Top > Lnamaria-IF_第03話
HTML convert time to 0.005 sec.


Lnamaria-IF_第03話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:14:38

「頑張ってよ、お姉ちゃん……」
 姉が乗るインパルスを、メイリンはモニター越しのじっと見つめていた。
 もちろん心配しているからだが、他の要素も無いわけではない。

 ルナマリアが出撃する少し前のこと。
「ったく、俺だけ留守番かよ」
 モビルスーツパイロットの一人、ルナマリアと同期のショーンが格納庫に向かいながら愚痴った。
 タリア・グラディスの立てた作戦は単純明快である。
 ルナマリアを隊長機とするモビルスーツ小隊が敵艦に接近し、攻撃。ただしショーンのザクだけはミネルバに残り、不測の事態に備えるという物だった。
「そう不満を言うなってショーン。『あの』ルナマリアと一緒に出撃するよりかはましだろ?」
 やはり同期の緑服、ゲイルが答える。
「だいたいなんで『あの』ルナマリアが最新鋭機に乗ってんだ? それなら俺が乗っても大して変わらないだろうが。やっぱ赤服特権って奴か?」
 ブリッジに向かう途中、通路でそんな会話をしているのをメイリンは耳にしたのだ。

「結局、他人に自分の力を見せつけるしか自分を認めさせる方法はないんだよ、お姉ちゃん」
 少なくとも彼女はそうだった。伊達にこんな年齢でアカデミーを卒業、最新鋭艦に配備されたわけではない。
 年少者だと侮る人間を、試験の結果や仕事の内容で考えを変えさせてきたのだ。それはシンも一緒である。
 二人はショーンやゲイルのように近くにいたから運良く採用されたのではなく、他人に自分の力を見せつけてミネルバに乗ったのだから。

「あんまり成績良くないんだけどね、デブリ戦……」
 目の前に広がるデブリ帯を見て、ルナマリアは呟いた。
 誰にも聞こえないように呟いたつもりだったが、通信機まできっちり届いていたらしい。
「デブリ帯『も』だろ?」
 近接用であるスラッシュザクウォーリアに乗っているゲイルが笑みを浮かべながら言った。どう見ても好意的な笑みではない。
「特に爆弾処理なんか、一度シンを殺しそうになったっけな?よく一緒にインパルスに乗せて貰えたもんだ」
「何ですって……」
「黙ってろよお前ら。訓練じゃないんだぞ」
 言い返そうとしたルナマリアを、今回モビルスーツ部隊長となっているシンが制した。
 だがゲイルはまだ言い足りないらしい。気配を察したシンは左腕で通信を切った。
 端から見ると冷静そうだが、実際の所は相当苛ついている。
(あんたらも、止めてくれたっていいだろ!)
 そう考えながらシンは怒りを込めて左右のゲイツRを見やる。話を止めるどころか、忍び笑いさえ通信機からは聞こえていた。ゲイルの話を面白いとでも思ったのか。
 どちらも乗っているのは、シンが始めて会った兵士だ。追撃のため補充兵として集められたらしい。
 確かマチスが二期上で、フレッドとか言う方が一期上だと暇つぶしに見た資料には載っていた。
 緑服で、実戦経験は手の指で数える程しかないのも一緒。それも全てテロリストが相手で、正規軍とは戦っていない。
(自分は何もできない、ってのは意外と嫌だな……)
 この急造部隊への不安と、自分は見ているだけという立場への苛立ちを抱えながら、シンはレーダーを見つめていた。

「……来たか」
 注意深い人間なら恐らく気づいただろう。
 岩や金属の破片ばかりのデブリ帯の中で、唯一紫色の光を放っているモビルアーマーが潜んでいた。
「しっかしこうも簡単に引っかかってくれるとはねぇ……せっかく見抜かれた時のための策も仕込んでおいたんだが」
 エクザスに気づかずに目の前を通り過ぎていくモビルスーツ小隊を見ながら、ネオは呆れたように呟いた。
 新鋭艦である以上パイロットもそれなりの腕が揃っているはずだと読んでいた彼にとっては、こうも簡単に行くことは逆に予想外だ。
「ま、いいさ。そろそろ頃合いだ、ガーティ・ルーは攻撃準備をしとけ!タイミングを間違えるなよ!」
 それでもいつもの不敵な笑みを浮かべたまま、ネオはイアンに命令を下した。

