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Lnamaria-IF_523第33話

Last-modified: 2007-12-29 (土) 00:56:54

「うぁー、疲れた!」
「よお! お疲れさん!」
ディープストライカーのテストを始めて数日。
ロウがテストが終わった頃を見計らって、声をかけて来た。
「ほんとにもうくたくたよー。ディープストライカーってGがきつくて」
「じゃあ、ちょっくら骨休みしないか?」
「え? 何かするの?」
「俺達これから、イズモでデブリ帯のグレイブヤードに行くんだが一緒に来るか?」
「へぇ! 技術者が移り住んだって言うコロニーね。そこに何しに行くの?」
「レッドフレームのガーベラストレートが折られちゃってね。打ち直しに行くんだ」
「面白そうね。ちょっと待ってて。カトキ主任に言って来る」
「来れそうか? 一週間以上かかるかも知れんぞ」
「テストは私一人で適当にやってるからね。融通が利くのよ。最悪みんなが訓練終わるまでに帰ればいいし」


私達はオーブの戦艦イズモに乗ってグレイブヤードに向かう。
「それにしても、何と戦ってガーベラストレート折られたの?」
グレイブヤードに着くまでしばらくかかるので、私達は休憩所でだべっている。
「ええ!? うーん……」
ロウは困った顔をして向かい側の席をちらりと見た。
視線の先には、黒い長髪の背の高い男性――オーブのサハク家のギナ様が座っている。
「ふふん。私がザフト艦隊を沈めまくっている時に、そこのジャンク屋がちょっかいをかけてきたのでな。返り討ちにしてやったのだ」
「え!? ロウ達ってジャンク屋だったの!? ジャンク屋って中立じゃなきゃいけないんでしょう!?」
「……ふふふ。その通りよ。不問にしてもらう代わりに当面ジャンク屋休業して、ギナ様の手伝いをしてるって訳。ほんとにもう、この熱血馬鹿には困っちゃうわ」
プロフェッサーがしれっときつい事を言う。
「うう……反論できねぇ……」
「もう、プロフェッサーたら。ロウも反省してるんだしいじめないでくださいよ〜」
茶髪の子がロウをかばう。
あら? この間のロウを睨んでた子? もしかしてこの子……うふふ。


廊下でその子――山吹樹里と二人きりになった時、聞いてみた。
「ねぇ、あなた。ロウの事好きでしょう?」
「な、な、なんでわかるんですか〜〜〜!?」
うわぁ、顔がいきなり真っ赤になった。可愛い。
「だって、いつもロウの事心配そうに見てるし……私とロウが話してる時も心配そうに見てるでしょう? わかるわよ」
「うう……顔に出やすいんですかねぇ。サーペントテイルの風花ちゃんにも見抜かれちゃったし」
「でも、わからない朴念仁が一人いるようねぇ」
「ああ、どうしたらいいんでしょう? ルナマリアさん? 気づいてもほしいし、気づかれるのも怖いし……」
「私だったら、積極的にモーションかけるけど、人によるからね。樹里さん向きじゃないみたい。空気みたいになればいいんじゃないかな? いつも居て当たり前、居るとくつろげる存在に。そうしてたまに離れた時に寂しい思いをさせてあなたの存在の大切さを思い知らせるのよ!」
「うう、頑張ります!」
ああ、他人の恋愛って楽しいなぁ。私の勘だけど、ロウと樹里の二人はそのうちくっつくんじゃないかな。自然に。


「蘊奥の爺さん、いるか!?」
グレイブヤードに着いた私達は、ロウを道案内にコロニーの奥へと入って行った。
「にゃ〜ん」
ロウの声が聞こえたのか、奥から赤いちゃんちゃんこ風の服を着た体長1メートル程の大柄な猫が出て来た。
「お、ブータ! 元気だったか?」
「にゃ!」
「ブータ?」
「ああ、蘊奥の爺さんの飼い猫だ」
「うにゃ〜ん!」
ブータは、ロウのズボンの裾を咥えると、通路の奥へ引っ張って行こうとする。
「ロウ、これって……」
「蘊奥の爺さんに何かあったのかも知れねえ! 急ぐぞ!」


