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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第18話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:29:05

『D3エリアにて異常を確認。9隊は速やかに現場へ急行せよ。これは演習ではない!』
『ねえ大尉殿、あのクソッタレ中将殿はどういうつもりなんでありますか?』
「どういうつもりとは? 質問は意図を明確にするよう、言ったはずだぞ」
 ガルナハン北部基地の格納庫にサイレンが鳴り響く中、ウィンダムのコクピットで調整を行っていた大尉は、自分の小隊員から入ってきた通信に、視線を交わさないまま応える。
『だから、今日帰るとか言った癖にまだVIPルームを占領してる事とか、ですよ』
「ああ。フラガ中将殿は病気で体調を崩され、1日滞在期間を延ばすそうだ」
 通信機越しに、小隊員の不快気な鼻息が聞こえた。
『フン、裏切り者のオーブ軍中将殿に居座られちゃ、部屋も迷惑だろうな』
「控えろ。オーブ軍は今や、地球連合軍の上位にそのまま捻じ込まれている。言わば、フラガ中将殿は我々の上官でもある」
『それがそもそも無茶苦茶なんじゃないですか。オーブなんかに好き勝手されて……』
 後1人の小隊員は通信に加わって来ない。しかし、このような発言を秘匿回線以外で、連合軍基地のチャンネルに流せるという事その物を、大尉は重く受け止めていた。
『大体、放射線症と言ったってごく軽いレベルなんでしょう? 薬で抑えられる程度の』
「…………公式には、そう伝えられているな」
『もっと苦しめば良いのに。あいつは、ベルリンで俺の母さんと父さんを……』
「無駄口は其処までだ」
 起動を終え、背部にジェットストライカーパックを装着したウィンダムが、左右に開く重厚なシャッターの前へと歩いていく。同じジェットストライカーを装備した2機のダガーLが、両隣に並んだ。
「第9隊、出動する。コントロールセンター、現場の状況は何か掴めたか?」
『パワープラントエリアから発進したMS隊が、所属不明部隊との交戦に入った模様です』
「所属不明部隊?」
『コースと現在の時間を考えると、今日付けで到着する予定の戦術アドバイザーかと』
「なに? コーディネイターの集団とは聞いたが……まあいい」
 格納庫から出たウィンダムが、ジェットを噴かして一気に上昇した。2機のダガーLもそれに続き、曇天の夜空にスラスターとバイザーの光が浮かび上がった。
「視覚に頼り過ぎるな。隊列を保ち、互いのレーダーを利用するんだ」
『……了解』
『了解!』
 3機のMSが、前傾姿勢を取って一気に加速。基地から急速に離脱していった。

「逃げるのか……? こっちも単機だぞ」
『何をやっている、シン!』
 僚機を救おうともせず、サーチライトを消して飛び去っていくディン。それを訝りつつも、MSに取らせた防御姿勢を解除しようとした時、イザークから通信が入った。白と薄青にカラーリングされたグフが、
ダガーLの真横に降り立つ。
「イザーク! 何やってんだアンタ、自分の立場考えろよ!」
『お前が言えた事か! それより、追撃するぞ!』
「いや、それは出来ない。墜ちたディンのパイロットを助けないといけないし、さっきのジープも気になる」
『何だと!? 戦闘中だというのに……!』
 噛み付きかけたイザークだったが、不意に言葉を切り納得顔で手を打った。
『そうか、そもそもお前はその為に戦っているのだったな。では、そちらは任せる』
「追うのか?」
『ああ。連中の素性を確かめる!』
 フライトユニットを展開したグフが浮き上がり、狭い渓谷を縫って飛び去っていくのを見送った後、シンは機体を墜ちたディンに近づけさせた。シールド底部に脇腹を直撃され、耐ショック防御も落下制御も
取れなかった敵機。歪んだ胸部ハッチにマニピュレーターを押し込んで、剥ぎ取った。
「良かった、生きてる。……おい動くなよ、落ちるぞ!」
 機内から出て、へたりこんだディンの上で身動きするパイロットスーツに、シンは大きく息を吐き出した。外部スピーカーで敵パイロットに呼びかけると、彼はその場で縮こまる。
「基本しか教わってないような腕で、ディンなんかに乗って……」
 外部スピーカーを切って独り文句を零すシン。しかしふと顔を上げた。
「……そういえばこいつ、何者なんだ?」
 緑のパイロットスーツはザフト系を思わせるも、元々パイロットスーツや船外作業用のノーマルスーツは類似したデザインが多い。かつ、多くの在庫を必要とするスーツは調達が容易であり、見た目では正体を
判断できないのだ。
『隊長』
「どうした、ヒルダ?」
 通信モニターに映った隻眼の女に、シンの思考が中断される。