 ミネルバのブリッジにいるアスランは、ジレンマを感じていた。
(あの艦の動き……間違いなく罠だ)
 アスランはそう確信していた。理由があるわけでない。戦場で培った勘がそう告げている。
かと言って今の自分の身分を考えれば理由もなしに助言を言うことははばかられるし、ましてや何かしらの手段でこの艦を援護するというのは不可能だ。
 アスランにできる事は、客人としてただ座っているだけの今の自分に苛立つことだけだった。
 そして、ついにその時は来た。突然ミネルバを激しい衝撃が襲ったのである。
「推力低下! 敵艦の主砲が直撃した模様!」
「駄目です! 小惑星に不時着します!」
「ろ、六時方向から新たな熱源が…これは、ボギーワンです!」
「え、えええええ! ボギーワンが二つ!?」
 メイリンからの報告に、アーサーは泡を食ったような叫び声を上げた。
 ブリッジが混乱する中、いち早く状況を理解したアスランは思わず叫び声を上げていた。
「デコイだ!」
 そう言ってから、アスランは一瞬後悔した。
 というのも、ブリッジにいる人間――もちろん、デュランダル議長とオーブ代表、カガリ・ユラ・アスハも含む――全員の視線を受けることになったからである。
「ああ、いや、その……」
「なるほど。先にいたボギーワンはデコイであり、モビルスーツ隊を誘い出す罠だった……と言いたい訳ですね」
「え? あ、はい、そういうことです」
 言葉に詰まったアスランの代わりに、タリアが冷静にアスランの言いたいことを代弁した。
 だが、それでも状況を理解しただけで、突破できたわけではない。
「完全に嵌められたわね……ショーンのザクの発進急いで!
 アーサー! パルシファルとナインハルト準備させて! インパルスにも通信を!」
「は、はいぃ!」
 タリアは素早く一つ一つの指示を出していく。彼女もまた、伊達に新鋭艦の艦長をしているわけではないのだ。

 ミネルバが攻撃を受けたのと、ブラストインパルスがデコイを撃ち抜いたのはほぼ同時である。
「えっ!? 爆発しないで消えるって……」
「ダミーバルーンだ! たぶん罠……みんな避けろ!」
 シンは叫ぶと同時に、ルナマリアを押しのけてレバーを左腕で傾けていた。
 同時にブラストインパルスの姿勢がずれ、どこからか発射されたビームを寸前で避ける。
「う、嘘!? いったいどこから!?」
「そんなの俺が知るかよ!ルナは操縦に集中して次弾に備えてろ! ゲイル、返事しろ! マチス、フレッド!」
『こ、こちらゲイル! ライフルと右腕が吹き飛んだ!移動には支障なし!』
「分かった、マチスとフレッドは!?」
 シンは叫びながらレーダーを確認する。この付近にある光点は二つしかない。
 言うまでもなくそれはインパルスとザクの物である。つまり……
「う、うそ……こんなに簡単に……」
「くっ……」
 知り合ってさえいなかったとは言え、同じ小隊の仲間があっさりと殺された事に二人は愕然とした。
 だが、戦場の慌しさは死人を思いやる暇を与えない。インパルスにミネルバから通信が入る。
『シン! 急いでミネルバに戻るようにお姉ちゃんに言って!』
「メイリンか!? こっちはそれどころじゃ……」
『ミネルバがボギーワンに襲われてるの! ショーン一人じゃ守りきれないよ!』
「なにっ!?」
 シンがメイリンと話している間にも、相手は攻撃を休める様子は無い。
 ルナマリアの必死の回避運動をあざ笑うかのように、ビームライフルが撃ち抜かれる。
「私たちまんまと嵌められたってわけ!?」
「ああ、そういうことだね! でも戻れって言ったって、せめて敵の居場所が分からないと!」

