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LOWE IF_592_第07話1

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:50:59

地球連合、強化人間研究所第二隔離室
男は眠っていた。男は目を開いたまま、眠っていた。瞳の輝きをなくして眠っていた。
それに苛立った老人は苛立っていた。背の高い若者も困惑していた。

『調整は終わらないのか?』
『…はい。どうやら強い精神閉口状態に陥っているようで。全て拒絶しています。…全てを心の殻の中に閉じ込めてしまっています。
栄養物質投与などで肉体の状態は維持できますが…如何せん、精神状態はというと…』
『催眠効果は?洗脳はどうしたのだ?』
『それが…全て効果なし。先ほども言いましたが…拒絶しています。相当強い殻なのでしょう』
『くそ!!こいつには莫大な金が掛かっているんだぞ!?それを無駄にしろと!?』
『しかし…7号が目覚める目処は全くつきません。…このまま破棄というのも…』
『ならん!それだけは…!』
『館長、大西洋連邦本部より電話が入っています!』
『何、こんな時に!?…くっ…繋げろ!…私です。はい…。はい…。何ですって!?そ、それは…本当ですか!?はい。はい。
キ、キラ・ヤマトとアスラン・ザラによって…』

男の右手が動いた。若者は気づいた。そして近づいた。
男は掴んだ。若者の首を掴んだ。そして、潰した。

『はい…はい…。わかりました…。ただし、研究は続行、ということですね?わかりました。
青き清浄なる世界のために。では失礼します。聞いたかね?キラ・ヤマトのクローンが存在しているらしいぞ。これは、どういう…事…だろ…ね?』
『はい、聞きましたよ。そして、さようなら。愛しき愛しき館長さん。今までどうもありがとう。僕をこんな素敵な体にしてくれて』

男の瞳に、穢れが生まれた。とても綺麗な穢れが生まれた。老人は見た。そして死んだ。

『さあてと。何で僕が英雄になってるのか。キラ・ヤマトの代理人ねぇ…。それに、アスラン…。何をノウノウとトールを殺しておいて仲良しこよししちゃってるんだか。
まあいいや。代理人もアスランも、それを用意した奴も全員始末してやろうっと。そんでもって、こんな世界ともおさらばだ』

男は動き出した。全てに決着をつけるために。

第7話 Firewars

「(そう、僕は決着をつけるために)」

夜も最中。ブラックk7は月の光を浴びながら、ある場所へと来ていた。
夕暮れの時、発見した己のクローンとラクス・クラインが住む孤児院。それを見渡せる丘の上に、彼は寝転んでいた。
彼が自分のクローンに気がついたのは研究所にいた時。自分を改造した研究所の所長から聞き出した。
キラ・ヤマトが研究所にいるのにも関わらず、そのキラ・ヤマトとアスラン・ザラがヤキン・ドゥーエでラウ・ル・クルーゼを倒し、
ジェネシスを止め、世界を救ったというではないか。
そして、キラは調べ上げた。そしてクローンを助け、そしてフリーダムを与えたのはラクス・クラインと言う事を突き止める。
あの天然馬鹿姫が。と目を疑ったキラだったが、それもまた演技だと言う風に考え、彼女が自分のクローンを作ったのだと。
それならば辻褄が合う。そして、彼はクローン、アスラン、そしてラクスの三人を殺す事を決意したのだった。

「でもま、あのおっさんには世話になったし。少しくらい華持たせるのもいいか」

ふと、彼は気まぐれを起こし、胸ポケットから通信機を取り出す。そして操作して周波数を合わせ、通信を始めた。

『暗証番号と合言葉を言え』
「そんな肩苦しい事言うなよなヨッピー。僕だよ、ブラックk7だよ」
『!!!』

決まり文句が通信機の向こうから聞こえてきたところを、ブラックk7は不敵に笑いながら、皮肉を込めた言葉を投げ返す。
それを聞いた通信機の向こうの人物ヨップは驚いた様子でいた。ブラックk7は満足そうにいった。

「いやぁねぇ。僕さ、面倒くさがりやでさ。人を介して報告するの飽きちゃったんだよね。だ・か・ら、奪い取っちゃったよ。
奪還者らしくね。ああ、そうそう。僕を処分したかったなら、本物の宇宙人か地底人でも連れてくるんだね」
『き、貴様!』
「やだなぁ、大願を果たそうとしている人がそんなにイライラしちゃあ。一応、ラクス・クラインの居場所は突き止めといたよ。今から送信する。
それと証拠も一応ね。ああ、そうそう。何かボディガードっぽいのも二人ほどいるから、注意したほうがいいよ」

