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R-18_Abe-SeedDestiny-X_安部高和_21

Last-modified: 2007-11-09 (金) 20:44:23

オーブ、ネオの湯。
「と、いうわけで、しばらくの間こいつを家に置く事にしたからな」
シンの頭にぽむ、と手を置き、ネオはスティング、アウル、ステラの三人に言った。
「シン・アスカです!しばらくの間お世話になります!」
三人に向かって頭を下げるシン。
ちなみに何故こんな事になったのかと言うと、
――「マユ、今から会いに・・・・・・なにぃぃぃぃぃ!?熱海に旅行だってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
てな感じです。
そして途方に暮れているところで、ネオに「うちに来ないか?」と誘われ、行く所の無いシンは二つ返事で了承し、
今に至るのだ。
「おう。俺はスティングだ、よろしくな・・・・・・ってなんで下だけジャージなんだ?」
「・・・・・・」
シンは気まずそうに目を逸らした。
「あー、まぁ、気にするな!ほら、次はおまえだ」
事情を知っているネオはその件に関しての話を打ち切り、アウルに自己紹介を促した。
「僕はアウル。なんとスタンドが使えるんだぜ!・・・・・・ってどっかで会ったような気が・・・・・・」
「え?実を言うと俺もあんた達に会ったような気が・・・・・・」
「シン・・・・・・?」
「あれ、君は・・・・・・あぁっ!?」
何かを思い出し声を上げるシン。
もうお気づきだろうか?そう、実はシンと三人は既に出会っていたのだ!
「あの時の暴食女!!」
ディオキア・ガスト事変。完膚なきまでに店を破壊したその事件、シンとステラはその渦中の人だった。
そしてステラを迎えに来たスティングとアウルとも、シンは出会っていたのだ。
「なんだなんだ。おまえら知り合いだったのか」
「ええ、まぁ。あの後ガストの修理代の事でタリア艦長にこっぴどく叱られましたけど」
「そ、そうか・・・・・・。よし!じゃあ今日はシンの歓迎会という事で、みんなでガストにでも行くか!」
「うぇ〜い」
「外食か・・・・・・久しぶりだぜ」
「シンに感謝、ってね!」
「・・・・・・」
皆が浮かれる中、シンだけが浮かない顔をしていた。
(今度は暴れませんように・・・・・・)

と、シンがくそみそな事になっていた時。
ガモフは未曾有の危機に晒されていた。
「さて、今日は何にするか・・・・・・」
ガモフ、食堂。
今しがた目覚めたイザークは、朝食を食べにここに赴いた。もう昼だが。
このガモフの食堂にはコックはいない。なにしろたった五人しかいないので、食事係にまで人員は割けないのだ。
故にガモフでの食事は、パーキングエリアにあるような食べ物の自動販売機で全てを賄っている。
「・・・・・・ん?」
いつものようにトンカツのボタンを押すイザーク。しかし、今日の自動販売機はいつもとは違った。
「・・・・・・」
二度、三度とポチッ、ポチッ。
いつもならすぐに料理を吐き出してくる自動販売機は、屍のように反応を示さない。
――そう、まるで「もう吐き出す物はありまへん」みたいな感じに。

ガモフ、ブリッジ。
ドタドタドタドタドタドタ・・・・・・
「見つかりませんね、ヴェサリウス・・・・・・」
「ま、焦ってもしょーがないって。気長に行こうぜ」
「くそっ、いったいどこに雲隠れしたんだ・・・・・・キラは」
「あ、なんか勃起してきた」
バタンッ!!
「大変だぞ貴様ら!!」
いつも通りの呑気なブリッジに、血相を変えたイザークが入ってきた。
「あ、イザーク。おはようございます」
「って、もう昼だってーの」
「キラ!・・・・・・なんだイザークか」
「お?ちょうどいいところに。やらないか」
「ええい貴様ら!そんな呑気に構えている場合ではない!!」
いつも通りの脳天気な四人。しかし次のイザークの言葉で、四人は一斉に顔色を変えた。
「食料が・・・・・・食料が尽きたぞ!!!」

