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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_GSCg_第04話

Last-modified: 2008-10-19 (日) 10:10:12

「前回はしくじったが、ククッ……最初の大成功は後が怖いからな。まあ、いいさ」

 

 奇跡の狙撃テクニックで戦術核を台無しにしてから16分後。ラーツァルス艦内にある
自室の隅っこで体育座りしていたシンが、不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。常夜灯の
LEDに白い顔と赤い瞳が照らし出された。そう、シン=アスカはまだ終わっていない。
大体、この程度でくじけていてはザフトレッドに袖は通せないのだ。
 戦闘に強いだけでは駄目なのだ。週一子供向けテレビ番組のレギュラー悪役に匹敵する
バイタリティこそが、『赤服』組に求められる最上の要素なのである。ちなみに議員の子息
や美少女、美少年などは生まれながらの勝ち組なので例外である。

 

「けど、憂鬱だ」

 

 己を奮い立たせたは良いが、再び落ち込む。ドアを開けて廊下に出たシンは、肩を落と
してブリッジへと向かった。そう、自分の失敗で作戦が破綻したのは、シンにとって初め
ての経験なのだ。自分の意思で滅茶苦茶にしたのとは訳が違う。

 

「みんな全面協力してくれてたのに……次のアイデアもまだ思いついてないし、うぅっ」

 
 

「シンは?」
「流石にまだ引きこもってるよ。そろそろ出てくると思うけどね。で、ヴィーノ」
「調べてみた。結論から先に言うと、キャンセラーはベースマテリアル無しで造れる」

 

 作業服姿のヴィーノが言った言葉に、アーサーは腕を組んでアビーは溜息をついた。

 

「ただし核動力MSとか原発に取り付けるような、長期間維持するタイプは駄目だ」
「瞬間的な、たとえば核爆発を起こす程度ならOKって事?」

 

 アーサーの発言に首肯し、ヴィーノは艦長席のコンソールを操作してスクリーンに映像
を表示させた。プラントに向けて発進する、核ミサイル搭載型メビウスの群れ。

 

「開発元は地球連合軍。向こうじゃNデトネイターなんて呼ばれてるんだってさ。ムルタ
=アズラエルもロード=ジブリールも、これを使って核攻撃を仕掛けてる」
「つまり出来たのは2年前……なるほど。NJCのデータが流出した直後の核攻撃だから
妙だとは思っていたけれども、そういう事なら筋が通る」

 

 頷いたアーサーが、顎に手をやった。今現在も地球に深刻なエネルギー危機をもたらし
ているニュートロンジャマー。それを解決する為に連合が研究開発を続けていた事は想像
に難くない。キャンセラーのデータは最後のひと押しだったのだ。

 

「本来の目的からは外れていたが、兵器利用には十分って事だね。でも何でザラ派が?」
「俺達が参加した、ヘブンズベース攻略戦が怪しい。火事場泥棒ってやつさ」
「……しかし、良く調べられたねえ」
「悪戯好きの友達が多くてさ。ま、いいだろ?」

 

 苦笑いし、アーサーはヴィーノに手を振ってみせた。今は部下を詮索する時ではない。

 

「それにしても……シン、なあ」
「ああ、艦長も思ってた?」
「あれは絶対ワザとです」

 

 3人がそれぞれ頷いて、眉根を寄せる。他のブリッジクルー3人も視線を向け合った。

 

「ジンのガンカメラを見たけど、普通……あんな風に当たらないよねえ」
「突撃機銃のバーストファイアであの距離、あのサイズの弾頭を撃ち抜くってのは不可能
なんだけどな。一発当たるくらいじゃ壊せないし……何でシン、アスランに負けたんだ?」

 

 ヴィーノの疑問に、アビーが鼻を鳴らした。

 

「アカデミーからずっと一緒だったあのルナマリアが、いきなりアスランに擦り寄ったか
らじゃない? 目の前でそれを見せつけられれば、誰だってショックを受けるし」
「ああ、メンタルに来たか……いや、さっきの狙撃を成功させる奴がメンタル、ねえ」
「とにかく負けた原因があるとしたら、ルナマリア=ホークよ。間違いないわ」

