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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_The Red Impulse(仮)_第02話

Last-modified: 2009-04-27 (月) 21:40:18

 マイウス・ツーの郊外に建つアマルフィ邸は、戦後に大規模な増改築がなされた。
議員であり、天才的な科学者でもあったユーリ=アマルフィが遺した資産をそのまま引き継いだ妻、
ロミナ=アマルフィは屋敷を孤児院として造り直し、教師、医者らを招いて
親のいない子供達の援助を続けている。

 

 破壊と貧困に溢れるプラントには、同じくらい孤児達も溢れ返っていた。
生活苦で子供が捨てられるのは勿論、出産前に行われたコーディネイトが奏功せず、
自分の子供ではないと主張して養育を放棄するケースも、戦前、戦中から非常に多かったのである。
それは、遺伝子至上主義を市民達に教育するプラントの影の部分だった。
 彼女の行為に感激した最高議長ラクス=クラインはマイウス・ツーを訪ね、
ロミナ=アマルフィ個人に最大の賛辞と感謝の念を伝え、納税義務の永続的な免除を約束した。
資産額を考えるとアンフェアに過ぎる庇護だったが、ロミナは1年の間に次々と企業の創立者、
あるいは設立の立会人となって、雇用の創出、再生に勤め続けている。
 息子ニコル=アマルフィの死を乗り越え、社会福祉にその身を捧げる気丈な未亡人。
世間の人々はそう口を揃え、創立、再建された企業の幾つかも軌道に乗り始め、
より多くの人々が彼女の周囲に集い始めつつある。

 

そこに疑問を呈したのが、監査機関『レグナクラ』のシン=アスカだった。
ザフトへ渡った当初と違い、戦う力を持たない人々を単なる害虫、
あるいはカビのようなものと確信していた彼は、ロミナの高過ぎる行動力に説明がつかないとし、
彼女が援助するビジネスを監視するか、課税を再開する事をラクスに進言した。
 ラクスはこれを聞いて珍しくも怒りを露にし、シンの不見識を厳しく叱責した上で、
アマルフィ家に対する一切の捜査は不要であり、血税の浪費といって強引に手を引かせた。
依然としてシンは強い権力をラクスから与えられてはいるが、
ロミナ=アマルフィについては完全に不可触とされ、身動きがとれない状況だった。

 
 

 武装勢力がスピーカーでがなりたてる怒声が、開いたシェルターのドアから聞こえてくる。
軍需産業が集中していたマイウス市は、戦後最も荒廃が進んだエリアの1つだった。
MSの製造工場は元ザフト兵、あるいは元ザフト兵を自称する海賊達によって略奪の限りを尽くされ、
最新鋭のザクウォーリア、グフイグナイテッドの殆ど全てが彼らによって持ち去られてしまった。
 革命資金や軍資金を脅し取ろうと、孤児院にまで押しかけられた事も何度かあった。
その度にロミナは、ノーマルスーツさえ身に着けずMS用兵器の銃口と向かい合い、
徹底した不服従を貫いて彼らを帰らせた。
なぜ今まで生き残れたのかという問いはよく投げかけられるが、
ロミナは微笑んでかぶりを振るばかりだった。
自分にも分からない、と。

 

 今彼女は、火のついたように泣き出してしまった幼い少女を抱いてベッドに横たわっていた。
赤い非常灯の下、胸元に抱き寄せ背中を撫でる。
声が収まり、ゆっくりと身体を起こしたロミナは幾つもの啜り泣きを聞きつつ、
シェルターの出入口へ足を進める。
「奥様……?」
「この子達をお願い。シェルターはしっかりと閉鎖して。私は自分の部屋にいるから」
「は、はい……奥様、やはり此処は危険だと思います。もっと安全な場所に転居されては」
「マイウス・ツーの養護施設は他にもあるのよ。どうして私だけ逃げ出せるのかしら?」
 同じく避難していたメイドに言って、ロミナは分厚いドアを閉めた。
階段を上って屋敷の地階にやってくれば、重苦しい地響きに玄関先へ視線をやった。
MSの歩行音ではない。 ロケットかミサイルか、榴弾の炸裂音だ。
そうぼんやりと考えつつ二階の自室へと向かう。
 赤ん坊を起こさないような静けさと共に、ゆっくりとドアを開けた。

 

