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LOWE IF_uLM3T8C/3g_第01話

Last-modified: 2007-11-11 (日) 21:40:50

目が覚めた。
最初に映ったのは血と鉄と水、赤と黒と青。
次に感じたのは身体の痛み、今までに感じたことが無いような痛み。
最後に思い出したのは友の声、友だった者の声。断末魔と、憎悪の声。
不思議とあの時の憎しみは湧き上がらなかった、彼は上手く脱出したみたいだったけど、大丈夫かな。と呑気に考えたりもした。
そして意識を失った。

目が覚めた。
最初に感じたのは鋭い痛みだった。
次に思い至ったのはここはどこだ、ということ。
最後に思い至ったのは自分は死ぬということ。
どうやら自分は海に独りで漂流しているようだ、しかも重傷を負っている。
良く見ると服が破れた鉄に引っかかっている、それで沈まずにいられているようだ、しかしそれも何時までもつのだろうか
そして意識を失った。

目が覚めた。
何も感じるものは無かった。
声が聞こえた。
よく分からなかった。
そして――

「おい!にーちゃん!おきろ!!」

――意識は、失われなかった。

「え?」

ドアを開けて青年が入ってきた、子どももその声に反応する

「おー!いしゃ!にーちゃんおきたぞ!!ちゃんとつたえたぞ!!」
「ありがとう、でも僕が来る前に彼が起きたことを教えて欲しかったな」
「そうか!すまん!」
「構わないよ。でも僕の事は先生って呼んでね。あと僕はこのお兄ちゃんと大事な話があるからお外に行ってくれるかな?」
「わかった!あそんでくる!」

騒がしかった子どもは騒がしいまま、外に飛び出していった。思わずぽかーんとしてしまう。

「騒がしくてすまないね、迷惑じゃなかったかい?」
「あ…いえ、大丈夫です」
「そうか、なら良いんだが。…さて、身体はどうだい?今痛むところは?」
「それも…大丈夫です、でも動かすと痛みが…」
「一応痛み止めは効いてるみたいだね、良かった…」

薄く微笑む青年、歳は二十代後半といったところだろうか?
温和そうな顔つきと丁寧な態度、ひょっとしたらもっと若いかもしれないが、少なくとも自分よりは年上だろう

「さて…大丈夫であるなら色々と君に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「…なんでしょうか」
「そうだね…まずは君の名前が知りたいな、『君』じゃ他人行儀すぎて落ち着かないんだ」
「はい、僕は…」
「ああそうだ、まずは僕から紹介しないとね。僕の名前は…長ったらしいからチャーリーって呼んでくれよ、君は?」

「あ、えっと…キラです、キラ・ヤマトと言います。」

「よろしくキラ君、…ようこそ、『シャングリラ』へ」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「シャングリラ…楽園ですか?」
「そう楽園、…まあ僕達がそう言ってるだけで、本当は地獄かもしれないけどね」

そう言って青年――チャーリー先生は苦笑してみせた。
僕が今いるところは楽園であり地獄でもあるということ、それは一体――

「どういう、ことですか?」
「ここはね、皆の休憩所なんだよ」

休憩所。皆の休む場所。

「戦争で自分の居場所を失って、何処にも行く当てが無い人々が自然と集まって出来たのがここ、シャングリラさ
 どうやら元々はどこかの軍事基地の島だったみたいだけど、破棄されたのか無人島になっててね、で、ちょろっと」

そう言ってチャーリーは何かを掠め取る仕草をした、えーっと、つまりは

「どこかの施設を勝手に使って生活してるって事ですか?」
「ハハハ、バレたらヤバイよねー、ハハハ」
「は、はは、そうです、ね…」

本気でおかしそうに笑うチャーリー、最初に感じた印象は間違いだったかもしれないと思った。

その後、シャングリラについてもう少し細かいところを聞くことが出来た。
元々の島の名前はラクリマ島、涙という意味らしい。
この島にたどり着いて生活をし始めたきっかけが避難船の遭難、沈みはしなかったものの操舵不能となり流れ着いたのだそうだ
通信も出来ず船も動かず、途方に暮れていたところに近くに船が。
これ幸いと救助を求めるも、その船も同じく操舵不明の困ったちゃん、かくしてお仲間増えました――

