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Lnamaria-IF_395第01話

Last-modified: 2008-01-26 (土) 21:37:42

[発端の章]
時にC.E.(統一暦)73年。
プラント最高評議会とプラント理事会との軋轢を一因に持つ大戦は、ナチュラル同士の紛争にさえ火をつけて全地球圏規模の戦争と化し、二年間続いた。
大戦の主軸となった、実質的なプラント軍ザフトと、地球連合軍との戦いは、第二ヤキン・ドゥーエ会戦における両軍間の停戦を以ってひとまずの集結を見ることとなり、やがてかつての悲劇の地、ユニウス・セブンの残骸宙域において講和となった。
講和条約の後の外交によってL4の一角を領有するようになったプラントは、そこに工業プラント群アーモリー市を設置。その第一区の大半をザフトの軍事基地とし、新世代MSの開発と、新型戦闘艦の建造を実行した。
10月2日。新造艦ミネルバの進宙式をメインイベントに据えた、戦後最大の軍事式典を翌日に控えた日。招かれざる客が騒音を発する。




/ 1. 休暇の午後に


その日は午後から非番だったので、昼食時間が半分を過ぎる頃までシミュレーター訓練を行ってから食堂に顔を出した。
明日の準備だろう。いつも集まっている同期生の顔ぶれも、ぽつぽつと抜けていた。特にこの艦は式典の主役であるだけに、することは尽きない。そんな中、あたしは優雅に半日の休暇というわけだ。
上がってから外で食べてもよかったが、早急にお腹を満たしたい欲求が質を求めることに勝った。
昼食を載せたトレーを持って席に着くと、片手を上げたショーンが、
「ルナマリアはこれで上がりなのかい?」
訊いてきた。
「まぁね。ショーンは?」
「お陰様で1345時から貴賓席設営作業だよ」
「残念だわ。一緒に買物にでも行きたかったんだけど」
何故かショーンが嬉しさと口惜しさが入り混じったような顔をする。けれども、あたしが、
「デイルも?」
とデイルに同様に訊ねると、心なしかショーンが落胆したようだった。
「んにゃ、俺は掲揚搭の方だ」
「そっか。じゃあ、レイは?」
とあたしがテーブルの端で黙々とお茶を飲んでいたレイに訊くと、
「議長の護衛だ」
一言そう答えて、またお茶を飲み始めた。
「暇な奴いないの? メイリン、あんたは?」
「お姉ちゃん、進宙式前日にあほなこと言わないでよぉ。ブリッジクルーはもう残業確定なんだから・・・」
「訊いてみただけよ。けどあんた、それでよくのんびり昼食べてられるわね」
「今はアビーと交替でやってるからね」
「ふーん? あーあ、折角の半ドンなのに、暇持て余して半日過ごすのかぁ」
あたしが嘆いてコップの水を一気に飲み干すと、ヨウランが拗ねたように口を開いた。
「おいおい、俺には訊いてくれないのかよ、ルナマリア?」
「整備班が忙しいことくらいあたしも知ってるわよ」
あたしが答えると、ヨウランとメイリンが顔を見合わせて肩をすくめる。一体なんだというのか。あたしは少し首をかしげるが、特に気にはせずに、
「あ、そうだ。インパルスとかのリハーサルって夕方よね?」
訊ねた。
「7時半からだよ、お姉ちゃん」
「さすがオペレーターね。ありがと、メイリン」
「でも、もうさっきお昼ごはん済ませてさっさとどっか行っちゃったよ?」
メイリンはそう言ったが、あたしにはあいつの行き先に見当がついていたので、
「大丈夫、大丈夫」
トレーに残っていたサラミをペロリと飲み込んで、そさくさと席を立ち上がった。

案の定、あいつは手すりに腕を乗せて、物憂げに黄昏れていた。そんな暗い雰囲気を気にもせずに、あたしは隣に並んで、笑いかけながら、
「甲板なんかで何やってんのよ?」
そいつ、シンに尋ねた。
「……別に」
「ふうん。じゃあ暇なんだ?」
「うん、まぁ……夕方まで非番ってことになってるし」
「よろしい、ならば着替えだ」
うなずきながら言うあたしに、シンは、
「は?」
と首をかしげた。
「ばかね、買物に付き合えって言ってんの」
「他当たりなよ。ルナになら誰でもついてくだろ」
「暇な奴がいないから言ってんでしょうが」
「……あのな、俺も夕方から――」
「ふーん、嫌なんだ?せっかく主役さんの緊張ほぐしてやろうと思ったのに」
「そういう訳じゃないけど……」
「ならよし、行くわよ!」
言って、あたしは抱きつくようにしてシンを手すりから引き剥がし、
「ちょ……ま、ルナ……っ、待てって――」
「もはや問答無用なりっ!」
その腕を引っ張りながら、巨艦の甲板を後にした。




