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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_The Red Impulse(仮)_第01話

Last-modified: 2009-04-19 (日) 19:35:33

 C.E.75年5月20日、アプリリウス・ワン。
最高評議会議事堂に程近い議長官邸で、ザフト監査機関『レグナクラ』隊長シン=アスカは
プラント最高の権力者を前にしていた。

 

「報告は以上です……議長。資料内の映像は解像度が低く、お見苦しいとは思いますが」
「全てを、と要求したのはわたくしです。ご苦労様でした」

 

 目の前の女性を議長と呼ぶ事に、未だ躊躇いがあったシンはラクスからの言葉を受け、
直立不動の姿勢を取りつつも、緩く息を吐き出した。
豪奢な執務机についた桃色の髪の彼女は、視線を落としじっと自分自身の両掌を見つめている。
傍に立っているキラが、気遣わしげにラクスの肩へ触れた。
彼も疲労の色が濃い。2日前に開かれた誕生パーティ中に労働者の暴動を聞き付けて、
多少乱暴な方法でそれを解決した後、1日はベッドから離れられなかったという。

 

 シンは彼らの悩みが解っていた。
熱狂的な歓迎と共に議長とザフト長官の地位を譲り受けたのに、
以後は何をやっても不満をぶつけられ、挙句今回のように武力を行使し盾突かれる。
誰からも助言を貰えないまま、彼らは最後まで悩み続けるに違いない。

 

「市民達の不満点は明らかです。 議長はプラント中から吸い上げた税金、資源を
 クライン派が運営する企業のみに回し、福利厚生を彼らに任せきっています。
 で、当然ながら企業ですから……自分達の直接的な利益にならない事に関心を持ちにくい」
「君の言うことは解るけど……そんなの仕方ないじゃないか」
「公的資金のばらまきは独占以上の悪行です。
 わたくし達は、皆さんからお預かりした全てを正しく、かつ効率的に使わなければなりません」
 無邪気な子供のように不平を訴える2人に対し、シンはもっともらしく頷いた。
 勿論、彼女達はそう考えるだろう。ストライクフリーダム、インフィニットジャスティスを建造し、
エターナルを整備し、クライン派の裏組織『ターミナル』『ファクトリー』を維持し続けたのは、
紛れもなく『皆さんからお預かりした全て』なのだ。
それを言ったところで、2人とも知らないふりを通すだろうが。
あるいは、本当に知らないかもしれない。

 

平和の歌姫であるラクスの歌も、市民を鎮める効果を失っていた。
セイレーンの歌声は、船乗りを惑わせて溺死させるという。
しかし汚れたデッキを綺麗にし、食料庫の中身を増やすとは伝えられていない。

 

「報告書に記載した通り、準備されていた爆薬はモルゲンレーテ製でした。
 オーブの代表に確認する必要があるでしょう」
「シン! まさかカガリを疑ってるの!?」
「モルゲンレーテはオーブの国営企業です。アスハ代表には、管理と説明の責任があると
 考えるべきです……俺は間違っていますか、キラさん」
 相手の方を向きながらも、相手と目を合わせないままシンは答える。
アイリスと会ったその日から今まで、徹底して喋り方と作文を勉強させられた。
どう言えば誰かを悪人に仕立て上げられるか、どう釈明すれば責任を逃れられるかなどであり、
大変役立っている。
「それは、解るけど……でも」
「それは、わたくしからお話しします。あまりシンを困らせてはいけませんよ、キラ」
 実際シンはそれほど困っていなかった。
強いて言えば、腰のホルスターから拳銃を抜いて、2人の額に銃弾を撃ち込もうとしている
自分の右腕を止めるのを誰かに手伝って貰いたかったが、大した問題では無い。
何度も繰り返されたやりとりなので、慣れたともいう。

 

「シン、わたくし達の戦いはこれからも続きます。
 人が人らしく生きるために、この世界に自由と平和を再び取り戻すため、
 あなたもまた、わたくし達と共に戦って欲しいのです」
「そのつもりです、議長」
 ラクスと目を合わせ、シンは力強く頷いた。
 頷きつつ考えた。

 

 ひょっとしたら彼女達の額では無く、自分のこめかみを撃ち抜く方が簡単なのではないか、と。

 

