Top > Lnamaria-IF_523最終話
HTML convert time to 0.012 sec.


Lnamaria-IF_523最終話

Last-modified: 2008-04-11 (金) 17:58:17

戦争が終わって、私は腑抜けたようになってしまった。
オルガ、シャニ、クロト、マリューさん、そしてプレア……。
プレアは終戦を待たずに……再び私に会う事無しに亡くなってしまっていた。ちょうどヤキン・ドゥーエ攻略戦の頃だと言う。私が救えなかった人々を思うと気持ちが沈みこむというか気力が出ない。
そんな私を気遣って、アズラエルさんは彼の所有するオーブの小島を提供してくれた。
そこで私は日がな一日、海を眺め、波の音を聴いて過ごした。


その日もいつもと同じくチェアに座ってぼーっと海を見ていた。
……子供の声? 身を起こして振り向くと、アズラエルさんが男の子二人、女の子一人を連れてこちらへ向かってきた。
「やあ、ルナマリアさん。調子はいかがですか?」
「……こんにちは。まぁ、変わりなくって感じで……ごめんなさい」
「いいんですよ。謝らなくっても。でも、あなたを見てる人はちゃんと居るんだって、わかっててくださいね」
「はい……」
「そう言えば、フラガ中佐とナタル中佐、ご結婚するそうですよ。招待状を預かってきました」
「そうなんだ……二人ならお似合いね。よかった」
「スティング。例の物を組み立ててください」
「わかったよ」
なんだろう? スティングと呼ばれた少年は、箱から何かを出すと、組み立て始めた。
あれは……望遠鏡?
「この子達……スティング、アウル、ステラと言います。オルガ達と同じ施設で育ったんですよ」
「……え!?」
「オルガ達には間に合いませんでしたが、この子達はまだ投薬もさほど受けていなかったので、回復は順調です。……いいですか? 彼らの未来は、ルナマリアさん、あなたが与えたんです」
「私……が?」
「できたぜ、おっさん」
スティングと呼ばれた少年がアズラエルさんに言う。
彼が組み立てた物は、スウェンが持っていた物よりも一回り大きな天体望遠鏡だった。
「うん、この時刻なら、この辺ですね。見てください、ルナマリアさん」
言われるままに、覗き込む。
「……これは、宇宙ステーション?」
レンズの中では、薄っすらと宇宙ステーションらしき物の周りにモビルスーツが群がって、作業しているのが見える。
「DSSDの技術開発センターですよ。逞しいじゃぁありませんか、人間って奴は。まだまだ地球周辺には問題が山積みだって言うのに、先へ先へと進んで行こうとしている……」
私は望遠鏡の接眼レンズから目を離した。
あの辺だろうか?
透けるような青空を振り仰ぐ。
最近、下向いて海しか見てなかったからなぁ。青空が、目に染みる。
……上を向いていたい、か。そう言えばデュクロさんは、もうDSSDに入ったんだろうか。
「私、あそこに行くの」
振り返ると、女の子が望遠鏡を覗き込んで笑っている。
「きっと行けますとも。夢をあきらめなければ」
アズラエルさんが答える。
オーブのマスドライバーから発射されたらしいシャトルが飛行機雲を後ろに作りながら、上へと向かって行く。高く高く、どこまでも……




宇宙軌道――
「そう。まぁまぁの報酬ね。受けましょう、マーク!」
「じゃあ、アメノミハシラまでと言う事だから、気を抜くなよ」
「楽勝よ! それにしても、プラントが負けたおかげで新型ゲイツが安く手に入ってよかったわ♪」
「護衛の仕事は戦争が終わってもなくなるもんじゃないしな」
結局、メイリンは戦後、ジャンク屋と傭兵を兼業している。
ふと思う。自分を姉妹だと言ってくれた人の事を……
あの人は、もう軍を辞めたのだろうか?
今の私を見てなんと言うかな? 結局今も戦いの場に身を置いている私を。
――人は自分の人生しか歩けない、か……
メイリンはぶるんと頭を振った。そうだ。これが私の人生。余計な事を考える暇なんてない。
なにしろオルテュギアの皆を……彼女の大切な仲間達を食わせていかなければならないのだから。




