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LOWE IF_592_第11話2

Last-modified: 2011-02-23 (水) 16:58:57

「さようなら、エース君!」
「しまった!」

ロックオンアラートがなり、シンは声を上げてしまう。すでに紫のウィンダムは射撃の準備が整っている。この距離からでは避けられない。
死んだ、シンは死を目の前にそう考えてしまった。その瞬間、ウィンダムとインパルスの間をすり抜けるように一閃のビームが通り抜けた。それに続いて、ピンク色のMSが通り抜ける。
ラクスのバビが戻ってきた。彼女はバビの速度を緩めてMSに変形させると、その勢いのままマシンガンを撃ってウィンダムを一機撃墜し、そのまま今度は腕部のブレードを出してオディオスのダガーLへと飛び掛る。
オディオスは突然の強襲にも驚くことなく、ナイフでそれを受け止める。

「遅いぞナタリー!」
『シンさんこそ、もっと落ち着いてくださいな!本当にいいようにされて!』
「なんだと!!」
『落ち着け二人とも!今はそんなことをしている暇か!』

やっと戻ってきたラクスに文句を言うシンだが、ラクスに正論を言い返され、シンは更に頭に血を上らせる。そんな彼らをアスランが割って入り、彼らを叱り飛ばす。
ムッとしたシンだったが、とりあえずは状況を打開できたので、落ち着きを取り戻し、今度こそ狙いを紫のウィンダムに絞る。

「ええい、急造の部隊では駄目なのか!予想以上の戦力だな!」
『ネオ!そろそろエネルギーが少なくなってきやがった!あんま長くはもたねぇぞ!!どうするんだ!』
「どうするか…どうするといわれれば、撤退するしかないな…しかしこのままだと追いつかれてしまうのがオチか…」
『ステラも回収してやらなきゃいけない。どうするよ』
「う〜む…しょうがない。基地のやつらに酷だが、囮になってもらうか。丁度正義感強そうなのがいるしな…。スティング、お前はその赤いのを適当にあしらったら撤退しろ。ステラは俺が回収する。
オディオス、悪いが援護してやってくれ。そこに残っている基地のやつも一緒にな」

すでに作られた基地ならば失っては大きいが、ここに作られている前線基地はまだ建造され始めてまもない、いわばハリボテのようなものだ。
ならば、破壊されても被害は少ないはずだ。基地の連中も黙って殺されるほど鈍間ではないだろう。
本来ならばとやかく言われるような事だが、幸い自分の後ろ盾は、連合の誰にも破れないほどの厚いものだ。利用できるものは利用してやろう。

『OK』
『了解した』
「ある程度まければやつらは追ってこないだろう。じゃあ幸運を祈る」

二人も了承したようだ。ネオはインパルスに対し牽制攻撃を仕掛け、そして後方へと下がった。近くにいて、攻撃を加えようとしていたシンはそれを追いかける。

「シン、待て!深入りするなといっているだろ!?」
『こいつが行く先に敵の空母がいるかもしれないんだ、無視できるか!』
「シン!くそ!」

「ナタリー。早くシンに追いつかなければいけない。君はダガーLの相手をしてくれ。他は俺が」
『了解!』

命令に従い、ラクスはダガーLへ飛び掛り、両腕のブレードで切りかかる。オディオスはビームライフルをマウントし、ブレードをナイフで細かく捌く。一回、二回、三回。捌き捌かれる度に火花が散り、
そして四回目はラクスがダガーLに突っ込み、それをオディオスが受け止めてそこで鍔迫り合いになる。
しかし、オディオスとしては真面目にこれを受ける気はさらさらなく、他の機体を逃がすという任務を最優先にする。彼個人としては目の前にいる敵を殲滅したいのだが、そうも行かないだろう。
オディオスはイーゲルシュテルンを起動させてバビを牽制する。ラクスは弱点であるカリドゥスの発射口とコクピットを守るように腕を前に出し、そのまま後退する。

