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Lnamaria-IF_395第03話

Last-modified: 2008-01-26 (土) 21:51:00

/ 3. 追う者、逃げる者


かつて資源衛星ノヴァ――東亜名は新星――を巡り、ザフトと東アジア共和国軍を主力とする地球連合の両軍が、L4全域を巻き込んで戦闘を繰り広げた。
ノヴァ攻防戦ともL4戦役とも呼ばれるこの戦いに際して、ザフト第一陣の司令部は、無策にも大量の小型Nジャマー――ニュートロンジャマーを広域撒布している。
その効力は絶大で、核分裂反応の抑止は勿論、その影響度の高さによって、あらゆる電波機器を使用不能にするほどだった。
Nジャマーの影響度によっては、電波を強めることによって電波機器の使用は多少なりとも可能であったが、L4ではいまや精々1km離れたところと無線通信を行うのがやっとであり、現にアーモリー・ワンには至る所に携帯無線機用の電波中継器が敷設されている。
この度の過ぎたNジャマー撒布は、ザフトのモットーたる電撃戦を一気に停滞させ、作戦に従軍したある将校をして「レーダーの反応は死の宣告」とまで言わしめた。
それは地球軍にしても同じ事で、幾度もの戦闘の末、結局ノヴァはザフトの手に落ち、L4は一度、世界から見捨てられた。
時間は少しばかりミネルバの出航から遡る。
その男からしてみれば、L4の現状は好都合だった。何故なら、不可視の母艦どころか、これだけプラントに接近している自らのMA、エグザスも敵に感知されていなからだ。
「――これは……」
男、ネオ・ロアノークは仮面をしていた。その仮面の目にあたる部分は、モニターに映し出されたトリコロール・カラーのMSを見据えている。
「確かに俺のミスか、な!」
独り言ちて、彼はキーボードでレーザー電文を打ち込み、母艦経由で送信する。相手は宇宙港を潰しに向かった隠密部隊だ。
レーザーが母艦に届いたことを確認すると、一度スラスターを噴かせ、今しがたアーモリー・ワンを脱出した3機のザフト機を追う。
エールストライカーのような装備をした“4機目”はさすがに早く、脱出した3機に追いつこうとしている。後続の2機はザクと呼ばれるザフトの主力量産機だった。
「まずは――」
呟いて、ネオはガンバレルを起動する。狙いは2機のザク。並のパイロットが相手なら、まず外すことはない。そんな自信がネオにはあったが――、白いザクは余裕を持って避ける。通常カラーのザクもまた、間一髪のところで回避した。
「ふう、ん……」
更にガンバレルを機動させ、違う方角から攻撃を――かけようとして、その1基が白いザクのビーム突撃銃で撃ち抜かれる。
ネオは口を開けて驚嘆し、
「中々、勘のいいパイロットのようだな……白い坊主くん」
言って、ガンバレルを巻き上げた。これでは仕留めるには遠すぎる。
その内に、先行していた“4機目”がネオの攻撃を知ってかザクのところまで引き返してきた。
相当の腕を持つ白いザクと、ぎりぎりとはいえネオのガンバレルを避けて見せた通常ザク。それに新型が加わっては、流石に数が足りない――と考えた矢先、プラントの方から宙間用迷彩の機体が接近してくる。
「スローター? シーザーか?」
ネオの配下にある105スローター・ダガーは、隠密部隊を率いるシーザーの乗る1機のみだった。
ダガーは制動をかけると、左腕を伸ばしてその掌をエグザスの装甲に触れさせる。接触通信。一番単純かつ確実なコンタクトの方法だ。
『ロアノーク大佐! ハラダ、イザワのダークダガーは帰投させました』
「シーザー、お前はどうした?」
『大佐が出られていると知り、状況把握と掩護に参りました』
大佐――そう、ネオは地球連合軍の将校であった。公的な肩書きは大西洋連邦海兵隊大佐である。
シーザー・クレイヴンもまた、地球連合軍の大尉だった。ともに、エースパイロットと言って過言ではない腕前の、しかしその名は表舞台に轟かない異形の職業軍人。決して消えない、力という幻肢痛。人は彼らを、ファントム・ペインと呼ぶ。
「3人がてこずった。新型は3機じゃないようだ」
そのネオの言葉に、“3人”の力をよく知るシーザーは、
『なんですと?』
露骨に不信感を露にし、問い返した。
「見ろ。4機目だ」
『ほう、まるでストライクだ』
「――あれも頂く。やるぞ」
『はっ』
ネオの短い命令に答えると、シーザーは一度だけスラスターを大きく吹かせ、手足の慣性ででたらめな進み方をダガーにさせながら周囲を警戒する3機のザフト機へ迫った。
またしても白いザクが最初に、暗闇に紛れたシーザー機の攻撃に反応する。残る2機が白いザクに倣うのを見計らって、ネオは一気にエグザスを前進させた。