『いや、援護しようとしたんだが、必要なかったみたいだね』
「戦闘にならなかったからな。マーズとヘルベルトは?」
 モニター画面が分割され、眼鏡をかけた男が映った。
『崖の上で待機してる』
「そうか。……そうだ! ジープは!?」
『1キロくらい先で止まってる。至近弾で、何処かやられたらしい』
 それを聞いたシンは、操縦桿を握り直してジープが去った方向に向けた。背部のジェットストライカーを再起動させる。翼が両側に広がり、ノズルに光が灯った。
『おい、どこ行く気だ?』
「ジープの所。やられたのが車だけとは限らないだろ? ディンのパイロットを頼む!」
『さっきの残り、追いかけなくて良いのかい?』
 眉根を寄せるヒルダに対し、シンはかぶりを振って返した。
「イザークが行ったよ。それに俺達は海賊だから、ガルナハン基地に近づくべきじゃない」
『解った。行ってきな』
「頼んだ!」
 シンはそう言って、フットペダルを踏み込んで機体を加速させた。街灯の無い完全な暗闇の中、ダガーLは崖上まで上昇し、イザークのグフが向かった先とは正反対の方向へ飛んでいった。
『なるほど、ガルナハン基地はこの先かい』
『其処から出て来たって事は、こいつぁ正規軍なのか?』
『さあ?』
 突撃銃をディンのパイロットに突きつけたヒルダ機が、モノアイを左右に巡らせる。崖上の2機も膝を突き、ガルナハン基地の方を警戒した。
『ま、1つだけ確かな事があるよ。こいつは間違いなく揉め事になる。待ちに待った、お愉しみさね……』
『だな』
 マーズが相槌を打ち、通信モニターを介した3人は薄っすらと笑い合った。

「で、1キロ……この辺りか?」
 メインカメラを低光量モードに切り替えたシンは、高度と速度を落として渓谷を注視する。やがて、ジープを道沿いに見つけた。全てのライトは消え、位置を知らせるライトビーコンも無い。
「大丈夫ですか? ええとミハ……あなた達の味方です。敵はもういません」
 外部音声でそう呼びかけるも、返事は無い。声は虚しく、谷間に反響するばかりだ。