遠くに、巨艦が見えた。
新造艦であるミネルバ級機動強襲揚陸艦の一番艦にしてネームシップであるその艦は、曲線的なボディと艦内に埋もれる形の艦橋こそ従来のザフト戦闘艦に通じているが、その色や武装はむしろ、地球連合軍のアークエンジェル級に通ずるところがあった。
所属はザフト汎月方面艦隊麾下のグラディス隊。有事に際してその機動力と戦力を以って、あらゆる現場への急行及び展開を望まれる精鋭艦である。
その現場の想定は月軌道に始まり、月を囲む4つのラグランジュ宙域、そして、地球連合宇宙軍司令部の置かれるアルザッヘル・クレーター基地までもがその範囲に入っている。
搭載機にしても、セカンドステージと呼称される新型MS5機のうち、テストパイロット未定の1機を含む3機をはじめ、戦後の主力MSザクを10機前後という、単艦部隊としては相当高い装備を誇っている。
パイロットにしてもセカンドステージ2機、ザク1機の正規パイロットをザフト・レッドが占め、加えてテストパイロット候補3名もまたザフト・レッドである。
そんな艦の進宙式を翌日に控えたプラントを会見の場にと返答され訪れたオーブ連合首長国代表首長カガリ・ユラ・アスハその人は、不機嫌であった。
オーブとてコペルニクス自治政府との密約でイズモ級3隻を含む第二宇宙艦隊を月面に進駐させたり、新造の大型空母を海軍に配備させたりと、戦後も軍備の拡張を行っている。
しかしそれは自国の防衛の範疇であり、戦端が開かれた時のことを想定しているミネルバとは訳が違う――そういう考え故だろう。だから、
「やぁ、これは殿下。遠路はるばるお越しいただき申し訳ない」
彼女の案件を知りながらも、悠々と構えて迎えたそのギルバート・デュランダル議長の態度も癪に障る。それどころか、
「この情勢下、貴女が秘密裏に、かつ急を要するご用件とは如何様なものでしょうか?」
親しげに柔和な微笑を浮かべながら、平気で訊ねてくる。
この日彼女がアーモリー・ワンを訪れた――プラント最高評議会議長に会談を申し入れた理由は、
「我が国は再三再四、かのオーブ戦の折に流出した我が国の技術と人的資源の、貴国における軍事利用を即座に止めていただきたいと申し入れている。――なのに何故、未だ何らかのご回答さえ頂けない?」
というものであり、明日披露される新造艦にしても新型機にしても、その元オーブ国民と技術が使われていることはまず間違いなことであった。
事実、ザフトは戦後の技術向上に際して、オーブに関わらず、そうした各国の難民を積極的に受け入れ、あらゆる活動の場を与えた。
軍事や軍需産業に関わっているというのは、ほんの一面なのである。デュランダルは、当たり前のことを曲解したその糾弾を、
「大西洋連邦の圧力でしょう?」
と断じた。
「オーブ軍なりモルゲンレーテ社なりがザフトに対して条約に反する軍事供給をしている、と」
「ぅ……確かに、連邦からの圧力もあるが……けれど、貴国は事実――」
「――だが、無論そんな事実はありません。先程代表が仰ったように、今現在、かつてはオーブ国民だった者達が、ザフト軍の技術発展に影響していない訳ではない。ですが・・・」
彼ら難民は、自らにあった適切な職を探し、学術、医術、芸術など、その持てる能力を活かして、新たな土地で自分の役割を見つけようとしているのである。
しかし、たとえ一部であっても、自国の技術力を自負するカガリは、それによる他国の武力の増長を容認できない。
「だが、強すぎる力は、また争いを生む!」
「いいえ、代表首長殿下。――争いがなくならぬから力が必要なのです」
若干18歳のカガリの経験は、デュランダルの言葉を理解するには少なすぎた。彼女はただ、睨みつけることでしか答えられなかった。




