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Macross-Seed_◆VF791dp5AE氏_第16話

Last-modified: 2008-07-19 (土) 22:23:16

「ザフトの軍事施設へ潜入?
 どうしてボクが、そんな任務につかなきゃいけないんだい?
 第一、前回の作戦は成功したじゃないか、それの責任を取れってのはおかしいだろう?」
不平不満を垂れ流す虎。当然である。
少なくとも前回の作戦ではラクスを宇宙へ上げるという目的は達成したのである。
それをバッサリと失敗と言い切られては作戦を行ったものとしては文句も出てくるだろう。
「そうですわね、少なくとも熱気バサラが現れるまでは成功と言っていいでしょう」
ですが、とラクスは青筋を立てて続ける。
「バルトフェルドさん、貴方はシャトルの操縦を放棄しただけに飽き足らず、熱気バサラにアンコールまで送りましたね?」
「そりゃあそうさ。
 だって、ライブの後にアンコールを入れるのはファンとしての勤めだろう?」
しれっとした顔で返す虎。
何を当たり前のことを言っているんだ、とでも言いたそうだ。

「……貴方は、自分の仕出かした不始末がどれほど大きなものか、理解しているのですか?」
ラクスの表情は笑顔だが、かなり引きつった笑顔だ。
「別に、作戦では不始末なんてしてないだろう?
 確かにあの時は、折角の熱気バサラの未発表曲を保存し忘れるという、一ファンとして非常に勿体無い事を―――」
「そ う で は な く て !!!
 貴方がアンコールなんてしたせいで、私の声が熱気バサラに届かなかったでしょうが!」
「ん?………ああ、シャトルのエンジン音にしては甲高い音が聞こえると思ってたら、君の声だったのか。
 知らなかったとはいえ、そりゃ悪いことしたねえ」
ぬけぬけと応える虎。罪悪感などこれっぽっちも無いらしい。
ラクスは、そのまま怒りに任せて文句でも言おうか、と思ったが止めておいた。
どうせ何を言っても軽く流されそうだし。

「………ともかく、貴方がアンコールなんかしなければ、絶対に説得は成功していたはずです。
 ―――な、なんですか、その目は!
 確実に成功していた……いえ、多分………お、恐らく成功していたはずなんです!
 そうに決まってます!」
虎がジト目で見ていると、自信が無くなったのか少しづつ後ろ向きになっていくラクス。
このまま行くと『説得なんてまず無理』レベルまで下げられそうだ。
咳払いして、仕切りなおす。
「――――と、言うことで説得の失敗の責任を取って来てくださいね?」
「えー」
「どこかの迂闊で残念な人みたいなチワワ顔で訴えても駄目です。
 もう決定事項ですから」
「ええー」
「そんな(´・ω・`)顔しても駄目です。頑張ってくださいね、当然死ぬ気で」

どうやら何を言って無理らしいので、任務を受けることにする。
「ハイハイっと、わかりましたよ。で、任務の詳細は?」
「ミッションの詳しい内容は、こちらの方に説明していただきますわ」
ラクスが一歩下がると、後ろに控えていた黒服が前に出て、一礼する。
分厚い紙の束で構成された資料を虎へ渡すと、自己紹介もなしに説明を始めた。
「アーモリー市付近の岩塊の多くある宙域を利用した施設が、今回のターゲットです。
 その施設内には我々が現在、もっとも必要とする情報がコンピューター内に保存されております」
「その情報とは?」
「現在はミネルバに合流している熱気バサラ専用MS、ファイヤーバルキリーに関するデータです」
「ほほぅ……噂の真相を確かめる気か」

前回、それなりの対策を持ってキラがバルキリーに挑んだが、結果は満足できるものではなかった。
熱気バサラはシャトルへ歌い続けていたにもかかわらず、攻撃を全て回避しきっていた。
フリーダムの一斉射撃からの流れるような連続攻撃も、軽々と避けた。
あれだけの高速戦闘でありながら回転や変形を交えたトリッキーな動き方をしつつ、歌い続けた。
ついにはフリーダムの限界高度までそのまま逃げ切り、これを振り切ったのだった。