書斎の電灯をつけると、壁が照らされる。
純白の壁を埋め尽くすように、写真が貼り付けられていた。

 

白いタオルに包まれた乳児。
麦わら帽子を被り、ビニールプールの縁を掴んで笑いかけている幼児。
白いシャツに赤い蝶ネクタイを着け、半ズボンを履いてピアノの椅子に座り楽譜と睨めっこをしている少年。

 

緑の髪に少女のような顔立ちは、紛れもなくニコルだった。

 

表情に緊張をみなぎらせ、ザフトグリーンを着て敬礼しているニコル。
ザフトレッドを着て、同僚に肩を組まれてぎこちない笑みを浮かべているニコル。

 

同僚達の顔は、全てカッターナイフか何かで四角く切り抜かれていた。

 
 

 安楽椅子に腰掛け、テレビの電源を入れる。
反体制派によって乗っ取られたチャンネルが督戦演説を流す中、ビデオに切り替えて記録映像を呼び出した。

 

ノイズが走った後、殺風景な廊下が映った。
緑色の髪をした赤ん坊が、あどけない表情でカメラを覗き込んでいる。
頻繁な手ブレで、撮影者が素人であると解るだろう。電灯を消す。
『ニコル! もう一回! もう一回だけ立ってくれ! お願いします! この通りっ!』
『もう諦めなさい。ニコルは抱っこが良いのよね?』
 年若い男女の声が、スピーカーの左右から聞こえる。
それを聞いたニコルが、両手を突っ張ってよろよろと立ち上がる。けれど直ぐに重たい頭を揺らし、
尻餅を突いて頭を打った。カメラが落ち、90度ひっくり返った視界の中で泣き出すニコルを映し出す。
『ああごめん! ごめんよニコル! あっ、カメラ……』
『カメラよりニコルでしょう、ユーリの馬鹿!』
 男女に挟み込まれるようにして抱かれ、泣き続ける赤ん坊。

 

映像は直ぐに切り替わり、何かの機械の前に座っている少年期のニコルが映し出された。
アマルフィ家がまだ裕福で無かった頃、父ユーリがジャンクを集めて造り上げた電子ピアノのキーを叩く。
ひび割れた音が上がり、スピーカーがハウリングしてニコルが耳を塞いだ。
『おかしいなあ……ママ、カメラ持ってて。待ってろ、ニコル』
 カメラが大きく揺れて作業着姿のユーリがピアノに向かい、基部に座り込んで工具を手にする。
しばらくした後で蓋を閉じた。
『もう一回弾いてみてくれ』
 今度は、綺麗なCの音が響いた。
『すごい! 有難う父さん!』
『いやあよかった。ピアノをやりたいって言われた時、どうしようかと……ハハハ』

 
 

胸元で上がった携帯端末の着信音に、ロミナがテレビの電源を切った。
折り畳み式のそれを開き、無言のままゆっくりと耳に当てる。
『レグナクラが動いています』
 窓の外で生まれた光が、ロミナの顔の右半分を照らした。
何の表情も無く、頬を伝う涙だけが彼女の内面を物語っていた。

 

「レグナクラの、どちらがですか?」
『工作員です。マイウス・ワンで発見しました。
そして、ミルキーウェイ・トレーディングのオフィスにあるPCから、データが引き出されています』
「ならば、第3ドックに行く筈ですね。『彼女』に連絡を」
 戦後、黒以外の着衣を放棄したロミナは、今日もまた喪に服すような黒ずくめだった。
暗がりの中で深い闇が身じろぎする。また、窓の外が光った。いつもの抗争である。
「まとめて対処して頂きましょう。最初の警告です。後ほど、アプリリウスへ向かいます」
『はっ、それでは』
 通信が終わり、ロミナは再びテレビをつけた。今度は映像が現れず、音声のみが流れる。

 

『父さん、母さん。僕はこれからも、ザフトとして戦い続けます。
 これからどうなっていくかは解りません。僕は、僕の知っている大勢の人たちを守る為、
 やらねばならない事をやります。
 父さん、戦いが終わったら、僕はまたピアニストを目指します。
 母さん、今度マイウスに帰ったらきちんと謝ります。それでは、お元気で……』

 
 
 

