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R-18_Abe-SpecialEdition_安部高和_03

Last-modified: 2007-11-06 (火) 21:38:14

スペシャルエディションその3
〜雨降って・・・・・・〜

プラント、とあるバー。
金髪の女性が、もう何杯目かも分からないカクテルを呷っていた。
「ひどいんですよぅあの二人・・・・・・この前なんか私のラーメンに胡椒を入れてきたんですよぅ?私が辛いの
ダメって知ってるはずなのに・・・・・・ぐびぐび」
「お客様。もうその辺にしておいてはどうですか?体に悪いですぞ?」
「うるひゃい!もぉ〜う一杯!」
「やれやれ・・・」
酒を呷りつつバーテンにくだを巻く女性。バーテン(モリタケ)は、呆れつつもアルコールを抜いたカクテルを差し出した。
モリタケはラクスのマネージャーの他にバーテンのバイトもしていた。ラクスがプラント最高評議会の議員となってからは
歌手としての活動が減ったため、モリタケは割と暇だった。
「ぐびぐび・・・・・・ひょっと!?これアルコール入ってらいでしゅよ!?」
「アルコールの取り過ぎは危険です。MSのパイロットなのでしょう?少しは自重なされた方が――」
「もう乗りませんよぉ〜だぐびぐび」
彼女は前大戦中はエースパイロットとして活躍していた。最新機を乗り回し、あらゆる戦場を駆け抜けていた。
しかしある時、とあるMSと交戦してからケチがつきはじめた。同じMSに乗っていた仲間からは蔑まれ、挙句ダメ赤服
との呼び声の高いパイロットに秒殺されてしまった。エースとしての自信と仲間・・・・・・その二つを失って、彼女は
自暴自棄になっていた。
彼女の名前はヒルダ・ハーケン。戦場では眼帯を付けて髪をオールバックにしている彼女は、今は伊達眼帯を
外して髪を下ろしており、そうした彼女の顔は戦場でのそれとは似つかないほどだった。姐→姉みたいな感じ。
どんな顔かは各自で想像してください。そして加えて人格まで変わるから困る。姐御→お姉さんみたいな。
そしてあの日、ヘブンズベースで貫かれたヘルベルトとマーズは、ヒルダに対する態度を一変させていた。
詳しくは本編『機動戦士阿部さんSEED DESTINY』で。とにかく言う事をきかなくなって、ついにドム隊は解散と
なってしまったのだ。
「しくしくしく・・・・・・」
「困ったものですな・・・・・・」
グラスを磨きつつ、モリタケはそう呟いた。

プラント、ザフト軍基地。
「はぁ・・・・・・」
ため息を吐きながら通路を歩くはヒルダ・ハーケン。ここのところ嫌な事続きだったので、うっかり髪のセットと伊達眼帯を
忘れていた。おかげで彼女がヒルダだと気付く者はいなかった。
戦争が終わった後、『ラクス様と愉快な仲間たち(要するにラクシズ)』は解散し、パイロットは皆ザフトに戻っていた。
待遇はザフトの時と同じであり、ヒルダは赤服、ヘルベルト、マーズは緑服待遇をそれぞれ受けている。
赤服のヒルダは個室が与えられ、故に彼女の素顔を知る者は一部の例外を除いては一人もいなかった。
基地内は活気に溢れていた。明日行われる予定の、別のザフト基地との合同模擬演習のためだ。その演習は
昇格試験も兼ねており、特に緑服の者にとっては憧れの赤服への重要なステップとなっていた。
「今度こそ赤に昇格してやるぜ!」
「いいわよねぇ個室・・・・・・」
「俺、明日の演習が終わったら結婚するんだ・・・・・・」
若干一名不吉な言葉を吐いているが、緑服の彼ら彼女らは未来の赤服を想って気合を入れていた。
と、
「いよう!ヒルダちゃんじゃないの!」
「眼帯はどうしたんでちゅか〜?」
ヒルダの素顔を知る一部例外ことヘルベルト、マーズと出くわした。
「あ・・・・・・ヘルベルト、マーズ――」
「あん?ヘ ル ベ ル ト?」
「おかしいでちゅね〜、言葉が足りませんよ〜??」
「・・・・・・ヘルベルトさん、マーズさん。な、何かご用ですか・・・?」
「いやぁ〜、昨日ちょ〜っと飲みすぎちゃってさ〜」
昨日、とヘルベルトは言ったが、今もなお酒臭いところを見るに、どうやらついさっきまで飲んでいたようだ。
「給料日までピンチ、みたいな?」
「・・・・・・」
彼らの言わんとするところはすぐに分かった。要するに金を貸してくれという事だ。
「で、でもこの前も貸したし――」
「はぁ!?なになに?俺らが金せびってるってぇの?」
「そういう風に見てたんだぁ〜。あ〜傷ついたなぁ〜慰謝料要求しちゃおっかな〜」
「そ、そんなつもりじゃ・・・・・・」
「じゃーどんなつもりだったんだオラ?」
「めんどくせー。いいから出せって。ほら」
「・・・・・・」
二人に肩を組まれ、ヒルダは渋々財布から諭吉さんを二枚取り出した。
「うほっ、サンキューヒルダちゅわん♪」
「来世あたりに返すねん♪」
「そ、それより二人とも・・・・・・明日の準備とかは大丈夫なの?」
「明日ぁ?」
「何かあったっけ?」
「ほ、ほら、合同演習。昇格試験も兼ねてるし、どうなのかなぁ〜って」