 

 女性なので女性には厳しい。完全に断定して息巻くアビーを掌で制止しつつ、アーサーが
口を開いた。当然、彼もアスランに恨みがある。ミネルバを沈めた張本人だからだ。

 

「シンにはどう接すべきだろう? 彼は僕らを利用して金を儲けたがっているわけだが」
「儲けようとしつつも、核が地球に落ちるリスクを受け入れられなかった……捨てきれな
いって事かな。ちょっと安心した」
「面倒臭いけど、そういうの嫌いじゃないです」

 

 水面に投げ込まれた小石のような誤解が波紋を生んで、広がっていく。

 

「今回の功績が認められれば、それなりの利益が得られるだろう。僕の方でも良い儲け話
を探しておくよ。戦術核がいきなり見つかったりする幸運は無いだろうけど」

 

 アーサーの背後でドアがスライドして、肩を落としたシンがブリッジに入ってきた。

 

「あ、ヴィーノ」
「シン。もう体調は良いのか?」

 

 何となく気まずいヴィーノに他人行儀な言葉をかけられ、シンの目に怯えが浮かぶ。

 

「体調は元から良いよ……艦長、皆、今回は本当にすみませんでした」

 

 自室からブリッジに来るまで、精神力を使い果たしたのだろう。崩れ落ちるように膝を
突いたシンが、土下座するように頭を深々と垂れる。

 

「俺、あんな事をする気は無かったんだ。ブースターを壊せば、減速して軌道が変わる
と……だって、まだ地球まで距離があったし、1基だけでも回収できると思ったから……」
「シン、シン! 自分を責めるな!」

 

 啜り泣きを始めたシンの両肩を掴んだアーサーが彼を立たせる。

 

「儲けようとした君が黙って核を持ち出したからこそ、あの民間船のクルーは咎を負わず
に済んだんだ。そして君がさっき撃たなければ、核はそのまま地球に降り注いだかも知れ
ない。今回は利益こそ出なかったが、君は正しかった!」
「でも艦長……俺は、俺は金さえ儲かればそれで良かった……っ」
「長期的視野でビジネスを考えるんだ! 万一今回の件で責任問題に発展してみろ、君の
名前が出る事だって有り得るし、そうなったら金儲けどころじゃない! そうだよね!?」

 

 話題を振られたヴィーノとアビーが、慌ててぎこちない笑みを浮かべる。

 

「ま、まあな。それに取り外したNJC、あれは原発用に造ったもんをそのまま放り込ん
だみたいだし、あれで一儲けするってどうだ? 使い道ありそうだが」
「今回の一件は単なる武装組織の小競り合いじゃないから、議長に直接報告書を送るし…
…国防委員会を通すより、ずっと高く評価されると思う。それで良いんじゃない?」

 

 2人に慰められ、涙ながらに何度も頷くシン。

 

「誰も君を悪く思っていない。実際今回の君は……少々やり過ぎなくらいだ。とにかく部
屋へ戻って、また気を落ち着けろ。そうしたら格納庫へ行って機体の整備を手伝うんだ。
アーモリーワンに帰港するまで、まだ時間があるから。良いね?」
「解り、ました……本当にすみません。ごめん、みんな」

 

 涙を拭いたシンがブリッジから出ていくと、即興で『シン=アスカ君を励まし伸ばす会』
を結成した3人は息を吐き出した。

 

「シン、マジで泣いてたな。そんなに金が欲しかったのか……」
「逃した魚は大きいの心理かも。シンって人間としての度量が小さいから、貧乏性だし」
「とりあえず僕、クライン議長に擦り寄るか何かしてみるよ。今回は手土産もあるから」

 
 

「おかしい……おかしいッ」

 

 ブリッジから出て格納庫へ向かうシンは唾を飲み込んだ。乾ききった口内がひりつく。
嘘泣きで批難を緩和しようとしたのだが、予想に反して暖かく慰められてしまったので本
当に涙が溢れてしまった。その場のノリに流されやすいのだ。

