Top > LOWE IF_592_第05話3
HTML convert time to 0.008 sec.


LOWE IF_592_第05話3

Last-modified: 2011-07-21 (木) 20:19:19

ブリッジにいるオペレーター・メイリンの言葉を聴いて、ケイは唖然とする。そしてすぐに内線を切ると、すぐさま半壊したゲイツRの許へ向かった。
そして、無人となったコクピットの中に入ろうとするが、それをヴィーノとマッドに止められた。

「放せ!放してくれ!僕は、僕は行かなきゃ!」
「何馬鹿なこと考えてるんすか!!今から行っても間に合いやしませんって!」
「ナタリーが死んじゃうだろうが!!僕が助けに行かなきゃ駄目なんだよ!放せ、はなせぇぇぇ!!」
「馬鹿野郎!!操縦桿も握れない奴が、助けに行けるわけないだろうが!!!」

涙を浮かべ、叫び散らしながらマッドとヴィーノを振り払おうとしたケイを、マッドは自分のほうを向かせ、そして彼を殴った。
それを受けて、ケイは呆然とし、悔しさで涙を浮かべ、そして歯を食いしばった。
このままでは、ラクスの生存率は限りなくゼロに近い。なのに、助けに行く事ができない。そのもどかしさが、余計彼を絶望の淵に追いやる。

「…チクショウ…ナタリー…」
「後は、嬢ちゃん達の運に任せよう。な」

マッドの言葉に、ただケイは泣くしかなかった。

再びユニウスセブン。二刀流となったサトーのハイマニューバはまずジンの重艦刀を抑え、そのままいなし、続けざまにインパルスに向けて、二刀で切りかかる。インパルスはシールドでそれを防ぐものの、勢いそのままに吹き飛ばされる。
ラクスは再びジンに切りかからせるが、刀で重艦刀を弾かれ、隙が出来た瞬間に左腕を落とされる。だが、それでもなお戦おうとする。

「我が息子のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!!」
『…!?息子…?』
『何を…!まさか』
『…!』

突然のテロリスト・サトーからの通信に、全員が息を呑む。サトーはインパルスに対し切りかかる。一撃目は盾に防がれたが、二撃目は左足に当たった。

「ぐっ!何て強さだよ、こいつ!…足に異常!?」

シンが再び踏み込もうとしたが、インパルスのダメージ報告で左脚部にエラーが発生と赤くアラームが鳴る。先ほどの攻撃が、脚部のフレームにダメージを与えたらしい。

『此処で無惨に散った命の嘆き忘れ、討った者等と何故偽りの世界で笑うか!何故、何故そんなに笑っていられる!?』

サトーの叫びが全MSのコクピット中に響き渡る。その言葉を聴いて、全員がはっとする。この男の悲しみ、怒り、憎しみが全て伝わってくる。だが、ラクスにはわかった。
泣いている。彼は泣いている。彼の声の強さが先ほどの叫びと全く違う。

「俺は、俺は何時まで憎み続ければいいのだ!?何故そんなに早く許す事ができる!?あの悲劇から、あの悲しみから何も、何も変わってないじゃないか!!
憎しみだけでは何も変わらないのはわかっている、だが!また連合は戦争を望もうとしているではないか!!奴らも誰も何も変わろうとしないから、俺が変えてやるんじゃないか!!
パトリック・ザラが、あの男が目指した世界になぁぁぁぁぁ!!!」
『…は…あ…』

サトーが涙を振り払いながら刀を振るう。それを抑えながら、その言葉を聞いたラクスはわなわなと震えていた。アスランも、父の名を聞いて呆然としてしまう。
自分の父が行った事、そして目指した世界。それはナチュラルを滅ぼし、その上で作り出す世界。憎しみに囚われ、果てはジェネシスという大量殺人兵器まで使い、
前大戦では全滅戦争の一歩前まで歩ませようとしてしまったものの一人。そんな彼の遺志を受け継ぎ、今もなお、ナチュラルを滅ぼそうとしている。
そんな彼に対し、右手一本でラクスは切りかかる。ジンとジンの鍔迫り合いとなる。