「ああ、あれか」
そう言えばそんな事もあったね、といった表情のヘルベルトとマーズ。
「ラクショーっしょ。だって俺ら、エースだったんだぜ?むしろなんで今まで緑だったんだって話」
しかし興味がないわけではなく、ただ二人とも楽勝だとタカをくくっていただけだった。彼らはあのドムを任されたパイロット、
今時グフやザクに乗っている他の緑には負ける気はしなかった。
「そ、そう。頑張ってね、応援してるから」
「はぁ?応援?いらねー」
「ツキが落ちるっての。ま、ツキに頼んなくても実力あるしな俺ら」
「そ、そうだよね・・・・・・はは」
変わってしまった二人を見て、ヒルダは心の中で泣いた。

ザフト軍基地、演習場。
『ではこれより合同演習を行う!各員、実戦のつもりで行うように!!』
基地司令がメガホンでパイロット達にそう告げ、それが演習開始の合図となった。
「・・・・・・はぁ」
広い格納庫の中で、ヒルダはため息をついた。普段なら血が騒ぐはずの演習も、今の彼女にはただ億劫なだけのものだった。
ヒルダは今日もノーメイクだった。別に忘れていたわけではなく、ただのやる気のなさの象徴だった。こんな気分では、眼帯を
付けたって何が変わるわけでもない。こんな沈んだ顔のヒルダ・ハーケン(メイクアップ時)を他人に見せるのは憚られた。
「い〜やっはぁ!今日で緑ともおさらばかぁ〜」
「今夜は祝勝会ってか!ぎゃははは!」
と、自身のMSに向かうヘルベルトとマーズの声が聞こえた。彼らのテンションはシラフにしては異常であり、大方昨日も
飲み明かしたのだろう、とヒルダは思った。
「ねぇ二人とも!そんなに飲んでて大丈夫なの!?」
「あぁ?なんだヒルダか。大丈夫って何がだよ」
「演習。そんなんじゃ勝てるものも勝てないよ?」
「いちいちうるせーなー。おまえは俺のお袋かっての」
「で、でも!せっかくのチャンスなのに――」
「今更俺らが負けるわけねーだろ。んな事より金貸してくれよ」
「今日祝勝会開かなきゃなんねーしさ。いいだろ〜?赤服って儲かるんだろ〜?」
そんな事はなく、普通のサラリーマンと同じくらいの給料である。
「・・・・・・(ぼそっ)」
こうも腐ってしまった二人を見て、ヒルダの胸にふつふつと怒りが沸いてきた。
「あぁ?今なんか言ったか?」
「な事より金貸して――」
「いい加減にしなさい、二人とも!!」
ヒルダの怒声が格納庫に響き渡った。
「いくらエースだったからって、そんな状態じゃ勝てるものも勝てないわよ!不摂生はパイロットにとっては御法度、それは
アカデミーで習ったでしょ!?それに今日のは模擬戦とはいえ実戦なの!ヘタしたら死ぬのよ!?分かってるの!?」
腐っても元は部下。これから実戦に向かうにはあんまりな彼らの態度に、ヒルダは思いの丈をぶちまけていた。
「――――」
そんな彼女の叫びを聞いたヘルベルトとマーズは――

「うるせぇ!!」
「はうっ!?」
「耳元で怒鳴るな!!」
「いたっ!?」
ヒルダに蹴りを入れた。それぞれケツと腿に。たまらずヒルダは尻をついてしまった。
「偉そうによぉ!いつまで隊長気取りだコラ!?」
「クソみてーな説教してんじゃねーよ、ボケっ!!」
ヒルダに罵声を浴びせ、二人は自身のMSへと向かった。
「・・・・・・しくしくしく」
格納庫にへたり込んだヒルダは、ただただ泣くばかりだった。

