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LOWE IF_592_第09話1

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:55:02

気がつくと、そこは大きな海原にぽつんと一つだけある島に、僕はいた。
ああ、これは夢か。そう思いつつも、何とも夢とは思えないほどリアルな島だった。曇りがちの空、少し汚い海。ゴミが流れ着いている砂浜。何もかも、よくわからないほどリアルに感じた。
そんな島の砂浜に、僕はいた。何故?よくわからない。ただ、この島には僕しかいないのだろうか。
いや、誰かいるようだ。ピンク色の髪を持った、女性のような人。ああ、あのバカピンクか。
こんな夢の中にまで出てきて、本当に僕の事が大事なんだな。そうかそうか。そう考えて僕は彼女に近づく。

「おい、バカピンク。何やってるんだよ」
「…」

何も反応しない。僕はもう一度彼女を呼ぶ。

「おい、バカピンク!」
「よきことのため」
「は?」
「よきことのため」

彼女は気持ちの悪い声で、まるで壊れた人形のようにぎこちの無い動きで囁き始める。僕は思わず一歩下がって、彼女の事を見る。何かが違う。
こいつはバカピンクじゃない。こいつは…。そう思ったとき、徐に彼女は立ち上がり、ぎこちない動きでこちらを見る。彼女の顔には傷が無かった。

「なんじじゅうじゅんのましん。よきことのため、いまはしりょをつみとするべし」
「…!く、来るな!!」

僕は近づいてくる彼女を思い切り突き飛ばし、その場から少しだけ離れた。後ろを振り返ってみると、彼女は腕や足、首があらぬ方向に曲がっていて、本当に人形のようだ。
いや、人形なんだ、あれは。そう納得しようとした。そのとき、僕の足元が崩れて、そして僕は奈落へと落ちていく。
そして、次に気がつくと。僕の目の前にはやはり、彼女が立っていた。周りには何も無い。ただ、時間を刻む音が聞こえるだけだ。
よく見ると、彼女には何か仮面のようなものが目のところに付けられている。あの忌々しい男の、あの仮面を。

「良き事のため。今、従順なるマシンが動き出したぞ」

声は、彼女のもの。だが言葉は、あの忌々しい男のものだ。
僕が反論しようとした時、急に周りが明るくなって僕は目を瞑る。そして、次に開けた時には、僕はミネルバの中にいた。
またあの男の仕業か。そう思いつつ、外を見る。いやになるほど清清しい朝日が拝めた。
第9話 big brother

朝。キラ達は出港の準備を整えている。出港、といっても、彼らが使う船というのは、前大戦で使われていた大天使、アークエンジェルであるが。
前の大戦より、ヘリオポリス崩壊から始まり、砂漠の虎との死闘、アラスカ、そしてザフトと連合との戦いに介入し、同型艦ドミニオン、そしてクルーゼとの戦闘と、数々の死闘を潜り抜けてきたこの戦艦は、
戦後はオーブに引き取られ、そしてこの場所に隠され保管されていた。この場所に隠されていると言う事は、一部の人間しか知らない。その一部の人間が彼らなのだ。
と、正装をし、ブリッジに向かうラクスの元に、バルドフェルドがやってきた。

「ラクス」
「なんでしょう、バルドフェルドさん」

バルドフェルドがあたりを気にするように見回した後、ラクスの耳元に口を近づけ、そして言った。

「先ほどの来襲者だが…。キラから聞いたことだが、あいつの事を代理人、といったらしい」

ラクスはバルドフェルドの言葉に一瞬だけ反応を示し、そして動きを止めた。だが、普段どおりの雰囲気をすぐに取り戻し、再び歩き始める。
バルドフェルドは真剣な顔をしながらその後を追う。そして、暫くしてラクスが口を開いた。

「そうですか…。しかし今は、そのことを考えていられません…。今は、この世界が間違った方向に歩みだそうとしているのを止めなければいけません…」
「そうか…。しかし、一応ダコスタに調べさせようと思うが、いいか?それと、次の襲撃は恐らく…」
「そうですね…ええ、御願いしますわ。あれの起動を…」
「ああ、わかっている。平和な世界、築ければいいな」
「はい…」

ラクスはバルドフェルドに一礼をすると、その場から立ち去っていった。その最中、思いにふける。彼女がキラを"生み出した"時、確かに彼は死んだ。
それが今となって、亡霊となり、我々を憎しみ、襲撃してきた。彼は生き残った。

