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ONEPIECE 121氏_第02話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 04:06:48

「へいらっしゃい!安いよ安いよぉ〜!」
「あら奥さんお久しぶり、このあいだはどうも」
「はいはいちょっとごめんよー、馬車を通してくれー」
「よーし今日はどこで飯食うか〜」
「ママーどこー!?」
(…………平和だなぁ)

 がやがやと活気のある喧騒をすり抜けながら、シンは町を見回っていた。
 それなりに栄えている町らしく、町には人が溢れそれぞれの日々に追われているように忙しなく自分の脇を風景と一緒に流れて行く。その空気はどことなくテレビや教科書で見たような昔の地中海の町並みを思わせるのだが、はて、自分はいったいどこにいるのだろうと実感の沸かない疑問を浮かべながらのどかな町の中、あてもなくシンは歩いていた。
 自分の居場所を記憶に任せて仮定するなら、ドイツのバルト海近郊の港町ハンブルグが思い当たるのだが…暖かな風、白い石造りの建築、冬とは思えない日差し。どう考えても時間軸さえ合わない場所に自分はいるのだ。とてもじゃないが思考が追いつかない。
 例えば、それはなにかの三文小説のように自分が異世界に飛んできてしまったかのような感覚である。

『あんたがステラを殺したあああああ!!!』
『ここからいなくなれええええええ!!!』
『くっ…こんなところで……俺はっ!!』
『行くよ…行こう……戦争なんてない、優しい世界…ステラ…キミとだったら……』

 ぼんやりと、思い出す
 あれは…現実だったのだろうか
 さっき目が覚める瞬間まで繰り広げていた死闘
 虚しい勝利、逃れられない死……
 いったいどこまでが現実で…どこからが……、もしや全て夢だったんじゃないだろうか
 今の自分には、どんな妄言ですら否定するだけの自信がまるでない

「ステラ……」

 ぽつりと声に出すと、帰ってくるはずのない返事の変わりに胸の奥の傷跡がジワリと痛んだ気がした。
 馬鹿なことを言うな、あの喪失も、この痛みも、全て現実だ。あの雪の冷たさを、俺は今でも鮮明に思い出せる。と、シンは自分の体をかばうように両肩を握り締めた。

「ぁ…」

 そして今更のように、自分が身に纏っている赤い服の肩に刺繍されているものに気づく。
 『ZAFT』のマーク……。そうだ、自分は間違いなくザフト軍所属、戦艦ミネルバのMSパイロットのシン・アスカなのだ。
 ならやるべきことは一つだろう。

「ミネルバに戻らないとなぁ」

 自分の口から出ておきながらなんてマヌケな響きなんだろうと思う。
 しかし、軽く街を見回ってみたものの軍事拠点らしき所も見当たらず、連合のMSが出入りしているような風景も見られないのだ。それはザフト軍に籍を置いている自分には好都合ではあるのだが、逆に言うならばザフト経由でミネルバに連絡を取る手段すらないということになる。

「いやでも、連絡とれたとしてもなんて言えばいいんだろうなぁ…」

 『記憶喪失して気づいたら知らない街にいた』
 なんて言おうものなら、またあのアスランがしかめっ面で怒鳴り散らすのがすぐ目に浮かぶ。

「ていってもほんとにドコかわからないし、エマージェンシーでも出した方が早かったりしてなぁ。ははは」

 なんて冗談紛れでそんな事を思う
 『記憶喪失で知らない街にいて、しょうがないから救難信号を出した』
 あぁダメだ。絶対殴られる。

「そういえばステラと初めて会ったときも救難信号出したんだよなぁ。 あんときは呆れられてたけど、こんなんじゃ顔真っ赤にして怒るだろうなぁ。いっつもそんなカンジじゃそのうちハゲるんじゃないか?」 

 そういえばいつも頭を気にしてる様だったし、ヘルメットを嫌がってるそぶりもしてるし…。
 まぁ上官ってのはストレスが溜まるものなんだろう。ともあれ本気で救難信号を出すのを考慮した方がいいかもしれない。事情はどうあれ今はミネルバに戻ることが一番重要なことなのだから。
 折るかどうかは別として、とりあえずは最終手段がきちんと残っているかどうか確認するために、自分の首に下がっているドッグタグ…認識票を取り出そうと胸元を探った。

