Top > R-18_Abe-SeedDestiny-X_安部高和_34
HTML convert time to 0.008 sec.


R-18_Abe-SeedDestiny-X_安部高和_34

Last-modified: 2007-11-09 (金) 20:46:52

あの大戦から一ヶ月――何が発端となったかすら分からないという不可解な戦争から一ヶ月の時が経ち、
プラントもようやく落ち着きを見せた。
「こほっ、こほっ・・・・・・ああキラ、わたくしはもうダメですわ・・・・・・」
プラント総合病院。
あの大戦の最中になんでか分からないけど重傷を負っていたラクスはここに入院していた。
「せめて・・・・・・せめて最後に婚姻届を・・・・・・」
余す所なくぴっちりと包帯に巻かれた手で婚姻届をキラに差し出すラクス。その手の震えは、
余命幾ばくもないといった風だった。
「いやラクス・・・・・・そんな取って付けたように死にかけられても」
「ごふっ・・・・・・!も、もうわたくしは長くはありません・・・・・・ですからこれに判子を・・・・・・」
「『ごふっ』てラクス、血なんか出てないじゃない。てゆーか死にかけてるのに用意がいいんだね・・・・・・」
その婚姻届は必要事項は全て記入されており、後はキラが判子を押すだけだった。
「は、早く・・・・・・このピンクの包帯がわたくしの血で染まる前に・・・・・・」
「つーかカードゲームしてたんでしょ?クルーゼさんから聞いたよ」
「・・・・・・。ちっ、ですわ」
バレたと知ったラクスはくたばりかけの演技をやめ、ベッドから体を起こした。
「もう少しでしたのに・・・・・・」
「どこが?どの辺がもう少し?」
呆れた様子でキラはリンゴの皮を剥き始めた。ラクスが入院したという事で、キラは仕事を休んでここに来ていた。

もっとも、ラクスのお見舞いと言うよりラクスが何かしでかさないかなと心配になっての事なのだが。
「で、ラクス・・・・・・みんなに迷惑かけてないよね?」
「当然ですわ。むしろわたくしは模範患者そのもの、毎朝五時半に起きてジョギングしたり小さなお子様と
 遊んであげたりしていますわ。あ、今度院内ライブをやるのですけど、よかったら来てくださいましね」
「・・・・・・なんで入院してるの?」
「そんな事よりキラ。・・・・・・あーん」
視線を一度リンゴに落としてから口を開くラクス。言わんとするところは一つだろう。
「自分で食べなよ・・・・・・ピンピンしてるんだし」
「もう、キラったら。入院している恋人にリンゴを食べさせてあげるのは基本中の基本ですのよ?」
「誰が恋人?」
「細かい事は抜きですわ。さぁ、早く――」
「失礼します」
と、ラクスのセリフを遮って、金髪の女性が病室に訪れた。
「・・・・・・と、お邪魔でしたか?」
端から見れば恋人同士な二人を前に、彼女は気を遣うような言葉を言った。
「いえ全然。むしろ助かりました」
「ちょーお邪魔ですわ・・・・・・」
「お二人にすごい温度差を感じますが・・・・・・そんな事よりラクス様。これを」
が、それは単に言ってみただけなのかラクスの言葉を気にした風もなく、彼女はラクスに書類を渡した。
「・・・・・・またですの?」
「はい。今回の件は事後処理が色々と大変なのです」
「はぁ・・・・・・ゆっくりサボ・・・・・・じゃなくって療養も出来ませんわ」
「サボ?今ラクスサボリって言おうとしたよね?」
「お願いします。それでは失礼します」
そう言って、彼女は病室から出て行った。
「はぁ・・・・・・面倒ですわ」
「そうか・・・・・・病院で何かをしでかすんじゃなく、入院の時点で既にやらかしていたんだ・・・・・・」
「ん?何か言いました?」
「別に。それよりあの人は?」
「なんでもミネルバの新しいオペレーターですとか。結構優秀らしいですわ」
「ふぅん・・・・・・」
「名前は確か・・・・・・アビー・ウィンザー、だったかしら?ですわ」