まぁ、当然と言えば当然だった。
何しろここまで無補給で来たのだ。この事態はごくごく自然なもので、むしろ今まで誰も気付かなかったという事の
方が大変だった。軍人が四人もいるのに。
と、いうわけでガモフから食料がなくなったわけだが、しかし彼らは腐っても軍人と阿部さん。一人前の軍人になるべく
アカデミーで教育を受けてきた四人と問答無用の良い男の阿部さんは、かれこれ二時間ほど経過した今でもピンピンとしていた。
「は、腹が減ったぞ腰抜けぇ・・・・・・」
「母さん、僕のししゃも・・・・・・」
「非グレイトォ・・・・・・」
「キラ・・・・・・」
嘘です。みんな死にかけていました。
なに読者?仮にも軍人がたった一食抜いただけで死にかけるのはおかしい?読者、それは視野が狭いからだ。
別の例を考えるんだ。「顔が濡れただけで弱るヒーローもいる」そう考えるんだ。
そして阿部さんはと言うと、
「フンッッ!!フンッッ!!」
自販機のお釣り口に暴君を突き刺していた。空腹で頭がおかしくなったのか、そもそも元からこういう事をする人間
だったのか・・・・・・定かではない。

「このままではヴェサリウスどころではない・・・・・・」
ここから最寄の港まではどんなに飛ばしても二日はかかる。二時間でこのザマなのだから、二日もこのままだとどうなるかは
想像に難くない。
――「ここで臨時ニュースです。本日未明、太平洋の真ん中で四人の干からびた男性の遺体を乗せた軍艦が発見
されました」
「そ、それだけは・・・・・・末代までの恥だ・・・・・・!」
しかしこのままでは本当にそうなってしまう。それだけは避けねばと思考を巡らすイザークだったが、元々あまり良いとは
言えない頭をしているので、さっぱり考えが浮かばなかった。
「よし、じゃあこういうのはどうだ?」
「あ、阿部・・・・・・?」
ついさっきまで自販機をレイプしていた阿部は、細長い何かを持ってイザークの前にいた。
そして阿部はその内の一本をイザークに差し出し、こう言った。
「食料がなければ自分で釣ればいいだけの話だ」

このガモフは、元々宇宙専用の戦艦である。
故に釣りが出来るような場所はないはずなのだが、何故かこのガモフにはそういった場所が設けられていた。
まぁそんな事はどうでもいいとして。
かくして五人は己の生存を懸け、竹竿で魚釣りを開始した。
「腹が減っては戦は出来ぬ、って言うしな」
よく釣り人が使っているような小さい折りたたみの椅子に座り、五人は海に釣り糸を垂らす。
もちろん阿部さんも。
「・・・・・・」
そんな姿を見せる阿部を、ニコルは不思議そうな顔で見つめていた。
「ん?なんだニコル?欲しくなったのか?」
「いえ・・・・・・ただ普通に釣りをしているなぁって」
「・・・・・・?」
「てっきり阿部さんなら全裸で腰に手を当ててそそり立つ肉棒に糸を結びつけて釣りをするんじゃないかなぁって
思っただけですよ」
その姿が容易に想像出来るから困る。
「おいおいニコル。俺をなんだと思ってるんだ?」
「あ、すみません。気を悪くしましたか?」
「別に気にはしないけどな。だけど俺はそこまでするような男じゃない。そもそもそんな方法じゃとても魚なんて
釣り上げられないだろ?」
ミニマム時に糸を垂らしたとして、魚が掛かった時に釣り上げようとしても勃起分しか上に上がらない。魚を釣るという
目的がある以上、ニコルの言ったような方法では魚なんか釣る事は出来ないのだ。釣ろうとするなら五メートル以上は
なくてはならず、それではもはやほとんど化け物である。
「確かにそうですよね・・・・・・すみません、変な事を言って」
「まぁ気持ちは分からなくはないが、俺だっておまえらと同じ普通の人間なんだぜ?」
「「「「いや、それはない」」」」
四人の声がハモった。
「っと、そんな会話をしている間に俺の竿に反応が」
阿部の竿がぴくぴくと動いた。念のために言っておくが、竿とは釣竿の事である。