アメノミハシラ――
「ロウ! 荷物は予定通り届きそうよ! 最近売り出し中の傭兵を安く雇えたの!」
「安くー? 樹里、大丈夫なんだろうな? なんならサーペントテイルにでも頼むか?」
「心配しなさんなって! 当のサーペントテイルといい勝負したって言う傭兵なんだから! 昨日、劾さんから確認取ってあるわ!」
「そうですよ! 強かったそうですよ!」
風花が答える。
「そうか、なら安心だな! これで作業がやりやすくなる。ジェネシスにユニウス7の解体、ふふふ、稼ぎ時だぜ!」
「もう!」
樹里が頬を膨らます。
「サーペントテイルはいつまでいるんだ?」
「さあ? 当分、オーブの新型機開発のアドバイザーの予定ですけど。今も劾はギナ様と話していると思います」
「そうか! じゃあ風花、当分一緒にいられるな!」
「はい!」
こんな小さな子にジェラシーだなんて……でも……。――あんたの鈍さのせいなんだからね!
樹里はちょっと恨めしそうにロウを見る。
「ああ、樹里。今度のシャトルであの三人娘もアメノミハシラに上がってくるそうだから」
プロフェッサーが樹里に話しかける。
「え!? ジュリ達ですか!?」
「そうよ。まぁ、負けなさんな」
ぽん、っとプロフェッサーは樹里の背中を叩く。
「はぁ……」
樹里の気苦労は絶えそうになかった。




――一ヵ月後――
「そうかぁ、ルナは地球軍辞めるか」
久しぶりに軍務に復帰した私は、休暇を合わせてヘリオポリスのみんなと会った。
「うん、私、いつまでもモビルスーツが動かせるだけの女の子でいたくない。モビルスーツを動かせる自分に甘えていたくないの」
「俺も、ミリィも、もうすぐ辞めようと思ってる。世の中も大分落ち着いたしな。本土の技術大学へ編入するんだ。まだ学びたい事いっぱいあるからな」
「俺も、退役だ。家継がなきゃならんからなぁ。いつまでも軍人やってるなって親が。……フレイもな」
「ご馳走様!」
「結局俺だけか? 軍に残るの?」
「以外よねぇ、カズィが軍に残るなんて」
「まぁ、主に座ってるだけだしね」
「はっはっはぁ。知ってるぞ! 救難任務でいい思いしたからじゃないのか?」
「な、なんだよ」
「えー、なに?」
「こいつ、中東に行った時の救難任務で女の子に懐かれちゃってさ。この間も手紙来てたよなぁ?」
「うっせぇよ」
「へーそうなんだー」
「ルナは、辞めた後どうすんだ?」
「ん。DSSDに行って見ようかなと」
「そうか、宇宙か――」




――数ヵ月後――
「お前達ーーー!」
聞き覚えのある声にトール、サイ、ミリアリアは振り向く。
「え?」
「あ、カガリ様!? どうしたんです?」
「んー? 私も、この大学に入学したんだ! ピカピカの新入生だぞ! ふふん」
「え? カガリ様のご身分は、家庭教師で済ませるんじゃないんですか?」
「世の中の事を色々知らなきゃいけないからな!」
「でも、カガリ様の年齢なら編入でもいいんじゃ……?」
「ま、そこはどうせなら新入生から目一杯学生生活を満喫したい私のわがままだ」
胸を張ってカガリは宣言する。
「そうですか。ところで、後ろの方はどなた?」
「ユウナだ。ユウナ・ロマ・セイラン。許婚だ」
「やあ、よろしく、君達」
カガリの後ろからひょっこり顔を出してユウナは手を振る。
「……もしかして、ユウナさんも大学生!?」
「まっさか! 講師だよ、講師! 実を言えばカガリのお目付けが主な役目だけどね」
「不定期だけどな。こいつ、行政府の仕事も有るから」
「まぁ、人を教える立場になると、意外と自分の勉強にもなるもんだよ、うん」
ユウナは腕を組むと目を閉じ、一人納得したようにうなづいた。
「そうか。よろしくお願いしますね!」
「そう言えば! お前達編入なんだよな? よろしくな! 先輩!」
「よろしく、カガリ様」
「様はいらないって!」
「じゃ、よろしくね! カガリ!」
ミリアリアは手を差し出した。
「ああ!」
カガリはその手を取り、固い握手を交わした。
「カガリー! もうすぐ授業始まるよー!」
向こうで、栗色の長い髪をした女の子が手を振っている。
「ああ、マユ! 一緒に行くからちょっと待て! ……じゃあ、またな!」
カガリは走り去って、その女の子と一緒に腕を組んで建物の方へ歩いて行く。
「じゃ、君達、またね」
ユウナも別の建物の方へ歩み去って行く。
「へえ、カガリ、もう友達出来たんだ?」
「うまくやってんじゃん」
そこに、通りがかった白衣を着た男性が声をかける。
「おーい。もうすぐ授業だぞ。今日は遅れんようにな」
「えへ。はーい、キャリー教授!」
彼らの上に、オーブの日差しが眩しく輝いていた。




