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Lyrical DESTINY StS_第19話

Last-modified: 2016-12-01 (木) 18:36:03

どちらが正しいか、ソレを決める明確な術はない。
だから、人は戦いを選んでしまった。
どちらかが勝てばソレは正しくなる。
敗者は間違いで、勝者は正しい。
だが、そんな選び方で世界のバランスが成り立てば、ソレは世界全体に闘争が広がる。
闘争によって得られるものがあるとしても。
その意味を理解しなければ同じことだ。
いつの間にか人は、真偽ではなく、勝ち負けに拘り始めているのだから。
そんな世界が正しいはずはない。
・・・だから。

 

─聖王教会─

 

聖王教会騎士のカリム・グラシア執務室で、今彼女の予言能力に新たな文章が浮かんだ。

 

時紡ぎ、聖者蔓延る世界の中心。
腐りかけの果実とともに、滅びの瞬間迎えん。
尊き願い裏腹に、顧みぬ願い、空を去る。
平定望む騎士、主がためにその命、祖に還さん。
赤き翼、天を翔け、眼下に映る大地に永遠の楔を打ち込むだろう。
久しき盟友、翼折れとも正義を折らず、不屈の心は愛しき空で死を抱かん。
夜の天に君臨せし王、その御魂を駆使して、世界に記す。
雷の器、その身焦がして名を語る。
星と雷の子等、ただ願いのままに享受する果てに死を奉る。
賢者と造神・・・願い成就させ、結果をともに、代価払う。
死した屍、今一度戦機とかし、愉悦の元に命絶つ。
不忘の王、賢者と邂逅し、双剣とともに世界揺るがす。
すべては、世界とともに終わりを告げる・・・一つの救済とともに黄昏紡ぐ。

 

「カリム、これは?」
側近のシスター・シャッハが驚きを隠せないといった顔でカリムを見る。
「・・・これは、もう止まらないわ」
だが、カリムはむしろ落ち着いていた。
まるで、この文章をあらかじめ知っていたかのように。
この不吉な予言文章が遠い未来ではなく、近い未来であることは、誰も想像すらしなかった。

 

何かがぶつかる音が響く。
特殊戦技隊と、ラウルたちが戦っているのだ。
だが、エーラが撃墜され、今特殊戦技隊の戦力は低下していた。
バーンとメルクーアはコンビになりメーア、シュテルンのコンビと戦い、
ヴィンターはフィルの相手をしていた。
そして、残ったシックザールは未だシンとラウ、ラウルとにらみ合っていた。

 

「一人で三人を相手にするのは辛いと思うがね?」
ラウが挑発の言葉を口にする。
「・・・ええ、辛いですね」
だが、シックザールはソレをすんなり肯定する。
「ですが、対レリック・ヒューマンとして教育されてきてもいます。そうそう負けはしませんよ」
不敵な笑みを浮かべ、背中に6つのドラグーン。さらに右手に魔力刃。左手にはライフルを手にしていた。
そんな彼を、ラウルはなぜか切なげに見つめる・・・そして、脳裏には少し時を遡った映像が映っていた。

 

─1年半前─

 

「すまないナンバー11・・・ナンバー7から名前を上げることができなくなってしまった」
ラウルはポッドにいる、まだ子どもの形態を取るシックザールにそう言った。
(・・・構いません。僕は・・・)
ナンバー11シックザールは被検体の中で唯一、完璧な人格形成を
完成させた完全成功体とも呼べるものだった。
(僕たちはきっとあなたたちと敵対します・・・なら、僕は容赦、しません)
「・・・辛いね」
ラウルは苦笑しながら言った。
(結果の中に、どちらかが勝者と敗者として刻まれます・・・
ですが、世界はそうでもしないと、結果を残しません)
シックザールの言葉に、ラウルは頷いた。
そして、後の特殊戦技隊メンバーのポッドは研究所から離れ、
そう置くことなく、ラウルは研究所からリリウェルたちを連れ出し、完全な離反をした。

 

そして、現在起こっていることが・・・かつてシックザールが予見した現状だった。

 