セイバーの重力加速度は巡航時でも3G。ましてや今は、戦闘速度で急行中だ。ザクのそれとは訳が違う。それでも、衝撃対応型のシミュレーターで慣れているはずだった。
けれど――シミュレーターとは違う。
一分に満たない飛行で、あたしはそれを実感した。それが無重力の為なのか緊張の為なのかはわからなかったが、違うと認識した途端に、手が震えそうになる。
「あたし、怖がって……? ――まさか!」
そんな自分をなんとか笑い飛ばして、あたしはシン達の方を目指す。
レーダーは利かない。カメラが捉えた映像から、分析システムと自分の目で判断するしかないのだ。IFFすら、この宙域ではその意味を持たない。
やがてモニターに機動兵器と判別された機影がズームされる。それを見て、
「MAとMSが1機ずつ……?」
あたしは眉を顰めた。
「随分と舐めてくれてっ!」
FCSで機体背面――この形体では上面にあたる部分のアムフォルタス、フォルティスの両ビーム砲の射撃体勢をセットする。
敵機は宙間用迷彩の105ダガーと、見慣れない紫色のMA。MAは支援機だろうと判断し、レティクルをダガーにセットするようにFCSに指示した。
最初にすれ違うまでに仕留めよう。相手は105とはいえダガー。奇襲効果も期待できるし、可能だと確信していた。あるいは、過信していた。
敵を狙うことだけ考えて、仲間の掩護や連係を考えもしなかった。当然、仲間の状況も。
突然、あたしの接近に気づいたレイが、ノイズ交じりに警告を送ってくる。
『セ……バーだと? ルナ……リア……迂闊……ぞ!』
「えっ? わ――」
レイの通信に続くけたたましい警告音と同時に、明後日の方向からビームが降り注ぐ。あたしは咄嗟にMS形体へとセイバーを変形させた。
予測針路を狙った攻撃はこれで回避できるが、プログラミングされた制動と姿勢制御の為のバーニアの自動噴射により、
「くう――ぅ……」
全身が締め付けられ、思いっきりシェイクされる。
どんなに訓練されたコーディネイターだって、瞬間的に最大耐えられる重力加速度は12Gが限界なのだ。戦闘中の突発的なGの加増に慣れてないあたしは、一瞬眩暈と吐き気を感じる。
「お……ぅうぇっ」
バイザーを開き、吐き気に逆らわずに胃の中の物を嘔吐し、吸引のスイッチを押すと同時に、再び発せられた警告音に反応し、
「この――ッ」
AMBACとスラスターを併用してビームをかわし、ビームの飛んできた方向へビームライフルを撃ち込む。当たらない。
ダストシュートに吸い込まれていく吐瀉物を一瞥して、舌打ちする。あたしは所詮、お情けでテスト候補生の残った新米――特務隊から出向してきた他の2人の顔を浮かべてしまう。
「あたしだって……っ」
小さく叫んで、ガンバレルの本体を背負っているであろうダガーを探す。――いない。
「消えた?」
『気を……けて、ルナマリ……遠く……狙わ……てるかも』
やや呼吸を乱したショーンが注意してくる。けれど、レイがそれを否定した。
『ち……う。逃げた……』
「え?」
『奴らの目的……足止めか、インパ……スの奪取だろう。……が、セイバーが……てきて状況……変わった』
そのレイの言葉には、レイの意図はともかく、あたしが巧く立ち回れば逃がさずにすんだ可能性が仄めかされている。
「このままみすみす!」
『逃が……てた……るか!』
あたしとシンが追おうとするところへ、レーザー通信での帰投命令が届く。
「え――そんな!」
『なんで!?』
『艦を追……なら艦だ。戻……ぞ』
言うなり、レイはスラスターを噴射してミネルバを目指した。ショーンがそれに従う。
あたしはというと、肩透かしを食らった気分で、少し呆然としていた。やや間を置いて、シンのインパルスも機首を翻す。はっとして、あたしもそれに続いた。