一ヶ月前に一つの戦争が終わりました。
いえ、正確には『戦争が起こっていたと思われる状況』がそこにあっただけで、戦争をしていたのだと認識している人間は
誰一人としていません。戦争は終わったわけではなく、そもそも誰も戦争など始めてはいないのです。
その結果、軍は大きな混乱に見舞われました。気付いたら自軍のMSや戦艦がそこかしこに破壊され浮遊していたのですから、
それは無理も無い事です。おかげで軍の上層部はてんやわんやの大騒ぎで、普段怠けている(と噂される)三馬鹿こと
ラウ・ル・クルーゼ、アンドリュー・バルトフェルド、マルコ・モラシムの御三方も事後処理に追われる毎日だとか。
そんなこんなで一ヶ月、ようやくザフトも落ち着きを見せ始めました。
「アビー・ウィンザー、ただいま戻りました」
「ご苦労様。じゃあもう今日は上がっていいわよ」
「了解しました。失礼します」
グラディス艦長に背を向け、私は艦長室を後にしました。
あの戦争で最も困惑した人間は、おそらく私でしょう。
――何せ私は、気が付いたらミネルバのブリッジにいたのですから。
何故あの場にいたのかを私は知りません。ありのまま起こった事を話すなら、
「プラントの街を歩いていたと思ったら、ミネルバのブリッジにいた」という感じでしょうか。
何を言っているのか分からないかもしれませんが、私も何が起こったのか分かりません。

「あ、アビー!」
不意に声を掛けられ振り向くと、赤い瞳の少年が駆け寄ってきました。
シン・アスカ。デスティニーガンダムのパイロットで、ミネルバのエースである少年です。
そしてそのすぐ後ろには、誤射マリアことルナマリアさん。
「アスカさん。何か御用でしょうか?」
「ああ。今からメイリンのお見舞いに行くんだけど、アビーもどうかなって」
メイリンさん・・・・・・ミネルバのオペレーターで、今は自宅で療養しています。何か酷いショックを受けたようで、
発見された時には全身の約100%が砂になっていました。今では七割ほど形を取り戻したようですが、
まだ仕事が出来る状態ではないようです。
「ちょっとシン!私は反対よ!」
「え、なんで?」
「だ、だって・・・・・・前にアビーが来た時には・・・・・・」
そう、私は前に一度メイリンさんのお見舞いに行ったのです。
で、その時弱りきったメイリンさんを見て・・・・・・その、不謹慎なのですが・・・・・・欲情してしまいまして。
そしてメイリンさんに襲いかかろうとしたところをルナマリアさんに見つかり、その後三日三晩の死闘を繰り広げたという
次第です。しかしまさかルナマリアさんがあれほどの実力の持ち主とは・・・・・・ルナマリアさんを襲うのには苦労しそうです。

