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MH-seed-第一話

Last-modified: 2011-06-08 (水) 23:44:53
 

「さて、どこから話せば良いかねぇ……」
鎧兜姿のハイネ・ヴェステンフルスの後ろを、
まるでカルガモの親子のように、シン・アスカと、
ルナマリア・ホーク、レイ・ザ・バレルが付き従っていた。
再開を喜ぶ間も束の間、一瞬で危機は去っていった。
肉食恐竜《 ジャギィ 》の群の中に飛び込んだハイネは、
鋼鉄か合金製の、かぎ爪付きの大剣を振り回し4、5頭をなぎ払い、
ジャギィの群はその段階になって、ようやく退却していった。
現実の中に居ると信じ切れない自分と、
負った切り傷の痛みが現実だと訴える自分との戦いも、
何もかもがたちどころに決着が付いたと言っても良い。
ハイネが切り払ったジャギィの血液、
そして切断された胴体や手足が、頬や胸や手にぶつかった時、
三人は、自分達が置かれているこの状況はまさしく現実であると、確信した。
「それにしても、お前等と出くわすなんてなぁ。正直驚いたよ」
「驚いたのはこっちです、ハイネ」
「そうだよ! だってハイネは、ダーダネルスで死んで……」
レイはおもしろがるハイネに、少々立腹した声音で言う。
シンも、続いてハイネに声を上げていた。
三人からすれば、とうの昔に死んでしまった人間が、
目の前でこうして笑いながら歩いているのだから、驚くのも無理はない。
肉食系の生物が現れないエリアまで案内していく間、
ハイネは何故自分がこんな所にいるのかについて、簡単に説明してくれた。
ダーダネルス海峡戦において、確かにハイネの搭乗機であるグフイグナイテッドは、
強奪されたガイアによって背後から切り裂かれ、海の藻屑と消えた。
その時爆発が自分の身体を包み込んでいった事を、本人も覚えていたという。
そして、目を覚ましたときは建物の中だったそうだ。
日本風家屋の造りであり、最初はアジアテイストが趣味の人間が、自分を拾ったと思ったらしい。
しかし建物を一歩出た瞬間、自分はどこか別の場所に来たのだと認識していたそうだ。
鬱蒼とした樹木の間を抜けて、チョロチョロと水の流れる小さな水辺に出、
ハイネはその先の小高い丘を指さしもうすぐ着くぞとシン達に言った。
「着くって、どこへ?」
ルナマリアの素朴な疑問をハイネはスルーし、手招きして三人を呼び、
質問攻めは後だと察すると彼の後について行く。
急勾配の坂を五分ほどかけて上って行くと、土だった地面が石畳へと変わる。
人の手が入った場所に出たという証であり、三人は安堵の念に包まれた。
崖の壁をくりぬいて作られた洞穴状のキャンプ場が、
彼らの目の前に現れ、パチパチと音を立てるたき火とベッドが、
こうも人の心に安心感を与えるのだと知った。
ハイネはたき火の周りに米俵くらいの石を三つ並べると、
三人に座るよう促し、フラフラとした足取りで近づいた三人は腰を下ろす。
「ちょっと待ってろよ、まだ生だから時間掛かるからな……」
ハイネはポーチらしき袋の中から、大きな葉にくるまれた生の肉を取り出すと、
骨の着いたままだったそれを、骨を串代わりにそのまま地面にさして、
たき火の火でじっくりと焼き始めた。
「焼き目着くまで我慢しろよ? 早めに食うと腹壊すぞ」
「あ、ありがとうございます」
「そう堅苦しくすんなって、今はZAFTとか抜きにしてくれ」
そう言ってハイネは一度たき火を離れると、
キャンプ場の端にいた猫らしき生き物に、チケットらしきものを手渡した。
その後の光景は、シンも、レイも、ルナも、
心臓が飛び出さんばかりの衝撃を伴って目に焼き付けることとなる。
「すまねぇ、三人追加だ」
