Top > Lnamaria-IF_395第04話
HTML convert time to 0.007 sec.


Lnamaria-IF_395第04話

Last-modified: 2008-01-26 (土) 21:19:41

/ 4. 怒れる瞳


「すまない、待たせたな」
片手を挙げてブリーフィングルームに入室してきたドミトリエフ副官に、あたし達は起立して礼をとり、
「いえ、ユラ=レヴィチ。我々も今集まったところです」
レイがそう応じた。
「まず、アーモリー・ワン暫定司令部から入った報告によると、本艦に乗り込めなかった我が隊のパイロット、整備員らに死者はいないということだ」
「よかった……」
ドミトリエフ副官の言葉にあたしをはじめ、皆が胸をなでおろす。
「それでは改めて状況説明に入ろう。――カチュア」
「はい」
副官に随ってきた情報班のカチュアは頷き、端末を操作した。スクリーンに奪われた3機のセカンドステージが映る。
「強奪されたのはZGMF-X24S、31S、88S――コード名カオス、アビス、ガイアの3機です。奪取の手際や操作能力の高さから、犯人はコーディネイター、それもかなり訓練された者によるものと推定しています」
「正規パイロットが、なんてことはないわよね?」
「パイロットの3人は襲撃時に重傷を負ったという報告を受けています、ルナマリア」
正規パイロットの叛乱という可能性を消すその答えに、あたしは安堵を覚えた。
「犯行グループがどういったグループかは不明です。旧ザラ体制派などの反体制派の可能性……、機体そのもの、もしくはその利用を目的とした宙賊の可能性……、そして地球連合軍部隊の可能性」
カチュアが三つ目の可能性を口にした途端、室内の空気が張り詰めた。まるである程度の根拠を持ってその緊張を狙ったかのように、
「――これがボギー・ワン……犯行グループの母艦です」
スクリーンの映像が宇宙艦艇の解析画面に切り替わった。
「データベースには、これに該当する艦艇はありません。よって、詳細は一斉不明なアンノウンです。しかしながら――……」
カチュアの操作により、随所が拡大表示されていく。そんなことをしなくても、カチュアが何を言いたいのかはあたしでもわかった。
艦体先端部に設けられたMSデッキらしき構造物。
2連装高エネルギー収束火線砲ゴットフリート。
箱型をした――地球連合軍系のシルエット。
「このように、地球軍艦艇との類似点が多く見られます。情報班はこの艦を強襲機動特装艦の一種であると見ています」
カチュアは推測に過ぎませんが、と念を押したが、画面の端に強襲機動特装艦の代名詞アークエンジェル級が表示されると、いよいよその推測がかなり的を射ているように思えてならない。
「事実がどうであるか、お上がどう判断するかは後の話だ。今はこいつがザフトの庭を荒らして逃げたということだけを頭に入れておいてくれ」
ドミトリエフ副官が各々で色々考え込むパイロット達に対してそう口を挟む。