「問題ありません。すぐに行きましょう」
「ちょっとアビー!私は許可してないわよ!」
「私は許可を求めた覚えはありませんが」
「な、何よその態度は!?また戦争がしたいの、あなたは!?」
「それ俺のセリフ・・・・・・」
「いよぅ、子猫ちゃん達!なに揉めてンだい?」
と、ルナマリアさんと揉めていると小汚いオレンジがやってきました。
ウザイ、馴れ馴れしい、空気読めないの三拍子揃った、今すぐにでも消えてもらいたいハイネ・ヴェステンフルスです。
ちなみに彼は何者かに撃墜された後三日ほど宇宙に放置されて生死の境を彷徨ったらしいですが、どうでもいいですね。
「なんでもありません。さ、構わずお進みください。あなたを妨げる物は何もありません」
「いや、あるぜ。妨げる物は、さ」
「・・・・・・。なんですか、それは?」
「それはな・・・・・・俺の瞳を釘付けにする、カワイイ子猫ちゃんぐぼっほ!!!?」
言いながら肩に手を回してきたので、殺すつもりで脇腹に肘をお見舞いしました。あ、アスカさんが引いてる。
「あ、相変わらずキッツイなぁアビーちゃんは・・・・・・」
息も絶え絶え、といった風ですが、生きていました。ちっ。
「さて、ゴミムシの掃除・・・・・・もとい、ハイネさんが御沈黙なさったので行きましょうか」
「いや沈黙って・・・・・・大丈夫ですか、ヴェステンフルス隊長」
「だーかーら・・・・・・ハイネ、って呼んでくれなきゃ」
「上手くまとめてるようだけど、あなたを呼ぶつもりはないわよ?・・・・・・てゆーかメイリンのお見舞いってのは口実で、
本当はシンとどこか行こうと思ってたのに・・・・・・」
「取りあえず医務室に(ぴりりりり)・・・・・・!?もしもし、マユか!?ああ、兄だぞ!」
「ハイネの『ハ』は『ハルバートン』のハ〜♪」
「ああもうメンドくさい!シン、早く行きましょ!」
「うん、うん・・・・・・分かった!すぐに見るよ!・・・・・・あー、ルナ。悪いけどマユが海に行った時の写真送ってくれたから
 それ見るわ。お見舞いはまた今度な。じゃ」
「ちょっ、シン!・・・・・・ああもう、なんでいつも上手くいかないのよ・・・・・・」
「よしルナちゃん!じゃあ俺と一緒にごふっ!?」
「黙れ。・・・・・・はぁ、帰ってテレビ見よ・・・・・・」
「ルナちゃんまで・・・・・・じゃあアビーちゃんにゲブフォォ!?」
なんだかよく分からない内にお見舞いは中止になったようです。
いつもながらに騒がしい面々。一緒にいるととても疲れますが、私はそれを不快に思った事はありません(オレンジ除く)。
何故なら、これは私が望んでいたものだからです。行動や言動は滅茶苦茶だけど信頼は出来る彼らと――仲間と共に
過ごすという事は、私が望んで止まなかったもの。世界を恨む事しか出来なかった私は、あの不可解な出来事のおかげで
幸福な時間を手に入れる事が出来たのです。
「・・・・・・」
だから今の私はとても満たされている。何も不満なんて無い。
しかし彼らとこうしていると、不意に私の胸が何かに締め付けられる。
それが何なのかは分からない。だけど何かを失ったような、一種の喪失感が、ふとした瞬間に訪れる。
思い出そうとしても思い出せない。その感覚は本当に一瞬で、すぐに彼らの声にかき消されるようなもの。
――ただそれが、本当に大切なものだった事だけは確かだった。

『おい阿部!いつまでそうしているつもりだ!?』
プラント宙域。イザーク率いるガモフ隊は、哨戒任務の最中だった。
もちろんこのような任務はエリートたる彼らのする事ではないが、それは昔の話。今の彼らは罰として一年間緑服として
扱われる事になっていた。
事の起こりはあの戦争での、ヴェサリウス撃墜だ。ヴェサリウスを撃墜した事には何の問題もないのだが、それは戦争を
認識していればの話。あの出来事の『過程』がすっぽり抜け落ちているため、『ガモフがヴェサリウスを撃墜した』という
事実だけが残る――つまり、彼らは味方の戦艦を落としたという事になったのだ。
もちろんイザークに動機はない。しかし裁判官の「ついカっとなってやったんだろ?」に対して彼は、反論する術を
持たなかった。何故なら彼は、ついカっとなってやりそうな人間だったのだから。
そんなわけでイザーク、ディアッカ、ニコル、あとついでにアスランは、哨戒任務に就いていた。ちなみに阿部は別に
ザフトというわけではないのだが、まぁ暇だからね阿部さん。
で、その哨戒任務中に何かを見つけたのか、阿部はインモラルで出てそこいらをうろうろしていた。
「いや〜、この辺りだったと思うんだけどなぁ」
彼らが今居る場所はプラント最終防衛ライン付近――つまり、フロスト兄弟が消えた場所。
『いったい何を探しているんだ!?失くし物なら見つからんぞ!宇宙空間で何かを見つけるという事は
 とても難しい事なんだぞ!!』
どのくらい難しいのかと言うと、月蝕グランギニョルを口笛で吹くくらい難しいのだ。
「いや、失くし物ってんじゃない。ただな・・・・・・」
『・・・・・・ただ?』
「この辺りでとても気持ちの良いコトがあったような気がするんだ」
『なにィ!?そんなフザケタ理由でここまで来させたのか貴様!?だいたい気持ちの良いコトって貴様、
 そこかしこで掘っているじゃないか!!おそらく宇宙の七割は貴様の言う『気持ちの良いプレイス』だぞ!!』
『イザーク・・・・・・おまえ宇宙を市町村と同じように見てないか?』
イザークの戯言はともかく。
阿部のペニスはあの戦争の事を覚えていた。いくら記憶が消えても、体に染み付いた感覚だけは消せないのだ。
まぁだからと言ってどうという事もなく。気持ち良かったというだけでは別に何が起こるわけでもなし、
これから先数多の男を掘っていく内にこの感覚(快楽)も埋没していく事でしょう。
『もう行くぞ!!真面目に働かないとマジに降格されてしまうからな!!今更緑服など御免だぞ!!』
『・・・・・・』
ディアッカが悲しそうな表情を見せた。忘れるなかれ、コイツはデスティニーからずっと緑なのだ。
「気のせいだったのかなぁ。・・・・・・ま、いいや。んじゃあ最後に――フンッッ!!」
別に何を思うわけでもなく、阿部はゲイ・ボルグで宇宙空間を掘った。
「・・・・・・おっ?」

