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SCA-Seed_GSC ◆2nhjas48dA氏_The Red Impulse(仮)_第04話

Last-modified: 2009-05-11 (月) 20:33:51

1隻の小型貨物船がデブリ海の只中でエンジンを切って、ガラクタに混じり漂っていた。
その貨物搬入口が識別灯無しに開き始めると同時、近くにあった艦船の残骸から
空間の揺らめきが滑り出す。
デブリから別のデブリへ跳び移るように貨物船へと移動し、搬入口へ入り込んだ。
四方からロボットアームやケーブルが伸び、船内に入った揺らめきが淡い発光と共に消え去って、
黒と金色で彩られたMSが現れる。
袴状のスカートアーマーが窄まり、肉厚のブレードアンテナが赤い非常灯に照らされる。

 

搬入口が閉まると、青白いツインアイから光が失われた。
腰の後ろで、先のインパルス戦では使われなかった銃器が鈍く輝く。
ノーマルスーツ姿の整備員が機体に近づき、貨物室内が与圧され、機体のハッチが開いた。

 

 中から現れたのは、パイロットスーツを身につけていない190近い長身。
頭の後ろに手をやると、簡単に束ねられていたストレートロングの黒髪が無重力の中に広がった。
一斉に敬礼する部下達に頷いて見せ、淡く笑いかけるも、その中の誰一人にも視線を合わせない。
MSの整備に向かう人々と擦れ違い、コンソールを操作する男の近くに降りる。

 

「悪くない機体だ。操作性もアマツに大分近づいている。ご苦労だった」
「恐縮です。何か、他にお気付きの点は?」
 機体を見上げ、ロンド=ミナ=サハクは部下を労った。

 

「懸念していた通り、このヨモツと遠距離武器は相性が悪い。
 特にマガツカゼを使用した後、30秒間はターゲットロックすら出来ん」
「だからこそのショットガンです。そもそも、真っ当な戦い方をする機体ではない」
「初戦でそれを確認できた。それと」
 男に背を向け、ミナは口元に笑みを浮かべた。
「ミラージュコロイドを維持しつつ中距離で戦えば、捕捉される事はない、筈だったな」
「1対1なら、敵はヨモツを認識する事さえできません、絶対に。……なぜです?」
「戦闘記録を見返すが良い。戦いに絶対はない。面白いぞ」
 喉を鳴らして笑い、ミナは貨物室を後にした。

 

 狭い廊下を抜け、長距離通信用の施設が収まった船尾へと移動する。
ドアを開き、スクリーンの正面に立ってパネルを操作する。
たっぷり20秒以上待った後、目の前にフルフェイスメットとスニーキングスーツを纏った
人物が浮かび上がった。スリットのように細いバイザーと、左肩の『e7』が光る。
『御無事で何よりです、司令官。現在、敬礼できない事をお許し下さい』
「許す」
 女性の声にミナが頷いた。小型艇を操縦しているらしく、彼女の手はカメラに映らず、時折画面がぶれる。
左右からは、小さな高い電子音が絶えず上がっていた。

 

『ドック内のデータは全て消去しました。
 ロミナ=アマルフィ様からの情報提供が間に合い、幸運でした。
 あそこには、もはや何の情報も残っていません』
「その、ロミナ=アマルフィとは合流できるか?」
『はい。議長官邸を訪問されるアマルフィ様に、同行させて頂く予定です』
 ミナは返答の代わりに、またも口元に淡い笑みを浮かべた。
「シン=アスカとその副官についてだが、今回のように何度も出しゃばられては困る。
 本計画は……結末はともかく、最終段階まで事を進める必要があるのだ。
 クライン議長には子飼いの部下をしっかり監督して貰わねばならぬ」
『司令官のご命令さえ頂ければ、私がクライン議長のご面倒を省きます。永遠に』

 

