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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第14話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:26:48

 援助物資を積んだトラックが、ディオキア沿岸の難民キャンプ前に停車する。これはキャンプが拡大を始めた1年前から、市が自発的に始めた活動である。難民の犯罪を抑制する為だ。
 今日は少し様子が違った。トラックの荷台から、1人の女性と3人の男性が降りてくる。

「なあシン。『頼み』、聞いてくれるんじゃなかったのかい?」
「これが終わったら聞く。……ヒルダ達は、トラックの所で番をしててくれ」

 難民キャンプの住民が不釣合いな来客に警戒を露にし、テントの破れ目からその4人の姿を盗み見る。
 まだ青少年と呼べない事も無い若い男が、視線を気にせずキャンプの奥へ歩いていった。

「チ、揃ってシケた面してやがる……」
「ヘルベルト、シケた面になるような事を、あたし達コーディネイターがやったんだよ」
「だったら尚更だ」

 運転席から降りた作業員が、荷台のリフトを操作する。柄の悪い3人が真ん前に陣取っている所為で、何時も起こる配給時の混乱は幾分か抑えられていた。

「エイプリルフール・クライシスで何億も死んだ。ブレイク・ザ・ワールドでも相当死んだ。本当なら、地球全部にブルーコスモス思想が広まって、プラントは大攻勢を掛けられてる筈だ」
「だから、わざわざ『ラクス様の為に』って叫んで突っ込んでみた。で、失敗した」

 マーズの言葉に、ヘルベルトは咥えたボルトを噛み締めた。

「ああそうさ大失敗さ。ラクス様の為にって言や、地球連合軍からは狂信者って事で追い回され、ザフトからも裏切り者って事で追い回される。その筈だったよなぁ? ヒルダ」
「……それは、もう良いじゃないか」

 眼帯を押さえつつ、ヒルダは小さく唇を噛んだ。小麦の袋を受け取りにきた少女が、3人の方へ怯えた視線を向け、受け取った物を胸に抱かかえて走っていく。

「しかし連合軍はお役所仕事だから良いとして……ザフトは予想外だったねぇ」
「『道を開けなさい』か」
「マジでビビるから救いようがねぇ。何様だ! ってキレる所だろうが……」

 荷台付近のどんよりとした空気を読んだか、難民が綺麗に列を作っていた。

「やっぱデュランダルに寝返りゃ良かったんだ。そっちのがずっとスリリングだったぜ」
「負けたら報奨金は出ないだろ? スリルを長く愉しむには、金も要るからねえ……」

 既に見えなくなったシンの姿を追うように、ヒルダは顎を心持ち上げた。

「そういう意味じゃ、ミハシラ軍が一番良い。トップのサハクとかいう女が上手く立ち回ってるお陰で、どこの会社にも遠慮せず、悪そうな事してる奴をぶっ叩けるからね」
「それは良いさ、ヒルダ。だがあのシンってのは大丈夫なのか?」
「何が? うってつけじゃないかぃ。ピンク女と違って権力も財産も無いし……」
「奴は平和を望んでる」

 髭面のマーズに、ヒルダは冷たい笑みを浮かべた。

「平和? あたし達コーディネイターがプラントに居座ってる限り、平和なぞ来るもんか。
まして今やあのクラインが、プラントを牛耳ってる。力で全部捻じ伏せたあの女がさ」
「なぁるほど。キラ=ヤマトもいるからな。当分崩されん」
「そういう事さ。大体ね、MSを振り回してつくれる平和なんて、ありゃしないんだよ」

 彼らの戦争に対する理解は深い。戦闘と混迷を愛する故に、それを継続させる方法と、その方法がどれほど容易に選択できるか分っているのだ。

「……そう思ってるから、シンも此処へ来たんだろうさ」

 ヒルダの呟きに、男2人は応えなかった。何処か物悲しげな彼女に、軽く視線を向けただけだった。

 MS1機を支え、空中戦を可能とさせるジェットストライカーパックの推力は凄まじい。それが地上を低空で飛べば、補強などされていない難民キャンプの設備がどうなるか、想像に難くないだろう。

「これを俺が……やった、のか」

 幼児に遊び尽くされた砂場のように荒れ果てたキャンプの一区画の前で、シンは呆然と独りごちた。
生気の抜け落ちたような難民が、あちこちでテントを修繕している。難民の1人が、スラスターの風圧で根元からへし折れたテントの支柱の前で頭を抱え、座り込んでいる。家族だろうか。乳児を抱いた女性が、男の傍に膝を突いて立たせようとしていた。彼らには絶望する余裕さえ無いのだ。