「三人ですかニャ!? それは追加料金掛かるニャぁ……」
「「「 ……!? 」」」
「マジ? なぁ、何とかマケてくれねぇかな? 頼むよ」
疲れだとかそう言ったものを、全て吹き飛ばしてしまう程の驚きであった。
二足歩行していたかわいらしいコスプレ猫だと思っていたのに、
目の前で、自分の知人と言葉を交わしているのである。
猫が、人の言葉を喋り、人間のような仕草を見せているのである。
驚かない方が可笑しいといえる現象が目の前で繰り広げられていた。
ハイネが懐から、図鑑などで見たことがある植物をそっと取り出し、
猫の目の前にかざしてやるのを見た。
「取れたてホヤホヤだ。新鮮だぜ?」
「……ニャ!? マ、マタタ……そ、その手には乗らないニャ」
「ふ〜ん? じゃ、いいや」
ハイネがわざとらしく懐にしまおうとするのを見た猫は、
慌てて手を伸ばしてハイネの手を掴んで止めた。
「『大きな荷物』を運ぶって事にしておいてやるニャ」
「ん、なら商談成立だな」
ハイネはしまいかけた『マタタビ』を猫に放ってやる。
それを一個も逃さずキャッチした猫は、小さなポーチにしまい込むと、
傍らに抱えていたチェック表らしきものに何かを書き加えた。
ふと、香ばしい香りが三人の鼻腔をくすぐり、
シンははっとなってたき火の方へと目をやった。
ハイネがさした肉が、ちょうど良い焼き加減になっていた。
シンは慌てて肉を掴み、レイとルナもそれに気付いて自分の分を手に取った。
「今、しゃべったよね?」
「ああ、喋った」
「喋ったよ、猫が、二足で立って」
こんがりと焼き上がった肉を頬張りながら、
樽に乗って走り去る猫という漫画のような光景を受け入れるしかなかった。
ハイネは、目を点にして見ていたシン達を見て苦笑する。
そういえば、あの猫たちについて話していなかったな、と。
『獣人族』〜そうハイネは呼称した。
人間のように高い知能を持った、猫とよく似た外観を持つ種族。
人間の言語を理解し独特の文化を持った種族で、
この世界(こう表現するのが最適と判断した発言)で人間と共存している存在である。
人間のように特殊な技能を持った個体もおり、彼らは人間社会の中で、
交易・貴重品の取引・緊急運搬作業・美容・そして調理師等々、
様々な仕事に従事しておりもはや人間社会において欠かせないのだという。
「ああ、それとだ。俺が厄介になってる村の村長さんなんだが、
 こう言いたくは無いんだけど『人間』じゃあ無い」
「別種族……という事ですか?」
「正解。見た目からすぐ解るが、『竜人族』って呼ばれてる。
 ……まぁ、わかりやすく言うと『エルフ』みたいな人達の事だ」
人間より寿命も長く知能も高い種族で、
自然との調和を重んじ合理的な判断をする種族である。
またその高い知能から生み出す技術は目覚ましく、
都市部の支配者層や軍属ではその有能さをねたむ者も多いという。
そして、この世界に於いて武器や防具を加工する技術は、
ほぼ彼ら竜人族の技術と言っても過言では無いらしい。
とうとうと話を続けていたハイネは、ふと彼らからの返答が途絶えていることに気付き、
訝しんでたき火の向こう側に目をやると、やれやれと呟いて微笑んだ。
三人は後ろの岩肌に背をもたれさせ、シンを中心に寄り添うようにして眠ってしまっていた。
「……よっぽど疲れたんだなぁ、お前等」
ハイネは崖の向こう側から到着した猫達が引く荷車隊に、
自分が先程まで収集していた物品を乗せ、動物の毛皮を一番上に敷くと、
シン達三人を起こさないようそっと荷車の上に載せてやり、
最後にまた一枚毛皮をかぶせてやった。
「ぐっすり眠っとけ。明日からまた忙しくなるぞ」
ハイネは、弟と妹を見守る兄の目で三人を温かく見つめながら、
自らが厄介になっている村への帰路についた。