ヨップの怒声にも気に掛けず、ブラックk7は楽しそうにタッチパネルを操作し、孤児院の座標位置、屋敷やラクスやキラがそこに入ろうとしている写真を送る。さらには動画まで。
それと同時に、慰霊碑の時にこっそりとくっ付けた盗聴器の記録も送った。

『…くぅっ…た、確かに本当のようだな。これだけの資料を送られれば、信用するしかあるまい』
「そうそう、素直が一番だよ。ああ、僕の機体に触んないでくださいね、後で取りに行きますから。下手に触れると、基地ごとどかん!ですよ」
『…ブラックk7…ラクス・クラインが死んだあかつきには、お前を今度は始末してやる…首を洗って待っていろよ!』
「いやだなぁ。もっと憎しみを込めて、ブラックk・7!って呼んでください。ではではおやすみなさい、ヨッピー」

一見ふざけた口調、というより本人としても最大限にふざけた口調でヨップを挑発しながら、一方的にブラックk7は通信を切り、そして通信機を握りつぶした。
軽く火花が散るが、金属の体となった右腕では全く痛みを感じない。

「さあってと。ヨッピーに殺されるくらいなら、僕自身が手を下すまでもない…。そんな価値もない。だからみせてもらうよ、実力をさ」

ブラックk7は体を起こし、適当に近場にあった岩場に上って、月を眺めた。満月まで後3日。後は時を待つだけだった。
運命の日まで、あと三晩。

そして最初の朝を迎えた。雲ひとつのない、快晴の朝。清清しい光が差し込む。
オーブのアスハ邸の窓辺で、アスランは一人高級そうな長机にノートパソコンを置いて、一人作業をしていた。そんな所へ、カガリが慌てた様子で駆け寄ってくる。そんな彼女を見たアスランは少し苦笑しながら、彼女の方を向く。

「アスラン!昨日はすまなかった、連絡できなくって…。あ、今日も朝から行政府で閣議があるから、ゆっくり話してはいられないが…あの」
「いいよ…わかっている、気にするな」

慌てて謝罪しようとするカガリの様子を見て、アスランは苦笑しながら答えた。

「それよりも、オーブ行政府のほうはどうなんだ…?」

アスランは話題を切り替える。というよりも、これが本題だったわけだが。カガリは俯いて窓の方へと歩きながら、それに答えた。

「…大西洋連邦との新たな同盟締結の話が上がっている。ホムラらが私に賛同しているけど、締結は免れないだろうな…。
確かにオーブも被害を被ったんだ、皆の言う気持ちはわかる。この痛みを分かち合おうとする情勢の動きも仕方がない。だけどそれは、報復を叫ぶ人たちと一緒になって、プラントを憎むって事じゃないはずなのに…」
「…カガリ」
「ん?」
「俺を…プラントに行かせてくれないか?」
「え…?」

突然のアスランの言葉に、カガリは呆然としたまま、彼を見つめる。アスランは瞼を閉じ、少し間を置いた後、
立ち上がり、彼女の許へと歩み寄って言った。

「プラント側の情勢が気になる。デュランダル議長ならよもや最悪の道を選ぶことはないだろうけど…
それでもああやって…未だに父の言葉に踊らされている人間がいる以上、俺が、俺でも何かできることがあれば、やりたいんだ。
オーブのアレックスとしても、アスラン・ザラとしても…」
「お前…」

カガリはアスランを止めようとしたが、窓の外から朝日が差し込む光が彼を照らし、それが彼の瞳の決意の光を、一層強くしていた。
その瞳の輝きを見たとき、もはや自分に言える言葉はない。とめる理由などない、そうカガリは感じた。そして、微笑んだ後答えた。

「…そうか、わかった。そこまで言うなら、私には何もいえないな。シャトルは手配しておくよ。だけどアスラン。あんまり思いつめるなよ?お前何時も無茶ばかりするから」
「…ああ、わかっているさ。カガリも、体を壊すなよ?」
「ふふ、私を誰だと想っている?」
「はは、そうだな」

お互い笑顔を見せる二人だったが、カガリは心のうちのどこかで、言い難い寂しさに駆られていたのは言うまでもなく、まや少しばかりの不安もあった。
カガリにとって、アスランは心の支えだった。数少ない、自分の理解者として、愛しき人として。その人と離れ離れになってしまう事は、少なくとも孤独を感じると言う事。
父親を失い、唯でさえ大人、政治家たちの中で孤独を感じる事が多い彼女にとって、心の支えがなくなることは怖かった。
しかし、彼を止めることなど出来ない。彼の決意は固いのだから。だから、自分も頑張らなければならない。彼に負けないように。

