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Mercenary’s Memory_第02話

Last-modified: 2008-03-18 (火) 19:41:56

2 「トラブルメーカー」シン・アスカ

 

 アタモニ神団に雇われたその日の夜、シンはアロンダイトを両手で握り、空を斬っていた。訓練を欠かすわけにはいかない。その上、彼は深夜担当となっていた。深夜行動に慣れておかねば体がついては来られまい。
「こんな夜までご苦労だな。明日からだぞ、任務は。」
 シンの背後から、金の縁取りを施した白い鎧のウィーグラクが現れた。琥珀色の瞳をシンに向けている。その面差しからは敵意などは感じられない。
「いえ……襲撃確率が低くとも、体を鈍らせるわけにはいきません。私は斃れてはならないので……。」
「それは、誰しも同じことだろう。君が何のために戦っているのかは知らないが、死にたくて戦いの場に挑む者は多くないと、私は信じたいがね。」
 尤もな意見だ。シンは黙るしかなかった。しかし、ウィーグラクは変わらぬ口調で続けた。
「死にたくないのならば力と技を伸ばすことだ。君はまだ伸びるかもしれない。どれ、一つ、私が訓練をつけてやろう。」
 眼の前の神殿騎士は腰に吊るした二振りの剣の内、簡素なロングソードの方を抜いた。もう片方の装飾が為された剣は鞘に入ったままだ。シンはというと、呆けた顔でウィーグラクを見遣ったままだ。
「え……!?」
「何をしている。君も剣を抜きたまえ。斃れるわけにはいかないのではなかったのか。それとも真剣を使ったトレーニングが怖いか? 刃物の実際の重さに慣れた方がいいのだ、さあ、抜くのだ。」
 赤い瞳が鋭い光を放った。ジューダスとのトレーニングが思い返されたからだ。腰の後ろに縛り付けたアロンダイトの鞘を払い、猛然と挑む。
「そうだ、それでいい。しかし、斜めに払うのはよくないな。正眼に構えるのが型というものだぞ、少年。」
「くっ……! 我流では限界があると思っていたが、これほども……!」
 白い鎧の神殿騎士は、再び迫る黒い刀身を剣の面の部分で滑らせ、シンの攻撃を完全に無力化する。そのまま右手に握られたロングソードを正面に構え、軽く振り下ろした。同時に雷光が放たれる。
「ふうっ!」
 雷光刃という技だ。神殿騎士の魔剣技の一つとされている。エルレインが関わった歴史の中のロニが使っていた雷神招も、この技から派生したものだ。そのときのロニは本来剣技だったものを、鎚矛用にアレンジしたのだろう。
「……電撃で多少仰け反る予定だったのだが、タフだな。」
 シンはこの手の攻撃には極端に弱い。だが、彼はほとんどダメージを受けなかった。電撃を放つ剣を受け止めたシンの魔剣、アロンダイトはレンズのエネルギーで刀身表面を覆っているため、電撃が刀身を伝うことはない。そのためだ。
「本当に技を使うんですね。今私は使えないというのに!」
 かつては特技を13種、追加特技を14種、奥義と秘奥義を4種ずつという、膨大な数を使用できたのだが、今では全く使えない。少しくらいは残って欲しかったが、どうにもならない。
「何か使えないか、穿風牙! ……駄目か。」
 以前のように風をイメージしつつ突きを繰り出しても、風の槍どころかそよ風すら発生しない。
「あまり技に拘らない方がいいぞ。使えない者の方が多いのだからな。」
 シンにはウィーグラクの忠告が聞こえなかったらしい。
「鏡影剣は剣が二つないと使えないし……。六連衝も使えない、これならどうだ!」
 自棄を起こした彼は、ソード形態の最も標準的な特技、斬衝刃を試した。体を捻り、アロンダイトを斜め前方下向きに払う。次の瞬間、地面に扇状の衝撃波が発生し、ウィーグラクに襲い掛かった。
「おっと!」
 白銀の鎧の神殿騎士はバックステップを踏み、衝撃波を回避する。彼の目には先ほどまでなかった驚きに彩られていた。
「驚いたな。君がそんな技を持っているとは思わなかった。市街地の警護は役不足だったか?」
 シン自身も驚いていた。まさか、全て消え去ったはずの技が残されているとは思わなかったのだ。
「いえ、構いません。入り口の警護や物資の護衛は、私では役者不足ですから。」
 似たような言葉で遣り取りしているが、役不足と役者不足は正反対の意味を持つ。役不足はその人間に与えられた仕事が小さ過ぎるときに使う。役者不足はその反対に、与えられた仕事が大き過ぎることを意味している。この会話の内容を見る限りは適切な使われ方をしているはずだ。
「謙遜もいいが、傭兵をしばらく続ける気があるなら自らの能力の過小評価はやめておくことだ。報酬を値切られる。それに、謙遜は美徳だが、『過ぎたるは猶、及ばざるが如し』だぞ。」
「……肝に銘じておきます。」
 彼は、ウィーグラクにも傭兵の経験があるのだろうか、と思ったが、それを口に出すのは憚られた。過去を詮索することを、誰も望むまい。知ろうとも思わなかった。

