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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第10話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:24:31

 ダイアモンドテクノロジー社所有の超大型輸送機。ダークグリーンの巨大な翼には計12機のエンジンが取り付けられ、最大6機のMS輸送を可能としている。ディオキア行きの便にまたも同乗させて貰ったシンは、機内の格納庫で、自分用に手配されたダガーLの調整を行っていた。

「おい? 誰が乗ってるんだ! 」

 エンジン音が床、壁を揺らす格納庫。足元から声が聞こえ、コクピットに座っていたシンは、開けてあったハッチに手をかけて下を覗き込んだ。

「すみません!」
「ああ、アスカさんか! 貴方なら良いんです。どうですか? 当社の製品は」
「俺は元ザフトですから、この機体と交戦した事があります。……でも」

 メンテナンスベッドの階段を上り、上体だけ起こしたダガーLのコクピットへやってきたチーフ・メカニックに振り返り、躊躇いつつ訊ねた。

「本当に、こんな……シミュレーター通りの、このマニュアル通りの動きが出来るようになったんですか?
言っちゃいけないと思いますけど、連合軍のダガーLとかウィンダムって、あの……」
「馬鹿にしないで下さいよアスカさん。そりゃ、ザフトのエースパイロットにとっちゃ、今までのナチュラル用MSは止まって見えるくらい鈍かったかもしれないですけどねえ」
「いや……あ、はい。結構、改造されてるんです、よね?」

 かつて最新鋭機ウィンダムを相手に暴れまわったシンが、ぎこちなく頷いた。

「というか、マン−マシン・インターフェイスの大幅な改良ですな。はっきり言って2年前まで、連合軍のMSはザフト機の真似に過ぎなかったと言って良い。要するに、あくまで武装した人型ロボットであり、兵器としての完成度は低かった。2連続で戦争になったもんだから、ろくに研究も出来ず……まあ、体系が出来上がっていた兵器からのノウハウを貼り付けて、新型MSなどと言っていたわけです」

 戦時中、『棺桶』ウィンダムの整備に関わっていた彼は、帽子を取って髪を手で梳いた。

「戦争が技術を発達させると言っても、流石に2年間で生まれたてのMS技術が変わるわけでは無く……」
「それで、もう2年経ったから、良いMSを造れるようになったんですか?」
「機体性能その物に変化はありません。OSをアップグレードしたんです。より、洗練されたMS制御の為にね」

 メカニックの男が、手元のハンドヘルドモニターを操作して映像を出す。

「ほら、こんな感じ。より高度な慣性とか作用・反作用の概念を学習させてですね……」
「あ、俺これ出来ますよ。いちいち操作系切り替えるから、やたら面倒だけど」

 上体を捻り、右足を左斜め前に小さく蹴って急旋回するモデルを見つつ、シンは頷いた。

「そう、面倒でしょ? その面倒な事を、新型OSとサポートAIでセミオート化したんです。ロゴス狩りに遭ったウチが業績を戦前にまで回復できたのは、まさにその成功があったからなんですな」

 鼻を高くして胸を張ったメカニックだったが、すぐに姿勢を直して頬を掻く。

「ま、基幹システムはともかく、完成させたのはたった1人の若造ですが」
「若造?」
「サイ=アーガイルっていう……知りませんよね。そういう秀才野郎がいるんですよ」

 目を細めて苦々しく言った男は、シンに向き直った。

「しかしディオキアまで後5時間はあるのに、もう調整ですか? ずいぶんご熱心ですな」
「いや、散々世話になったし、もしもの時に備えようと思って……」
「心配無用……とは言い切れませんか。保安部隊の増強に失敗すると、上司の首が危ない」
「ここのMS、売り物じゃないんですか?」