「ところで、俺の方でも本件を調査して構わないでしょうか。
 軍用爆薬を製造したのはモルゲンレーテですが、それを買って持ち込んだ連中は別かも知れない」
「わかりました。捜査でわたくしの名を出しても構いません。
 その過程で、カガリさんの潔白を示す証拠が出れば良いのですが……他に何か?」
 少し考える風を装った後、シンは首を横に振った。
「ありません」
「では、待機していてください。
 最近は特に連絡が取りにくいので、出来ればこのアプリリウスにいて貰えると助かります」
 出来うる限りうやうやしく一礼し、シンは2人に背を向けた。
官邸の正面ドアを警備する兵士から黒い薄手のコートを受け取り、小脇に抱えて建物を出た。

 

暖房が効いていた邸内と違い、外は肌寒い。
エネルギーと人員双方が不足しているため、アプリリウス・ワンでさえ循環システムが満足に作動していない。
空を見上げると、上層の換気が正しく作動しておらず、灰色に澱んでいた。いつもの天気である。
 官邸と議事堂は要塞化されて警備が固められ、武装した暴徒に対抗する為の機銃座と防壁が築かれ、
MSに対抗するため2機のザクウォーリアと防御砲塔が周囲を睨みつける。
防壁はあちこちが焼け焦げて黒ずんでおり、僅かに凹んだ箇所もある。
応急修理が施されているのは、先週ザフトの武器庫から盗み出された携行ロケットによるものだ。
 両手足を失ったジンが、官邸の目の前を通る歩道側に押し退けられている。
一か月前、元ザフト兵が奪ったジンでアプリリウス・ワンのメインストリートを荒らし回り、
寸でのところでストライクフリーダムに乗るキラに撃墜されたのだ。
撤去する者などおらず、放置されている。
 左側で上がった爆音に、コートを羽織ったシンが素早く身構えた。
アスファルトの上で炎が燃え盛り、薄汚れた服を着た男を警備兵が殴り続けている。
火炎瓶だったのか、地面にガラス片と焦げた布の残骸が散らばっていた。
「……よし」
 特に日常とかけ離れた光景はなく、いつも通りであると確かめたシンが頷いて、罵声と
悲鳴を背に薄汚れた道を歩いていった。この近くでは、タクシーを拾えそうにない。

 
 

「シン、今はどちらにいますか?」
『4番街の、あのバーだ』
 機械油に汚れた作業服を着た女性が、携帯端末を耳に当てている。
工場労働者らしく、栗色の髪をひっつめており、自動販売機でアップルジュースを買い、
下からボトルを取り出した。
船舶のメンテナンスモジュールに挟まれた路地は、粉塵と投げ捨てられたゴミの溜り場となっている。
彼女が上を仰ぎ見ると、建物で遮られた、細い澱んだ空があった。
 スペースコロニー内部の汚れは大事故に繋がりかねないリスクであるが、今は誰も気にしない。
路地裏はガラスが割れ、警備のザフト兵に足を撃ち抜かれた市民が何事か呟いても、誰も助けはしない。
少し足早に遠ざかり、離れた所で一度振り返るだけだ。

 

「第5ドックのコンピューターで足取りが掴めました。
 モルゲンレーテ製の軍用爆薬を購入したのは、プラントの貿易商社です」
『貿易商社……』
 端末越しに、シンが復唱する。
2度にわたる地球連合との総力戦で膨大な赤字を出し、戦後の経済沈滞が重なって荒廃の極みにある
プラントに、もはや商業、工業の優位性などない。
貿易関係の企業は軒並み倒産するか、このプラントを引き払っていった筈だ。
 隣の販売機に移り、ベジタブルサンドを買った。
先程のアップルジュースもそうだが、100%、天然食材無し、混じりっけ無しの合成食品である。
少し持ちにくそうにボトルとビニール袋を片手で掴み、彼女―アイリスは話を続ける。
「商社については直ぐに調べられました。事務所の所在も掴めてはいます」
『もう空き家になっているだろう』
「はい、恐らくは」
 進む方向に倒れているのか寝ているのか解らない、人間らしき姿を見つけて足を止めた。
食べ物を脇に挟み、防塵用マスクとゴーグルを身に着ける。
「ただ設立が一ヶ月前であるという点と……
 ロミナ=アマルフィが100%出資者であるという点が気になります。
 シンはどう思いますか?」
『興味は、あるけど』