「あなたは…貴方って言う人は…地球にも、地球にも多くのコーディネイターが住んでいるのですよ!?こんなもの落としたら、それこそ、全てを滅ぼしてしまいますわ!!」
『ああ、知っている』
「ならばどうして!?」
『さっきも言っただろう!もはや俺には憎しみしか残っていない。だから、殺して、そして終わらせるのさ、俺の憎しみを!俺の命と共に!!』

片手では分が悪く、ラクスのジンは押し込まれ、ついに膝をつくが、それでもラクスは諦めず、鍔迫り合う。シンも突撃するが、もう片方の刀で腕を押さえ込まれてしまう。

そんな状況の中、ラクスは叫ぶ。サトーの言葉が許せないわけではない。だが、言わなければいけない。そう思ったから。

「そういうの、無責任っていうんです!!それに愛がありませんわ!憎しみだけで、愛は何処へ行ってしまったのですか!?憎しみを持つ事自体はわるくありませんけど、それでも!憎しみに囚われて、人間が持つ素晴らしいものを忘れて!!」
『煩い!愛だと!?ふざけるなぁ!愛などで世界は変えられぬ!!愛という甘い言葉で惑わして、最終的にははき捨てるだけではないか!憎しみも、全て!それを馬鹿正直に馬鹿みたいに叫びおって!』

ラクスの言葉に、サトーは怒りを露にする。憎しみに生きる彼にとって、愛という言葉などただの幻想でしかないのだろう。だが、それでもラクスは叫び続ける。

「煩いお馬鹿!!そうやって一つの事に固執してしまえば他の事を見ないですむなんて思っているんでしょうが!!それに家族の墓標を落とすなんて!酷いですよ!折角、折角安らかに眠っていたのに!怖がってますわ!絶対!」

サトーは、彼女の叫びを聞いて少し違和感を感じる。どこかで聞いたことのあるような声。何故か、それを聞いたとき、息子との会話を思い出した。何気ない、あの会話。
しかし、今は戦闘中。サトーは紛わすように叫び散らした。

『馬鹿に馬鹿と呼ばれたくないわ!小娘がわかったように喋りおって!貴様に何がわかるというのだ!敵と悠々と笑い、挙句は騙されて、同じように痛みを受けている者がぁぁ!!』
「じゃあ何度でも言います、馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿バァァァァァカ!分かった口利いているのはそちらのほうでしょうがぁぁぁ!」
『語彙が少ない!頭が悪いぞこの小娘がぁぁぁぁ!』

もはや売り言葉に買い言葉状態だったが、ハイマニューバは事態を打開するべく、インパルスを一度引き離し、ジンを立たせるように重艦刀を弾き、そして殴り吹き飛ばす。ラクスは吹き飛ばされた拍子に頭を打ち、そのまま気を失ってしまった。
が、その隙に作業を終えたアスランがメテオブレイカーを起動させ、そしてついにユニウスセブンを割ることに成功した。小さくなったほうの破片は大気圏突入による摩擦で燃え尽きるだろう。

「作業が終わった!早く離脱するぞ!」
「ちっ熱くなりすぎたか…だが、まだだ!!」

それを見たサトーは舌打ちをし、そのまま構えを取って、インパルスに切りかかった。その殺気に押されつつも、やけくそになったシンはペダルを強く踏み込み、
ハイマニューバに対し体当たりをする。突然の事に反応できず、そのままインパルスと共に吹き飛んでいく。

『あんたがやっている事ぜってぇ間違ってるよ!俺も頭悪いしさ、俺だって家族を殺されてる。だけど、それで人類全部殺すなんて間違ってるよ!関係ない奴まで殺すなんて、やっぱりおかしいよ!』
「若造!…どいつもこいつも!!ならば止めてみせよ!新しい時代を、俺に見せてみろ!!」
「うああああ!!」

一旦ハイマニューバはインパルスから離れ、そしてインパルスに切りかかる。インパルスは下がりながら避け、そして一瞬の隙をついてサーベルを振り下ろす。
だがその必殺の間合いも、サトーは最低限の動きのみで避け、逆に隙を作ったのはインパルスだ。サトーは好機と、腰を切りかかる。が、それを防いだのはアスランのザクだ。
ザクが体当たりをし、サトーに隙を作る。嗚咽をはきながらも、サトーはジンを操作し、刀でザクの左足を切り裂く。バランスを崩したザクが膝をつく。

