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LOWE IF_592_第09話2

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:55:46

男の言葉にタリアは素直に納得してみせる。何ともまあ、地上にいる士官達の質は意外と高いようだ。プラントの中心からはずれ、こうして危険と隣り合わせな場所に送られる人物。
なるほど、無能ではないらしい。

「うむ。…ではゲイルはこちらで引き取るとしよう。それからマッド主任。MSのほう運搬の方は任せる。両機の修理はこちらに任せてもらおう。
バビの部品のほうも持って行き給え」
「はっ」

マッドは敬礼し、男に対して感謝の意を表す。男はそれを見て頷き、そして目線を書類の方へと戻して苦笑する。その様子に少し不審そうに見ていた。
そんな彼に気がつき、男は少し苦笑を大きくして、書類を見つめながら言った。

「いや何。このケイ・クーロンという男のバビ改造計画のための部品請求書なんだが…こんなものを集めて何を作るつもりなんだかと思ってな」
「ああ…まあ若い連中のことはよくわからんですから」

男の苦笑の意味を理解し、マッドも苦笑してみせる。ケイを中心に、どうやらカスタマイズするグループが出来ているらしく、マッドもとやかくは言っていないものの、
少し頭を悩ませているようだ。そんな若者代表、ケイは大きくくしゃみをする。

「…うう、やっぱりこのシャツはダメだ。誰からかに噂されている気がするなぁ…」
「彼女からの土産なんだ、着なきゃだめっすよ、ケイさん〜」
「そうっすよ〜なんつったて、幸せ者ですからね、し・あ・わ・せ・もの!へっへっへってあつっ!」

食堂にて、ケイとヨウラン、それにヴィーノは各々好きなものを頼んで口に運んでいた。ケイはラーメン、ヨウランは日替わり定食、ヴィーノはスパだった。
からかう二人に対し、特に気に食わなかったヴィーノに対してケイはナルトをでこに押し付ける。ヴィーノは後ろに仰け反りながら転び、全員の注目を集める。
ケイは不機嫌そうに鼻を鳴らした後、ラーメンを一杯すする。ヨウランもハンバーグを一切れ口に含んだ。

「実際のところ、ナタリーさんとは上手く言ってるんすか?」
「だから、僕と彼女はそういう関係じゃないって」
「本当ですか?随分と、仲良いみたいじゃないっすか」
「…あっちは、『大事なお友達』、だとさ」
「そうっすか」

がっくりと頭を落とすケイに対し、流石にヨウランとヴィーノはそれ以上追求しなかった。同じ男として、大事なお友達宣言ほどつらいものはない。
泣ける話である。2年間もほぼ一緒にいたというのに、友達から発展していない自分が何処か情けなく思える。やはり、近すぎる関係はお互いに、一種の距離をとりたがるものだろうか。
いやいや、そんなことは無い。恐らくあのバカピンクは愛とか歌いつつ恋人とかそういう関係に疎いだけだ。きっとそうだ。そもそも僕があのバカピンクと恋人と同士なんてそんなこと。
と自分に言い聞かせつつ、ケイはラーメンをすする。と、そんなところへルナマリアとメイリンが現れた。二人とも買い物袋を引っさげて、年頃の少女のような雰囲気でやってきた。

「おお、ルナさんにメイリンちゃんじゃないか」
「やっほー」
「どうも〜」

ルナマリアとメイリンは三人に軽く挨拶をすると、彼らの隣に座る。ケイは興味深そうにルナマリアの買い物袋を見つめる。

「…ルナさんは音楽に興味あるのかい?それ、音楽雑誌だよね。しかも五冊」
「ああ、これナタリーさんに頼まれて買ってきたんですよ」
「ああ、なるほどね」

ルナマリアの苦笑と言葉にケイ、いやその場にいた全員が納得する。あの模擬戦後、グロッキー状態に陥った彼女は、今頃部屋でぐったりと寝ている頃だろう。
というわけで、同じ部屋の住人であるルナマリアが代わりに買ってきたというわけだ。だがしかし、女性が好きそうな音楽雑誌というのは一冊くらいで、他はというと。

「…HIPHOPにロック…デスメタルまであるね。あいつの趣味が分からないな」
「まあ私達の部屋にも結構色々とありますからね。全部ナタリーさんの私物ですけど。まあ、私も使わせてもらっているんですけどね、音楽嫌いじゃないし」
「ふうん」

