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Lnamaria-IF_第17話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:22:57

 インパルス――正確には分離したコアスプレンダーと各フライヤーが、分離状態で坑道へ突入する。
だが突入早々、コアスプレンダー内でルナマリアは悲鳴を上げる羽目になる。

「ちょっと、完全に真っ暗じゃない! 本当にデータだけが頼りってこと!?」

 コアスプレンダーの翼が岩壁とこすれあい、甲高い金属音を上げる。
チェスト・レッグも幅はぎりぎりだ。少しミスをすれば即墜落だろう。

「……くっ!」

 コアスプレンダーのコンソールを、ルナマリアの指が滑っていく。
見えないながらも、そこに存在していた天然の急な曲がり角。その岩壁にぶつかる寸前で、コアスプレンダーは左へ急旋回して曲がりきった。
もっとも、これで終わりではない。このような障害はまだまだ大量にあるだろう。

「あそこまで言われて失敗なんかできないわ。やってやるわよ!」

 怯えのない表情で、彼女は言い切った。

 ミネルバのタンホイザーから光が放たれる。普通ならば、それは圧倒的な破壊を生み出すだろう。
しかしそれは蜘蛛型の巨大モビルアーマー・ゲルズゲーによって防がれ、ただ土煙を巻き上げるだけだ。
だがその土煙を縫い、セイバーとグフが進撃する。
 
「行くぞ、アスラン。
 セイバーとグフであの蜘蛛を引きずり出す!」
「ああ、分かった!」

 元々グフとセイバーは空戦用に作られた機体だ。大気圏内戦闘ならジェットストライカー付きのモビルスーツを上回っている。
加えて、この土煙の中なら一気に接近できるだろう。上手く行けばゲルズゲーをおびき寄せるどころか、ザムザザーの時のように撃墜することも可能だ。
しかし、敵もそうさせるつもりは最初から無いらしい。レーダーに反応。突如、前方に熱源が現れていた。いや、むしろ。

「ハイネ、前だ!」
「これだけの熱を生むのは……ちぃっ、ミネルバ!」

 熱は「現れた」のではなく、「生み出されていた」。
当然、ミネルバもそれをすぐに察知している。その正体も。

「敵砲台、本艦に照準!」
「機関最大、降下!」

 タリアの号令に数秒遅れて、ミネルバが急降下する。そしてそのすぐ上を、陽電子の光が通り過ぎていった。
しかし、当たらなくとも今の一撃は連合にとってかなり有益なものだ。
ミネルバは急降下の勢いを殺しきれずに地面に不時着してしまい、さきほど起こった土煙は完全に晴れている。
動きが止まったミネルバの姿も、煙に紛れてゲルズゲーへ接近していた二機の姿も丸見えだ。
ハイネは舌打ちをして指示を出した。

「レイ、ディアッカ! 俺達の支援は中止しろ、ミネルバの護衛へ回れ!」
『了解です』
『オッケイ。ったく、洒落なってねぇな』

 同時に、ガナーウィザードを装備した二機のザクが下がっていく。
最初の作戦では、進軍するグフとセイバーを地上から援護させる予定だったし、土煙が上がるまではそういったスタイルで進軍していた。
しかし、攻撃に集中する余りミネルバの守りが疎かになり、そのまま墜ちてはどうしようもない。
かといって、姿が明らかになっている状態で援護無しに行くのは無謀だろう。現に、ダガーLはセイバーとグフの包囲を開始している。ならば……
アスランが口を開くより先に、ハイネが口を開いた。

「アスラン、俺が残って支援する。お前はなんとかして蜘蛛を引きずりだせ」
「待ってくれ。火器の量からすれば、支援するにはセイバーの方が」
「悔しいが、グフじゃあの蜘蛛に追いつく頃にはあいつは砲台の目の前だ。今だって蜘蛛は下がってるんだからな」