 
 

 しばらくの間、シンは稽古をつけて貰った。その中で現在使える技を確認できた。消えたはずの技の中で残されていたのは、特技で斬衝刃と大爆掌、奥義では獄炎掌鎗撃だけだった。追加特技は全て消えうせてしまったらしい。
 元々斬衝刃の追加特技である追衝双斬は、2つのクレイモアがあってこその技だ。どうにもなるまい。しかし、掴んだまま高熱の刃で一閃する、大爆掌の追加特技である爆撃炎斬が消失したのは大きい。大爆掌自体のダメージが少ないため、この追加特技に破壊力を求めていたところもあるからだ。
「また微妙なのが残ったな。炎症を引き起こす能力が残っていただけでもよかった……と考えるべきなんだろうけど。後は自分で作らなきゃ駄目か。やれやれ……。」
 ぼやきはしても、それは当たり前のことだろうと思った。かつての技はフォルトゥナによるものである。残った技は、本来の自分の力が一部露出していたものだから、という解釈を彼は自らに押し付けた。
「君にそれだけの力があるのならば、私も君の配置を考え直さねばならないな。明日は最初の配置についてくれたまえ。詳細は追って知らせる。」
「了解しました。では、おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
 彼は神殿騎士が踵を返すのを見届けてから自分のテントに潜り込んだ。
「シン・アスカか。面白い男だ。しかし、何故傭兵になど……あれならどこぞ大国の将軍にくらいは、すぐになれるだろうに。詮索はよくないが……。」
 ウィーグラクは赤い瞳を持つ少年のことが気になった。あの真っ直ぐな、瞳に宿る輝きが眩しかった。そして、彼のような若者が傭兵をしていることが不思議で仕方ない。
「少し、調査させてみるか。」

 
 

