネイターが共に歩める道を模索できるよう。
だが、それを望まぬ者たちが多くいるのもまた、事実なのだ。

「愛する同志、そして家族よ。俺は、戻ってきたぞ…!そしてもうすぐだ、もうすぐ終わる…!」

現在は無人となっているユニウス・セブンの大地に立つジン・ハイマニューバ2型のパイロットであるサトーは、手に持っていたペンダントを掲げ、その嘆きを思い出す。
彼もまた、あの悲劇で家族を失ったものの一人で、そして、ナチュラルを憎む者だった。
彼はザフトの緑服軍人だった。血のバレンタイン以前からのMSパイロットで、世界樹攻防戦にも参加していた。
彼はナチュラルと戦う事を生き甲斐にし、そして何よりナチュラルを殲滅する事がコーディネイターにとってより良き未来を生むものと考えていた。彼は、ザラ派の中でも特に過激派の分類に入っていた。
もっとも、始めはそういう考えではなかった。だが、血のバレンタインが、悲劇が、憎悪が彼を変えた。

『サトー隊長』

と、彼の元に通信が入る。仲間からだった。彼の元には彼と同じ境遇であったり、同じザラ過激派だった者達が集っていた。
しかし、今の男は違う。ザフト時代からの付き合いで、サトーの部下だった男だった。彼には思想も何もなかったが、慕っていたサトーが行動を起こすと聞いて、同行したのだった。

「隊長はやめろ。俺はもうお前の隊長ではない」
『いえ、どんな状況になろうと、サトー隊長は俺達の隊長です。…フレアモーターのほう、もうすぐ作業が終わります。行動、そろそろ始まりますよ』
「そうか…わかった」

サトーはふっと笑いながら通信に答える。通信の向こうで、男は少し俯きながらサトーに問いかける。

『隊長』
「何だ?」
『本当に、よかったんですか?これ、娘さんと奥さんの墓標…っていうと聞こえがいいですが。でもそういうもんでしょう?それを落とすって』
「はは、確かにそうだな。…だが、これを落とす事によって、あの悲劇を起こしたナチュラル共に思い知らせる事ができると同時に、コーディネイター達の眼も覚まさせることができる。
この欺瞞に満ちた、偽りの平和から、本当の歩むべき道を歩むための、な。お前も無理して付き合わないでいいんだぞ?これは俺やあいつらの問題だからな」
『いえ、俺は隊長の部下です。部下は最後まで上司に付き従うのが道理です。テロリストになろうとも、俺はお付き合いさせていただきます。この命、尽き果てるまで』
「…ふっ、ありがとうよ」

感謝の言葉を男に投げかけ、サトーは通信を切る。そして、深く背中を椅子に預け、ため息を一つ吐いて眼をつぶった。
今でも思い出せる。あの時、ユニウスセブンが閃光に包まれた時。家族が死を知り、その復讐を誓った時。
だが、わかっている。これがばかげた事だということは。彼自身が良く分かっていた。
もしこれが地球に落とされれば、それは全人類の滅亡に繋がる。ナチュラルだけではない。宇宙に住むコーディネイターだって、農業用プラントがない現在は地球から送られてくる食料に頼るするしかない。食べるものを作る場所が減れば、それは食えなくなるのと同じだ。
そうすれば、自然とプラント内で暴動が起こり、餓死者が増え、そして自然と死ぬ。農業用プラントを作るといっても、それを形にするまで何年掛かるか。どちらにしろ、人は取り返しの付かないところまで行くのは確かだ。
わかっていた。だから、試す。

「(もし、お前達が本当にあの悲劇を起こしたナチュラルと共に歩みたいのであれば、俺達を止めてみろ。だが、俺はナチュラルを滅ぼす。それが俺の意志だ)」
『フレアモーター設置完了。残り一分程度で目標フレアレベルへ到達します』
「そうか。では、全員30秒の黙祷をせよ。…黙祷!」

ユニウスセブンに再び、静けさが漂う。サトーらテロリスト達はそれぞれの作業を中止し、胸に右手を当て、祈りをささげた。この、墓標に眠る愛した者達に対し。
あるものは家族に対し。あるものは愛する恋人に対し。あるものは友情を誓った友に対し。
そして、30秒という短くも長く感じた時は過ぎ、ついにそのときを迎える。

『…フレアレベルS3、到達まで予測30秒』
「よし、全フレアモーター準備いいな!」
『オールグリーンです。…カウントダウン開始します。10…9…』
「(さあ、はじめよう。俺達の復讐を。そして、世界よ、動き出せ!)」
『3…2…粒子到達、フレアモーター作動。ユニウスセブン、動き出しました』
「アラン、クリスティン、これでようやく俺も、お前達も…。さあ行け!我等の墓標よ!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を、今度こそ正すのだ!!」

サトーらは敬礼し、サトー達の意志と共に真っ直ぐ、地球落下軌道を進むユニウスセブンを見送っていった。
願わくば、我らが祈願を達成されるよう、そう願うように。

「世界が終わるまでは、俺達はきっと恨み続けるんだろう。だから終わらせる、俺は!」

第5話に続く

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