――2年後――
船の上で二人の男が話している。
ここはニュージーランドと南米大陸と南極大陸の中間付近、南緯47度9分、西経126度43分。到達不能極にほど近い周囲に島の全く無い海域である。
最近、この海域で大規模な地殻変動が観測された。どうやら海底が海の上に隆起したらしい。都市遺跡らしき物も発見された。
しかし、今は再び海の中に没し、海面は平穏を取り戻している。
その後この一帯の海域は地球連合によりきびしく立ち入りが禁止されている。
「世界平和連合会議か……上手くいくといいですね」
「同じ人類とは言え人種も違えば考え方も違う、結局調整に2年かかったよ」
「異星人が地球を狙っていると分かった今、人類はまとまらないとならないですからね。人類同士で争っている場合ではない。あなたでなければ出来ない仕事でしたよ、ジョゼフ・コープランド大統領」
「何、アズラエル、君の働きがなければ、とうてい漕ぎ着けなかったろう。クトゥルー、か。彼女? は……どうしてるかな」
「大丈夫……深海で我らを見守っているでしょう。そういう種族でしょう、彼らは」
「灯台下暗し、と言う奴だな。人間以上の知的生物が地球に居るとは。彼らへのメッセージは?」
「これから半年間に渡る作業で、大西洋連邦のアルビン号、ユーラシアのミール号、日本のしんかい6500号、かいこう11000号がそれぞれ深海の方々に投下する予定です。装置は約2年に渡ってメッセージを発信し続けます」
「答えてくれるかな? 彼らは?」
「……まぁ、今までの歴史を見ると、期待しない方がいいかと。今回の事は、彼らにとって緊急避難でしょう」
「古代には、海から上がってきた者に文明を授けられたと言う神話もあるのだがな。『いあ いあ ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん……』か。古文書に出てきた呪文を唱えても何も起きなかったよ。はは……。鯨と間違えて攻撃せんようにしないとな」
「メッセージにも入れておきましたから大丈夫でしょう。鯨と間違えられるな、とね。ははは」
「一世紀は明かせんな。地球連合の首脳らが同時に同じ夢を見て、メッセージを受けたなどと。しかも、それを本気にして我々は行動している」
「ヤキン・ドゥーエの事もありましたからね。彼らの介入は」
「しかし、夢で見た彼らは鯨と言うより蛸や烏賊に似ていたな」
「し! 禁句かもしれませんよ? 彼らにとっては?」
「ははは!」