「あー、フリーデンに告ぐ」
荒野に佇む二つのMS。白い地上戦艦を前に、彼らはその進路を塞ぐようにして立っていた。
ここは地球。ただし満足な娯楽やネットワーク等とは無縁な荒廃した地球――AW世界の地球だった。
そしてその戦艦――フリーデンの前に立つ者達こそ、一月ほど前にこの世界に帰ってきたフロスト兄弟だった。
この世界に戻ってきた時、彼らはCEでの出来事を全て忘れていた。まるで長い夢から覚めたかのように、彼らは
いつも通りの朝を迎えたのだ。
向こうの世界での事を綺麗サッパリ忘れた彼ら――故に彼らはまた、いつもの日常を繰り返していた。
「速やかに停止し、我々の要求を受け入れる事を勧める」
『じゃないと今度こそ沈んでもらう事になるよ』
彼らの目的は言うまでもなくニュータイプの排除。世に出たニュータイプをとっ捕まえて表に出れないようにし、自分達の
価値を認めさせるという大きいんだか小さいんだかよく分からない目的だ。アベルさんは今頃地下牢で泣いている事でしょう。
「あー繰り返す。フリーデン艦長、ジャミル・ニートに告ぐ!」
シャギアは一旦間を置き、そして続けた。
「すぐにガロード・ランを引き渡すように!!」
――訂正。目的は変わり果てていた。アベルさんは今頃地下牢でケツを抑えながら泣いている事でしょう。

フリーデン、ブリッジ。
「ニート艦長!どうします!?」
「ニートって言うな。奴らの目的はティファか・・・・・・いい加減しつこい奴らだ」
彼の名はジャミル・ニート。ニートって聞くと原作キラや最近ではシグナム副隊長などが有名だが、彼こそ元祖ニートだ。
彼の目的はニュータイプの保護。二度とニュータイプを戦争の道具に使われないようにと、彼はフリーデンで旅を
続けながらニュータイプを保護して回っている。フロスト兄弟と違ってなんと大きい目的か。まぁ保護出来てるのは
今んところティファだけだけどね。
「で、どうします?ティファをくれてやりますか?」
「バカな事を言うな、サラ。それでは旅を続けている意味がないではないか」
『あー、繰り返す。フリーデン艦長、ジャミル・ニートに告ぐ!』
「ええい、仕方ない!ガロードを――」
『すぐにガロード・ランを引き渡すように!!』
「――な、なんだと!?」
普段とは違うシャギアの要求に、ジャミルは顔色を変えた。
そしてニュータイプの勘なのか、彼らの要求の意味するところをジャミルは正確に理解した。
「え、ガロード・・・・・・って。艦長、これはどういう――」
「私が出る!キッドにXの準備をさせろ!!」
「えぇっ!?ニート艦長、あなたコクピット恐怖症では・・・・・・」
「やかましい!ティファならともかくガロードを渡せるものか!!」
ジャミルは艦長席から立ち、素早く身を翻した。
「ガロードは私のものだ!!誰にも手出しはさせん!!」