「う……っ」

 瓦礫の中に転がる右手が、燃え盛る空母が、廃墟となった都市が次々とフラッシュバックし、シンは口を押さえて屈んだ。込み上げてくる物を涙目で飲み下し、白濁した胃液が口元を伝う。
 解ってはいた。平和を『前進』させようと思えば、MSになど乗らずにこういう人々の為にボランティア活動に従事し、彼らの生活を向上させる手助けをせねばならない。今の自分は、平和を『後退』させまいとしているに過ぎないのだ。しかしシンにはMS操縦や戦闘技術以外に秀でている技能が無く、世界には未だ争いの火種が燻っている。
 冷酷な表現を使えば、シンはMSに乗って賊を鎮圧する方が、『効率が良い』のだ。
 ボランティア活動に身を投じ、一から技能や経験を積むよりも、MSで戦う方が『平和』という世界的プロジェクトの進捗により貢献できる。キラが未だ前線に立ち続ける理由も同様だ。
その戦闘で、シンは損失を出したのだ。平和の後退を食い止める事に失敗したのだ。

「何か――!!」

 口元を拭って、立ち上がったシンは掠れ声で叫んだ。難民の幾人かが振り向く。

「何か、手伝わせてください! ダガーLのパイロットです! キャンプをこんなにした本人です!」

 彼らは一瞬顔を見合わせ、直ぐに表情に怯えが走って顔を背ける。ダガーLがザクを蹴飛ばして、被害を軽減させた事は知っている。だが、シンが正規軍の兵士でない事も解っていた。
今の正規軍が税を払えない難民を救う訳が無い。つまり、先程の戦闘を賊同士の小競り合いと判断したのだ。
 そう思えば、シンには近づけなかった。難民に、今以上の厄介事は抱え込めないからだ。

「何でも、やらせてください! 手伝わせて……」
「大丈夫ですから、お構いなく!」
「キャンプを守ってくれて、有難う! 感謝します!」

 シンが一歩踏み出した瞬間、声が飛んでくる。叫んだ声の元に視線をやる。精一杯の作り笑いがあった。
恐怖に引きつりながらも、勇気を掻き集めて『賊』に向き直った彼らに、シンの膝から力が抜ける。
小さな子供が親に庇われ、背中に隠された。縫目がほつれ、薄汚れた犬のヌイグルミが地面に転がる。

「……はい」

 肩を落とし、踵を返す。荒れたキャンプから離れていく小さな背中に難民は胸を撫で下ろし、復旧作業に戻っていった。

 罵声を浴びせられ、石の1つでも投げつけられた方がまだ気が楽だった。折角助けたのに理不尽だと、僅かなりとも憤る事ができるからだ。前を睨んで歩き続けるシンの頬を熱い物が濡らす。
 キャンプの外れ。難民が出す生活ゴミの集積場で、シンはポケットのハンカチに触れた。
オーブの式典で事件が起こった時、放り出して壊してしまった『形見』の破片を包んだそれを、指先で撫でる。

「やっぱり俺は……ただの、ヒーロー気取りなんだな……」

 誰もいないゴミ捨て場でシンは立ち尽くし、腐臭の中で声無き声を上げ、泣き続けた。

 煌びやかなパーティ会場で、沢山の人間に囲まれて疲れたドレス姿のカガリが、隅の方で質の良い椅子に凭れかかっていた。ヒールを履いた脚を投げ出し額に手をやる姿は、地球の支配者として少々似つかわしくない。

「カガリ、脚は戻した方が良い」
「こういう所は慣れてないんだよー……」
「ハハ、慣れていないっていうのはあるかもな。こういう所は、場数だから」

 パトリック=ザラの息子としてあちこちのパーティに顔を出していたアスランは、苦笑しつつカガリの隣に座った。息苦しいタキシードを着ても、汗さえかいていない。

「もっと質素なのが良いな。次からはちゃんと内容を見てから行く」
「それは無理だろ。招待されたら行くのが、カガリみたいな人間の義務なんだから」
「む……このパーティだってモルゲンレーテ主催だけど、何で呼ばれたか解らないし」

 ぐったりとしたまま、カガリは一つ息を吐いた。

「本当は……こんな事やってる場合じゃないんだ、私は。あのシンに、応えなくちゃ」
「……もう、あいつの事は気にしなくて良い」
「そうかな? だって、シンは私が……あ」

 何か言いかけたカガリだったが、身を縮めて立ち上がる。

「どうした?」
「ちょっと……えっと、トイレ」
「ああ……! 悪かった」

 小声でアスランに囁きかけ、慣れないヒールでよろけつつ去っていったカガリを見送ったアスランは、琥珀色の液体で満たされたグラスを揺らす。

「シン……お前は今、何処で何をしてる?」

 アスラン=ザラは血のバレンタインで母を喪い、ヤキン=ドゥーエ戦役で敵となった父を喪った。母は強い女性で、プラントと地球との関係を憂いた故に、条約に違反したユニウスセブンへ敢えて移住し、専門の農学でプラントの発展と、地球への貢献に尽力しようとした。
 父は妻を喪った悲しみに暮れ、コーディネイター至上主義を唱えてジェネシスで地球を撃とうとし、部下に殺された。そういうアスランにとって、強い想いは悲劇の引き金でしか無いのだ。
 加えて、彼はシンと違い、分を弁えていた。喪ったからこそ護り抜くと決めたシンのように傲慢ではなく、護るからには全てをと渇望するシンのように強欲でもなかった。
 信念など、アスラン=ザラはとうの昔から諦めていたのである。