「まぁ、お茶でも一杯どうぞ。疲れたでしょう、公式の会談は」
アズラエルは地球を一年ぶりに訪れたマーシャン(火星入植者)達をねぎらった。
「この後、歓迎会も設けられていますので。その前に気楽に一服を」
「では……頂戴します。ふむ……これは……」
使節団のリーダー、アグニス・ブラーエが軽く驚きの声を上げる。
「わかりますか」
アズラエルは嬉しそうに言った。
「甘茶ですよ。砂糖の甘さではない本当のアマチャです。口の中が爽やかになるでしょう?」
「これもぜひ、火星に持って帰りたい物です」
使節団の副官ナーエ・ハーシェルも甘茶が気に入ったようだ。
「なんなら生きた株も持って行かれますか? 山野に自生する物ですから、強健です。ぜひ火星に根づかせてください」
「はい。それにしても……驚きました」
「なにがでしょう?」
「地球平和連合会議ですか? 地球圏が、一つにまとまっているとは。私達が出発する時の情報では、なんと言うか、ごたごたしていたと?」
「ははは。お恥ずかしい。この前使節団が帰られたのはヤキン・ドゥーエ戦役が終わって、独立運動やらでごたごたしていた頃でしたか。同じ人類とは言え人種も違えば考え方も違う、結局調整に2年もかかりました。小さなごたごたも、未だ収まらず、と言う所です。できれば……マーズコロニー群にも参加して欲しいですね」
「それは、あなた個人の考えではなく?」
「ええ。明日の会談の席上ででも、ジョゼフ・コープランド議長から話があるかと。そうなれば、汎太陽系連合とでも名前が変わるでしょう」
「ふと、思ったのですが、なにやら、人類をまとめるのを急いでおられるような……?」
「……理由があるのですよ。いずれ、話せる時が来るかと」
「そうですか。ところで気になるのですが、地球連合はコーディネイター技術を禁止されたとか? ご存知でしょうが、我々オーストレール・コロニーは生まれる前より職能を割り振り、それに合わせたコーディネートを行っております。これは、地球ではどのように捉えられるでしょうか?」
「黙認せざるを得ないでしょう。ですが、地球では、コーディネイターはナチュラルの海の中へ自然と溶け込み、消滅すべし、と言う方針です。ああ、ナチュラルとの婚姻強制など強引な手段は取りませんが。我々の認識では、少なくとも今の技術のコーディネイトで能力を底上げしてもそれは短期的な物であり一時凌ぎにしかなりませんよ? 生物学的には後の代になる程生殖能力が衰え、行く先は自滅……これは地球のプラントで経験済みな現象でしてね。結局、自然の気まぐれが与える多様性と活力こそが人類の生存の道、と言う訳です。生命工学に関してはL4のメンデル・コロニーのラクス・クライン・ザラ博士が詳しいのでその内訪問されると良いでしょう。第一、遺伝子の通りに、生まれながらにして人生が決められているなんてつまらんじゃないですか? コーディネイターばかりが集まっていたプラントも、ヤキンドゥーエ戦役当時の政治体制はコンピュータ頼りの、むしろディストピアと言うべきでしたし。今は新たなコロニーも建設され、新規移住者もだいぶ増えてましになっていますが」
「ありがとうございます。しかし、わかっていただきたい。そうでもしなければならない程に、我々の環境は厳しいのです。初の火星地表都市、東キャナル市の建設も始まりましたし、人材を最大限に活用しなければ……余裕が無いのですよ。我々は」
「わかっております。新たな移民、物資の火星への供給が計画されています。我々もベースマテリアルを始め希少鉱物を必要としています。火星にも発展してもらわないとなりません。火星との行き来も便利にしないとね。プラズマビームを放射する基地を、惑星間飛行経路の各拠点に設置し、それにより宇宙船を加速・減速する計画も推進中です。これが完成すれば、地球・火星間が3ヶ月で往復できますよ!」
「それは……DSSDが計画していると言うヴォワチュール・リュミエールで太陽風を受けて進むシステムですか?」
「いえ、それですと太陽風に従わなくてはならないと言う問題点があります。実際に火星までの到達時間を短縮できるかもしれませんが、いくつかの軌道を考えたところ、おそらく1.6年かかると言う事です。ビームのシステムを使えば、太陽風に従う必要はなく、比較的まっすぐ目的地に向かえる。太陽系のいたるところに基地を建設するためには、初期投資額が莫大な金額になるであろうことは確かですが、宇宙に人間が進出するためには必要不可欠な投資でしょう」
「すばらしい!」
「それはありがたい!」
マーシャン達はがっしりとアズラエルと手を握り合った。