「おい! 爺さん! しっかりしろ!」
私達が駆けつけると、畳の部屋に倒れているお爺さんをロウが抱きかかえていた。
「大丈夫!?」
「わからん! なぁ、ギナ様! イズモから医者を……」
「……ぅ……む」
「お、気がついたか! 爺さん!」
「……馬鹿もん! わしゃ寝てただけじゃ!」
「……でも、口から血が……」
「リンゴを食いすぎただけじゃ!」
「なんだ……驚かすなよ、爺さん」
ロウは気抜けしたようにへたりこんだ。
「今日はえらいにぎやかじゃな。何があった?」
「そうそう、それ! 実はガーベラストレートが折られちまってさ、直しに来たんだ」
「折られたじゃと? どんな使い方をしたんじゃ?」
「それが……振り下ろしたら片手で白刃取りみたいに止められて、そこを横殴りに一撃されて」
「ふーむ。片手でか。止められる様なお前の腕がまだまだ未熟だと言う事じゃ!」
「うう……」
ロウはうな垂れる。
「ご老人。部下の未熟さはお詫びしよう。ところで、直しついでに私にも一振り作ってもらえないだろうか?」
「む? おぬしは?」
「私はオーブのロンド・ギナ・サハクと言う者です。実は私の乗るモビルスーツは、このロウの乗る物と兄弟機とも言うべき物でして。彼の機体で有効な装備は、私の機体にもきっと役に立ちましょう」
「打ってやってもいいが、本人の剣術の鍛錬も必要ぞ? 本人の肉体の動きの理解無くして日本刀は本来の威力を発揮できぬ」
「では、一つご教授頂きたく。強くなれる機会を逃したくはありませんからな」
「めずらしい。ギナ様が敬語だ……」
ロウがつぶやく。まぁ、ギナ様いつもはえらそーなしゃべり方だもんね。
「ルナ、お前はどうする? 作るか?」
「うーん、作ってもらえるなら、作ってもらおうかな」
「おーけー。地球にいた時、海の底から面白いレアメタル大量に引き上げたんだ。硬度もあるし靭性も大したもんだから、今回はそれで作ろうかと思ってさ。大量にあるからいくらでも作れるぜ」
お爺さんがこちらを向く。じっと見つめられる。落ち着かないなー。
「こりゃ娘っ子。おぬし剣術の経験があるな」
「はい、うちの家族は日本文化が大好きで、剣術も小さい頃から習いました。空鈍流の奥伝まで許されております」
「ほほう、空鈍流とな。知らぬ流派じゃ。立ち会ってみたい。よいかの?」
「はい、かまいません」


皆は広い板の間に移動した。
ロウは二人の立会いに胸が躍るのを感じた。
ルナマリアは竹刀を受け取ると、青眼に構え目を閉じ、しばらく気息をととのえているようだった。ルナマリアの目が開く、と同時にゆるゆると構えが変わっていく。
ロウの胸に衝撃が走った。ルナマリアの構えが想像を絶したものだったからである。ルナマリアの右手の竹刀は八双の位置で天を指していたが、左腕は軽く前方に伸びて何かの舞の型に見えた――


「大丈夫か爺さん!」
ロウが駆け寄る。蘊奥は片膝をついて荒く呼吸をしている。
蘊奥さんは強い! 強かった! 空鈍流の秘剣村雨を持ってしても勝てなかった……自分でも信じられない。村雨は無敵だと思っていたのに。
今、蘊奥さんが片膝ついているのは単にお年寄りで長い立ち合いに疲れたからに過ぎない。
「大事、ない……見事じゃ、ルナマリア殿。この年になってこんな物を見れるとは思わなかったわい。もう滅んでいくしかないと思っておった技術が若い者の中に生きておった……嬉しい事じゃ」
蘊奥は満足げに笑みを浮かべた。
「やる気が出たわい。ロウ! 刀を打つ用意をせい!」
「がってんだ!」
「私も立ち合わせて頂きたい」
「私も、手伝わせてください!」
「もちろんじゃ」
蘊奥は私達に向かってにっこり笑った。
「わしが持てるだけの知識を教えてやる」


丸々10日、かかって三振りのガーベラストレートが完成した。
「きれいねぇ」
「うむ」
「ああ、そうだ。きれいで、そして強い」
私とロウとギナ様は、それぞれのガーベラストレートを惚れ惚れと眺めていた。
蘊奥さんはちょっと疲れが見える。刀を打つ監督と、暇があれば私様に稽古をつけていたからだ。
「お茶入れました。一服しましょう。どうぞ」
「おお、すまんの」
茶碗に手をかけた時――警報が鳴った!
「む、侵入者じゃ!」
「不運な奴らだなー」
「そうね。私達が居る時に進入してくるなんて」
「ふふふ。試し切りをしてくれよう」
ギナ様の瞳が怪しく光る。
私達はそれぞれのモビルスーツに乗り込んだ。