「各機、閃光弾を使う。それと合わせてJPジョーンズへ退却せよ」

オディオスはセイバーも自分の方へと向けさせるためにビームライフルを一発撃ち、そして隠していたグレネードを取り出してそれをバビへと投げつける。それと同時にモニターを切る。
ラクスはしまったと思い、至近距離に存在するそれを叩き落そうと試みるが、その前にグレネードが炸裂した。
グレネードは小さな光をまず発して、そして急速に大きさを増し、あたり一面を包み込んだ。あらかじめ知っていた連合軍はそのグレネードから背を向けていたから光を受けずに済んだが、
アスランとラクスはそれをまともに受ける事になる。光が閉じた瞼の隙間までに入ってきて眩ませる。
カオスとウィンダムは全速力でJPジョーンズに逃げ、オディオスもモニターを復活させて早々と撤退する。一撃加えてやろうかと思ったが、それで逃げそこなったとなれば話にならない。
ここは素直に撤退するのが得策。オディオスは真っ直ぐJPジョーンズへと向かっていった。
さてその頃、鬼ごっこを繰り広げているネオとシンもその光を見た。シンは何事かと思い、振り返ってみるが何も見えない。
対してネオは撤退が始まったと思い、仕上げに入る。

「さあて、そろそろ俺達もか…アウル!」
『あん?』

ネオはまだ戦っているであろうアウルに通信を入れる。何事かと、少し乱暴な声がアウルから返ってきた。

「そろそろ引き上げの時間だ。戻れ」
『何でだよ、今いい所なんだよ』
「借りてきたやつが殆どやられた。これ以上ここに留まるのは危険だ」
『何やってるんだよ、タコ!』
「そんなにいうなよ。おまえだってでかい獲物は落とせてないだろ?」

状況を説明され、ネオに文句を言うアウルだったが、正論を返されて言葉も返せない。冷静になって考えれば、あの二機のザクの相手をしすぎた所為で本来の任務を果たせていない。
こんなことではあのオディオスに何を言われるか。アウルのプライドがそれを許さず、そして彼はアビスをMAに変形させ、ザクの間をすり抜け、ニーラゴンゴに突っ込んでいく。

「あ!」
「しまった!」

今まで自分達を相手にしていたアビスが突然目標を変えて突撃したのに、二人は対応しきれず見送ってしまった。
ニーラゴンゴはアビスの接近に対し、魚雷を撃って対応しようとするが、高速移動するアビスを捉えることができず、アビスの連装砲を全弾受け、水中で爆発して轟沈した。

「はっはー!!ごめんねぇ、強くってさぁ!!」

ニーラゴンゴを落としたことにアウルは誇らしげに叫び、そしてそのままJPジョーンズのほうへと去っていった。レイは逃がすまいとバズーカを構えるがすでに遅く、
悔しそうに操縦桿を叩いた後ルナマリアに通信を入れる。

「…ルナ、防衛目標が消えた。任務失敗、引き上げるぞ」
『…うん…了解』

ルナマリアから力のない返事が返ってくる。あれだけ大言を言っておいて、任務が果たせなかったことが悔しいのだろう。二人はその悔しさを胸にミネルバへと戻っていった。
その戦闘模様を伺っていたネオはアウルの行動に思わず苦笑してしまう。あいつらしいな。そう考えながらも、ネオは基地付近にまでインパルスを誘き寄せた。
基地の防衛をしていたステラにもその様子が確認された。彼女から見ればネオがインパルスに追い詰められているような絵図であり、彼女にとってネオは失いたくない人だ。
基地の防衛を放棄し、ステラはガイアをMAに変形させ、浅瀬を走ってインパルスに突っ込んでいく。急な横からの攻撃に対応しきれず、体当たりを食らってインパルスは浅瀬に倒れてしまう。
インパルスを突き飛ばし、ガイアはそのままネオを追いかける。

『ネオ!』
「ステラ、いいところにきてくれた。逃げるぞ、掴まれ!」
『うん!』

ガイアはMSに変形し、差し伸ばされたウィンダムの腕に捕まってJPジョーンズに飛んでいった。体勢を回復しきれないインパルスは不完全な体勢でビームライフルを撃つが、一発も当たらずに逃げられてしまった。
シンは舌打し、操縦桿を叩く。と、そんな彼へ更に砲撃が襲い、コクピット内が大きく揺れた。何事かと、砲弾が飛んできた方向を見ると、そこには連合の基地があり、そして戦車数機がこちらに発砲してきたのだ。