 驚くシン。MSに乗った企業の警備というものをイメージ出来なかったからだ。

「ええ。扱ってるのが大型兵器なぶん、『不審者』もそれ相応で。戦後は特に酷い」

 頷いた男は、帽子を被り直して溜息をついた。

「疲弊した正規軍は民間を守れない上に、軍から流出する人と兵器は増える一方でね。まあ、今日は大丈夫でしょう。自前の護衛がいますからな」

 その時、彼のヘッドセットから電子音が上がり、男はイアフォンを押さえる。

「こちらハンガー、どうぞ」
『操縦室だ。所属不明のMSが複数接近中。通信に応答しない。所定位置に退避せよ』
「シン=アスカです。発進許可を下さい!」

 マイク部分を指で摘んで呼びかけたシンに、操縦室側は一瞬声を失った。

『あ、アスカさん? いや、お嬢様が、ディオキアまで安全にお連れするようにと……』
「接近するMSの数は!? 後、護衛は何機出るんです?」
『いやですから……む、ぅ。……今のところ護衛1機、相手は……5機!?』
「1対5じゃ危険すぎる! 俺を行かせて下さい、今ハンガーにいるんです!」

 なりふり構わず大声を上げるシンに、思わずメカニックの男が耳を塞いだ。

『何、振り切れんか? ……解りました。お願いします、アスカさん。しかし……』
「無理するな、っていう話なら聞けませんよ。2対5なら、無理しないと墜とされる!」

 メカニックが離れ、シンはコクピットのハッチを閉じた。メインシステムを起動させ、ダガーLのバイザーに光が灯る。

『ジェットストライカーパック急げ! あと4分でアンノウンに追いつかれるぞ!』

 メンテナンスベッド自体がハンガー内のレールに沿って移動し、ダガーLの機体を起こしつつ、天井のアームユニットがストライカーパックを携えて合流した。ダガーLが立ち上がると同時に、戦闘機の前部を切り落としたような高出力フライトユニットが背部に取り付けられた。
 赤い非常灯が格納庫を染め上げる中、輸送機後部の大型ハッチがゆっくりと開いていく。

「ただの輸送機じゃないぞ、これ。元々は軍の降下作戦用か……」
『外は嵐です。ジェットストライカーパックの推力を過信しないで下さい』

 機内に入ってきた通信に、シンの表情が引き締められた。

「はい!」
『只今の現地時間は午後10時。夜間です! コース確認……クリア! 発進、どうぞ!』
「シン=アスカ! ダガーL、行きます!」

 ザフト時代の返答と共に、シンは機体をベッドから一歩踏み出させた。そのまま灰色の雲と眼下の黒い海へと誘う搬入口へと歩かせていき、そのまま身を躍らせた。

「くっ! ん?あれ……」

 ジェットストライカーを起動させてホバリングさせた直後、横殴りの風に機体が揺れた。しかしシン自身が調整する前に、ダガーLのセンサーが風向きを読み取って機体を安定させる。

『アンノウンのデータ、送ります。それと、輸送機に遅れないようにして下さい!』
「り、了解!」

 輸送機のレーダー情報と、雲の合間のスラスター光を映したカメラ映像がサブモニターに表示される。輸送機を振り返ろうとした時、今までやっていた煩雑な機体制御がワンタッチで済んだ。素早く機体を翻し、殆どスラスターを使わないままダガーLが輸送機の方を向く。

「これが……新型OSか」
『余程奇ッ怪な動きをさせない限り、細かい所はAIがやってくれます、便利でしょ?』
「便利すぎて……何か、モビルスーツに乗ってる感じがしません」

 輸送機との速度合わせを済ませたシンが、戸惑いつつレーダーに視線を向けた。

「このOS、ザフトではウケが悪いんじゃないですか? 個性重視な人、多いから」
『ああ、ザフトとオーブ軍には、そのOSとAIが渡ってないんです。お嬢様の決定で』
「本当ですか? でも、ザフトはともかくオーブ軍って今は連合の1組織なんじゃ……」
『ねえ? 変な話ですよ。……! アンノウン、3度目の通信を無視! 来ます、警戒して!』

 通信の直後、機内に甲高いロックオンアラートが響き渡る。

「ロックされた! 敵と見做し、迎撃します!」

 メインモニターに映ったオレンジ色のマーカーを見遣る。操縦桿を倒し、分厚い雲の合間から放たれた機銃弾をかわした。夜間の為、モニター映像が低光量、熱探知モードにオートで切り替わる。
淡く発光する複数のシルエットと表示される小データに、シンは舌打ちした。