 それから数日は何事もなく過ぎていった。シンは仕事の合間を縫ってハロルドの手掛かりを探してみたものの、何も見つからない。ダリルシェイドにはいないのだろう。
「今は仕事を片付けるべきだ。次の目的地はアイグレッテか……。アイグレッテなら手掛かりが見つかるかな。」
 暗い夜道を眺めながら、彼は一つ伸びをする。のんびりしているように見えるが、実際には神経を尖らせている。小さな物音一つにも注意を払い、視界の端に映るものにも警戒を怠らない。
「……後2時間で交代だな。神経が削られてる気がするけど……。」
 そのシンに近づいてくる人影がある。息を切らせて走っている。ダリルシェイドの外からやって来たようだ。彼はアロンダイトに手をかけたが、すぐに手を離した。どうやら伝令らしい。向かう先はダリルシェイド支部なのだろう。
「待ってください。何かあったんですか?」
 シンは伝令と思われる人物を呼び止めた。内容によっては警戒レベルを上げる必要もある。麻のシャツとズボンという、簡素な格好の彼は早く支部に向かいたそうな様子で返事をする。
「私はアタモニ神団の伝令だ。一傭兵の君には関係ないことだ。君には知らせることはできない。」
 この伝令の言葉には一理ある。しかし、言い方が不快だと感じた。一つ鎌をかけてみるか、とシンは口を開いた。
「ということは、かなり重要な知らせってことですね。俺みたいな下っ端が知ってはいけないんだから。それも、警備体制をひっくり返さなきゃならないような内容ってことになる。それこそ傭兵に知らせたら、脱走者が増えるかもしれないような。大急ぎで知らせようとしていたようだから、些細な出来事でもないでしょうし。違いますか?」
「うぐ……。」
 どうやら正解だったらしい。やれやれ、とシンは軽く頭を掻いた。
「まあ、いいですよ。それだけわかったのなら十分です。どうぞお通りください。」
 じろりと伝令に睨まれた気がしたが、気にしないことにした。トラブルには、もう慣れっこだからだ。伝令はさっさと支部に向かって走っていった。
「面倒なことになりそうだな。けど、これも経験ということにしておこう。でないと、やってられないしな。」
 あの戦いのために、すっかり老成してしまっている。しかし、人生の経験自体は少ないので、このような考え方になってしまったのだろう。それが悪いことだとはシンは思っていない。ただ、本来の自分から大きく変化してしまったことを考えると、少し寂しい気もしたのだが。
「まあ、いいさ。それを今考えてもな。今しなきゃいけないのは、次の厄介ごとの解決だ。」
 今回ばかりは、たった一人になったときのように命をかけなければならないだろう。彼はそう思った。