二年の間に技術革新がどれほどあったのかは知らない。
知らないが、二年前の戦争を終わらせた傑作機・フリーダムをそう簡単に上回ることが出来るはずがない。
二年前に建造されたフリーダムは、現在あるMSでは唯一といっていい核エンジン搭載型のMSだ。
戦後のユニウス条約で、Nジャマーキャンセラーの兵器への搭載は認められていない。
ザフトも核をあきらめ、ニューミレニアムシリーズなどでは動力をバッテリー駆動式へ変更している。
核エンジン搭載機のフリーダムが、技術革新があったとは言え、所詮バッテリー駆動式のMSに遅れを取るはずがない。

ならば、バルキリーは核エンジン搭載機ではないのか―――という噂が現在、クライン派内部でまことしやかに流れている。

「この施設では現在、新型兵器の開発が進められているとの事です。
 開発に携わっているのは、バルキリーの開発に関与していたとされる連中が殆ですが、関わっていなかった者も数名居ます。
 そのうちの一人が元クライン派でしたので、そこから情報の裏を取りました」
「元?」
クライン派に関わった人間を可能な限り遠ざけた議長からすれば珍しい人事だ。
「ラクス様ではなく、二年前にシーゲル様が派閥のトップに立たれていた頃の構成員です。
 シーゲル様の暗殺後、ザラ派との派閥争いに嫌気がさしたらしく、クラーク開発局を辞め、終戦。
 戦後は民間企業で働いていた所を、今回スカウトされたようで」

なるほど。二年前、それもラクスがトップに立つ前に縁が切れている人物なら大丈夫と判断したのだろうか。
「にしても、そんな人物によく協力を取り付けたねえ。
 つくづくクライン派の手は長いものだと感心するよ」
明らかに褒めていない虎の言葉に対し、下卑た笑みを漏らす黒服。
「なぁに、人間誰しも後ろめたい事の一つや二つはありますからね。
 その辺を突いてやれば、こっちのいい分を聞かせることなんざ、造作もねえことですよ。
 特にクライン派だった人間は、ね。
 ま、それはともかくとして―――施設の見取り図を開いてください」

言われた通りに資料を開く。
施設内の簡単な間取りと、付近の固定砲台などが書かれている。
「この手の研究施設としては、比較的防御が硬いですな。
 警備のMSの数こそ多くないものの、付近の岩塊に多数の砲台が設置されていて攻略には時間がかかります」
「アーモリー市付近に点在するザフト艦艇が、増援に来るまで持ちこたえるための装備か」
「そこで、搦め手からデータを奪います」
「工作員でも送り込んで、内と外から同時に攻めるのかい?」
「いえ、裏から攻めると言うことです」

そういって施設から岩塊の中心をはさんで点対称の位置を指す。
「ここからジオグーンで岩塊を掘り進み、施設へ強襲をかけます。
 ただ、掘り進む間に音で気付かれる可能性もある為、同時に正面からも攻撃を加える必要があります。
 Mr.バルトフェルドには正面からの攻撃隊の指揮を執っていただきます」
「なるほどねえ……了解したよ」


――――ブリーフィングから12時間後。

『バルトフェルド隊長、モゲラの偽装した隕石が、作戦開始ラインを突破しました』
後方に控えさせたナスカ級・カルネアデスのオペレーターから、虎の駆るブレイズザクファントムへと通信が入る。
コールサインモゲラこと、ジオグーンがもうそろそろ施設の裏側に着くらしい。
作戦開始の合図だ。
「了解した。諸君、ミッションスタートだ!
 せいぜい派手に暴れろよ!」
『了解!』
クライン派のMS隊が散開する。
部隊を構成するMSの種類はゲイツRや、ジンハイマニューバ2型などである。
どの機体も作戦行動中に行方不明となったり、廃棄処分となった機体である。
万が一機体が鹵獲された場合に、クライン派による行動であることを誤魔化すためだ。