「(しかし…これも世界のため…。私達は、行かねばならないのです。いずれ、彼にもわかってもらえますわ…。そして、同志として…。人は、夢を見続けるべきなのですから)」

ラクスは、何時かは彼が自分の元へと帰ってきてくれると思っていた。そう、彼女はまだ、彼がオリジナルであることは思いもしなかった。
そして、彼女は知らない。この判断が後々に大きな影響を与え、そして、多くの人を巻き込む事になるとは、思いもしなかったのだ。
ただ彼女は、無垢に平和の花を植えるために、ただ旅立とうと、今は考えているだけだった。

「ごめん…母さん。僕、行くよ」

そんな最中、海岸でキラはオーブの軍服を着て、カリダと向かい合って立っていた。親との…いや、正確に言えば、本当の親ではないのだが、里親から離れるのは、心寂しいことだ。
特に、キラとしてはこの数年、カリダの温もりは、彼の心に安らぎを与えてくれた。だからこそ寂しいのだ。だが、行かなければ行けない。
ラクスのために、世界のために。彼は旅立つ。

「…止めないわよ。行ってらっしゃい。でも、辛くなったら何時でも戻ってきていいのよ?」
「うん…ありがとう。じゃあ…母さん」

二人は抱擁を交わした後、キラはアークエンジェルへと向かって歩いていく。その後姿をカリダは見送った。唯一つ、寂しげな目をして、そして、段々と上げて、振っていた手を降ろして。
彼女には、あんなに生気のない息子に変えてしまった戦争が嫌いだった。一時期はあの子は別人ではないかと思ったくらいだ。そして、そこへまた飛び込もうとしている彼を止めたかった。
だが、あの使命感に満ち溢れた目は、今まで孤児院で一緒に暮らしてきた中で見たことがなかった。そんな彼を止められなかった。止めたくなかった。
できれば、あの瞳をそのままに。世界を変えろとはいわない。ただ、無事に帰ってきてくれれば。そう思った。
そんな優しさをどこかで受けていたキラは、不意に涙が流れ出てきてしまった。必死にそれを拭う。

「キラ君…」

と、そんなところへ、艦長服を着たマリューがふと現れた。彼女は心配そうな表情で言った。

「本当にいいの?」
「はい…。後悔はしません」

キラは涙を止め、何時もの優しい表情をマリューに投げかける。マリューは安心した表情をした。そして更にキラは言う。

「本当は何が正しいのかなんて、僕達にもまだ全然判らないけど。でも、諦めちゃったら駄目でしょう?判ってるのに黙ってるのも駄目でしょう?
その結果が何を生んだか、僕達はよく知ってる。だから行かなくっちゃ。またあんなことになる前に」
「…ええ、そうね」

マリューはふっと笑った後、キラの背中を一度軽く叩き、その場から立ち去る。キラも少し苦笑しながらも、MS格納庫へと向かっていった。
そして、アークエンジェルは港から旅たち、そして暫くして、フリーダムという巨人はその羽を再び広げ、その目的地へと向かっていった。

それから少し前。

「うんうん、似合うよ、カガリ」

オーブ、セイラン邸にて。カガリとユウナはそれぞれ花嫁、花婿姿となって、白いドレスと白いスーツで身を装飾していた。カガリの短い髪は綺麗に結ばれ、
まるで普段とは違った、清楚な雰囲気を出していた。

「素敵だよ。でも、ちょっと髪が残念だな。今度は伸ばすといいよ。その方が僕は好きだ」
「…」

だが、その清楚な雰囲気を出していたのは格好だけではなかった。普段活気のある彼女が、今日は何も喋ろうともせず、黙ってこの衣装に身を入れたのだ。
そして、このユウナの言葉にも全く反応を示そうともせず、ただ少し俯きながら、侍女達が衣装の調整しているのを待っているだけだ。

「何か飲むかい?緊張してるの?さっきから全然口もきかないね」
「いや…大丈夫だ。心配ない」
「う〜ん、もうちょっと、言葉使いを直したほうがいいね。大丈夫ですわ、ご心配なくとかさ。まあいいや、そこらへんはおいおい直していくとして」
「カガリ様、ユウナ様、お時間でございます」
「はいはい〜。じゃあ、行こうか。こういう場では別に悲観になるのは別に構わないけど、君が決めた事でもあるんだし、国民の前ではしっかりしろよ」