「なっ!?」

 しかし、その手は首に下がっていた物に触れた瞬間凍りついた。

「そんな…、どう…して……?」

 そこにあったのは硬質な金属のプレートではなく、なにか小さな…欠けらの様な物。
 恐る恐るそれを指でつまんで、目をやるとそこにあったのは。

 淡いピンク色の、貝殻だった

「これステラの…なんで…ウソだろ…?」

 あの暗い水の底へ、彼女と共に沈んでいった首飾りの貝殻。
 どうしてこんなものが自分の手元に残っているんだ?
 意味がわからない。本当に、自分が今どこに立っているかさえもわからなくなる。
 ぐらりと、平衡感覚を保っていられずに視界が揺らいでいくのがわかった。
 
「は…はっ……どうかしてる…ほんとに夢じゃないのかこれ……」
『……シ…ン……………』
「くっ!?」

キィィィィ…ンン

 やめろ、やめてくれ
 彼女はもうどこにもいないんだ
 世界中どこを探したってもういないんだ!!
 だからこんなものが残ってるわけがなくて…だからこれは…

『……シ……ン……………』
「う…あぁ……」
 
 耳鳴りが酷い、なにも聞こえない
 容易に鎌首をもたげた忘れようのない記憶が自分の心を包む
 あぁ、これは雪だ…そう、冷たく、白い雪の記憶
 何もかもを白く染めて、やがて深く沈んでいくんだ
 何も見えない、何も聞こえない
 通り過ぎてゆく人たちも、街を包む喧騒も、何もかもが白く染まって行く
 何も…何も……何も聞こえないはずなのに、どうしてこんなにもあの声が聞こえるんだ!!

『…ぁぁ………シ…ぅぁぁぁ…ン………ん……』
(違う…違う……こんなのは…)
『うぁぁぁ…ん……うわぁぁ…ああん…』

 泣いている…?誰が…?
 ステラ…?どうして泣いてるんだ…どうして…

「うわああああん!!」
「あぁっもーうーるさいガキだなぁ!!!」
(ハッ)

 そこで霞みかけた意識がふっと舞い戻った。

ゲシッ!

「うっ、えっぐ、ごめんな…さ……」
「チチチ、おいおいおチビちゃん、ぶつかってきたのはお前だろぉ?ほらアイスが軍服にべっとりついちゃってまぁ〜、どーするんだよこらぁ!!」

 耳鳴りが止んだと同時に飛び込んできたのは耳をつんざく子供の泣き声だった。
 見慣れない軍服に身を纏った男がなにやら怒鳴り散らして子供を足蹴にしている。
 周囲は静まり返り、誰もがおびえているかのように男の暴行を止めるものは誰一人としていなかった。

「うぇ…ママぁぁああ!!」
「あぁーもう泣くんじゃないって言ってんだろうが!!」 

「な に や っ て ん だ ア ン タ は あ あ あ あ あ!!!」

バキィッ!!

 ただ一人、赤い瞳を怒りで紅に燃やした男を除いて。
 ぶつかってきた?アイスが付いた?そんなことで暴力を振るうなんて軍人見たこともない!止めようとしない周りの人間もどういう神経してるんだ!!と、彼の怒りが沸点に達するのは一瞬の事だった。殴りつけた拳を更に固く握り締めシンは男を睨みつける。

「チチチチ…なにをする小僧!!」
「なにかしてんのはアンタだろ!!いい年こいた大人がこんな小さい子に…それでも軍人か!!」
「ほほう、随分なまいきな口を利くじゃなあいか。この私が第16支部大佐であるとしらんのかね?」
「知るかよそんなこと!変なヒゲ生やしやがって!!」
「ぐっ、貴様ぁ!ドコの所属だ!!」
「見ればわかるだろ、ザフトだよ!!」

 言ってから、しまったとシンは思った。
 いくら軍施設がないような街でも、目の前にいるこのネズミのような被り物とヒゲをした男は軍人であると名乗ったのだ。連合軍の権力下ではなくても、ここで自分がザフトと名乗るのはまずかっただろう。
だがシンの怒りがそんなコトを頭の隅に追いやる。地球の軍人ってのはドコも軍の権威を振るって好き勝手をするこんなヤツしかいないのかと。
 だが、男の口から次いで出たのはそんな激情を一瞬で吹き飛ばすものだった。

「ザフト?…チチチ、聞かん名前だなぁ……さては海賊か貴様ぁ」
「なっ!?」

 ザフトを…知らない!?