ケイはルナマリアの話を聴きながらスープを飲み干す。そして、箸をどんぶりの中に放り、楊枝を右手に持つと、その場から立ち上がった。

「さてと…僕はお先に失礼するね」
「あれ?どこかいくんですか?」
「ん?ちょっと基地の工場までね。色々と、MSの改造をしようかと思ってさ。…そんな目で見ないでよ。改造するのはあのバカピンクのやつだけだからさ」
「それ聞いて安心しました。ケイさんってちょっとマッドエンジニアの匂いがするんですよ。バビのバヨネットも然りで」
「あれは急ごしらえで、まだ未完成なんだよな…ってそうか、こういう発言か…。まあいいや、僕はお先で」
「はいはい〜」

どうやら自分にはマッドサイエンティストの才能があるらしいと自覚してみると、何となく空しくなった。2年前からとがが外れた彼にとって、MSの改造も楽しいもので、
その被験者となっているのが何時も彼女、ラクスだ。ハイ何とかハンマーという名の鉄球だとか、ゴルディ何とかクラッシャーという名の金槌だとか、ナタだとか。
正直半分遊びもう半分は趣味で作られていて、実用性に欠けるものが約9割なのだから世話が無い。それにしてもそんな開発する予算が何処から出ているのか、といわれればその殆どがジャンクパーツで作られていて、
格安の値段で作っていて、それでいて彼自身もカスタマイズの仕事を請け負っているから、それなりに儲けているようだ。
ミネルバに乗る前なんかでは、迷彩カラーの地上用ゲイツを作ったとか何とか。全く、抜け目の無い男である。
さて、そんな彼は工場で、ミネルバから持ち込んだバビを解体して、腕部分の改造を行っている。腕の近くにはインパルス用の高周波ブレード。
どうやら、腕の隙間にこれを差込、収出可能にするようだ。ケイは伊達めがねを外して汗を拭い、寝かされているバビを見つめながらつぶやく。

「ふう…ま、あんまり重いものを乗せちゃ、こいつの良い所をぶっ壊しちゃうからね。後はワイヤーでも使って何か作るか…。あの刀とかは、ジンが直ってからだな。早く直れよ〜。やっぱ、あいつの相棒はお前しかいないんだから」

後ろを振り返ってみると、そこにはかつてのラクスの愛機ジンが聳え立っている。だが、その姿は以前の綺麗な姿ではなく、もっとボロボロの状態で、少し哀愁を感じる。
だが、このジンもこの基地で改修を受け、正式に自作ではなく軍を上げてカスタマイズ機として復活する事は決定された。暫く先にはなるものの、出来次第ミネルバに届けられる。
それが楽しみでしょうがない。ユニウスセブン戦でラクスが持ち帰った刀も標準装備となるらしいから。

「ここで何をしているんだ?」

と、そんなところにふとレイが現れた。ケイはスパナを片手に背中を向けたまましゃべりかける。

「別に。ちょっと、あいつの機体の改造をしているだけさ。メカニックマンとしてね。君こそ、こんなところでなにやっているのさ」
「俺は散歩をしていただけだ。たまたま、お前を見掛けたんでな。寄ってみただけだ。しかし、あのライフルといい、お前はつくづくこういうのを考えるのが好きだな。
さすが、スーパーコーディネイターのクローンだけはあるな。戦いのために作られた存在、といったところか。身分がどうなろうが、戦いから離れる事ができない。
お前自身ではなく、ナタリーに戦わせているだけでな」
「…何とでもいえばいいさ。今あいつが戦っているのはあいつ自身の意思だし、それを死なないようにするのが僕の仕事だよ」
「…ふっ…まあ、そう言う事にしておこうか」

レイは少し笑った後、近くに転がっていたパーツの上に座り込む。ケイは少し首を回した後作業を再開した。この作業場は普段は誰にも使われていないのか、静かで、音らしき音といえば、
ケイの作業の音しか聞こえてこない。そこでふと、ケイはレイに話しかけてみる。

「ねえ、レイ」
「何だ?」
「君も、えぇと…何だっけ。名前忘れちゃったな…ええと…ああ、そうそう。クルーゼやムゥさんが持っていたような特異な空間認識能力っていうの、持ってるの?」
「ん…?ああ、そうだな…。一応、と言っておこうか。今のところラウやムゥ・ラ・フラガのように使いこなせているわけではないのでな。
同じ能力者が近づけば、それを感じ取れるくらいだ。…そういえば、あの強奪犯の指揮者らしきものも能力者のようだったようだが…」

レイは思い出したように言う。

「へぇ…そうだったんだ。…ああ、それでさ。その能力って、テレパシーとかそういうこととかできるの?」
「何だ急に。…そうだな…不可能…ではないだろうが…。よくわからないな。この能力自体、そんなに解明されているわけではないし、ラウもそんなに深くは喋ってくれなかったからな」
「そうかぁ…」
「どうしたんだ、急に」
「いやさ…。最近よく、クルーゼが僕にしつこく語りかけてくるというか、嫌味を言ってくるというかね…。もしその能力にテレパシーがあれば、何処かで生きているかもしれないかな、と思ってみたんだけど。
やっぱ都合が良すぎるか」