ユウナは軽々しく侍女に答え、そしてカガリに叱咤しながらも優しく手を伸ばす。カガリは少し歯を食いしばった後、さし伸ばされた手に自分の右手を乗せ、そして二人はゆっくりと共に歩みだす。
二人が外に出て、警備員が乗る白バイク隊に引率される車に乗って暫くすると、多くのオーブの国民達の姿がこちらに喝采を上げている。

「おめでとうございまぁす!!」
「お幸せに!」

彼らは国の許婚同士が結婚し、国が安泰になるだろうと思っている。それに、彼らにしてみればこれはカガリにとって幸せな事だと思っているのだ。
ユウナは彼らに応えるように笑顔で手を振ってみせる。

「…おい、ほら」
「あ…」

と、横目でカガリがまた俯いていたのを見て、ひじで彼女の腕を押し、注意する。カガリもはっとし、少しぎこちなかったがゆっくりと笑顔を作って、国民に応えた。

「ほら、マスコミも山ほど居るんだぞ。もっとにこやかな顔して」
「…ああ」

ぎこちない笑顔を続けて、今度はマスコミの要るほうへ笑顔を見せながら手を振る。ユウナも少し満足した表情で再び外へと視線を戻す。
だが、この笑顔の奥では、カガリは仲間への思いと、そして父への謝罪の思いで一杯で、今にも崩壊しそうだった。
キラと過ごした日々、ラクスと過ごした日々、ナタリーと過ごした日。そして、アスランと過ごした日々。捨てられない思い出が、彼女に押し寄せてくる。彼女はまだ、割り切れない年頃なのだ。そこが彼女の利点でもあり、危険なところだった。
そんな様子を彼にも読み取れたのか、少しばかりフォローする。

「後で好きなだけ泣きな。でも今は、ね」
「…」

カガリは何も応えない。ただ、国民に笑顔を送るだけだ。
さて、そんなこんなで、式場へとたどり着いた二人は、長い階段を登り、国民達に祝福の言葉を受けながら祭壇にへとたどり着くと、二人並んで神父の前に立った。
そんな時、二つの異変が起こった。この式典を警護しているオーブ軍本部では、レーダーに何かが映っているのを発見していた。

「アンノウン接近中。アンノウン接近中。スクランブル!こ、これは…アークエンジェル!?それに…フリーダムです!真っ直ぐこっちに来ます!」
「な、何だと!?すぐにユウナ様とカガリ様を!もう一機は何処だ!」
「もう一機は…動きません!しかし、近いです!」
「そっちにはムラサメ部隊をまわせ!」

軍人達が慌てて作業を進めていく。そんなことは露知らず、式典は進められていた。

「この婚儀を心より願い、また、永久の愛と忠誠を誓うのならば、ハウメアは其方達の願い、聞き届けるであろう。今、改めて問う。互いに誓いし心に偽りはないか?」
「はい」

ユウナが神父の問いに答える。そして、カガリが少し震えながらも応えようとした時。旋風が起きた。強い、強い旋風はあたりの小物や花を吹き飛ばしていった。

「代…逃げてください!」

警備員が暴風の中、叫び散らす。振り返ると、そこには巨人が立っていた。懐かしく、そして何処か恐ろしいその姿。フリーダムだった。

「うわああ!」

ユウナは突然の出来事に悲鳴を上げながらも、カガリの手を握り、そしてその場から逃げようとしたが、手を掴もうとした瞬間、フリーダムがすでにカガリをその手で掴んでいた。

「うわあ!は、放せ!キラ!」
「カガリぃ!!何をしているんだ、早くカガリを助けるんだよ!」
「しかし、MS相手では…」

カガリは必死に腕の中でもがき、ユウナは必死にカガリを取り戻そうとするが、すっかり怯んでしまったオーブ警備員ではどうすることもできなく、フリーダムは飛び立ってしまった。
ユウナはすぐさま警備本部へと無線を入れる。

「くそ!!早く迎撃するんだ!カガリを取り戻すんだよ!」
『いや、しかし…カガリ様が…』
『その奪還、僕が引き受けた!』
「え?」

と、突然無線に変な声が乱入してきた。ユウナは少しきょとんとしながら、フリーダムが飛び去っていった方向を見る。
フリーダムの中では、引き込まれたカガリが必死にキラを説得しようと、もがきながら叫んでいた。

