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Lnamaria-IF_第01話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:13:49

 コズミック・イラ73年。
 プラントの軍用コロニー・アーモリーワンはセレモニーの準備でにぎわっていた。
今日は新型モビルスーツや新型艦のお披露目である。いくら平和になったとは言え、テロなどが起こらなくなった訳ではない。
 万全の態勢で式を行うために、軍人は例外なく忙しく働いている。
 ……いや、ここに数少ない例外がいた。
「あーやだやだ…なんで赤服の私がこんなパシリみたいなことしなくちゃいけないのかしら…」
 赤毛の美少女が左腕に荷物を抱えながら愚痴を言った。
 彼女の名前はルナマリア・ホーク。ザフトの中でも優秀な軍人の証である「赤」を着る、数少ない女性パイロットである。
 ただし、彼女は「赤」を着る者の中で歴代最下位という成績でアカデミーを卒業しているのだが。
 したがって彼女に対する周りの評価は相当低い。買い出しという、重要とはとても思えない事をさせられていることからもわかるというものだ。
 周囲のそんな態度を知っているため、彼女の日課は今のところ愚痴や鬱憤晴らしが主となっている。
「シンは新型のパイロットになって、セレモニーの主役になったのに、私はこんな所で…もうっ!」
 不機嫌かつ苛ついた表情でぶつぶつ言いながら歩くルナマリア。もっとも不機嫌かつ苛ついているのは事実である。
 したがって、たまたまぶつかった不運な少女が彼女の八つ当たりの犠牲者となるのも当然の結果だった。
「ちょっと!? どこ見てるのよあなた! 気を付けなさいっ!」
「……?」
 怒鳴られた金髪の少女というと、状況が分かっていないような呆けた感じの表情を見せた。
 更になんで私は怒鳴られているのと言わんばかりに、首を傾けてみせる。そこに嫌味などは一切無い。
 体つきは私と同じくらいだけど、実は私よりずっと幼いのかしら?
 そんな疑問を持ったルナマリアは、同時に自分がそんな相手に怒鳴った事に対して自己嫌悪を感じた。
「……ごめんね。言い過ぎちゃった?」
「別にいい…気にしてない」
「そ、そう?」
「………」
 こくん、とうなずいてみせる金髪の少女。とりあえず安堵したルナマリアは、ふと腕時計を見て目を疑った。
 もう集合予定時刻まであまり時間がない。
「やば……基地に帰らないと!」
「……きち?」
「うん、私、これでもザフトレッドなのよ?」
 凄いでしょ、と胸を張るルナマリア。そんな彼女に対し、金髪の少女は表情を変えた。
「……何かに乗るの?」
「え、えっとね〜」
 さっきと表情が違うのは興味があるからかな、とルナマリアは受け取った。
 実際に彼女が乗るのは式典用ジン、おまけにただ立っているだけ、という馬鹿みたいな役割なのだが…
「ガイアよ、ガイア! 四つ足形態に変型するすっごいモビルスーツ!」
 どうせばれないわよ、と考えたルナマリアは見栄を張った。
 ガイアはセレモニーの主役となる、ザフトの新型機の一つである。もちろん、彼女は乗ったことは一度もない。
 実際に乗って華麗に駆けていたら、と空想に浸っていたルナマリアは、袖を引っ張られて我に帰った。
「ガイアって…格好いいの?」
「え? うん、まあね」
「見たい。連れてって」

「今までどこ行ってたんだ、ルナ?買い出しにしては長すぎるだろ」
 ミネルバの整備主任であるマッド=エイブスの質問はルナマリアが予想した通りの物だった。
 結局ルナマリアはあの金髪の少女を基地まで連れてきて、それで余計時間がかかったのである。
 まだセレモニーの開始前でガイアは公開していないため、一般人に公開しているロビーで待ってもらうことになったのだが。
「少し。それより、私のジンはきっちり飾り付けしてくれました?」
「ああ。少なくとも、こけたりしない限りはみっともない姿を晒すことはないぞ」
「……馬鹿にしないで下さい。立ってるだけなのに失敗したりしません!」
「だといいがな?」
 そう言って意地悪な笑みを浮かべるエイブス。彼女は赤服でもその実力は緑服と大差ない、下手をすればそれ以下というのは有名な話である。
 ルナマリア自身もそれを知っているので、反論しようが無い。腹を立てながら彼に背を向けた。