 

 ロミナ=アマルフィは、レグナクラにとって些か面倒な問題だった。
息子ニコルを戦闘中キラに殺され、夫ユーリも自身が開発したニュートロンジャマーキャンセラーを、
ラクス一派に利用された事を悲嘆し自殺した、あるいは失踪したとも言われている。
 未だプラント内に確固たる権力基盤を持つロミナを、理由の有無にかかわらず監視するべきだと
アイリスに言われ、シンもラクスに話を持ちかけたのだが、拒絶され続けていた。
キラが恨みを持たれているという事実を、直視したくないのだろうと2人で話し合った事がある。
とかく、ラクス達は揃って為政者に向かない性格なのだ。

 

『解った。今の所、俺に何か出来る事はあるか?』
「尾行も張り込みも潜入も、シンと一緒だと大騒ぎになります。待機して下さい」
『じゃあ、ドックに行ってインパルスの調整を……』
『良いから。しばらくバーで時間を潰した後、自宅で休んで下さい。
 2人だけの組織とはいえ、シンはリーダーなんです。あくせく働くのは部下に任せるべきです」
『いや、でも』
「戦闘中じゃないんだから言うこと聞きなさい。良いですね?」
『……はい』
 渋りながらも了承されれば、アイリスは別れの挨拶と共に端末を切った。
前方で地響きが聞こえ、視線を上げる。重突撃銃を構えたジンが、通常歩行で大通りを闊歩していた。
モノアイの光が一瞬だけ路地裏を覗き込み、直ぐに通り過ぎる。
「クソが……ゴミ溜めで……俺が悪いなら、てめえはどうなんだよ、おう……」
 よく解らない事を垂れ流す男を跨ぎ、アイリスがすぐ傍の通用口へと入る。
しばらくした後、髪を下ろしたビジネススーツ姿の女性が鞄を手にしてドアを開け、
そのまま路地裏から出て行った。
MSの足取りも遠ざかり、静けさが戻ってくる。

 
 
 

「俺はもう駄目だ……今期限りで、俺はおしまいなんだ」
「だからぁ、こっちだって同じさ……ってお前、ソフトドリンクで酔ってんのか!」

 

 4番街のバー。コロニー全体が省電力モードに入り、不自然なスピードで夜が訪れる。
カウンター席で3杯目のダイエットソーダを注文したシンは、背後のやりとりを聞きつつ 腕時計を一瞥した。
午後9時を過ぎたばかりである。洗濯機の乾燥が終わった頃だ。
「貴……きしゃまは良いんら、ディアッカ……俺は、母上を失望させまいと、今まれ……」
「おいイザーク! すみませーん、冷たい水持ってきて! ほら、ジンジャーエールで潰れんな!」
「じゃ、これで」
 クレジットカードを取り出したシンが、カウンター隅のリーダーに読み込ませる。
コートに手を入れて席を立ち、マスターに会釈してドアへ歩み寄る。
「後援会も、資金も……全部クライン派に取られれ……全部、うっ……ううぅ」
「シホちゃんはちゃんと解ってるから大丈夫だって!」
「らまれ! こんな俺なんかに、シホがついてくるわけないろ……」

 
 

 私服姿の2人を尻目に店を出たシンは、直ぐ横にある錆びついた鉄製の階段を上がる。
三階まで上がり、一番奥の部屋を旧式の鍵で開き、電気をつけた。
全てのスイッチを入れても薄暗いのは、電力が大元からカットされているためだ。

 

『労働者をぉ! 虐げる行為はぁ!』

 

 不意に始まったスピーカー越しの大声に、眉を寄せたシンが窓の外を見る。
低空を飛ぶディンが、後付けのサーチライトでメインストリートを照らしていた。またデモのようだ。

 

『我々はぁ! クライン派の専横とぉ! 人民への弾圧を糾弾しぃ!!』

 

 連続した爆音で、声が掻き消された。ディン部隊がミサイルを撃ち込んだようだ。
煙の中に機銃の火線が見え隠れし、MSのスラスター音で窓ガラスが震える。
溜息をつき、シンは携帯を留守番モードにして洗面所へ向かった。

 
 

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