 翌日、休息の眠りから覚めたシンは支部に呼び出された。既にダリルシェイドは斜陽の紅に染まっている。
「あれかな、処分かな。これで追放とか処刑とか言われたら、どうすればいいんだか。」
 伝令から情報を引き出したことへの処分なのかもしれない。情報漏洩は重罪だ。誰にも話しはしていないが、知っただけで処刑ということもある。ある程度の覚悟は必要だろう。
 支部のウィーグラクの部屋の前までやってきた。3回ノックしてから扉を開ける。
「失礼します、シン・アスカ、ただいま呼び出しに応じ出頭しました。」
「ご苦労様。」
 ウィーグラクは鎧ではなく、白地の黄色い十字が描かれたコートを身につけていた。樫の木でできた机の前に座っている。彼の左右には似たような服装の男が二人いる。ウィーグラクの右側にいる者は赤髪で目が釣りあがっている。もう一人は黒髪で糸目だった。剣を携えているところを見ると、彼の部下なのだろう。
「さて、今日呼ばれた理由はわかるかね?」
「情報を引き出したこと、そして、漏洩したかどうかということですか?」
 察しのいいやつだ、と神殿騎士団の団長は軽く目を細めた。
「ほう、わかっているのか。なら、話は早い。」
「私を処刑なさるおつもりですか?」
「君は私に処刑されたいのかね? そうではないだろう。君にはしなくてはならないことがあるのだったな。」
「……はい。」
 軽くシンが項垂れたのを見ても、ウィーグラクは表情を変えずに話を続ける。
「君のことだ、別に情報を外に漏洩させることはしていないだろう。実際、そのような形跡は一切なかった。しかしだ、あまり他人に疑われるようなことはよくないな。これは傭兵としては常識だぞ。傭兵は信用が命だからな。」
 やはり、ウィーグラクには傭兵の経験があるらしい。しかし、そんなことはおくびにも出さず返事をする。
「はい……。」
「よって、君を私の監視下に置く。契約終了まで私の横にいたまえ。よいな?」
 シンの眉が跳ね上がった。それが処罰になるのだろうか、と。
「情報を漏洩させないようにするためには、私が横にいた方がいいだろう。絶対に口を滑らせることはできまい?」
「……そう、ですね。わかりました。決定に従います。」
「ものはついでだ、昨日の伝令が私に寄越した情報を教えてあげよう。アイグレッテからダリルシェイドへと送られるはずの物資が、何者かに奪われた。これが知られれば大騒ぎになる。」
 確かに一大事だ。物資を奪われれば単純に作業が遅れるだけではなく、神団の権威が失墜することになる。さらに、傭兵への報酬の支払いが遅れる原因ともなり、傭兵達の脱走にも繋がりかねない。
「……!」
「君ならこの状況、どうする? 少し聞いてみたいのでね。」
「……何故、私に? 私はただの傭兵ですよ?」
「興味本位だよ。それに、知りたがった対価を払ってもらうという意味もある。君は緊急事態が起きたと予想した。ならば、その対策くらいは考えているのだろう? いや、考えていてくれなければ困る。情報とは、そのように使うものだからな。」
 その通りだ。情報を早く手に入れるということは、その分対策も早めに考えられるということだ。しかし、それをしなければ情報の意味がなくなる。
「しかし、私如きの意見が役に立つとは思いませんが。」
 ウィーグラクはシンの逃げを許さなかった。
「役に立つかどうかではない、早く情報を仕入れた者の義務だ。」
 これまでにない強い口調にシンは驚いた。シンは少し考えてから、顔を上げ、そして口を開いた。
「そうですね、私はこれを囮だと見ています。」
「囮?」
「はい、おそらくは大規模襲撃を目論んでいるのではないかと。」
 シンには囮戦法の経験が何度かある。ガルナハンのローエングリンゲート攻略の時、そしてレクイエム攻略の時がそうだ。さらには、神のいる歴史の中でフォルネウスと戦ったときに、この囮戦法を経験している。それらのパターンを考えた結果だ。
「その根拠は?」
「ありません。ですが、傭兵や作業員の募集要項はダリルシェイド中にありました。ですから、いつ、どのタイミングで、どの程度の期間作業を行うのかは宣伝しているようなものでした。それに、時間も十分にありました。つまり……。」
「大規模襲撃を行う準備期間は、十分にあったということか。」
「はい。ですから、むしろダリルシェイドの警護を強化した方がよろしいのではないかと。」
 だが、それは赤髪のウィーグラクの部下が反対の声を上げる。
「待て、その大規模襲撃があるという根拠はないのだろう? ならば、もし輸送物資のみが目的だとする場合はどうするつもりだ。」
 シンははっきりとした口調で言い返す。
「軍人は最悪の事態に備えるものです。輸送部隊の襲撃は最悪の事態ではない。ならば、輸送部隊の方には警戒を強める程度にすればいいでしょう。問題はダリルシェイドですよ。神団が警護している中襲撃されたら、それこそ神団の権威が失墜することになります。」
 赤髪は黙り込んでしまった。しかし、今度は黒髪が口を開く。
「君の意見は被害妄想だ。今回物資輸送隊が襲われたとはいえ、被害はそう多くない。おそらくは商人の荷馬車と勘違いしたのであろう。ダリルシェイド襲撃はありえない。」