「・・・君の名を改めて聞いておこう」
ラウルは息を吐いた後、そう呟いた。
「シックザール・クンバーンです」
シックザールも躊躇せずに名を明かす。
「・・・運命の親友・・・皮肉な名前だ。
やはり、君の中にもあるようだね・・・オリジナルの記憶が」
「!?」
ソレを聞いて驚いたそぶりを見せたのは、ラウ。
「つまり・・・君は!」
ラウの焦ったような言葉に反応して、シックザールは被っていた仮面を外す。
その下にあった顔はやはり、ラウにとってあって欲しくなかった顔だった。
「レイ・・・」
「・・・今は敵です。ラウ・ル・クルーゼ」
「!!」
シックザールの・・・レイの言葉ははっきりと敵と断言した。
さすがのラウも、例え強さを持つ人間でも、自分と同じ境遇だった
人間からそういわれて、心が揺るがないことがあるのだろうか?
ラウにとって、レイは自分と同類だ。
自分より少し遅く生まれたアル・ダ・フラガの出来損ないのクローン。
人より早く老化するその身。
だが、今はソレもない。

 

「悪夢は終わる・・・だが、新たに始まらないとは限らない」
シックザールは再び仮面を付け直し、その身に宿る力を開放する。
「レリック・・・発動」
瞬間、灰色の光が輝き、彼の足元に魔方陣が展開される。
「・・・シン、博士・・・彼の相手は、私がします」
対して、ラウがヒロイック・プロヴィデンスを握る。

 

「・・・決着をつけるのかい?」
「ええ」
ただ一言、そういうと・・・ラウも魔力を開放する。

 

(・・・元は同じ人物から生まれた二人。ともに不完全なクローニング技術が呪縛となり、
延命処置を取らなければ生きていけなかった。そんな彼らが戦う。止めなくていいのか?
私は彼らを引き合わせてしまった責任がある・・・止めなければならないんじゃないのか?)
ラウルは心の中で葛藤した。
だが、そんな葛藤を読み取ったかのように、後ろから手がラウルの肩に下りた。
「!?」
ソレは、シンの手であった。
「責任を感じるなら、最後まで見ることだ・・・どちらかが壊れるか、
わからない・・・けど、アンタはこれを見届けなくちゃいけない」
感情のこもった言葉に、ラウルは驚く。
シンはその力を得る代わりに、感情を捨てたのだ。
その彼から、そんな言葉が・・・聞けると思ってもいなかったのだ。
「そう・・・だな。ソレに、私はこんな所で止まれない」

ラウルの行動には一つの矛盾がある・・・家族を守り、自分の考えをすべての人間に示す。
だが、彼らの戦いでラウが死ねば、家族を守るという言葉から逸脱されてしまう。
ソレを、彼は理解しているのだろうか?

 

「シン、もし・・・私が・・・・・・・・・・」
だから、ラウルはシンにだけ、ある言葉を残した。
ソレは、些細だが重要な二人だけの・・・誓いのような言葉でもあった。

 

向き合う、同じ様なデバイスを構える二人の男。
魔力光も似ており、武器にも類似するものがある。
ソレも当然である。
二人は同じ人間から作られ、同じ戦い方を好むのだから。

 

「「行くぞ!!」」
声裏を合わせ、二人は同時に疾走する。
武器は接近戦向けのものではないが、なぜか二人は魔力刃を構えて、ぶつかるほうを選択する。
魔力刃がぶつかる音が数回響くと、次は長くギリギリという音が聞こえた。
二人が唾競り合いでにらみ合っているのだ。

 

「レイ!君はソレでいいのか!?戦える力を利用されて!!」
「・・・」
ラウの叫びに、シックザールは答えない。
ソレに苛立ったかのようにラウは力を込める。
込められた力により、シックザールは弾かれて体勢を崩すが、
その状態を攻撃されないようにドラグーンで身の回りを固める。

 

「甘いぞ!!」

 

だが、ラウはシックザールより数の多いドラグーンのけん制で、突破を試みる。
「!?」
その試みは、シックザールの操るドラグーンをすべて撃墜し、
重力に任せてシックザールに落下していくラウ。
「はあああああああああああああああああ!!!」
「くっ!」
二人は再び組み合い、重力に任せて落下していく。
「戦闘経験で私に勝てると・・・!!」
ラウの攻撃はシックザールを少しずつ圧倒して行った。
だが、それでもどこかシックザールには余裕があるように思えてならなかった。

 

(・・・レリック・ヒューマンとただの魔道士では、違いすぎる・・・ラウ、アナタでは俺には!)