 機体を着地させ、膝を突かせる。しばらく待っても反応は無い。
「……降りるか」
 一度深呼吸し、シンは機体を降車モードにセットして、システムにパスコードをかけロックした。
サイドボードから懐中電灯を取り出し、ハッチを開ける。ハンドガンは持たなかった。
「うっわ、暗いな」
 敵MS部隊に包囲されてもさほど動じないシンだが、周囲の状況をまるで掴めないというのはやはり怖い。空調の効いた明るい機内に篭りたい気持ちを振り払い、パイロットスーツ姿のシンは地上に降りた。
「乗ってないな……車を捨てて逃げたのか?」
 車内を懐中電灯で照らした後、シンは後ろに回った。ディンの散弾銃が掠めたのか、車体後部は無残に破壊され、後輪もパンクしていた。
「……そんなに遠くへも、行けないよな」
 真っ直ぐに伸びている谷間の道。改めて首を捻るシン。と、その時。ジープの傍で音がした。石ころが転がって車に当たったのだ。
「あ」
 ジープを回り込むと、其処には小さな、しかし古びた建築機材で補強された坑道の入り口があった。かつてザフトの兵士として、設置されていた連合軍基地を攻略した際、廃坑道を利用した事を思い出したのだ。
「良かった……! 大丈夫でしたか! 怪我をしている人はいませ」
 穴の奥へ入った直後、得体の知れない寒気が背筋を撫で、シンは咄嗟に身をかがめた。風を切る音と共に棒切れか何かがシンの頭のあった場所を薙いで、硬い石壁にぶつかる。
 何も考えないまま、シンはその棒を持った人物に低姿勢からの体当たりを見舞った。この暗さである。
何人いようと、連携は取り辛い筈。そのまま相手を押し倒した。激しく暴れる小柄な相手。
「くっ! 離せ!」
「女!? いや、俺はあなた達を助けに来っ……か、は……」
 下腹部から全身に駆け抜けていった激痛に、シンは言葉を奪われた。呼吸困難に唇をひくつかせて喘ぎ、全身から冷や汗が噴き出し、目の前が白く染まり力が抜けていった。
「ま、マユ……ステラ、ごめん。俺は……もう…………」
「あ、あれ? お前は! カイト!ジェス! こいつを、シンを助けてやってくれ!!」
 後に、シンはミナに、股間ガードを着けたミハシラ軍専用スーツの開発を提案している。

『どういう事だッ!! ディンは確かに此方へ飛んで行ったぞ!』
『当基地では、一切そのような状況は感知しておりません』
『何だとぉ!? ならば監視ログを見せてみろ!』
 ガルナハン基地前で、イザークのグフは足止めを喰らっていた。ゲートの中では、四速歩行型のバクゥ、ゲイツR、戦車型のガズウートなどが控え、全てがグフをロックオンしている。
『ジュール殿、ガルナハン基地において貴方の権限はゼロに等しいのです』
『……っ』
 応対するザフトホワイトは、冷たげな表情でイザークを見下す。
『それより、其方で捕獲したディンのパイロットを引き渡して頂きたい』
『何……?』
『取り調べる必要があるからです。御存知の通り、渓谷内部は我々の管轄下にあります』
「な……ならば、俺が言った機体についても、其方には調査する義務があるはずだ!」
 イザークの反論に、彼は大げさに溜息をつき、腹立たしい仕草で肩を竦めて見せる。
『それはそうですが、感知しなかった機体を調査せよと言われましても、困ります』
『人を馬鹿にするのもいい加減にしろ! ディンだぞ! ジェットの爆音と光が……』
「まあまあジュールさん、此処は冷静に……」
 グフの傍に着地したウィンダムと2機のダガーL。ウィンダムの方のパイロットが彼を宥めようとする。
『しかしな、大尉……で良いのだったな! これは余りにも不条理では無いか!』
 自分の息子ほども歳の離れたザフト軍人に、壮年の大尉は溜息をついて、ウィンダムをグフに接触させた。
『なっ……』
「『戦術アドバイザー』の方ですな」
 接触回線が別に開かれ、イザークは黙って頷いた。
「此処は一旦押さえて。基地で詳しい状況を説明します」
『大尉、一体どういう……』
「此処では駄目です。よろしいですね?」
 穏やかだが、有無を言わさぬ迫力に、イザークは歯を噛み締めつつも、基地側との通信を回復させた。
『今日は引き下がってやるが……今後も、納得の行く説明を求めていくからな!』
『そのような義務が生じれば、喜んで』
 ザフトホワイトの、変わらぬ挑発的な物言いに肩を落とし、大尉は部下に通信を入れた。
「帰還するぞ。まったく、厄介な事になりそうだ……」
 自身の言葉の重大性を認識しないまま、大欠伸してまばたきする。受領した命令書と、コーディネイターの一団。本当の『厄介事』に、彼は未だ気付いていなかった。

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