「報告! ディン4機にバビ1機! チッ、バビはまずい……!」
『直ぐにこっちの護衛機を出します。持ちこたえて下さい!』

 重火力と、単一方向への高い加速能力を売りにしているザフトの空戦可変MSバビ。胸部複相ビーム砲の直撃を貰えば、輸送機のエンジンなど1射で破壊される。

「なら!」

 分厚い雲の中、エアロシェルで頭部を覆った巡航モードのディン部隊がゆっくりと左右に広がっていく。
機動性に劣る『筈の』ダガーLを、陣形を組んで仕留めようというのである。
 刹那、輸送機に追随していたダガーLが、突然反対方向に加速し、暗雲に突っ込んだ。

「馬鹿な! この視界状況だぞ!?」

 MA形態のバビに乗った男は、急接近する敵機の反応に仰天する。レーダーがあるとはいえ、この距離では正確な相対位置が掴めない。衝突するかもしれないという恐怖は、敵も同じ筈だ。

『気をつけろ! お前の機体が一番高いんだ!』
「わ、解っている……うおっ」

 雲を突き破って、頭部と胸部の機関砲を乱射するダガーLが飛び出してきた。バイザーをブルーに輝かせたそれが、バビの脇をギリギリで掠めてそのまま後方に飛んでいく。

「ふ、ふん。連合軍のMSなど、ザフトの猿真似に過ぎん! 元が鈍重なダガーLで……」

 形容し難い感覚が背筋を走り、男は何も考えずに機体を90度ロールさせた。急激に高度を下げるバビのいた場所を、一条のビームが切り裂いていく。

「なっ……」

 180度ターンしたダガーLが、ほぼ真上からビームカービンで狙いをつけていた。続けざまに撃ちこまれる
ビームを、バビの加速力でもう1度回避し、男はMSに変形させた。MS形態は、より三次元的な機動に優れる。
が、しかし。

「れ、連合の……鈍重な、ダガー風情が……!?」
『うおおぉっ!』

 広域回線を使っているのか、敵パイロットの、シンの咆哮が機内に響いた。起動させたビームサーベルを腰だめに構え、シールドを前面に出して急降下してきたダガーLに左肩を貫かれ、変形直後だったバビは大きくよろめいた。

「え、援護はどうした!」
『輸送機をロストするわけにはいかん! そ、それにこっちからも……あ……ッ!?』

 途絶する通信。ダガーLをサーチするパイロットの額に、冷や汗が一筋伝った。

『連携を取って戦闘を行った場合、双方の生存率は75%まで上昇します』

 輸送機から発進したウィンダムのパイロットからの通信を聞きつつ、シンはビームライフル1射でメインの推進機関を大破させられ、墜ちていく1機のディンに軽く視線をやった。

「……パラシュートくらい、持って来てたろうな……」
『シン=アスカ、協力しましょう』

 15歳にも満たないだろうその少年は、ヘルメットの代わりに『BC25』と書かれたヘッドギアを被っていた。
パイロットスーツの各所にはLEDの輝きが走り、白髪が機内の光を受けて輝く。

「解ってる。アンタ、名前は?」
『25番とお呼びください。尚この戦闘では、原則としてシンの指示に従います』

 バビを小破させられ、ディン1機を喪い慎重になった敵部隊。それを、背中合わせになったダガーLとウィンダムが、その青白いバイザーが睨みつける。雷雲が生まれたか、一瞬の稲光が敵味方の機体を照らし出し、直ぐに闇に紛れ込んだ。3機のディンとMS形態のバビ。計4つのモノアイとスラスター光だけが、嵐の夜空に浮かび上がった。

「コードネームか、良いだろう……。25番、早速命令する」

 昔出会い、そして守る事の出来なかった少女と似た『何か』を感じさせるその少年に胸騒ぎを覚えつつ、ダガーLの主武器をビームカービンに替えたシンは、心の昂ぶりを懸命にこらえていた。