「あの、真面目に説明して下さい」
「やだなあキラ君、僕は大真面目だよ?」

ひょっとしてこのチャーリーという人はダメ人間ではないだろうか?
説明は続く。
その後、撃墜されたMS、ジャンク屋、壊れてない船等色々なものがこの島に流れ着いた。
気付いたら島から脱出出来るようになっていたが、ほとんど島から出て行く人間はいなかったという
島の施設跡を見るに、かつては軍事的に重要な島だったかもしれないが、それも最早廃墟となっていた。
つまりはもうこの島には軍の影響は無いと考えても良い、忘れられた島なのだ、すなわちここには戦火は届かない。
そして、ここはシャングリラになった。

「必要なものでこの島に無いものは外に買出しに行ってる、流れ着く物を修理して売れば結構なお金になるんだ」
「それでも不便でしょう?遠いわけだし、それに家族だって――」
「まあそれはそうなんだけどね、そりゃあ家族がいればこの島から出て行くんだろうけどねー」
「あ…」

そうだ、そうだった。
自分は何を聞いてたのだろう、避難船と言っていたじゃないか

「す、すみません・・・」
「ん?ああ、気にしないでいいよ、よくある事さ」
「・・・すみません」

「さて、ところで君はどうする?」

「え?」
ぽん、と手を打ってチャーリーが尋ねる、どうするとは何のことだろう?
「キラ君の今後のことだよ、君はMSのパイロットみたいだけど、連合に戻るかい?」
「あ・・・」

そう、僕は今連合の人間なのだ、MSに乗り敵を倒すパイロットなのだ
敵、そう敵、僕の敵。かつては友達だった敵――

「…まあ、まだ君の傷は完全には癒えていない、どちらにせよ、もうしばらくはここにいてもらうことになるね」
「はい…分かりました、すみません」
「それと…傷が治っても跡は残ってしまう、後遺症も覚悟しておいてくれ」
「!…そう、ですか…」

申し訳無いと頭を下げるチャーリー、だがそれを責める気にはなれなかった。
命があっただけ拾い物だと思う。それを伝えると彼は少し安堵した様子だった。

「いやー、しかし、驚いたよ」
「何がですか?」
「キラ君の生命力さ、あの傷で生き残れてしかも意識まで戻って、さらに回復も常人より早い…コーディネーターは凄いな」
「…そう、ですね…」

『コーディネーターのくせに!本気で戦ってないんでしょ!』

彼女の顔を思い出す。不思議と一番思い出せるのは怒った時の顔だった。
何故だろう、彼女を抱いた時、彼女がどんな顔をしていたのか思い出せない。
今彼女はどうしているのだろう、僕の事を思い泣いてくれているだろうか、それとも誰かがそばにいるのだろうか
誰か――そうだ、結局彼には何も出来なかった、僕が裏切って、さらに傷つけてしまった友達。
何故僕は、大事な友達ばかり傷つけてしまうのだろう。サイ、アスラン――

「・・・キラ君、お腹が空いてるだろ?ごはんにしよう」
「え?あ…はい」
「どうやら君はとても疲れているようだね、ここでゆっくりと休んでいくが良い、大丈夫、誰も責めやしないさ」
静かに微笑んでチャーリーは言った、確かに疲れているのかもしれない。
考えてみれば全く休みの無いような日々だった、疲れが溜まるのもうなずける。
うん、彼の言うとおり、少しだけここで休んでいこう――

「君が意識を取り戻したと聞いて皆がお祝いに色々なものをくれたよ、という訳で今日のお昼は海の幸をフンダンに使った海鮮チゲ鍋だ!」
「あの…僕、病人ですよね…?」
「気にしないでいい、残ったら食べる、残らなくても食べる」
「おー!にいちゃんのぶんもくうてやるぞー!」←匂いに釣られて戻ってきた
「ハハハ…じゃあ、いただきます…」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

さて、数週間が経った。
「じゃあ、包帯を取るよ」
「はい」
今日は顔の包帯が取れる日である、左眼を覆うように巻いていたためバランスが悪い
言い忘れていたが、どうも僕の顔半分は結構な火傷を負っていたようだ、跡が残るとはこれの事だった訳だ
「でも皮膚移植で完璧とまではいかないけど復元出来るからね、尻の皮膚を使うんだよ」とチャーリーは言っていた。
尻って言わないで欲しかった。