 
 

☆狩猟戦士モンハンSEED DESTINY☆
 第一話

 
 

湯煙が、村を覆い尽くしている。
そう言っても過言では無いほど、この村は温泉を売りとしていた。
この時期は綺麗に葉が染まる紅葉の木々に、ほどよい柔らかさと甘みを誇る温泉卵。
そして風呂上がりの一杯とそのバリエーションの豊富さ。
辺境の村でありながら、秘湯の地として都市部にも知られた村。
村の名は『ユクモ村』〜ハイネが厄介になっている村である。
竜人族の若い女性が、ベッドに横たわっている少年少女の顔を、ジッと眺めていた。
日本女性が着る『キモノ』を身に纏い、羽衣のようなアクセサリを着けている。
それらは神秘的な雰囲気を彼女に加えており、美女と呼ぶに相応しい容貌であった。
彼女は前村長の娘であり、現在ユクモ村の村長を務めている人物である。
彼女がこうしてこの場にいるのは、
村が迎えたハンターの一人であるハイネ・ヴェステンフルスが、
依頼を達成して帰った際に連れてきた子供達だからである。
ハイネがこの村に迷い込んできた時同様、彼の着ていたものと同じ素材の不思議な衣服を、
ボロボロにして身に纏っていた少年達は見るからに憔悴しきっており、
猫の獣人『アイルー』達に彼らの身体を拭いてやるよう言い、
村の宿屋の大部屋に運び込ませねベッドに寝かせた訳だ。
そして一晩が経ち今に至る訳だが、当の本人であるハイネは、
現在村の頂上にある『集会浴場』の窓口に行きギルドマネージャーと押し問答中だ。
都市部のハンターズギルドと掛け合って、三人ほど登録させて欲しいと駆け込んでいるとの事。
駆け上がっていく時の彼の嬉しそうな顔を、村長は思い出して微笑む。
「ハイネったら、そんなにこの子達が可愛いのかしら」
少年少女の顔をのぞき込んで、彼女はそう呟いた。
たしかに、人間という種族の中でも一際整った顔立ちであるが、
ハイネはそういう所にはあまり拘らない男である。
多分、彼が気に入るくらい澄んだ心の持ち主なのだろう。
アイルーが彼らのおでこに乗せた濡れタオルを、
新しいのと取り替えようと手を伸ばした時、少年達が目を覚ました。
「ん? …ここ、は?」
「目が覚めたのね、坊や」
黒髪の少年が、パチッと目を開けて、
自分がベッドの上にいるのだと気付くと跳ね起きた。
体力の回復はこの年にしては早い。彼女は内心驚いていた。
少年、シン・アスカは周囲をキョロキョロと見回して、
ここが日本風の家屋の中なのだと悟り、そして村長へと目をやった。
「丸一日眠ってたから、疲れは取れてるんじゃないかしら?」
「あの、失礼ですが、貴女は?」
彼女ははっとなって、
「あら、ごめんなさい。
 私はこの村で村長をやらせてもらってる者よ」
「……!? す、すみません。色々あってつい」
「いいのよ、お話はハイネから聞いたわ。大変だったんでしょう?」
「ええ、まぁ」
目の前の少年は、自分がしている格好にあまり慣れていないらしい。
ハイネも最初はそうだったような記憶がある。
恐らく、彼らの生まれた地方ではこういう着物はあまり着ないのだ。
そう結論づけた彼女は、ベッドから出ようとしたシンを押し戻し、
「まだ寝ていなさい」
ベッド脇の椅子から立ち上がり、それと同じくして、
黒髪の少年の隣で寝ていた金髪の少年と赤髪の少女が目を覚ます。
村長は、三人にインナーをあらかじめ着せておいて正解だったと思った。
『モガ』という海沿いの村で用いられている様式のインナーである。
もし着せていなかったら多分少年二人は血を見ることになったろう。
黒髪の少年同様戸惑いを見せる二人であったが、
中央の少年が落ち着いている事が、二人を落ち着かせるに効果があった。
「その子には言ったけど、自己紹介するわね。
 私は、この村の村長を務めている者よ、宜しくね」
彼女は金髪の少年と赤髪の少女にも自己紹介し、彼らの名前を聞いた。
この村から離れた距離にある街『ロックラック』へ送る、
ギルドマスターに提出するハンターズギルド登録申請用紙は、
すでにハイネが記入して上に行ってしまっているため、まだ聞いていなかった。
それに、彼ら自身の口から聞きたいと思っていたのである。
 『シン・アスカ』
 『レイ・ザ・バレル』
 『ルナマリア・ホーク』
素直な良い子達だと、彼女はそう思った。
空のてっぺんに上り始めた太陽を見、
そろそろハイネが戻ってくる頃だろうと察すると、彼女は席を立った。
アイルー達が、食事の用意をしているはずである。
ハイネの話を聞く限り獣人を見たのは先日が初めてらしいから、
大いに驚くに違いなく、その光景を想像しクックッと笑う。
訝しげな顔を浮かべる三人の少年少女に向かって、
村長は向き直ると姿勢を正して、言った。