ケイは苦笑しながら作業を続ける。レイは彼の言葉を聴いて、少し驚いたように顔をはっとさせていた。彼自身、あまり霊だとかは信じないたちなので、そうとなればラウが生きている可能性があると考えるしかない。
そして、この男にずっと語りかけているというのか。そうでなければ、ラウの精神がケイに取り憑いたいうのだろうか。どちらにしろ、こんなに身近にいるというのに、話すことが出来ない。
話したいのに、話せない。そんなもどかしさがあった。

「ん?」
「?」

ふと、何かが飛んでくる音に気がつき、ケイは空を見上げる。レイもはっとして上を見上げてみる。空は眩い光を放っていて、少し眩しかった。ケイのサングラスはそれを遮断し、空にあるものをはっきり彼に見せる。
始めは何も無かったが、すぐに赤い何かがミネルバのほうへと飛んでいっていく光景が見えた。ケイにはどこかで見たことがある機体。ああそうだ、あれは。

「セイバー?完成したのか。ていうか、誰が乗ってるんだ?」
「セイバー…セカンドシリーズの生き残りか」

ケイは少しだけ興味を持ちながらも、別段それを追うようなことをせず、再び作業を開始する。レイはこれ以上話しても無駄だと思い、ミネルバの方へと帰っていった。
そんな彼とは対照的に、ミネルバの格納庫ではちょっとした騒ぎが立っていた。買い物を済ませていたルナマリアやメイリン、シン、そして整備兵一同は突然入ってきたMSに驚き、そのほうに視線を集める。
ケイにセイバーと呼ばれたMSは、そんな彼らを気にすることなく、当然のように格納庫の空いている場所に入る。そしてフェイズシフトが落ちると、ハッチが空いた。

「…あ!」

そこから出てきた人物を見て、ルナマリアは思わず声を上げる。出てきたのはオーブにいるはずのアレックス・ディノ、いやアスラン・ザラだったのだから。

「認識番号285002、特務隊フェイス所属アスラン・ザラ。乗艦許可を」
「あ、あんた!一体なんで!?どう言う事だよ!?」
「もう!口の利き方に気を付けないさい!彼はフェイスよ!」

訳が分からないとシンがアスランに食って掛かろうとしたのをルナマリアが咎める。シンがよくアスランの服の胸の部分を見てみると、そこには特務隊フェイスを表すバッジが付けられていた。
ルナマリア達が敬礼するのを見て、シンは少し納得が行かない様子で敬礼をする。アスランも敬礼を返し、辺りを見渡しながら言う。

「艦長は艦橋ですか?」
「ああ、はい。恐らくは」

アスランと目が合ったマッドは少し曖昧に答えてみせる。先ほど司令室から帰ってきてから、職務を行うとだけしか聞いていないから、恐らくなのである。

「私が案内…」
「確認して御案内します」
「あ…」
「あ…ありがとう」

そこですかさずとメイリンが前に出てアピールしようとしたが、それをルナマリアが制し、アスランを連れて格納庫を後にしようとした。
シンは納得がいかないというメイリンを横に、彼らを呼び止める。

「アスランさん、ザフトに戻ったんですか?」
「ああ…そう言う事になるね」
「何でです?」
「…」

シンの問いに、アスランが答えることはなかった。正直なところ、彼自身もまだ言葉として表せるほど、整理がついているわけではない。
だから、答えなかった。彼は少し沈黙した後、ルナマリアに促されてその場を後にした。シンはただ、その後姿を見つめているしかなかった。
さて一方そんな頃。バカピンクことラクスは包まっていた掛け布団から這い出てきて、時計を見つめる。すでに昼も過ぎた頃。だがしかし、まだ気分が良くならない。
どうやら重症のようだ。今回の酷い結果はこれにも影響されたようだ。しかし、腹は減る。

「(気持ち悪い…けど御腹減った…仕様がありませんわね、食堂で消化のいい物でも食べてきましょう)」

何だかすっきりとしない表情で、青ざめた顔をしながら、ラクスはぼさぼさの髪をそのままに部屋から出て、施錠をしてエレベーターへと向かう。何処か歩き方もふらふらとしていたが彼女は気にせず歩き続ける。
エレベーター前にたどり着き、ラクスはスイッチを押して呼び出す。エレベーターが来るまでの間、とりあえず壁に寄りかかってエレベーターが来るのを待つ。
そんな中、朦朧とする意識を保ちつつ、何だか重症だということを自覚しておいて、来たエレベーターに乗り込む。
食堂がある階を押したつもりだったが、その隣を押してしまい、しかもそれに気がつかず、ただたどり着くのを待つ。そしてたどり着いて降りてみると、何やら違和感がある。

