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Lnamaria-IF_第18話

Last-modified: 2013-10-28 (月) 02:23:15

 地中海沿岸の都市、ディオキア。
ザフトによって解放された都市であり、軍事的にはスエズに対する重要拠点。
そして、観光的には海が近いリゾート地だ。年頃の女の子であるメイリンに、今重要なのは後者の価値観だ。

(せっかくこんな所に来たんだし、羽を伸ばして遊ばなきゃね)

 軍服はとっくに洗濯機の中、今彼女が着ている服は外出用のおしゃれな服だ。更に手に持っているポーチは水着入り。
彼女が軍人だと思う人間は多分いない。そして、今回は姉の心配をする必要もない。

(一足先にシンに会いにいってるんだもんねー。問題が起こりようがないよ)

 シンとルナマリアの感情はただならぬ物ではない、ということは一部で有名だ。
通信士であるメイリンもその一部。なぜなら、戦闘中の二人の会話は彼女に筒抜けだから。
……あんな会話を聞いて二人の気持ちに気づかない方がどうかしている。
そして、それにまったく気づいている様子がない当人はどうかしている。

(ま、いいか。いくら二人が鈍感でも気づくんじゃないかな、今回で)

 そう、ともかく問題はない。
後は誰か誘ってバカンスとしゃれ込むだけ、なのだが。
ここで、扉が開いた。

「あ、メイリン……」
「あれ、お姉ちゃん?」

 暗い顔で入ってくる姉を見て、彼女は確信した。バカンスに行くのは確実に遅れる。
確実に相談相手を引き受けさせられることになる、と。

 時は少し前に遡る。
一人の青年が飛行場の展望テラスで風景を眺めていた。
ただ立っているのではなく、まるでその存在を確かめるかのように右腕をゆっくりと屈伸させている。

(……前よりは調子は悪くないか。まだ完全じゃないけど)

 そんな考えを持ちながらも青年――シンは右手を握り締めた。
痛みは無い。無いが、何か違和感が残っている。永遠に消えない、傷の代償。

――それでも、命を削れば数分だけでも消せる。皆が、あいつが危なくなった時は。

 守る。そう決めた。
それは、彼の行動原理。いかなる理由でも、それは絶対に反故にしない。
彼は再び、その誓いを胸に刻んで……

「シンってば!」
「え……うわあ!」

 そこでシンはようやく、脇にルナマリアがいた事に気付いた。

「もう、ちゃんと返事してよ! まだ調子悪いのかなって思っちゃったじゃない」
「ああ……ぼうっとしてただけだ。ごめん」

 とりあえず謝ってはみるものの、ルナマリアはまだ納得していない表情だ。
返事をしなかったのが原因かな……シンはそう考え、次に言うべき言葉を考えた矢先、ルナマリアは言った。

「……本当に大丈夫なの?」
「?」
「何か新型に乗るらしいけど……ほら、前みたいに、倒れたりしない?」

 シンはそこでやっと気付いた。ルナマリアが見ているのは、シンの右腕。
要するに、彼女が納得していないのは『彼が戦線に復帰する』こと。
ぼうっとしていて反応が遅れただけなのに、それを本当に心配している。
……ルナマリアにとって、それは当然のことなのだけれど。

「馬鹿にすんなよ。これぐらい平気さ」
「そうだけど……」
「だいたい、寝てるだけじゃ意味ないじゃないか」

 二人の会話はどこかずれている。 
そして二人はお互い、自分達の会話のズレの原因に気付かない。
理由は簡単だ。お互いに、自分が相手を守り、相手は自分に守られるのが当たり前だと思っている、それだけ。
シンはもうまともに動けるようになったのだから、ルナマリアをちゃんと守ると決めて。
ルナマリアはまだシンは病み上がりだから、今までのようにちゃんとカバーしていくと決めている。
会話が続けばいつか気付いたのかもしれないが、会話は違う方向へ動いた。

「あー、ルナマリア。そろそろ俺も挨拶していいか?」

 そんな事を言ったのは気を遣って後ろで目立たないようにしていたアスランである。
平行線になりそうな状況を防いでおこうと声をかけたのだが、空気を読めているかどうかは判断し難いところだ。
実際、シンの反応は冷え切った物だった。