「なら海軍として本分をまっとうしなければいかんなこれは、チチチ。おいお前ら!手出すんじゃないぞ!」
「おいちょっと待てよ!なんだよ海賊ってアンタいつの時代の人間だっておわっ!!」

ビュンッ

 混乱しているシンを他所に男はサーベルを抜いて斬りかかってくる。
 切っ先がきわどく頭をかすったが、アカデミー時代ですっかり体に染み付いた動きでシンは咄嗟にナイフを抜き、再び剣が振り下ろされた瞬間を狙って男の手を捻り上げた。

ギリッ

「あででででで!!!」
「やめてよね…じゃなくて!!なんなんだよアンタはいったい!!」
「ママー!!」
「あぁっ、はやくいらっしゃい!」
「ごめんなさい…ごめんなさいママ…」

 男の注意がシンに逸れた隙に、どうやらあの子供は理不尽な暴力から逃げ出せたらしい。
 母親と共にシンにお礼を言うこともなく逃げ出すように野次馬の輪をくぐり視界から見えなくなった。まぁ無理もないだろうとシンはため息を付くが、さてこの状況はどうしたものだろう。
 とりあえずこの男の腕を極めて手からサーベルは奪ったものの、よく見るといかにも「海兵です」とでも言うようにセーラーを着込んだガタイのいい男達が集まってきているような気がする。

「きっさまぁ、何をするか!」
「先に抜いたのはアンタだろ」
「いだだだだだだ!!…よぉし、名前を聞いておいてやろうじゃないか」
「シン・アスカだよ!そ・れ・が・ど・う・し・た!!」
「あががが!だから痛いと…おいお前らぁ!いつまで見てるんだ!!早く助けろ!!」
「へ?」

チャキッ

「ぉ…ぉぃ?うそだろおおおお!!!!」

ドンッドンッドゥンッ!!

「ほっ、本気で撃ちやがった!軍人がそんな簡単に撃つなよ!!」
「バッカもおん!!私ごと撃つつもりか貴様らはぁ!!」
「は、申し訳ありませんネズミ大佐。密着していたのでそのまま撃った方がてっとりばやいかと」

 ど…どうかしてる。本当にこいつらどうかしてる。
 咄嗟に男を突き飛ばしてその場から飛び離れたから当たらなかったものの、上官をなんの躊躇もなく撃とうとするなんて頭おかしいのかこいつらは!…いやまぁ、こんな小悪党を絵に描いたようなのが上官なら隙あらば撃ちたくなるのもわかるけど…。そりゃまだアスランの方がマシだけど。絶対マシだけど!!

「ほれ逃げるぞ!とっとと捕まえんか!!」
「げ」

 呆れ返っていたシンはソコではっとした。よく考えたら今の男を離して右手にナイフ、左手に奪ったサーベルを構えて固まったままだったのだ。こんなの「自分は犯罪者です捕まえてください」と言ってるようなものじゃないか。あぁ、だけど聞いてくれないか。これには海よりも深くてなんかもう色々投げ出したい事情とか偶然とか話せばきっとわかってくれる理由があるんだ。だからまず話そう、人間には言葉っていう素晴らしいものがあるんだ。だから…だから…!!
 と、一人パニくっているシンを他所に海兵達がにじり寄ってくる。

「えーっとほら、その…なんていうか……アレだよ」

な ら 逃 げ る し か な い じ ゃ な い か ! !

「追えーーーーー!!!!」
「くっそおおお!!なんでこんなことになってるんだよおおお!!!」

 一目散に人ごみをすり抜けて市場を闇雲に逃げ回る。
 土地勘もクソもなく、ただ視界に白い海兵の制服が見えない方向へシンは走り続けていった。

「チチチ、どこの馬の骨ともわからんヤツが一人前に暴れてくれよって。まったくココヤシ村の帰りに羽を伸ばしに行こうという時に仕事を増やされちゃたまったもんじゃないって…うわあああああ!?」
「大佐、どうなされました?やはりさっきの銃弾がちゃんと当たっていたでありますか?」
「ちゃんとってなんだお前おい!?いやそうじゃない!!俺のサーベルがああああ!!」
「は?」
「准将殿から頂いたサーベルがないんだ!!ハッ、さっきの小僧か!!!」 
「はぁ…そういえば大佐が簡単に捕まって奪われたでありますね」
「なんてこったーーー!!俺が大佐にまでなれたのは今まであの若造にゴマすってすってすり尽くしたお陰 だっていうのに、ええい!特注品だぞあれは!?信頼の証に授かったものだっていうのに無くしたなんてことになったら俺の本部行きはどうなるって言うんだ!ああ!?」
「はぁ…」
「なんっとしてもあの小僧を捕まえろ!!そしてサーベルを取り戻せ!!俺の栄転のためだ!!!」