 一方、同じ基地内の新型モビルスーツ格納庫では異変が起きていた。
 血の匂いと、硝煙の匂い。一般人がいれば卒倒しかねない、凄惨な光景。
 その中で立っているのは、たった四人。他は全て、死体である。
「……終わり」
 ルナマリアに連れられて来た金髪の少女―――ステラは、手慣れた様子で目の前にいる兵士に向かってナイフを振るう。
 無駄なく頸動脈を一瞬で断ち切ったその軌跡は、芸術的とさえ言えた。
 喉を絶たれた兵士は、声も出せずに血を噴き出しながら崩れ落ちる。
 返り血がかかったにもかかわらず、ステラが気にする様子は全くない。
「こいつで全部だな。ったく、しぶとかったなホント」
「ステラ抜きでも十分やれるって言って、ステラの見張りを途中で勝手にやめた奴のセリフとは思えないぜ、アウル」
「うっせえな、本当にこいつが迷子になるとは思えなかったんだよ」
「だったら目を離さないでちゃんと見張っとけ。もしあの時基地で合流できなかったら本当に二人でやる羽目になったんだ」
 彼女の仲間らしい二人が、兵士の死体の山を前に軽口を叩いている。
 ステラはそんな二人にも興味なく、三機の新型モビルスーツを眺めていた。
「……スティング」
「ああ?」
 ステラは仲間の一人、緑髪長身の青年に問いかけた。
「ガイアって、どれ?」

「……どこだっけ、ここ」
 怒りのままに歩を進めていたルナマリアだったが、結果として今自分がどこにいるか全く分からないことに気付いた。
 どうやら周りを見る限り、モビルスーツ格納庫がある区画のようだが…
「おい、ルナ。何やってるんだこんなとこで?」
「あ、シン? そっちこそなんでここに? インパルスはミネルバにあるんじゃないの?」
 彼女に呼びかけたのはシン・アスカ。アカデミーをトップの成績で卒業した黒髪赤目のザフトレッドである。
 もっとも、成績はともかく素行、特に上官への態度は恐ろしく悪いことでも有名だ。よくルナマリアと共に「最近のザフトの質の低下」の代表として挙げられている。
 そのためか、ルナマリアに普通に接する数少ない人物の一人となっている。
「いや、コアスプレンダーだけはこっちにあるんだ。
 なんでも上層部は十二時方向からカオスとかを発進させて、九時方向からコアスプレンダー、三時方向からチェストやレッグを飛ばして交差する形で登場させる、っていう演出をしたいってさ」
「大変ねー、無駄な手間かかるでしょ。それ」
「ああ。見栄えはするっていう話だけどそれもどうだか…」
 シンとルナマリアの会話はそこで途切れた。突然警報が鳴り響くと共に、ガイアなどを収納していた格納庫の扉が爆発、そして中から現れたのは…
「嘘!?」
「何でもうあれが出てきてるんだよ!」
 二人の驚きを無視するかのように、出てきた三機の新型モビルスーツは周りの施設を破壊しだした。
 素早く立ち直ったのはシンのほうだ。彼はすぐに三機が真っ先に破壊しているのは格納庫だと気づき、奴らは迎撃に出られるモビルスーツを減らそうとしていると判断した。
 このままではコアスプレンダーの格納庫も潰される。
「ルナ! こっちだ!」
「ちょ、ちょっと、引っ張らないでよ!」
 シンはルナマリアを急かしながら、格納庫へ走った。ここに立ったままでは、確実に流れ弾や破片で怪我をする。
 転びそうになりつつ、何とか二人が格納庫の入り口までたどり着いた瞬間、上で強烈な爆発音がした。カオスのビームライフルが屋根に当たったのだ。
「しまっ…!?」
「きゃあ!?」
 ルナマリアはシンの後ろを走っていたため、とっさに飛び退いて破片を避けることに成功した。
 しかし、シンは間に合わず、無数の破片を浴びる。
「シン! 大丈…えほっ、ごほっ!」
 土煙にせき込みながらもシンに呼びかける。土煙が晴れると、地面に伏せているシンの姿が現れた。

「シン、生きてる!?」
「なんとか…っつう!」
 起きあがりながら、シンは苦痛に顔を歪めた。
 右腕からひどく出血していて、怪我をしたのが見て取れる。幸い、頭などは無事なようだが……
「ちょっと服、借りるわよ」
 そう言ってルナマリアはシンの制服を破き、きつく腕に巻き付ける。
「立てる?」
「なんとかな…」
 今度はルナマリアがシンを先導する形で入り口を開け、格納庫へ入った。
 しかし中もひどい有様であり、たくさんの兵士が屋根の破片で重傷を負っていたり、大きな破片の下敷きとなっていた。
「あいつら…」
 シンは怒りに体を振るわせながら、コアスプレンダーを見やる。
 ビームライフルが当たったのは屋根の前部分だ。
 そのため異常を確認するため入り口付近に集まっていた兵士は全員被害にあってしまったが、奥に収納されていたコアスプレンダーは無事である。
 シンの考えを理解したルナマリアは慌てて彼を止めた。
「ちょっとシン、やめなさいよ!」
「うるさい! あいつらを暴れさせておけってのか!」
「そんな怪我した腕で勝てるわけないでしょ!」
 ルナマリアの正論にシンは顔をうつむかせた。利き腕を使わずに操縦なんてできるはずがない。
 何か言い返そうと顔を上げたシンは、ルナマリアがコアスプレンダーに乗ろうとしているのに気付いた。
「ちょっと待てルナ! お前じゃそれに乗るのは無理だ!」
 先ほどとは見事なまでに立場が逆転した。
「あいつらをこのままにしておけないって言ったのはあんたじゃない!」
「そういう問題じゃ…ぐっ!」
 言い返そうとしたシンはまた右腕の痛みに唸った。その間にもルナマリアはコアスプレンダーに乗っている。
「……しょうがないな」
 シンは諦めることにした。ただし自分の機体を勝手に破壊されるのも御免である。しかも合体失敗などというとんでもない理由で。
「いいか、よく聞けよルナ。まずな…」