「…じゃあ、そろそろ行かなきゃ。シャトルは今日中…そうだな、夕方には手配できるようにする」
「ああ、本当に忙しいときにすまない。夕方には行けるよう準備するよ」
「うん…じゃあ、私は行かなきゃ」

カガリは無理に笑顔を作り、その場を後にした。アスランもその後姿を見送っていった。
外に出て、少しだけ涙を浮かべていたカガリだったが、顔を左右に思い切り振って涙を払い、気を取り直して用意されていた車に乗り込む。
車は行政府のほうに向かっていく。その中で、カガリは携帯電話で空港と連絡を取り、シャトルの手配を済ませた。

さて、更に数時間経って。

「美味いな」
「うん、美味しい」
「美味い美味い」
「美味しい!」
「うめぇ」
「うまうま」
「の、飲み物…」

一方オーブ、オノゴロ島の港に停泊中のミネルバの休憩室。オーブの名物の一つ、煎餅をラクスが買って来ていたので、
話の種とケイやルナマリア、果てはレイやアーサー、ゲイルなど。いろんな人物が集まって、その煎餅をほお張っていた。味は上々、まあ時々唐辛子煎餅なるものがあるわけだが、それをラクスが食べては悶絶していた。
ある種のシュールな光景である。しかし、明日にはオーブを出立するし、MS各機やミネルバのチェックなどがあるため離れる事ができない。
なので、昼休みの暇つぶしとしては、まあ充実しているといえばしているのだろう。

「はいお茶」
「ああ、どうもどうも…ぷは」
「それにしても、変なものばっかり買ってきてるな。…なんだい、この動物は…熊か?」

ラクスの土産袋を探るケイ。その中の一つ、木彫りの熊を取り出して、怪訝そうな表情を浮かべながらそれを見つめていた。プラント生まれはもちろんの事、
暫くアークエンジェルで生きていたケイも、オリジナルのキラも熊を見ることはそうそうない。テレビの向こうでは見たことはあるのだが。
アイドルの時から、籠の中の鳥状態だったラクスはこういう珍しいものに興味を持ちやすく、見つけては購入していたりするのだ。
まあそのお陰で、貯金がそんなに溜まっていなかったりするのだが、それはまた別のお話。

「木彫りの熊です。珍しかったものですから…」
「ふぅん、珍しい物好きなのもまあ程ほどにね。ああ、そうそう。珍しいものといえば、カーペンタリアから君へ連絡があったそうだよ。
ジンの修理の間、新しいMSを配備するってさ。今まで使っていたジンは宇宙戦主体なのに対し、それは空戦仕様だって」
「わあ、本当ですか!空戦仕様と言う事は、ディンですかね?」

ケイの言葉に、ラクスは手を合わせて、嬉しそうな表情を浮かべる。正直、彼女の機体に関しては直る見込みが立たないと言う事を聞かされていたので、
足手まといになることなく、早期復活できる事が嬉しかったのだろう。ただ、やはりジンは名残惜しく、昨日の夕方から夜に掛けて機体をブラッシングしたり、
コクピットの中で声を掛けてみたりと、傍から見れば危ない人と思われかねないこともしていたが、まあそのくらい気に入っていたと言う事だ。
といっても、直せない損傷ではないし、暫くすれば戻ってくるのは知っていたから、然程ショックは少ない。また元気な姿に戻ってきて欲しい、そう思っていた。
ただ、空戦となると、演習ではディンを使った事があるとはいえ、実戦では初の体験なので、訓練が必要だろうが。

「いや…バビ、ていう機体だね」
「バビ?」
「ほう…新型じゃないか」
「知っているのか雷電、いやレイ」

機体の名前を聞いて、会話に参加してくるレイ。それに食いつくケイと、その他もろ者の視線が彼に集うが、彼は気にせずに解説した。

「ディンに変わる空中機動攻撃機AMA−953バビ。ディンは武装が実弾のみを装備していたので、PS装甲相手には圧倒的不利な状況だったのを反省し、ビーム兵器を標準装備させた機体だ。
火力はディンのそれを遥かに上回り、またMA形態に変形可能で、その形態時の加速度もディンを上回る。つまり、その絶大な火力による支援用MSといったところだろう。
まだ配備されて間もないものだから、回されるというのは期待されていると考えていいだろうな」
「へぇ〜、このバカピンクがねぇ。偉くなったもんだ」
「…それ、褒めているんですか?それとも貶しているんですか?」
「両方かな」
「両方ですか」

レイの説明から、ラクスが期待されているのだと聞いて、ケイは感心しながらさり気なくラクスを馬鹿にしていた。
それに気がつき、ラクスはケイを問い詰めようとしたが、正直に返されたため、諦めたようにガクリと頭を降ろしながら言った。

