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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_長編第7部(仮)_第02話

Last-modified: 2010-09-26 (日) 01:23:51
 

 人間、死んでも病院には行くものらしい。
それが、目を覚ましたシン=アスカが最初に考えたことだった。

 

辺りに薄く漂う消毒剤の匂い。白く磨かれた壁と天井。
幾つもの光源を持つ真上のライトが眩しく、小さく呻いた。
自分が横たわっているベッドは固く、寝心地が良いとは言えない。
管や手術器具などに繋がれていないことを確かめ、起き上がった。
「あ、痛……」
 身体を起こすと、節々が軋む。寝過ぎた時の気だるさを何倍にもしたような不快感に眉を寄せ、
ぐったりとしたままベッドから降りた。そして何気なく自分の右腕を見た時、
着用しているアンダーウェアがザフト兵のものである事に気付く。
「おい、俺は死んでもザフト兵なのかよ……」
『そうではありません』
「ッ!?」

 

 どこからか聞こえた女性の声に、シンは癖で腰に手をやる。
拳銃を掴もうとする手が空振って苦笑いを浮かべた。寝かされていたベッドへ戻るも、
武器になりそうな物はない。
『もっとも、此処へ運ばれて来た時の貴方は生きているとはいえませんでした。
 残った部分よりも壊れた部分の方が多かったですから。そこまで治すのは一苦労でしたよ』
「そりゃ迷惑かけたな。ところで、此処が宇宙ステーションかコロニーなら
 エアロックの場所を教えてくれないか。ああ、気密スーツは要らないよ。ちょっと死に直したいんだ」
 シンの言葉に、マイク越しの女性が低く抑えたような笑い声を上げる。
医務室らしき部屋のドアが空気の抜ける音を立てて開いた。
『通路のガイドに従って進んでください。詳しい状況を説明しましょう』
「断わる。俺は色んなものに愛想が尽きた。何が来てもどうでも良い」
『貴方の復讐を完結させる為でもあるのですよ』
 シンの目に活力が戻ったのはその時だった。無言のまま、ぼんやりと通路の先を見遣る。
『まずは話を聞いてください。ああちなみに、今日はコズミック・イラ75年10月2日です。
 321日と7時間ぶりの現世はいかがですか?』
 部屋を出て直線通路を歩きながら、シンは呟くように言った。
「最低だ」

 
 
 

 シンの予想通り、彼のいた所は宇宙ステーションだった。
展望窓から見える星の海を一瞥し、ラウンジと思しき場所に入ってくる。
手近なソファに身を沈め、光を灯したままのディスプレイに目を向けた。
「そもそも、アンタは何者なんだ? どうして大事な話をする時に顔を見せない?」
『リスクが高く、必要がないからです。私はエージェントに過ぎません』
「ふん……まあ良い。アンタが俺にやらせたいんだろう仕事の話よりも先に、色々教えてくれ。
 プラントと、オーブの現状が知りたい」
 ディスプレイが瞬いて、砂時計型コロニーの群れがCGモデル化されて表示された。

 

『クライン政権が打倒された後、最高議長にロミナ=アマルフィが選出されています。
 地球連合やオーブとの関係は概ね良好で……』
「ちょっと待て、イザーク=ジュールは? 反乱の首謀者はどうしたんだ?」
『ジュール母子は復権を果たし、マティウス市の代表とプラントの防衛司令官に就任しています。
 アマルフィ議長との不和などは伝わっていません』
 唖然としながらも、シンは頷いた。
彼の記憶に残っているイザークは非常に明け透けな男で、
クラインを追い落とすかキラ=ヤマトをMS戦で負かし、
ぜひともジュールの名を再び輝かせたいと公言して憚らなかった。
 誰に対してもその野望を隠さなかったので、逆に本気と思われず誰からも睨まれていなかったのだが。

 

「ルナマリア=ホークについて、何か分かるか?」
『イザーク=ジュール直属の部下と結婚しましたが、依然としてMSに搭乗し任務についています。
 ちなみにジュールの反乱の後、貴方についてのコメントを発表しています』
 ディスプレイの映像が切り替わり、ザフトの白服を纏うルナマリアの姿が現れた。

 