 

「ユクモ村へようこそ、小さなハンターさん達」

 

「この村からちょっと離れたところに街がある。
 そこのギルドの親分に手続きとってもらうから、数日かかるな……」
宿屋の大部屋のテーブルに簡単な村の見取り図をひろげ、
ハイネはそう言ってシン達が今後使うことになる住居『マイハウス』の場所を指し示した。
まず第一に、ハンターという職業についての説明から始めねばならないため、
椅子に腰かけて、シン達もその隣に座って足を下ろす。
『ハンター』というのはこの世界に於ける生物、
『モンスター』を狩猟する事などで生計を立てる職業の事である。
こういった村や大きな街で人々から寄せられる依頼をこなす『請負人』であり、
モンスターの討伐・撃退や、増えすぎて害が出始めた生き物の駆除、
そして危険地帯の中に踏み行って、物品を採取したり運搬する仕事である。
「なんだか、‘傭兵’みたいですね……」
「まぁ、そう言えばわかりやすいな。人間相手じゃ無い傭兵みたいなもんだ。
 お前等が出くわした連中のように危険な生き物がいる区域で働くから、
 危険であればあるほど依頼で受け取れる報酬ははずむんだ」
同時に、危険な依頼をこなした事はその人間の勇ましさを示すことであり、
多くの人々からの期待・羨望をもたれる名誉ある職業でもある。
しかし、その魅力があるが故にでる弊害が出てくるのは、
どの世界の人間でも変わることはないのだと知った。
生半可な知識と技量しかないのにもかかわらず、
強力なモンスターへと挑んで命を落とす人間が続出し始めたのだ。
それを防ぐために人々が考え出したのが『ハンターズギルド』なのである。
「中近世ヨーロッパの“商人ギルド”や“手工業ギルド”を、
 もうちょっと大規模にしたものと考えると多分近いんじゃねぇかな」
「つまりそのギルドを仲介組織として人々が依頼し、
 ハンターをランク分けし危険な依頼は受けさせないという訳ですね?」
「そういう事だ、レイ。……お二人さんも大体はわかっただろ?」
「ええ、大方は。でも、まだこうしっくり来ません。
 先日までMSに乗って戦ってましたからね」
シンは、ハイネに彼が死んだ後のミネルバのことは一切語ろうとしなかった。
アスランが裏切り、ああいう形での収束に至ったなどと言えるわけがなかった。
シン達三人の中で、状況や取り巻く環境をいち早く理解していたのはレイだ。
こういう時、彼が居てくれるのは本当に助かる。
三人に一通りの説明を終えたハイネは、何かを思い出したように、
一度廊下に出ると、大きな箱を三つほど部屋に運び込むのを手伝えと言った。
箱と言うより葛籠に近い入れ物だった。
温泉マークのような紋章は多分ユクモ村の紋章だろう。
「ハンターズギルドに登録する以上、駆け出しハンターにも装備は必要だ。
 これは浴場のギルドマネージャーからの‘プレゼント’だ、後で礼言ってきな」
葛籠の蓋を開けた時、三人は思わず感嘆の声を上げていた。
日本の着物風の衣類が一式入っていたのである。丁寧に被り笠付きである。
ユクモ村の特産品であるらしく『ユクモノシリーズ』と呼称されていた。
「うわぁ、綺麗……」
ルナマリアは胴着を持ち、丁寧に編み込まれた装飾などに目をやり、
見事な造りであることに満足げに息を吐く。
更に付け加えて、この防具などは五つの部位ごとに分けられているのだそうだ。
頭、胴体、腰、腕、そして足の五つ。それぞれに防具の個性が表れると言う。
ちなみに、ハイネが着ていた青い恐竜の皮で作った防具は『バギィシリーズ』と言うらしい。
防具は、主にハンター自らが依頼=クエストで調達したモンスターの素材が使われている。
強力な防具を作るには文字通り、強力なモンスターを討伐しその素材を手に入れねばならず、
そういったモンスターの素材は売買がギルドによって厳しく禁止されている。
それ故装備する防具が即ち、ハンターが狩った得物を示す事そのものへと繋がっている。
また原理は不明となっているが、素材となったモンスターの特性や、
摩訶不思議な力がハンターに作用して、能力を向上させる働きもあるのだという。