『シン、今だぁぁぁぁ!!』
「うおおおお!!」
「ぐ、ヒヨッコ共がぁぁぁ!!」

身をかがめながら上から切りかかろうとするインパルス。それを、旋回しながら、遠心力を使って切りかかるハイマニューバ。刹那、ハイマニューバの二刀を潜りぬけ、
そしてインパルスは交差際に脇腹を切りつけた。地面が崩れた所為で深く斬りつけることはできなかったものの、それでも十分な一撃だ。
機体の異常を告げる警告アラームを見たサトーは眼を瞑り微笑む。負けた。だが、戦士の本懐は遂げられた。それに、強き戦士に出会えた。

「…ふ、やるな、若造」
『若造じゃない、シンだ!』
「シン。俺の名はサトーだ」

腹部を切られたことでわき腹から電流が発生している。また、コクピット内でも小爆発が起こり、メインモニターのガラスが彼の右脇腹に突き刺さっていた。
だが、彼の表情は晴れ渡っていた。痛みなど感じていない。ただ感じるのは少しばかりの希望と大きな充足感。

「この男の勝負、俺の負けだ。だが、これは落ちる。どうする、お前はどうする?これが落ちれば戦争が始まるだろうな。そんな状況にお前はどうする?」
「…!…最善を尽くすさ。俺は俺みたいな奴を増やさないようにする!それだけだ!!」
「ふっ…若いな。だが、何時かはわかるさ。そして、俺のように一度なるだろう。憎しみを受け、憎しみに実を焼かれる。だから、行け何処までも。さあ、そろそろ行かないとこの落下に巻き込まれるぞ」

サトーは微笑み、そして挑戦的な言葉をシンに投げかける。その言葉を受け、シンは苦悶の表情を浮かべながらも、意志をこめた瞳をサトーに見せる。
それに満足したサトーは機体の踵を返し、そしていまだ気絶しているラクスのジンに向かって歩き始めた。そして、その機体を担ぐと、どこかへと向かう。
その行動に驚いたシンはサトーを呼び止める。

「おい!?」
『安心しろ、食ってとらんさ。どっちみち、こいつのこの損傷じゃ大気圏突入には耐えられん。他に手がある。お前らは…自力で生き残ってみせろ。…新しい時代、地獄で見ているぞ…!』
「おい!!わっ!!」

サトーの真意がわからず、インパルスで追おうとしたが、割れた隕石がその間に直撃し、二つにわかれてしまった。そして、姿が見えなくなってしまった。
シンはサトーに通信を入れてみるが、破片などでノイズが酷く、繋がらない。シンはラクスの名を叫ぶ。

「ナタリー!!」
『シン!今は彼を信じよう!俺達は俺達で降りるしか…くそ、耐えられるか!?』
「くそ…!」

そんな彼を、アスランが宥める。彼の言うとおり、早く離脱しなければ、落下に巻き込まれてしまうし、それに他の破片が彼らのいる場所に衝突しようとしていた。
落下するユニウスセブンから離れ、そして二機は大気圏突入の体勢をとる。と、それと同時に、赤色の光が彼らの足場だった場所を貫いた。
見覚えのある光、ミネルバのタンホイザーだった。

『あ、あぶねぇ…もう少し遅れてたら俺達死んでた…』
「ミネルバか…無茶をしてくれる」

だが正しい判断だ。この一発で何とかまた破片が小さくなり、燃え尽きてくれた。少しずつだが被害は小さくなっている。サトー達が消えていったところもいまだ健在だ。

そのサトーだが、外にラクスのジンを残し、補給基地だった場所へと入っていた。他のテロリスト達は全員死亡し、今ここにいるのは彼だけとなっている。そんな場所に、一つ、大気圏突入用のポッドがあった。

「もしもの時に備えていてよかった。まさか、使うとは思ってもいなかったがな」

サトーはそれを見て笑みを浮かべ、そして担ぎ運び、そして外に出すとラクスのジンをそこへ放り込む。温度が上がり続ける。早くしなければいけない。彼女が気絶している以上、助けられるのはサトーだけだ。
何故サトーがこうまでしているのか。それは、馬鹿馬鹿しくも彼女の言葉に強い力を感じ、新時代も悪くないと思ったからだ。ナチュラルは憎い。それは変わらないし、これが落ちることは切に願っている。
だが、彼女だけには生き残って欲しい。ああ、そうだ。憎しみに生きた自分とは反対の、愛だけに生きる彼女にもう少し、世界を見て欲しい。
運が悪ければ死ぬだろうが、良ければ生き残る。サトーはそれに賭けた。

