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Lnamaria-IF_第11話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:20:37

 ミネルバは地球軍の包囲を何とか振り切って、カーペンタリアへ入港した。
そんななかで各所が慌しくなるのは当然だ。大量の雑務が待ち構えている。例えば、新しく来たモビルスーツの整理や、怪我人の治療など。

「インパルスは右! グフは左で!」
「エルスマンさん、真ん中に頼みます!」

 ヴィーノやヨウランが声を張り上げながら指示を出す。
先ほどからずっと働きづめな彼らだが、その表情は暗くはない。
理由は簡単、やっと地獄を脱したのだから。そして、そういった空気はミネルバ全体にあった。
ただ一人……その地獄から脱出させた立役者を除いて。
ルナマリアは無言で、担架で運ばれていくシンを追っていく。そんな様子を見て、新たに来た三人はそれぞれの対応を見せた。

「なるほどね。ありゃ重症だ」
「やはり落ちこぼれだな。帰還したパイロットがすべき仕事を全て無視している」
「趣がなさすぎだぜ、レイ。ああいうのはロマンチックってとったほうが人生楽しくなるってもんさ」

 軽い素振りの中に真面目な物が混じっているオレンジの妙な髪型の男が、ハイネ・ヴェステンフルス。
真面目な素振りでにべもなく言った金色の長髪を持つ男が、レイ・ザ・バレル。
そしてまるで最も軍人として似つかわしくない軽口を叩いた色黒男が、ディアッカ・エルスマン。
彼らの発言は、見事なまでに彼らの性格を表していた。
ディアッカの発言に別に感銘を受けた様子もなく、レイは歩き出した。
見咎めたディアッカが声をかける。

「おい、どこ行くんだ?」
「ブリッジへです、エルスマンさん。着任の手続きをせねば」
「まぁ待て、まだ全員揃ってないだろ。数時間もすれば来るはずだから、それまで待ってからまとめてやる」
「……分かりました、ハイネ隊長。では、その旨をタリア艦長に伝えてきます」

 ハイネの言葉にも耳を貸さず、レイは歩き出していく。
ディアッカとハイネはお互いを見やった後、やれやれとばかりに肩をすくめた。

「で、どうする? ハイネ」
「そうだな。ま、レイが艦長に行くならこっちはパイロットについて調べに行こうか」

 医務室。そこでは、軍医が眉間にしわを寄せていた。
そんな彼に、脇で呼吸器を取り付けられて眠るシンを見ながらルナマリアは問う。

「……知ってたんですね?」
「ああ。シンがインパルスに乗ることが決まった際に、議長から『SEED』についてはだいたい聞かされていた。
 今の彼がこの力を使えば、命に関わるだろうこともね。だから私は出撃を止めたんだが」

 どことなくシンを責める口調の軍医を見て、ルナマリアは厳しい表情になった。なったものの、軍医を責めることはない。
例えどれだけシンが心配でも、軍医を責めるのはお門違い。それぐらいは考える余裕がある。
その代わりに、彼女は言われた言葉を頭の中で反復した。

 SEED――Superior Evolutionary Element Destined-factorとは、一度だけ言われて学会に波紋を生み出した言葉だ。
コーディネイターさえ上回る「優れた種への進化の要素であることを運命付けられた因子」。それがSEED。
有り得ないわけではない。コーディネイターでさえ、未だに脳の全てを使えているわけではない。
デュランダル議長によればSEEDを持つ者は「脳の未使用部分を使うことができる」とのことだ。
通常以上の反応速度。通常以上の複雑な思考の可能。脳と言うソフトをより深く使えるがために、このような事象が起きる。
だが――デュランダル議長によれば、これだけでは種の進化は導けないらしい。
例え脳と言うソフトが発達しても、体というハードが付いてこれなければ駄目だというのだ。
考えてみれば当たり前のこと。脳を深く使って体が付いてこれるなら、人類はとっくの昔に脳を使いこなしているはず。
付いてこれないからこそ、脳を使いこなせないようセーフティがかかっている。
実際、SEEDを持つ者もいざという時にしかその力を使わない。なぜなら、ずっとSEEDを発現して生きるのは不可能だからだ。
シンもその辺りを理解しているはずなのだが……