『大佐、あ……はどうい……ことで……うか?』
「あぁ、まさか更にもう1機、新型がいたとはな。諜報部の怠慢にも程があるぜ」
“5機目”である可変機の飛んできた方向から、母艦と思しき見慣れぬ宇宙艦も現れた。あれが恐らく新造艦だろう。
ネオは舌打ちする。これ以上とどまることが危険なのは明白だった。
「欲張りすぎは元も子もなくす……」
のである。任務は新型機3機の奪取だったのだから、それを無事に運び終えるのがまずは第一だ。幸い、ガンバレルを恐れてか敵は追ってこない。
ネオとシーザーの機は、アーモリー・ワンに程近い宙域のスチールブルーの巨艦に接近する。ガーティ・ルー。ネオ達の母艦だ。
ネオは着艦するなり、
「撤退するぞ、リー!」
通信ウィンドウを開いて艦長のイアン・リー中佐に向けてそう告げた。
『はっ――お早いお帰りですな、隊長』
「皮肉は止せよ、リー。想定外ってのは、本当によくあるもんだ」
『諜報部に、しっかり確認すべきでしたかな』
「わかってるよ。そのことも、俺が指揮官には向いてないこともな」
自分の厄介な生い立ちさえなければ、今頃自分は精々大尉か少佐ってあたりで宇宙軍のエースとして名を馳せているはずなのに――とネオは肩をすくめた。その素振りに、リーの言葉で気を悪くした風はない。
「敵艦は足自慢って話だ。追いつかれかねん」
『両舷のタンクを分離し、これを爆破して足止めします』
「ああ、それで結構だ。アームごとで構わん。派手にやってやれ」
ウィンドウ内のリーが頷くと、ネオはコックピットハッチを開いてデッキに飛び出した。
キャットウォークに2人の少年と1人の少女の姿を認めると、機体を蹴って彼らのところを目指す。
「お疲れ様、ステラ」
「ネオっ!」
金髪のステラ・ルーシェに声をかけると、満面の笑みを浮かべて彼女はネオに飛びついた。その小さな身体を受け止め、頭を撫でながら、
「アウル、スティングもな」
二人の少年を労うことも忘れない。
「へへっ! こんなのちょろいって」
「てこずったじゃねぇか。遅くなって悪かったな、ネオ」
「構わん、構わん。お前達は本当によくやった」
ネオの労いが思いの外優しい音色だったからだろうか。皮肉屋なアウル・ニーダも、ぶっきらぼうなスティング・オークレーも、その顔に素直に喜色を浮かべた。
顔の大部分を隠したネオは、口元に穏やかな笑みを浮かべて、
「三人とも、ちょっと疲れたろう? ゆっくり休んで、また頼むな」
そう言った。
爛々と目を輝かせて、或いは珍しく照れながら、また或いはしっかりと、3人は頷いて“寝室”へと向かう。
明るく談笑する彼らの後姿を見つめるネオの出で立ちは、どこか憂いを湛えていた。