かく言うハイネの装備は、何故か負った傷の回復が早くなると言う特性があった。
「詳しいことは俺も解らねぇし、竜人も詳しくは知らんらしい。
 ともかく、俺等が知ってる世界の常識はここじゃ通用しない事だけは覚えておいてくれ」
ハイネはそう言い残すと、また仕事が入ったとの事で宿屋を出て行った。
シン、レイ、ルナマリアは、お互い顔を見合わせ、
とりあえず村をぐるっと回ってみようという事で意見が合致した。
ハンターズギルドから登録証が届き、仕事が出来るようになるまであと数日あるとの事で、
その数日間の宿代は『出世払い』という事になっている。まぁ当然だろうなと納得はできた。
ハカマをはいて、ドウギを着、オビを締め、コテを装着し、カサを被る。
こういった衣類の装着のしかたは、殆ど違いはないようで安心した。
シンが日本文化の流れも多少あるオーブ出身というのはここでは大きかった。
「じゃ、行きますか」
そして、シン達一行はユクモ村への第一歩を踏み出した。
硫黄の香りが混じった、不思議でありながら穏やかな空気が漂っている。
温泉の村と言うだけあって、モミジの赤が映える時期でありながらも温かい。
ほんのりとした雰囲気と調和の取れた空間。そう評するべき村であった。
「あら、あなた達……」
早速、和服を着た人付き合いの良さそうな女性が近づいてくる。
「ハイネさんが連れてきた子供達ね?」
「はい。そうですけど」
そうやって、村人一人一人と言葉を交わしてゆく。
森の洞窟で聞いていたとおり、鍛冶屋のおじいちゃん、
そして獣人‘アイルー’のおじいちゃんは印象的だった。
エルフのような顔立ちと言われれば確かに耳がとんがっており、
顔つきも人間とは少し違うが、安心させてくれる顔だと思った。
獣人も仕草は人間その者と言っても過言ではなく、
どうやって人間の言葉を喋っているのだろうとふと気になる。
しかし見た目や時折見せる猫の仕草はかわいらしい。
武器屋のお姉さんや雑貨屋のお姉さんもとても温かい人で、
雑貨屋さんの豊満な胸に目がいって、ルナにシンは耳を引っ張られた。
村の入り口あたりの大きな卵の殻の中では、名物である温泉卵が作られ、
サービスと言うことで一個ずつもらい、口に放り込む。
口の中でふんわりととろけた白身から、半熟の黄身が織りなす甘みが、
なんとも言い難い幸せな気分にさせてくれる。
その先にある階段は、管理人のお兄さん曰く『ユクモ農場』があると言う。
ハンターが狩猟生活に於いて用いる植物や鉱石の採掘、昆虫の確保などを行う場所だ。
ただ、ここを利用するにはハンターとしての資格が無ければならず、
今回は中を見るのは我慢するしかなかった。
シンは振り返って、村を歩き回る人たちを見やる。
ハイネ以外にもハンター達は村に滞在しており、彼らだけでなく、
行商人に旅人、街までの買い出しから返ってきた人々など。
様々な人間が生活する風景がそこにあり、こういう所も向こうとは変わらないんだなと実感した。
「なぁ、レイ」
温泉卵のおかわりをもらっていたルナを見やって、
シンは隣に立っていたレイに話しかけた。
「向こうの事、気になるか?」
「……何故そのような事を聞く?」
「いや、ミネルバのみんなどうしてるかな…って」
ずっと心の片隅に引っかかっていた事を思い起こす。
今頃、メイリンやアーサー副長、ヨウランとヴィーノはどうしてるだろう?
ルナマリアはああやって明るく振る舞っているが、
気になっていないはずがなかった。
「気にならないと言えば嘘になるな。
 プラントがどうなったかも気に掛かるが……俺は、ギルを……」
ギル。それが議長を表す言葉だとすぐ気付く。
彼も心配だった。メサイアが火を吹き始めている所は覚えていたから。
シンは沈んだ顔をしたレイ、そして自分に言い聞かせるように、彼の肩に手を乗せて言う。
「俺たちがこうして、何かの縁でやって来たんだ。
 きっと議長やメイリン達もどこかに来てるかもだぞ、レイ」
「ああ、そうだな。そうだといいな……」
まだ希望はある。そう思うことで、心の平行を保った二人は、
ルナマリアが喉に卵を詰まらせたのを見て、慌てて彼女の下へ走っていった。