「おっ?こいつは大物だ・・・・・・!」
竿が思いっきりしなる。並の魚ではこうはならず、それはかかった獲物が大物である事の証明だった。
「マグロか!?」
「サメか!?」
「クジラですか!?」
「キラか!?」
期待感の篭った目で阿部の竿を眺める四人。
「いや、どうやらこいつは・・・・・・!」
やがて獲物の頭が海面から浮き出る。
「「「「なっ!?」」」」
そして四人は驚愕した。
阿部の釣竿に掛かっていたのはマグロでもサメでもクジラでもキラでもなく、
『な、何が起こったというのだアビー!?』
『状況から察するに、どうやら釣り上げられたようです』
『戦艦が釣り上げられるってどんな状況だよ・・・・・・』
ヴェサリウスだった。

やがてその全身を海面に出した獲物。
見間違うはずもない。阿部が釣り上げたのは、五人が目下捜索中であったヴェサリウスだった。
「こ、こうしちゃいられんッ!!」
釣竿を放り投げ立ち上がるイザーク。
「行くぞ貴様ら!今日こそ確保だ!!」
「「「了解!」」」
そうして艦内に戻ろうとするイザーク、ディアッカ、ニコル、アスランだったが、
ズベッ!!
「「「「あべしっ!」」」」
足がもつれ、四人仲良くすっ転んだ。
「ぐ・・・・・・腹が減って足腰が立たない・・・・・・!」
あまりの空腹に、四人の体力はもはや限界だった。
「やれやれ」
『ふっ・・・・・・』
その様をブリッジから眺めていたのか、ヴェサリウスの外部スピーカーから声が聞こえた。
『見ろオルバよ。どうやら向こうは飢えに苦しんでいるようだぞ』
『憐れ過ぎて何も言えないね、兄さん。こんな暑い日に釣りをする奴の気が知れないよ』
『宿命のライバルがこのザマでは我々の美学が映えん。このまま奴らを沈めて新たなライバルでも探すか?』
『そうだね。補給もしないような奴らに僕らのライバルは務まらないよね』
『すみません。非常に言いにくい事なのですが、こちらの食料も尽きています』
『『え・・・・・・』』

と、いうわけで。
「ふっ、絶好の釣り日和だな、オルバよ」
「こんな日に釣りをしない奴の気が知れないよね、兄さん」
ガモフの横に艦を停め、ヴェサリウス組も釣りを始めた。
このヴェサリウスも宇宙用の戦艦なので釣りが出来る場所は(ry
「さてオルバよ、何を釣り上げようか」
「僕は鮎を釣るよ。鮎の塩焼きは絶品だからね」
「そうだな。なら私は鮭を釣ろう。鮭の切り身は朝食に欠かせないからな」
「両方とも海には生息していないのですが」
鮭や鮎は川で釣れる魚です。
「はっ!見ろ貴様ら!あそこに馬鹿がいるぞ!!」
そんな二人の馬鹿っぷりを見て、イザークが指をさして嘲笑った。
「おいおい、正気かあいつら・・・・・・」
「ちょっと信じられませんよね」
「m9(^Д^)プギャー」
「キラ・・・・・・」
「ぐっ・・・・・・何も言い返せん・・・・・・!」
がっくりとうなだれるシャギア兄さん。まぁイザークに馬鹿呼ばわりされちゃあ、ねぇ?
「あんな馬鹿どもに釣られる魚などおらん!この海域の魚は全て頂きだな!」
「大物頼むぜ、イザーク」
「ああ、任せておけ!巨大なシーチキンを釣り上げてやるぞ!!」
「えっ・・・・・・?」
もっと馬鹿がいた。
「見ろオルバよ、あそこに馬鹿がいるぞ」
「こいつはお笑いだね兄さん」
そんなイザークの馬鹿っぷりを見て鼻で笑うフロスト兄弟。
「五十歩百歩・・・・・・」
アビーがぽつりと呟いた。