「こら、キラ!降ろせ!バカ!こんな事をして、ただで済むと思っているのか!?」
「うわ、凄いねこのドレス」
「話を聞け!」
「ごめん、今は少し静かにしてて。そうじゃないと、舌かんじゃうよ!」
「うあああ!」

叫び散らすカガリの言葉を無視して、ただキラはフリーダムをオーブ領海外付近で待機しているアークエンジェルまで飛び去る事を考えていた。そう、それは簡単なことだ。
何故だが知らないが、どうやらオーブの一部の軍も協力してくれていて、攻撃は散漫だ。攻撃してくるものを攻撃能力を奪うように反撃して、そのまま無視していけばいい。
そう、それならば彼にとって簡単なはずだった。だが。

「ん?レーダーに反…うああああ!?」
「うわあ!!」

レーダーに別の反応が見えたと同時に、何か黒いものがフリーダムのすぐ横を通り過ぎ、そして激しい震動が襲い掛かってきた。何事かとカガリを抱きかかえながらも機体チェックをすると、
フリーダムの右腕がごっそり持っていかれていたのだ。モニターからもそのことが確認できた。
一体何者が。全く気がつかなかった。何処から?今、あの黒い物体は何処にいるんだ。そう、キラが焦ってレーダーを確認しようとした瞬間、カガリがわなわなと震えながら指を指した。

「あ、あれ…」
「え…?な、…あれはストライク!?」

孤島に、まるで闇のような黒いボディに、真っ赤な鮮血のようなデュアルアイ。そして地面に突き刺さっているのは巨大な対艦刀。あれで切り裂かれたというのか。
そしてもう一本。同じものを肩に乗せながら持つそのMSは威風堂々と立っていた。そしてまるで獲物を見つけたかのように、こちらを見ている。

「ま、まさか…」
『おはようございます!!奪還屋ブラックk7です!カガリと僕を返してもらいに地獄の果てより来たよ。代理人!!』

フリーダムのコクピットに、聞きたくもなかった男の声が聞こえてきた。そうあの男、ブラックk7が再び襲撃してきたのだ。それにしかも今度はストライクという、昔の自分の愛機に乗って。
ブラックハウンドはその大きな対艦刀を振り下ろし、そしてその剣先をこちらに向けてくる。何だろう、この肌寒さは。殺気なのか、それとも違うものなのか。良く分からないプレッシャーがキラを襲う。

『花嫁強奪とは中々決めてくれるじゃない。でもね、それを自分達のいいように遣うために攫うなんて赦せないじゃない?ということで、いい男が取り戻しに来たよ、カガリ。
さ、まずはカガリを解放してくれ。じゃないと、君を殺せないじゃない。まあ、カガリごと殺すって手もあるけどさ』
「な、何を言っているんだ、あいつは…」

カガリも恐怖心からか震え上がっている。この狂った声で自分に親しく声をかける男から、得体の知れないものを感じて、カガリに警告を発する。
しかし、何か聞きえ覚えのある声だ。狂気の中に存在する、身近な声。何処で?しかしそれを考える余裕は無い。

「あの人は…今朝僕を殺そうと襲ってきた暗殺者…」
「な、なんだって!?」
「MSまで持っているなんて、やっぱり危険な人だ…。あの人を止めなきゃ…でも、右手がやられてるし、カガリもいる…どうすれば…」

キラは何かあの男、ブラックk7を止める手立てはないものかとSEEDを発動させ、思考してみる。だが、そうこうしているうちに、ブラックk7の方が先に痺れを切らして、
ブラックハウンドの姿勢を低くさせ、そしてそのバネで大きく飛び上がる。

「!!」
「返答は無しだ。どっちにしろ殺す」

ブラックハウンドは右手の対艦刀を横に振り下げ、そして勢いよくフリーダムに切りかかる。
無駄のない素早い攻撃だったが、キラは凄まじい反応速度でそれを最小限の動きで避けると、距離をとってフリーダムのレールガンを構えてそれをブラックハウンドの腕の部分に向かって発射する。
だが、ブラックハウンドは徐に左肩に抱えていた対艦刀を腰より下で海に向かって構え、そして柄の部分に備え付けられていた引金を引く。対艦刀の剣先から砲弾が発射され、その反動でブラックハウンドは滞空時間を延ばして宙返りをする。
そしてその回転の勢いを使って、再び切りかかる。フリーダムは残っていた左腕で何とかそれを防ぐが、ブラックk7は歪んでいた口元を更に歪ませ、ペダルを全開に踏み込む。
ブラックハウンドの背中のブースターが一気に火を噴き、フリーダムを押す。キラも何とかフリーダムに踏ん張りを利かせ、耐えようとする。