「ならば、今のうちに襲撃犯を捕らえておくべきです。神団の物資さえ無事ならそれでいい、そんなわけではないでしょう。未然に防ぐ方法があるなら、それを実行するべきです。」
 黒髪はシンに気圧されたようだが、さらに反論する。
「今はダリルシェイドの復興作業で忙しいのだ、そんな暇はない。」
「ダリルシェイドの復興が遅れているのは、この街の人々が無気力だからというのもありますが、立て直そうが何をしようが、それを奪う人間がいるからでしょう? 盗賊団の討伐もせずに何が復興ですか。これではせっかくの作業も全てが水泡に帰しますね。」
 民間人への被害を何よりも嫌うシンらしい発言だ。だが、これは神団への挑戦とも言える発言だ。赤髪も黒髪も目に怒りを宿している。腰に吊るした剣を抜きかねない。
「なんだと、我ら神殿騎士団を愚弄するのか!」
「やめんか、ギュスター、ゴライアス。シン、君も自重してくれたまえ。」
 神殿騎士二人は不満そうな顔を押し隠し、引き下がった。シンも軽く項垂れる。
「シン、君の意見はよくわかった。可能性の一つとして考慮しておこう。私とギュスター、ゴライアスで輸送部隊の警護に当たる。君もついてきたまえ。」
「駄目です、それは! もし何かあったときにあなたがいないと陣頭指揮は取れません。不測の事態には……。」
 赤い髪の神殿騎士、ギュスターが再び声を張り上げた。シンの態度がしつこいからだろう。
「まだ言うか! 団長の慈悲を受けただけならまだしも、この期に及んで……。」
 ウィーグラクは軽く首を横に振り、ギュスターを制止する。
「ギュスター、いい。彼の気持ちもわかってやれ。だが、シン。君の意見を全て聞くこともできない。君の意見だけ聞いていては誰も納得してくれない。わかるね?」
「はい……。」
「ギュスター、ゴライアス。二人とも傭兵100人を連れて輸送隊の護衛に当たってくれないか。君たちなら成し遂げてくれるだろう。」
 ウィーグラクの言葉を聞くが早いか、二人は敬礼して部屋の外に出た。部屋にはシンとウィーグラクだけが残される。ウィーグラクは赤い瞳の奥を覗き込むようにして口を開いた。
「さてと、シン。君には色々と聞きたいことがある。君の事が気になって調べさせてみたのだが……。君の名前がセインガルドの戸籍には存在していない。入国記録にも君の名前はなかった。それに、君の名前が何故か天地戦争時代の資料の中に登場していた。これはどういうことかね?」
 シンは沈黙せざるを得なかった。戸籍がないのは、本来この世界に存在しない人間だからだ。天地戦争時代の資料に名前があるのは、おそらくはハロルドがシンのことを忘れなかったからだろう。
 しかし、それを言ったところで信じてはもらえまい。彼はそう思った。
「君の本当の名前はなんという?」
 ウィーグラクはどうやらシンが過去の人物の名を使っているものと思っているらしい。それが普通の人間の反応だ。
「私の名はシン・アスカです。偽名なんか使っていません。」
「ならば密入国者か? さすがに他国までは調べられなかったのでね。」
「密入国といえばそれに近いでしょうけど、どこの国の戸籍を調べても、私にはたどり着けないでしょうね。私には最初から戸籍が存在しないので。」
「戸籍がないとはどういうことだ。死人認定でもされたのか?」
「いえ。ただ戸籍がないだけです。」
 ウィーグラクは少々困ったような表情になった。
「おかしな話だ。たとえ孤児だとしても、引き取り先は必ずあるわけだから、そこで戸籍を取得する決まりになっている。余程のことがない限りは戸籍がないということはありえないのだが。」
「ないものはないんです。他に説明のしようがありません。」
「では、その理由を聞かせてもらえないか。」
「多分、信じてもらえません。私自身も、これを聞かされたらふざけた話だと思いますし。」
 確かに信じられないような話だろう。幸福論を巡って激突した神によって作られた存在であること。歴史改変の影響で神が完全消滅したこと。その影響で歴史が全て塗り替えられたこと。御伽噺としか言いようがない。カイルはともかく、真っ当な人間が信じるわけがない。琥珀色の瞳を持つ神殿騎士は一頻り唸ったところで、肩をすくめながら口を開いた。
「まあ、戸籍がないから契約破棄、などということはないからな。戦力になりさえすればいいというのが上の考えだ。必要ならこちらで戸籍を手配しよう。ただ、その場合は神殿騎士団に入ってもらうことになるが……。」
「それは困ります。これから世界中を旅して回らなければならないので。」
「そう答えると思った。これ以上詮索するのも君にはよくなさそうだ。ここは私が引き下がろう。」
「……申し訳ない。いずれ機会があれば、ということにしてください。」
 シンがうつむいたのを見ても、ウィーグラクは表情を変えなかった。
「言えない事情があるのだな。私にもそんなものは一つや二つある。さて、そろそろ夜警の時間だ。ついて来てもらおうか。」
 斜陽が消え去り、闇の帳が下りたダリルシェイドへと、二人の剣士が向かう。シンは暗い瞳を闇の奥に向け、果たすべき任務のことを考えていた。

 
 
 
 

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