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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第24話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:31:49

『じゃあボクは行くよ。留守を頼んだぞ、アスラン=ザラ』
「いや、俺も外に出ないといけない。テロリスト討伐隊の指揮を取る」
『おやおや……カガリちゃんはどうするんだ?』

 オーブ、オノゴロ島。MSのハンガーで通信を受けたアスランは、モニター越しのアンドリュー=バルトフェルドに笑いかけた。

「大丈夫だ、もう戦争も無い。カガリには信頼のおける部下をつけてある」
『どうだろうね。オーブ軍の信頼できる部下っていうのは、アスハの信奉者だろ?』
「そうだ。平和を願うカガリを心から慕ってくれている。彼らなら間違いは無い」

 アスランの言葉に、バルトフェルドは肩を竦めた。
 戦後、オーブ軍とザフトの内部で大規模な人事異動が行われた。カガリとラクスという『勝者』の側に立っていた軍人らが一足飛びに昇進し、彼女達の敵であった者は反対に冷遇され、あるいは放逐された。
 彼女達自身がそのような処置を行ったわけではない。彼女らの熱狂的と言って良い支持者達が、あるいは支持者を装った者達が『浄化』してしまったのである。

『嫌な予感がするよ。ボクもこうして、ラクスから呼び出されたしねえ』
「戦争にはならない。シン=アスカ達テロリストと……どんなに状況が悪化したとしても、支援組織のミハシラ軍を叩けば終わる話だ」
『しかしシン=アスカか。君の、元部下だろ?』
「気の毒な奴だ。自分に何が出来るか、どこに限界があるか、まだ分かっていない」
『さて、どうかな』
「……?」

 バルトフェルドの、挑むような口調に小首をかしげるアスラン。

『いや、特に意味は無いよ。ただ……それが誰であれ、甘く見るべきじゃないって事さ。
それじゃ』
「ああ、ラクスによろしく」

 通信が切れると、アスランは自分の乗機、緋色のインフィニットジャスティスへと歩いていった。

「分かってるさ。お前はあんな……俺が広報に喋らせたような卑劣な真似は絶対にしない。
どうせデマ情報だ。だが……」

 無限の、正義。余りのネーミングに失笑しつつ、アスランはその機体を見上げる。

「悪いな、シン。情報を広めたのがラクスである以上、それは『正義』と『真実』になる」
「アスランッ!」

 彼の独り言は、格納庫に良く響くカガリの声で中断された。

「カガリ……?」

 オーブ軍の制服を着たカガリは、まなじりを吊り上げてアスランの肩を掴んだ。

「お前は私の名前を使って、私に無許可で! 軍の広報を使ったな!? 何でだ!」
「……カガリの仕事を代わっただけだ。忙しそうにしてたから」
「連合軍の方から上がってきた、もう1つの報告書があっただろう!」

 声を荒げるカガリに、格納庫の整備兵達が2人の方を振り返る。

「もっと検討してからスピーチを出すと伝えたのに、お前は……」
「情報はラクスの方からも入ってきたんだ、カガリ」
「だから何だ!? ラクス=クラインの言葉は正しくて、他は全部間違ってるのか!」
「今まで全部そうだったろ。……離してくれ、ザフトからの討伐隊と合流しなきゃ」

 信じられないという表情で数度かぶりを振るカガリの手を払って、アスランはメンテナンスベッドの梯子から機体に乗り移った。

「俺の留守中の事は、全部部下に任せてある。カガリは今まで通りやれば良い」
「待て、アスラン! お前は、私とラクスと……!!」

 機体の動力が入り、各部のモーター音が高まる。ベッドから起きたIジャスティスが、格納庫の床に足を着けた。

『シン達を捕えたら、直ぐに戻る』
「アスラァン!!」
「カガリ様、危険です!」

 追いすがろうとするも、整備兵に押さえられた。緋色の機体が格納庫の外に出て、スラスター光と共に飛び立っていく。

「ザラ一佐ならば大丈夫です。必ずテロリストを捕え、帰還されるでしょう」

 どれほど叫んでも、最早届かない。カガリの全身から力が抜け、硬い床に座り込んだ。

「裏切られた……? いいや、違う」

 ラクスが、アスランの元婚約者である事は知っていた。その話が壊れ、自分と共に居てくれると解った時、ラクスには申し訳ないと思いつつも、嬉しかった。それもこれも、全て勘違いだった。

「最初から、相手にもされてなかったんだ。私は……」

 一途にラクスを想うなら、自分に接しようとは思わないはずだ。彼が望んだのは、あくまで自分が提供できる地位と力。そして今、彼はまたラクスの名の下に動いている。己の利益の為に。
 真偽は定かでない。だが今のカガリを支配しているのは、そういう思考だった。

 残されたのは、彼の部下のみ。カガリ=ユラ=アスハは、初めて『孤独』を知った。

 ロシア平原にある、ダイアモンドテクノロジー社所有の研究所兼、製造プラント。2年前にヨーロッパを惨劇の渦に叩き込んだGFAS-X1デストロイが生み出された場所である。背後関係の発覚を恐れた地球連合軍から格安で買い取ったこの、広大にして最新の施設で、新生デスティニーの開発は最終段階を迎えていた。