「俺が前に出て、攪乱する。フォローを頼む。それと……死ぬなよ」
『了解』

 聞こえてきた声に震える息を吐き出し、シンはフットペダルを力任せに踏み込んだ。

「25番はどうだ?」
「現在は良好です」
「良好で無くてたまるか。俺達より高価なんだぞ、アレは」

 大型輸送機内部の医務室。25番のヘッドギアから送られてくるデータに神経を尖らせながら、白衣の男が苛立たしげに返した。

「最新式の生体CPUだからな。いささかハードな実戦テストになったもんだが……」
「でも、あのアスカさんと組ませて良かったんでしょうかね」
「どうしてだ?」

 部下らしき研究者が、その疑問に振り返った。

「あの、ロドニアのラボで造ったエクステンデッドと浅からぬ仲になったらしいですから」
「だから何だ。25番はエクステンデッドみたいな欠陥品じゃない。改良を重ね……」
「いや我々から見ればそうですけど、部外者にとっては全部同じだと思いますよ」

 会話を聞いていた残る1人が、レポートを作成しつつ話に加わってくる。

「アスカさんは、やっぱり生体CPUとか許せないタチなんですかね?」
「少なくともステラ=ルーシェが死んだ時は、造った俺達を皆殺しにしたかったろうなぁ」
「しかし恐らく気付くだろう、25番の事は。身分を隠すような演技は出来んしな」
「じゃあ、皆殺しかな」

 気楽なムードの中、自分達が辿るかもしれない運命を語り合う3人。彼らは最初から納得済みなのだ。
自分達が手をつけた研究がどれだけ非道で取り返しが付かず、どのような報いを受けようとも償い様の無い、罪深い行為なのだという事を。

「そうなったら、輸送機のパイロットだけは殺さないよう言っといた方が良いですねえ」
「ま、話を聞いてくれればそう説得しよう。……しかし良好だな。初の実戦とは思えん」
「実戦でも、25番にとってはシミュレーターの延長線上でしかありませんから」

 相変わらず呑気に言葉を交わしつつ、研究者達は観測に集中力を傾けていった。

 エクステンデッドの前身であるブーステッドマンと、彼らをプロデュースしたムルタ=アズラエルの事は、シンも知識として知っていた。そして、アズラエルと名乗る少女が受け継いだ物が名前だけである筈は無い、とも予想出来ていた。しかし予想が現実となって尚、冷静でいられるような男であれば、彼は未だザフトに所属していただろう。

「くっそぉ!!」

 シンの苛立ちはそのまま、敵対している標的へとぶつけられる。雲の合間から振り注ぐマシンガンの火線を盾で受けた。金属同士がぶつかって、僅かに食い込み、そして弾かれていく甲高い音に構わず、FCSとレーダーを頼りにカービンを雲へ向け、2連射した。ビームの高熱が雲を焼いて円状の空間を生み出し、その向こうで真っ赤な火花が上がった。ディンの右足が海へと落ちていく。

「やっぱり速いな、ディンは……!」

 位置をサーチされた自分へ殺到する機銃弾とビームのラインを読み取り、シンはジェットストライカーの推力を限界まで上げ、機体を縦横無尽に振って回避する。機体を移動させ、攻撃する以外の動きほぼ全てを、OSとAIにサポートさせたこの新インターフェイスは強力な兵器となった。
 MSは今、単なる武装人型ロボットから兵器へと進化したのである。

『何なんだ、この敵は! どんな奴が乗ってる!』
『MSの性能自体も上がっている! 見た目は同じだが、中身は別物だぞ!』

 慣性誘導から無駄の無いスラスター噴射。そしてより人間じみた、フレキシブルな動作。
ザフトでも熟練した兵士にしか出来ない機動をいとも簡単にやってのける敵機に、襲撃者は恐怖した。

