Top > R-18_Abe-SpecialEdition_安部高和_02
HTML convert time to 0.005 sec.


R-18_Abe-SpecialEdition_安部高和_02

Last-modified: 2007-11-06 (火) 21:38:05

明朝、ラクス邸。
「おはようございます、ラクス様」
「おはようござ・・・・・・ふぁぁぁ・・・いまふ」
寝惚け眼と寝癖頭を引っ下げて、ラクスはダイニングにやってきた。
「お食事の用意は整っております。さぁ、まずはお顔を――」
「・・・・・・」
テーブルの上には、モリタケの用意した料理が並べられていた。
食パン、紅茶、オムレツ、サラダ、etc・・・・・・まるで貴族のような朝食だった。まぁ実際ラクスはお金持ちだし。
普段ならさっさと顔を洗って空っぽになった胃袋に優雅かつ上品にその料理を流し込むのだが、今日のラクスは
普段とは様子が違った。
「・・・・・・要りませんわ」
なんと、朝っぱらからステーキもイケるラクス様が朝食を要らないと言い出したのだ!
「ラクス様。朝食を抜くのは体に毒ですぞ。朝食は一日の活力、抜いてはなりませんぞ」
「その赤い化け物みたいな口調が酷く不愉快ですが、とにかく要りませんわ」
そう言ってラクスは、モリタケの返事を待たずに洗面所へと消えた。
「いやはや、年頃の女性というのは難しいですな」
やれやれと思いつつ、モリタケはラクスの朝食に手をつけた。

移動中、車内。
ラクスは物鬱げな表情で、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。
「・・・・・・はぁ」
――お腹すいた。
恐らく生まれて初めて朝食を抜いたラクスは、早速空腹に喘いでいた。
「ラクス様。カロリーメイトなどいかがでしょう?」
「要りませんわ、そんなカロリーの塊なんて」
横に座るモリタケの差し出したカロリーメイト(チョコ味)から、ラクスはぷいっと顔を背けた。
「ラクス様。無理なダイエットは体に毒ですぞ?」
「放っといてくださいな。わたくしはラクス・クラインですのよ?世界で一番太る事の許されない人間なのです」
「しかしですね、それで万が一お倒れにでもなられては――」
「それにわたくしそっくりのミーアさんと比べると既にお胸が大敗を喫しているのです。そこでお腹が出てみなさい。
『ラクスはミーアの下位互換』なんて風評が立ってしまうではありませんか」
「いや既におっぱいの時点で下位互か――」
「黙りなさい」
モリタケの顔に、ハロ(プラチナちゃん)がめり込んだ。
「おっぱいミーアだからみっぱい・・・・・・じゃあ太ったラクス様はデブス――」
「黙りなさい」
運転手の頭に、ハロ(ハーミットクラブちゃん)がぶち当たった。
その後事故ったのは言うまでもない。

プラント最高評議会。
「以上が、仮面スタジアムの建設計画です。何かご質問は?」
「あいや待った!そのスタジアム建設予定地には僕の別荘があったと記憶しているが?」
「取り壊しだよアンディ・・・・・・」
「ばっはっは!既に解体作業用グーンが向かっておる!覚悟を決めるんだ!な!!」
「話は変わるが、僕はシロアリを飼っていてねぇ。今度君達の家にこっそり放してみようかと思うんだが、どうかな?」
「モラシム!即刻グーンを呼び戻せ!!」
「ばっはっは!我が家は鋼鉄製だからな!心配は要らん!な!!」
「謀ったなモラシム・・・・・・!」
「・・・・・・」
白熱する会議の中、ラクスは焦点の定まらない目で机を見つめていた。
時刻は13時半。ラクスは昼食も抜いていた。
「おや?どうしたのかねラクス嬢。元気がないようだが?」
「・・・・・・なんでもありませんわ」
「そう言えばなんかやつれてるねぇ。ご飯食べなかったのかい?」
「そ、そんな事ありませんわ!ええ、全く!はみでるほど食べてきましたわ」
「よう見れば腹が少し出ておる!食べすぎはよくないぞ!な!!」
「・・・・・・」
実際は全然食べてないのに腹が出ていると言われ、ラクスは大いにヘコんでしまった。
「いかんな、プラントの歌姫ともあろう者がその体たらくでは。ラクス嬢、ダイエットでもしてみてはどうかね?」
「か、考えてみますわ・・・ほほほ」
――既にしていますわ!!
「よかったらこの飽食丸を上げようか?これは食べるのに飽きる薬らしいぞ?」
「それは飽きるまで食べ続ける、の間違いではありませんか?」
――ってか元ネタが分かり辛すぎですわ!!
「ばっはっは!これではミーアとの差がますます広がるな!な!!」
「は、はは・・・・・・」
――わ、わたくしが気にしている事をこの髭中年は・・・・・・!!!
そして会議終了まで、ラクスは無神経な中年達に殺意を煮やしながらも終始ぼんやりとしていた。