侵入者達は、ゲイツに乗っていた。この時期でこの装備は……ザフトの正規軍!?
「一応警告するわ。死にたくなければ出て行きなさい」
私は警告した。
「うるさい! 我々のレアメタルをおとなしく渡せ! 横取りしたジャンク屋がここにいると情報が入っているのだ! 言い逃れはできんぞ!」
返ってきたのは罵声だった。
「かまわん。ロウ! ルナマリア! やってしまえ!」
ギナ様が檄を飛ばす。
「がってん承知!」
「敵はザフトの新型よ! ビームライフルにビームクローを持ってるわ! 気をつけて!」


私は仲間に警告するとエールストライカーを吹かしてゲイツの群れに突っ込む!
ゲイツは同士討ちを怖れてビームライフルを撃てない!
刃が相手に垂直に当たるように……切る!
ゲイツの片腕がビームライフルを持ったままゴトリと落ちる。
すごい! ジンの重斬刀とは比べ物にならない!
ゲイツはビームクローを展開して来た。
でも、対ビームコーティングされたこの剣なら……!
ガーベラストレートはゲイツのビームクローのビームをシャワーに棒を当てたように切り裂き、そのままゲイツのシールドを、左腕を切り裂く。
「胴!」
深く踏み込んだ一撃は、ゲイツの上半身と下半身を真っ二つにする。
そのままの勢いで更に深く踏み込み……
「面!」
次のゲイツの真上からガーベラストレートを振り下ろす。
ゲイツは胴の部分まで左右に切り裂かれる。
残ったゲイツはとうとう逃げ出した――
「わははは、そっちはトラップエリアじゃ……ぅ……む……」
突然、蘊奥さんのジンが片膝を付いた。
「どうしたの? 大丈夫? 蘊奥さん!」
急いでジンのコクピットを開く。
蘊奥さんは胸を押さえて浅く早い呼吸を繰り返していた。
「畳の部屋に運びましょう! そおっと」
蘊奥さんの寝起きしている部屋にそっと抱えて連れて行く。
布団を敷いて寝かせる。
「ギナ様、お医者さんを……」
「うむ。樹里、イズモへ行って呼んで来てくれ」
「は、はい」
「無駄じゃ……」
「蘊奥さん! 気がついたのね!」
「ぅむ……寿命じゃよ。宇宙白血病じゃ。長年患っておってな。ついに死神に捕まってしもうたようじゃ」
「爺さん、そんな事言うなよ! すぐにまた元気になるって!」
白血病……そうか、あの歯茎からの出血……
「何、死神にもだいぶ待たせたからの。お釣りが来るくらいじゃて」
「しゃべるなって!」
「言わせてくれ……わしは滅び行く技術と共にここで朽ち果てて行くつもりじゃった。それが人生の最後になって素晴らしい弟子を三人も持つ事ができた……わしは幸せ者じゃ」
「……」
私達……ロウ、ギナ様に私は頭をうな垂れる。
「縁がありついでに頼みがある」
「なんでしょうか? 蘊奥殿」
蘊奥さんのそばに片膝をつきギナ様が答える。
「ブータの事じゃ。あれももう年寄りじゃ。すまんが世話を……」
「するよ! するとも、爺さん!」
「ありがとう……」
私は綿に水を吸わせ、蘊奥さんの口元に当てる。でも、吸ってくれる様子が無い。
蘊奥さんは小さく、口を開いて何か言おうとする。
「…………遅かったじゃないか……佐々木……宮本……眞子様……佳子様…………」
蘊奥さんの意識はすでに混濁しているようだった。
がくりと、蘊奥さんの首が傾く。
「なんだって? 爺さん! 爺さん! 起きてくれよ! 爺さん!」
ギナ様が蘊奥さんの胸に耳をつけ、鼓動を、呼吸を確認する。
「ロウ。もう蘊奥殿は……静かに眠らせてやろう」
ギナ様が蘊奥さんの両手を胸の上で組み合わせる。
「う……うあぁぁぁーーー!」
ロウさんの慟哭の声が響いた。


蘊奥さんの遺体は、とりあえずイズモに運んで冷凍カプセルに入れられた。
「なぁ、ロウよ」
「なんでしょう、ギナ様」
「蘊奥殿が亡くなった以上、グレイブヤードは無人となる。侵入者に略奪され放題となるであろうな」
「そう、なるでしょうね」
「……ここで亡くなった技術者達の墓、技術データをオーブに移すと言うのはどうだ? そしてその技術を知りたい者が現れれば、すぐに参考にできるようにすると言うのは……。死者を冒涜する事にはならんか?」
「とんでもない! いいアイデアですよ! それ!」
うん、きっと喜んでくれる!
「そうよね、ブータ?」
「にゃん!」
「……あれ? 気のせいかな?」
――特に差し許す―― と言う声が聞こえた気がした。
私の脳裏には、暖かな日差しがあたる青い海の見える丘で安らかに眠る蘊奥さんが思い浮かんだ。




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