彼の言葉を合図にしたかのように、カチュアはスクリーンの映像をL4の宙域図に切り替え、
「現在ボギー・ワンはアヴァロン暗礁宙域を目指して逃走中であり、ミネルバが追いつくのは暗礁宙域手前になると想定されています」
矢印が伸びるのを見やりながら、カチュアは説明した。
「デブリの移動にもよりますが、接触からボギー・ワンが暗礁宙域内に逃げ込むまでの時間は多く見積もっても11分。アヴァロン宙域はL4暗礁の中でもオニール型コロニーの残骸が多く、逃げ込まれるとミネルバの戦闘能力は著しく低下します」
「11分……」
暗礁宙域に逃げ込む為に、敵はMSで時間を稼ぐだろう。基本的に、MSにはMSで当たる。とすれば、
「ボギー・ワンの搭載機は?」
それについて把握しておく必要があった。
「確認されているのは、これらです」
カチュアの言葉とともに映像が切り替わる。
「先ほどレイらが交戦したMS、MAはいずれも地球連合製と見て間違いありません。――これはGAT-01A型、いわゆる105ダガーのマイナーチェンジ機と思われます」
まず拡大されたのは、あの黒い105ダガーだった。続いてダガーと行動していたMAが拡大される。
「こちらはTS-MA4F、エグザス。今夏就役したばかりのMAで、MA2mod00の後継機です」
「メビウス・ゼロの? じゃあこいつがガンバレルを装備してたわけ?」
あたしの疑問に、やや呆れた風にショーンが口を開く。
「ルナマリア、気づいてなかったの?」
「てっきりダガーがストライカー装備してると思ってたわ……」
それだけ、あたしに余裕がなかったということなのだろうか。あたしは危機感を懐いた。
「また、我々よりも先に敵艦と交戦した部隊によれば、GAT-02L型を少なくとも3機確認しているとのことです」
地球連合軍の高性能機、新型MA、主力量産機――。嫌でも辿り着かざるを得ない答え。これが偽装なら、あまりにも手が込んでいる。
みんなが俯く中、平静にレイが口を開いた。
「再度のミラージュ・コロイド使用の可能性は?」
「え? あ……それはまず有り得ません。たとえ使用したとしても長時間の継続が出来ませんし、航行に必要なエネルギーも不足するはずです」
「そうか」
レイの言葉はそれだけだった。沈黙が訪れかけて、
「本作戦の重要さは今更語る必要はないと思う。全力で任務に取り掛かってくれ」
ドミトリエフ副官がそう締め括るのだった。


パイロットスーツから一度軍服に着替えると、あたしはデッキに戻る為にパイロットピットを通り抜けようとした。
その時、ショーンがあたしを呼び止める。
「――ルナマリア!」
「ん?」
「デイルが怪我したって……」
ショーンの横には後から合流した3人がいる。彼らから聞いたのだろう。
「――酷いの?」
あたしが訊くと、坊主頭のミネジが、
「脚をやられたらしい。程度は確認してないが――」
そう答えた。
「ヴィーノ達が運び出した時は元気に喚いてたな」
「それは……デイルらしいわね」
それならば命に関わるような怪我じゃないのだろう。安堵しつつ苦笑いの一つも浮かべてしまう。
「ジーナとフランツは?」
「どっちも無事さ。ジーナは機体トラブルで離脱。フランツは――まあ、なんだ」
ミネジがそこで説明を途切れさせる。カールとパーシヴァルが声を上げて笑い、ミネジもそれに加わる。ショーンが笑いを堪えつつ、
「瓦礫からザクを掘り出したはいいけど――コックピットまで登れなかったんだって」
教えてくれた。
必死にコックピットに登ろうとするフランツを想像して、状況に対して不謹慎ながら、微笑ましい気分になった。
コーディネイターとしては、フランツの体躯は太めの部類になるだろう。体力はあるし、白兵戦もMSの操縦も堅実で他人に後れを取ることはない。しかし、体系的に難しいことはやはりあるものだ。
「くくッ――奴の不幸は整備の連中がロープと滑車を持ってなかった事だな」
「ハンガーがやられてたから滑車を吊るす天井もなかったんだけどよ」
カールとパーシヴァルはそう言って更に笑った。
「ところでな、ルナマリア。一番最初に機体が稼動したのはショーンなんだが、結局出撃はレイと一緒になっちまったんだぜ」
「なっ、おい、ミネジ――」
「何やってたのよ、ショーンは?」
狼狽するショーンの狼狽と、あたしの問いかけが重なる。ミネジはショーンにウィンクし、
「お前のザクが潰れてて相当狼狽えていてな」
あたしにそう言った。
「へえ? あたし非番だったのに、心配してくれたんだ?」
「そ、そりゃあ、ルナマリアならすぐ駆け付けて乗ってるかも、って思ったし……」
「お気遣いどうも。街から戻ってくる時にはもう潰れてたそうよ」
「あ、そ、そっか。うん、無事でよかった」
どういう訳かショーンはどもりがちであった。なんだろう?
「無事と言えばな、ハーネンフース女史も無事だ。コロミナスはわからんが副官殿の言い方じゃ生きてはいるだろう」
ハーネンフース、コロミナスというのはどちらも特務隊から出向していたセイバーのパイロット候補のことだ。
「よかったのか、ルナマリア? 2人を差し置いてセイバーに乗っちまって」
「いいのよ。議長はいいって言ったんだから」
さり気なく議長と口にすると、4人は驚愕の色を見せた。ショーンが尋ねてくる。
「え? ルナマリア、デュランダル議長と話したの?」
「そうよ。頼めるかね、なんて言われちゃったわ」
うっひゃあ、すげぇ――驚嘆する彼らに優越感を感じながら、あたしはエレベーターホールを素通りした。まっすぐ行くと、ハンガーに繋がる。
「ハンガーに何か用事があるの?」
「ちょっとセイバーを触りに行くのよ」
答えると、あたしは片手を挙げて彼らと別れた。