「持っていけ。愛の戦士。憎しみに生きた男からのプレゼントだ」

サトーは自身のジンに装備していた刀をポッドに放り込み、そしてポッドを起動させ、ユニウスセブンの亀裂から落とす。無事、落ちてくれるようだ。
それを見届けた彼は、ジンをユニウスセブンの大地に座らせる。周りが赤く染まり、機体からも温度上昇による過度熱で、赤いアラームが鳴り響く。が、サトーは気にしない。
サトーは懐のペンダントとポケットのタバコを取り出し、それを見つめながら一服する。最後の晩餐、というには味気ないものだが。だが、美味かった。
そこで思い出した。ああ、そうだ。あの違和感は…。サトーはふっと笑いながらため息をつく。

「ふぅ…アラン、クリスティン…。そういや、俺に禁煙しろとか言ってたな。お父さん口臭いとか。ははは…。懐かしいな。アラン…俺、お前の好きな人にあったぞ。アイドルで馬鹿で、全然変わってなかったな。
俺の事を理解しようとしていたが、理解できなかったんだろうな。いいさ、それでいい。クリスティン…お前の料理、もう一度食いたかったな」

もう一服する。ジンの右腕が爆散するが、サトーは気にしない。

「…もう一度、お前達に会いたかったよ。だが、それは叶わぬか。俺は…たくさんの人間を殺したからな。…だが、後悔していない。俺が望んだ事だからな。後は、地獄にでも落ちてやるさ。アラン、クリスティン…来世では、幸せに暮らせよ」

ついにコクピット内で小爆発が起こるがサトーは気にしない。その時が来るのを待つ。そして。

「じゃあな。俺の憎しみ。さらばだ、ラ」

サトーは最後の呟きも最中に、爆炎に包まれ、そして落下するユニウスセブンと共に死んでいった。
自身の憎しみと共に消えた彼が残したものは何だったのだろうか。彼のメッセージとは、一体。
変わろうとしないのだから変える。彼はそう言った。確かに、この後時代は変わった。いや、戻ってしまった。
ナチュラルとコーディネイターとの戦争が始まる。そう、時代は、先の大戦にまで戻ってしまったのだ。
時代が動き出した。だが、彼らはまだ、知らない。何も知らないのだ。

何とか大気圏突入を成功させたインパルスとザクだったが、ザクのほうはサトーに切り離された左足の付け根を筆頭に突入の際の摩擦熱で多大な損傷を受け、ブースターを使う事ができなかった。
このままでは自由落下のまま海に叩きつけられるか、それとも最悪地面に叩きつけられるだろう。どちらにしろ、死ぬには変わりないのだが。
アスランは何とかして事態を打開しようとするが、為すすべなくそのまま地面に向かっていく。と、その時、シンからの通信が入る。

『アスランさん!』
「シン、君か!」

雲の向こう側にトリコロールの機体。インパルスが同じように落ちている。インパルスはブースターを使ってアスランのザクの方へと向かっていく。

「待っててください、今!」
『よせ!いくらインパルスのスラスターでも二機分の落下エネルギーは…!』

ザクを掴もうとするインパルスをやめさせようとしたが、その前に掴まれ、その衝撃で少し嗚咽をはく。

「…どうして貴方は、そんなことばかり言うんですか』

シンは呆れた様子を浮かべながらアスランに話しかける。そんなシンに対し、困ったように微笑みながら言った。

『じゃあ何を言えばいいんだ?』
「俺を助けろこの野郎とか」
『ふ…その方がいいのか?』
「…いえ、ただの例えです。それに、そんな事よりも、ナタリーは…!?」
『彼女か…。レーダーにも…いや、反応があるぞ!上だ、シン!』
「あ!?」