『シン=アスカは力以外の全てを信じない人でした。非常に暴力的で、傲慢で……
 彼が クラインを盲信したのは当然です。彼女こそ、力の源だったのですから』

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、シンは溜息をついた。
彼は以前もこのコメントを耳にしたことがあったのだ。
メサイア戦の後、クライン派のザフト兵からこぞって
『ラクス様のお考えを理解できず、デュランダルを盲信していたずらに人命を散らした愚か者、
 血に飢えた狂犬』
と罵られ続けてきたのである。
「どいつもこいつも……オーブはどうなっただろう?」
 再び映像が変わり、南太平洋に浮かぶ群島が映し出された。
『コズミック・イラ75年に入って間も無く、カガリ=ユラ=アスハ代表首長が急病で倒れ、
 政務を行える状態ではなくなりました。
 後継者もなく、君主制から議会制への移行がなされています。
 小規模な武力衝突が起こりましたが、アスラン=ザラ准将の手腕によって鎮圧されました』
「急病ねえ」
『ちなみに、貴方に対し最も同情的な意見を持っているのがザラ准将で、
 頭が弱いだけで悪人ではないと、非公式にですが発言しています』
「あの野郎……」
 据わった目のままシンは組んだ指に力を込めた。白い肌がいっそう白さを増す。
しかし、ふと思い当ることがあって身体の力を抜く。
今の情報が信頼に値するかはまだ解らない。
確かに説明された状況は大いに『ありそう』で、信憑性が高い。
しかし相手がどれだけ正直であるかを量るには、相手の意図も確かめねばならないはずだ。
「有難う。じゃあそろそろ、アンタの目的を教えてくれ。俺に何をさせたいんだ?」

 シンの問い掛けに、ディスプレイの光が消えて室内が暗くなった。
しばらく間を置き、女性の声が短い沈黙を破る。
『ラクス=クラインの『希望』を、探し出して頂きたいのです』

 

「……なるほど。あの女も俺をコケにしてたって事か。一体何が残ってるんだ?」
『詳細は不明です。我々は、X5と名付けられた宇宙ステーションにそれがあるという事を突き止めました。
 座標を……』
「X5なら知ってるよ。座標もな。植物の研究をしていた研究所だ。
 汚染か何かが起きて、5年以上前に閉鎖された……ってアカデミーで教えられた。
 まあ嘘だとは思ってたけど」
 ディスプレイに映し出される廃墟の映像よりも先に、シンは口を差し挟む。
 放置するには小型で、しかもプラントに近い。解体もしくは完全な破壊が妥当な処置の筈だった。
「で、何を探すか分からないがそいつを見つけて、粉々にしてやれば良いんだな?」
『3メートル四方に収まる、卵型をした装置という所までは掴んでいます。これが映像……
 そして、破壊は待って頂きたいのです。確保し、持ち帰って下さい』
「どうしてだ? 俺の復讐を完結させると言ったじゃないか」
『こちらにも事情があります。それに、色々な形の復讐があるでしょう?
 貴方もキラ=ヤマトを殺さなかったではありませんか』
 しばらく無言のまま、シンは映し出された装置を見つめていた。
一度死ぬまで、彼に残された望みは、キラ=ヤマトへの復讐だけだった。
しかし今こうして生き返り、明らかに後ろ暗い人間に後ろ暗い仕事の話を持ちかけられれば、
違う感情も生まれてくる。
 つまり、もう少し色々と望んでも構わないのではないかということだ。
シンの口元に、薄っすらと笑みが浮かんだ。
「わかった……引き受けよう」
『素晴らしい。準備が出来次第、部屋の隅のインターコムで呼び出してください。
 貴方のモビルスーツは何時でも発進可能です』
「そりゃ凄い。俺はいつでも準備出来てるよ。ああ、そうだ……肝心のキラ=ヤマトは、今どうしてる?」
 女性の声に含み笑いが混じった。
『スカンジナビア王国に亡命し、ラクス=クラインと暮らしています。
 重度の放射線症を負っての闘病生活は、さぞ辛いことでしょう』
「良いね。出来るだけ長く苦しんで貰いたいもんだ」

 
 
 
 

 遠くに響く轟音。時折近くで爆発が起こり、頬の左側が熱風でちりちりと痛んだ。
車が壊れ、家族と共に山道を走っている。避難先である港が、森の木々の合間から見えた。
肩から提げていたポーチのカバーがほんの少し開き、ピンク色の携帯電話がそこから飛び出した。
道から逸れて、坂を転がっていく。視線がそれを追った。
『あーっ!マユの携帯電話!』
 幼い声が叫ぶ。甲高く耳触りで、未熟で、何も考えていない声。
母親が自分の手を掴み、港の方へ引っ張った。その腕にぶら下がるようにして抵抗する。
『そんなの良いから!』
『嫌ぁ!』
 パーカーを着た少年が駆け出し、小さく跳んで坂道を滑り降りていく。
そして空が真っ赤に染まり、衝撃と熱、右肩の激痛が身体を貫いた。
驚愕した表情のまま凍りついた母親の身体、自分を抱え込んで守ろうとする父親の身体が、
爆発の中で歪み、捻じれ――

 

「ァァ……ッ!!」
 個室のアラームと共に少女が目を見開く。骨のような右腕の義手が天井のライトを掴むように伸ばされ、
濃い紫色の双眸からは後から後から熱い雫が零れ落ちた。
左手でタオルを取り、顔を埋める。しばらくした後、呼吸と鼓動は徐々に落ち着いて涙も止まれば
乱暴に顔を拭い、ベッドから降りた。
すぐ傍の鏡を覗き込んだ。頬に赤い跡が残る以外は至って普段通り。
顔は勿論、殆ど全身に刻み込まれた傷痕は、とっくの昔に見慣れた。
ロッカーを開け、義手の肩と肘にプロテクターを付ける。
隻腕の少女の為にデザインされたパイロットスーツを手早く着込んだ。
携帯端末を開けてスケジュールを確認する。殆ど一秒足らずで目を通し、スーツのポケットに滑り込ませた。
ベッドサイドに置いた写真を一瞥する。父と母、そして兄。自身の場所だけは切り取っていた。