「(あ)」

気がついたときにはすでに遅し。後ろを振り返ってみるとすでにエレベーターは閉まり、もう一度ラクスがスイッチを押したときにはすでに下へと向かって行ってしまった。
調子が悪くて不機嫌なラクスは少し眉間にしわを寄せ、乱暴に壁に寄りかかる。辺りを見渡してみると、ここは艦橋や艦長室がある階のはずだ。
汗を拭いながら、左の方を向いてみると、そこにはみたことのある特徴的な髪を持った少女が。ルナマリアだ。
何でこんなところにと思いつつ、その奥艦長室の方をみると、やはりみた事のある男がいた。あれは…アスラン…

「ザラ!?」

朦朧としていた意識が一気に目覚め、途方も無く叫び、そして艦長室まで駆ける。それをみたルナマリアは驚いて、急いで彼女を止める。

「ど、どうしたの、ナタリーさん!?」
「何でここに彼がいるんです!一番ここにいてはいけない人が何で、ここ…に…は…ひ…」

思い切り叫んでみたもののすぐに息切れして、ルナマリアに体を預ける事になる。ルナマリアは何をどうすればいいのか分からず、少しおどおどした後、ラクスを抱いたままそそくさと後にしていった。
気を失っているラクスは何だか重くて、何だか恥ずかしさあまりに彼女は文句の一つでも叫びたかった。
という彼女らを置いて、艦長室では話が進む。

「まあ外で騒いでいるバカお二人はほっといて、まさか貴方が、ねぇ」
「はぁ」
「一人フェイスが来るとは聞いていたけど、まさか貴方が最新鋭の機体を持ってやって来て、それでいて、私をフェイスにするなんて、議長は何考えているのでしょうね」
「申し訳ございません」
「貴方が謝ってどうするのよ」

少し意地悪な口調でタリアはアスランに問い詰めると、少しアスランは申し訳なさそうに首を下げる。どうやら何か、一度裏切っておいて戻ってきた事についての自責を感じているようだが、まあそんなことはどうでもいい。
タリアにとって彼が軍人として働けるかどうかのほうが問題なのだから。特に、この問題児の多いミネルバないでは。

「それで?この命令内容は、貴方知ってる?」
「いえ、自分は聞かされてないですが」
「中々面白い内容よ。アーサー」
「はあ。ええっと」

タリアはアスランが来た時に渡された命令書を少しにやけながらアーサーに手渡す。アーサーはそれを、昼食であるカップ麺を机に置き、ゆっくりと読み上げた。

「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かえ。現在スエズ攻略を行っている駐留軍を支援せよ。スエズの駐留軍支援ですか、我々が!」
「ユーラシア西側の紛争もあって今一番ゴタゴタしてる所よ。確かに、スエズの地球軍拠点はジブラルタルにとっては問題だけど。そこで我々に白羽の矢が立ったわけだけど、
まあ何と言うか、という感じよねぇ。予想はしていたけど、まさか地上艦でもないミネルバに頼らなければいけない状況というのもね」
「艦長…ここは禁煙です」

アーサーが読み上げた後、説明を付け加えて、少しだけ愚痴を零しながらふとタバコを咥えるタリアに対して、アーサーは空かさず突っ込みを入れながら張り紙を指差す。
張り紙には『全艦終日禁煙!喫煙は喫煙室でどうぞ』という文字が書いてあった。何ともまあ、喫煙者に優しくない世の中になったものである。
タリアは心底残念そうな表情でタバコを箱に戻す。アスランは話を戻す意味も込めて、彼女らに質問する。

「ユーラシア西側の紛争というのは?…済みません。まだいろいろと解っておりません」
「常に大西洋連邦に同調し、と言うか、言いなりにされている感のあるユーラシアから、一部の地域が分離独立を叫んで揉めだしたのよ。つい最近の事よ。知らなくても無理ないわ」
「…」
「開戦の頃からでしたっけ?」

アーサーがアスランの変わりに答え、それに対してタリアは頷く。

「ええ」
「確かにずっと火種はありましたが」
「開戦で一気に火がついたのね。徴兵されたり制限されたり。そんなことはもうごめんだと言うのが、抵抗してる地域の住民の言い分よ。それを地球軍側は力で制圧しようとし、かなり酷いことになってるみたいね。
そこへ行けということでしょ?つまりは。まあ連合の瓦解を狙って、ということねぇ。まああの狸が考えそうな事だけど」
「狸?」
「あ、いいえこっちの事。さて、二人にもしっかり働いてもらうわよ」