型式ZGMF-X23S。
無重力下機動戦闘機、セカンドステージ第2――可変航空試作型――プラン第3号。
コード、セイバー。
OSはGeneration Unrestricted Network Drive Assault Module――無制限のネットワーク駆動世代の挑戦的モジュール。いわゆるガンダムシリーズの一種だ。
航空MSは主に直立のまま飛行可能な――つまりヘリコプター的に飛行する――いわゆる“天使型”と、戦闘機に変形することで飛行する可変機とに区分される。航空MSの第一号であるディンの流れを汲むザフトの航空MSは、基本的に前者の天使型が主流であった。
安定した滞空とトリッキーな運用が可能な天使型は、確かに大戦時の地球各地の戦線で地球軍に恐れられた。しかし――核動力のXシリーズは除く――天使型の天下は、地球軍の可変機レイダーの登場によって引っ繰り返される。
敗退に終わったとはいえ、八・八作戦に始まる地球軍のオセアニア侵攻戦におけるレイダー部隊の活躍は、今なおザフトのMSパイロットの間で恐怖を以って語り継がれていた。
けれども、そのレイダーとこのセイバー、どちらが高性能か、と言えば、セイバーである。鹵獲したレイダーの技術もふんだんに取り入れての設計であるのだから、そうでなくては困る。
強襲に重点を置いていたレイダーに対し、あくまで機動に重点を置いたセイバーは、その機動性であらゆるMSを圧倒していた。ガンバレルだろうがなんであろうが、そう簡単に捉えることは出来ないはずなのだ。ならば、
「やっぱり、問題は――」
パイロット――つまり、あたしにあるのだ。
他の二人の候補生だったなら、どうだろうか。例えばハーネンフースことシホさん。彼女のような本職のテストパイロットが操ったならば、強奪犯を取り逃がすことはなかったのではないだろうか。
軽く、自己嫌悪――あたしらしくもない。振り払うようにかぶりを振る。
その時、突然コンソールに影が落ちた。
「――ルナ」
「シン?どうかした?」
コックピット覗き込んできたシンが、
「あのザク、他所の見たいだけど……誰が乗ってたんだ? ルナなら知ってると思って」
そんな質問をあたしに投げかけた。
視線の先には、カガリ・ユラ・アスハと“アスラン”が乗ってきたザクがあった。