「レイ、そのバビの画像とか持っていないの?」
「いや…そこまでは。まあカーペンタリアまで行けばわかるんじゃないか?」
「そうね。はあ〜それにしても、空戦仕様のMSがミネルバに配属されるって事は、暫くはこの重力の中で暮らすって事なのかしらね」

ルナマリアはだるそうに椅子に深く座る。他の面々もその言葉を聴いてため息をついてしまった。あまつさえ副長のアーサーまでもがである。
ただ、アーサーはその後彼らを励ますように立ち上がって、勇ましく言った。

「しかし、それはこのミネルバが議長らに期待されていると言っても過言ではない!恐らくはミネルバの足で被災地を回り、救済活動をするのだろう。
それはプラントにとって、ナチュラルとの融和を目指すための第一歩として、重大な役割だからな。我々の功績も上がるぞ〜」
「救済処置ね…。まあ確かに、治安が悪くなっているみたいだし。最新鋭のMSを持っている私達が救助活動をしつつ、警護活動をすれば、評判も上がる、か。
でも副長、戦争って事には…どうなんでしょうかね?」
「それに関しては…まだ何ともいえないな。タリア艦長とも話し合っては見たが…。ユーラシア連邦など、地球連合の中でもプラント親和派が居る事には確かだけど、
ボギー1の件もあるし、不安定だ。特に、大西洋連邦に関してはだ」

ボギー1。あのセカンドステージのMS三機を強奪し、アーモリーワンや小惑星・デブリ帯で戦闘を行った戦艦のコードネームである。
現在のところ、彼らが何者であるのか、そして何処の所属の部隊なのか。それは全く分かっていない。唯一つ分かっているのは、ラクスが通信していた青年の声くらいか。
ただ、戦艦の形状、使用MSから考えて、地球連合内の特殊部隊なのだろうと予測される。しかし、そうなると厄介である。
そう言う事になると、結局戦争をしようとしている者たちが居ると言う事になる。現に、ユニウスセブンでの映像が流れているのも、ボギー1の仕業だろう。
大西洋連邦もしくは地球連合全体がその本性を現した、と言ってもいいのだろうか。

「あそこの国は結構危ないからなぁ。それに、アーモリーワンでミラージュコロイドを使われているとなると、ユニウスセブン講和条約もお構いなし、てことになるから。最悪…」
「核攻撃…」
「かもしれないな」

アーサーの言葉を受けて考察したケイの言葉にヨウランがつけたし、そしてレイがさらに付け足した。それを聞いた彼らは騒然とする。
ユニウスセブンを壊滅させた一発の核攻撃は今でも記憶に焼き残っているものたちは多く、それがブレイク・ザ・ワールド事件の原因の一つにもなったのだ。
そして、先の第二次ヤキンドゥーエ防衛戦でも、核は使われ、プラントは消滅の危機に陥ったのだ。幸い、その攻撃はフリーダムとジャスティスのミーティア装備のお陰で何とかなったのだが。
しかし、その恐怖が再びやってくるのだと考えると、恐ろしさで震えが起こりそうだ。

「だが最悪の場合だ。議長とてそんな最悪の道を歩みたくないだろうし、だからこそ救助活動を行っているのだからな。協議も進められているのだろう」
「…ま、軍人の俺達には今のところどうすることも出来ないか」

しかし、やはりこれは話し合いのレベルでの解決が一番である。軍人が下手に動くとそれが火種になりかねない。だからこそ、最悪の場合に備えるのが彼らの仕事だ。
と、その時。休憩室に向かって、何やら慌しい足音が聞こえてきたと思えば、マッドが飛び込んできた。

「おおい、ナタリー嬢ちゃんいるか!」
「いますけど〜」

呼ばれたラクスは手を上げてマッドに答える。マッドはその場へと駆け足でやってくる。

「嬢ちゃん、機体が届いたぞ。しかも、嬢ちゃんの知合いみたいだが」
「え、もうですか!?」
「早いな。オーブまで運んできたのか?」
「しかも知合い?」

何だ何だとラクスとマッドの会話に参加してくる野次馬達。ナタリーも急な事に驚きつつ、自分の知り合いが持ってきたという話を聞いて、首を傾ける。
彼女の知り合いって言うのはミネルバにいるメンバーか、ハイネ隊の面々。しかし、前者は今目の前にいる人々と艦内にいる人たちである。
後者は宇宙にいるのだから、届けようにも届けられないだろう。ともなると、残るのは南アメリカ戦線にいたときのメンバーなのだが…。
誰だか見当もつかず、ラクスは足早にMSデッキへと向かっていく。野次馬達もその後を追っていく。
と、デッキには見覚えのないMSが一機。それと、緑のパイロットスーツを着た、がっちりした肉体を持つ男が一人。ラクスは彼の許へ歩み寄り、そしてその顔をのぞく。
男もラクスの存在に気がつき、彼女の方を向く。すると、ラクスはぱあっと明るい表情を浮かべて、走って彼に抱きついた。