何となく言ってしまったことをとりあえず誤魔化して、タリアは真剣な表情で二人を見つめる。二人はその表情を見て、敬礼を返し、意を表した。
アスランも、この任務を果たすことでカガリの助けになるならばと考え、そして行動を写すのだった。

さて、時間は過ぎ、夜となったミネルバ。ラクスはやっとの事意識を取り戻し、起き上がる。どうやら自室に戻っているようだが、何時戻ったというのだろうか。
記憶をたどってみても、中々はっきりしない。

「ああ、やっと起きた」

と、左を見てみると、そこには別のベッドの上に座っているルナマリアの姿だった。今は軍服ではなく寝巻きを着用していた。
ああ、そうだ。彼女を見て思い出した。ここにアスラン・ザラを見かけて、あの男を追いかけて、艦長室に入ろうとしたらルナマリアに止められたのだった。
興奮していた上に空腹と体調の悪さが重なって、気を失ったのか。とりあえず今は、すこぶる腹が減っていて、そして体調はいい。
時計を見てみると、もう夜の11時だ。

「…すいません、ルナマリアさん。ご迷惑をお掛けして」
「いいえ、どういたしまして」

ラクスはベッドから起き上がってルナマリアの方を向いて、ここまで運んでくれた事を感謝しつつ謝罪の言葉をかける。ルナマリアは少し嫌味も込めつつも、
素直に答える。そして少し間を置いて、ルナマリアは質問をした。

「ねえ。あの時なんでアスランさんに突っかかろうとしたんです?」

もっともな質問だ。普段おっとりとしていて、怒ることとは無縁そうな少女が、急に血相を変えて、全速力で走ってきたとなれば、
何故そういう風になったかというのは気になる事である。ラクスは少し息を整えた後、静かに答えた。

「昨日…オーブでセイラン家とカガリさんとの結婚で、何者かにカガリ様が攫われたという報道がありましたよね」
「ええ。アスランさんも、少し驚いてましたね。でもそれがどうしたんです?」
「…少しテレビ中継で無理な笑顔を作っているカガリさんと、出発前のあの様子を見て、酷く彼女が悩み苦しんでいる様子だというのがわかったのですが、それなのにも関わらず、
一番傍にいて上げられて、それでいて、彼女の支えになってくれる人が、何でザフトに戻ってきたんだろうって、そう思ったんです。それで…」
「それだけ?本当に」
「…」

ルナマリアはその答えに対しても疑問を感じていた。嘘は言っていない、だけど、何か隠している。いや、今だけではない。ずっと、今までも、そしてこれからも。
だからこういう二人きりのときに聞きたかった。

「まだ付き合って短いけど、少しずつナタリーさんの事わかってきたんです。ナタリーさん、嘘つくのや隠し事は下手糞だって。だって、顔に出るんですもの。
今だって、そういえば初めてあった時だって。何時も隠し事している。多分、ケイさんとか、ナタリーさん自身のこととか。本当は隠したくないのに。ナタリーさん悩んでる。
…それをムリに知ろうとする事はエゴだというのはわかっているけど、それでも私は知りたいな。悩みを共有しあって、一緒に考えて、一緒に解決していく。同じ部屋に住んでて、共同生活を送っている仲間同士として、
ううん、友達同士として。あ、でもやっぱり、無理に言わなくていいですからね、そりゃ、人には言えないこともありますから」
「…」

ルナマリアの言葉に、そこまで言われてはと少し迷うラクスであったが、やはり言い出せない。彼女の隠し事、彼女自身の正体の事は、明かせば自分の、そして彼女の命に関わる事になりかねない。
そんな彼女の様子を少し汲み取ってか、ルナマリアは少しため息をついた後、笑みを浮かべて優しく言った。

「やっぱり寝ましょうか。もう、お互い疲れてますし、明日から新しい任務が始まりますからね」
「新しい任務?」
「ええ。我々ミネルバはジブラルタルに向かい、スエズ駐留軍の援護に向かう、だそうです。暫くは地上にいそうですね〜」
「そう、ですか…。じゃあ、カーペンタリアともお別れですね」

カーペンタリアとの別れ、それはビルとの別れも意味していて、ラクスは少し寂しそうな表情をみせる。ルナマリアも少し苦笑しながら言った。

「そういうことになりますね。…ビルさんや、ゲイルとも」
「え?ゲイルさんが?どうかなさったのですか?」
「あの子、ユニウスセブン戦で怪我してましたよね。その治療のために暫くカーペンタリアで療養するそうです。それに、本人の意向でもあるそうで」
「そうでしたか…。寂しくなりますわね…」