 

シックザールの心の中の呟きは、まだ現実にはならない。
そうする必要がないのか、それとも迷いがあるのか・・・。

 

「!?」
そんなことを考えている間に、ラウは攻撃を続ける。
「行け!ドラグーン!!」
9つのドラグーンが不規則に動いていく。
シックザールはただ防御に入るしかなく、腕から発生させた
魔力盾でドラグーンから放たれる魔力弾を弾いていく。
「ちぃ!!」
「どうしたレイ!防御では勝てんぞ!!」
ラウは・・・レイが本気を出していないことなどわかっていた。
だからこそ、試したかった・・・レイが何を思い戦っているのかを。
「知っている!!」
魔力を開放しつつ、フィールド系の防壁を展開するシックザール。
それにより、今までシックザールに向けて放たれた魔力弾はかき消される。

 

「なっ!?」
驚きだったのは、シックザールが展開したフィールド・・・アンチマギリングフィールド、だった。
「くっ!」
そして、シックザールのAMFはラウの飛翔魔法制御にまで侵食し、ラウから飛翔を奪おうとする。
「その程度で!!」
ラウは脚部に余計に魔力を付加させ、その魔力を噴出させ推力を生み、どうにか落下は防ぐ。
「ふぅ・・・」
「だが、AMF状況下で戦うにはあまりに心もとないのでは?」
シックザールが不敵な笑みを浮かべつつも、余裕をかもし出してラウの目の前に浮いていた。
「確かに・・・このままでは、な」
「?」
ラウが言った事の意味が理解できず、疑問符を浮かべていた。
「プロヴィデンス・・・切り札を出すぞ!!」
(了解・・・擬似レリック反応放出開始)
「何!?」

 

レリック・ヒューマンではないラウがもし、管理局のレリック・ヒューマンと戦う
ときのために、ラウルが組み込んだシステム・・・擬似レリックウェポンシステムである。

 

疑似レリックウェポンシステムは元々ある魔道士のリンカーコアに働きかけ、
ソレを戦闘機人のように動作させるもので、スバルがAMF状況下のゆりかごで
自由自在に動けたり魔法を撃てた原理と同じである。

 

「なるほど・・・だが、負担も大きそうですね?」
その証拠に、ラウの身体からはプラズマのような放電と、急激な体温上昇が見込まれていた。
「ふっ・・・君を倒すまで・・・問題は無いさ!!」
叫びと同時に再び動き始めるラウ。
今度はドラグーンの行動範囲を広めて、なおかつ、両手に魔力刃を構えシックザールに突進する。

 

(魔力弾の勢いが増している・・・先ほどの奴の副産物とでもいうのか)

 

ラウの戦闘スタイルや魔力の質などといったものを分析しつつ、
シックザールは積極的な攻めを行わず、あえて見に拘っていた。
だが、まったく攻めないというわけにも行かず、六つのドラグーンを駆使して攻撃もしていた。
どこか不毛とも取れるやり取りは数分間続くが、気づけばどちらにも優位性が感じられなかった。

 

「シン、君はどちらが勝つと思う?」
ラウとシックザールの戦いを傍観していたラウルが隣のシンに問いかける。
「・・・特殊戦技隊に分がある」
「やはり、か・・・」
「だが、ラウも実力のすべてを出していない・・・その証拠に、フルドライブは出していない」
シンの見立てに狂いがなければ、ラウとシックザールの実力は互角。
だが、シンはシックザールのすべてを知っているわけではないので、断言はしなかった。

 

その頃、ヴィンターとフィルは相性がよくないのかフィルが少し攻め負けていた。
「くっ!守り続けていても、意味がねぇ!!」
完全に勝つものの口ぶりだが、この戦いでもあまり勝利に意味などない。
フィルは少し熱くなっているようだった。
「後の後を取るわけでもない戦い方・・・お前はサポート組ってことだな!!」
確かに、フィルの戦い方は積極性を出したとしても、敵にダメージは与えられないだろう。
“今のまま”ならば。
「しょーがない・・・フォビドゥン!!」
(了解)
上半身が隠れるほどの巨大な鎧が出現し、それがフィルに覆いかぶさるように装着され、
さらに後ろから生えた巨大なシールドユニット、さらにはその鎧の中心部に砲門が取り付けられていた。
(フレスベルグ)
砲門の先に発射誘導機が展開され、その間で電磁波が巡り巡っていた。
フレスベルグはフォビドゥン最大の砲撃魔法だが、ただの砲撃ではない。
「遅い!」
ヴィンターは放たれた砲撃が直線に来ると思い込み、横によけるが・・・それが間違いであった。