『シン、新しい情報を入手しました』
「話せ」
 電動スクーターに乗ってアプリリウス・ワンのドックを目指すシン。
携帯を持った片手を耳に当て、高いモーター音の中で会話を続ける。
『ミルキーウェイ・トレーディングのPCを漁った所、 マイウス・ワンの第3ドックを警備する
 防衛部隊相手に、公金援助を受け生活雑貨等を提供しているそうです』
「いつの話だ」
『最後の取引は1週間前となっていました。データの入力ミスでしょうか』
 シンは鼻を鳴らし、スクーターを停めた。
その場所は10日前にザラ派テロリストによる徹底した破壊活動を受け、放棄された場所だった。
時系列が合わない。
「手出し出来ないからか、好き勝手やってくれてるな」
 会話を続けながら、警備兵に敬礼してドックに入る。
IDカードをスロットに差してドアを開け、エレベーターに乗り込んだ。

 

鉄格子の向こうに、簡易量産型のフリーダムが並んでいる。
ラクス、そして彼女の乗艦するエターナルを警護する為に6機が製造され、
天使のような白と青のフォルムを格納庫内で持て余していた。
議長警護隊の専用機である。
ザクウォーリア4機分、ゲイツRなら9機分の値段だ。
当然ながら、通常の警備や防衛の任務には使用されない。

 

『それにしても、ロミナ=アマルフィの真意が読めません。
 あれだけの力を持って、議長から絶対の信頼を手に入れている彼女ならば、
 個人的な復讐など幾らでも果たせるはず。 なぜ、元ザフト兵の援助などを?』
「家族を全員失くして、肝心の仇が最高権力者になっていれば、色んな事がどうでも良くなる。
 今でこそ文句垂れてるが、プラントの9割以上がラクス=クライン議長を歓迎したんだ。憎い仇をな……
 気遣わなきゃいけない奴らなんて、もういないのさ」
それはシンも同じ事だった。
この会話が誰かに聞かれて咎められようとも、密告されて権力を失おうとも、彼は全く構わない。

 

『あるいは、他の人間と結びついているのかもしれません。
 僅か1年で経済と政治に大きな影響を及ぼす力を手に入れる為に……』
「何にせよ、証拠待ちだ。頼む」
『はい』
 エレベーターが目的階に到達し、シンが早足で格納庫に足を進める。
既に整備を終えたインパルスが、灰色のボディを直立させて搭乗者を待っていた。

 
 

 破壊され、ねじ曲がった可動橋のような残骸を晒す第3ドックを窓越しに見上げ、
アイリスはスニーキングスーツを密閉してエアロックに入った。
減圧されて反対側のドアが開き、コロニーの外壁を伝ってドック部分に取りつく。
破壊されたエレベーターに沿って這い上り、管制区画に辿り着いた。
 薄暗い外部通路の壁に手を当てながら、4つの青く光る目が辺りを見回しつつ進んでいく。
エアロックに辿り着くと、自動で背後のドアが閉まり、与圧を始めた。サイレンサーピストルを抜き、
宇宙に出た時と同じように反対側のドアが開く。ヘルメットの内側でエアサインが緑に光り、
アイリスはスーツに命じて内部の大気を取り込ませる。
が、フィルター越しにある臭気を感じ取って、銃口を暗闇に向けた。

 

窓枠に引っ掛かっていた人の身体が糸の切れた人形のようになって目の前を流れていく。
部屋に足を踏み入れる前だけで、既に3つの人体が確認できる。
いずれもザフトの制服を着ていた。

 

そして、暗がりにうずくまる1人も。

 

忍刀に似た、四角い鍔を持った片刃の直刀を逆手に構え、前に突き出していた。
ヘルメットを横断する細いバイザーと、左肩に刻まれた『e7』という小さな文字が緑色に光る。

 

白刃がきらめき、銃口が揺れた。

 
 

 黒と金で塗り分けられた機体が、高密度のデブリベルトで息を潜めている。
青白いツインアイと斜め上前方に突き出した大振りのブレードアンテナが星灯りを反射し、
左の腰に差した刀の鞘が鈍く光った。
IDをハッキングしたゲイツのビームライフルを右手で構え、スカートアーマー等から黒い霧を吐き出し、
1秒足らずで姿を消す。

 

 不可視となった直後、各所からスラスター光を吐き出すインパルスが、
マイウス・ワンの外壁を回り込むようにして、破壊されたドックへと近づいていった。

 
 

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