あまり喋った事はないものの、つい最近まで一緒に戦ってきた仲間としては寂しくなるものだ。特に、先日なんかは彼と食事中に会話を楽しんだばかりだというのに。
自己紹介というか、特になんとも無い会話だったのだが、やっと彼が打ち明けてくれたという事実が、余計寂しさを呼ぶのかもしれない。
と、そこで会話が途切れ、とりあえず眠るために電気を消し、ルナマリアは小さな灯りをつけて本を読み、ラクスはイヤホンをつけて音楽を聴いている。
お互い、背を向けあいながら寝転がっていて、視線が合う事はない。と、そんな沈黙の中、ラクスは少し決心した表情を浮かべてイヤホンを外し、ルナマリアに声をかける。

「ルナさん、さっきのことなんですけれど…」
「ん?」

ルナマリアは読んでいた本を手にしたまま、少し体を横に転がし、ラクスの方を見る。ラクスはルナマリアを背にしたまま、すこし躊躇した後、ゆっくり喋り始めた。

「…やっぱり、隠し事ってあまり良くないです。でも、やっぱり今は教えられません。本当にごめんなさい。何時かは、話そうと思います」

ルナマリアは黙ってラクスの話に耳を傾ける。ラクスは、もう一度言葉を捜しながら続ける。

「でも、一つだけ…一つだけ私の秘密をルナさんに教えようと思います」
「…うん」
「私、アスランさんの事、大好きだったんです。愛していた。でも、離れ離れになって…お互いが会えなくなって…。それで…自然消滅、というか…勝手な片思いだったかもしれないんですけど…。
それでも何時かまた会えたらってずっと思ってました」
「そっか…で、アスハ代表とアスランさんが一緒にいる時に再会しちゃった」
「ええ…」

悲痛が篭った小さな声。それでもルナマリアは止めることなく、聞き続ける。ラクスは少し泣きそうになりながらも、我慢して続けた。

「あのお二方が付き合っているだとか、いい関係だとか、そういう噂って言うのは、風の噂とかで聞いたことがあって、知っていました。
私は…あの人が幸せでいれるならいいと思っていましたし、再会して、あの二人が本当にいい関係で、幸せそうで、切り離せない関係だったから、
だから素直に受け入れられましたし、それに…諦められました。でも…今は苛立ちしかでません。国を裏切ってまでオーブに行って、
あの国とカガリさんのために働こうとしたところだというのに、またここへ出戻ってきて…。何がしたいのか、それが理解できません」
「…そう…。でも、アスランさんだって、自分の生き方を自分で選んで、それでここに戻ってきたのだから…。多分あの人たちも苦渋の選択だったんですよ。
オーブのために、みたいな。正直言うと、私あんまりオーブって好きじゃないんですけど。何か、滅茶苦茶な国だし。でも…国を想うことって、素敵だと想うから。
だから、見守ってあげるのも大事だと思うな、私も。それで、彼らが間違った方向に行こうとした時、私達が止めてあげればいいんだから」
「…そう、ですわね。少し、様子を見るのが一番でしょうか…もしかしたら、この道が最良なのかもしれないですし…。でもやっぱり…」
「…許せないんだったら、許せないままでいいと思う。でも、それなりに認めてみてもいいんじゃないかなぁ。持論ですけど」

ルナマリアはアスランの事を庇いつつも、付け足して、ラクスをフォローする。彼女自身としてはアスラン・ザラは英雄であり憧れの人だったので、
あまり悪く言いたくはないが、普段人を悪く言わない彼女にこうも言われて見ると、少し考え直したくもなる。しかし、やはり彼女なりの視点から言った。
ラクスも、それはわかっていたから、それ以上何も言わなかった。少しだけ、沈黙が続いた。

「…ありがとう、ルナさん。少しだけ、気が軽くなりました」
「それはよかったです」

それを破り、ラクスはルナマリアに悩みを聞いてくれた感謝の言葉を投げかけた。ルナマリアは少し笑みを浮かべてそれを返す。

「…そういえば、ルナさんは何かお悩みはないのですか?私ばかり聞いてもらっては何だか不公平というか…お世話になりっぱなしというか…あ、別に無ければ別にいいのですが…」
「え?ああ、あんまり気にしなくてもいいのに…。そうですねぇ…家族の事、かな」
「ご家族のことですか?」
「うん…メイリンの事、ね。後祖父の事」
「…」