ミネルバはザフトの象徴として建造された艦である。単艦部隊の母艦としての能力も戦隊の旗艦としての機能もしっかりと備わっているが、その上でザフトらしい無駄もあった。艦隊旗艦としての機能である。
広い作戦指令室も、艦隊軍法会議の為の法廷も、過剰な数の会議室や事務室も、収容数が乗組員数を大きく上回る居住区もある。複数の高級士官室も用意されていた。現在カガリ達、そしてデュランダルに一室ずつあてがわれている。
カガリ達に貸し出された部屋に、デュランダルが訪れていた。
「このような事態に殿下を巻き込んでしまい、申し訳なく思います」
彼はカガリの頭部に巻かれた包帯を見、それから目を伏せた。
「今しがた部隊長と協議してきたのですが、その……重ね重ね申し訳ない。本艦はこのまま犯人の追撃を行います」
そう言ってデュランダルが頭を下げると、カガリの方が縮こまってしまう。
「いや、こちらこそすまない。このような時に艦に乗り込んでしまって…・・・」
「なんの」
彼女を気遣うようにそう言って、更にデュランダルは続ける。
「つきましては、殿下方にもお降り頂くことが出来ません。通信状況も悪く、お国許への連絡も遅れてしまいます」
「ああ……わかっている」
頷いたものの、オーブを取り巻く情勢は非常にデリケートである。カガリの顔には心配の色がありありと浮かんでいた。
それからデュランダルは、
「お詫びといっては何ですが、艦内をご案内致しましょう」
そう言って、レイ・ザ・バレルを護衛に選び、居住区周辺の主要なブロックを廻った。所々でデュランダル自らが説明を行う。やがて一行はそれまでとは違ってやや無機質な趣のエレベーターホールに辿り着いた。ここでも、デュランダルが口を開く。
「ここからMSデッキに上がります」
「――え?」
カガリもアレックスも、この言葉には驚いた。レイもややではあるが眉を顰めた。それらに構うことなく、
「MSデッキは艦のほぼ中央に位置するとお考え下さい。――どうぞ、殿下」
デュランダルの言葉は続く。困惑しながらも、カガリらは言われるエレベーターへ乗り込んだ。
「無論、搭載機数などはお教え出来ませんし、現在その定数が満たされている訳でもありません」
申し訳なさげなデュランダルの言葉に、カガリは曖昧に頷く。彼女にしてもアレックスにしても幾つかのMS搭載艦を知っており、大体の想像はできる。そんな情報の制限は大きな意味は持ち得ないのだ。
やがてエレベーターが開き、ホールに降り立ったデュランダルが、左側の通路へとカガリをいざなう。そこで初めてレイが口を開き、
「議長、左舷デッキには――」
セイバーがある、と言いかけるが、
「構わんよ、レイ」
デュランダルは手振りとともにそれを遮った。彼の導くままに、一行は左舷MSデッキのキャットウォークへ出た。広い、という感想を顔に出したカガリに対して、デュランダルが整備中のザクを指す。
「ご覧下さい。――殿下もお乗りになられたそうですね。現在のザフト軍主力艦載機、ZGMF-1000ザクです」
まったく責める風のないデュランダルの声に、逆にカガリやアレックスは不安を懐く。だがそんな意を介すことなく、デュランダルは続ける。
「試作機についての説明はご容赦いただきたい。――しかし、やはり殿下」
わざとか、それとも本気でか、その不安げな表情に気づくと、
「貴女のお気には召しませんかな?」
「ぁ――」
やや残念そうな音色で言う。
当のカガリは、不安とデッキの壮大さに気を取られ、デュランダルが何を意図したのかを一瞬理解できなかった。それから、
「……議長は嬉しそうだな。――兵器を説明することが」
やや、挑発的な言葉。
「嬉しい――……いえ、そのことが嬉しいというわけではありませんがね。しかし、これらはあの混乱と困難を乗り越え、みんなで懸命に頑張ってきたことの証です」
デュランダルはあくまで真摯な対応であった。そして、
「オーブの復興も目を見張るものがあり、盟友として喜ばしく、また羨ましく思っております。それに比べれば些細なことかもしれませんが、私たちもプラント国民としての誇りを回復し、これだけの力を手にすることができました」
これまでよりもより堂々と、そして誇らしげにそうカガリに告げる。それが、彼女の癪に障ったのだろうか――。