 

突然、魔力砲のエネルギーがヴィンターの回避した方向へと曲がったのだ。
「何!?」
意外だったのか、回避が間に合わず、どうにか鎧で防御するも、
衝撃を殺しきれずに吹き飛ばされてしまう。
「くっ!なんだ今のは!!」
「教えるかよ!!」
今度はヴィンターが攻められる側に回ってしまったようで、
フィルは狙いを定めつつフレスベルグで距離をとり始める。
(マスター・・・まだ、完成しているわけではありません・・・乱射は)
「わかってる・・・けど、まだいけるさ!!」
フィルは自身の限界が迫ることに焦りを感じつつも、フレスベルグの魔力砲撃を繰り返した。

 

(くっ・・・曲がる砲撃、以前、奴の防御能力の中に、魔力弾歪曲ってのがあった。
ソレの応用って所だろうが、あの魔力砲にも弱冠の追尾機能がついている・・・
完全回避するには、ソレこそ攻めずに、回避一転倒に行くしかない)
ヴィンターは押され気味の状態でも、冷静さを欠くことはなかった。
そして、必死にフィルの穴を探している。
どんな魔道士にも・・・どんな完璧に見える機能にも、弱点はある。
(この世の中に、完璧などないのだから!)

 

ヴィンターは先のレリック防衛時のフィルとの戦いで、自身の中にあるレリックが
共鳴を起こし、感情が揺らいだことで研究所に戻された。
だが、彼の記憶などは消されなかった。
否、消えなかったのだ・・・彼は、今ある意識で、必死にそこにしがみつき、自我を勝ち取った。
それゆえに、今のヴィンターは強い。
「トリケロス、セット!」
(ランサーダート)
三本の杭が右手の巨大な盾の内側に三つ精製される。
フィルには魔力弾は通じずとも、実態のあるものは通じるという判断だ。
すかさず、ランサーダートは放たれ、それが一本ずつコンマのズレで発射される。
「ちぃ!!」
やはり、フォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーでは
実態のあるものは軌道をそらせないようで、フィルは固めの防御の姿勢をとる。
ランサーダートは三本中二本がフォビドゥンのシールドユニットに突き刺さり、
一本は弾かれて地面に落下していった。
「ちっ!」
傷の入ったシールドユニットに気をやり、不機嫌そうに舌打ちをする。
「!?」
ふと、前を見ればヴィンターの姿がなく、またフォビドゥンの探査能力にも反応が出なかった。
「・・・ミラージュ・コロイドシステムか!?」
またも舌打ちをし、上下左右を見渡す。
「くそっ!出て来い!!この野郎!!」
フィルは防御を固めるが、やはり心に不安が募る。
しかし、ブリッツのミラージュ・コロイドにも欠点はある・・・
姿を完全に消すためには、防御能力の一切をそぎ落とさなければならない。
もし、あてずっぽうや広域攻撃を食らえば致命傷は避けられない。

 

(だが、奴に広域攻撃を行える武装はない・・・勝った!)
ヴィンターはそう思い、心に優越感が満ち始めていた。
だが、ソレももろいものだ。決して強く芯が通ったものじゃない。

 

「・・・仕方がない、な」
その呟きと同時に、足元に魔法陣が展開される。
「レリック発動・・・セミフルドライブ、リリースタイム120セコンド!」
(了解・・・・・・ウルティマ起動)
瞬間、二つのシールドユニットが、フィルの上半身を覆っていた装備が
すべて実態から魔力へと戻っていき、その魔力がすべてニーズヘグに収束していく。
「なんだ?」
そのあまりの強大な魔力収束率にヴィンターは先ほど案での優越感が消え始めていた。
ニーズヘグにはおそらくフィルの全魔力と言えるほどのものが込められていた。
その証拠に、ニーズヘグの一部分にのみ膨大な魔力が蓄積されている。

 