『ま、待て! 戻れ!』

 ディン1機が戦線を急速離脱する。其処へ、かつてザフトのエースの失笑を買った連合の量産機達が斬り込んだ。
 シンのダガーLがカービンを撃ちながら突進し、片足を失ったディンがよろめきつつ回避。その腹部を、追随するウィンダムのビームライフルが貫き、動力を停止させ煙を上げて墜ちていった。射撃直後のウィンダムの背後に回りこんだ最後のディンが散弾銃を構えた時、高度を下げていたダガーLが一気に急上昇。
すれ違い様にビームサーベルを抜き、股下から胸元まで切り上げ、赤熱した裂け目から咳き込むような小爆発が起こって、やはり墜ちていく。そしてただ1機、本格的な戦闘に加わる前に全ての僚機を片付けられてしまったバビを、2機で遠巻きに挟み込む。
 本来バビはこうしたMS同士の接近戦を目的とした機体ではなく、鈍重な標的に持ち前の加速力で急迫し、装備する重火器で痛撃を与えて離脱するという戦法を想定して開発された機体である。
敵味方入り乱れた乱戦で活躍しろという方が無理な注文なのだ。

「投降、してくれるよな?」

 シンの通信に、バビのパイロットから返信が届いた。

『ああ、お前らに勝てると思うほど向こう見ずじゃない……連合軍か?』
「違う。……ってか、相手調べずに襲ったのかよ? アンタ達は」

 ダガーLがバビの背後に回り、カービンを突きつけた。ウィンダムが距離を取って、斜め上からシンをフォローする。

『フン、どうだって良いさ。オーブを発ってディオキアに向かう、MSを積んだ輸送機ってだけで充分すぎる』
「なに?」
『コーディネイター全てがクラインや、ましてアスハに尻尾を振っていると思うな!』

 沈静化した筈の男の声に、段々と興奮が混じってくる。

「何、言ってんだ……?」
『軍属でないにしろ、連合のMSを使っている時点でお前達は敵の走狗だ! 良いか!
今の俺達は小勢。だが見ていろ! 何時の日か反逆の狼煙は炎となる!』
「はぁ? いや、だからちゃんと説明しろよ!」

 会話の内容を理解できていないシンが聞き返した時、バビのコクピットが開いた。パラシュートパックを背負った黒いパイロットスーツ姿の男が中から飛び出し、遥か眼下の海へと落ちていく。

「あっ逃げた!? 待てこの……」

 シンが落ちていく男に気を取られた一瞬後、バビがMA形態に変形して急加速した。向かう先は輸送機。

「くっ!」

 機体を起こし、ビームカービンを構える。しかし輸送機との射線が重なってしまい、高度を上げた。

「一撃で墜とせるか……!?」

 しかし、彼が引き金を引くより早く、ウィンダムのジェットストライカーから放たれた無誘導ロケットが連続してバビに突き刺さり、機体は派手に四散した。爆風に煽られ操縦桿を握り締めたシンの前で、破片が燃えながら、緩い放物線を描いて落ちていく。

「……あンの、馬鹿!」
『周囲に敵の反応は無いようです。帰還しましょう、シン』
「あ、ああ。そうだな」

 今更男1人の反応など、MSのレーダーで追えるはずも無い。シンは25番に頷き、輸送機へ通信コールを送った。

「驚いたな、倍以上の敵を圧倒したか」

 戦艦のブリッジにも似た操縦室で、操縦をオートパイロットモードに戻した機長が唸る。

「新型OSとサポートAIの能力が、これほどだとはな」
「いや、どうでしょうかね。元FAITH隊員と最新型の生体CPUだからこそ出来たんじゃないですか?
新しいOSとAIを付けただけで、モビルスーツが化物みたいに強くなるとは思えません」
「それもそうか」

 ややがっかりしたらしい機長が、肩を落としてコーヒーカップを手に取った。

「それにしても……襲撃犯の通信が気になるな。強盗の放言にしては大仰すぎたような」
「ディオキア行きの輸送機を狙ったんだから、ローカルなレジスタンスじゃないですか?」
「確かに、今はレジスタンスと海賊の天国だからな。解りやすい反抗対象もいるし」