夕刻、車内。
「・・・・・・」
ラクスは見るも無残な状態になっていた。そのうちキノコでも生えるんじゃね?みたいな。
「ラクス様。あまりご無理をなされては――」
「無理などしていませんわ・・・・・・」
明らかにやつれてはいるが、お腹は一向にヘコんでくれなかった。
――ああもう、忌々しいですわね、このお腹は!!
そう心の中で毒づいて自身の腹を殴るも、ただ痛いだけだった。
「食事を抜くのではなく、何か運動でもされてはいかがでしょう?」
「嫌ですわ」
「・・・・・・」
才能溢れる彼女も、スポーツだけは苦手だった。未だに逆上がりが出来ない、と言えば分かりやすいだろう。
「・・・・・・いや、」
運動即ちスポーツになるとは限らない。要は体を動かせばいいのだ。
そしてラクスはある事を思いつき、そしてモリタケにこう言った。
「モリタケ。明日地球に降りますわよ」

ベルリン市街。
ラクスとモリタケは、朝一で地球に降りてこの地へと赴いた。
ベルリンには未だに前大戦の爪あとが残されており、今も復興作業が行われていた。
「人の為になってダイエットにもなる・・・・・・一石二鳥ですわ」
「はぁ・・・それはごもっともですが・・・・・・」
二人は作業服に着替えていた。加えて軍手に黄色いヘルメット。今のラクスはどう見てもプラントの歌姫には見えなかった。
「ラクス様に力仕事は不向きかと・・・」
「そんな事はどうでもいいのです。それよりモリタケ。あなたに仕事を与えます」
「それは言わずもがな、です」
「なら早く行動なさい。明日にはプラントへ帰らねばならないのですから」
「承知しました」

「ふぅ。後はあっちの資材を――」
タオルで汗を拭う作業員の少年の背中に、気配を完全に消したモリタケが声をかけた。
「失礼」
「ひぃっ――!?・・・・・・って、モリタケさん?」
「左様でございます、キラ様」
キラ・ヤマト。二度の戦争においてキング・オブ・不幸の名を冠した彼は、ここベルリンで復興作業の手伝いをしていた。
「ど、どうしてここにモリタケさんが!?・・・・・・って、理由は一つしかないよね」
「その通りでございます」
「で、今度はどんな無茶を言ったの?ラクスは」
「それがですね、これこれこういう事情でして」
モリタケはキラに事情を話した。
「・・・・・・ラクスらしいね」
「ですからキラ様。あなたからも言って差し上げてください。無茶なダイエットはやめてくれ、と。キラ様の言葉ならば、
ラクス様も聞き入れてくれるでしょうから」
「分かりました。なんとかしてみます」