「こんなところに連合の基地なんて…。…あ、あれは!」

9/

反撃しようと立ち上がったインパルスのモニターから見えたのは民間人だった。どうやらこの基地で強制労働させられていたらしく、着ているものはボロボロになっていて、体もやつれているようだ。
彼らはインパルスが近づいてきたのに驚き逃げようとしているが、連合兵がそれを武力行使でどうにか押し留めようとしているようだ。
それを見たシンは、再び血を頭に上らせた。弱い人々を無理やり力で、暴力で抑え込もうとする。シンは許せなかった。

「やめろぉぉ!!」

シンはCIWSを起動させ、戦車を破壊し、そのまま連合兵を撃つ。MSの対人バルカン砲を受け、どんどんと倒れていく連合兵。そしてその隙に収容されていた民間人達がどんどん逃げていく。
シンはフェンスをインパルスで引っ張り上げて壊し、その逃亡の助けをする。無事に基地外へと逃げられた人々は家族と再会し、その喜びを露にしていた。その表情を見たシンは安堵の表情を浮かべつつ、更に連合基地へと攻撃を加える。
連合兵は皆武器を投げ出して逃げ出していたが、それでもなおシンは攻撃を続ける。と、そんなところへアスランのセイバーとラクスのバビがシンを捜しに来た。
彼らはシンのあまりに一方的な攻撃に息を呑む。アスランはすぐにシンへと通信を入れた。

「やめろ、シン!基地破壊の命令は出していないぞ!」
『煩い!ここに囚われている人たちを解放するんだ、邪魔するな!』
「君のやっているのは一方的な虐殺だ!もう連合兵に戦意はない!やめるんだ!これは命令だぞ!」
『黙れ!』

今のシンがやっているのは度が過ぎた行為だ。命令という言葉を使ってでもやめさせようと説得するが、完全に切れたシンにはその言葉は届かない。
それを見たラクスはアスランに加勢するために通信を入れる。

「シンさん!民間人の退去は済みました!それ以上はもう意味はありません!」
『意味はある!こいつらを倒さなきゃ、またあの人たちが…!』
『頭を冷やせ、シン!命令違反になるぞ!』
『その通りよ、シン』

と、ラクスとアスランの忠告も無視しようとしたとき、新たな声がコクピットに響き渡った。ミネルバ艦長タリアの声だ。全員が上を向くと、ミネルバがこちらに向かって飛んできているではないか。
どうやらあちらの戦闘も終わったようだ。タリアは更に続ける。

『戦闘は終わり。基地の破壊も含め、十分な戦果は得られました。ニーラゴンゴが撃墜したのを除けばですが。これ以上の戦闘は艦長特権として許可はしません。全機帰還しなさい』
「…」
『復唱!』
「…了解!これより帰還します!!」

正直納得はしていないが、艦長命令となれば従わなければいけない。シンはセイバーとバビをおいて一人ミネルバへと帰還していった。
アスランとラクスもそれに続いてミネルバへと戻っていった。その様子にとりあえず安堵の息を吐くタリアであったが、この先不安ばかりが残った。
さて、格納庫では三機の収容も終わり、戻ってきたシンに待っていたのは、後にたどり着いたアスランによる修正だった。

「…っ!殴りたきゃ別に構いませんがね、俺は正しい事をやったんだ!あそこにいる人だってあれで…!っ!」
「うへぇ、もう一発かよ…」
「すげぇな…。でもシン何かしたのか?」
「ほら…あれだよ。陸で連合の基地を見つけて…強制収容されていた民間人を逃がして、基地をメチャクチャにしたんだってさ」
「ふぅん…」

左頬を殴られてもなおもシンは自分のやったことの正当化をしようとした。そんな彼に対し、今度はアスランは右頬を引っ叩いた。
乾いた音が響き渡り、辺りに集まっていたギャラリーはその音を聞くや自分の事のように身を縮ませていた。

「自分だけで勝手な判断をするな!戦争はヒーローごっこじゃないんだぞ!」
「…くっ!」

殴られた頬を抑えているシンを尻目に、一喝したアスランはその場から立ち去っていく。シンはまだその場に立ち尽くしていた。
そんな彼とアスランの背中を見ながらケイは昔の自分の事を思い出していた。