そして演習が始まった。
形式は基本2対2。ただMSの性能差によって数は上下する。
『では次!ヒルダ・ハーケン!!』
「はっ!」
司令に呼ばれたヒルダは演習場に出た。
相手はザクとグフ。ザク+グフ=ドムという数式に基づき、彼女は二機を同時に相手にする事になった。
『よし、始め!!』
そして演習が始まった。
「・・・・・・はぁ」
コクピットの中で、ヒルダはまたため息を吐いた。
相手パイロットは二人ともまだ未熟、正直楽な相手だった。その気になれば瞬殺出来るだろう。
しかし今のヒルダはその気になる気がなかった。勝ったところでどうなるわけでもなし、適当に操縦して
相手の攻撃をのらりくらりと回避していた。
「――あれ?」
ふと目を遣ると、遠く離れた場所で行われている戦闘が目に映った。
「あれって・・・・・・」
ドム二機とグフ三機の戦闘。ドムはまだ量産ラインに乗っていないので、必然的に乗っているのはヘルベルトとマーズ
という事になる。
グフ三機の動きは目を見張るものがあった。おそらくベテランなのだろう、巧みな操縦技術でドム二機を翻弄していた。
「・・・・・・何やってるのよ」
しかしその動きは、目を見張りはするものの驚きべきものではなかった。あの肉色のMSやインパルスに比べればごく平凡
なもので、正直自分なら3対1でも勝てるだろうと思った。
なのにあの二人。最新機ドムを駆り共に戦場を駆けたあの二人は、彼らに押されていた。バズーカやビームマシンガンは
悉く回避され、いつビームソードに斬り裂かれてもおかしくない状況だった。
「・・・・・・」
正直、二人の操縦は目も当てられないようなものだった。もしこれが実戦なら、彼らの命運はカップラーメンが出来るより
早く尽きるだろう。
そんな二人を見てヒルダは酷くもどかしくなった。本来の二人なら一分で撃墜出来るはずの相手にああも翻弄され、
いつ撃墜されてもおかしくない状況に。
「――――」
たまらずヒルダは、ポーチから眼帯とムースを取り出した。

『くそっ、どうなってんだ!』
『やべぇ、酔いが回って・・・・・・』
散々だった。あの程度のパイロットに、あの程度のMSにやられそうになっている。
『おいマーズ!ちゃんとフォローしろ!!』
『あぁ!?てめぇこそしっかり撃ちやがれ!!』
これでは赤は絶望的。焦燥に駆られ、二人は口論を始めてしまった。
『うっせーよ!さっきから地面ばっか撃ってる奴に言われたくねーよ!!』
『あんだと!?太陽にバカスカ撃ってるおまえに言われたくねぇんだよ!!』
『んだとコラ!やんのか!?』
『いつでもこいやボケ!!』
グフそっちのけで口論をする二人。当然それは多大な隙を生むわけで、
『もらったぜ!!』
『『――!?』』
気付けばグフに接近を許してしまっていた。いくら最新機のドムとはいえ、近接戦闘に特化したグフ相手にこの距離では
到底太刀打ち出来ない。
ああ終わった。さようなら赤服、さようならドム。こんにちは緑服、こんにちはバビ・・・・・・
そう諦めかけた時、コクピットに聞きなれた彼女の声が聞こえた。
「スクリーミングニンバス展開!!」
『『――!?』』
いつも自分達に命令を下していたその声。その声に体が勝手に反応し、二人はスクリー(ryを展開した。
『うおっ、まぶしっ!!』
スク(ryはビームを弾くバリアであり、接近戦では何の意味も持たない。しかしそれはビームを弾くバリアという観点から
見た話であり、展開時に発生する光は目くらましという別の意味でのバリアになり得る。
両機はすぐに体勢を立て直し、その声の主の元へと駆け寄った。
『おまえ、なんでここに――』

「この馬鹿野郎ども!あんな相手に何てこずってんだい!?」
二人の惨状を見てられなくなったヒルダは、たまらず彼らの演習に乱入していた。もちろんあの眼帯を付けて、髪も
オールバックにしていた。おかげで操縦桿がムースでベトベトだが、そんな事は気にならなかった。
「行くよ野郎ども!ジェットストリームアタックだ!!」
『いや、だからなんで――』
「ごちゃごちゃうるさいよ!!返事はどうした!?」
『『り、了解!!』』
ヒルダの剣幕に押され、二人は改めてス(ryを展開した。
「よし行くよ!ジェットストリーム、アタァァァァァァックッ!!」
そして三機は連なり、グフへと向かっていった。
『こらおまえ達!何やっとるか!!』
「はっ!ごちゃごちゃうるさい爺さんだね!!あんたも喰らいたいのかい!?」
『な、なんだと!?』
基地司令に向かっての暴言。今のヒルダは、皆の知る・・・そして二人の知るヒルダ・ハーケンだった。
『『・・・・・・』』
そして二人は思い出す。他のパイロットとケンカを繰り返し、いつしか『ザフトの不良品』と呼ばれるようになった自分達を
拾ってくれたのは、他でもない彼女だけだったという事を。
それまでの不摂生をきっちり咎め、最新機を任されるまでにしてくれたのは彼女だったという事を二人は思い出した。
それはノンケもゲイもない、ある種親兄弟よりも濃い繋がり、信頼関係だった。
「鬱陶しい爺さんは無視だ!あのグフを片付けるよ!!」
そのヒルダの声に、二人はこう応えた。
『『了解、姐さん!!』』

後日。
演習での行いの罰として、三人はトイレ掃除一ヶ月を命じられた。
当然ヘルベルト、マーズの赤昇格は見送られ、加えて減給処分も言い渡された。
しかし二人はちっとも残念とは思わなかった。
何故なら彼らは、もっと大切な物を手に入れたのだから――
「「姐さん!手伝います!!」」
「ちょwwここ女子トイレwww」

スペシャルエディション 『雨降って・・・・・・』
――完