 グフが機動性が無いわけではないし、ゲルズゲーが速いわけでもない。
ただ単純に、あまりゲルズゲーが前に出てきていないのだ。セイバーのような規格外の機動性でも無ければ、完全に下がる前に追いつくのは不可能だろう。
何より、時間がない。インパルスが出てくる前に砲台へ戻らせるわけにはいかないし、ローエングリンの二射目を撃たせる訳にもいかない。
なら、早く追いつける速い機体の方がいいのは確かだ。

「……分かった、任せる!」
「ああ、後ろは心配するな。雑魚の相手はちゃんとやっといてやる!」

 セイバーが変形して突っ込んでいくのと、グフが周囲に弾幕をばらまいたのはほぼ同時。
一見すると、自棄気味の特攻にも見えたかもしれない。しかし、その印象が数秒で崩れたのは間違いないだろう。
なぜなら、後ろからの追撃は全てグフに阻まれるかセイバーが華麗に回避したのだから。
そのまま突っ込んでいきながら、セイバーはアムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲をゲルズゲーへ向けて放った。
倒すつもりの攻撃ではない。射程距離を見せつけるための攻撃。
陽電子リフレクターで軽々と防いだゲルズゲーだが、セイバーを脅威と感じたのだろう、前進してくる。
セイバーのプラズマ収束ビーム砲の威力・射程距離はフリーダムのそれと比較しても申し分ない。
ゲルズゲーのパイロットは自然、こう警戒する。中途半端に下がった状態で相手をすれば、自分を無視して砲台を狙い撃ちされかねないと。
実際、アスランはそのまま下がるならそうするつもりだった。完全に下がられてしまえばどうしようもないが、中途半端な位置ならやりようもある。
後は、何とか墜ちないよう努力するだけだ。

「それもかなりハードそうだけどな。ルナマリアだって頑張ってるはずだ、無駄にするわけにはいかないっ!」

 ――そう。彼女に自信を付けさせて、過去の評価から決別させるためにも、ここでやられるわけにはいかない!
水面に『種』が落ち、そして割れる―― 
地上からのランチャーダガーLの砲撃、まだ周辺にいるジェットダガーLの攻撃、ゲルズゲーの攻撃。
下から、前から、横から、上から、それらが織りなす圧倒的な暴力の嵐を、セイバーはいとも易々と回避していく。
その動きに怯んだか、それとも次弾への準備か。攻撃が一瞬止んだ隙に、セイバーは変形した。
同時にアスランはマルチロックオンシステムを起動する。フリーダムと同じものだ。
高エネルギービームライフル、アムフォルタス・プラズマ収束ビーム砲、スーパーフォルティス・ビーム砲。
それらの砲口が、周囲のダガーL四機を一気に撃ち抜く。一つはゲルズゲーに防がれたものの、それでもプレッシャーを与えるには十分すぎる成果だ。
他の機体を庇おうとしているのか、ゲルズゲーが前進する。ジェットダガーLも同様だ。こちらは近接戦闘なら勝ち目があると思ったのかもしれない。

……それが、罠だ。

 突如、山の一画が爆破される。ミサイルによる内部の爆破。そこから出てきたのは言うまでもない。
周辺にいたモビルスーツはほとんどがセイバーに意識を向けていたため、合体する間さえ見る余裕は無かった。

「みんな抑えてくれてる……悪いけど、決めさせてもらうわよ!」

 近くにいたランチャーダガーLをアグニを構える暇も与えずにライフルで撃ち抜く。
周囲にいるのはランチャーダガーLがあと一機だけ。シルエットは装着していないが十分やれる!
勝利を確信してインパルスを一気に走らせ……それは突然現れた。
山の一画が開く。恐らく、何もないように偽装された格納庫の一つだったのだろう。そこにいたのは、『予備の切り札』。