「……いい。ルナの言ってたとおり、速い」
 ステラのガイアに対する評価はそれだった。
 彼女は今までストライクダガー・ロングダガー・ダガーLといった機体に乗ってきたが、その全てを上回る性能をガイアは持っている。
 肩のビーム突撃砲でディンを撃ち抜くと同時に、変形。
 四つ足形態の素早い動きでジグザクな高速移動を見せて相手の照準を外しつつ、すれ違った不幸な式典用ジンを背中から翼のように両脇に広がっているビームブレイドで両断する。
「へっ、コーディネイターも大したことねえな!こんまま壊滅させちゃう?」
 アビスを奪った青髪の少年、アウルが仲間に呼びかける。
「調子に乗るな。今動ける奴を潰してさっさと退くぞ!」
 そう言ったのはカオスを奪った緑髪の青年、スティングである。
 どうやらアウルは納得がいかないらしく、スティングと口論するのがステラにも聞こえた。
 しかし、ステラはその二人の会話の他に気を取られる物があった。
「何か…飛んでる」

 セレモニーの主役の一つ、インパルスに乗るのはルナマリアの夢だった。
 現在ルナマリアは夢が叶ったわけだが、ちっとも嬉しくは無かった。というのも。
『ルナ! 今の数値は!?』
「312」
『もう少し減速しろ、馬鹿!』
 シンが格納庫から、通信機ごしに鬼教官っぷりを発揮しているからだった。
「……お姉ちゃん、レッグフライヤー射出していい?」
 いかにも不安げな様子で話すのはミネルバの通信士でルナマリアの妹、メイリン・ホークである。
 へたり込みたい衝動を抑えながらルナマリアは返事の内容をどうすべきかシンに聞いた。
「えっとね…シン?」
『射出させろ!』
「だそうよ」
「レッグフライヤー射出、どうぞ!」
 まだ戦闘すら始まっていないのに、ルナマリアの神経は既にかなりすり減っている。
 シンはルナマリアでも合体できるよう、ある程度までミネルバの方向に飛んだ後Uターンすることで
後ろからフライヤーに追われる形で合体できるようにしろ、とルナマリアに言った。
 しかしインパルスに乗ったことのないルナマリアにはこの合体方法でも十分難しく、通信ごしにいちいちシンがチェックすることになったのである。
 その様子を見て、ミネルバの艦長である独特な髪型の女性、タリア・グラディスは気が気でない。
「寿命がいい感じに縮むわね……ジェットコースターより効果抜群だわ」
 この呟きは決して誰にも聞こえないように言う辺りが、艦長として大切なことである。
 不安を伝染させるわけにはいかないのだ。もっとも、ブリッジ要員は既に全員不安げな様子だが。
 それでもなんとかコアスプレンダーはミサイルを廃棄し、チェスト・レッグの二つのフライヤーと軸を合わせ、合体する。
「ふぅ、なんとかなるもんね…」
『馬鹿! 急いでバランスを保て! シルエットが来るぞ!』
「え? 別にバランスなんかくずし」
 言うと同時にインパルスはバランスを崩した。
 当たり前だが戦闘機であるコアスプレンダーとモビルスーツであるインパルスでは操作感覚が違うため、ルナマリアのように同じ感覚で操作しているとバランスを崩す羽目になる。
 結果、インパルスはソードシルエットとの合体に失敗し、地面に落下することとなった。
「い、いったぁ…格好悪ぅ…」
 インパルスを起きあがらせつつルナマリアが呻いていると、突然アラームが鳴る。
「もう、いきなりなに……!」
 目の前に写る物を見て、ルナマリアは慌ててインパルスを飛び退かせた。
 先ほどまでインパルスがいた場所にビームが着弾し、爆発する。
 目の前に立ちふさがるのは、モビルスーツ形態になったガイア。
「………っ!」
 ごくり、と唾を飲み込む。
 言うまでもなく、彼女は実戦は始めてである。
 緊張の頂点にある彼女に、そのガイアに乗っているのは誰なのか、という事は考えもつかない。
 ―――もっとも、それは既に戦い慣れているステラにとっても同じ事だったが。
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