作戦開始を宣言すると、虎が次々と指示を出していく。
「カルネアデス・エピクテトス両艦は、アウトレンジから主砲とレールガンで施設付近を攻撃しろ、敵の耳を潰すんだ。
 狙いは適当で構わん。艦砲射撃を行いつつ、モゲラとの合流ポイントへ向かえ。
 ブコバルチームは付近の砲台を徹底的に破壊しろ。万が一にでも艦を失うわけにはいかん。
 ロブーチャチームは俺と施設へ向かう、遅れるなよ!」
『了解!』
二隻のナスカ級が主砲とレールガンによる一斉射撃を放つ。
数秒後、施設付近に着弾したようだ。
それから30秒ほど立つと、泡を食って施設の警備隊が出撃して来た。
「出てくるのが遅いぞ、警備隊の諸君。
 付近の固定砲台はほとんど破壊されてしまってから出てくるようじゃあ、プロとして食っていけないぞ?
 ロブーチャチーム、散開して敵機を撃破しろ!」

立ち塞がるゲイツRの手足をビーム突撃銃で撃ち抜き、ビームトマホークで背中のバックパックを破壊し、無力化する。
施設付近から敵のガナーザクウォーリアがオルトロスで狙撃してくるが、けん制にしかならない。
余裕を持って避け、お返しに付近一帯へ向け、ブレイズウィザードからミサイルをぶっ放す。
目標への誘導性はあまり高くないが、弾幕も張れる優秀なウィザードだ。
慌ててザクが腰に装備してあるハンドグレネードを掴み、放り投げる。
中身はチャフのようなものだったらしく、ミサイルは目標を見失ってバラバラに飛んでいった。

ミサイルから退避できたことで油断したのか、ほんの僅かな時間ザクウォーリアが足を止める。
一旦体勢を立て直し、改めてオルトロスによる狙撃を行うつもりだろう。
だが、この新兵には戦場で動きを止めるのが、どれほど愚かなことかが解っていないらしい。
相手の死角に居たロブーチャ4が飛び出し、レールガンを打ち込む。
動力部を打ち抜かれ、ザクが大破した。

自機付近にいた敵機を無力化した事で余裕が持てたので、辺りに目を向ける。

付近の戦闘の推移を見ると、明らかにクライン派が有利に展開していた。
基地側が頼みにしていたであろう砲台群はほぼ壊滅、砲台の攻撃に専念していたブコバルチームも攻撃に加わったこともあって、壊走状態だ。
対してこちらの被害は12機中ゲイツR2機が小破、ジンHM2型1機が小破のみ。
小破した機体は、既にナスカ級に撤収済みだ。

自部隊の被害が予想以上に軽微だったので、虎がホッと一息つく。
そこに、ロブーチャ3から通信が入る。
「警備隊の連中、弱すぎですなぁ。
 こっちの被害なんて微々たるもんですぜ?」
「練度の低い連中ばかりだったのが幸いしたか。
 しかし、それでも呆気な過ぎる気がす―――――ッ!?
 各機、散開しろ!!」

しかし、指示を出したときには遅かった。

虎のすぐ横にいたロブーチャ3のジンHM2型が、高出力ビームの奔流に飲み込まれ、爆散する。
その奥に居たロブーチャ4は大破こそ免れたが、それでも下半身をごっそり持っていかれた。
慌てて脱出しようとしたが、断線からの火花が自爆用の火薬に引火したのだろう。
機体と共に、宇宙のチリとなる。
「クソッたれが!何がどうなってやがる!?」
誰かが悪態をつく。一瞬で戦友を失ったことによる感情の爆発だろう。
「落ち着け、馬鹿野郎!
 クソッ、今のは基地からの砲撃か!?砲台は全て破壊したんじゃ―――うぉ!」
更に、動揺する部隊を嘲笑うかのように、小型のミサイルが多数飛来する。
避け損なったミサイルに右足と頭部を持って行かれ、バランスを崩したブコバル5のゲイツRが、岩塊に叩きつけられる。
そのまま胴体にミサイルの直撃を受け、大破した。
「チィッ!」

自身の油断ミスを反省する前に、こちらに攻撃してきたものの正体を見極めるべきだ。
そう判断し、基地のほうへ目を向ける。
「基地の攻撃力は奪ったはずだったが、一体―――げっ!
 な、何だあれは、MSなのか!!!?」

