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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第15話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:27:42

 ガルナハンの価値は、戦後も揺らぐ事が無かった。最大クラスのパワープラントが置かれたこの土地はユーラシア連邦西部のエネルギー拠点として、今なお厳重な警備下にあった。
 変わった事と言えば、警備部隊の編成である。2年前、ザフトのミネルバ隊によって連合の基地が陥落させられ、しばらくはザフトの基地として利用されていたが、戦後はオーブとザフト双方による分割統治となった。
地球連合軍もまた、地の利を奪還する為に『警備部隊』を派遣したが、オーブ軍とザフトから混乱を招くとされ、歌姫の騎士団の影もチラつかされ、止む無く渓谷の周囲に警備網を張り巡らせるだけに留まった。
 そうしている内に新しいガルナハン基地の建設は着々と進み、3ヶ月前、陽電子砲を据え付けて完成と相成った。MS隊の投入と重武装化によって、現地住民とのトラブルが起こり、初めの内は報道されていたが、今では音沙汰無い。連合軍にさえ、情報は殆どもたらされなかった。
 自分達が守っているはずの中枢エリアの状況が解らないというのは、兵士の苛立ちと不満を呼んだ。が、強固なピラミッド構造で成り立つ地球連合軍内においては、通常、不満は燻るだけで発火する事は無い。
 少なくとも今の所、その素振りは見せなかった。

『12隊から9隊へ。現在E4区画へ移動中。異常は確認できない』
「気をつけろ。渓谷の奥に行き過ぎるなよ。また『歓迎』されるぞ」
『ふん、こっちは向こうの3倍いるんだ。付き合ってやりましょうよ、大尉殿』
「面倒を起こすな、少尉」

 何処までも続く青空。大地が陽光に照り付けられ、陽炎が浮かぶ上空をウィンダム1機とダガーL2機の小隊が飛ぶ。ジェットストライカーパックのスラスター光が、時折舞い上がる砂塵にぼんやりと輝いた。

『またぁ。大尉殿だって、新型OSとサポートAIの性能を確かめて見たいんでしょ?』
「それはあるがな。ダイアモンドテクノロジーには大金を払ってる」
『案外、コーディ共なんぞ相手にならないんじゃないですかね?』
「おい、士官がそういう口を利くな。我が軍は、『コーディネイターへの脅威に対抗する為』っつー名目で予算をふんだくってるんだからな」

 通信モニターから笑い声が上がった。

『そうでした。じゃあ、奴らは言わば友軍か』
「友軍どころか、資金を提供する貴重な補給線だ。媚び、へつらわねばならんくらいだ」

 斜め後ろの左右に位置取ったダガーLが、左腕のシールドで胸部を庇わせつつ、ビームカービンを周囲へ向ける様を確認し、彼自身もウィンダムで同様に偵察する。機体が下方を向き、照り付ける太陽が人型の影を生んで、バイザーの光が地表を睨み付けた。
 左横で鳴ったアラームに、視線が其方を向く。バッテリー残量が50%を割ったのだ。

「帰還するぞ、少尉。レーダーで後続部隊を確認出来た」
『了解!』

 ウィンダムに合わせ、2機のダガーLが脚部を振り、腕をそれに合わせて180度旋回。
ジェットストライカーの出力を上げて渓谷を離脱し、遠目に確認できる連合基地に進路を取った。

『しかしですね、見事な戦略眼をお持ちの大尉殿と違い、部下は違う事を考えてますよ』
「そうか?」

 壮年の大尉は生返事で応えた後、顎に手をやる。

『ええ……一度、士官食堂以外で飯、食いましょう。人心掌握活動の一環で。良いでしょ?』
「ああ、解った。しかし私には妻がいるからな。君との仲を噂されると困る」
『大丈夫です。私も夫がいます』
「……そうか。……隊列が乱れているぞ!」

 何故か力なく頷き、部下に注意を飛ばし、大尉は視線を正面に据えた。

「駄目だ」

 ディオキア基地傍の港街。裏通りにあるパブの奥まった席でシンはかぶりを振った。

「何でさ? 頼みは1つしか言っちゃいけないって、あんたは言わなかったよ?」
「違う。1つ目は聞けるさ。ディオキア基地のミハシラ軍は人手不足だから。でも、俺の部下になるっていうのは駄目だ」

