Top > Lnamaria-IF_第08話
HTML convert time to 0.003 sec.


Lnamaria-IF_第08話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:18:49

 ミネルバの補給と修理が開始されたのは、ユウナから『お願い』をされた半日後。
むろんデータのコピーに手間取ったというのもあるが、それ以上に手間がかかったのは艦内クルーの説得だった。
確かにタリアは有能な艦長でクルーから信頼されているし、理屈の上ではそれしか方法がないのは誰でも理解できる。
しかし、だからといってこんな形の『お願い』を呑め、なんていうのは簡単に納得できる話ではない。
いや――データを既に渡し終えた今も、納得している人間は一人もいないだろう。
『お願い』の現場にいたシンやルナマリアでさえ納得できてはいないのだから。

「表ではキレイ事言っといて最っ低な国ね……」

ミネルバ艦内を歩きながら、ルナマリアはぼやいた。
彼女とシンはインパルスのデータのコピーが終わった後にミネルバに戻って睡眠をとったのだが、
それでもセイランに対する反感は収まらない。
一人で愚痴りながら廊下を歩いている彼女の耳に、突然訓練場から銃声が断続的に聞こえ出した。
今はまだ早朝。艦内クルーは一部が補給、もしくは修理作業を行っているだけで、ほとんどは眠っている。
ふと気になった彼女は、暇つぶしついでに訓練場に足を向けた。音が聞こえるぐらいだから、そう遠い距離ではない。
扉を開けて中を覗き込むと、そこには左腕で銃を持っているシンの姿がある。

(怪我してるのにこんなことばっかりやってたら、いつまでたっても治らないんじゃないの?)

ルナマリアはその勤勉さに感心するより、むしろ呆れてしまった。自然と咎めるような言葉が口からでてしまう。

「こんな朝から、何してるのよ?」
「見れば分かるだろ。訓練だよ」
「そうじゃなくて。シン、ちゃんと休んでたほうがいいわよ」
「いいだろ、別に。やっと勘をつかんできたんだから、少し黙っててくれないか。集中できない」

対するシンの声はぶっきらぼうな調子だ。ルナマリアが黙り込んだ隙に、シンは訓練を再開した。
利き腕ではない腕一本で撃っているにも関わらず、シンは正確な狙いで的を撃ち抜いていく。
訓練が終わるころには、平均を上回るスコアを叩き出していた。

「すごいじゃない、シン!」
「まだだ、こんなんじゃ」

ルナマリアは感心したが、当の本人に納得した様子はない。
どこまで上を目指すんだか――ルナマリアはため息を吐きながら聞いた。

「……どこで納得すんのよ、シン。まさか最高スコア出すまでとか?」
「そんな低い目標で満足するかよ」
「低いって……じゃあどこまでいくのよ?」
「片腕だけでも、昨日みたいな囲みを突破できるようになるまで、だ」
「は、はぁ?」

シンの言葉のスケールの大きさに、思わずルナマリアは呆けたような声を出した。
当然だろう。あの状況下を突破するなどというのは、たとえ両腕が動かせても不可能に近い。
だが……シンの目が何よりもはっきりと言っている。

自分は――――本気だと。

「わ、分かったわよ。でも、せめて右腕が治ってからにしたほうがいいわ。
 いくら左腕で撃ったって反動は伝わるんだし」
「今じゃなきゃ、駄目なんだよ。
 ここで誰かを当てにしても、アスハを否定することなんかできない……!」
「え……!?」

シンは銃を置いて、呟くように、しかしはっきりといった。
すべてを押さえ込んだような――深い闇を孕む声で。

「いつか言っただろ、ルナ。俺が軍に入ったのは……
 アスハの、戦いを否定する考えを否定するためだって」
「……それって、確か」

ルナマリアの頭に浮かんだのは、アカデミー時代。
爆発物処理の訓練で失敗し、二人で教官に叱られた後のこと。
――どうして、あんたって無茶ばっかりするのよ?
そして、そのときのシンの答えは、
――示さなくちゃいけないんだよ。何かを守るためには、力を見せ付けなくちゃいけないんだって。
……なぜ今まで思い出さなかったんだろう。
そう言ったときのシンの声は、ユニウスセブンの時のように――今のように、陰に満ちていた。

「なのに……今の俺は何だよ!?
 せっかくアスハが目の前にいたのに、俺はアーモリーワンからここまでずっと何もできていやいない!
 冗談じゃない。俺は絶対に否定してやる。あいつに、間違いを認めさせるんだ!
 腕が治るまでとか……そんな悠長なこと言っていられるもんか!」

そう言って、シンは銃を再び手に取った。
しかし、それを構えるより先に耳に入った言葉が、それを止める。

「……バカ」
「っ……今なんて言った!?」
「バカって言ったのよ、バカって」

軽蔑の言葉に沸騰したシンは、ルナマリアに向き直った。
しかし、そこにあったのは、いたわる様な、諭すような、優しい表情。

「確かにシンは凄いわよ。伊達にアカデミートップ取ってるわけじゃないのね。
 でもね……一人でやるより、二人でやったほうがうまくいくと思わない?」

優しい調子で言いながら、ルナマリアはシンの脇に立った。
そのまま訓練用の銃を取って、続ける。

「あなたが持ってる知識とか、力とか……そういったもの全て、教えてよ。
 もともと私が軍に入ったのは生活のためでさ、シンみたいに大層な考えを持ってたわけじゃないわ。
 だから、あんたの目的を達成するために力を使っちゃいけない理由なんてないもの。
 戦う理由が見つかるんだし、かえって好都合かもね」
「……ルナ」

そう言いながら向けられる、ルナマリアの穏やかな笑顔。
先ほどまでの表情もどこへやら、シンはただ呆然とするだけだ。

「それとも……私みたいな落ちこぼれじゃ、迷惑かな?」
「そんなこと……ない」
「ありがと。じゃ、さっそく教えてくれる? やり方はシンにまかせるわ」

シンは、返事をしなかった――いや、できなかった。
今までの彼は、こんな言葉を言われたことなどない。
アカデミーでは、最終的に教官でさえ彼に敵う者はいなかった。
彼は全ての――かつて英雄と称された人間全ての記録に匹敵、もしくは上回る成績を叩きだした。
シンならなんでもできる――嫉妬の意味にせよ羨望の意味にせよそう思われた彼に、期待こそかけられても手伝おうとする人間などいなかった。
だから……呆然とするしかない。

「……シン?」
「え、ああ……うん。だけど、後悔すんなよ。
 分かってると思うけど、俺の目標は相当高いところにあるんだ。
 だから俺は今まで、馬鹿みたいな量の訓練をして、トップになった。
 それを今から全部教えるんだから、相当厳しい訓練になるからな!」
「うん、分かってる。むしろ望むところよ」
「……ふん」

厳しい調子のシンの言葉にも、ルナマリアの笑顔は崩れない。
シンは息を吐きながらも、小さい声でぽつりと、聞こえないように言った。

「……ありがとう」

】 【戻る】 【