CICのモニターの一つが、左舷カタパルトデッキに降り立つセイバーを映し出す。大きな破損は見当たらない。インパルスも損傷は軽微であり、アーサーやタリアはそれを見て胸を撫で下ろした。
「セイバー、収容しました。ハッチ閉じます」
「敵の母艦らしき艦影確認。ブリッジに方角転送! 解像します!」
索敵要員のバルトロ・バルトリが言って、モニターに青みがかった箱のような不鮮明なシルエットが映し出される。
更に別のモニターに、3機のザクがスラスターを噴射して向かってくる様子が映された。
「ザク――カール機、パーシヴァル機、ミネジ機が後方より接近。着艦許可を求めています」
「よし、後方甲板から降ろしてくれ」
「アビー、他のザクは?」
「いまだ不明です!」
急の出港だった為、物資の積み込みは未了のままであった。
それを考えれば、MS隊の半数が無事だと確認できただけでも幸いと言わざるを得ないだろう――と苛立ちを抑えるようにタリアは己に説いた。
そこへ、通信要員のハリ・ベロフが、
「浮きドックを出たモホロビチッチよりレーザー通信での報告です!」
よく通る声で告げる。
「内容は?」
「敵の母艦の攻撃によりフーリエが轟沈、ハーシェルが大破!」
「ナスカが――、2隻も?」
「敵艦はミラージュコロイドを装備しているとのこと!」
なるほどそれで、とタリアは納得がいった。ユニウス条約に背いてまでの行動だけに、不測といっていい事態であはある。
Nジャマーの影響が強すぎるL4宙域では、電波に頼らざるを得ないミラージュコロイド・ディテクターなど用を成さないのだ。
しかしながら、そうであっても警備の不手際であることに変わりはない。情報が飛びにくい場所は、即ち情報を得にくい場所であるのだから、適応した体制というものがあっただろうに――。
そこまで考えて、止めにした。今考えても仕方の無いことだ、と頭を切り替え、タリアは口を開く。
「バルトロ、敵艦の位置は?」
「インディゴ53、マーク22ブラボーです! 解像終わります! これは……該当データのないアンノウン!」
「敵艦をデータベースに登録!以降、これをボギー・ワンと呼称する!」
命じてから、タリアはよくその艦を見てみる。――誰がどう見たって地球連合軍艦艇じゃない、と心中で毒づいた。
アーサーが操舵を掌るブリッジに、
「航法! 追いつけるよな?」
『高速艦のようではありますが、可能です、トライン艦長』
「ようし、目を離すなよぉ」
確認をとると、タリアの方へ向き直る。
「隊長、どうします?」
タリアの脳裏に、医務室でカガリと会っているであろうデュランダルの姿が浮かぶが、
「――追跡して頂戴。幸い、こちらにはセカンドステージ2機もあるわ。生き残っている友軍艦にも傘下に入るよう命じて」
すぐにアーサーへ答えた。
乗り込めなかった乗員を回収する時間も、デュランダルやカガリを降ろす時間もないのだ。デュランダルならば特に異は唱えまい、とタリアは確信していたし、カガリにしてもデュランダルが説得できるだろうと思っていた。
「はっ! ブリッジ、ボギー・ワンを追尾し給え! 加速20%! 行動可能な友軍艦は?」
「ミーゼス、モホロビチッチ、アグリコラ、グローティウスの4隻の損害は軽微もしくは皆無です!」
「す、すまないが、副長、艦種を頼む」
アーサーの問いかけに、副艦長のミサエ・アシナがPDAに目を落とした。
「はい!アグリコラはナスカ級、他3隻はローラシア級です。しかしローラシアでは本艦への追従は不可能であると――」
「あ、それはわかってる。隊長……」
「えぇ。ハリ、アグリコラに本艦の麾下に入るように言って」
「了解!」


「――ザク各機、収容しました! 後部ハッチ閉じます!」
砲撃戦で決着はつくまい、と判断し、メイリンの報告にタリアはMS部隊の再出撃の準備を命じることで応じた。
「メイリン、MSパイロットは搭乗機にて待機!先に戻ったレイ達の機の整備、急がせて頂戴」
「はい!」
また、アーサーは、情報要員のバート・ハイムへ敵艦の武装を訊ねる。
「ボギー・ワンの兵装は?」
「ゴットフリート型の2連装ビーム砲塔6基を確認!その他の主力兵装は分析中です!」
「ろっ……」
バートの返事に、アーサーはややたじろいだ。しかし、近くのモニターに表示された分析画面を見て、ややほっとする。
当然だが、6基ものゴットフリートを一斉に同じ目標に向けて撃てるような配置はまず有り得ない。それでも、
「ボギー・ワン、射程圏内まで20秒!」
「アンチビーム爆雷を発射用意して! ゴットフリートは恐いよ!」
口径225cmという桁外れな砲口を二門持つゴットフリートは、たとえ一基でも脅威であることに変わりは無い。大戦時はもっぱら後方勤務で実戦経験をほとんど持たないアーサーだが、そのことはシミュレーションで実感している。
ややあって砲術要員のチェン・ジェン・イーが、
「艦長、ボギー・ワンが射程圏内に入りました」
少し上ずった声で告げた。
「ようし、トリスタン1番2番、イゾルデ起動――」
「え?艦長、トリスタンは……」
アンチビーム爆雷の用意を命じておきながらの命令にミサエが困ったような顔で言い、タリアが溜息を吐く。
「おぉっとぉ! トリスタン起動は撤回! ランチャー6から10、各1番から4番、ナイトハルト装填! エンジンを狙えよぉ!」
命令し直したアーサーは、装填完了の復命を受けると、
「ランチャー6発射の5秒後にランチャー7発射! ――ランチャー5、発射!」
その発射を下命した。更に第一射が敵艦のイーゲルシュテルンに迎撃される頃合を見計らって、
「イゾルデ、撃てぇ!」
副砲発射を命じた。少しの間を空けて、砲術班員達が攻撃結果を報告する。
「ナイトハルト、成果軽微!」
「イゾルデ命中! ……ゴットフリート1基を破壊!」
「くそう!」
アーサーの抜け加減は、その命中を喜ぶほどではない。むしろ彼は悔しがった。
この状況でビーム砲塔を潰したところで大した意味はない。それどころか、中途半端な命中は敵艦の揺れを招き、イゾルデの照準を定める妨げとなるのだ。