――「・・・・・・兄さん。あいつ素直にガロードを渡すと思う?」
「いや、思わんな。何故ならあいつも我々と同じ性癖の持ち主・・・・・・ならばガロードを渡さぬ事など火を見るより明らかだ」
――「だよね。それじゃあ・・・・・・」
「ああ・・・・・・力ずくで頂く!!」
フリーデンからガンダムXが出てきたのを確認し、二人は臨戦態勢に入る。
『ティファはともかくガロードは渡さん!!』
「やはり貴様か、ジャミル・ニート!!」
『おまえが素直にガロードを渡さない事なんかとっくにお見通しなんだよ!!』
交錯する刃と刃。流石はニュータイプといった感じで、二対一にも関わらずジャミルは一歩も引いてなかった。
コクピット恐怖症?なんの事です?てな感じに。
『私のガロードに手を出そうとする輩は何人たりとも許さん!・・・・・・ティファ!サテライトキャノンを撃つぞ!
いつものアレをやれ!!私に力をよこすんだよ!!』
『艦長!!ティファならさっきガロードと一緒に脱走しました!!』
『なにィ!!?・・・・・・おのれ小娘、私のガロードをたぶらかしおったな!!』
『くやしいのうwwwwくやしいのうwwwww』
『黙れトニヤ。よしおまえ達、一時休戦だ。手分けしてガロードを探そうではないか』
休戦を持ちかけるジャミル。彼にとってガロードとはかけがえのない存在で、傍に置いておかないと居ても立ってもいられなく
なるのだ。
「ふっ、何を言うかと思えば・・・・・・」
シャギアはこの状況下でとてもフザケタ事を言い出すジャミルを鼻で笑い、
「良い考えだ、協力させてもらおう」
『一番最初にガロードを捕まえた人が・・・・・・だね、兄さん』
「そうだ、オルバよ。奴のヴァージンを手にするのは、な」
そして三人は手を取り合った。
三人はガロードが逃げたと思しき方向に向かってバーニアを噴かし――その直後に異常な光景を目にした。
「な・・・・・・なんだこれは!?」
小さな光。それは徐々に大きくなっていき、あっという間にMSが通り抜けられるくらいにまで広がった。
『これはいったい・・・・・・!?に、兄さん!!』
「ああ・・・・・・間違いない・・・・・・」
その光はまさにアヌス。生命が最初にくぐるゲートに酷似したその光から、まるで赤子のようにもがき這い出る人型の機械。
奇しくもその色は、生誕間もない赤子によく似た肉の色――
そしてその赤子は、この世界における最初の産声を上げた。
『うほっ、良い男達』

ばさり、と書類が床に落ちた。
「あら?どうしたのアビー?」
艦長室。タリアから書類を受け取ったアビーは、不意に書類を取り落とした。
彼女の視線の先には何の変哲も無い至って普通な艦長室の壁――しかし、それすらも彼女には見えてなかった。
何の前触れもなくアビーの頭に煌いた光――まるで開放されたダムの水のように、彼女の頭に様々な情報が
流れ込む。
「――――」
それは未知のものではない。その情報とは過去に彼女が見て聞いて経験してきたもの。
――記憶。抹消されたはずの記憶が、彼女の頭に再び蘇った。
「ちょっとアビー!?いったいどうしたの!?」
「・・・・・・!?」
タリアの声にはっと我に返る。
アビーは落とした書類を拾い上げ、机で端を整えると、それをタリアに渡した。
「え・・・・・・?いや、それは議会に提出する書類なのだけど・・・・・・」
「艦長」
いつも通りの無表情。おそらくこの艦に、彼女の微細な表情の変化に気付く者はいないだろう。
そしてアビーはタリアに告げた。
「申し訳ありませんが、今日で退職させて頂きます」
「え?いや、急にそんな事言われても――」
「すみません。私にはやらなければならない事がありますので」
タリアの返事を待つ事なく、アビーは艦長室から出て行った。
――さて、また忙しくなりますね。