「キラ!」
ふらつく足を必死に動かして、ラクスはキラの元へと駆け寄った。
「ラクス!・・・・・・って、酷いなこりゃ」
ラクスの顔には死相が浮かび上がっていた。今の彼女なら死兆星だって見えるだろう。
「会いたかったですわキラ!」
そう言いながらキラに抱きつくラクス。
「――重っ」
「ぐはっ・・・・・・」
ラクスは6000ダメージを受けた!
「じゃ、なくて。どうしたのさラクスこんな紙風船みたいに軽くなって!?」
「・・・・・・どうして棒読みですの?」
「き、気のせいだよ!そんな事より、一体何しにここに来たの?」
「もちろん復興支援のためですわ。ええ、それ以外の理由など断じてありませんわ」
見栄を張りたいお年頃、なのですよ。
「そ、そう・・・・・・。でもさ、そんなふらついた体じゃあとても作業なんて・・・・・・」
「大丈夫ですわ!ほら、木材だって軽々と運べますわ!」
そう言ってラクスは立てかけてあった木材を肩に乗せ、
「・・・・・・助けてください」
あっさり下敷きになった。

「はぁ・・・しょうがないな、まったく」
キラは木材をどかすと、仮設テントからある物を持ってきた。
「はい」
「こ、これは――!?」
四角いそれは、作業員用の弁当。コンビニやスーパーにでも売っていそうな安っぽいそれは、しかし今のラクスには
どんなご馳走よりも輝いて見えた。
「食べなよ。そんな体じゃあ作業どころか生活にだって支障が出るでしょ?」
「そ、そんな事――」
「実際出てるでしょ、支障。立っているのもやっとなんて、とても普通じゃないよ」
「で、ですけど・・・・・・」
弁当をちらちらと見ながらも渋るラクスに、キラは語りかけた。
「ねぇラクス。言ったよね?もう誰にも迷惑かけないって」
「――!・・・ま、まぁ、言いましたけど・・・・・・」
今後は誰にも迷惑をかけずにプラント、ひいては地球のために力を尽くすという事で、キラは洗脳の件を許したのだ。
「でも今ラクスはその約束を破ってる。無茶なダイエットをして、みんなを困らせている。・・・・・・違う?」
「それは・・・・・・。で、でもわたくしは――」
「ラクスの言いたい事は分かるよ。でもさ、そうやって無理をする事を誰が望んでいるの?ラクスのファンだって、
ラクスが倒れたって聞けば悲しむよ」
「そうかもしれませんけど・・・・・・でもこのままだとわたくしはおデブさんになってしまうのですよ?」
「そうかもしれない。けどそうじゃないかもしれない。ただ今分かっている事は、ラクスはこのままだと体を壊すって事。
ラクスはまだ子供なんだしさ、無理にダイエットする必要なんて全然ないんだよ」
「・・・・・・」

ラクスはしばしの間黙り込んで、そしてぽつりと呟いた。
「・・・・・・キラは、」
「ん?」
「キラはいいんですか?その・・・・・・恋人が太る事になっても・・・・・・」
「・・・・・・」
あれ?いつの間に恋人になったんだろ?
そう思うキラであったが、とにかく今はラクスをどうにかするのが最優先。優しい口調で、キラはラクスを諭した。
「バカだなぁ。僕がそんな事で嫌うはずないじゃないか」
「――!?ほ、本当ですか!?」
「う、うん。もちろんだよ!」
ひょっとして僕、何か取り返しのつかない事を言ってしまったのでは?と思うキラだった。
するとラクスは、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「ちょ、ラクス!?」
「よ、よかった・・・・・・わたくし、キラに嫌われたら・・・どうしようかと・・・・・・」
「そ、そんな事あるはずないじゃないか!ささ、そんな事より早く食べなよ!」
何かとてつもないフラグを打ち立ててしまったのでは?と思うキラだったが、真にその通りだから困る。
「はい・・・・・・、いただきます・・・・・・」
そしてラクスは弁当に手をつけた。
「がつがつがつがつ!」
「・・・・・・」
この日、作業員達はわざわざコンビニまで昼食を買いに行くハメになった。

後日。
「無理なダイエットはやめましたけど、先日の復興支援で体重はガタ落ちしたはずですわ♪」
そう言いながら体重計に乗るラクス。
カッチカッチと数字が動き、そして針の指した数字を見てラクスは――
「・・・・・・、おふっ」

スペシャルエディション 『ピンク様の憂鬱』
――完