「さて・・・・・・このまま釣りを続けてもいいのだが、一つ提案がある」
10分ほどした頃、シャギアはガモフ組に声をかけた。
「ほう?言ってみろ」
「この中で一番の大物を釣った者の陣営の言う事を一つ、相手はなんであろうと聞き入れる、というのはどうだ?」
早い話が「釣り勝負をしよう」とシャギアは申し出た。
「はっ、何を馬鹿な事を!そんな勝負を受けていったい何に――」
「イザークイザーク」
「なんだニコル?」
「勝ったらヴェサリウスを返してもらえばいいじゃないですか」
「いいだろう、受けてやる!こちらが勝ったらヴェサリウスを返してもらうぞ!!」
「ふっ、そうこなくてはな・・・・・・」
イザークのその言葉を聞いて、シャギアはニヤリと笑った。
「どうしたのさ兄さん。いきなりそんな勝負を持ちかけて」
「オルバよ。我々が駆けた戦場の事を覚えているか?」
「え?うん、まぁ大体は・・・・・・」
「我々は様々な敵と戦ったが、そのどれもが常識の範囲内のMS・・・・・・私はいい加減飽き飽きしているのだよ、オルバ」
「サテライトキャノンには驚いたけど、あれも言ってしまえば常識的なMSだしね」
「故に、だ。私は知りたいのだ・・・・・・卑猥な武装でMSのケツの辺りを貫くというワケの分からんMSを!」
「MSじゃないかもしれないけどね、もしかしたら」
「というわけで、我々が勝ったらインモラルとやらを頂く」
「「「「な、なんだってー!!」」」」
予想GUYの条件にMMR化する四人。あんなMSを欲しがるような者がいるとは誰も思ってなかった。
「いいよ」
しかし阿部さんはあっさり承諾した。
「あ、阿部!いいのかそんな安請け合いして!?」
「構わないさ。要は勝てばいいんだろ?勝てば」
「そ、それはそうだが・・・・・・」
もし負けたらインモラルを失う・・・・・・それはつまり、このガモフ隊がどこにでもあるような凡庸な隊になるという事だった。
もしかしたらスポットがアークエンジェルに当たってしまうかもしれない・・・・・・そんな危険を孕んでいた。
「決まりだな。制限時間は夕方の六時まで」
「その時間までに一番の大物を釣り上げた者の側の勝ち、って事だな?」
「そういう事だ」
そしてガモフ組とヴェサリウス組は改めて海に糸を垂らし、釣り勝負が始まった。
「もし負けたらどうなっちゃうんでしょうか、この艦は・・・・・・」
「負けた時の事なんて気にするなって。それに万が一負けても向こうのあの二人のアナルは頂きだ」
「「いや、おまえは要らないぞ?」」
フロスト兄弟がハモった。

