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Lnamaria-IF_第15話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:22:06

 カーペンタリアを出航したミネルバは何の障害もなく、中継地点であるマハムール基地に近づいていた。
オーストラリアからサウジアラビア――ほぼ地球半周に近い距離を、何の戦闘も無く突破。
今までの連戦、そして現在連合とザフトが開戦しているという事を考えれば嘘の様な静けさである。

「まぁ、楽なことに越したことは無いわね……」
「ええ、案外このまま何事も無くディオキアまで行けるかもしれませんね〜」

 この発言の当人であるアーサーは、本当に何事もなく行けると思っているような表情をしている。
言うまでもなく、タリアはそんな楽観的な見方をする気にはとてもなれなかったが。

「それよりメイリン。一時間後に入港するから、ハイネとアスランを呼んで頂戴。入港手続きもあるから」
「それなんですが。アスランさんが来るのは少し遅れると思います」
「え、なんで?」
「あー、あれか!」

 タリアとは対照的に、思い当たる節があると言わんばかりの声を出すアーサー。
当然、タリアが取る行動は決まっている。

「アーサー、どういうこと?」
「ほら、あれですよ。アスランならルナマリアと空中で模擬戦をやっています」
「……45分前からやっていたわよね、それ。まだ終わっていなかったの?」
「はい。映しますか?」
「そうね。区切りのいいところを見計らって通信を入れて終わらせましょう。メイリン?」
「了解」

 タリアの声と共に、メイリンの腕が滑らかに動く。
ブリッジのスクリーンに、二つの機体が映し出された。

 青と赤。フォースインパルスとセイバーの模擬刀が火花を散らす。
鍔迫り合いもつかの間、セイバーは素早く距離を取って変形。下をくぐり抜けて背後を取った。
インパルスが振り返るのと、その盾にペイント弾が当たるのはほぼ同時。

「飛んでいるんだ、下にも目を配れ! 狙撃される可能性もある!」

 こんな機動をしながら更に注意までできる辺り、化け物じみていると言うしかない。
ルナマリアは答えない。そんな事より意識を集中して、セイバーの姿を追う。
ただ追うだけではなく、その先の動きも読んで……

「そこぉ!」

 撃つ。しかし、盾で防がれた。それでも同時にセイバーが撃ってきたペイント弾の回避は全て成功した。
圧倒的な機動を見せつけるセイバー。必死に食らいついていくフォースインパルス。
どちらの射撃もお互いの寸前を飛び交い、寸前で当たらない。
互いに決め手がない――しかし戦いを終わらせたのは、このままでは終わりそうにないと判断したタリアからの通信だった。

 マハムール基地に入港を終え、ミネルバクルーのほとんどは休息になった。
カーペンタリアまでは重労働の極地だった整備士達も、羽根を伸ばしている。
ルナマリアも、軍敷地内の店で買い物をすることにした。

「にしても、上手くなったねお姉ちゃん。あのアスランさんと互角だなんて」

 そんな事を脇で言っているのはメイリンである。
しかし、ルナマリアは嬉しそうではない。憮然としながらスポーツドリンクを棚から取った。

「まさか。隊長、手を抜いているわよ」
「えー? あんなに速く動いてたのに?」

 そう言うメイリンは棚から手当たり次第化粧品を取っている。それを見たルナマリアは少し顔をしかめた。

「ずっと一緒に訓練してるから分かるのよ、あの人はまだ本気じゃない。
 ……それより、あんた買いすぎじゃないの?」
「お姉ちゃんが身だしなみに気を遣わなさすぎなんじゃない?
 ほら、うっすらとだけど目の下にクマがあるよ」
「それはここのところ少し寝不足だから。隊長の訓練って、講義形式でやるのもあって復習が大変なのよ……」
「講義って……アカデミーみたいに?」
「そう」

 講義形式訓練は、ルナマリアの過労を防ぎながら訓練を行うためにアスランが考えたものだ。
シンのメニューでは相当な身体的負担がかかるため、その一部を無くして代わりに脳を使わせようという訳だ。
……もっとも、ルナマリアが講義途中で眠るようなことがあれば問答無用で叩き起こしているのだが。
生真面目で、やる以上はきっちり全てやらせる性格。アスランも結構鬼教官の素質があったりする。

「あ、そうだ、思い出した。ダガーLに関するレポート提出しないと!」
「……ダガーL? なんで?」
「敵を知り己を知ればなんとやら、だって」
「アスランさんは今艦長とここの司令部にいってるから、後にしたら? それに、ここの所寝てないんでしょ」
「そうね、後にしたほうがいいかな。レポートの見直しも必要だし」