アスランに言われ、シンが上を向くと、そこには大気圏突入ポッドが落下し、彼らの横を通過したと思えば、パラシュートが複数開き、ゆらりゆらりと彼らの近くを漂った。
通信越しに、アスランとシンは目を合わせる。そして、閃いたと言わんばかりに、頷き、そしてインパルスはザクを連れて、そのポッドに向かって飛んでいくと、外郭にしがみ付く。
その作業は慎重かつスピーディだったのでパラシュートに問題は無く、また元々四機のMSを積み込めるように出来ているものだ。落下スピードは少し速まっただけで問題ない。ひとまず安心だった。

「はぁ…おおい、バカピンク生きているかぁ?」
『う、うう…ん…わたしわぁばかじゃありますぇん…』
「駄目だこりゃ…完全に気絶してるよ…。全く、肝がでかいって言うか…無神経っていうか」
『あんまり彼女の事、悪く言うな。彼女はよくやったじゃないか。こうやって生きているのも奇跡だな』
「冗談ですよ。…あのサトーとかいう人…本当に助けたのか…。そんな人が何で、何であんなものを落とそうと…」

理解できない、という表情をシンは浮かべていた。確かに、何故敵を助けたのか。同じ、コーディネイターだからなのか?それとも、ただの気まぐれなのか。
それを聞いたアスランは少し眼を瞑り、そして考えを纏めた後言った。

『…もしかしたら、まだ迷いがあったのかもしれないな。だからこそ、俺達を逃がしてくれた。正直、あのまま戦っていたら、俺達も危うかったな…。
しかし、パトリック・ザラの目指した世界、か…。まさか、ザラ派の亡霊が、今になって…』
「アスランさん…」

アスランの表情が曇る。彼の父、パトリック・ザラがしでかした事をまだ受け継ごうとするもの達が多くいる。ようやく平和になって、幸せに暮らせる世界が出来たと思ったのに。
だが、それは本当にそうだったのだろうか?目先だけの事だったのではないだろうか。こうやって、コーディネイターの中で戦争を望むものがいるとすれば、ナチュラルの中でもいるのではないか。
わからない。わからないが、故に。進むしかないのか。

『…俺、何にも言えなかったな。あの人に』
「…」

沈痛な表情で苦笑するアスランにシンは何も言葉をかけられない。いや、今声をかけるのは野暮というものなのだろう。と、そんな彼の許に、通信が入ってきた。

『…パ…きこえ…こち…ミネルバ…応答願い…』
「ミネルバ!?こちらインパルス、応答願います!!」

その聞き覚えのある声に、シンははっとして答える。雲が途切れたその先に、ミネルバがいた。シンは顔に喜びの表情を浮かべ、インパルスの手を振って、合図を送る。
それを確認したミネルバは歓喜の声で溢れ返り、そして指示が送られる。

「よくもまああんな脱出ポッドみつけてきたわね…。マリク、艦を彼らの許へ。海に落としたら、色々と面倒よ。インパルスへ伝達。
任務ご苦労。最後にこの艦へ見事着艦されたし」
「了解です」
「ブリッジからデッキへ。三機MSが格納される。準備して」
『了解です。おい野郎共…うお!?』
『そこにジン、ジンはいますか!?』

と、錯乱したような様子でケイがマッドを突き飛ばす形でブリッジへの通信に割ってはいる。その様子に少し驚きつつ、呆れた表情でタリアは言った。

『メイリン!』
『あ、あ、はい!えっと…はい、インパルスからの通信。ナタリー・フェアレディ機も損傷を受けつつも無事だそうです!今、着艦しました』
「本当ですか!?本当に!?」
『はい!』
「よ、よかったぁ…」

タリアの言葉を受けて、メイリンが慌てて確認を取り、ケイに伝える。その言葉を受けて、安心して力が抜けてしまったのかその場に座り込んでしまった。
が、それと同時にマッドの拳骨が飛び、ケイは慌てて外へと向かう。そんな様子を見て、タリアは苦笑してしまう。

「元気ねぇ。ま、気持ちはわからなくもないけど」
「でもこれからどうするんです?テロリストとはいえ、コーディネイターがしでかした事ですよ?ナチュラルからどんないちゃもん付けられるか…」
「わかんないわよ。でもまあ今は」

開かれるハッチ。中には気絶しているラクスの姿。が、日差しが顔に当たり、ラクスは眩しそうに目をしぼめながら、ゆっくりと開く。
すると、そこにはケイの心配そうな表情を浮かべている。ラクスは疲れた表情ながら微笑みかける。