ルナマリアは寝返りをして、仰向けになって語りかける。

「うん。あたし達姉妹はね…両親がいないんです。お母さんはメイリンを生んですぐに亡くなったって言ってて…お父さんも交通事故で死んじゃったの」
「…!」

ルナマリアとメイリンの二人の真実を聞いて、ラクスははっとする。そして同時に、過失とはいえ、辛い事を思い出させてしまったと、そういう話題にもって行ってしまったことを後悔する。
しかし、ルナマリアは続けた。ラクスもそれを受け止めるように黙って聞き続ける。

「両親がいなくなって…私達二人は共同で、二人きりで暮らすことになった。でも、生活費だとか学費だとか…そう言う事に困って…そんな時、祖父から援助するっていうメールが来た。
…私は断りたかった。祖父は父が死んだときも、母が死んだときも葬式に姿を現してくれなかった。祖父はナチュラルで、地球に住んでて、結構な身分で、地上がゴタゴタしていたから、時間が取りづらいっていうのは分かるけど、
それでも連絡の一つでもくれればよかったのに、連絡すらくれなかった。そんな祖父が急に私達の機嫌取りなんて、都合が良すぎると思ったんです。でも…やっぱりお金が必要だった。だから、断れなかった。
メイリンは喜んでました。生活が楽になるって。元々、あの子は祖父に対してそんなに悪いイメージがなかったから…。私は複雑でした。祖父が嫌いでしたから。
…それで今日、ちょっと夕食中にメイリンと祖父の話になって…気まずい感じになっちゃったんですよ。あの子に、何で祖父を悪く言うのかって言われてしまいました。私としては、メイリンとは仲良くしていたんですけどね…。どうしても、祖父に関してはダメなんです。
どうしたらいいんですかね」
「…そうだったんですか…。私は…メイリンさんの気持ちが分かります。殆ど唯一と言ってもいい、肉親ですから。私にも…両親はいませんから」
「あ…」
「多分、メイリンさんもルナさんと同じ考えなんですよ。それで、お爺様の事をルナマリアさんに好きになってほしいんですよ、多分。…だからルナさんは、そのメイリンさんの気持ちを理解しようとしてあげる事が第一だと思うんです。
理解して…理解し切れなくて、どうしても否定したかった時は、そのときは彼女に本音をぶつけてみるのが一番だと思います。それにさっきルナさん、私に言ってくれたじゃないですか。
許せないんだったら、許せないままでいいと思う。でも、それなりに認めてみてもいいんじゃないかなぁって」
「あ…なるほど…そうですね。とりあえず、メイリンともっと色々話してみようと思います。それでダメだった時は…そのとき考えます。ありがとう、ナタリーさん」
「…こちらこそ、ありがとうございました。そして、無理に聞いてしまってごめんなさい」
「ううん、こちらこそごめんなさい。何か、自分で言っておいて、自分で貫けてなかったみたいだし…薄っぺらくなっちゃった」
「そんなことないですよ」

ルナマリアとラクスはお互いに礼を言い合って、そして謝罪した。だが、多少無理やりでもお互いの悩みを知る事ができた、という事実は少なからず彼女たちの絆を深める事になった。
そう思えると、何だか二人の顔に自然と笑みがこぼれてきた。

「ルナさん…。明日から頑張りましょうね」
「…うん、お休み」

そんな心地で、二人は夢の中へと入っていった。

翌朝。

「うぃ〜っす」
「おはようございま〜っす。ってケイさんめっちゃ瞼の下に隈できてますよ!?」
「おおう、寝てないぞ、僕は寝てない!うん、寝てない!アハ、アハ」
「(やべぇこの人、相当キてるよ)」

格納庫にて、ヴィーノは徹夜明けの酷い顔をしたケイに出会い、ぎょっとする。相当急ピッチで仕上げたのだろう。疲労困憊を通り越して、どうやら一種のハイ状態になっているようだ。
正直関わりたくないと引き気味なヴィーノの元に、元気な声が聞こえてきた。

「お〜っす、ヴィーノ。おはよ〜」
「お早うございます、ヴィーノさん、ケイさん!」
「お、おっす!ルナ、ナタリーさん!」

あまりに元気な声に、ヴィーノはさらに引いてしまう。普段以上に元気なルナマリアと、昨日の体調不良は何処へ飛んだのか。いや、体調不良の反動でここまで元気なのか。元気すぎるラクス。
ケイにいたってはその声で倒れそうになっている。そんな彼を見かねて、ラクスは彼のもとへと歩み寄って、肩を叩いた。

「ケイさん、大丈夫ですか?倒れそうになって…あんまり無理しちゃいけませんよ?」
「…誰の所為だと思ってるんだー!!」
「キャー!」

ケイの怒りと八つ当たりのコブラツイストがラクスに決まる。ラクスは悲鳴を上げながら、ケイの背中をバンバンと叩く。しかし、この光景も何時もの事であるから、妙な関係である。ヴィーノは呆れて、ルナマリアは苦笑しながら見ていた。