「馬鹿な!?」
「う……嘘でしょ!?」

 アスランでさえ、思わず息を呑んでいた。
もう一機のゲルズゲー。正真正銘の切り札が、そこにいた。 

 ゲルズゲーのビームがインパルスのシールドに爆ぜる。
状況はここに来て最悪だった。当然だろう。まさか今までずっとあれが二機あり、一機を使わずに隠し通してきた、なんて誰が予想できるだろうか。
だがタリアは納得もしていた。切り札とは、いざという時のためにとっておく物だ。
もっとも、感心している時間も余裕もない。必死に頭を巡らして策を考える。せめてシルエットさえ装着していれば、何とかできるかもしれない。
しかしシルエットフライヤーはどれも坑道を通れそうに無かったし、今シルエットを送っても途中で撃墜されるのがオチだ。
とっさに浮かんだのは一つの案。それができるか確認するため、すぐに火器管制に声をかけた。

「タンホイザーはもう一回撃てる!?」
「はい、あと30秒待てば冷却が済みますが……」
「なら、タンホイザーを撃ってシルエットを射出するルートを確保する……これは!?」
「それでは、タンホイザーを防いだ蜘蛛にぶつかります!」
「いえ、シルエットはタンホイザーの軌道の上を飛ばすのよ。陽電子砲を防いだ後はある程度動きが止まるはず。
 タンホイザーとの軌道のズレによる危険はモビルスーツでカバーするわ。防いだモビルアーマー自身は土煙でシルエットを見失うはずよ」

 とっさに浮かんだ案でここまで練り込んである辺りは、さすが新型艦の艦長というべきだろう。
フォースシルエットかセイバーシルエットなら、フライヤーとシルエットの飛行能力の相乗効果ですぐに到着できる。
幸いゲルズゲーの火力はザムザザーより弱い。シルエットの装着時間の隙もインパルスのシールドで凌ぎきれるはずだ。
しかし、アーサーが異議を唱えた。

「しかし艦長、基地周辺のモビルスーツにシルエットが撃ち抜かれる可能性が……」

 そう、現在インパルスは敵中に一機で孤立している状態だ。そしてゲルズゲーは二機いる。
アスランが相手をしているゲルズゲーがタンホイザーを防げば、当然土煙はその周辺から起きるし、ルナマリアの相手をしているゲルズゲーの動きは止まらない。
つまり、自由に動ける相手が目の前にいるということ。これでは装着する前に確実に撃ち抜かれる。だが、他に案は思いつかない。
それに、こうして考えている間にも時間は過ぎていく。長引けば危険なのはインパルスだけではない。
タンホイザーがすぐ使用可能になるということは、同じくもうすぐローエングリンが使用になるということ。
いちかばちかに賭けるしかないのか――タリアがそう考えた瞬間、アーサーがぽつりと漏らした。

「せめて囮になるものでもあればなんとかなるんですが……」
「!!! それよ、アーサー!」
「え、ええ!?」

 理解できない顔をしているアーサーを余所に、タリアは指示を出していく。
ブリッジクルーの全て、そしてメイリンから通信を受けたパイロット達もすぐに理解した。
これしか手はないこと、この作戦はまさにいちかばちかであること。

『お姉ちゃん、やれる?』
「やれるんじゃなくて、やるのよ! それしか無いんだから!」
『安心しろ、ルナマリア。フライヤーはきっちり君のところまで届かせる』
「隊長、頼みます!」

 ルナマリアが強い言葉を発すると同時に、残っていたランチャーダガーLへ攻撃を集中した。
もともとランチャーストライカーはモビルスーツ戦闘に向かない。ましてや残り一機では、そう保たない。
頭部を撃ち抜かれ、ダガーLはゲルズゲーに任せる形で退いていく。そして、タリアがそれを確認すると同時にタンホイザーが発射された。
軌道上にいたダガーLはすべて散開し、セイバーのそばにいたゲルズゲーがそれを防ぐ。
だが、それで舞い上がった土煙の中を、フライヤーが飛んでいく。ゲルズゲーは気付かない。気づけない。
途中で気付いたダガーLも、ある者はガナーザクファントムに撃ち抜かれ、ある者はグフに両断され、ある者はセイバーに撃墜される。
もちろん、もう一機のゲルズゲーはしっかりと気付いていたし、気づける。
しかし、気付いた瞬間に、思わず動きを止めていた。理由は単純、迷いからだ。