「…ケイさん…」
「ナタリー…!無茶してさ…!このバカピンク!!」
「私…あのテロリストと戦っていて…それで…あ…」

立ち上がろうとしたとき、何かが落ちる。それは、ケイがラクスに預けた宝くじの券だった。ラクスはそれを拾い上げ、そして見つめる。

「…ケイさん」
「何だよ」
「番号、何か見ました?」
「…一等は2067―16」

ラクスの言葉を少し不審そうに聞いていたケイは、突入前に知らせがあったその宝くじ当選番号をラクスに知らせる。それを聞いて、ラクスは微笑んだ。

「ふふ、残念でした。大外れですわ。…もしかしたら、この宝くじが…私を守ってくれたのかも…しれませんわね…」
「そうか。良かった、お守り代わりになってくれて」
「…暖かい…この温かみ、忘れて…は…」

ケイはラクスを優しく抱きしめ、その温かみを感じる。ラクスも、ケイの温かみを感じつつ、疲れからか、段々と眠気が襲ってきて、ラクスはそのまま眠りについた。
憎しみも悲しみも、全て受け止められたらいいのだけれど、あの人の憎しみは受け止められなかった。この温かみを、彼は忘れてしまったのだろうか。全ては、遅かったのかもしれない。
だけど、今安心して、この温かみを感じられる自分がここにいる。それは身勝手な事なのだろうか。違う、違うと思う。
この温かみを感じられる人は、この温かみを誰かに分けなければいけない。
この世界は混乱に包まれる。近いうちに。そう、彼は予言した。それを元に戻せるのは、人の温かみだけなのだから。

そんな事を彼女が考えていた時から暫くして。無人島に作られていた、ザフトの秘密基地…といえば聞こえがいいが、どちらかというと、廃棄された基地。
所々にMSの残骸が転がり、前大戦の傷跡が生々しく残っている。そんな場所だったが、基地としての機能は最低限のものだけだが生きているらしく、薄暗い明かりがジャングルの奥でついていた。
その中で、ザフトの緑服の男、ヨップ・フォン・アラフォスは同志たちを集い、この場所に集まっていた。彼らもまた、ザラ派の一味だった。

「…上も思い切ったことをしてくれる。地下がなければこちらもやられたところだ。まあいい。これでナチュラル共にも思い知らせられる」
「しかし、問題はこちらだ。どうするのだ、あの件は…」
「うむ…」

円卓の左隣に座っている男の言葉にヨップは言葉を濁す。それに連動するかのように、周りも黙り込んでしまった。と、そのとき。部屋の通路奥から悲鳴が聞こえてきた。
ヨップ達は立ち上がり、各々銃を持つ。と、それと同時に扉の向こうから声が聞こえてきた。

『殺してはいません。少しお話がしたい』

若い青年の声。それを聞いたヨップ達は騒然とするが、ヨップは扉から離れつつ、相手を威圧するかのような声を出し、男に答える。

「貴様、何者だ?何故ここに来た」
『名前などありません…全てを奪われた男ですから。ん〜…まあ差し詰め奪還者ブラックK7とでも名乗っておきましょう。ヨップさん?』
「(俺の名を知っている…!?)ふざけた名前だな」
『ははは、それはどうも』

ヨップの挑発に、扉の向こうの男はまるで堪えない。不気味に笑いながら、話を進めていく。

『そちらは探し物をしているようですが…。そのお手伝いをしようかなと思いましてね、ええ。そうなんです』
「…悪いが、探し物などない。そうそうと立ち去ってもらおうか。今なら、君を殺さずに済む」
『おや、優しいんですね。ラクス・クラインを殺そうとしている男が、何と生ぬるい』
「!」

男の言葉を聴いて、ヨップは素早く扉に近づき、銃を構えながら開く。すると、目の前には、黒いツナギに黒いズボンをまとった声の若さから想像できていた姿と、想像できなかったほどの淀んだ瞳。
ドブ川のよどみではないのだ。そんなレベルではない。まるで、毒沼のようで、ある種の美しさをそこから感じられる。
ヨップはその男が左手に掴んでいるものを見る。そこには泡を吹いて気絶している自分の部下がいた。そんな視線に気がついたのか、一度その男を見て、青年は左手を放す。
情けない嗚咽をはきながら落ちた自分の部下の様子に、青年の実力を予想してしまい、圧倒されながらも、敢えて強い態度で打って出る。