突然サイドカーが大きく傾いた途端、あたしは宙へ飛び出しそうになった。
直前までサイドカーが走っていたところを、式典用装備のジンが三機、大きな足音を立てて歩いていく。
シンが運転するサイドカーは、あたしを側車に乗せて基地の敷地を駆け抜けていた。
「前方不注意! それでもパイロット!?」
「悪いのは建物に沿って歩いてたジンだろ……。それにちゃんと避けただろ?」
「同乗者に気を遣えっていてんのよ!」
痛烈な批難にシンはむすっとなるが、あたしは更に追い討ちをかけた。
「まったく。あんた、そんなんで明日失敗しないでよね。ミネルバの恥になるわ!」
「大丈夫だよ! 大体、ルナは俺の緊張をほぐす為に誘ったんじゃなかったのかよ?」
「うるさいわね。ほら、運転は前を見て!」
不承不承といった感でシンは顔を前に戻す。やがて演習場脇の視界の開けた道路に出て、ほっと胸をなでおろした。
「けどま、シンの運転がどうであれ、なぁんか――」
そう言って、あたしは顔を四方へめぐらせた。先ほどから耳に色々なアナウンスの音声や怒号が入ってきているのだ。
『軍楽隊のリハーサルは1400時より第三へリポートにて行う。その後1730時より開会セレモニーのゲネラルプローベを――……』
『貴賓席の設置はどうした!?ヴァルファウが占拠してますぅ!?とっとと――……』
『マッケラー隊のガズウートは早急に移動しろ!ミズノ隊とロンド隊を優先的に――……』
「ほんとにもう、ごっちゃごちゃねぇー」
あたしが肩をすくめてみせると、シンが正面を向いたままで、
「仕方ないよ。前日なんだし」
当然のことを答えた。
「久しぶりってか、これだけの規模は初めてかもよねぇ」
「そうなの?」
「そうなの、ってあんたねぇ」
変に意地っ張りなくせに、色々と無頓着なシンに呆れてしまう。
「戦前は情勢がそれどころじゃなかったじゃない」
「……そうなんだ」
「ま、お姉さんと違ってその頃はほんの子供だったもんねぇ」
「あのなぁ――、いや、いいや」
何か言いかけて、シンは口を噤んだ。
「何よ?」
「いいって、別に」
「……もう」
アカデミー入学当初に比べればだいぶマシになったとはいえ、まだシンは仲間に心を開いてない部分が多分にある。一番面倒を見ているあたしにすら、だ。
けれど折角の休暇。今気にしても詮無きことで、今後少しずつ打ち解けていってくれればいい。あたしは気分を一転させるつもりで、あたしらしい笑顔を浮かべる。
「けど、ようやくミネルバも就役ねぇ」
「配備は予定通り月艦隊なのかな」
「それが今のところ一番ミネルバの任地に適してるもの。あたし達みたいな経験ないメンツの慣熟も兼ねるだろうから、当分プラントには戻れそうにないわねぇ」
「そうじゃなきゃ意味がないだろ?」
「ま、ね。だから今の内に休暇は楽しまないと」
いつの間にやら基地の出口まで来ていた。
衛兵のチェックを受けると、あたし達を乗せたサイドカーはアーモリー・ワンの市街へ向けて道を下っていった。




「――なぁ、ルナ」
「ん? 何? お金なら貸さないわよ?」
「そうじゃなくて。なんで俺がこんなに持たなきゃならないんだよ」
目ぼしいものを見つけて買っては持たせるあたしに、シンは不平をぶつけてきた。
確かにあたしが持つ量はシンに比べて圧倒的に少ないし、比較的軽いものばかりだが、
「いい? シンは男の子、あたし女の子」
なのだ。
「俺やショーンとかは男の子。メイリンとかアビーは女の子。ルナはルナマリア。違うの?」
「ふーん?」
シンのささやかな反撃に、あたしは、
「落としたら向こう一週間飲み物おごり」
と言って、シンの顔のすぐ横の宙を蹴る。
「うわぁッ!?」
「もたもたしてると先行っちゃうわよぉ?」
「無茶言うなって……!」
あたしはシンに向かって笑い飛ばし、小走りで先行した。
「ルナ……さっきの蹴りで、見えたよ! スカートで止めろよな」
「え――なッ」
一瞬何のことだかわからなかった。が、気づいた途端――そして路地を大通りに出た瞬間――、あたしは怒りで足を止めて振り向き、クルクルとステップを踏みながら進んでいた金髪の女の子と、
「――っ!?」
「きゃあ!?」
派手に衝突してしまった。
金髪の子があたしに被さるよう転倒する。顔と顔がキスでもするみたいにくっついた。
茫としたレッドルビーの瞳に吸い込まれそうになりながらも、その子の身体を支える。と、何の言葉も発しないまま、女の子は飛び上がって走り去ってしまった。
「……何やってんの、ルナ?」
呆れながらも荷物を置き差し伸べてくる手を、
「ふん。どーせあたしも前方不注意よ」
あたしは憮然としながら掴んだ。
今日は厄日か。今週の獅子座は運勢最高だったんじゃないのか、メイリンめ。
「でもあのタイミングであんなこというシンも――……って、あ! あんた、人の、見て――」
「もたもたしてると先行っちゃうぞ、ルナ?」
「あ、ちょっと、待ちなさいよ……このラッキースケベ!」
あたしを立たせるとさっさと歩き出したシンの背中を睨みつけて、それを追う。彼のズボンのポケットからはいつも通りピンク色の携帯電話が顔を覗かせていた。