「これが・・・切り札!広域攻撃魔法ウルティマ」
ニーズヘグが形を変えていく。
大鎌だったソレは、解けるようにその刀身がなくなり、杖のようなものへと変化していた。
「・・・お前、生意気なんだよ」
一瞬卑屈な顔をするフィル。
その言葉に乗せられたように、収束蓄積された膨大な魔力が爆発する。
フィルを中心に円形に魔力が半径20メートルほどに膨れ上がる。

 

「くっ!!」
さすがのヴィンターもミラージュ・コロイドを解除し、防御力を取り戻して防御体勢に入る。
だが、その圧倒的威力のこもったウルティマは完全にヴィンターを捉え、ダメージを与え始める。
「ば、馬鹿な?!」
まさか、これほどまでとは思っておらず、右手に装着された攻防一体の盾トリケロスに
ひびが入り始め、バリアジャケットも次々と砕け始める。
「ぐ、ああああああああああああ!!」
ダメージに追随して、さらに衝撃がヴィンターを弾き飛ばす。
彼はそのまま地面に落下し、土煙を立てて自らの身体でコンクリートをえぐっていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・ぐっ!」
ウルティマを開放し、その威力も納まった中心部に、フィルは右腕を押さえて苦しみにうめいていた。
「不完全な・・・ウルティマが、ここまでダメージとして帰ってくるなんて」
(・・・本体損傷率が52%を突破しました。これ以上の戦闘は・・・)
「ああ・・・アイツも、同じだろ・・・きっついぜ」
そう言って、フィルはヴィンターの落下した場所を見つめた。

 

一番戦い方に困っていたのは、バーンとメルクーアである。
シュテルンとメーアは大してコンビネーションの具合が言い訳ではないが、
両方が知覚能力に長けており、長距離タイプと近距離タイプであることが一番ネックになっていた。
すべての距離をすべられるスカイグラスパーを持つバーンでも、今は
パーフェクトスタイルではないため、その対応が難しく、メルクーアは元々、
補助タイプなので攻撃には向いていなかった。

 

「くっ!」
利き腕であった右手を失ったバーンは仕方なく左腕で
シュベルトゲベールをふるうが、それでもワンテンポ遅れた攻撃しかできなかった。

 

「遅いぜ!!」
(スーパースキュラ)
シュテルンのヘブンズ・カラミティは遠距離戦闘専門のデバイスであり、
その砲撃力はなのはとレイジングハートをも上回る。
強大な青白いエネルギーがバーンに迫る。
「バーン!!!」
メルクーアが叫ぶも、そのエネルギーの空気を裂く音にかき消される。

 

今まさに、絶体絶命と言う奴だった。
回避行動に移ろうにも、砲撃の威力、スピードがバーンの
反応を上回っており、とても一人では対処などできない。
だが、メルクーアはもう一人の敵との交戦でサポートには入れない。
バーンが出した結論は・・・自身の撃墜だった。
「ちくしょ・・・」
バーンはやりきれない悔しさを、たったそれだけの言葉で
表した・・・だが、ソレはまだ最後の言葉にはなりえなかった。
「エクセリオン・バスター!!」
下方から、桃色の魔力砲撃がシュテルンの放ったスーパースキュラに直撃し、
その軌道を無理やり変えさせる。
「何!?」
声のしたほうへシュテルンは目をやると、そこにはエクシードモードを
展開したなのはがレイジングハートを構えていたのだ。
「・・・高町、なのは」
バーンが呟くように言う。
「おい!シュテルン!何やってんだよ!!」
メルクーアと戦っていたメーアがシュテルンに声をかけ、一度メルクーアを引き離してシュテルンの横に立つ。
「・・・メーア、少し本気出すが、構わないか?」
「!?」
ふと、メーアがシュテルンの顔をのぞけばその顔は・・・狂気に染まっていた。
シンほどではないにしろ、彼もまた同じ戦い方をするなのはを前にして、
内なる闘争心を抑えられずにはいられないのだ。
「・・・ほどほどに、ここ・・・いい場所だからさ」
「努力する!!」
会話が終わると、メーアはシュテルンから離れる。
「おい!兄妹!お前ら二人は、俺が相手してやるからついて来い!!」
そうして、二人をシュテルンから引き離すために、バーンとメルクーアを誘導する。
二人はシュテルンをなのはに任せて、メーアを追う。
そこには、二人の砲撃魔道士が残されていた。

 