「そうだ!!反抗してみろよ!それでこそ奪いがいがあるってもんだ!!素敵だ!!興奮してくる!」
「何を言って…」
「お前は喋るな!僕が喋るんだ!僕だけが喋るんだ!お前は血反吐だけ吐いてればいいんだよ!」
「くっ!」

キラが喋ろうとするのを理不尽に塞ぐブラックk7。だが、喋る暇もなく、彼が何度も切りかかってくるので、キラも口を塞いでしまう。
ブラックハウンドが両手に持つ対艦刀はフリーダムを何度も何度もきりつけ、そのたびにフリーダムはビームサーベルで捌きつつ、装甲の硬さで何とか持っているものの、
確実にダメージは受け続けている。コクピット内に響き渡る警告アラームがそれを知らせていた。

「やばいぞ、キラ!」
「わかってる!どうにかしないと…」

キラはブラックハウンドの対艦刀特有の大振りの隙を狙って、わざとフリーダムの背部ブースターを切って、空振りを誘う。彼の思惑通り、ブラックハウンドは大きくフリーダムを外し、体勢を崩し、僅かにフリーダムより下方へ降りてしまう。
好機とビームサーベルを構え、ブラックハウンドの腕目掛けて切りかかる。必殺の間合い、キラはいけるとそう思った。
だが、ブラックk7も強敵と戦ってきて培った勘と腕でそれに反応し、右腕の対艦刀を投げ捨て、ビームサーベルを右腕一本を犠牲にして防ぐ。
刺さった右腕からは火花が散るが、まだ一部分は生きている。そのまま突き刺さった勢いでフリーダムの腕を掴み取ると、そのままブースターを吹かして海面へと突撃する。

「うわああああ!!」
「ああああああ!」
「そんなに二人でデートしたいか!じゃあ遊園地でジェットコースターでも乗りなよ!死に心地が何ともいえないよ!」

悲鳴を上げるキラとカガリ。そしてそれを楽しむかのようにブラックk7は機体をどんどん加速させていく。海面がどんどんと近づいていって、ブラックk7は一気にブラックハウンドからフリーダムを離す。
海面に叩きつけられたフリーダムのコクピット内に、まるで吹き上げられるような衝撃が襲ってくる。キラは咄嗟にカガリを守ろうと抱きかかえる。
沈み行くフリーダムに対し、ブラックハウンドは一度海に落ちるも、すぐにブースターで這い上がり、近くの岩場に、器用に立つ。
元々ストライクを基として作られた機体で、ストライカーパックシリーズであるジェットストライカーでも装備しなければ空は浮遊できない。だからこそ、ブラックk7は一気にフリーダムを地に落とした。

「右腕が逝かれたか。まあいいや。さて…まだ暴れたりないな。これじゃ、前菜にもならない。二年のブランクか?あのクルーゼを倒した実力、見せてくれよ〜。なあ、ハウンド」

海面をまるで、何か玩具を期待しながら待つ子供のような目で見つめながら、ブラックk7は頬杖をつく。レーダーにはまだフリーダムは映っている。それを黙ってみつめていた。
そして、そのブラックハウンドの様子は、上空を旋回するムラサメによってオーブ軍部に送られていた。フリーダムの強さを知る軍人たちは勿論、こう言う事にはあまり関心を持たないユウナでさえ圧倒されていた。

「…あのヤキンのフリーダムが手も足も出ず、押されている…」
「あれは、ユウナ様の差し金ですかな?些かやりすぎな気もしなくはないですが」

そんな彼を、タケミカズチの艦長トダカはユウナに問いかかるが、ユウナは首を横に振って否定しつつ、興味深そうに言った。

「まさか!僕も予定外さ。カガリが乗っているっていうのに、あんな野蛮なやり方で取り戻すかい、僕が?だけど、奪還屋ブラックk7か…面白いかもしれないね。それにあの声も…」
「…まあ兎も角、このままではカガリ様のお命も危ない。直ちに戦闘をやめさせて、フリーダムも回収しなければなりませんな。幸い、サトミの水中試験用シュライクが一機ありますから、それに…」