 

「何で失敗したのに皆あんな優しいんだ。反省を促す言葉の一つも無かったぞ。まさか」

 

 額から滲んだ冷や汗を拭いつつ、足から力が抜けたシンは壁にもたれかかる。大失敗を
やらかした時に優しくされる。この状況が示す結果を、シンは一つしか知らない。

 

「まさか、俺はもう見限られ……いや馬鹿な! これまでやってきた事を思い出せ!それ
が本件だけで吹き飛ぶなんて! ……いや、過去は関係ないよな」

 

 自分で落ち込み、自分で奮い立たせ、また自分で落ち込むシン。通路を監視する歩哨が、
気味悪げな視線を送りつつ通り過ぎて行った。

 

「しっかりしろシン=アスカ。ここでくよくよして何になる? 部屋に戻って休憩なんて
してる場合じゃない。自分の商売道具を手入れするんだ。でも……ああ! ああぁっ!」

 

 懊悩し、頭を抱えて悶えつつ、シンは通路を歩いて行った。

 
 

プラント議会に設けられた執務室には、最高性能の通信設備が導入されていた。地球全
土、そして宇宙の主要航路に全て影響が行き渡るよう配置され、今や誰もその正確な場所
を知らないニュートロンジャマーが放射する妨害電波の影響をものともせず、ラクスは
何時でも望む時に、各勢力の指導者と連絡を取る事ができる。
 マルチスクリーンに映った人物は2つ。アスラン=ザラとカガリ=ユラ=アスハだ。

 

「地球へ向かった核を、シンが全部破壊してくれたんだ」
「シンは良くやってくれましたわ。ギルバート=デュランダルの呪縛から完全に解き放た
れたようです」
『あまりシンを褒め過ぎない方が良い。あいつは直ぐに物事の本質を見失うからな』
『そんな事より、事実なのか! 我がオーブが核攻撃の標的だったという情報は!』

 

 笑顔の2人に対してアスランは渋い表情だ。身を乗り出すカガリに、ラクスが頷く。

 

「その通りです、カガリさん。シンが送ってくれた報告書に記されていますわ」

 

 実際に報告書を送ったのはアーサーで、報告書を作成したのはアビーで、標的となった
のは地球全土の主要都市と明確に記載されているのだが、ラクスにとって地球上の主要都
市はオーブの首都以外になく、旧ミネルバ隊で名前を知っているのがシンしかいないのだ。

 

『何て事だ……お父様の理念を脅かす輩がまだいるなんて』
「実行犯がザラ派テロリストだって事は解っているんだけど、首謀者がいる筈なんだ。そ
れが誰なのかはまだ……」
 キラが言葉を止めてラクスを振り返る。ラクスが頷くと、アスラン達に向き直った。
「僕達は、地球連合……大西洋連邦を疑っているんだけど」
『容疑者が他にいないからな。それで、どう釈明してきたんだ?』

 

 腕を組んだアスランが、最初から決まっているとでも言いたげな口調で先を促す。

 

「亡くなられたコープランド氏の代わりに就任された、新しい大西洋連邦大統領に通信を
送り、事態の詳細な説明と謝罪、首謀者の引き渡しを要求したのですが……」

 

 ラクスが言って、困ったように首を傾げた。

 

「大西洋連邦は本件に一切関与していないと突っぱね、戦術核を衛星軌道付近で爆発させ
た事、それによって航路に障害が発生した事について調査と謝罪を逆に求められました。
賠償については検討し、追って要求する事になると……」
『馬鹿げている! 何も学んでいないのか、地球連合は!』

 

 アスランが吐き捨てるように言って、カガリが沈痛な表情と共に俯いた。この4人は頭
が悪いわけでも自己中心的なわけでもない。むしろ利他的な性格だし、どちらかといえば
人格者に位置づけられる。致命的なまでに視野が狭いのと、狭い視野のままで行動しても
何とかなってしまう武力を持っている事こそが最大の問題なのだ。
 否、問題ではないかも知れない。何故なら、彼らは勝ち組だからだ。