「・・・名を聞いておこうか」
シュテルンが口を開く。
よほど、なのはに興味を持ったのか、その顔は期待で溢れていた。
「時空管理局・戦技教導官高町なのは二等空佐!」
「シュテルン・ガラクスィだ!・・・そして、我が愛機ヘブンズ・カラミティ!!」
(起動開始、シュラーク、トーデスブロック、スキュラ、ケーファーツヴァイ
完全起動これより、眼前の魔道士との戦闘開始)
カラミティが機械音を鳴らせ、そう告げる。
「レイジングハート!」
(ロードカートリッジ)
なのはの声に応え、カートリッジを消費するレイジングハート。
だが、そこからどちらも動かなくなる。

 

砲撃魔道士である二人に距離はあまり意味がない。
どちらが先に引き金を引くか、敵に自分の放つ砲撃を当てられるか、ただそれだけである。
「いいな、起きたばっかりでいきなりアンタみたいな魔道士に出会えるなんて
・・・もし、こんな出会いをしていなけりゃ、アンタに告ってたかもな!」
何気にいい顔で、しかも清々しくとんでもないことを言うシュテルン。
「ええ、残念ですね」
なのはもそういう類のセリフに免疫があったのか、軽くスルーする。
「じゃあ・・・軽い挨拶だ!カラミティ!」
(スキュラ)
両手を左右に踏ん張りを利かせるように構え、胸部に魔力が収束する。
「なら、レイジングハート!」
(ディバイン・バスター)
桃色の光と、青白い光がそれぞれ収束する。
収束された魔力はすぐに開放され、それぞれ向かい合う相手に放つ。
当然、放たれた魔力同士が激突し、激しい衝撃は辺りの雲を弾き飛ばしていく。
「くっ!やる!!」
最初に感想を漏らしたのはシュテルン。
「アナタも!」
なのはも共感しているようだ。
しばらくして、二つの魔力砲は相殺しあい、二人は次の行動に出る。
(アクセル・シューター)
レイジングハートがそういうと、なのはの周りに桃色の魔力弾が10個ほど精製される。
「ならば!」
一方のシュテルンは両手にそれぞれ、二連装式砲門と盾の役割を持つ攻防複合装備を
左手に装備し、右手にはバズーカのようなものが装備され、そちらにカラミティの本体が移る。
このバズーカも二つの銃口があり、大きさや種類の違う魔力弾がそれぞれ放てるようだ。
「俺はアンタみたいに器用じゃないが、そのくらいじゃハンデにならないさ!」
さらには、背中に巨大な砲門が二つ肩の後ろから突き出すような形で取り付けられていた。
「行くぜ!!」
ノリノリな叫びを上げて、シュテルンはなのはに向けてバズーカのほうを一発放つ。
放たれたのは、実態を持つ弾で、どうやら殺傷設定の威力が込められているようだ。
「アクセル!」
なのはも、その一発が致命傷になるとわかり、すぐに迎撃に入る。
5発のアクセル・シューターがその弾に向かい、撃ち落す。
「はっ!」
だが、その弾の効果はその後にあった。
なんと、弾が炸裂し、中から無数の細かい魔力弾が
空間攻撃的に四方八方にばら撒かれるようにして光を放ったのだ。
(プロテクション・パワード)
すかさず、プロテクションを張るレイジングハート。
だが、やはり砲撃魔道士にとって“先手”は必要だった。
「カラミティ!」
(スキュラ)
シュテルンはそこからさらに砲撃を放とうとしていた。
「へへっ、終わるかな?」
若干、なのはが自分に対抗することに期待しつつも、容赦なくスキャラの
発射命令を下そうとするが、その時突然シュテルンを後ろから衝撃が襲う。
「な、に!?」
ソレは、なのはが制御しているアクセル・シューターだった。
なのはは防御に入る前に、シューターを操ってシュテルンの後ろに回りこませていたのだ。
体勢を崩すシュテルン。
「ここ!!」
そこに、なのはが先ほどの攻撃を防御しきり、反撃のエクセリオン・バスターを放とうとしていた。

 