「シンの場合、体っていうハードが少し損傷していたから耐え切れずこうなった、ことですか」
「そうなるな。つまり彼が今倒れているのは極度の疲労が原因ともいえる。
 もっとも内出血や肉離れとかも相当あるから、普通の疲労みたく寝てれば治るってものでもない」
「……」
「まぁ安心してくれ。
 今回はちゃんと途中で気絶してくれたから、そんなに重症ってわけでもない。
 リハビリをすれば回復する。まぁ当分は寝てると思うが」

 そう、とルナマリアは息を吐いた。
少なくとも、シンは死なない。後遺症もない。それだけ聞けばよかった。
あの時の様に、自分の力不足で彼を傷つけるのは……もう耐えられない。
――そんな風に自分の考えに沈んでいた彼女が、闖入者に気付けなかったのは当然のこと。

「そろそろ、こっちからも話していいかい?」
「!!?」

 現実に引き戻された彼女が慌てて後ろ、つまり扉がある方向を見れば、そこにはハイネがいた。
様子を見る限りでは、軍医はとっくの昔に気付いていたらしい。何の驚きもない。
落ち着いた様子でハイネに話しかける。

「何の用です?」
「なに、新任である以上ちょっとそこの二人について調べておきたかったもんで。
 一応議長からは「SEED」についてるが、百聞は一見にしかずって言葉がどっかにあったしな。
 できれば席を外してくれるとありがたいんだが……」
「分かりました。終わったら呼んで下さい」
「え、あの、その……」

 戸惑うルナマリアをよそに、軍医は部屋を出て行く。
入れ替わるようにして、ハイネは席についた。
迷いながらもルナマリアは声を出した。

「えっと……ヴェステンフルス、さん?」
「ハイネでいい」
「え、えええええ!?」

 いきなり上下関係を盛大に無視する発言をしたハイネに、ルナマリアは驚くしかない。
もっとも、驚かせた当人は不思議そうな顔だったが。

「やれやれ。どうしてみんなこう驚くんだか。
 今のところハイネって呼んでくれるのはディアッカだけだし……と、それはどうでもいいか」

 そう呟いた後、ハイネは本題を切り出した。

 メイリンは頭に手をあてながら、申し訳なさそうに聞いた。

「私にはちょっと分かんないですね……」
「う〜ん、そうか。レイからお前ら仲いいって聞いてたんだけどなぁ……」

 そう肩をすくめながら残念にそうに言ったのはディアッカだ。
ここは自動販売機などが置いてあるレジャー室。仕事が一段落し、ここで休憩していたメイリンにディアッカはある質問を持ち出したのだ。

「でも、なんで聞くんですか? シンがあんなことした理由なんて……」
「ああ、それは簡単だな。ハイネは結構フレンドリーかつ部下想いな隊長でね、もしシンが何か悩みとかトラウマを持ってるなら解消したいってさ。
 お節介と思われるかもしれないが、俺はいい隊長だと思うぜ?」

 ディアッカはにやりと笑みを浮かべながらそう言った。
もっとも、まだハイネについて何も知らないメイリンは「は、はぁ……」としか言えなかったが。
彼女がよく知っているのは次のことだ。