「ビルさん!お久しぶりですわ!」
「おお〜!久しぶりだな、ナタリー」

抱きつかれた男、ビルはラクスを抱えたまま一回転して、そしてその勢いを抑えながら、静かにラクスを降ろす。

「1年ぶり、ってところか。元気だったか?」
「ええ、お陰さまで。…その制服、ビルさん、もしかしてザフトに戻られたのですか?」
「まさか。これは建前上の格好。カーペンタリアの指揮官が着ていけってさ。…責任者いるかい?」

ラクスとの軽い挨拶を終えたビルは、野次馬組のほうに歩き出した。彼の声を聞いて、アーサーが前に出て彼に手をさし伸ばした。

「副長のアーサー・トラインです。艦長なら自室にいるはずですが、貴方は?」
「ビル・タンバリです。カーペンタリアより補給品のひとつとしてバビを持ってきました。本当ならば基地での補給を行うはずだったのですが、
連合の不穏な動きに対応し、万が一海上で敵と遭遇かつ援軍が出せない場合におきましては、空戦仕様のMSが必要だろうとの判断を下し、残念ながらオーブ入国の際の手続きもありまして、武装は付けられませんでしたが…バビを補給いたしました」

ビルも差し出された手を掴み、握手を交わす。

「随分早い対応ですね」
「兵は神速を尊ぶ、という言葉もありますゆえ、恐らくそういう対応なのでしょう。私もカーペンタリアまで同行させていただきます」
「なるほどね。では案内させていただきますよ。丁度、私もブリッジにいかなければならないのでね。ナタリー、君も来なさい。報告をしないと」
「あ、はい」

アーサーはビルとラクスを連れて、ブリッジに向かっていった。その後姿を少しだけ見送った後、野次馬達はナタリーに配給されるはずのバビを見つめる。
武装こそついてはいないものの、尖った頭に背中の畳まれた翼。飛ぶために生まれたようなMSのその姿は、他のMSに比べて異質だった。

「変な形のMSね」
「確かに変な形。とんがりコーンみたい」
「…確か、公式色は紫のはずだったが…なんでピンクなんだ?」
「あいつのパーソナルカラーだからじゃないかな?あいつ桃色好きだし」
「まあどっちにしろ」
『とってもカオス』

十人十色の感想を言いつつ。結局のところ全員がたどり着いた答えは一緒だった。本来ならば、この奇抜なフォルムに紫色のコーティングがされているはずなのだが、
ラクス機に関しては、ブレイク・ザ・ワールドのユニウスセブン粉砕作業においての功績を称えられ、彼女のパーソナルカラーを採用されたのだが、混沌である。
しかしまあ、この機体を運んだビルも耐えられたものである。桃色の機体など、目立ってしょうがないだろうし、それが年齢をある程度重ねているいい年の中年が乗っているとしたら、苦痛でしかないだろう。

「でもいいわね〜。新しい機体が配備されるって事は、それだけ期待されてるってことだからさ」
「何だ、妬いてるのか、ルナ」
「妬いてなんかないわよ!…ただ、羨ましいかな。赤色とか緑色とか本当は関係ないんだけどね〜。同じ女性MSパイロットとしてさ、ライバル視しちゃうわけよ。私も赤でトップガンに選ばれたのに…ね」
「…ま、気持ちはわかるが」

ザフトの女性パイロットといえばまずシホ・ハーネンフースを思い浮かべるものが多いだろう。というより、数少ない女性パイロットの中で、活躍していたのは彼女くらいである。
現在はエースパイロット集団、ジュール隊に所属している。ルナマリアは少なからず彼女を尊敬し、そしてザフトのエースカラー赤をパーソナルカラーに持つくらいのエースパイロットになった、はずだった。
だがしかし、いざ実戦になれば彼女は活躍するどころか、奪われた3機のMSにいいようにされて、毎回機体を損傷させてくるだけの日々を送っていた。もっとも、彼女は気づいていないが、あの3機を奪ったパイロット達は、
間違いなくエース級であり、それに対して互角に渡り合い、生き残っている事自体は素晴らしいことなのだが、向上心の高いルナマリアにとって、それは満足できる事ではなかった。