揺れている当事者である敵艦はそれ以上にこちら照準が不安定なはずだが、それでも彼らはすぐに反撃を試みてきた。
「敵艦側舷に砲塔出現! 形状からバリアント型と断定!」
「敵の射線の変動を警戒! ランチャー8、発射! あっちは揺れてる! 運が悪けりゃバリアントが直撃するぞぉ!」
「我らに天の加護を! ――敵艦発砲……外れます!」
高速で打ち出された砲弾が直撃コースを大きく逸れて飛んでいく。ほっとアーサーが一息ついたところで、チェンが声を張り上げた。
「照準定まりました! イゾルデ、撃てます!」
「ようし――」
「ボギー・ワン、艦体の一部を分離!」
「えッ? 一部って何!?」
アーサーが尋ねるが、その答えが返るよりも早くタリアが、
「撃ち方待て! 操舵、面舵10! 機関最大!」
咄嗟にそう命じた。
「隊長、あれは何ですか!?」
「恐らく推進剤の予備タンクね――まさか、爆破を……ッ」
それが正しければ、回避したところでもう間に合わない。慌ててアーサーが叫んだ。
「えぇっ!? そ、総員、衝撃に備えよ! 外部カメラにフィルターを!」
次の瞬間、タンクが一気に膨れ上がり、フィルターの間に合わなかったカメラが一瞬にしてホワイトアウトする。
同時に大きな衝撃が艦全体を揺さぶり、対ショックが間に合わず天井か壁に叩きつけられたクルーのうめき声が起きる。
「ひ、被害状況の確認を急ぐんだ!」
「各員ただちにシステムチェックをして下さい!」
「議長方の安全確認を!」
揺れが収まらないうちにアーサー、ミサエ、タリアがそれぞれ通信機やクルーに怒鳴る。更にタリアは索敵班に向け、
「ボギー・ワンの位置は!?」
問うた。今反撃に出られたら厄介だ。アグリコラとて、どこまでフォローできることか。しかしバルトロの返答は、
「待ってください――見つけました! レッド88、マーク6チャーリー! 距離開きつつあります!」
敵艦の逃走を意味するものだった。タリアは、
「やってくれるわ……!」
苦々しく呻いて、ぐっと制帽を引き下げた。




迂闊にもあたしはその時、シートベルトを外していたのだ。もしコックピットハッチを開いていなかったら、メインモニターに身体を打ちつけていたことだろう。
「被弾したぁ!?」
デッキの中を飛ばされながら、あたしは悲鳴を上げる。
「ばかッ! ルナマリア! メットくらい……!」
ショーンのものと思しき怒鳴り声を聞いて、慌ててあたしはヘルメットを着用する。
声のした方に目を向けると、常装のショーンとレイがパイロットピットに飛び込んでいた。追いかけて不注意を謝ろうと思った途端に、キャットウォークの手すりで背中を打つ。――格好悪いったらない。
衝撃に顔をしかめ姿勢を正せずにいると、
『大丈夫か、ルナ?』
慣性で天井へ向かっていくあたしをシンが受け止めた。真空状態ではないから、ヘルメット内臓のマイクとスピーカーで充分声は通じている。
「お蔭様で。感謝しとくわ、シン」
『どう致しまして。――ルナ、状況はわかるか?』
「……さっぱり」
『俺も――』
シンの言葉を遮るように、アビーの艦内放送が、
『全艦に通達。損傷は軽微です。閉鎖した艦首の一部区画を除き、空気漏れは確認できず。本艦は強奪犯追撃を続行します。コンディションをイエローに移行。艦体整備要員は別命あるまで――・・・』
状況を教えてくれた。あたしはヘルメットのバイザーを開きながら、同じくバイザーを開いたシンに、
「ところでシン」
話しかけた。シンの表情は、やや安堵の色が見られる。
「何、ルナ?」
「さっき受け止めてくれた時、変なところ触ってないわよね?」
「え?」
一変。シンの表情に動揺が浮かぶ。あたしはそんなシンをからかってみた。
「さ、触ってないよ」
「ふうん? 怪しいわねぇ」
「触ってないってば!」
パイロットピットに向かいながら、あたしはノリノリで、シンはやや焦りながらその問答を続けた。
やや緊張感が薄かったのかもしれない。それは、情報を整理して対処すれば、奪われた3機の奪回も、犯行グループの捕縛も簡単なことだという自信、そして過信からくるリラックスだった。
尤も、この時のあたしには、その根拠を自覚するだけの経験すらなかった。


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