「(ヒーローごっこか…。でもさ、今思えば2年前に僕達がやったことだって、ヒーローごっこじゃないかい?アスラン…。いや、今は言うまいか…。結果的には良かったんだ。あれで…)」
「(君も自分の事を正当化するのかい?)」
「(黙れクルーゼ)」

2年前、ケイがキラであった頃。連合に制圧されそうだったオーブから脱出し、ザフトと連合との最終決戦に介入し、そして片っ端から戦い、戦いをとめようとしたのだ。
だが、その結果はただ単に両者の勢力を疲弊させただけに終わり、そしてまた戦争が起こってしまった。あのときに自分達がやったことは自己満足のヒーローごっこではなかったのか。
しかし…これ以上過去に自分がやったことを否定するのは虚しくなるだけだ。ケイはとりあえずは正当化させておいて、それをよしとする。

「でもさ…民間人を助けたかったんだよな…シンは」
「ああ…シンは戦争で家族を亡くしているから…。命令違反ではあるけど、別に悪い事は…」
「しているんですよ。実はね」

と、そんな彼の隣でヴィーノとヨウランがこそこそとシンを見ながらつぶやいていた。そんな彼らに割って入るようにラクスがつぶやく。

「え?」
「…」

小さく、しかし何か意味深につぶやいたラクスにヴィーノとヨウランは驚いて彼女を見るが、ラクスは少し考え込んだ後、ヘルメットを持ってその場を後にしていった。
どう言う事だと疑問を浮かべる二人だったが、何も思い浮かばず、シンを慰めようにも近づきづらい状況なので、とりあえずは作業に戻る事にした。
それを切欠に辺りにいたギャラリーたちも散り散りになり、その場にはシンと僅かな人々しか残っていなかった。

「シン…」
「やめろルナ。下手な慰めは逆効果だ。暫くは放っておいてやれ」

ルナマリアはシンを慰めようと声をかけようとしたがレイに制止され、シンは壁を一度殴ってその場を後にした。
かなり荒れているようだ。あの状態の彼に下手に声をかけたらどんなとばっちりを受ける事か。わかったものではなかったため、レイがルナマリアを止めたのは正しい。
何も出来ないというもどかしさもありつつも、それぞれはそれぞれ、持ち場に戻るしかなかったのだった。

それから数時間後。夕焼けの海をゆっくりと進むミネルバ。戦いの緊張感もやっとほぐれ、各々ゆったりと作業を進めていた。
このまま順調に進めば明日中には目的地であるマハムール基地へとたどり着く予定だった。あくまで予定だが。
そんな中、まだアスランに叩かれた事を忘れきれないシンは気分転換をするために一人甲板へと足を進めていた。潮風がゆっくりと流れ、そのたびにシンの髪がなびく。

「…」

そんな中でシンは考え込んでいた。自分は正しい事をしたはずだ。なのに、それなのに何故咎められなければいけないのだ。それに、大した戦果も挙げていないのにもかかわらず、あんな豪そうな事を言われなければいけないのだ。
思い出してみると余計にイライラする。もういい、寝よう。そう思い、踵を返そうとしたシンだったが。

「…ふん…ふ〜ん…」

と、何処からか鼻歌が聞こえてきたので足を止め、ふと聞こえてきた方のほうへと足を歩む。物陰に人影が見えたので、ゆっくりと顔をのぞいてみると、そこにはラクスの姿が。
彼女はイヤホンを付けて、音楽プレーヤーで何かの曲を聴きながら鼻歌を口ずさんでいるようだ。

「ふん…?あ、シンさん」

と、彼女もシンの気配に気がついたようで、イヤホンを外して彼の方を向きながら立つ上がる。シンは別に気づかれた事を気にせず、物陰から出て少しだけ歩み寄った後声をかける。

「…何、聞いているんだ?」
「音楽です」
「いやそりゃ分かるよ。何の音楽だって聞いているんだ」
「ああ、えっと…ロックでいいのかなぁ。ああ、多分ロックです。基本的には何でも聞きますけどね」

何だか曖昧な答えを出しながら、ラクスは音楽プレーヤーの電源を消して、シンと向かい合う。
少し沈黙が続いた後、シンが言葉を選ぶように少し考え込んだ後口を開いた。

「なあ、ナタリー。あんた、俺が基地を攻撃した時止めようとしたよな。…なんでなんだ?」
「何でって…」
「あんただってあそこにいる人は助けたいと思うだろ。それを…なんで邪魔したんだよ」
「ん…そうですねぇ」