「やっぱ、ケイさんの言う通り、ガナーやめてスラッシュにしようかなぁ。接近戦は結構いけるから」
「何を言っているんだ。実戦ではまだ砲撃の命中率が低かろうが、お前は間違いなく、俺達の中でもっとも射撃訓練の成績が良かったんだ。もっと自信を持て」
「そうだよ、ルナ」
「…ありがとう、レイ、シン」

そんな消沈気味のルナマリアをレイとシンが励ます。そんな彼らに対し、少し苦い思いを入れつつも、笑顔を見せるルナマリア。
と、そんな時にヴィーノはふとした疑問を浮かべ、この会話の流れを変えるのもかねて口に出してみる。

「なあ、気になったんだけどさ。あのビルって人と、ナタリーってどういう関係なんだ?」
「ああ、そうそう。それ俺も気になってたんだよな。何か、結構親しいみたいだけど、ケイさんなんか知ってます?」
「僕?」

同意したヨウランがケイに話を振る。急な事だったので、ケイは目を見開いて驚きつつ、思案してみる。だが、あまり深いところまで言うと、彼女や自分の過去が知られてしまうので、
ケイは言葉を選びつつ、話してみる。といっても、ケイ自身が知っている事など、ラクスとハイネから聞かされたもので、彼自身も深いところまで走らないのだが。

「う〜ん、ナタリーが入隊した当時の知合いっていうかお師匠かな。あのジンも、元々はビルさんのものだと聞いたよ。まあただ、僕も二年前彼女とであった時はもういなかったから。僕にもよく分からないな」
「へぇ〜。師弟関係ってすごいですね!あのど根性性格はそこから来たのでしょうか?」
「かもね」

ケイは適当にはぐらかした。ただ、他のものもそれ以上知ろうという興味もなかったのか、はたまたは人の過去には深くは関わらない主義か、深く追求するものはいなかった。
ただ、思うのは。ケイ自身がふと思い出したことは、自分に聞こえてくるクルーゼの声。あの墓参り以来、聞こえては来ないが、あの様子では何度でも現れては、嫌味でも言ってくるのだろう。
だが耐えなければいけない。これは自分の問題だ。他人に話せることではないし、それに、他人に話したところで、その苦悩を分かち合うことなどできやしない。それがラクスであってもだ。

「さて…プログラムの書き換えとか、シートの調整とか色々やらなきゃ。あいつそう言う事に関しては全くド素人以下だからなぁ。ヨウラン、手伝ってよ」
「よっしゃ任されて!」

気を取り直したケイとヨウランは駆け足でバビの許へと走る。ここからラクス用に調整をしなければいけないから、整備士としてはやりがいのある仕事になる。

『昼休み終了、各員持ち場へ戻れ』
「おっと、俺達も働かなきゃ。お仕事お仕事。ルナ、今のうちに射撃制御の調整でもしようぜ」
「OK、ヴィーノ。丁度私もやろうと思っていたところ」

ヴィーノはルナマリアを連れて、ガナーザクウォーリアに向かう。他の整備士達も機体整備へと向かっていく。

「さて、俺達はまだ待機任務だな」
「そうだな。…俺は腹も膨れたし、少し、散歩でもしてくるか。お前はどうする?」
「俺か?俺は…そうだなぁ…インパルスの整備でもしてるかな」
「そうか。ではまた後でな」

レイは手を振って、シンと別れ、ミネルバの外へと歩いていった。シンはその後姿を少しだけ見送った後、コアスプレンダーの方へと歩いていく。が、ふと何か違和感を感じ、立ち止まる。
そういえば、このごろのレイは活発になったか。先ほどの試食会だって、積極的に煎餅を食べていたし、バビの説明も。それだけではない。何時から?そういえば、ユニウスセブン落下阻止作戦の前も、ナタリーの紅茶をおいしそうに飲んでいた。
近頃忙しくて全然気がつかなかったが、明らかに彼は変わっていたのだ。アカデミーでは、社交的とは言えず、よく一人で食事をしたりしていた光景を見たのは覚えている。彼と仲が良くなったきっかけというのは、演習の時助けられた時。
注意不足で危うくデブリに衝突しそうになった時、レイが助けてくれた。その時も冷たい態度はそのままだったが、素早い動きに冷静な判断。シンは彼を尊敬し、そして少しばかりのライバル視もしていた。
それからいつの間にか戦友のような関係となり、ルナマリアとも繋がって、今に至ったのだ。
今と昔、変わったといえば、ナタリーとケイの存在か。