 

※※※※

 

〜ロックラックの街〜

 

砂漠の一画に存在する巨大な一枚岩の上に、
堂々と建設されたこの大都市は、オアシスと呼ぶにはあまりに大きな街であった。
その岩の存在があって、砂漠に生息するモンスターの大半は、街へは入って来れなくなっている。
不思議なことにこの岩には湖すらあり、集まった人々の生活に欠かせない存在となっていた。
地下水脈の存在なのか何なのかはハッキリしていないが、それを詮索する人間はもういない。
この砂漠を越えて、海を渡った先には『シュレイド地方』なる土地も存在するらしいが、
そこの情報に関してはあまり人々の間には行き渡らないことも多い。
だが、ロックラックの街は今日も賑やかだ。
ロックラック商店街ではごったがえす人々のがやがやとした声、
街の工房から聞こえる金槌の音色に、酒場の騒がしい酔っぱらい共の喧噪。
ギルドマスターと呼ばれる竜人族の老人は、手元に渡されたハンター登録申請用紙に目を通していた。
日課とも言える仕事である。ハンターという職業にあこがれる人間は多く、
彼の手元にはひっきりなしに、ハンターになりたいですという人間がこの紙を持ってくる。
ユクモ村からこうして用紙が届けられるのは2度目だ。
『ジンオウガ』と呼称される牙竜種に悩まされているあの村には、
すでに8人以上ものハンターが出張っているが、殆どがこの街から派遣された口だ。
一度目のハイネとか言う男は、メキメキと成果をあげているという事で、
すでにこの街の方にも凄腕のルーキーとして名が知られ始めている。
そのハイネが直に推挙している少年達という事もあって、少し興味を持った。
「おもしろい! お嬢ちゃん。コレをユクモ村宛にだしてくれんかの?」
ギルドマスターはこうして若者がハンターの世界に踏み出すことが楽しみでならない。
辺境の地でありながら温泉地として名高いユクモ村で、
どう成長してきてくれるのか、そういった事を聞くのは人生の醍醐味であった。
申請用紙に判を押し、まだ無記入の登録証を受付嬢をやっている女の子に渡すと、
申請用紙にある三人の、ハンターの証明書である『ギルドカード』を発行するよう言い渡していた。

 

ハンターとしての生活にシン達が踏み出そうとしていたそんな頃。
ロックラックの街の商店街を、少女がキョロキョロと周りを見回しながら歩いていた。
豊満な胸と調えられたスタイル。ふんわりとした肩口で揃ったブロンドの髪。
身に纏っているのは、赤いアルマジロの鱗を貼り合わせたような鎧。
天然系の仕草が相まって、若い男連中の目を惹きつけていた。
「みんな……どこ?」
街ではぐれてしまった少年二人を捜して、少女は歩き回る。
本当は、探し回っているのは少年二人であり、
自分達を見失ったらそこで動くなと念を押されていたのだ。
だが心配性だった彼女は、つい商店街の方へ来てしまったのである。
涙目になって駆けだし、人々の間を通り抜けたとき、少女は一人の男性とぶつかってしまった。
「きゃうっ!」
「…い、痛……。……!? 君、大丈夫かね?」
ロックラックでは一般的な男性の衣装に身を包んだ、
背中当たりまで漆黒の髪を伸ばした男が、倒れた少女に駆け寄った。
「わたしは、だいじょうぶ……」
少女がそう返答すると、男は微笑んで、
「よかった。私はここに来たばかりなんだ。
 周りを見ていたばかりに気付かなかった、すまなかったね」
そう言って、男は彼女の手を引いて立たせると、
鎧に付いていた砂埃をはらってやり、連れと思われる女性の下へ歩いていった。
少女は、男の顔をどこかで見たことがあると思った。
女性が、男のことを“ぎる”と読んで怒っているように見えたが、
自分のつれである少年二人を思い出すと、商店街をあるいていった。

 
 

「あうるっ! すてぃんぐっ! どこぉ……!?」

 
 

第一話fin

 
 

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