会食が終わり与えられた部屋に戻ってくると、アグニスはふぅっと溜息をついた。
「どうしました、アグニス?」
ナーエが尋ねる。
「いや、会談がうまく言って良かった。会談する前はブルーコスモスの反コーディネイター政策とか、色々悪い噂を聞いていたが、やはり『まず相手を信じる事が、敵を作らず相手の敵とならない為の最善の方法』だな」
「そうですね」
ナーエも溜息をもらす。防衛用に積んで来たモビルスーツ……もしそれが破壊されるなどしたら……使節団と地球側でトラブルが起きたとして火星に伝わるようになっていた。そうなれば火星は地球と断交する――
それを使節団でたった一人知らされていたナーエは心底安堵していた。
地球平和連合会議からの護衛もしっかり付けられている。この様子ならそのモビルスーツに乗る事にすらなるまい。
その時、ドアがノックされた。
「すみません。火星の方々、お休みのところを。ジャーナリストの方が、取材したいと。それから、個人的に会いたいと言う方も居られまして」
「どうします? アグニス?」
「会ってみよう。今までは接したのが政府の人間ばかりだ。一般の人とも会ってみたい」
「では……通してください。取材を受けましょう!」
迎賓館の居室の、客間に客が通される。
「きゃー! アグニス! ほんとにアグニスだわ! 大きくなって!」
「こ、これは、姉さん!? どうして!」
アグニスが驚きの声を上げる。
アグニスに飛びついてきた少女――アグニスよりも若く見えた。
「セトナ様? これは一体……? あなたはオーストレールのシンボルとなるべく生み出されたお方。それが何故地球に?」
その少女はセトナ・ウィンタース。アグニスの姉として生まれ、オーストレールの象徴となるために生まれて来たのだが、数年前に行方不明になっていた。
「ふふふ。ごめんなさいね。オーストレールから逃げ出してしまって。ですが私は……私は、皆のシンボルとしてお世話されて生きるより、人々に尽くして歩んでいきたい……そう思ったのです。でも、それは火星では許されないから……」
「姉さん……」
「でも、ここでは。地球では、人はどのように生きるか――それを自分で決める事が出来るのです」
「それで地球に……」
「ええ。でも地球行きの船に忍び込んだら、その船が事故に遭ってしまって。5年も救命ポッドで眠ってしまいましたわ」
セトナは苦笑した。
「それでお姿が子供の頃のままなのですね。一つ、いいでしょうか?」
ナーエが訊ねた。
「セトナ様は何故、責任を放棄して地球に来たのですか? あなたはアグニスの姉です。人一倍の責任感をお持ちでは?」
「簡単な事です。私と言う存在がいなくても火星はやっていける――それだけの事です。私達は、火星の過酷な環境に対応するためとして、予め職業により遺伝子を決めて人(マーシャン)を生み出しました。ですが、それは同時にマーシャンの未来を狭めてしまった事にも思えるのです。まるで遺伝子と言う枠に縛り付けられたかのように……」
「姉さん……。ナーエ、地球に来て薄々感じていた事だが、俺は確信したぞ。やはり、オーストレール・コロニーのように生まれながらに遺伝子で人生を決めてしまうのは間違っていると」
「そうですね。人が、好きな様生きられればどんなにいい事でしょう?」
「何を言う、ナーエ、お前がオーストレール・コロニーで遺伝子の枷を破った第一号だぞ?」
「そういえば、そうでしたね」
「わかってくれたようですね。そう。人は遺伝子の定めを超えて先へ進めるのです!」
「……おーい」
居心地の悪そうな顔でジェス・リブルが顔を出した。
「取材、していいか〜?」
「あらら、ジェスの事すっかり忘れてしまってましたわ!」
「そんな〜」
「「はははは!」」




――数年後――
アズラエルは軍用機からオノゴロ島の軍用空港に降り立った。堂々たる公私混合である。
なにしろ民間空路を使うよりずっと早く着けるのであるからして、アズラエルはなんの良心の呵責も感じなかった。
しかし、ああ、もうちょっとクッションの効いた物を持ち込んだ方がよかったかも知れない。
尻をさすりながらアズラエルは思った。
まだ小さいとは言え子供をずっと膝の上に乗せているのはちょっとした苦行だった。
「パパのおふね」
「ん?」
娘のマーヤが指差す方向を見ると、向こうの海岸に黒の船体のドミニオンが浮かんでいた。
「そうだねぇ」
あの艦を見るのも久しぶりだ。しかし一体誰が教えたのだろう。アズラエルは不思議に思った。別に娘に話した事などなかったのに。
こういう事は、自然と覚えてしまう物なのだろうか。
「さあ、宙港へ行こうか」
「うん!」
マーヤは元気に飛び跳ねた。


アカツキ島の宙港へ着くと、アズラエル達は出口に陣取った。
「ばーば!」
振り向くと、マーヤが入り口の方へ駆けていく。
向こうから、二人の夫婦らしい男女が歩いて来る。マーヤの祖父母だ。
「まぁまぁ、マーヤちゃんもおおきくなったこと!」
二人は目を細める。
「ご無沙汰しております」
アズラエルが義父母に挨拶をする。
「いやいや。なにしろアメリカは遠いですからなぁ。……そろそろ時間ですな」
「ええ!」
――ちょうど、ガラス越しに、シャトルが降りて来るのが見える。オーブの交通機関の運行は日本ゆずりらしく正確さで知られている。
もうすぐだ、もうすぐ。君と会えるのは何ヶ月ぶりだろう。
ああ、もうここで何時間も待っている気がする。
アズラエルの胸は高鳴った。
「はは。ドキドキしていらっしゃる」
「さすがに今日は、な?」
護衛のソキウス達は顔を見合わせると含み笑いをする。
「お、噂をすれば。来たぞ」
出口に赤毛の女性の姿が目に入る。
「ママ!」
マーヤは、ぱっと顔を輝かせてその女性に駆け寄って行く。
その女性は飛びついたマーヤを優しく抱き上げるとこちらへ歩いて来た。
「――ただいま!」
とびきりの笑顔でルナマリアは笑った――




<FIN>






】【戻る】【