 その言葉に対し、ミナは思索を巡らせるように視線を外した。
脇の展望窓から見えるデブリに遮られた星々を見遣った。そのまま、首を横に振る。
「シン=アスカは……本計画の後、役立って貰う。あれはシンボルになり得る。
 敵として、フリーダムを墜とした男として、解りやすい記号だ」
『ならば彼の副官、アイリスについては? 彼女の目と耳が無ければ……』
 声を上げてミナが笑った。女性が戸惑ったように首を傾げた。
「お前にしては、珍しく血を求めるではないか。
 つまり、先程は逃がしたのではなく、逃げられたというわけだな?」
『インパルスの横槍さえ入らなければ、勝負はついていました。あれは全くの偶然です。
 そして優秀な諜報員は危険な存在です。逆に言えば、どれほど戦闘能力が高かろうと』
 ミナの口元から笑みが消え、右手を軽く払った。それだけで、女性は完全に沈黙する。
「獲物を探し求めるのは、お前の役割ではない。その時が来れば余が指示する」
『……申し訳ありませんでした。間もなくアプリリウス・ワンに到着します。
 通信を終了してよろしいでしょうか』
「よい。クライン議長と対面する事があれば、事前に通達した事項を忘れるな」
 スクリーンが暗転し、通信室が闇に包まれる。
 展望窓から入る星灯りが、ミナの黒髪と瞳を淡く輝かせた。

 
 

「私を救助する暇があれば、アプリリウス・ワンに戻るべきでした。時間の無駄です」
「後で戻るさ。大体なアイリス、そっちだって何の情報も手に入れられなかったんだろ」
 ローラシア級戦艦のブリッジに、男女の口論が響く。

 

「そういう問題ではありません。どうしてシンはリーダーとして行動できないのですか」
「部下がたった1人で、リーダーも何も無いだろ。細かい事に口を挟むな」
「ひ、人の艦でケンカしないで欲しいんだけど……」
 艦長席に座ったアーサー=トラインが、居心地悪げに身動ぎする。
紅の瞳と青いカメラアイに見返され、首を竦めた。
頭部を失ったインパルスは、ドックの残骸に取りついていたアイリスを回収し、
付近を偶然通りかかったアーサーの艦に収容されたのだ。

 

 ミネルバクルーの生き残りが乗ったローラシア級は満足な整備も受けられず、空気漏れの為に
あちこちが閉鎖され、外周部の塗装が剥げ鈍い灰色を曝し、かつMS隊も宛がわれていないという
酷い有様だった。
とはいえ、これは別段冷遇されているという訳ではなく、現ザフトでは当たり前の状況である。
 全部隊の8割がMS隊、あるいは母艦を欠いており、そのうえ個人主義と実力主義に染まっているので
部隊間の協力も上手くいかず、まともな戦術的な行動がとれていない。
宙域を荒らし回る海賊に匹敵するのは統率力の低さくらいであり、
装備や補給面では大きく上回られてしまっていた。

 

「なぁシン。ぶった斬られた頭、やっぱり使えないぜ。熱で完全にやられてる」
「ああ、そう……」
 ブリッジへとやってきたヴィーノ=デュプレが、潤滑剤で汚れた作業着で軽く手をはたいた。
シンが肩を落とす。縫い包みやプラモデルではないので、取れたらくっつけるというわけには
いかないだろうとは解っていた。解ってはいたが、現在の補給状況を考えると、
新しい頭部パーツが届くまで1週間以上はかかる。

 