シンの正直な疑問にラクスは手すりの近くまで歩みよる。そして夕日を眺めながら答えた。

「まあ二つくらいありますよね。まずはやめろという隊長の命令を無視したから。軍隊において、それがあまりに逸脱したものでなければ従うべきだと思います。そう、私は教えられましたからね。
そこらへんはシンさんだって、いやシンさんのほうが煩く言われたのではないでしょうか?」
「…ああ、まあな。だけど、それとこれとは」
「だから、私はあの時、隊長に叩かれたのは仕方ない事だと思います。命令違反だとわかってでもなおもやりたいことがあれば、それだけの代償を負わなければいけないのが軍人ですから。
一人の勝手な行動で一艦隊が崩壊する事だってある。私も…昔やってしまいましたから。統率を乱すことでどんな支障が出るかわからない…」
「…ナタリーは…何かやらかしたのか?」
「そりゃ色々!シンさんみたいに命令を聞かずに民間人を助けたりしましたし!そのたびにハイネ隊長に修正されましたよ。最初は流石に引っ叩かれてすぐに泣いちゃいましたけどね」
「そうだったのか…」

ラクスは苦笑しながら左頬を指差す。その表情から苦労が滲み出ていて、ああ、あのトレーニングルームのときも同じ顔をしていたと思い出した。
やはりなんだかんだで彼女も苦労してきたのだろう。

「アスランだって、彼だって苦労したから、だから止めようとしたんでしょうね…。それにもう一つの理由になりますけど、あのときのシンさんすごく怖かったですし…」
「…!」
「あれ、助けているって言うより、何だかこう…ううん、上手く言えませんね。兎に角怖かったんですよ。だからとめなきゃと思いました」
「…そうか…。今回はちょっと興奮しすぎたかもしれない。悪かった、次からもうちょっと冷静になる」

冷静に考えてみれば確かにあの時の自分は興奮しすぎて周りが見えていなかったのか。客観的に見てそう見られていたのだからそうなのだろう。自覚は…あまりないが。
とりあえず軽くラクスに謝罪をするシン。そんな彼に、ラクスは少し微笑みを向けつつ、夕焼けを背にして言った。

「でも、民間人を助けていた時のシンさんはカッコよかったですわ」
「な…!ななに言っているんだよ!あんたは!」
「いや、正直に言ったまでですわ。…確かに命令違反はいけない事。でも、命令違反を起こしてでもやらなきゃいけないことがある。
それは忘れてはいけない事ですわ。まあそのたびに叩かれる覚悟をしないといけませんけどね」
「…そう、だな」

シンは、褒められた事にまだ恥ずかしそうに顔を赤らめながら頭を掻きつつ、静かに頷く。そんな彼を見て、ラクスは思わずクスクスと笑ってしまった。
しかしなんともまあ、上手く纏められたものだと、そう思っているのは入り口付近でデバガメをしているケイ、ルナマリア、レイの三人だった。
始めは二人の会話を聞いていたのは、たまたまこの付近を通りかかったケイで、その内にルナマリア、レイとどんどん野次馬が三人に増えていた。
彼らは二人の会話を聞いて、十人十色の思いを浮かべていた。

「へぇ〜あのシンが素直に聞くなんてねぇ〜。やっぱりナタリーさん、すごい人かも」
「まあ流石のシンも女性には逆らえないだろうな」
「え、じゃあ何で私の言う事聞いてくれないのよ」
「女性として認識されていないんじゃないか?」
「そんな酷い!」
「さて…さっきから黙っているケイは嫉妬をしているのか?男のジェラシーは醜いだけだぞ」
「!!!バババババーロー!そんなわけないよ!」