開始から小一時間が経過。
「やったぞ!また釣れた!!」
「グゥレイト!こいつは大物だぜ!!」
「稚魚はリリース、っと・・・・・・」
「ええい、これもキラじゃない!!」
「うほっ、良い魚・・・・・・」
ガモフ組は次々と魚を釣り上げていた。
そしてヴェサリウス組はというと・・・・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
清々しいくらいに坊主だった。
「何故だ!?何故我々の餌には食いつかん!!」
「餌も竿もなんの問題もないはずだけど・・・・・・」
「・・・・・・」
彼らの浮きはピクリとも反応せず、アビーは少しキレかけていた。
「おい見てみろ貴様ら!さっきから彫像のように身動き一つ取っていないぞあいつらは!!」
「おいおい、誰だよあんな所に彫像を置いた奴は」
「あそこ一帯だけ溜池にでもなったんでしょうか・・・・・・プッ」
「キラの彫像だって!?・・・・・・なんだ違うじゃないか!!」
「m9(^Д^)プギャー」
追い討ちをかけるかのようなガモフ組の嘲り。
それが引き金となって、ついにシャギアはプッツーンした。
「アビー!今すぐ例の物を持ってくるんだ!!」
「了解」
アビーは素早く艦内に戻り、そしてノートパソコンとなんかでっかいのを持って戻ってきた。
「兄さん、それは・・・・・・?」
「見ての通り・・・・・・ロケットアンカーだ!!」
ロケットアンカー・・・・・・連ザでソードストライクやインフィニットジャスティスが装備しているようなやつだ。ただサイズは
アビーが持ち運べる程度になっているが。
「アビー!」
「もう少し・・・・・・」
カタカタと高速でキーを叩いていくアビー。
「完了しました」
彼女がエンターキーを押すと同時に、彼女の膝の上にあるノートパソコンにこの海域の海中の様子が映し出された。
アビーは遥か頭上に浮かぶ衛星をハッキングしていたのだ。
「よし。それで大物の位置は掴めたか?」
「はい。あと30秒でヴェサリウスの真下を通過します。鯨が」
「鯨か・・・・・・」
鯨。言うまでもなく超大物であり、釣り上げればまさに「約束された勝利の獲物」となるものだった。
「き、汚いぞ貴様ら!!」
その様子を見て抗議の声を上げるイザーク。まぁ当然だよね。

「ふっ・・・・・・何を言うのかと思えば、見苦しい」
しかしそんなイザークを、シャギアは鼻で笑った。
「なんだと!?」
「一番の大物を釣り上げた者こそが勝者・・・・・・この勝負を支配しているのはそれだけだ」
「それはそうだが・・・・・・しかし!貴様らは美学がどうとか言ってなかったか!?今の貴様らの行為に美学など
微塵も感じられんぞ!!」
「故に一時的に捨てたのだ、私は・・・・・・勝利するために己の美学を、ナイルの川底に!!」
「それだと永遠に戻ってこないような気がするのですが」
「過程や方法などどうでも良い・・・・・・要は!」
海面にアンカーを向け、スイッチをぽちっとな。
「勝てばよかろうなのだァ――ッ!!」
勢いよくアンカーが射出され、それは海面――その下にいたシロナガスクジラに突き刺さった。
「よし!さぁリールを巻くんだオルバよ!!」
「巻くって・・・・・・人の力で鯨なんて釣れるわけないよ兄さん!!」
「良いのだ、オルバよ・・・・・・巻くフリだけでな」
「え・・・・・・」
アンカー射出装置の横には申し訳程度のリールが付いていたが、そもそもアンカーはリールで巻き上げるものではない。
本来は自動で巻き戻るものだ。
しかし今回は釣り勝負、釣り上げたという事実がなければ鯨をゲットしたとて無効になるだけ。故にシャギアはあらかじめ
アビーにダミーのリールを付けさせておいたのだ。セロテープで。
「でもまだ解決してないよ!明らかに重量オーバーだよ兄さん!」
「それも問題ない。アビー」
「捕縛に成功。今上げます」
するとチンケなアンカーの刺さったシロナガスクジラは、まるで釣り上げられた魚のように海上を舞った。
「え、ウソ!?なんで!?」
「よく見るんだオルバよ。あの鯨の体を」
「体・・・・・・あ」
オルバは気付いた。
アンカーしか刺さっていないはずの鯨の体が、何かに締め付けられているようになっているのを。
「あれってもしかして・・・・・・」
「そう・・・・・・テンタクラーロッドだ」
実はアンカーには何の意味もなかった。アンカーを使ったのは単に鯨を釣るに不自然でない得物というだけの、言わば演出
のようなものであり、実際はミラージュコロイドで透明化させたテンタクラーロッドで鯨を捕獲したのだった。
しかしタネを知らない者にはそれは、
「ば、馬鹿な!!ああも簡単に鯨を・・・・・・!?」
こんな風に映り、敗北感を味わわせるには十分なものだった。
「ふっ・・・・・・勝負あったな」
シャギアは勝ち誇った笑みを浮かべた。