シュテルンはまだ体勢を戻せない・・・今度は彼の方がまずい状況である。
「エクセリオン・バスター!!!」
カートリッジを二発消費した上でのエクセリオン・バスターがシュテルンに向かい直進していく。
「くっ・・・この程度で!!」
シュテルンは叫ぶが、次の瞬間彼にエクセリオン・バスターが直撃し、爆煙が舞う。
「やった・・・かな?」
なのはがレイジングハートに問いかける。
(・・・いえ、魔力反応健在)
その一言がなのはにより良い反応をもたらす。
煙の中から何かが飛び出す。
「!!?」
なのははとっさに回避し、煙を見つめる。
煙が晴れていき、そこから出てきたシュテルンは・・・なんと、バリアジャケットの色が
先ほどまでは青緑だったのだが、今は赤っぽく染まっていて、さらには武装の砲撃仕様兵装が
すべてなくなり、両手にはバーンのシュベルトゲベールと同じ魔力刃を持っていた。
「ちっ・・・ソードモードを使わされるとは、やるぜまったく」
「その姿は?」
額と頬に汗を浮かべながら、なのはが問いかける。
「これは俺の近距離用の武装、ソードモードだ」
どこか、つまらなさそうに言い、シュテルンは
カラミティのモードをソードから先ほどの砲撃モードへと戻す。
なのはは一瞬、なぜと思いソレを顔に出すと、シュテルンが察したように口を開く。
「お前との戦いはあくまで砲撃戦だ。
それ以外で勝って、何が残る?勝てばいいって考えは持ち合わせちゃいなくてね」
美学・・・ソレは、シュテルンの戦いの美学だ。
同じ戦い方をするなのはに、その条件で勝利を収めたいという、美学。
「アンタにもあるだろ?そういったものが!」
「・・・」
なのはは、そう言われて自分の中で高揚感がさらに高まるのを感じた。
だから、なのはは少しの笑みと、そのシュテルンの美学に敬意を表して自身の切り札を切る。
「ブラスター1!」
(ブラスターシステム起動、システム1開放)
たぎる桃色の魔力。
空からかすかな分子がすべてプラズマ化して消えていった。

 

「やめて、なのはちゃん」
ふと響く制止の言葉。
その言葉に従わされるようになのははブラスターを解除する。
解除して、振り向いてみれば、そこにいたのはリインとユニゾンしたはやてだった。
「はやて、ちゃん?」
「こっからは私がやる」
言い知れない悪寒がなのはの背筋に走る。
はやての顔は・・・その涙のあとは、かつて主のためにと戦い、
そして主のためだと言い空に還った夜天の書・・・初代リインと重なって見えた。
「・・・駄目、だよ?今のはやてちゃんは駄目」
なのはははやての中をうずめいている感情を理解したから、その戦いの場を譲らなかった。
譲れなかっただけかもしれない・・・今、自分がその場をどけばはやては目の前の敵を
蹴散らし、“赤い翼”の・・・シン・アスカの元に行き、誰も望まぬ戦いを繰り広げるのだろう。
「駄目だよ?」
「・・・んと」
「え?」
「私の気持ちも知らんと・・・そんなこと言わんといてよ!!」
初めて、すべてをかなぐり捨てて自分の声を発したはやて。
その言葉に、なのはは少し驚くもやはり、譲らなかった。

 

「よーするに、シンが殺した奴の中に、大事な奴がいたのか?」
ふと、今まで黙っていたシュテルンがはやてに問いかける。
「・・・」
はやては黙ったまま、ただ鋭い眼光をシュテルンに向けるだけだったが、
その視線が彼に対し回答となっただろう。
ギリッと歯軋りの音が聞こえ、シュベルトクロイツすらも握り締められすぎてギギッと音がしていた。
「なぁ、アンタ・・・その感情、自分だけが味わったものだと思うのか?」
シュテルンがどこか呆れたようなものの言い方ではやてに問いかける。
「・・・きっと、博士はアンタの数千倍、そんな感情を溜め込んでるんだ」
視線がなのはたちからずれる。
やりきれない、という想いがあるのか、シュテルンはため息をつく。

 

(シュテルン、メーア、フィル)
「・・・博士?」
聞こえてくるラウルの声に反応し、耳に手を当て、音を拾うように聞き取ろうとするシュテルン。
(管理局の応援が来る・・・どうやら、専用転送ポートがあるようだな。一時撤退する)
そうか、とシュテルンははやての登場で萎えてしまった闘争心に完全な治まりをつけることができた。
「・・・またな」
それだけ言い残し、シュテルンはその場から消えた。
転移魔法を使ったのだ。
なのはとはやてが、待てという言葉を言う前にシュテルンは消えた。
めまぐるしく、過ぎた。
戦いが終わったわけではないのに、なぜ・・・こんなにも気が抜けてしまうのだろう?
ソレはきっと、実力が拮抗し、さらには隙を見せれば殺されるという戦いの空気の所為だろう。

