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SCA-Seed傭兵 ◆WV8ZgR8.FM 氏_二月十四日

Last-modified: 2009-03-19 (木) 20:43:54

二月十四日。
地球上においては想い人にチョコレート等を渡す、一種の祭典のような日である。

 

本来ならば。

 

大西洋連邦首都、ワシントン。
例年ならばデパートや小売店がそういった商戦を繰り広げているはずの街は静寂に満ちていた。
人が居ないわけではない。住人は何時も通りに生活を続けている。

 

そう、何時も通りに。

 

『あの日、私たちはは大きな過ちを犯してしまいました。
 ですが、何時までも沈み込んでいる必要はありません。
 私たちは生きていますわ。私たちが過去に囚われず、前に進むことを
 犠牲になった方々も望んでいることでしょう。
 私も、あの戦争で父を失いました。ですがそれは、この平和と自由のために礎になったのです。
 皆さんの家族も、きっとそうでしょう――』

 

街頭に設置されているモニターが、誰かの演説を中継している。

現プラント評議会終身最高議長兼地球圏守護騎士団名誉盟主、ラクス・クライン。

 
 

数年前に起こった“血のバレンタイン”の追悼演説。
その悲劇の犠牲者達への慰問を行う。
予定地は、地球上における主要都市すべて。
なお、慰問期間中は、民間及び国家における一切の式典、行事、表彰等の実行を禁ずる。
実行した場合、プラント評議会終身最高議長兼地球圏守護騎士団名誉盟主ラクス・クライン閣下、
ひいては地球圏に対する反逆行為と見做し、厳重に指導を行う。

 
 

以上が一月の下旬、突如としてプラントから地球連合へと一方的に通達された。

 

暴挙であるとする批判がすぐさま湧き上がり、すわ戦争かと大騒ぎになったが、すぐにそれも治まった。
真っ先に反論した大西洋連邦のとある国家。その首都にNジャマーが一基、投下されたのだ。

結果その国家はエイプリルフール・クライシスを再現することとなり、批判は一斉に鎮静化した。

 
 

『この慰問を通し、私たちのことをもっと理解していただきたいのです。
 私たちプラントの住人は、過去二度の大戦で大きな犠牲を払いました。
 ですが私は信じています。
 いつかプラント、いえコーディネーターとナチュラルが手を取り合うことができると!
 私には覚悟がありますわ。私たちは戦います。その為に、力を貸して欲しいのです!』

 

「……よく言うぜ。犠牲を払わされたのは俺たちだっつうの」
モニターに映し出されたラクスの馬鹿でかい顔を見上げ、初老の男性が呟いた。
彼は、内心この状況に怒りを覚えていた。
今年はバレンタインデーが無い。そう知ったときの孫娘の落胆した顔が忘れられないのだ。
「この電波ピンクが。死んじまえ」
男性がそう呟いた直後、背後に立った男がその腕を捩じ上げる。
不敬罪で逮捕する。その言葉と共に。
見れば、周囲でも似たような事が起きていた。
男性は身を捩って暴れるが、男の筋力――コーディネイト故に――に押さえつけられる。
「畜生がッ! 放しやがれぇっ!」
男性のその叫びと共に、巨大な影が辺りを覆った。
今日は快晴の筈だ。そう思った男性が首を回し、上を見ると――。

 

巨大な人型が上空に浮かんでいた。
真紅の双眼を、爛々と光らせて。

 
 

「畜生が……どいつもこいつも俺の足をひっぱりやがって……」
オーブ平和記念ドーム。慰問演説が行われているその外周部を警備していた
グフイグナイテッドの白服パイロットが、コクピットで歯噛みする。
数時間前、ワシントンを“守備”している歌姫の騎士団の部隊からの定時連絡の最中、
突然通信が途絶えた。
『茶色が! 茶色がぁっ!』との絶叫を最後に、全ての通信が途絶え、映像もダウンした。
ラクス・クラインの側近を勤めている彼にとっては正直どうでもいいことだが、
仕事上上に連絡はしなくてはならない。

 

その結果――“絶対正義の騎士”アスラン・ザラと“平和の聖剣”キラ・ヤマトが
それぞれの機体でラクスを直接護ることとなり、彼は直属の警護から外された。
それが不満でならないのだ。

 

プラントのコーディネーター特有の高すぎる自尊心。
それによる注意力の低下が、彼の運命を決めてしまった。

 

『……面倒な任務ですが、真面目にやって下さい。これもラクス様のた』
通信機から響いていたオペレーターの金切り声が途絶える。
不審に思った彼が、指揮車の方を向く――

 

「なんだよ、ありゃ?」

 

モニターに映し出されたのは、黒っぽい泥状の何かがぶっ掛けられた指揮車だった。
はあ?と呟く彼の機体の背後に立っていたザクが、次の瞬間指揮車と同じ惨状をさらし転倒した。
流石にぎょっとした彼が、辺りを警戒する――が、敵影は無い。

 

『……甘いんだよ』

 

安堵の溜息を漏らした彼の頭上から、それは声と共に降ってきた。
瞬間走った激震に、彼の意識は刈り取られた。

 
 