 

 あの日、落とした携帯電話を無視していれば、何事も無かったように走っていれば、
港まで辿り着けたかも知れない。怪我くらいはしたかもしれない。
それでも誰も死なず、無事に避難出来て家族皆で暮らせたかもしれない。
父と母が死んだのは、
死にかけていた自分が、非合法の人身売買業者によって地球連合軍の研究所に売られたのは、
兄がプラントに渡って、こともあろうにザフトへ加わった挙句ラクス=クラインを守って死ぬという
結末を迎えたのは、全て自分の責任だと少女は考えていた。
たった一度の過ちで、かけがえのない家族を滅茶苦茶にしたのだ、と。

 

 少女はダークブラウンの髪をパイロットスーツの後ろに詰め込み、ヘルメットを左脇に抱えて
部屋を後にした。擦れ違う兵士や将校に対し、義手の右手で敬礼する。通路の突き当たりにある
エレベータに乗りこみ、格納庫の階を指定した。

 第三世代型の生体CPUの中で最も優れたMS操縦技術を持つマユ=アスカに課せられた任務は、
極秘の調査だった。プラント領内の奥深くに存在する廃棄された宇宙ステーション『X5』に潜入し、
クライン派の希望となり得るらしい装置を回収する。
破壊すれば良いのではないかという疑問は当然抱いたものの、それ以上気に掛けはしなかった。
クライン派が地球連合の一部勢力によって支援されていたというのは、最早公然の秘密だからだ。
そして、疑問を抱いても任務の成功率は向上しない。
 エレベータが停止し、マユは駆け足で自分のモビルスーツに近づいた。
黒一色の機体。頭部はザフトの隊長機を思わせるブレードアンテナと、
スリットのように細いバイザー式のカメラアイが装備され、右腕には長銃身の狙撃銃が携えられている。
キャットウォークからコクピットに入り込み、ヘルメットを被りハッチを閉じてシステムを起動させた。
バイザーが青白い光を放ち、格納庫内の照明が落ちると共に減圧が始まる。
 黒いモビルスーツがメンテナンスベッドから離れた。背負っていた翼のようなユニットが稼動し、
マントのように機体を包む。カタパルトデッキに両足を固定した。

 

「マユ=アスカ、ルイン、行きます」

 

 淡々とした口調で告げるマユ。モビルスーツ『ルイン』の各所から伸びていたケーブルが外れ、
カタパルトが起動して姿勢を低くした機体を加速させる。
ガーティ・ルーの同型艦から飛び出したルインは、足裏と右肩から数秒間だけスラスターを噴射して
進路を修正し、黒々とした凍える宇宙へ消えていった。

 
 
 
 

「なんかこう……デスティニーを思い出すな。特に頭」
 格納庫の中で自分の機体を見上げるシンが、渋い顔で首を捻る。
青とグレーで塗装されたその機体の頭部はV字アンテナにツインアイを持っていた。
そればかりでなく、目の所には涙のようなラインまで刻まれている。
赤色を抜いたデスティニー、というのがシンの抱いた第一印象だった。
しかも、右肩には大型の銃器を背負っている。
「あれ酷かったなぁ。機体の名前がデスティニーだし。
 まるで俺が、器用貧乏なやられ役で終わる運命だったみたいな……またでかい武器持ってるんだな」
『専用のマシンガンは両手で持つサイズになった分、威力、精度、連射性能全てにおいて
 高い水準を維持しています。要塞の固定砲台を持ち歩いているようなものです。
 そして、懐に飛び込まれた時には腰にマウントされているビームガンで応戦可能です』
 メカにはそれほど明るくないらしく、女性の喋り方はまるでパンフレットを読み上げているようだ。
確かに左右の腰部に射撃武器がついてはいるが、拳銃にしては長大だ。
形状も大口径のリボルバーを思い起こさせる。
 ぶつくさと文句を垂れながらも、無重力の格納庫内を漂ってコクピットに入った。
入ると同時にシステムが立ち上がり、シン=アスカをパイロットと認める旨のメッセージが表示された。
ハッチを閉め、ヘルメットを被って気密状態を確認する。
「これ、名前はあるのか? どうせ非合法な機体なんだろうけど……」
『開発中はデザイアと呼ばれていました。型式番号は機密扱い、だそうです』
 貨物搬入口が開き、遠くの恒星からの光が減圧された室内に差し込んできた。
遥か彼方に映る灰色のおぼろげなシルエットは、砂時計型コロニーの集まりである。
「デザイア……か」
 格納庫の床を蹴って宇宙空間に滑り出したデザイアは、背部のスラスターを点火させて
一気に加速する。青白い光の尾を引いて、高密度のデブリ帯へと向かった。

 
 

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