「とりあえず、サーベル取っ払ったバクゥの頭つけとくよ」
「悪いな……ってバクゥ!? 犬型のバクゥ!? 何で付くんだ!?」
「あんなナリでもMSだから、規格は合うんだ。構造が単純だから頑丈だし、整備もやりやすくなる。
 まあ楽しみに待っとけって。ちょっと猫背になるだけだから」
「いや、待……」
 シンの了解を得たと勘違いしたヴィーノが、ブリッジのドアを閉める。
そちらへ手を伸ばしたまま硬直したシンを押しのけ、アイリスがオペレーターに訊ねた。
「アプリリウス・ワンまで、どれほどですか」
「あと1時間もすれば着くでしょう。検問を通るのに30分ほどかかりそうですが」
「ありがとう。……シン、コロニーに着いたら議長官邸へまっすぐ向かって下さい。
 嫌な予感がします。敵に先手を打たれていなければ良いのですが」
「敵? 先手?」
 シンが振り返った。アーサーや他のブリッジクルーまで一斉にアイリスを見て、
全身をスニーキングスーツで覆った彼女が左手を頬にやる。
情報漏洩防止の為に顔を隠しているのだが、滑稽な絵である事に変わりはない。
「ええ。どうも、プラント内部にも……本件の協力者がいるような……」
 シン以外の人間が聞いているので、アイリスは勿体ぶった言い方しかできない。
左舷のスラスターを数秒間噴射して航路を微調整したローラシア級が、
巨大な砂時計型コロニーへと接近していった。

 
 

『地球連合も厄介な国だったが、テロリストと戦うよりは解りやすくて良かったな』
『お前知らないのか、地球連合は国じゃないんだぜ。教養の無さがバレるぞ』
 アプリリウス・ワンの議事堂を警備するザクウォーリアのパイロットが、
何時も通り同僚と無駄話に花を咲かせている。
『そうなの? 宣戦布告したり条約結んだりしてるから、もう国で良くね?』
『違うらしい。よく知らんが、連合の中の、大西洋ナントカってのが仕切ってるんだってさ』
『ふーん、まあ地球人の巣なんて皆同じだろ。オーブも込みで。国で良いって』
『駄目だって』

 

 一方、議長官邸の執務室で客を迎えていたラクスは、青ざめた顔でよろめいた。
キラが彼女を支え、椅子に座らせる。
彼女の前には、2人の女性がいた。
喪服のように黒いツーピースを纏ったロミナ=アマルフィと、その斜め後ろに控えたビジネススーツ姿。
くすんだ金髪に緑の瞳を伏せさせており、かけた眼鏡はよく見れば度が入っていないと解る。

 

「シン=アスカが……レグナクラが、ロミナさんの企業を襲撃したという事ですか?」
「正確に言えば、何かを調査している過程で元ザフト兵と衝突し、所有する設備が破壊されたという事です。
 弊社の要員も、敵と認識されたようで攻撃されました」
 ミルキーウェイ・トレーディングと契約する警備保障会社の社員であると自己紹介した女性は、
眼鏡の縁に触れて持ち上げた。ロミナがその後を引き継ぐ。
「結果から言えば、私が関係した企業がテロリストに利用されていたのは事実。
 クライン議長には大変なご迷惑をおかけ、申し訳ありません。
 事前通達さえ頂ければ、捜査に協力できたと思うのですが」
「それより本当なんですか。この前の騒ぎが……僕達を狙ったテロだったというのは」
 ロミナの傍に控えていた女性がキラに頷き、資料に目を落とすふりをして話を続けた。

 

「今回の事件は我々にも責任があるため、独自に調査を行いました。
 彼らが処分し損ねたメールや紙媒体の連絡手段をチェックした限りにおいて、
 テロリストはクライン議長とヤマト長官のみを狙っています。
 おふたりを排除すれば、プラント内部や周囲の問題がすべて解決すると。
 そして、そう考えている人々は多いようです」
「そんな! 馬鹿げてる……! 僕やラクスは、プラントの事だけを考えているのに!」
 憤慨し、苛立たしげにかぶりを振るキラ。
しかし、嘘だと言い切る自信も無かった。
戦後、自分達は一度として民衆から称賛された事はないし、敬意を払われた事もない。
次々と問題が迫ってくるというのに誰も解決法を教えてくれないし、
僅かでも失敗した途端に人々はラクスを口汚く罵り、嘲って訳知り顔で体制を批判する。

 

 ギルバート=デュランダルを討ったのは、こんな世界を守る為じゃない。

 

議長としての任務を果たそうとするラクスを助けようとするキラには、
いつしかそんな気持ちが芽生えていた。
クライン派も役に立たなかった。どれほど優遇しても、うわべの感謝ばかりで、
肝心な時には誰一人として手助けしてくれない。
自分達は周囲から望まれて重責を背負ったのに、誰も解ってくれない。
アスランやカガリも、何も役立つ事を言ってくれない。