視線の先、施設のハンガーから出てきたものは―――異形のMSらしき物体だった。

そこには、砲台に足が生えたような、不恰好なMSらしきものが鎮座していた。
MSでいう頭部に当たる部分に4門の長い砲身を持つ砲台を背負い、両腕には大型の火器がそのままつけられている。
大きく張り出た胴体には大きく目のマークがペイントされてい、こちらを威圧している。
正確な大きさはわからないが、横に転がっているザクの残骸と比較するに、中々の大きさらしい。

そのMSとは呼べない、モンスターとでも呼ぶべきあまりの異形に、一瞬思考を停止してしまう。
が、すぐに意識を取り戻し、各機に指示を飛ばす。
「各機、あのMS(?)に向けて攻撃を開始せよ!
 あのMS(?)の火力は半端じゃない、とにかく高速で動いて狙いをつけさせるな!
 もしくは障害物を利用しろ!とにかく近づいて、あのモンスターを撃破するんだ!」

指示を飛ばす間にも、容赦なくミサイルが飛来する。
付近の岩塊を利用してミサイルをやり過ごし、身を隠しながらあの化け物へ向けて接近する。
血気に逸ったのか、MSの二倍ほどの大きさの岩塊を盾にして、ロブーチャ2が強襲をかけた。
『クソッたれめ、よくもアルベールの奴を!ぶっ殺してや―――』
身内を奪った敵への、口汚い罵りがかき消される。
モンスターから放たれた高出力ビームの柱によって、岩塊ごと蒸発させられるロブーチャ2。

「チィッ、あれだけの大きさの岩塊ごとぶっ飛ばせるのか!?
 各機、集中砲火で奴を撃破しろ!」
隠れていた岩塊からザクの頭部とウィザードだけを出し、ミサイルをばら撒く。
生き残ったMSも同じように、時間差でレールガンを集中させる。
複数の火線が同時に化け物に飛来し、少なくとも何発かは直撃したはずだったが――――

「―――おわっ!?」
こちらの攻撃を意に介した風も無く、再び柱ほどもあるビームを撃つ化け物。
VPS装甲でも使っているのか、どこにも損壊は見られない。

状況を打破するために、ナスカ級に支援を要請する。
「カルネアデス、エピクテトス!そっちから主砲で狙い撃てないか?」
『無理です!あのモンスターの射線上に出れば、狙い撃ちにされます!
 奴のビームの出力は非常に高く、この距離でもアンチビーム爆雷を使って威力を殺しきれません!』
あのモンスターの一撃は、戦艦の主砲クラスの威力があるらしい。
「そうかい、そいつは残念だ。そちらの現在位置はどこだ!?
 あぁ、そうだ、それと撤退予定時刻までは何秒だ!?」
『現在モゲラとの合流予定地点へ移動中。
 MS隊全機撤退予定時刻までは、あと80です。何とか生き残ってください』
「まだそんなにあるのかい?
 時計がぶっ壊れてんじゃないの―――ぉぉっと!」
射線上の岩塊を蒸発させながら、モンスターのビームがザクの頭上を通り過ぎる。

「VPS装甲とか使っているだろうに、よくもまぁ、これだけのビームをバカスカ撃てるねえ」
ミサイルをばら撒き、必死で応戦する。
『基地から直接電力貰ってんじゃないんすか?
 それでも、この威力はチートととか思えないですが……ね!』
すぐ近くのブコバル1も、軽口を叩きながら応戦している。
『おっし、当たった――――が、奴さんは気にしてませんね。
 小型ミサイル程度じゃ、お気に召さないらしいですぜ』
「ま、予定の時間までの時間稼ぎにゃなるさ。
 ………あれま、これでミサイルは撃ち止めか。
 こりゃあまずいね、撤収しますか」

言うや否や、さっさと撤退を始める虎。
『ちょ、隊長なのにそんなんでいいんですかい!?』
「いや、だってもう撤退予定時間だし」
『あ、ホントだ。んじゃサッサと逃げますか』
「つーことで、全機撤退開始―――」
逃げようとするザクの横を極太のビームが通り過ぎる。
「―――って、当然のように逃がしちゃくれないよねえ。
 だがしかし!予定時間と言うことは、モゲラが既に目標を強奪したという事!」