午後六時。
「結果発表だ」
言い出しっぺのシャギアが全員にそう告げた。
「とは言え、するまでもないか・・・・・・」
勝敗は誰も目にも明らかだった。
様々な魚をたくさん釣り上げたガモフ組・・・・・・しかし、サイズ的にはどれも鯨には到底及ばない。
「くっ、この卑怯者どもめ!!」
「なんとでも言うがいい。しかし約束は約束だ。そちらのインモラルとやらをすぐに渡すがいい」
「くっ・・・・・・!」
約束を破棄してスタコラサッサしようとも考えたイザークだったが、武人気質の彼にそんなマネは出来ない。
己の信条と軍人としての判断・・・・・・イザークは初めて葛藤に苛まれた。
「ま、約束は約束だからな」
「あ、阿部・・・・・・」
イザークの肩にぽんと手を置き、そして阿部はシャギアに言った。
「約束どおり、ヴェサリウスを返してもらおうか」
「――!?」
一同が驚愕した。
「・・・・・・おやおや、何を言うのかと思えば・・・・・・」
「暑さで頭がやられたのかな」
「あなた方が鯨以上の獲物を釣ったという記録はないのですが」
「なぁお三方・・・・・・今回の勝負の勝利条件、もう一度思い出してみるといい」
まるでトリックを明かす探偵のような振る舞いで、阿部は語りかけた。
「何を言い出すのかと思えば・・・・・・」
「今日一番の大物を釣った者が勝者、だよね兄さん」
「・・・・・・」
「そう。今日一番の大物を釣った者が勝者だ。よしニコル、では今日とはいつから始まった?」
「え?えっと・・・・・・正確に言うなら午前零時から、ですか?」
「そうだ。つまり今回の勝負はあの男が勝負を持ちかける以前から既に始まっていたという事になる」
「ふん、それがどうしたっていうのさ!例えそうだとしてもおまえ達に鯨以上の獲物を釣った形跡なんてないじゃないか!」
「果たしてそうかな・・・・・・?」
「なに・・・・・・?」
「ここでおまえ達に質問だ。おまえ達はこの場にどうやって現れた?」
「どうって・・・・・・」
「それなら忘れるはずなかろう。何せ我々の艦は貴様に釣り上げられ――」
そこまで言って、シャギアは急に顔色を変えた。
「気付いたようだな。そう、俺は既に鯨以上の獲物を釣っていたのさ・・・・・・おまえ達が今乗っている、その艦をな!」
成歩堂のようにビシっと指を突きつける阿部。
「ぐ・・・・・・ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そして予想外の証拠を突きつけられた御剣検事のように仰け反るシャギア。