「……なんであんたがここにいるんですか」
「ああ、復隊したんだ。上から話は行ってなかったのか?」

 そうじゃなくて、という言葉が出掛かるもののシンはなんとかそれを飲み込んだ。
シンにとってアスランは破砕作業で自分が無力さを味わっている最中に大活躍を見せつけ、
挙句に助けるはずが助けられてしまった相手だ。
なんであんたがルナマリアと二人でいるんだ、と言うのはシンのプライドが許さない。
もっとも、アスランがルナマリアと一緒に自分を迎えに来たのも許せないのだが。
……要するに、シンは嫉妬しているのである。

「もう、シンったら。隊長はいい人よ、私の訓練を手伝ってくれてるんだから」
「……訓練?」
「ああ、君のメニューだといくらなんでも体を壊してしまうから、俺がちょっと変更して
 二人で訓練しているんだが……」

 そして、シンの嫉妬の炎にルナマリアとアスランは油……それも、ガソリン級の燃料を注いだ。

「それで、シンが怒り出して……私、どうすればいいのかな……」
「………………」

 暗い顔の姉を見て、メイリンは思った。
駄目だこいつら、と。
ルナマリアもそうだがシンやアスランも恋愛スキルがないにも程がある。

「うーん、まあ原因は簡単だよ、お姉ちゃん」
「え、本当!?」
「アスランさんを連れていったのが悪いね」
「なんで?」

 気付きなさいよ、とメイリンは心の中で突っ込んだ。
もっとも、突っ込んだ相手にはアスランも含んでいるが。気付いていれば一緒に行ったりはしない。絶対に。
こういう際にははっきり言うのがベターだろう。

「シンはお姉ちゃんが好きなんだよ」
「あ、あえええええ!?」
「………………」

 ……ベターだけど、ベストな手段では無かったかな。
顔を真っ赤にして固まった姉を見て、メイリンはそう思った。
そのまま待つこと二十秒。

「す、好きって……」
「先に言っておくけど、likeじゃなくてloveだよ」
「ら、らぶ……」

 復帰した姉に問答無用の切り返しを決めるメイリン。
傍から見ればどっちが姉だか分かったもんじゃない。

「シンは結構独占欲が強いタイプなんだね。
 それに、シンってオーブの首長さんに突っかかってたから、アスランさんも気に食わないだろうし」
「……う、で、でもさぁ」
「証拠ならあるよ?
 シンがインパルスやザクの中で喋った小恥ずかしい言葉が山ほど」
「…………」

 メイリンの言葉に、文字通りルナマリアは反論さえさせてもらえない。
なんせ、言葉を発する前に相手に反論されるのだから。作業ポッドとジンが戦うより無残な戦いである。

「か、仮にシンが私のこと好きだとしてもさ。
 じゃあどうやってシンの機嫌直せばいいのよ?」
「お姉ちゃんがシンのこと好きって言えばいいんじゃない?」
「あええええええ!?」

 即答。

「そ、それはちょっと……」
「じゃあキスがいいの?」

 即答。というか尋問。

「だ、だから……」
「じゃあ抱け」

 即答。というかもはや命令。

「そ、そういうことじゃなくて!
 ほら、なんというかその、ね! まだ私の気持ちがさ、確かにシンは大切な仲間だけど、
 その……す、好きとかそういうのじゃ……」

 ルナマリアのこの言葉は文字通り最後の抵抗だ。
例えるならメビウスがやっとジンをロックオンし、レールガンを発射しようとした状態。
しかし。

「ふ〜ん、じゃあ私がシンと付き合ったりキスしたり抱き合ったりしてもいいんだ〜」
「そ、それはダメぇ! ……はっ!?」

 あっさりメビウスは重斬刀によって切り裂かれた。しかも、すごく古典的な手で。
ルナマリアが後悔した時には、既にメイリンが小悪魔のような笑みを浮かべている。

「やっぱりお姉ちゃん、シンのこと好きなんじゃない〜」
「う……」
「ほら、情けない顔しない! ちゃ〜んと告白のお手伝いしてあげるから!
 とりあえず色々準備とかあるから、部屋に戻ってていいよ〜」

 渋々出て行くルナマリアの背中は、まさに敗残兵のそれ。
――というか、明らかに楽しんでるわよね、あの子。
混乱している頭で、ルナマリアはそう思った。

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