「やっぱ君のお姉さんにも、レイのことじゃなくてこっちを聞く方がいいか……」
「……それは、無意味だと思いますよ」
「ん?」

 どことなく声色を変えて言ったメイリンに、ディアッカは声を漏らした。

「お姉ちゃんも、物凄くお馬鹿さんですから。多分知ってても、絶対に喋りません。
 理由は知りませんけど……たった一人でシンの力になろうとしてますし」

 医務室の外。呼び出されたルナマリアは、戸惑いながら声をかけた。

「えっと……ヴェステンフルス、さん? それとも、隊長ですか?」
「ハイネでいい」
「え、えええええ!?」

 いきなり上下関係を盛大に無視する発言をしたハイネに、ルナマリアは驚くしかない。
もっとも、驚かせた当人は不思議そうな顔だったが。

「やれやれ。どうしてみんなこう驚くんだか。
 今のところハイネって呼んでくれるのはディアッカだけだし……と、それはどうでもいいか」

 そう呟いた後、ハイネは本題を切り出した。

「レイ・ザ・バレルについてなんだが……」
「え!? あいつが来てるんですか!」
「……気付いて無かったのか?」
「え、あ、はい」

 そこまで周りが見えなくなるほど重病か、とハイネは心の中で呟いた。
もっともこれに関する事は今聞くことではない。これから付き合っていく中で自然に話してもらい、解決することだ。

「率直に言って、あいつをどう思ってる?」
「えっと、それはどういう……」
「ま、言いにくいのも分かる。だけど、アカデミー時代の君とレイに関する話を聞くと、ちょっとな」
「……う」

 思わず言いよどむルナマリア。理由は単純、アカデミーではレイは真面目かつ優秀な、絵に描いたような模範生だったのだ。
お世辞にも優秀とは言えないルナマリアにとっては、天敵とも言える存在だった。
もっとも、レイにとっては素行不良かつ成績トップのシンが天敵だったのだが……それは別の話だ。
できるだけ穏便に聞こえるように配慮しつつ、こっそりとルナマリアは言った。

「ちょっと……苦手です」
「ちょっとじゃ無さそうだが、まあいい。
 あらかじめ言っとくが、レイはどうもインパルスのパイロットをこれからもルナマリアがやることになったのに不満らしい」
「はぁ……って、これからも?」
「そ。インパルスの新シルエットがカーペンタリアに届いてるんだが、議長曰くルナマリアへの贈り物だそうだ」
「ほ、本当ですか!?」

 思わずルナマリアは歓喜の声を上げた。シンの力になるのには、インパルスに乗り続けられるのは大切なことだ。
だが本来の話題と自分とハイネの立場の差を思い出して、慌ててその表情を引っ込めた。
しかしハイネはそれを咎めず、笑顔で続ける。

「とりあえずレイはあまり変なこと言わないように言っておいたが、ルナマリアも喧嘩売られても買わないように。
 まだ全員揃ってないんだからな、いきまり問題起こされても困るぜ?」
「は、はい。ハイネさん」
「ハ、イ、ネ」

 指をふりながら冗談めかして言った後、ハイネは歩いていった。
隊長としては色々と破天荒なハイネに、ルナマリアは呆然とするしかない。大切な言葉を聞き逃し、やっと気付いた時にはもうハイネはいなかった。

「まだ全員揃ってないって……他に誰か来るってこと?」

「へ〜、これが新シルエットかぁ……」

 ハイネと別れたルナマリアは、とりあえず会話の中で出た新シルエットを確認するために格納庫へと行くことに決めた。
ブリッジ要員はハイネ達の着任の手続きを始めているため、他に暇の潰しようがないのだ。
どうやらもう積み込みが始まっているらしく、見たことのないパーツや武器が運び込まれている。
のんびりと観察していたルナに……突然声がかけられた。ヨウランだ。

「おう、ルナ。OSも起動したままシンを追っかけといて、今更整備の観察か? いいご身分だよな〜」
「う……わ、悪かったわよ、それは」

 思わず、ルナマリマは口ごもった。正直、ヨウランの言うとおりだからだ。
モビルスーツは精密機械であり、その活動には常日頃からのメンテナンスが欠かせない。ちょっとしたミスや怠慢が機能停止に繋がる危険もある。
もっともルナマリアの返事に満足したのか、ヨウランは悪戯を思いついた子供のような表情で続けた。

「そうだよな、悪いよな。そう思ってるなら手伝ってくれてもいいよな〜?」
「……はいはい、分かりました!」

 そうルナマリアが返事をすると同時に、ヨウランは一枚の紙とディスクを渡した。紙には仕事内容が書いてある。
要約すると、各シルエットの管理プログラムの一部をディスクから各端末へコピー、もしくは打ち込んでおくこと。
パイロットでもできる程度の作業だが……問題は、単純な作業の割にその内容が結構多いことだ。