「あ、阿部・・・・・・!」
「なんの事はない。俺達は最初から勝っていたのさイザーク」
「馬鹿な!認められるわけないだろうそんなの!第一ヴェサリウスは魚じゃないじゃないか!」
「鯨も魚ではない!まぁ例え魚限定にしたとしても、鯨以外さっぱりなおまえ達に勝利の線はないけどな」
「ぐっ・・・・・・に、兄さん」
敗北感に打ちひしがれたオルバは、兄に目をやった。
「・・・・・・、くっくっく」
するとシャギアは、突然含み笑いをし出した。
「いや結構結構。素晴らしい。さすがは我が宿命のライバル、といったところだ。・・・・・・しかしな、おまえ達も一つ忘れている
事がある」
「ほう?なんだいそれは?」
「それはな・・・・・・私が美学をナイルの川底に沈めたという事だ!アビー!!」
『了解』
一瞬の出来事だった。
既にブリッジに戻っていたアビーの手によってシャギアとオルバの立っていた足場が収容され、そしてヴェサリウスは
一目散にこの場から消えた。
約束を反故にして逃げた、とも言う。
「・・・・・・はっ!貴様ら!ヴェサリウスを追うぞ!!」
いち早く我に返ったイザークは皆にそう命じ、
ズベッ!
「「「「あべしっ!!」」」」
駆け出そうとしたところで、足がもつれてすっ転んだ。
そしてそうしている間に、とうとうヴェサリウスの姿は見えなくなってしまった。
「ま、当初の目的は達成したしな」
そんな四人を尻目に、阿部は釣り上げた魚をクーラーボックスに収納していった。

「痛み分け、といったところだな」
「僕らと互角に渡り合うなんて、やっぱり彼らはライバルに相応しい奴らだったね兄さん」
「空気の読める私は何も言いません」
ヴェサリウス、ブリッジ。追跡されている様子はなく、ヴェサリウスは悠々と飛行していた。
「さて、食糧事情も無事解決したわけだが」
ヴェサリウスのMSデッキには、さっき捕獲した鯨が冷凍保存されていた。鯨だけとはいえ、あれだけの大きさあれば
阿部デスXが終わるくらいまでは余裕で持つだろう。
「そろそろ晩飯の時間だ。アビー」
「なんでしょう?」
「私は唐揚げがいい」
「僕はソテーがいいな」

「はい?何をおっしゃっているのですか?」
「決まっている・・・・・・今日の晩御飯だ」
「ですから、どうしてそれを私に言うのですか?」
「確かアビーは調理師免許を持ってたよね。だからぱぱっと作ってくれって事さ」
このヴェサリウスもガモフと同じような食事システムだ。ただ販売機には食材から調理するという機能はなく、故にあの鯨は
誰かが調理しなければ食べられないのだ。
「・・・・・・。分かりました。少々お待ちください」
そう言ってアビーはブリッジを後にする。
彼女の頬に伝った一筋の汗に、二人は気付かなかった。

そして食堂。
「鯨の唐揚げとソテーです。どうぞお召し上がりください」
「「・・・・・・」」
食卓に並べられたから揚げとソテー。
「た、確かに揚がっているな・・・・・・とても」
「ソ・・・・・・テー・・・・・・?」
どう見ても消し炭と消し炭だった。
「どうしたのですか?冷めない内にどうぞ」
「あ、ああ・・・・・・」
困惑しつつも料理を口に運ぶ二人。
「「・・・・・・」」
ガリッ
「「しくしくしく・・・・・・」」
とても料理のものとは思えない擬音が口の中で鳴り、二人は涙した。

次の日。
アビーは一人でブリッジにいた。
「おかしいですね・・・・・・」
シャギアとオルバは、腹が痛いという事で部屋で寝込んでいた。
「何がいけなかったのでしょう・・・・・・」
原因はおそらく昨日のアレ。
ふとアビーは、調理師免許を取った時の事を思い出した。
――「どうぞ先生。モツァレラチーズとトマトのサラダと娼婦風スパゲティです」
――「た、頼む・・・・・・これ以上君の料理を食べさせないでくれ・・・・・・免許あげるから」
「・・・・・・やはり私は料理がヘタなのでしょうか?」
アビーのそんな呟きが、誰もいないブリッジに響いた。

機動戦士阿部さんSEED DESTINY X
第二十一話〜あの後消し炭はフロスト兄弟が美味しくいただきました〜