その言葉と同時に、施設で爆発が起こる。
その爆発でモンスターの注意がそれたのか、虎達への攻撃が一時的に弱まる。

「よし、今だ!総員撤収!」


ひときわ大きな揺れが部屋を襲ったかと思うと、部屋の電灯が消えた。
直後、いきなり床が盛り上がり、訳も判らぬままに瓦礫に押しつぶされる研究員達。

非常灯の明かりが点滅する中、必死で状況を確認しようとする所長の目に映ったのは、一機の特殊作戦用MSだった。
「なっ、馬鹿な、ジオグーンだと!?」
ザフトでも少数しか生産されていないはずの特殊な機体を、ただの宙賊共が持っているはずが無い。
襲撃者達はザフトと太いパイプを持っている連中だろう。
そんなふざけた奴らと言えば―――あいつらだ。
「おのれぇ、クライン派のイヌ共の仕業か!」

貴重な実験データを奪われる訳にはいかないが、MSに立ち塞がられては手も足もでない。
そもそもこちらはただの研究者だ。対MS用装備などそもそも置いてはいない。
為す術も無いまま、実験データの入ったコンピュータを強奪される。
目的を達したジオグーンが来た道を戻って行く。
ご丁寧に最後に一礼までしていった。コケにするにも程がある。

MS隊に追撃を命じようとしたが、追撃できるMSが一機もないことに気づく。
ザクもゲイツRも全て撃破され、残ったのは超火力が自慢の試作重MSだ。
機動力に欠けるあのMSでは、追いかけた所で無駄だろう。

「あぁ、議長に何と言ってお詫びすればよいのだ―――――」


――――施設襲撃から48時間後。

「ご苦労様でした、バルトフェルドさん。
 入手した大型コンピュータは、現在技術部が解析中です」
ラクスが労いの言葉と共に、コーヒーまでくれる。
………コーヒーまでくれる?今だかつて一度も無いような重大事件だ。
「あ、あぁ、こりゃどうもありがたいねえ。
 あぁ、ラクス。すまないが、今回の作戦での犠牲者には―――」
「ええ、わかっています。敵味方を問わずに手厚い慰労金を支払うつもりです。
 ………バルトフェルドさんのポケットマネーから」
「なッ!?」
危うくコーヒーを噴出しかけた虎に、ラクスが笑いかける。
「冗談です、私もそこまで鬼ではありませんわ」
「君のジョークは、ジョークに聞こえないから怖いんだよ……」
コーヒーを一息に飲み干し、カップを傍に控えていた緑服に渡し、おかわりを催促する。

緑服からコーヒーを受け取り、思い出したように呟く虎。
「にしても、あの化け物MSは一体なんだったんだ……」
「正体不明の、作戦中は『モンスター』と呼ばれたMSですね」
「そう、それだ。とんでもない化け物だったよ、ホントに。
 戦艦の主砲クラスのビーム砲を背負っている上に、ミサイルランチャーまで装備していると来たもんだ。
 あんなMSが開発されたと言う情報は無かったが……一体、あのMSはなんだったんだ?」
カップをテーブルに置いて、腕を組んで考える虎。
「あれだけの出力を持ったビーム兵器を搭載し、なおかつVPS装甲のようなものまで装備していた。
 一機しかない試作MSならばいいんだが………流石にアレを量産はしないか。
 圧倒的な攻撃力は魅力的だが、デザインがアレだしな――――いや、ザフトならアリだな。
 グーンやゾノを考えれば確かに――――」
思考の海に沈んでいく虎。