 上官として、いや軍人として、いやいや人間としてここまで露骨に小悪党を貫けるこの男を上官に持ってしまった海兵は呆れ返って物も言えなかった。やはりさっき本当に当てておけばよかったのかもしれないと心の中でつぶやくが、第16支部のネズミ大佐の船に派遣されたのが運の尽きと何度も繰り返した諦めを心に決めて、先ほど逃げていった少年を自分も追おうと駆け出した。

ド カ ー ン ! !

 瞬間、どこからともなく轟音が響き渡る。

「なななんだ一体!?」
『海賊だああああああ!!!』
「海賊だあ!?このネズミ大佐率いる第16支部の船が港にいるとわかって攻めてくるのはドコのバカだ!?
 …さてはさっきのシン・アスカとかいう小僧の一味か!!!」
「大佐、出撃でありますか?」
「あぁ!さっさと走っていったバカ共を集めろ!!ヤツはきっとあの船だ!!」

「なんだいきなり!?今のスゴイ音は…」
『海賊だああああああああ!!!』
「へ?海賊う!?」

 市街地を逃げ回っていたシンは、突然の砲撃音と共に港の方角から逃げてくる人の波に圧倒されながら、もう何度目かわからないパニックに陥っていた。さっきまで自分を追っていた海兵達の姿もなく、人々は皆「海賊だああ!!逃げろおおおお!!」と叫びながら避難していく。

「よくわからないけど…今がチャンスか」

 逃げるなら今のうち、と人ごみに紛れ街の外へと逃げて行くことにした。

「ひゃはははは!でっかい街は久しぶりだ!!野郎ども!奪え奪ええ!!」
「チチチ、暴れるしか脳のない海賊が。迎え撃てーー!!!」

お お お お お お お お お ! ! !

「な…なんなんだコレ……」

 住民に紛れて街の外れの丘まで避難していったシンは、遠目に信じられないものを見ていた。
 時代劇に出てくるような帆船、レトロな大砲、シンプルだが印象強いドクロマーク。そして船から次々と降りてきて暴れだすそれらはまさに「海賊」としか言いようのないものだった。映画なんかでしか見たことのない風景を目の前に、ただ呆然とするしかなかった…。

「いったい俺…どこに来ちゃったんだろうな…」

 チャリン、と首にぶら下がっている貝殻に触れた。
 貝殻はただ沈黙を守り何も返してこなかったが、なんとなくステラがここにいるような気がして呟く。

「俺…これからどうすりゃいんだろ……ステラ」

「大佐、制圧完了しました」
「チチチ、そうか。それでさっきの小僧はみつかったか?」
「いいえ、それらしき人物は海賊の中には見当たりませんが」
「なぁにぃ!?バカ言うな、あんな真っ赤な服きて真っ赤な目のヤツだぞ!見つからないワケがあるか!」
「はぁ…ですが大佐……。あの少年は海賊と無関係だったのでは?」

 ……………

「なーんてこったーーー!!!あぁどうすりゃいいんだ!!こうなりゃ指名手配だそれしかない!!!
 賞金首だな、うむ、海軍将校に暴行を働き盗みを働いた。シン・アスカ…そうだなぁ…賞金は100…いや…200…んんー、なんとしても捕まえなければなぁ〜。よし!!」

 3 0 0 万 ベ リ ー だ ! !

 こうして見事賞金首になったシン・アスカ
 本人はそんなことは露知らず、これからの身の振りに頭を悩ませていたのだった

「どうにかしてミネルバに戻らないとなぁ……とりあえずもっと大きな街に行かないとなぁ…全然どこか分からないし。情報収集しないと。あぁだけど街ったってどうすりゃいいんだろ…歩くにしろ野宿にしろ金が…」

 ぐううぅぅぅ

「よし、まずはこの剣質屋にでも売って飯食うか」

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