「何処でそのことを知った奪還者」
「さあ、何処でしょう?まあそれはどうでもいいのです。問題は、そのラクス・クラインの居・場・所。どうやら苦戦しているようじゃないですか」
「…隠し事は無駄か。その通りだ、奪還者。どうやら情報に精通しているようだが、ラクス・クラインの居場所でも知っているのかな?」
「いえ、存じてません」
「貴様、ふざけて」
「待て!」

ブラックk7の言葉に苛立ちを覚えた同志の一人が掴みかかろうとしたのを、ヨップが制止する。一方のブラックk7は、その腕に何か仕込んでいたのか、それを素早く取り出しては素早く取り込んでいた。
この男はいろんな意味で普通ではない。そう直感したヨップは彼を刺激しないようにする。

「ではどうするのだ?」
「まあある程度検討がついているんですよ。それの確証が手に入れば大丈夫なんです。それに僕はオーブにすんなり入る事ができる。オーブの人間ですのでね…そこで、貴方達の代わりに僕がラクス・クラインを探し、貴方達が殺す。
悪い話ではないでしょう?因みに報酬は別にいりませんよ。ただ、少しばかりMSを格納できるスペースさえくれれば、ね」
「…貴様、何を考えている?」
「単純に殺して欲しいだけです。ちょっとした仇討ちなんですけど、僕には実力がなければ、金もない。その点貴方達は行動できるし最新型MSも持っている。そうでしょう?」

ケラケラと笑うブラックk7。その笑みには狂気などない。憎しみという感情が、喜怒哀楽全ての感情を表現している。純粋だ。
それがいっそ、ヨップ達に狂気を感じさせていた。狂っている。そう、ヨップは考えていた。だが、嘘は言っていないだろう。

「よかろう。但し、監視を一人つける。報告もそいつを介して…いいな?もし裏切るようであれば…」
「いいでしょう。お互い、うまくいくといいですねぇ。では、僕は自分のMSを持ってきますので」

そう言って、ブラックk7は笑みを浮かべたままその場を去っていった。ヨップは冷や汗を垂らし、疲れたように肩を垂らした。

「…あの男、正常ではないな」
「いいのですか、ヨップ殿。あのような男を信用して…!クライン派のスパイかもしれませぬ」
「いいのだ。あいつは多分、大丈夫だ。あの憎しみは本物だからな…。ただ危険には間違いない…」

『あいつの調査が終わったら、殺してしまおう』
「よく言うね。ま、殺されるようなヘマはしないけどね。ふふふ…どちらかといえば殺されちゃうんじゃない?」

ブラックk7は外に出た後も、ヨップらの会話を盗聴していた。ヨップの企みに対し、彼は嘲笑を浮かべる。
彼が暫く歩くと、そこにはジャングルの闇に隠れていた黒いMSがあった。その顔は、まさしくストライクのものだった。
そこでブラックk7は通信を開き、誰かと喋り始めた。

『私だ。どうだ、上手く行きそうか?』

声の向こうは、少し高めの、しかしある程度落ち着きのある男の声。

「おかげさまで。しかし貴方も酔狂な人だ。僕の手伝いなんかしなくてもいいのに」
『ふっ…私はお人好しなのでね。それに、こちらはこちらでやるべき事がある。そのついでだ。オーブの偽ビザは作っておいた。いつでも入れるぞ』
「ありがとう。助かりますよ」
『…ではまたな。健闘を祈る』

男は通信を切り、ブラックk7も少し間を空けた後、コクピット席に背も垂れる。

「これで手駒は増えたか。ま、どうせ咬ませ犬にもならないだろうけど…。お手並み拝見といかせて貰おうかな。二人目君。キラ・ヤマトを名乗っているんだからねぇ。僕をガッカリさせないでくれよ?
ふふふ、楽しみだなぁ。ゾクゾクするよ」

不気味に笑うブラックk7。そう、彼こそオリジナルのキラ・ヤマトその人だったのだ。

時代は進む。誰が望もうとも望まなくとも。そして今、全てが始まろうとしている。

第六話 So sad に続く

【前】 【戻る】 【次】