 

「だからもう……最後の手段に出るしかないんだよ、アスラン。地球連合を、僕達の手で
討つ。言葉が通じる相手じゃないんだ。悔しいけど、解ってもらう為にはこれしか……」
『そうだな……だがキラ! お前だけを行かせはしない。俺も戦う!』
「アスラン!」
『解っている。今の俺はオーブ軍人だ。だがオーブが核で脅かされた以上、座視している
わけにはいかない。オーブは、他国の侵略を許さない。そうだな、カガリ?』

 

 カガリが力強く頷いた。ラクスが憂いを含んだ笑みを浮かべる。

 

「致し方ありません。人は時に戦わなければならないのです。人が、人である為に……」

 

 傍から聞いていると今ひとつ解らないかも知れないが、4人はその言葉で意気投合した。
2時間後、地球連合と大西洋連邦の過ちを正す為に『討伐隊』が編成される事が臨時招集さ
れた議会で満場一致の下に決定し、プラント市民にその旨が通達されて歓声と共に受け入れ
られた。ザフト兵の志願者が殺到し、ラーツァルスがアーモリーワンに帰港する際、
ドッキングの手続きをする兵がおらず30分待たされるという事態にまで陥った。
 誰もがラクス達を支持し褒め称えた。勝てば何でも良かったのである。そう、勝てば。

 
 

「あっはっは! なるほどねえ、結構な事じゃないですか」
「金? うちが独立採算制の部隊になってからどのくらい経ってると思うんだ! 給金なん
て貰ってないに決まってるだろ! つべこべ抜かすと、うちのシンをけしかけるぞっ!」

 

 3時間もすると、シンは完全に回復していた。『討伐隊』の話をアーサーから聞き、手を
叩いて大笑いする。その後ろではヴィーノが受話器を耳に当て、破損したMS用装甲板の
補充、無反動砲、機銃弾などをアーモリーワンの弾薬庫に注文していた。

 

『いや、彼らがやってきた事を考えれば当然なんだろうけどね……たださ、もうテロリス
トじゃなくて責任ある立場だから、もっと慎重になるんだろうなーと思ってて』

 

 頬をかきつつアーサーが笑い、シンも笑い返してかぶりを振る。

 

「そんな態度を使いこなせるような人達なら、もっと世の中を良くできてますよ。それよ
り、これはチャンスじゃないですか! キラさんとアスラン達が連合に喧嘩を売れば、ただ
でさえ危うい世の中はもっと乱れる。金儲けのチャンスが増えます」
『うん、まあそれは僕も考えたんだけど……あ、そうだシン。議長から君に感謝の言葉が
贈られたんだけど、そのついでにデスティニーを与えるってさ。レストアしたのを』
「え? 要りませんよ」

 

 シンには嬉しいニュースだと思っていたアーサーは、その言葉にぽかんと口を開けた。

 

「後ろ暗い事をやろうっていうのに、目立つ専用機なんて使えないでしょ。核動力機は
防衛任務に適さないとか、デュランダルから渡されたMSだからとか言っといて下さいよ」
『な、なるほど。それもそうか……で、今後なんだけど、近い内に地球に降りる任務を
手に入れられないか掛け合うよ。プラントよりやりやすそうでしょ』
「あー、ですねえ。今回……ククッ、何でしたっけ『討伐隊』? そいつが暴れ回った後な
ら、さぞ美味しい話も転がってるだろうし、ラクス様の為に暴虐と理不尽の限りを尽くし
てやりましょうよ! ラクス様の為にねぇ!」

 

 通信モニター越しのアーサーと親指を立て合い、シンはまた笑った。まさに虎の威を借る狐
であり、コバンザメ以外の何者でもない。人として大切な何かを捨てたシンは、これまでに
ない安らぎを覚えていた。
 彼の余裕は4日後、キラとアスランが率いる討伐隊が壊滅し、キラ1人とストライク
フリーダムがオーブのオノゴロ島に帰還してくるまで続いた。

 
 

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