「大した火器の数だ。こいつぁ近づくのに骨が折れそうですな、ミラー隊長!」
「ふん。不時着した艦一隻も沈められないなんてのは、我がファントムペインの名折れだ」
「へっ、確かに同感ですぜ!」
 ヨーンとミラーのダガーLはまるで嵐のようなミネルバの火器を軽々とかいくぐり、巧みにビームライフルによる一撃を加えていく。
 特にスラスター周りへの攻撃を重視しており、ラミネート装甲を持つミネルバでさえダメージとなっていた。
「くっ……ショーンは何をやっているの!? インパルスは!」
「残り二機のダガーLと交戦中! インパルスは奇襲を受けているようです!」
 メイリンの報告はとても芳しいと言える物では無かった。冷静だったタリアの表情にも焦りが浮かび始める。
 しかし、まだ冷静さを保つ人物が一人いた。デュランダル議長である。
「この艦には確かもう一機ザクがあったはずだ。あれは使えないのか?」
 彼が言っているのはアスランとカガリが乗ってきたザクの事である。
 二人は式典の混乱から逃げるためにザクに搭乗し、ミネルバへと逃げ込んだのだ。
 ただしその際カオスの攻撃で左腕を失っており、タリアはそれを修理するよりは新しくザクを積み込んだ方が早いと判断、結果としてそのまま放置される事となったのだ。
「確かに援護程度なら可能でしょうが、パイロットがいません!」
「ここに一人いるさ。とびっきりのエースが、ね」
タリアにそう答えて、デュランダルはアスランを見つめた。

「さぁて、そろそろ仕上げといくか。メアリ、攻撃開始だ!」
『了解です、大佐』
 ネオはダークダガーのパイロット、メアリに通信を入れる。
 彼女のダークダガーもまた、そのステルス性能を生かしデブリ帯に潜んでいた。ただしエクザスと違い、今まで一度も攻撃していない。
 サイズも小さく、ガンバレルによる物陰からの攻撃ができるエクザスと違い、ダークダガーはあくまで塗装によるステルスしか行っていないため、攻撃を行うと位置がばれる可能性が高い。
 ネオの「仕上げ」は、それを逆用する作戦である。
 一方、ルナマリア達はネオの策通り、ビームカービンを撃つダークダガーを発見していた。
「見付けた! あいつね!」
『俺の方が近い! 俺にやらせろ、シン!』
「待てゲイル! あいつ一機じゃさっきまでみたいな攻撃はできないはずだ! 他に伏兵が」
『だったらてめぇで他の奴を捜してろ! 俺はあいつをやる! こんなに馬鹿にされて黙ってられっか!』
 言うやいなや、ゲイルのザクはダークダガーへ向かい突進していく。
 彼は仲間があっさりと殺されたことで逆上していた。と同時に、今までの不利な状況はこいつさえ倒せば突破できるとも考えていた。
 どこから攻撃が来るか分からない混乱した状況で、擬似餌を見せてやれば必ず食い付く―――ネオの読みは完全に当たっていた。そして。
 突然、ゲイルのザクが爆発した。
「え、げ、ゲイル!? なんで攻撃もされてないのに!」
「機雷だ! あいつの前に、機雷が仕掛けてあったんだ。多分あいつは囮だ! さっきまで攻撃してきた奴は別にいる!」
『その通りだ。さすがに新型のパイロットとともなればぼんくらではない様だな。ならこの状況でたった一機では勝ち目が無いとも分かるはずだ』
 通信機から突如鳴り響く男の声。もちろんネオの声である。
『こちら地球軍大佐ネオ・ロアノーク。おとなしく降伏したまえ。できればその新型機、無傷で確保したいんでね』
「なんですって、この……」
「黙ってろ、ルナ!」
 そう言ってシンは周りを見渡した。どこかにいるはずだ、この声の持ち主が。
『なるほど、複座式か。分離合体するともなればそれくらい必要なのかな?』
 相手にとって、一番問題外なのは逃げられること。最悪でも破壊しなくてはならない。だから。
『こちらは無傷で新形が手に入る。そちらは死なずに済む。みんなが幸せになれるいい提案だと思うが?』
 降伏を断った時にすぐに撃てるように、狙いを付けて潜んでいるはずだ―――
「ルナ。後方左斜め下にあるちっこい紫の奴を撃て。できる限り早くな。その後右にある廃棄コロニーに逃げ込め」
「え? でも、何なのあれ? モビルアーマーにしては小さすぎ……」
「いいから、早くしろ!」
「う、うん!」
 シンの声色に必死な物を感じ取ったルナマリアは、狙いを付けるのもそこそこにデリュージー・超高初速レール砲を放った。
 紫色の物体が爆発すると共にダークダガーが再び攻撃を開始、別方向からもビームが飛んできた。
 ルナマリアはブラストインパルスを必死に動かし、なんとか廃棄コロニー……というよりはコロニーの残骸に滑り込んだ。