と、トダカは少し考え込みながらも、淡々と望遠鏡を片手にブラックハウンドを見つめながら、ユウナに対策を提案しようとした、まさにそのときだった。
タケミカズチの甲板近くを、何かが猛烈なスピードで通り過ぎ、ブラックハウンドに対して体当たりした。そこで動きを止め、確認できた姿は、オーブの主力新型可変MSムラサメだった。

「なっ、っと!?オーブが、あくまで姫と代理人が大事かよ、えぇ!?」

その衝撃に驚きを隠せず、それでもなおブラックk7は取り乱さず、対艦刀を収納すると、今度は左腕からアーマーシュナイダーを取り出し、それをムラサメの翼に突き刺す。そして、真っ直ぐ自分の方へと引いた。
火花を散らしながら、ムラサメの左翼は切り裂かれていき、そして切り離されると同時に両者は離れる。ブラックハウンドは上手く宙返りをして無人島に着地し、ムラサメも急激に変形して少しバランスを崩しながらも着地した。
その頃、オーブ軍も騒ぎになっていた。あのムラサメは一体何なのか。全く分からず、トダカはオペレーターの肩を掴みながら言った。

「誰が攻撃命令を出していいと言った!?あれは何処の隊のやつだ!」
「しょ、所属アサギ隊のキョウジ=オオハラ三尉の機体です!ですが、本人は艦にいるそうで…整備士によると、勝手に動き出したと…」
「無人で動いているだと!?…よし、何処からか遠隔操作をしているかもしれん。逆探知を試みろ。あと、キョウジ三尉には出頭するよう命じるように。それからあの機体は」
「無視、でいいんじゃないかな。とりあえずあのまま奪還屋を放置しておくのはカガリが危ないしねぇ。今のうちにフリーダムの回収、できるかい?」

トダカが一瞬指示に戸惑ったのに割り込む形でユウナが自分のあごを手で撫でながら言う。彼にとって、カガリは愛すべき妻…となる前にさらわれてしまったが、許婚であり、
そして国を良くするためには必要不可欠な人材として見ていた。だからこそ彼女を救出するべきだと思うし、連合との同盟の最中である以上、これ以上の騒ぎになるのも癪である。
しかしながら、ユウナはあのブラックk7という人材に興味を持ち始めていた。フリーダムを倒すだけの力をもち、そしてあの連合の機体であるストライクを持つ彼に、連合に対する一種の利用価値を見出したのだ。
もっとも、それ以上の危険を感じていたのだが。

「…いえ、フリーダム、再発進し、離れ、領海を抜けました」

ブラックk7が提示した条件をすぐに飲み、営業スマイルを浮かべて手をさし伸ばそうとした時、海に沈んでいたムラサメが突如大爆発をして、調査をしていた海兵を巻き込んでいった。
大きな波が起こり、二人を巻き込んだと思うと、次はムラサメの残骸が彼らの近くまで飛んできて落ちた。ユウナは思わず驚いて腰を抜かしてしまった。
それを見たブラックk7は思わず息を噴出して笑い、手を差し伸ばす。やはりこの男は強がる政治家だ。

「ま、あのピンクが何をたくらんでいるかは知らないけど、僕はあいつらを殺す。その邪魔をしたら…わかってるね?」

半分冗談気味に、しかし瞳の奥では本気で、ブラックk7はユウナを少し乱暴に起こす。とんでもない奴を引き入れてしまったかもしれない、そうユウナは考えて冷や汗をかく。

「ま、よろしく頼むよ、雇い主さん」

そんな彼の心情を知ってか、ブラックk7は何時も見せる不気味な笑みを浮かべていた。

揺らぐ機体、全てを奪いそうになる回転運動。綺麗な海、爽やかな青空。何もかもがグルグルと回っていて、ようは酔い始めてきたのだと感じている。
無事に連合の包囲網を抜け、プラント勢力下にまで逃げ込んだミネルバにも、ひと時の急速が訪れて早3日。流石に到着当日は全員が外に出ることなく、夜だと言う事もあり、基地の責任者の計らいで艦長ともどもぐったりと睡眠をとっていたが、
二日目三日目となると彼らも体力を取り戻し、艦内の責務も落ち着き、基地の施設に行こうかという声も上がっていた。と、その前に、早朝からラクスとビルによる模擬戦が開始されていた。
一応基地の責任者やタリアには許可を取っておいた事とはいえ、やはりバビ同士のドッグファイトに対し、観戦客は自然と増えていて、ミネルバの甲板ではクルー達がそれを見守っていた。