 一番奥に座ったヒルダの左にマーズが、右にヘルベルトが陣取り、3方向から来る視線にシンはもう一度首を横に振った。

「なあシン、何が問題なんだ? さっきの戦闘で、俺達は自分の価値を証明したろ」

 と、ヘルベルト。昼間だというのに水割りを頼む彼は、ウェットティッシュでボルトを拭きつつ訊ねる。

「不満か、あの程度じゃ」

 マーズはそう言って、オレンジジュースを飲み干した。ヒルダは牛乳、シンは水だ。

「そうじゃない!」
「尚更わからないねえ。 命令なんてアバウトで良い。こっちで考えてお伺いを立ててやる。お互いザフトでやってきたじゃないか。鮮やかな指揮能力なんぞ期待しないよ」

 ザフトの致命的な欠点の1つ、ずさんな指揮。それはシンにも解っていた。

「……解らないんだ。何で俺なんかの部下になりたがるんだ? 何か企んでるだろ?」
「企んでるといえば、そうだねえ」
「何が目的なんだ? いやその前に、2年間何をやってたか教えてくれ」

 シンの問いに、ヒルダは肉食獣が牙を剥き出すような笑みを浮かべ、身を乗り出した。

「ようやく面接まで漕ぎつけたね。良いよ。と言ったって単純だけど。ま、早い話が正義の味方ごっこさ」

 首を捻るシンに、ヒルダは笑みを浮かべつつ続ける。

「だから、アンタ達みたいな事を始めたんだよ。とりあえずドムを1機横流しして……」
「横流し!? 何処に!」
「ああ、勿論壊れた事にしたんだけど。何処だっけね?」

 振り向かれたヘルベルトは、グラスから口を離し眉間に皺を寄せる。

「確か、プラチナム……じゃない。ダイアモンドテクノロジーだ」
「そうそう。野暮ったい名前だったねえ。ともかく売って元手を作ったんだよ」
「な……なっ……」
「スクリーミングニンバスに……あの攻性バリアに興味があったみたいだねえ」

 唖然とするシンに、涼しい顔でマーズが答えた。

「安心しろ。バレてない」
「バレてなくたって駄目だろ!」
「まあ良いじゃないか。アンタは死人で反逆者。あたしらは義賊の皮を被ったコソドロだ。
正直、良いパートナーになれる気がしないかぃ?」

 頭を抱えるシン。ラクスに忠誠を誓う狂信者だと信じられていた彼女達が、とんだ無法者だったとは、想像もつかなかった。

「それでザクに乗って、まさか海賊みたいな真似を……」
「正義の味方モドキって言ったろ。海賊とかレジスタンスとかを専門に狙い始めたのさ。
何しろ、今の海賊や抵抗組織はデカイ企業が世話してるから、ルールが厳しいしねえ……」
「ざ、ザフトに残留して、地道にやろうっていうのは……」
「馬鹿言っちゃいけないよシン。ディオキアのザフトを見な。奴ら、地球にコーディがあんまり住んでない事を知った上で、コーディ以外を守る必要は無いと抜かしてるのさ」

 ヒルダの言葉に頷きつつ、ヘルベルトが後を引き継ぐ。

「奴らは色々ごたくを並べるがよ、要するにサボって給料を貰いたいだけだ。野蛮で愚かなナチュラルとか、コーディネイターの誇りとか、そんなのは方便さ」
「宇宙は……?」
「中立地帯には似たような態度だし、キラ『様』にエモノ横取りされっ放しでね」

 再び頭を抱えるシン。海賊に落ちぶれた自分も最新MSを横流ししたヒルダ達もそうだが、その他の『同胞』もロクな事態に陥っていない。

「じゃあ、補給はどうしてるんだよ……」
「助けた企業とか街に……ええと、協力して貰ってたよ」
「今、何か言いかけたろ!?」

 ヒルダの隻眼が泳いだ。

「あっ、そういや街の前にMSを立たせてたら、ホテル代がタダになった事があったねえ」
「人々の善意だな」

 フォローにならないフォローを入れるマーズ。

「アンタ達は……!!」

 何か怒鳴りつけてやろうとしたシンだったが、とある気持ちもまた芽生えていた。彼らは今の所、治安を乱す存在としか戦っていない。だがこれから先はどうだろう? ほんの気まぐれで、ミハシラ軍の敵にも回るのではないか?
 同程度の能力を持った『誰か』が、彼らに目を光らせなければならないのではないか?
 意識をクールダウンさせたシンは、据わった目で3人を順繰りに睨んでいく。

