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SCA-Seed傭兵 ◆WV8ZgR8.FM 氏_世界が彼らを裁かないのなら

Last-modified: 2009-03-19 (木) 20:55:55

その空間に、嵐が起こっていた。

 

圧倒的な暴力に、その空間に存在していた全てが無力な木々のように抗うことを許されず、
根扱ぎにされていく。
それが通り過ぎた後には、木片の一欠けらほどが無惨に漂っているのみ。

 

否、それは無力な木々ではない。

 

空間は宇宙であり、引き裂かれる者達は鋼で出来ていた。
木片はそれらの残骸であり、哀れな搭乗者達の死骸であった。
それを行った者もまた、嵐などでは無い。

 

漆黒に染まったそれが動くたびにザクが、グフが、戦艦がズタズタになり、大輪の華を咲かせていく。
『来るなァッ! 来る――』
また一つ、断末魔を遮って宇宙に爆光が閃く。
それを背景にして浮かび上がった影―巨大な翼を背負った―に向け、数十条の閃光が奔り、それを貫いた。
全身を幾重にも穿たれたそれが爆裂し、一際大きな光球となって消滅する。

 

『ざまあ見やがれ! 野蛮なナチュラルが調子にの――』

 

乗るからだ、と続けようとしたグフの白服パイロットの腹から、真紅の刃が飛び出す。
へ?と状況を理解できずに疑問符を浮かべ、そのまま微塵も残さずに蒸発した。

 

それに気づかない彼の部下達――安堵の溜息を付いたザフトのパイロット達がそれを見るのと、
隊長機が爆散するのは同時だった。

 

彼らは見た。
粉微塵に弾けた隊長機の影から赤い光を纏った黒い機体が出現し、自分達に向かってくるのを。

 

ある者は絶叫を上げながら機体を方向転換させ逃げ出し、
ある者はビームアックスを抜いてそれに襲い掛かった。
が、襲い掛かった者は瞬時に手足を引き千切られ、注ぎ込まれた何かに全身を泡立たせて壊死し、
逃げ出した者は意思が在る様な軌跡を描く刃に八つ裂かれ、四散した。

 

最後まで生き残ったザクの搭乗者――彼は、熱心なクライン派だった。
だから、その瞬間もラクス・クラインとキラ・ヤマトに祈った。
熱心な信奉者(ファン)は救われる。
その言葉を信じて。

 

それが、彼らプラントのコーディネーターが野蛮だと切り捨てた行為とほぼ同一だと気づかないまま。

 

「おお、天に益します我らが歌姫(ラクス様)よ、軍神(キラ様)よ、我を救いたまえ――」

 

『残念ながら、救いは無い』

 

凍て付きながらも何処かあどけなさを残した声に彼が目を開くと、
眼前のディスプレイに真紅の双眼が映りこんでいた。
これは、死神かと叫ぶ寸前コクピットを貫いた閃光に、彼は蒸発した。

 

「アマ……じゃなくてマスター。終りましたよ」
嵐――漆黒のデスティニーのコクピットで、機体の目と同じ色をした瞳を持った少年が、誰かに話しかける。

 
 

十数機のモビルスーツの残骸が漂う空間。それをモニターで眺める女が居た。
豊かな薄緑の髪を無造作に伸ばし、とてもではないがかつて一児の母だった等とは思えない
その熟れた肢体をリクライニングシートに預けた女。

 

『アマ……じゃなくてマスター。終りましたよ』

 

モニターの右下にウィンドゥが開き、少年の声が伝わってくる。
それを聞いた女が、僅かに口元を吊り上げる。

 

「お疲れさま、アスカ君……帰投してくれる?」
『了解です、マスター』
その言葉と共にウィンドゥが閉じ、同時にモニターからも光が消える。
そのモニターを見つめながら、女は思考する。
あの少年と自分の類似性に。

 

自分も少年も、あの者達によって全てを奪われた。
自分は歌姫達に愛した夫と息子を奪われ、少年は英雄に家族と親友、恩人を奪われた。
自分達から全てを奪いながら、あの者たちは英雄として祭り上げられ、全世界の人間から称えられている。

 

こんな不条理。認められるわけも無い。
だから――

 

「世界が彼らを裁かないのなら、私達が裁いてあげるのよ……
 ね、あなた、ニコル、あと少しだから……」

 

足元の非常灯以外の明かりが落ちた闇の中で、
女――ロミナ・アマルフィは歪んだ笑みを浮かべた。