「どうだい、引き攣るとか痛いとか、問題は無いかい?」
「ちょっとピクピクしますけど大丈夫です、…でも視力がやっぱり」
「そうか…残念だがそれはもう地上ではどうしようも無い、プラントに行けば技術もあるんだろうけど」
「大丈夫ですよ、見えなくなった訳じゃないんだし」
その火傷の影響で眼球が傷ついていたようだ、左眼の視力が低下していた。
他にも骨折や火傷、裂傷の影響で五体が結構な状態になっていた、特に左足の感覚がほとんど無くなってしまったのがきつい
杖が無いと歩けないということがこんなに不便だとは思わなかった、バリアフリーの概念は重要だと思う。
「というかキラ君、君は何でちょろちょろ出歩いているのかな?安静にしておけと言っているよね?」
「だって歩けるんですもの、だったら、歩きたいじゃない?」
「そうか、そうかあ…『歩きたいじゃない?』じゃない!君の怪我は2ヶ月は絶対安静な怪我だったんだぞ!それを君は何だ!
 これはアレか?僕に対する挑戦か?反抗期というヤツか?もうそんなお年頃なのか!?」

チャーリーが怒る、まあきっと彼は本気で怒ってはいないんだろうけど。
その証拠に少し彼はニヤついている、それに以前見つかった時には怒られもしなかったし。
「もういい…それより聞きたいんだが、島はどうだい?慣れたかい?」
「ええまあ、親切な人ばっかりでとても良いところです」
「そうか、なら問題無いな。では診察終わり、傷跡が気になるならまた包帯を巻くけど、どうする?」
構いません、と言い席を立つ。今日はやることが多い日だ、あまりゆっくりとはしていられなかった。

ここで話は少し前に戻る。
僕がここで静養することになって数週間、こうして歩けるようになるまで色々な事があった。
まず安静に寝ている事がほとんど出来なかった、何故か僕の部屋に来客が耐えなかったのだ。
何回「災難だったねえ、これは見舞いだ、早く良くなるんだよ」的なセリフを聞いたことか、でもおかげでどんな人がいるのか把握が出来た。
汝の隣人を愛せ、と言うが、この島ではその隣人の範囲が物凄く広いらしい。
花、果物、本、魚、何かの機械を持ってきてくれる人や、音楽を演奏してくれる人までいた、自己紹介も兼ねての見舞いだったようだ。
そしてその結果として僕の部屋は、子どもたちのちょっとしたたまり場みたいになってしまった。
最初に僕と話をした子ども――この子は僕の第一発見者だったらしい、名前はネーヤという――を筆頭に、集まる集まる。
とにかく騒がしい毎日だった。

そして、少し回復してからは子ども達に連れられるようにして外にも出始めた。
そして分かったのが、このシャングリラは地上と地下シェルターの二箇所に居住区があるということ。
基本的に皆は外の小屋で生活しているようだが、まだ小屋が出来てない人や集団でいたい人は地下にいるようだ。
地下施設も軍事関係の何かだろう、あまり広くないのが難点である。雑然としていて余り清潔的ではなかった。

地上では主に住居の建設作業を行っていた。
MS(多分元はジン)を利用して建設を行っているのだが、何機もあるのに動いているのは一機だけだった。理由を聞くと
「うーん、ここの人間はほとんどナチュラルなのよね、だからMSは動かせないのよ」とのこと
「ちょっとOSを見せて下さい、…うん、これなら出来るかな」
という訳でナチュラルでも動かせるようにちょっと改造してみました。勝手に。
「すっごぉお〜い!キラ君って天才!?もしかしなくても天才!?ステキー!そこに痺れる憧れるゥ!」
「ちょ、ちょっとくっつかないで下さいよ…痛いですって、いやちょっと本当に痛いんです、照れてるとかじゃなくて!」
ちなみに彼女は現場監督のカレンさん、僕と同じコーディネーターらしい、押しが強い人みたいだ。
その押しに負けて、僕は建設作業員としてお手伝いをする約束をしてしまったのだった。
その後も、子どもが懐いてるから先生役として色々教えることを頼まれたし・、市場の店番なんかもした
初対面で素性も分からない僕、それでも子ども達は分け隔て無く接してくれる、もちろん大人たちも。
ナチュラルも、コーディネーターも関係なく、皆がそれぞれ自分を活かして生活している、争いの無い世界。
――シャングリラ、戦争に縛られない自由な世界、僕が求めていたのはこんな世界では無かったか。
もし、もしも僕だけでなく、彼や彼女らも一緒に、最初からここにいられていたら、どんなに幸せだっただろうか。
トールは死ななかっただろう、ミリアリアも悲しまずにすんだだろう、サイとフレイは幸せになれただろう
ブリッツのパイロットも死なせずに済んだだろう、アスランとは今でも友達でいられただろう