飛んできたシルエットは四つ。フォースシルエット、セイバーシルエットそれぞれ二つ。

 迷っている暇はないと踏んだのだろう、ゲルズゲーは片っ端から撃ち抜いていく。だが、とても間に合わない。
地上をその足で歩いていたため、下半身に設置されている武器をほとんど空に向けられず、まともに狙い撃てたのはビームライフルだけというのが災いした。
もし、ランチャーダガーLが残っていれば結果は違っただろう。だから、あらかじめ狙っておいたのだが。
インパルスは無事に残ったフォースシルエットを装着し、空へ舞い上がる。
もともと、セイバーインパルスに変形するためにはチェストも換装する必要があった。つまり、最初からセイバーシルエットは囮だったのだ。
そのまま砲台へ向け、飛ぶ。ゲルズゲーもインパルスを追う形で飛行してきたが、残りが自分一機だけとあって相当焦っているのだろう、隙だらけだ。
近接用の武装もないのに、ビームライフルを乱射しながら突っ込んでくるだけ。しかも……

「動きが重いのよっ!」

 無装備ならともかく、フォースインパルスはそうそう機動で負けはしない。
急停止しながら後ろに盾をかざし、ビームライフルを防ぐ。同時に、インパルスの左足が旋回した。そして、ゲルズゲーはその重さのため急には止まれない。
フェイズシフト装甲で覆われたフォースインパルスの足。急停止したことによる反作用を使った急旋回。ゲルズゲーのスピード。
それらを活かした後ろ回し蹴りが陽電子リフレクターを突き抜け、ゲルズゲーの頭部にカウンターで炸裂していた。
代償として左足は焼き焦げたが、相手のメインカメラを潰せれば充分。すぐに砲台へ向けて飛ぶ。
ローエングリンは既にチャージを開始していた。まだビームライフルの射程ギリギリだが、接近している暇はない。
ルナマリアは機械に頼らず、ビームライフルの照準を手動で合わせていく。この距離では、少しの照準のズレで大きく外れるからだ。

『大気圏内では、熱対流などで照準がぶれる。例えば湿度が少なく温度が高い地形では……』

 頭に浮かぶのは、アスランの講義。あのときはシュミレーションルームでやっていた。
ルナマリアの操作で、少しずつインパルスの腕が動いていく。照準のズレさえ読みとって。

『この角度だ!』
「行っけぇ!」

 インパルスのライフルから、光が走る。
その光は寸分違わず砲台を撃ち抜き、発射寸前だった陽電子を逆流させる。
そして逆流した陽電子は、基地そのものを破壊していった。

 戦いは終わった。それはつまり、ガルナハンが解放されたことを意味する。
コニールの要請で街に立ち寄ったルナマリアとアスランは、人々に囲まれ手厚い歓迎を受けていた。
ルナマリアには、こんな経験はあるはずもない。人々にもみくちゃにされるがままだ。
アスランもそんな微笑ましい光景を見て、思わずからかっていた。

「どうした? ぼーっとして。もっと喜んでいいんじゃないか?」
「あ、隊長! 見ました、見ました!? ちゃんと出来ましたよ私!」
「ああ、言ったろ? 君はエースだってさ。それが君の力だ」
「ふふ……何か、照れます」

 そう言うルナマリアは喜色満面だ。思わず、アスランも笑ってしまう。
それでふと、ルナマリアが横を見た。アスランもつられてそこを見る。
そこには、ミネルバでは見せなかった本当の笑顔で子供達と喜び合っているコニールの姿。

「……できたんですね。私が」
「ああ。俺達は任務を完全にやり遂げたんだ。
 戻ろう。みんなが待ってる」
「ええ!」

 再びインパルスとセイバーに乗り込み、二人は街から離れていく。
それでも、ルナマリアはモニターから街を見続けていた。この笑顔を刻むために。
それはきっと、自分がなし得た事の証明だから。

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