「あ〜あ、完全に後ろ取られてるよ、ナタリー」
「よくやるわよね〜。あ、またペイント弾喰らってる。でも、短期間でよく使いこなせてるよね〜」
『ほらバカピンク!もっとこうガッ!とガッガッ!と後ろを取るんだよ!』
「…効果音では分からないと思うぞ、ケイ」

シンとルナマリア、レイもまた、その観客の一人と化かしている。ケイにいたっては野次を飛ばし始めているが、まあ基地の施設もまだ開いていないような時間帯なので、あくびをしつつも良い時間つぶしになっているのだろう。
とりあえず大盛り上がりをみせているようだ。

「でもさ、素敵だよね…ああやって、空を飛んでいる女性って…」
「いや、実際はナタリーが飛んでるわけじゃないぞ…」
「い、いやそれはわかってるけどさ…」

と、そんな中、不意にゲイルがつぶやく。シンが彼に突っ込みを入れてみるが、よくみてみると、彼の頬は少し赤く染まっていた。
何となくそれでシンは彼の心情を読み取る。ああ、惚れてるのか。そう思いつつ、再びラクスのバビの方をみる。やはりまだ翻弄されていた。
正直、あの人に惚れる理由が良く分からない。それはまあ、一度は腹を割って話したことはあるものの、普段の言動や行動から見て、女性的な魅力というのは皆無に近い。
彼女のもともとの立場というか身分から時々見せる優雅さはあるものの、やはりそれらもかき消されている。何ともまあ、悲しい事に男性クルーほぼ全員の考えだったりするから救えない。
逆に彼女に不快感を持つものもまあ少ないわけだが。当たりのよい性格や多少暑苦しいくらいの真っ直ぐな性格が受けているのかもしれない。
まあそれはさて置き、ゲイルが彼女に惚れているのは確定事項なわけだが、心底その恋が実らないものだと思ってしまうわけである。

「(あのケイとビルさんの相手しなきゃいけないんだからな、多分)」

正確に言えば、そこにハイネという男が加わるのだが、まあそれはどうでもいいのだろう。
さて一方のラクスはというと、もはや何が何やらさっぱりである。後ろを取ったと思えば何時の間にやら再び後ろを取られていて、正面から攻撃すれば逆にこちらの攻撃が当たらずじまいであるという、
何とも全てが裏目に出ているのだ。というのも、もはやビルにとってはラクスの思考などわかりやすいもので、それにあわせて動いているだけなのだが。実直な彼女の性格が裏目に出ているのだ。

「くっ!また後ろを…!それにしてもここまでいいようにされてしまって…!ああ、もう!目がグルグルしますわ!」

もはやラクスは錯乱状態に陥っていた。錐揉みをしたり、上空に逃げたり、その動きもむちゃくちゃになってきたが、それをビルは追撃し続ける。正直この無秩序な軌道を真似るのは少々応えるが、
それでも錯乱した相手をしとめるのは簡単だ。それは、これを見ていた誰もが考えていた事だ。しかし、ここでラクスは持ち前の"誰も予測し得ない馬鹿な行動"を発揮する。
ラクスは一か八か、変形を途中で止め、急激にブレーキをかけることによって、背後を取る作戦を立てる。背後のモニターを見てビルのバビとの距離、位置を把握し、バビの変形システムを作動させる準備を整える。
そして、背後のバビが衝突コースから少しだけ外れた瞬間、ラクスはバビをブレーキさせながら変形させ、一気に背後へと回る。
ビルはその突然の事に声を上げて驚き、観客達も驚愕の声を上げている。そして、ラクスのバビは攻撃態勢に入る。そう誰もが思ったのだが。バビは動かなかった。

「…?あのバカ!」

動かない、それどころかそのまま落下しそうになるバビを、ビルは反転して自身のバビを変形させて、右腕を掴む。ラクスのバビはぐったりとした状態で釣り下がっていた。
ビルはため息を吐きつつ、ラクスに通信を入れる。