じとっと見ているだけのケイに対し、レイは急に話を振りながら彼の本心を代弁するような事を言う。急に振られた上に勝手なことを言われて、
ケイはレイを睨みながら、柄にもなく顔を真っ赤にして叫びそうになるところを抑えつつもレイに詰め寄る。それでもレイは余裕そうな表情を浮かべて彼を見ていた。
ケイはその表情を見て更に顔を真っ赤にして今にも噴火しそうだったが、この挑発に乗ればレイの思う壺だと思い、そうそうとずかずかと歩きながらその場を去っていった。
やっぱりレイはここ最近急激に変わった。そんな二人のやり取りを見てルナマリアはそう思った。今でも無愛想なのは変わりないし、無口なのも変わらない。
だが、何となく、何となくであるが心を開いてきているような気がする。そんなことを考えると少しばかり嬉しくなってくる。
スクール時代から一応友達の輪に入ってはいたが、自分自身の事をさらけ出す事がなかったレイ。それが今はああしてケイをからかうという行動まで見せている。そしてシンも少しずつではあるが丸くなってきている。
その事実が何だか友人として嬉しかった。ルナマリアは少し笑みを浮かべながら、外にいるシンとラクスを見つめる。

「…何か嬉しい事があったか。さっきまで自分の射撃の腕に嘆いて落ち込んでいた癖に」
「…それを言わないでよ。今の今まで忘れていたのにさ…もう!」
「ぐっ!」

そんな彼女にレイが一言心に突き刺さる事を言って叩かれた。こんなやり取りもまた、戦争の中とは思えない平和なやり取りだ。
しかし、次に向かうマハムールは、ガルナハンと連合の陽電子砲台を巡って連合軍と激戦を繰り広げている所である。
そこへたどり着けばこの和やかな雰囲気など続けられないだろう。だからこそ、今は戦士達のひと時の休息時間なのだ。
翌日、ミネルバはマハムール基地へと入港する。新たな戦いへと身を投じるために、戦士達は歩き始める。
だがその足音はすでに連合の兵士に聞かれてしまう。マハムールを見渡せる崖の上、岩場の陰に一機のMSがスナイパーライフルのスコープを使って、基地のレーダーに引っかからない様遠くから基地の偵察をしている。
そのMS、黒いカラーのウィンダムは銃先を動かしながら基地の周辺を探っている。と、その最中でウィンダムのパイロットは工場の陰から姿をのぞいていたミネルバの姿を発見する。
精一杯ズーム倍数を上げ、その姿を精密に見てデータに照合させる。モニターには彼の期待していた答えが返ってきた。
ウィンダムは銃を肩にマウントし、身を低くしたままその場から去っていく。その途中、パイロットは味方に状況を報告するために通信を送る。

「本部、こちらゴースト1。敵基地にて『スニーカー』を確認。これより写真を送る。至急、マクスウェルリーダーへ送られたし」
『了解、ゴースト1はBポイントへ移動。更に情報を掴め』
「了解、これより移動を開始する」

本部からの新しい指示を受け、ゴースト1は更にマハムール基地に近いBポイントへと移動を開始した。それと同時間、ガルナハンに近い山岳の洞窟の中。
中には電子機器やMS整備用のトレーラーなどが置かれていて、どうやら急造の拠点のようだ。その洞窟の小さな空間を使って作られた隊長室に先ほどの報告が届く。

「隊長、ゴースト1より報告です。マハムールにスニーカーが現れたそうです」

その報告を聞いて、隊長室にいた男は、椅子の背もたれから体を起こし、その報告書を受け取る。そしてそれをあらかた見終えた後、椅子から立ち上がって兵士に言った。

「全隊員に伝達。出撃準備を開始し、今夜中に終えるよう」
「はっ。隊長は」
「私は本拠地で司令官にこの事を報告してくるついでに、対策を練ってくる。…まあ期待は出来んが」
「了解しました。ああ、それとオディオスさんが後1時間ほどでここに帰ってこれるそうです」
「そうか。では機体は整備兵に任せてゆっくり体を休めろと西岡が言っていたと伝えてくれ。ああ、あとあいつをユリカゴから叩き起こしておけ」
「はっ!」

さて。ここを拠点とし、マクスウェルを統率する西岡は、タバコを一本取り出し、それを咥えながらジープに乗り込み、護衛を一人付けてローエングリンゲートへと向かっていった。
ラクス達が一歩一歩戦場へと近づこうとしているのに合わせて、連合の兵士達も一刻一刻とそれに近づいてくる。部隊は海上から地上へ。
戦士達の行進曲が少しずつ、重なり合って大きくなっていくのだった。

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