十階建てビルほどの大きさはあるであろう、その倉庫のゲートには、大きく6という数字が書かれていた。
その倉庫は関係者以外立ち入り禁止となっており、カードキーとパスコードと眼球照合という厳重なロックがなされていた。
といっても、倉庫の中身である新型MSは既に公表されており、露見ではなく強奪を懸念しての措置だった。
大戦中、ザフトがオーブのコロニーで製作されていた地球連合軍の試作型MSを奪取する作戦を決行しており、それが成功している以上、逆のパターンを考えて必要な警戒であった。
その倉庫の人間用出入り口に、二人のザフト兵と二人の少年、それから一人の金髪の少女が現れた。
一人のザフト兵がカードキーをスロットに通しパスコードを打ち込むと、もう一人が保存された眼球を慎重に取り出し、それを照合にかける。
斯くして第一のゲートは開かれた。更に新型MSまで辿り着くまでの幾つかのゲートを開くと、二人のザフト兵は三人に武器を手渡し、倉庫から退出する。
残された三人は、新型MSの格納庫に走り込むや否や、思い思いの武器で整備兵や警備兵、パイロット達を殺しまわる。いかに奇襲とはいえ、コーディネイターのザフト兵にしては呆気なく殺されていった。
中でも少女の働きは格別で、踊るようにナイフと銃を扱った。
三人は、三機の新型にそれぞれ走り、その胸部のコックピットへ身を滑らせる。
まだ息のあった一人の兵士が、自力で計器の傍まで這って行き、仰向けに転がって背中を計器にもたれる。
肺を撃たれたらしく、呼吸をする為にヒュー、ヒューと風のような音がしていた。ふと視線を下げると、軍服の胸のあたりに小さな穴が開き、そこから染み出るように血痕が広がっている。
まるで羊皮紙を火であぶったみたいだ、と他人事のように彼は思った。
彼は最期の力を振り絞って計器の縁に左手をかけて、震える左腕で体を支えながら計器に向き直る。そして、右手で拳を作ると警報機のスイッチを叩き押した。
間を空けずにあちこちからけたたましく鳴り響いてくる警報の騒音が、とても遠くに感じられる。
次の瞬間、彼の体は計器の上にどさりと倒れこみ、ずるりと血の線をひきながら床へ滑り落ちる。やがてぴくりとも動かなくなった。




あたしの拳の痕を頬につけたシンが、
「ところでさ、ルナ」
あたしの購入物の入った袋を軽く持ち上げながら話を振ってきた。
「ん? 何よ?」
「こんなのをこんなにどうすんだよ?」
「無駄な雑貨がどんなに心を安らげてくれるかわかってないのね、シンは」
「わかるわけないだろ」
シンが理解できないと言ったあたしの買物は、アンティークっぽいものやら手作り雑貨やらという、コーディネイターの産品としては中々異質なものばかりだった。
化粧品だとかの類は皆無と言ってもいい。
「……女の子を自称するならもっと色々とあると思うんだけどな」
「へぇ、シンとは思えない言葉ね」
そうからかうと、シンはふっと微笑んで、
「昔はよく付き合わされてたからな」
懐しげに言った。
「恋人いたんだ?」
「違うって」
「ふーん?」
からかいに乗ってこないシンは、確かに懐かしげだったが、どこか淋しげで、それ以上の追求はしないことにした。
「よし、じゃあ次は大通りに行くわよ」
「……まだ買うのか?」
「本屋とかも見ときたいかなぁ、って」
「俺、この後明日のリハーサルあるんだけど」
大いに呆れた顔で文句を垂れるシンに、
「7時半でしょ? 5時までに戻れば充分――」
言いながら大通りに出た瞬間、遠くで爆音がした。
思わずシンの方を向くと、目を見開いて基地の方角の空を指差している。反射的に、あたしはその指差す方へ視線を向けた。


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