「……暇つぶしにはなるわよね」

 半分自己暗示、半分ヤケ気味に呟きつつ、ルナマリアは仕事を開始した。

 始めてから約30分後。あまりにもつまらない作業に、ルナマリアは飽きつつあった。

(同じこと何回もやってたら、そりゃ飽きるわよ……少しは収穫あったけどさ)

 もう何回も繰り返したパスワード入力を行いつつ、一人ごちる。
収穫とは新シルエットの特徴だ。管理プログラムを見たおかげで、だいたい概要が掴めた。

(新しい装備は三つ。アビスインパルスにガイアインパルス、そしてセイバーインパルスか……)

 新たに知った知識を頭の中で反芻する。
この三つのインパルスは、シルエットだけでなくチェクト・レッグ両フレイヤーの換装も必要とする代わりに、
原型となったモビルスーツに近い性能を持つことに成功したインパルスだ。

「……といっても、ガイアとアビスはともかくセイバーはよく知らないのよね、私」

 彼女が式典で当初乗る予定だったのは式典用のジン。製造が遅れ、式典に参加できなかったセイバーのことは知りようが無い。
そんな彼女の独り言に、ご丁寧にも答えを返した人物がいた。

「セイバーは大気圏内戦を得意とする機体だ。コンセプトは高機動・高火力、フリーダムに近い」
「うわ!?」

 脇からいきなり言ってきたのはよりにもよってレイだった。その表情は「そんな事も知らないのか」と口より雄弁に語っている。
多少唇を引きつらせながらも、ハイネの言葉を思い出して穏便に答えた。

「なんであんた、ここにいるわけ?」

 これでも彼女の感性では穏便である。もっとも、レイはいつもの平然とした表情を崩す様子は欠片もない。

「なぜミネルバに来たのか、という意味なら軍本部からの指令だからだ。
 ……個人的には、インパルスの代替パイロットとして呼ばれたと思っていたが」
「……っ、そうじゃなくて」
「それとも、なぜ格納庫にいるかという意味だったか?
 それなら機体のチェックだ。出撃した機体のチェックはこまめにしておくものだからな。
 帰還した後のチェックを整備士に任せて男を追っかけたりはしない」
「……あんたねぇ」
 
 レイのこれ以上ない嫌味っぷりに、ルナマリアはハイネの助言をあっさり忘却の彼方へ放り投げた。
オーブでの「お願い」の件も示すように、彼女は気が長くない。むしろ短い。
レイを睨みつけながらはっきりと言った。

「喧嘩売ってるわけ?」
「肯定だ。この際だからはっきりと言っておく。
 俺はお前をインパルスに乗るに値するパイロットだとは評価していない」
「なっ……だけどミネルバをここまで守ったのは!」
「それはインパルスの力だ。お前の力ではない」
「!!!」

 こうまではっきりと言われたことにルナマリアが怒るより先に呆然としたのに対し、言った当人であるレイの顔は相変わらず涼しい顔だ。
その表情は天気の話をしていると言っても通用するだろう。

「もともとここに来たのも、インパルスの性能などの確認をするためだ。もっとも、これを言うためでもあるが。
 忘れるなよ。今は指令通りザクのパイロットでいるが……お前がミスをすれば、俺は迷わず艦長に要請する。
 インパルスのパイロット交換の要請をな」
「……何よそれ。宣戦布告ってわけ?」

 ルナマリアが驚きから冷めて怒りを込めた表情で言い返しても、やはりレイの表情は変わりなかった。

「そう考えて貰っても問題は無いな」
「……!」

 レイの言葉に、ルナマリアは思わず握りこぶしを作っていた。だが、やはりレイに動じた様子は無い。くるりと後ろを向いて立ち去っていく。
それも、「殴られるのが嫌だから逃げる」という態度ではなく、「要件は済んだから話は終わりだ」という堂々とした態度で。

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