 少しは仮眠取って休めばいいじゃん、とメイリンがこの後つっこんだのは言うまでもない。

 一方で、司令部に案内されたタリア達は、基地司令官であるヨアヒム・ラドルのもてなしを受けていた。

「遠路ご苦労様です。まずはコーヒーでもいかがです? ご覧の通りの場所ですが、豆だけはいいものが手に入りますんでね」
「ええ、ありがとうございます」

 タリアが口を付けると同時に、アーサー達もそれに習う。
もっとも、アーサー以外の三人はこのもてなしは裏があると確信していたが。
しばらくして、ラドルが口を開いた。

「さて、この辺りの情勢についてはどれほど?」
「いえ、あまり詳しくはありませんわ」
「では、説明させて頂いてもよろしいですかな? ディオキアに行くそちらの都合にも関係ありますので」

 来たな、とタリアは確信した。大方、相当な難題が吹っかけられるのだろう。もちろん表には出さない。

「ええ、お願いしますわ」
「分かりました。では、この地図を」

 そう言って、ラドルは地図を広げた。この周辺一体の基地や勢力についても詳しく記された地図だ。
マハムール基地周辺はザフト……しかし、そこから北に行けばすぐにユーラシア連邦の勢力圏内だ。
もちろん、西にはザフトの一大基地であるジブラルタル、そして北には開戦後にザフトの勢力圏内に入ったディオキアなどの都市もある。
だがそれより近くに連合の一大基地であるスエズがあり、ザフトの勢力圏は見事に分断されている状態だ。
しばらくしてから出されたタリアの言葉が少し悲観的な物になるのも当然といえる。

「状況はだいぶ厳しそうですわね、こちらの」
「ええ。流石にスエズの戦力には迂闊に手が出せません。
 どうしても落としたければ前の大戦の時のように、軌道上から大降下作戦を行うのが一番なんですが。
 地球軍も対策を見付けつつあるらしい。確か聞く話によると、降下しようとする部隊の元へ宇宙軍を急行させ、タイミングをずらさせるとか……」
「ああ、確かにそれはやられましたね。おかげでミネルバの救援に行くタイミングが遅れて大変な事になった」

 ラドルの言葉に肯いたのはハイネ。彼が言っているのは、シンが倒れる原因になった戦いのことである。

「なるほど、確かにそれは上手い手だ。議会がこの手の作戦をカーペンタリア以降通さないのも当たり前か……
 だが、こちらが大人しいことをいいことにやりたい放題もまた困る」
「と言うと? 何かあると言うこと? スエズの他に」
「地球軍は本来ならばこのスエズを拠点に一気にこのマハムールと地中海の先、我等のジブラルタル基地を叩きたいはずです。
 だが今はそれが思うように出来ない。何故か。理由はここです」

 そう言って、ラドルは一点を指し示した。そこは……

「ユーラシア西側地域?」

 アーサーの言葉に、ラドルは肯定の意を目で示した。

「インド洋、そしてジブラルタルがほぼこちらの勢力圏である現在、この大陸からスエズまで地域の安定は地球軍にとっては絶対です。
 でなきゃ孤立しますからね、スエズ。なので連中はこの山間、ガルナハンの火力プラントを中心にかなり強引に一大橋頭堡を築き、
 ユーラシアの抵抗運動にも睨みを利かせて、かろうじてこのスエズまでのラインの確保を図っています。
 まあおかげでこの辺りの抵抗勢力軍は、ユーラシア中央からの攻撃に曝され南下もままならずと、かなり悲惨な状況になりつつもありましてね」
「しかし逆を言えば、そこさえ落とせばスエズへのラインは分断でき、
 抵抗勢力軍の支援にもなって間接的にでも地球軍に打撃を与えることが出来ると、そういうことですね」

 ラドルの言葉を引き継ぐ形で、アスランは言った。アーサーが納得したような声を漏らす一方、ラドルは笑みを浮かべて本題に入った。

「解っていただけたなら話は早い。だが向こうだってそれは解っている以上、そう簡単にはやらせてはくれません。
 こちらからアプローチできるのは唯一この渓谷だが、当然向こうもそれを見越していてね。
 ここに陽電子砲を設置し、周りにそのリフレクターを装備した化け物のようなモビルアーマーまで配置している。前にも突破を試みたが結果は散々でした。
 だが、ミネルバの戦力が加わればあるいは」
「なるほどね。そこを突破しない限り私たちはすんなりジブラルタルへも行けはしない……
 だからここの突破を頼みたいと。そういうことね?」

 やはり何事もなくディオキアまで行くのは不可能だったか――
そんなことを考えながら、タリアはラドルの言いたいであろう言葉を自分で出した。

「ま、そういうことです」
「ふぅ……いいわ、こっちもそれが仕事といえば仕事ですから」

――私達にそんな道作りをさせようだなんて、一体どこの狸が考えた作戦かしらね。 
ため息と共にそんな考えを浮かべながらも、タリアは承諾した。

「では、作戦日時等はまた後ほどご相談しましょう。こちらも準備がありますし。
 我々もミネルバと共に今度こそ道を開きたいですよ」

 笑顔のまま、ラドルは立ち上がる。会議は終わり、ということなのだろう。
それは、その代わりに新たな戦闘が迫ってくるということも意味していたが。

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