「う〜ん、まあいいか。明るくなったのなら、それはそれでいいんだろ、うん」

しかし、考えたところでどうなるのだと思い、とりあえず無理やり納得して、シンは作業へと戻っていった。

さて、一方のミネルバ艦長室では、タリアとビルが敬礼をして向かいあい、その場に、ラクスも居合わせていた。

「ビル=タンバリ、バビの補給の方をしに参りました。ご確認を」
「タリア=グラヴィス、確かに受領しました。…でもよく、補給の許可が下りたわね。まあこちらとしてはおお助かりだけど」

敬礼を解き、お互い微笑みを浮かべながら会話を進めるタリアとビル。初対面でありながら、これほど打ち解けているのは珍しい、とラクスは思いつつも、黙って話を聞く。

「何、近いですから。オーブも今のところは、親プラントの姿勢を崩してはいませんしね。固定兵装以外の武装の解除とミネルバまでの道のりを監視付きっていうところで手を打ったわけです。まあ他にも理由があるんですがね。
まあ本当なら、カーペンタリアで受領っていうのもよかったんですが、何分不安定ですしね、情勢が。それにサトーとの戦闘で、MSもガタガタのはず。戦力は多い方が良いってね。バビ自体、量産型で、一体くらいなら機体配備数に影響は出ませんから」
「まあそれもそうね。しかし、情報が早い事。テロリストの名前なんて、何時公開されたの?」
「ええ、まあ。…まあ実を言うと、連合が公開した映像の中に、見覚えのある機体がありましてね。それがサトーのものだとは一発でわかりました。ジンがハイマニューバになっても、エンブレムは変わりませんから。
ただ、俺もアカデミー時代に知り合って、その後はあいつの結婚式と家族の葬式の時に再会したくらいです。…俺のところにも、召集の誘いは来ましたが」

思わぬ過去の露見に、場の雰囲気は重くなる。ビルのこのような過去はラクスも初耳だ。そういえば、軍隊に入る前から、ハイネと同じように師匠のような存在だった彼のことは、あまり知らなかった。
確かに、ビルは開戦当初はザフトに所属していたと聞いていたが、その後、どうしてザフトを辞め、レジスタンスの一員として生きていたのか。ラクスは知らない。
ビルは表情を重くしつつ、苦笑しながら言った。まるで辛い過去を思い出すように。

「勿論断りました。あいつが血のバレンタインで家族を失ったのは知っています。俺も親戚を失いました。でも、ニュートロンジャマー投下作戦で、俺はあまりにも人を殺しすぎた。ザフトだとか、連合だとか。ナチュラルだとかコーディネイターだとか。
もうどうでもよくなった。だから、俺はザフトをやめ、地上の復興作業を手伝った。罪滅ぼしって言うには、俺がやらかした事は酷すぎたけど、それでもやるべきことはやらないと」
「…オペレーション・ウロボロスに貴方も参戦していたのね。確かに、あの作戦は地上侵攻作戦に必要だったとはいえ、その被害の大きさゆえに代償はあまりに大きかった。
政治家はその光景をテレビの向こうでしか見えないけど、現場の人間は、その惨状を目の当たりにする、嫌でもね。
気持ちはわからないでもないわ。でも、私達は軍人よ。与えられた任務はこなすしかないし、一度決めた道は歩み続けるのが信念。貴方のやった事は、ある種の逃げとも取られかねないわ」
「わかってます」

オペレーション・ウロボロス。ザフトが地上侵攻に対し、第一次ビクトリア攻防戦の失敗から考慮して、初めてニュートロンジャマーを地上に散布した、地上侵略作戦の前準備である。
連合の核攻撃を防ぎ、エネルギー源である核分裂エネルギー抑止。また世界樹攻防戦でも絶大な効果を発揮した事から、プラント評議会が散布を決めた。
しかし、それがもたらした事は、エイプリルフールクライシスという、エネルギー不足から発生した窮乏、飢餓。
被害人数は数え切れないほどまでに及び、一説によれば、全人口の10%にも及んだとか、周りを見渡せば、地面ではなく死体が転がっていたとか。そういう話をラクスは聞いた事があった。
そして、それを実行させた首謀者の一人が、彼女の父、シーゲル・クラインなのだ。
そしてビルは、投下作戦において、実際にニュートロンジャマー投下を行った実行者の一人であった。勿論、そのときには何も疑問を感じていなかったのだろう。
だが、カーペンタリア攻略作戦において、地獄となった地上を見て、彼は愕然とし、ザフト、いやシーゲルのやり方に疑問を持ち、そして引退したのだ。