 冷めてしまったコーヒーを口にした機長は、副長の言葉に同調する。

「ま、レジスタンスも海賊も軍も今や傍迷惑なだけの存在だ。新しく湧いても別に驚かん」

 『ゆりかご』に寝かされた25番の横で、シンは遠慮がちに白衣の男に訊ねた。

「こいつ、エクステンデッドなんですか?」
「呼び名は違いますし改良も重ねていますが、似たような物です」
「薬を打ったり、このベッドで記憶を消したり……?」
「今はそういう事はしてません。常習性のある薬は生体CPUとしての性能低下に後々関わりますし、記憶の編集は脳神経に損害を生じさせる事が解りましたから。もっとデリケートな処置です」

 想像以上に冷静だったシンを些か意外に思いつつも、研究員は話し始めた。

「戦争が終わって、軍から生体CPUの発注が無くなったので、僅かですが『在庫』が出たんです。けど他の商品と違って、生体CPUは廃棄処分できません……お嬢様は殺すと仰いましたけれど」
「アズラエルさんが……!?」
「我々企業の身勝手さで改造され、教えられた事と言えば戦闘技能だけ。挙句、専用の設備が無ければ生きていく事すら出来ない。その屈辱を与えるくらいならば、せめて出来得る償いを、と」
「でも、そんな!」
「最初、お嬢様は個人として、既に調整を終えてしまった生体CPU合計50人を殺そうとされました。
ですが……生体CPUは、その全員が自己の延命を望みました」

 喩え何の為に生み出されようが、死が迫れば生を望むのである。勝手に身体を造り替えられ、生きた部品となろうとも、それが生命である限りは当然の事だった。

「殺すならば、お嬢様お1人でやらないと企業が倒れる。しかし、たった1人で殺害するには、彼らは……不幸な事に強くなりすぎていた。我々は彼らの……合意の下、生体CPUの『再利用』を決定しました」

 研究員はそこまで言うと、眼鏡を外して数度瞬きした。

「勿論、生体CPUの改良に掛かった費用は莫大でしたが。しかし性能は良い。使い捨てだった頃より、ずっと」
「もう……」

 シンのか細い声に、研究員は身を乗り出した。

「もう、使い捨てじゃないんですね……?」
「え? ええ。コストに合いませんし。寿命も常人通りだろうという予測が立っています」
「なら、良いんです。別にCPUだって……俺も仕事の時は、ただのMSの部品だし」

 言葉に反して、シンの口調は穏やかだった。立ち上がって軽く頭を下げる。

「そう。俺も、同じなんだ。……お邪魔しました」

 そのまま、医務室を出て行った。カーテン一枚隔てて聞き耳を立てていた2人が、声を潜めて囁き合う。

「皆殺しとは、ならなかったみたいだな」
「2年経って、復讐心が和らいだとか?」
「いや」

 2人の会話を、先程までシンと言葉を交わしていた男が遮った。

「多分、違う。復讐とかそういう次元じゃないだろう。彼は……彼は、きっと……」

 早朝のディオキアに降り立ったシンは、ダガーLをメンテナンスベッドごと輸送機から荷下ろしさせていた。

「これ、トレイラーで運んで貰えるんですよね?」
「そうです。直ぐ傍に停めてある船に積みます」

 港湾区で落ち合ったそのミハシラ軍実働部隊員は自らをエコー7と名乗った。簡素な作業服姿で、ただの労働者にしか見えない彼女は、おもむろに右手を差し出した。

「遅れましたが、ようこそディオキアへ。シン=アスカ。此処はタフな職場ですよ」
「……そうなんですか?」

 差し出された手を軽く握りつつ、シンは首を傾げる。

「そうです。海賊の他、『救世同盟』を相手にしなければなりません」
「救世同盟……? 何なんです、それ」

 シンの問いに、エコー7は溜息混じりに答えた。

「レジスタンスです。現在の体制に反抗する、武力を持った集団です」

 未だ怪訝な表情を消さないシンに、彼女はひとつ手を打った。

「うん、もっと単純な表現が。恩着せがましい強盗です」
「ああ、なるほど!」

 先の戦闘を思い出し、シンもまた溜息混じりに相槌を打った。

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