そうこうしていると、ターミナルの研究開発部から連絡が入った。
曰く、『提供して貰った情報の解析が終了した』との事らしい。

部屋に入ったラクスと虎を、興奮気味の老技師が出迎える。
「実に、大変貴重なデータが入ってました。
 いやもう、実に素晴らしいものが!」
「すいませんが、もっと具体的に言っていただけませんか?」
呆れた表情でラクスが告げるが、興奮する技師には届いていないらしい。
「あぁ、歌と言うものは実に素晴らしい!
 これがあれば、再びラクス様がプラントシングルチャートで一位を―――」
「美麗な修飾語は省いて構いませんから、結論だけ言っていただけますか?
 私も忙しい身ですので」
前置きなど聞いていられないとばかりに冷たい声で結論を求めるラクス。
その声で興奮が冷めたのか、老技師が申し訳無さそうに謝る。
「も、申し訳ありません。
 結論から言いますと、入っていたのは熱気バサラの……いえ、FireBomberの歌を使ったサウンドエナジー理論の実験データ。
 それと、実験からの考察に関するデータです」

「サウンドエナジー理論?」
聞き慣れない言葉に首を傾げるラクス。
虎の方も聞いたことがない言葉らしく、首を傾げている。
「簡単に言いますと、歌声を様々なことに利用すると言うものです」
「歌を?」
「はい。歌う事で起こる様々な効果を最大限に引き出すことが、この理論の大筋と言えます。
 歌う事で生ずるエネルギーを、歌エネルギーと呼んでいるようです。
 その歌エネルギーをサウンドエナジー変換システムで変換することで、大きなパワーとすることが出来ます」
「熱気バサラはその理論を効果的に使うことであれだけの人気を獲得している、と言うことですか?」
ラクスの言葉に首を横に振る老技師。
「彼がサウンドエナジー理論に関する重要人物であるのは間違いないでしょう。
 ですが、理論の実践者かと言われれば、違います。
 データによれば、彼は研究・開発にはある程度協力しているようですが、ライブでは一切使用していないようです。
 また、ラクス様の偽者に関しても、同じです」
なにやら、その辺は複雑な事情があるらしい。

で、それを実際に使うとどの様なことになるんです?」
「光ります」
「――――えーと、発光するということですか?」
「正確に言うと、全身に光を纏うようです。
 歌の持つエネルギーの状態によって、身に纏った光の色が変化すると」
「……それは、ステージでは目立つかもしれませんね」
適切なコメントが思い浮かばなかったらしい。

「他にはなにかないのですか?」
頭を抱えながら、続きを促すラクス。
「スピーカーからの音が、よりリアルになるみたいですね。
 臨場感とかが桁違いだ、と施設の所長が書いています。
 その他は実験中だったようで、データがありません。
 理論的には、洗脳の解除と言った精神的効果から、変わったものでは植物の成長促進と言った効果まであるようです。
 また、施設ではサウンドエナジー理論に基づいた、スピーカーの開発を行っていた模様。
 どうやら、情報提供者は実験ではなく、スピーカーの開発に携わっていたようですね。
 転職前は民間で音響機器の開発を行っていたそうですから」

嫌な予感がしつつも、一応聞いてみるラクス。
「―――――つまり、この作戦で得たものは?」
「サウンドエナジー理論に基づいたスピーカーの開発ノウハウです!
 これさえあればラクス様の歌声を、音質の劣化無く再生することが可能です!
 ライブ音源ならば、ライブでの臨場感まで再現可能な優れものですぞ!!」
非常に嬉しそうに言う老技師に、虎が気になっていた事を質問する。
「それ、FireBomberであっても全然OKかい?」
「当たり前田のクラッカー、って奴ですよ!」
グッと親指を突き出す老技師。
「おぉう、そいつは素晴らしい!」
「でしょう!?
 サウンドエナジー理論、バンザーイ!」
「バンザーイ!」

諸手を挙げて喜ぶ老技師と虎とは裏腹に、ガクリとその場に膝をつくラクス。
「私の苦労は一体…?」
呆然とするラクスに、虎がすげない言葉を投げる。
「いや、苦労したのはボクと彼だし。
 キミは特に苦労してないんじゃないのかい?」
「この戦果の代償にしては、気苦労が高すぎますわ………」