 

「確かに馬鹿げています。クライン議長ほど、弱い立場の人々を思い遣る為政者を私は知りません。
 ですが、時にはそれが理解されない事もあります……
 今大事なのは、とにかくご自身を大事にされる事でしょう。周囲に惑わされず、じっとしていなければ」
 ロミナが母親のように優しく微笑みかけると、キラの表情が和らいだ。ラクスも弱々しい笑みを返す。
ラクスやキラにとって、ロミナは自分達の悩みを真摯に受け止めてくれる唯一の存在だった。
孤児院の子供達のように、彼らはロミナを頼っていたのだ。

 
 

 シンが議長官邸にやってきた時、門が開いて黒塗りの車が走り去った。
暴徒以外も用事があるのか、などと妙な感心をしつつ、兵士に敬礼して建物に入る。
真っ直ぐに執務室を目指し、ノックの後で入室した。
「クライン議長、シン=アスカです。先日の暴動の件ですが……」

 

「シン、わたくしとの約束を破りましたね」

 

 珍しく自分の言葉を遮られ、シンは瞬きした。ラクスとキラが、険のこもった視線を投げかけてきている。
何の約束をしたかも覚えていないシンは、とりあえず首を傾げた。
「先程、ロミナさんが此方へいらっしゃいました。
 ロミナさんの会社に押し入った挙句MS戦で社の資産に損害を与えたそうですね」
「あぁ、申し訳ありませんでした。結論から言えば俺の行動は正しかったんですけどね」
「それも聞いています。その件は御苦労でした……
 ではなぜ、ロミナさんに事情を説明しなかったのですか」
 大真面目に訊ねてくるラクスに、シンは肩を竦める。
頭の中では半ばあきらめていたが、それでも貰った給料分は働かねばならない。

 

「最大の容疑者に、手の内を見せるつもりはありません。アマルフィはほぼ確実に黒だ」
「シン! あなたはまだそんな事を」
「今必要なのは迅速な行動です。即刻彼女を厳重な監視下に置き、不穏分子として……」

 

 シンの言葉は再び遮られた。ラクスが執務机に掌を叩き付け、立ち上がったのだ。
「黙りなさい! なぜ解らないのですか……
 デュランダルの手先だった頃から、あなたは何も変わっていません!
 信頼できる人とそうでない人の区別がつかないのです!」
「あのクローンに惑わされていた頃と一緒だよ! 君はいつも敵を欲しがっている!」
 珍しく声を荒げるラクス、そしてキラ。
しかしシンは何も思う所がなかった。信頼して いた人を侮辱されても、何も感じなかった。

 

 理解していたのだ。

 

 オーブを滅茶苦茶にしたアスハが首長となり、今なお権力の座に居座っている様を見て。

 

 自らの民を裏切って武力で政権を打倒したラクスが、何の将来性もビジョンも発表しないまま議長となり、
 オーブ国民で連合軍脱走兵のキラがザフトのトップになったのを見て。

 

 そしてそれらが、『戦う力を持たない守るべき人々』によって熱狂的な歓迎を受け、
 支持されたのを見て。

 

 世界には2種類の人しかいない。
 力を持った悪人と、力を持たない悪人。
 前者は戦火の中で燃え尽きれば良い。
 後者は貧しさの中で腐り果てれば良い。

 

 無論、頭の中で偉そうに評論家ぶっているシン=アスカ自身も含めて。

 

「シン……貴方に与えた全ての権限を剥奪します。
 この重要な判断を求められる時期に、危険人物を野放しにする事はできません。……残念です」

 

 ラクスの言葉に、シンは胸元から自分のIDカードと、アイリスとの直通回線を開く携帯端末を取り出し、
床に投げ捨てた。銃もホルスターごと外し、床に置いて退室する。

 
 

 彼は全てを失った。1度目は奪われ、2度目は自分で手放したのだ。

 
 

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