『な、なんなのだこれは!?』
突如光の中から出てきた扇情的フォルムのMSを見て、ジャミルは声を上げた。
『はっ!?まさか、新連邦の新兵器か!?』
自分とは対照的に落ち着き払った二人の様子に、ジャミルはそう結論付けた。
もしこれが新連邦の新兵器程度で済むのならば、彼はどれだけ幸せだっただろうか。彼の目の前にいるのは人の手で造れる
兵器など軽がると超越した、この世全ての男を蹂躙せしめる者なのだ。
『いいのかい?ほいほい俺の前に出てきちゃって。俺はニュータイプだって構わず食っちまう男なんだぜ?』
『なにっ!?私を知っているだと!?貴様、何者だ!?』
『阿部さんだ。人は俺を阿部と呼ぶ』
『アベ?聞いた事のない名だ・・・・・・おいそこのフロスト達よ。こいつはいったいなんなのだ?』
先ほどから微動だにしない二人に尋ねる。
しかし彼らには、ジャミルの声は届いていないようだった。
「オルバよ・・・・・・分かるか?」
『分かるよ兄さん・・・・・・何が起こっているのかが』
彼らも全ての記憶を取り戻していた。おそらくインモラルが開けた次元の壁により二つの世界が一つになり、抹消された
記憶が蘇ったのであろう。世界が一つ・・・・・・つまり同じならば、記憶を消す必要はなくなる。
おそらくそんな感じでアビーやフロストらの記憶が蘇ったのだろう。
「さてオルバよ・・・・・・さっそくだがこの状況はいかんな」
『そうだね』
二人はインモラルが出てきた穴に目を向ける。
「我々は母艦から離れすぎている。これではまともな戦闘など出来やしないな」
『うん。このままじゃ通信もままならないしね。早いトコ母艦に戻らなきゃ』
「まぁ、彼女なら放っておいても来そうなものだが・・・・・・ここは男性である我々が赴くのが筋だろう、オルバよ」
『相変わらずだね兄さん・・・・・・性癖が変わっても性格は変わらないや』
そしてヴァサーゴ、アシュタロンは、フリーデンらに背を向け光の中に飛び込んだ。
「ジャミル・ニート・・・・・・ひとまず勝負はお預けだ。せいぜいそやつに噛み付かれないようにな」
『いや待ておまえら!コイツなんかおかしいぞ!貴様らの新兵器ではないのか!?』
『そんな事より俺のゲイ・ボルグを見てくれ。コイツをどう思う?』
『すごく・・・・・・大きいです。・・・・・・ではなくて!貴様の目的はなんだ!?』
『このままじゃおさまりがつかないんだよ』
『来るのか!?ふっ、私もニュータイプの端くれ、貴様に遅れは――』
『フンッッ!!』
『ア ッ ー!!』

――AWに響き渡る嬌声。
しかしそれは序曲でしかない。
世界を股にかけた阿部高和は、今度は次元を股にかけ男を掘り続けるだろう。
もし君達がノンケであり続けたいのなら気をつける事だ。
二次元と三次元の壁など、彼にとっては障子の紙程度でしかないのだから。
そう遠くない未来、彼は君達の背後に現れてこう囁くだろう――

――「や ら な い か」

〜〜fin

初代1が書く阿部さんSEEDシリーズはこれで終わりです(てゆーかこの続きはもはやスレ違い?)。
長い間(本当に長いよ・・・・・・半年?)お付き合いいただきありがとうございました。

機動戦士阿部さんSEEDシリーズ 完。

あ、ちなみにこの作品には著作権もクソもないので、続きを書きたいとか
この設定で別の話を書きたいとかいうキトクな方はご自由にどうぞ。