「ねぇシン、あれなんなんだったの?」
「多分、ガンバレルってやつだろ。ドラグーンの連邦版だ。あっちが元祖だけどな。
 あれなら小さくて素早いから物陰に隠れるのは簡単で、見つかりにくい」
「ここなら大丈夫……よね?」
「大丈夫だろ。ガンバレルは有線だから、こんな所を撃とうとしたら絡ま」
 そう言ったシンは、盾にビームが着弾するのを見て絶句した。
「……よく防いだなルナ」
「う、運よ運! それより嘘吐かないでよ、後少しで死ぬ所だったわよ!」
 叫びながらも、ルナマリアは慌ててブラストインパルスをコロニーから脱出させた。
 しかし、それを読んでいたかのようにダークダガーが立ちはだかった。右手にはサーベルを抜いている。
「ルナ、ジャベリンを出せ! インパルスのパワーならまともに斬り合えば勝てる!」
「分かったわ!」
 ケルベロス・高エネルギー長距離ビーム砲のギミックが作動、二本のデファイアント・ビームジャベリンが射出される。
 ブラストインパルスは素早く二本を連結、ラケルタモードにして右手に持った。
 だが相手もそれをただ見ているわけではない、ビームサーベルを上段から斜めに振り下ろしてきた。
「こんな所で死ねるもんですかっ!」
 レール砲を一門犠牲にしつつ何とかビームサーベルを回避し、ラケルタ・ビームジャベリンを突き出す!
 ダークダガーは盾をかざしたが、それさえ貫通してジャベリンの光の刃はダークダガーのコックピットに突き刺さった。
「や、やった!」
「馬鹿っ!油断するな!」
 ルナマリアが喜んだのもつかの間、エクザスのガンバレルが発したフィールドエッジがインパルスを掠め、ケルベロスが一門爆発する。
「こ、こんのぉ!」
「くそっ、いつまでも姿を隠したままでいたぶるつもりかよ!」
「どうすんのよシン、急がないとミネルバが!」
「分かってる、何とかしないと……」
 焦りをつのらせる二人に、ミネルバから朗報が入った。
『お姉ちゃん! シン! ミネルバから敵は撤退してくれたよ!』
「それってどういうことだよ!? ショーンだけじゃそんな芸当は……」
『アスランさんがザクに乗って出撃してくれたの! 凄いよ、片腕がないザクであっという間に二機落として。残りの敵も逃げだしちゃったんだ』
 へへー、と自分の手柄のように言うメイリン。
『今ショーンとアスランさんがそっちに向かってるよ。安心して……』
「いや、その必要はないと思う」
『「え?」』
 ルナマリアとメイリンが同時に声を放った。シンは無言でモニターの端を指さす。
 そこにはガンバレルをまとめ、撤退していくモビルアーマーの姿が映っていた。
「メイリン、敵艦はどうしてるか教えてくれ」
『撤退中だよ。あ、そっか』
「艦が撤退するなら、あのモビルアーマーも撤退しなきゃいけないって訳ね。あいつ大佐とか言ってたし」
なるほど、と納得した風情で二人は言った。

「ひどい有様ね……」
「……ああ」
 せめて遺体を持ち帰るためゲイツRを回収しようとした二人だったが、どちらの残骸もコックピットを見事に貫かれているのを見て愕然となった。
 例え機体が爆発していなくても生存は望めなかっただろう。それほどまでにネオと言う男の狙いは正確だった。
「ゲイルは……」
「回収は無理だろうな。機体が完全にバラバラになっちまってる……」
 ブラストインパルスのツイン・アイがゲイルが突っ込んでいった方向を見やる。
 ご丁寧に、相当な量の機雷をまいていたらしい。インパルスのヴァリアブルフェイズシフト装甲を想定していたようだ。
「………」
「………」
 シンもルナマリアも、どう言えばいいのか分からず、ただブラストインパルスにゲイツRの最も大きな残骸を引きずらせ、ミネルバに向かうことしかできなかった。
 彼らは始めて、戦死というものを目の当たりにしたのである。

】 【戻る】 【