「ならいいわ。その目、嫌いじゃない。それに、貴方が選んだ道も、自分で決めた、立派な道だと、私は思うわ。でも、何で出戻りしたのかしら?」
「出戻りじゃありません。少しばかり、俺の住んでいるところの資金が足りなくなったんでね、臨時的に雇ってもらっているだけです。一応、ザフトにも色々と、今でも繋がりを持っていますから、別名で登録する事も、傭兵として雇ってもらうのも可能なんですよ。
それに、可愛い妹のためでもあるんですし」

ビルの表情に張りが戻り、活き活きとした表情で、彼とは対照的に意気消沈していたラクスの頭に手を軽く乗せる。それにはっとしたラクスは俯いていた顔を上げて、ビルの顔を見つめる。タリアは一瞬不思議そうな表情を浮かべながらも平然に戻し、かつ質問をぶつけてみる。

「妹?ファミリーネームは違うけど、義妹?」
「まあ妹分ってことです。こいつにも色々事情がありましてね。俺が肉親代わりに、育てたんです」
「そうだったの。貴方も結構苦労しているのね、ナタリー。プロフィールには、そんなに詳しく書いてなかったけど」
「え、ああまあ」

タリアの突然の同情の言葉に、ラクスは少し曖昧ながらも笑みを浮かべて答える。それに満足したのか、タリアは深く椅子に座りながら言った。

「ま、仲がよろしいようなので結構だわ。ではビル・タンバリ、ご苦労様でした。カーペンタリアまで貴方を護送させていただきます」
「はっ、ありがとうございます」
「それとナタリー。貴方をバビのパイロットに任命する事を承諾します。任されたからには」
「機体の整備、調整及び空戦に備え、シミュレーターなどの訓練を欠かさずに、ですね」
「宜しい。では退室していいわ」

ビルとラクスはタリアに敬礼をし、その場を後にする。その途中、通路に監視カメラと人がいないことを確認したラクスは、立ち止まり、ビルに話しかける。

「あの、ビルさん…」
「ん?」

ビルも立ち止まり、ラクスの方を向いて彼女の言葉を待つ。だが、ラクスは話しづらいのか、もじもじしたまま、口を開けずにいた。
ふと、先ほどの会話と彼女のことを思い出してみるビル。
ああ、そうかあのことか。と思い出し、そしてラクスのところへと歩み寄る。そして、優しく手を肩に置き、微笑みながら言った。

「…気にするなよ。確かにお前の親父さんを俺は少し憎んではいる。でも、ありゃ親父さん一人の責任じゃない。投下したのは俺達だしな。俺達にも責任がある。だから、気にするな」
「…!ですけれど、私は…」

今にも泣きそうな表情でラクスはビルの顔を見つめる。ビルに慰められても、彼女は父が行った事に関して、彼に謝罪したくてもし切れない思いに駆られ、申し訳ない気持ちになっていた。
散々世話になっておきながら、今まで知ることがなかった、いや知ろうともしなかった彼の過去。それは、ナタリー・フェアレディではなく、ラクス・クラインとしての自分にとって十二分に関係のある事だ。自分の父が、やらかした事。
そんな彼女の意を汲み取ってか、ビルは振り返り、彼女に背を向けた。

「それに、お前の人生は一度奪われたものだろ?じゃあ責任だって奪われたんだって考えるほうが妥当だ。何も、酷い目に合わされたお前が気にすることじゃないって。
…それでもお前自身にも親父さんの娘として責任があると考えるんなら、お前が親父さんの尻拭いをしてやればいい。ナタリー・フェアレディとしてな。
だが…一人で抱え込める物なんてものは、限られているんだ。それだけは覚えておいてくれよ。じゃないと、自分の身を滅ぼすだけだからな」

振り向きざまに笑顔を見せるビル。だが、それでもラクスは納得し切れてない表情を浮かべていた。ビルは苦笑しつつ、すぐ表情を変えて、今度は意地悪そうな笑みを浮かべた。

「やれやれ…そういえば、空戦用MSを使うのは初めてか、ナタリー?」
「え?いえ、一応ディンを使った事がありますが…」

突然の事に、頭上にハテナマークをいくつも並べながらも答えるラクス。それを聞いたビルは彼女に構わず、さらに意地悪な笑顔を強める。
その表情にやっと彼の意を汲み取り、血の気をさっと無くすラクスだったがすでに遅い。

「そうか。じゃあ説明抜きでいいな。今から戦闘シミュレーションをするぞ。新型渡したと同時に死んでもらっちゃあ困るし、それに、そう言う事に集中したほうが気が晴れるだろうしな。
久しぶりに、地獄の特訓メニュー、やってみるか?」
「は、はい!」

ラクスは力強く答えたが、その表情は何やら恐怖のようなもので青白くなっており、そして、ラクスは頷くんじゃなかったと激しく後悔する事になるが、それは別の話。

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