疑問に答えてあげると、シンは眉を顰めて確認してくる。
「オーブのアスハ……?」
どういう訳か、顔も赤みを帯び、表情もやや険しい。
「うん? えぇ、そうよ。それがどうかした?」
「いや、別に……なんでもないよ」
言ったシンの顔は、なんでもないという風な表情ではない。ただ、それを性急につつくのは却って不機嫌にさせるだけのことだ。気にしてない風を装って、あたしは、
「けど――聞いて驚け」
話題を変えようと身を乗り出し、顔を目一杯近づけようと――、
「うわっ!?」
――勢いをつけすぎた。
あたしが両手でハッチを掴み、シンが仰け反らなければ、危うく彼の顎に頭突きをかますところだった。慣性に従って大きく振られた脚がシンを直撃しなかっただけでもよしとしよう。
「ッ――危ないって!」
「あー、ごめんごめん」
批難してくるシンに誠心誠意謝りながら、なんとか姿勢を整える。それから、あたしは内緒話をするように、
「操縦してたのはアスラン・ザラかも」
声を落として囁いた。
「同乗してた護衛のことを、代表がそう呼んだのよ」
「そ、そうなんだ?」
「そうなのよ。……アスラン・ザラ、今はオーブにいるらしいって噂じゃない?」
「へ、へぇ……」
シンの顔が、まだほんのりと赤い。だが、表情は先ほどと比べて和らいでいる――というよりもやや緩んでる感じにも見える。目も伏せがちだ。
何かまずっただろうか、と考えて、
「まさか……」
と思い当たることがある。自室に戻っていない為、あたしが穿いているのはキュロットではなくミニだ。
「――また、見た?」
視線を逸らすシンの目が、如実にそれを肯定していた。
「とっても幸運だわねぇ?一日に二度までも……」
「ルナっ、念の為に訊いておきたいんだけどさ」
「……何よ?」
「ふ、不可抗力って言葉は知ってるよな?」
「その質問に何らかの意味があるの?」
シンが元通りになって安心しつつ、あたしは笑みを漏らしながら握り拳をシンに近づけていく。
それは、いつも通りの他愛の無いやりとりでの、あたしなりの気分転換のつもりだった。


上方――、キャットウォークから突如として響く声が、
「――力を手に入れた、か!」
その束の間の休息を破る。
声の主は、カガリ・ユラ・アスハだった。
「争いがなくならぬ故に力を必要とする……そう仰られたな、議長は?」
アスハ代表が、デュランダル議長に――言葉は悪いが――要は突っかかっているのだ。
「えぇ、殿下」
「本当にそう思われるのか?力が争いを呼ぶことだってあるだろうに」
「いいえ、殿下。2年前のことをよく思い出して頂きたい。対立が、力を呼び込んだはずです」
デュランダル議長はあくまで穏やかな口調で、諭すようにアスハ代表に応じている。それにしても、
「他国の軍艦の中でよくもまぁ……」
と思ってしまう。
「ねぇ? シン――」
シンを振り向いた時、その瞳はあたしを視界にも入れていないようだった。――なんて、怖い眼。
「ならば此度のことについてはどうお考えか? 3機の新型MSという力の為に被ったアーモリー市の……、貴国の被害は!? これは力が災いをもたらす典型的な――」
「さすがは――ッ」
二人の国家元首の対話を遮ったその声に、しん――と、場が静まり返った。傍で見ていて、ついさっきまで話していたあたしですら、すぐにはその声がシンのものだとは気づけなかった。
「さすが……綺麗事は、アスハの御家芸だなァッ!」
睨み上げるシンの紅い瞳の中で、何かが燃えているように見えた。反射的に声のした方を向いたのであろう、睨みつけられたアスハ代表の身体がびくりと怯える。
「ぇ――……?」
何がどうなっているのかわからなかった。いつも色んな言葉に過剰反応していたシンだが、いつもとは何かが違う。
そうか。一介のパイロットが国賓級のVIPに向かって罵声を浴びせたのか。――シンの何かを変えさせるほどの事を、そのVIPはやったというのだろうか。
でも、オーブのアスハといえばクライン派と結んで大戦を休戦にこぎつけた英雄。戦争
照れなどではない、怒りに染まった赤ら顔。その怒りが単なる義憤だなどとは、二年間シンを見てきたあたしには思えなかった。彼の怒りは、一体どこから湧き出ているのだろう。
「し、シ――」
「シン!」
あたしの呼びかけを跳ね除けるようにレイの鋭い叱咤がかかる。キャットウォークの方だ。
くるりと背を向けてパイロットピットの方へ向かうシンと、キャットウォークを飛び出して追うレイ。あたしはただ呆然とそれを見ていた。同じように呆然とした視線が、キャットウォークの上にもあった。


4 /






】【戻る】【