失望は希望を二乗する、というが、それだけ希望も失望も大きかったのだろう。
この後、三日ほどラクスは寝込んだそうな。


一方その頃、プラントでは――――

「そうか―――いや、実に残念な結果だ。
 ――――君が気に病む必要は無いさ、過ぎたことをどうこう言っても仕方あるまい。
 そうだな――――では奪われた開発データ以上のモノを作ることで、今回のミスは取り消すとしよう。
 ――――――うむ、私の期待を裏切らないでくれよ?」

通信を終え、すっかり冷めてしまった紅茶に気付かず、口をつけた後、顔を顰める。
カップをソーサーに戻し、秘書に繋いで新しい紅茶を用意させる。

紅茶が来るまでの間、軽い思索にふける。
(クィーンが動いた、か――――腰が重いという訳ではないようだ。
 こちらの手が上手くいっている、と見るべきか、あちらがまだ様子見をしているだけか――――
 ともかく、警戒は怠れんな)

秘書が紅茶を運んできた。
―――彼女の様子を見るに、残念ながら追加の仕事もあるようだ。その笑顔が眩しい。
ともかく礼を言い、紅茶に口をつける。
(データがそんなに欲しかったのか――――報告によれば、熱気バサラに相当苦戦しているらしい。
 どちらにも我々の常識が通じないのだから、当然と言うべきか。
 ま、あのデータは元から流す予定だったものだ、そう惜しくも無い。
 例の機体の稼働データも得れた事だしな)

彼女がそれを飲み終わり次第行きますよ、と非常にありがたい言葉をくれた。
出来る限りしっかり味わって飲むとしよう。
ゆっくりとした優雅な動作で、カップを傾ける。
(試作型は廃熱に難があった為に、ジェネレーターの全交換………暴走しなかっただけマシというべきか。
 ビーム兵器ではなく、実弾にしたほうが良いかも知れんな。
 ――――それにしても、難しい。こちらの技術では複製は辛いものがある、か。
 あちらの世界からすれば40年近く前に開発されたという機体でさえこの有様とは……世界という名の壁は恐ろしいな)

既に空になったカップを傾け続ける。
一分でも、いや一秒でも長く休むための小技だ。せこいとは思うが手段は選べない。
出来るものならこのままもう五分ほど休みたい、多忙なこの身にはより多くの休息が必要なんだよ、うん。
―――が、速攻で彼女にばれたらしい。
プラントの議長でありながらそんな子供みたいな事を、と説教を喰らったが、仕方ないじゃないか。
あれ程大きな玩具を与えられれば、誰だって夢中になるというものだ。
(エネルギー転換装甲の実用は、もう一年もあれば何とかなるだろう。
 問題はやはり、重力制御技術と核融合炉の再現だ。
 回収したバルキリーのものと思われるエンジンブロックは、修復の目処が立たないらしい。
 それでも構造がわかるだろう、手探りよりはマシなはずだ。
 これさえ再現出来れば、あのプランを進める上で有用となるであろうものが――――)

――――頭に何か当たったようだ。
意識を戻して確認すると、頭上には彼女の握り拳。
彼女の説教を適当に聞き流して考え込んでいたら、いつの間にか全く聞いていなかったらしい。

更に激しい説教を貰う羽目になった。

結局開放されたのは終業時間間際で、議長が悪いので残業してでも終わらせてくださいと言われてしまった。
私は悪くないはずなのに、と言ったら次の日も残業させられた。
八つ当たりもいいところだ。

――――当然、残業代は出ませんでした。議長なのに。

………次に提出する法案は、サービス残業の撤廃を徹底させる法案にしよう、うん。

機動戦士ガンダムSEED DESTINY feat.熱気バサラ
第16話 試動


 次 回 予 告

ハイネ「連合のエクステンデットであるステラ、彼女の価値はシンの予想以上のものだったらしい。
      彼女のジブラルタルへの移送命令を受けたミネルバに対し、連合軍が襲い掛かる!」
ステラ「バサラのせんじょうライブ!ステラもいっしょにせんじょうで歌う!」
ハイネ「連合もオーブもAAも関係ないぜ、俺たちの歌を聴けえ!
      次回、機動戦士ガンダムSEED DESTINY feat.熱気バサラ 第17話 歌よ、届け に――」

バサラ「過激にファイヤー!」