「どうしたんだ?ナタリーさん、昨日より断然元気じゃん。何かあったの?」
「ん?まあね…女の子同士の秘・密!ってところよ」
「何だそれ、ちょっと気色悪いぞ、ルナってイタタタッタタ!!」
「だぁれが気色悪いって?」
「や、やめ、ちょ!フォール!フォォル!関節はそっちにはまがらなアッー!ゲイル助けてー!」
「え、ゲイル?」

ヴィーノの失言に対し、ルナマリアは華麗に関節技を決めて、ヴィーノは必死に抜け出そうとするが、ルナマリアのあまりの強さに抜け出せず、ついには近くを通りかかったゲイルに助けを求める始末である。
そんな彼の言葉でゲイルに気がつき、ルナマリアはヴィーノを解放してそっちの方を向く。どうやらゲイルはこれから荷物を持ってカーペンタリアのほうへと行くらしく、松葉杖を持っている右手とは逆の手にバックが握られていた。

「あ…」
「ゲイルさん?ほい!」
「アッー!」

そんな彼にラクスも気がつき、体力不足でもうすでに死に体のケイを簡単に解くと、彼の元へと歩み寄る。恐らく、他のメンバーは昨日の地点で別れを言ったはずだが、
ラクスはまだ何も挨拶もしていなかった。

「ゲイルさん。ルナマリアさんから聞きました。この艦を降りられるそうですね。折角仲良くなったばかりだというのに、残念です。カーペンタリアでも頑張ってくださいね」
「う、うん…俺も、ナタリーさんとさ、最後に喋れてよかったよ…」

少し照れ気味な表情を浮かべて、ゲイルはラクスと握手を交わす。そんな様子をルナマリアは一種、何かのドラマを見ているような様子で見ていた。
暫くしどろもどろとゲイルは口を篭らせていて、ラクスも笑顔ながらどうしたのだろうとゲイルの言葉を待つ。
ゲイルは一度深呼吸して、そして一大決心の思いで口を開いた。

「ナ、ナタリーさん!俺、貴方の事が…!」
「え?」
「おお?」
「俺…!貴方「おおい、ゲイル!何やってるんだ、早く来い!」…」

ラクスが少し残念そうながら見送りの言葉を贈ると、ゲイルも別れの言葉を言い、そして彼は躊躇した後、勇気を振り絞って告白をしようとしたまさにそのときだった。
搬入口から、ビルの大きな声が響いてきて、ゲイルの言葉はラクスに伝わる事はなかった。ルナマリアはやってしまったという表情で手で顔面を覆って残念そうな声を出してしまった。
それに対し、少しぎょっとしてしまったが、それでよかったのだと、ゲイルは思い、彼女に対して敬礼をしていった。

「…俺は、貴方の無事を…祈ってます!」
「?はい!ありがとうございます」

少し不審に思いながらも、ラクスも敬礼を返す。そしてゲイルは踵を返して、ビルのほうへと歩いていく。そして、朝日の光の中に、二人は消える前に、もう一度ラクスたちの方を向いて言った。

「どうかお元気で!!」
「達者でやれよ、ナタリー!そんで、何時でも帰って来い!あいつらは何時でも待ってるからな!」
「ええ!お二人共お元気で!」
「達者でね〜!」

ラクスとルナマリアは手を振って彼らを見送る。ビルとゲイルも手を振り、それに答えながら朝日の光に消えていった。ビルとゲイルは、ゆっくりとミネルバから離れていく。

「さっきは悪かったな」
「いえ、別に」
「…本当に良かったのか?今なら引き返せるぞ」

と、その途中。ビルはゲイルに訊ねかける。本当に降りてよかったのか、名残惜しいのではないか、特に、ラクスに関して。しかし、ゲイルは今までみせなかった爽やかな笑顔で答えた。

「俺があそこにいても役に立てないで、迷惑をかけるだけです…。それは、ナタリーさんに対しても同じですから…。だから、俺、今よりも強くなって、何時かあそこに戻って…それで、
今日伝えられなかった事を、伝えようと思います」

弱き少年の強い意志。彼の瞳に、ビルは何時かのラクスの姿を思い出す。まだお嬢様で、何も知らなかったあのとき。彼女は果敢にもMSに乗って戦闘をしようとした。
そのときと同じ瞳を持っているゲイルを、ビルは何となく気に入って、彼はゲイルの背中をぽんと叩いて励ました。

「そうか、意気込みはよし。あとは努力と根性だな!」
「はい!」

ゲイルは力強く頷いてみせる。何時か戻る。そして、今度こそラクスに告白する。その思いを胸に。

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