「おおい、ナタリー、生きているか〜」
『…な、何とか…げほ』
「全く…。あんな無茶な変形すりゃ、そりゃ気絶だってするわ。ま、お前のそのチャレンジ精神は褒めてやるけどさ」

呆れつつ、苦笑しながらもビルはラクスの事を少しだけ褒める。ラクスも乾いた声で笑いつつも、どうやら疲労感で一杯のようだ。これ以上の訓練も可哀想だと思い、真っ直ぐミネルバの方へと降りていく。
それを見た観客達は、各々自分達の持ち場へと戻っていく。ケイもすぐに格納庫へと急ぎ、シンとルナマリアもそれについていく。格納庫には、二機のバビが膝をついていて、そのうち一機からはビルが飛び降りてきた。

「ビルさん」
「ああ、あそこに置いておいてくれ。あとで基地のほうに戻す。ちょっとトイレ借りるぞ〜」

ビルの許に歩み寄り、状況を聞こうとしたケイだったが、ビルは見れば分かるといわんばかりに自分の事だけ言って、ミネルバ内部へと入っていった。
不審に思いつつも、ケイはピンク色…だったがカラー弾のせいで色々と口では言いがたい色になっていたバビのハッチを開く。その様子を、興味深そうにルナマリアとシンも見ていた。

「おい、バカピンク大丈夫か…」
「うっ」
「へ?」

…ここから先、文章化する勇気は無いので割愛させていただくが、ケイにとって非常に悲惨な事が起こり、そしてその後ラクスは自室でぐったりと寝込んでいるというのは言うまでもない。
おかげでケイはその後着替えざるえなくなり、しかも洗濯物を溜め込んでいた所為で、ラクスが土産に買ってきた黒い生地に「焼入処理」やら「まるてん☆さいと」などと書いてあるシャツしかなく、仕方無しにそれを着るしかなかった。
そのお陰で散々笑いものにされたとか、そういう話もあるがまあそれはさて置き。
タリアとマッド、そしてビルは三人、基地の責任者のいる部屋に向かっていく。溜まっていたミネルバに関する書類やら報告書やらなにやらと溜め込んでいたので、彼女達の休む暇は少なく、
今もその返答を受けに行かなければならない。それに、彼らがミネルバを離れる事により、クルー達も緊張感から解放されるのだ。
それはつまり、リラックスという士気の上昇にも繋がる。
とりあえずそう言う事だ。三人は司令室に入ると、黒人系の坊主頭の男が彼女らに敬礼をする。彼女達も敬礼を返す。

「ゆっくり休めたかね?ミネルバも、貴官らも」
「ええ、お陰さまで。これも、貴官のご配慮のお陰です」
「なあに。あの包囲網を潜り抜けてきたどころか、返り討ちにしてやったんだ。これくらいは当然だよ。しかし、大変な事になってきたな」

男は椅子に再び座り、回転椅子を回して窓の方を見つめる。少しばかり、坊主頭が光を反射しているが、そんなことは気にせず、タリアは苦笑しながら言った。

「しかし、そうとも言っていられませんわ。戦いが始まった以上、任務をこなすのが軍人…そうでしょう?」
「まあその通りなんだがね。とりあえず、こちらもやれる事はやるつもりだ。さて…まずは人事異動についてなんだが…。ビル=タンバリはこちらに戻ってくると…」
「オレはもう帰りますよ」

男の言葉にビルは少し付け足す。それに男は少し咳き込みながら改めて話を続ける。

「…とまあそういうわけらしいのだが、まあこのゲイルという青年もうちが引き取っていいのかね?」
「ええ。本人もサインを済ませ、了承しております。まあ左足と右手を骨折していますから、ミネルバよりもここで療養していたほうが本人としても気が楽でしょう。
…ミネルバは恐らく、戦中に向かうでしょうし」
「それはまあ、そうだな。ミネルバはザフトの中でも有数の高性能艦。元々が宙戦用とはいえ、これを宇宙に戻すのも勿体無い話だろう。地上を、回ることになるな。
まあ、確かに医療施設が整っているここにいるほうが、気が楽といえば気が楽だ。まあ、どこにいようと死ぬときは死ぬがな」
「そのようで」

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