でも、そうはならなかった。ならなかったんだ――

「おお、にーちゃん!ないてるのか!!どっかいたいのか?」
「…ネーヤか、ごめんね、みっともないとこ見せちゃって」
「きにすんな!おとこのこにも、なかなきゃやってられないときぐらいだってある!」
「ハハ…敵わないなあ」
「そーいうのをうけとめてこその、いいおんなだ!さあ、なけ!むねならかしてやるぞ!カレンねーちゃんほどおっきくないけど」
「………えっと…………もしかして、ネーヤって女の子だったの?」
「…きみが!なきやむまで!なぐるのを!やめない!!」
「痛ッ!いたいって!ごめん、本当にごめん!痛い!!痛い!!!」

傷口が開きかけるまで、ネーヤに殴られた。泣いた。
でもさっきまでの涙とは違って、あんまり苦しくは無かった。
その後笑った、ネーヤはまだ怒っていたけど、それでも笑っていたら彼女も笑った。
チャーリーの言葉を思い出す

『…そりゃあ家族がいればこの島から出て行くんだろうけどねー』

この島には戦争によって傷ついた人たちが集まってくる、もちろんネーヤもそうだ
でも彼女は笑ってる、島の皆も笑っている、だからこの島は楽園なんだろう。
――ああ、そうだ。良いことを思いついた。
この島をもっと大きくして、そして皆を迎えに行こう。
サイも、フレイも、ミリアリアも、カズイも、カガリも、アスランも、皆にこの島を知ってもらおう。
リハビリして、身体がちゃんと動くようになったら外に出て、みんなを捜して…大変だ、早く身体を治さなきゃ
島の事も手伝わないと、僕に出来ることだけでもいっぱいあるみたいだし
そうだな、まずは子ども達の先生でもやってみるかな――

教室に入る。…と言ってもちょっと広い小屋に机と椅子を並べただけなんだけど
はしゃいでた子どもたち数人がこっちを向く。その中にいたネーヤが寄ってきた
「お、にーちゃんほうたいとれたのか!…うわあ、いたそうだなー…だいじょうぶか?」
「ありがとネーヤ、でも大丈夫だよ。…この傷、怖くない?」
「ぜんぜん!みんなもきにしなとおもうぞ!きいてみろ!」
「そうかな?・・・皆はどう?怖いって子がいたら隠すけど…」
「大丈夫でーす」「先生痛そう・・・」「こわくないですよ」「それはそれとしてドッヂやろうぜ!」「お腹が空きました」

「な!みんなきにしてないだろ?」
「ああ…そうだね、本当に気にしてないね…じゃあ今日は早めに終わらせて、ごはん食べたら遊ぼうか?」
「「「「「「やったー!!」」」」」」
「ハハ…じゃあまずは宿題を集めます、皆やってきたかな?」

ゆっくりと時間が流れていく、こんなに穏やかな気分になったのは久しぶりだ
リハビリはちょっと大変だけど、ゆっくりやれば良い、ちゃんと治して島を出て、また帰ってこよう
今はまだぼろぼろの島だけど、その頃にはきっと本当の楽園になってるはずだ。…いや、そうするんだ
僕はこの島で生きていく、そう決めたんだから。

C.E.72、キラ・ヤマトは島での療養と援助活動を続行することを決意する。
地球連合によるオーブ侵攻と崩壊を彼が知ったのは、その数日後であった。

『Childhood's End』
                   第一章 終わり

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