「敵機第三防衛ライン突破! 繰り返す! これは演習ではない! これは演習ではない!」
半ば恐慌状態に陥ったオーブ軍管制官の絶叫が響く。
ここ数年、プラントの庇護の下演習すら行っていなかったオーブ軍の錬度は、以前よりも更に低下している。
それもあるのだろうが、予め配置されていた一個中隊を三分で屠った侵入者は、
瞬く間に防衛ラインを引き裂いていった。
死傷者は、今のところ零だが。

 

追いすがり、止めようとするオーブ、ザフトのモビルスーツを殴り、蹴り、
時には黒っぽい何かをぶっ掛けながら侵入者は突き進む。
所々にあるラクス・クラインやアスハのポスターやモニュメントを片っ端から破壊しながら。

 

『やめてよね。僕が本気になったら、テロリストなんかが敵うわけ――ッ!?』
侵入者を視認し、何時ものようにフルバーストの体勢をとったSフリーダムが、動作を止めた。

 

今撃てば、転等したままの味方や民間人に流れ弾があたる――などと考えたわけではない。
今撃てば、顔面に黒っぽい何かがぶちまけられたラクスの銅像を巻き添えにしてしまう。
もしそうなれば、あの鬼女が本性を現しかねない。
その恐怖に身を竦ませたのが、運命の分かれ道だった。

 

懐に潜り込んだ侵入者が腰にマウントされていた漆黒の対装甲ナイフを引き抜き、
Sフリーダムの胸部中央を狙って突き込んだ。
狙いに寸分違わず突き刺さったナイフはSフリーダムのPS装甲からコクピットまでを貫通し、
キラ・ヤマトのバイザーに小さな穴を開けた。
目の前に顕現した“絶対的な死”に凍りつくキラ・ヤマト。
一瞬後その刃が引き抜かれ、その亀裂にライフルの銃口が差し入れられた時、漸くその凍結が解ける――
――が時既に遅し。
侵入者は機体のコクピットで笑いながら引き金を引いた。

 

『じゃあな、英雄』

 

次の瞬間銃口から放たれた閃光――ではなく黒っぽい液体がSフリーダムのコクピットに注ぎ込まれ、
その熱さと充満するキツイ香り、バイザーの罅から半開きになっていた口に入りこんだ異様な苦味に
キラ・ヤマトは意識を失った。

 
 

「よくも、よくもキラをッ!」
コクピットにライフルを撃ち込まれ、ゆっくりと仰向けに倒れるSフリーダムを見て、
アスラン・ザラは絶叫した。
あれではきっとキラは生きていないだろう。許さない。そんな想いを抱きながら。
そして改めて侵入者を睨み付け、アスラン・ザラは絶句した。
「デスティニー……シン、なのか?」

 

全身を漆黒に染め、カメラアイが真紅に染まっていること以外はデスティニーそのままの姿をした侵入者。
背部にマウントされていたアロンダイトと長距離ビーム砲はオミットされ、替わりに身の丈ほどもある
巨大な円筒を二基背負っている。
円筒はライフルと太い管で繋がっていた。

 

『……アンタに答える義理も恩も理由も無い』
俺は仕事を果たすだけだ、と続ける侵入者。
「そうか……なら、俺がお前を、討ッ!?」
態々Iジャスティスにポーズまで決めさせ、まさしく騎士のようにビームサーベルを抜いたアスランの口上が、
デスティニーの頭部から放たれた銃弾に阻まれる。
舌打ちしながらも防ぐ必要は無いと高を括ったアスランの視界が黒く染まった。
ペイント弾かと刹那混乱したアスランの目の前で、モニターが上下に断ち切られた。
対装甲ナイフで切り裂かれたのだ。
その穴から伸びた巨大な指がアスランを摘み、外へと引きずり出す。
ゆっくりと地面に下ろされたアスランが上を見上げると、
デスティニーのライフルが砲口をこちらに向けていた。

 

『毛根にサラバってな』

 

その言葉に言い知れぬ恐怖を覚えたアスランが顔を引きつらせ、その竦みあがった身体めがけて黒っぽい何か

 

――カカオ九十八%の熱々チョコレートが撃ち込まれた。

 
 

英雄二人を瞬殺した侵入者。円筒の片方をドームへと撃ちこみ、撤退を開始した。
元来た道をあっと言う間に遡り、追跡を振り切って沿岸へと到達する。
「プレゼンターからチョコレート工場へ。デコレーションは完了。後はラッピングだけだ」
『チョコレート工場了解。プレゼンターは所定のポイントに後退して――シン、お疲れ様』

「……コニール。本名出すな。アビーに叱られるぞ」
『アビーはラッピングの用意で忙しいよ』

 
 

侵入者の撤退から数十分。
撃ち込まれ、弾けた円筒からばら撒かれた大量のチョコレートの海の中、呆然としていたラクスの眼に、
オーロラビジョンに映し出された映像が飛び込んだ。

 

暫くそれを見ていたラクスだが、ゆらりと立ち上がる。

 

「キラ……私は、絶対に…許しませんわ……!」

 

悪鬼羅刹が如き形相で、そう呟いた。