「正直に訊くから、正直に答えてくれ。アンタ達は何が欲しいんだ?」
「スリル」
「ドンパチ」
「ついでにカネ」
「……解った。俺の部下になって貰う。だが、命令にも従って貰うぞ!」

 シンは身を乗り出し、人差し指をヒルダの鼻先に突きつけた。何故自分の部下になりたいかなど、最早どうでも良い。同じはみだし者である自分が、彼らを監視しなければという強烈な責任感に突き動かされ、承諾したのだ。思い込みの強さが災いし、シン=アスカはまんまとド壷に嵌った。

「言っとくが、俺に出来るのは司令官にアンタ達を紹介して、俺がアンタ達の隊長になって良いか訊く事だけだ。俺には何の力も無いしな」
「OK.断られたらあの難民キャンプを襲うとか言えば、許可出るんじゃないかい?」
「どうかな。脅迫に応じるような人じゃない。けど……」

 拳を握り締め、シンはヒルダを睨む。

「仮に司令官が駄目だと言っても、俺はミハシラ軍を辞めてアンタ達を見張る」
「そりゃ、ついてくるって事か?」

 小さく笑みを浮かべたマーズのからかいに、シンは勢い良く振り返った。

「当たり前だ! アンタ達を野放しに出来るもんか!」
「良かったな、ヒルダ。どんなになっても、シンは俺らの隊長やるってよ」
「感涙ものだねえ。これからもよろしく、『隊長』?」

 ヘルベルトの言葉にヒルダが目頭を押さえ、顔を真っ赤にしたシンがそっぽを向いた。

 ディオキアの港湾区画にある、ミハシラ軍の中継基地に戻ってきたシン達の前に、見慣れぬ車両が止めてあった。

「軍用のジープだな。ミハシラ軍のとは色が違うけど」
「ああ、こいつはディオキア基地のだ。ザフトが使ってるやつだね」
「ザフトが……?」

 建て付けの悪いドアを開けて中に入ると、2人の声が聞こえてきた。1つは基地を管理するエコー7の物だ。

「救世同盟の調査と言われましても、ガルナハンは今、外界とほぼ隔絶されています」
「地球に降りた時に、その状況は把握した!」
「そもそもミハシラ軍は規則上、攻撃部隊を編成できませんし、何より余力が無い」
「しかし、ガルナハンの実態を掴まん事には、此処の治安も何時回復するか……」

 もう一方の男の声を聞いたシンの表情が強張った。

「この、声は……!!」

 駆け出し、応接室兼休憩室に飛び込んだ。話し込んでいたイザークが立ち上がる。

「お前は、シン=アスカ!」
「イザーク=ジュールッ!」

 周囲が呆気に取られる中、両者は詰め寄り、互いに肩を掴んだ。

「貴様! 脱走して死んだかと思えばミハシラ軍にいたのか! 罰も受けずに!!」
「裏切ったクセに! 白服なんか着て恥ずかしくないのか! アンタって人は!!」
「おい、止めろイザーク!」
「ダメです、ジュール隊長!」
「何だ何だ、面白そうじゃないかい!」
「良いぞシン! やっちまえ!」
「キメろ、隊長!」

 血が上りやすい事にかけては他の追随を許さない2人である。当然ながら、止まらない。

「腰抜けエェッ!!」
「日和見野郎ぉ!!」

 シンの、詰まり気味のストレートがイザークの顎を、イザークの腰の入ったフックがシンのこめかみを、それぞれ同時に撃ち抜いた。一撃で急所を突かれ、昏倒する両者。訓練を受けたコーディネイター兵同士、カウンター効果も考えれば当然の結果である。失神した2人に上がる悲鳴、喝采。

「……」

 自身の動揺を鎮める為、エコー7はとりあえずコーヒーのカップに口を付けた。

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