 

「・・・はやてちゃん」
声をかけるべきか迷ったが、結局なのはは目の前の彼女に声をかけた。
「・・・」
返事はない・・・ただ、無視されたという感じはなかったが、どうにも切ない。
そんな気持ちをなのはは味わっていた。

 

グレーの光が幾度か交わると、ソレと同じ色を纏った小さな光が不規則に動く。
ラウルとシンの目の前で繰り広げられる攻防は、
それ以外の動きをせず、ただソレだけが行われていた。
ラウの攻撃も、レイの攻撃も、お互いに知り尽くしたかのように回避、もしくは防御。
「ぐっ!!」
だが、確実な消耗が見て取れたのは、やはりラウのほうだった。
(ラウ、そろそろ切り上げるんだ・・・撤退する)
(了解・・・くっ!)
どこか、物憂げそうにラウは下唇を噛み、最後の力を振り絞るように魔力を開放する。
「!?」

 

レイも驚き、先ほどのパターン化されたようなが止まる。
そして、次の瞬間、ラウの操る8つのドラグーンがレイの周りに張り付き、
クリスタルゲージを展開し始める。
さすがにドラグーン8個も使っただけあって、
その強度は半端なく、レイもすぐには破れそうになかった。

 

「転送」
ラウルの転送魔法により、シンとラウ、そして当人のラウルは
それぞれの魔力光となって空にちりばめられていった。
気づけば、彼らの魔力光に海鳴の夕日が重なって見えていた。
第97管理外世界での戦いは・・・結果からすれば、勝利でも敗北でもない。
管理局が望む結果へと導けなかっただけだ。
それが敗北だという人もいる。
だが、今は対処が必要だった・・・魔法を知らぬ者たちへの魔法文化の露呈。
見ていた者たちは少なかったが、やはり空で雲がいきなりはじけたり、鳴動したりと・・・怪奇現象もいいところだ。

 

─本局会議室─

 

「戦死者・・・アンドリュー・バルトフェルド少将、エーラ・フント一等空佐、か」
所は変わって、今はなのはたち六課メンバーと特殊戦技隊、
X級艦船所属の者たちが、将官たちを前に会議室の椅子に座る。
「さて、この結果、君たちはどう見るかね?」
キール元帥がそれぞれに問いかける。
「・・・失態以外に考えられません」
答えを出したのはシックザール。
ソレに同意か?と聞くかのようにキールは他の者たちを見渡す。
「さて、シックザール一等空佐、君は今回・・・我々の魔法を見た管理外一般人に対して、
“記憶操作”ではなく“殺害”を行おうとしたのだな?」
覇気のこもった言葉がシックザールに向けられる。
当人こそ顔色を変えなかったが、その周りにいた者たちは冷や汗を浮かべ、息を飲んだ。
「ええ。人の記憶は些細なことで戻りますから・・・デジャヴのようなものもあります」
「・・・君は、人の意思を信じないというのかね?」
「信じかねます。そんなあいまいなもので、管理局の存在を危ういものにしては、
我々が困るのですよ?人の心など、組織の中では不要です」
「そうか。少なくとも、そんな考えを持っていないことを・・・祈っていたのだがな」
言葉から覇気が消える。
意気消沈したように、キールは背もたれに体重をかけ、深くため息をつく。
「人が寄り集まったこの組織・・・時空管理局。黎明期を生き抜いた我々が、
そんな高慢な考えを見過ごしていたのも事実。やり切れんな」
ソレはミゼットとフィルスも同意だった。
老人たちはどこか元気がない。
そして、後の提案が、なのはたちを危機に追いやることを、皆知らなかった。

 

誰をも助けたい。
その願いが始まりだったはずだ。
君を助けたいという想いの延長線が管理局だったはずだ。
見返りを求めるな、とは言わない。
ただ、始まりの人はそんなものを求める余裕はなかった。
戦い、大切な人の笑顔を守る。
それがどんなに難しかったか。
それがどんなに貴重なものだったか。
知らない人はなぜ多いのだろう?

 

次回 独り“よがり”

 

気持ちだけでは何も守れない・・・力だけだとしても。