「我々は、自身が極めて危険な環境に居住している事を自覚し直すべきです」

 補佐官の冷たく乾いた声が、議事堂内の会議室に響く。

「それは、コーディネイターであれば誰しも持っている自覚だ。それと軍縮と、どんな関わりがあるのです? 補佐官」
「コロニーの安全性を磐石の物とするには、予算が足りないからです」

 月一度の中間会議の席で、補佐官と『歌姫の御手』構成員であるザフトホワイトがにらみ合う。
イザークは高速通信を介し、モニターからの参加となった。
 アプリリウス・ワンは変わった。2年前まで、ザフトホワイトがこのような席にまで顔を出す事は無かった。最初に多くを占めていた議員達は、ラクス=クラインが政権を握って以来、徐々に『御手』らに押しやられるか、変革についていけずに去るかでその数を減らし、今では軍部とプラント政府との関係が、極めて濃密な物となっていた。

「特に危険なのが循環装置で、これが機能を止めてしまうと、プラント内部は3時間程で人が住めないほど汚染されます。医学チームのレポートによれば、炭酸ガス濃度が……」

 その言葉に青ざめたキラが、補佐官の方を振り返った。哨戒任務から帰って直ぐに出席している為、彼はパイロットスーツのままだった。

「そんなに短時間で!? けど、装置は12個くらいセーフティがあるから……」
「万一の場合を申し上げているのです。人間は空気の薄さ自体には耐えられますが、酸素と炭酸ガスのバランス変動には極めて脆い。肺が換気能力を失い、脳や心臓の機能に障害が出るのです。
最低限、プラント市民の全員を収容できるシェルター、船を用意する事は必須の筈だ」

 キラを見つめて告げた補佐官は、再び全員に向き直る。

「にも関わらず、プラントの災害対策は地球のそれと同等以下。何故か? 国力を省みず、軍拡を押し進めて地球へ侵攻したからです。市民全員分のノーマルスーツすら無い」
「ナチュラルに絶滅させられるのを待つ訳にはいかなかったでしょう?」
「では今は? 戦争が終わり、地球との関係も悪くない。軍を引く絶好の機会です」
「船もシェルターも、メンテに費用が掛かります。補佐官の考えは些か非現実的では?」

 一番端の席に座っていた、アプリリウス・ワンの路地裏で『D』と名乗ったザフトホワイトの問いに、補佐官は落ち着き払って返した。

「ザフトが原則通り、プラントの防衛『のみ』に徹すれば可能です。試算も出来ています」

 補佐官の問いに、ザフトホワイト達がざわめいた。

「そうは言ってもね……ジュール殿、ディオキア基地が襲われたようですが、状況は?」
『良くは無いな。通信施設は回復したが、全ての機能の復旧には遠い』
「治安の回復しない地球には、戦力を残しておくべきであるとお考えでは無いですか?」

 『D』に話を振られたイザークは、ノイズ交じりの画面でかぶりを振った。

『いや、俺も軍縮には賛成したい。この一件、地上に軍を置き続けるザフトへの不満によって生じたものである可能性が否めんし、兵士の士気低下も著しいからな』
「なるほど……いかがでしょうか、クライン議長」

 全員の視線が、桃色の髪のラクスに吸い寄せられた。瞑目する彼女だが、どう応えるかは決めてある。
 迷う事は無かった。人々が今の平和を受け入れられないなら、自分は『その時』までやり通すだけだ。それが、デュランダルを否定した自分の義務だからだ。

「……武力をもって人の未来を阻むものとは、戦わねばなりません」

 目を開けたラクスは、全員をゆっくりと見渡した。

「わたくしは、議会にて軍備拡大を提案する事に致します」

 その言葉にイザークと補佐官は視線を伏せ、その他は顔を上げた。ラクスが議会で『提案』する事がどのような結果になるか、解っているからだ。

「ですがクライン議長、コロニーの問題もまた存在します。此処は次善策として、循環設備に保安装置を増設するというのは如何でしょうか。シェルターや船を増やすより遥かに低コストです」

 『D』の提案に、ラクスは笑顔で頷く。

「よい事です。許可致しましょう。よろしいですね? 補佐官」
「はい。本日の会議で、これ以上申し上げる事はありません」

 頷き、補佐官は書類をまとめ始めた。書類カバーの端に、きつく曲げられた痕が残った。

「本日の決定は最終的な物ではありません。定例通り、月末の会議にて再度議論します」

 キラに寄り添われ、ラクスは再び笑みを浮かべ、踵を返す。

「では、これにて……」

 ラクスとキラが去った後、『D』はモニター越しにイザークを見遣って声を落とした。

「救世同盟の件ですが、正直な所、私は真偽を疑っています。あの立地条件ですし」
『ガルナハン基地の報告を受けたから、そう言っているのか?』
「周囲を連合軍基地で固め、パワープラント付近をザフトとオーブが守っているのです。
そんな場所が、MSを使うレジスタンスの拠点になるとは、とても……」
『それを確かめる為に、我々が直接向かうのだ』
「確かに。……ご武運を」
『……』

 薄い笑みを浮かべた『D』の敬礼にイザークが返礼し、言葉無く、モニターは暗転した。

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