「先輩、ガルナハン基地の事、知ってますか?」
「シン=アスカの事だろ。テロリストになったらしいな」
「うちの会社も、テロ支援企業に認定されたみたいですね」
「まあ、それは本当の事だからしょうがない」

 地下のドーム区画で赤い翼状のヴォワチュール・リュミエールユニットが広げられ、光の翼が伸びた。
旧デスティニーのそれと違い、全幅40メートル超のそれは所々が霞み、揺らめいている。
 炎のような翼を強化ガラス越しに眺める2人の研究者は、いたって冷静だった。

「社名が変わる前は、ミハシラ軍なんか目じゃない、もっと凶悪な奴らを支援してたしな。
……それにしてもよく安定してる。出力100%でも光が殆ど散らばらないぞ」
「アーガイルが来るとやっぱり違うんですかね。天才だからなあアイツ」
「サイ=アーガイルは単なる工業カレッジの出身だよ。秀才タイプだ」
「……いやはや」

 可動式のウィングユニットがすぼまり、一気に広がり、左右に動く。光の翼もそれに合わせて形と、紅のコントラストを変化させた。

「凄いな……最新技術の結晶体だぞ。つくづく惜しいのは、これがプランAに……」
『チーフ、セクション3に来てください。例の物もガルナハンから届きました』
「すぐ行く」

 ヘッドフォンの送話ボタンを押して返答した後、長い通路を歩き出した。

「例の物って何です?」
「シン=アスカが乗ってた、ダガーLのサポートAIだ。連合軍に回収させたんだろう」
「なるほど。それで、新デスティニーが完成するって事ですね」
「そう。パイロットのシンに適応して学習したAI。これが肝要なんだよ」

 通路の右側に、両腕が無い1機のMSが見えてくる。旧デスティニーの頭部が黒く染め上げられ、額のセンサーとメインカメラ、そして目元の涙のようなラインは鮮やかな紅。

「しかし、つくづくワルそうな……」
「ま、耐食コートの上からちょいちょいとアクセントをつけただけだしな」

 漆黒の全身の所々に入った赤いラインが、照明の下で艶かしく輝いた。

「ワンオフ機の全身を塗装するのは無駄に面倒だし。ま、お嬢様はこのデザインでOKと、ゴーサインを出したから、良いんじゃないのか?」
「先輩、前にも言いましたけどこれ、昔の宗教書の中に出てくるんですよ」
「『悪魔』だっけ。三叉の槍と矢尻の尻尾もつけようか、外部兵装で」

 階段を降りると、整備員と他の研究者達が振り返った。

「どうも、チーフ」
「やあ。ザフト崩れ、元海賊のテロリスト用MSはどうかね?」

 ムルタ=アズラエルの頃から現場で働いている白衣の男はそう軽口を叩き、機体脇のパネルを覗き込む。

「AIデータの状態は悪くないな。シン=アスカ無しでもシミュレーションはやれる」
「ボディは良いんですが、掌部ビーム砲がちょっと難航してるみたいで。アーガイルが手伝いを欲しがってます。先に行ってやって下さい」
「わかった。……すまん、此処は頼む」

 視線をやった。耐熱、耐ビーム処理が施された鱗状の積層装甲で守られ、掌の砲口を中心に赤い紋様が放射線状に伸びている両腕が、手の甲を向けあって固定されている。

『パターン3。その後、ランダムで30秒間。……スタート』

 スピーカーに乗った若い男の声と共に、ケーブルで接続された腕の掌部が紅く輝いた。
初めはぼんやりとした光を灯し、次に五指を伝って爪状に展開、手刀のように指が伸ばされてビームサーベル状に固定され、最後に指が開き、半球状に光の膜が張られた。

『駄目だ。モード切り替えに1.2秒かかってる。1秒未満に抑えなければ、戦闘で使えない』
「OS制御にも限界はあるがね、アーガイル君」
「あ、チーフ……」

 色付きの眼鏡を掛けたライトブラウンの髪の青年は、小型ブースの席から立ち上がった。
無精髭を生やし髪は乱れ放題で、研究所内でなければとても見られたものではない。

「君を当プロジェクトに迎える事が出来て嬉しいよ、サイ=アーガイル」
「こちらこそ。見苦しくてすみません、3日前からまともな暮らしを送ってなくて……」
「その情熱、羨ましいね」

 握手を終えたサイは、チーフを傍らの椅子に座らせた。

「予定が遅れています。代表取締役から通達された納期に、間に合うかどうか……」
「問題は何だ。パルマ・フィオキーナのモードチェンジと、排熱か?」
「ええ。排熱の方はともかく……」

 サイ=アーガイルがこの計画に加わったのは、アズラエルの社命を受けたからというだけではない。新たなデスティニーのコンセプトに、興味を持ったからだ。
 極寒の平原に建つ研究所で、熱い戦いは続く。

「ジュール隊長! 此処を開けて下さい! まだ対策は立てられる筈なんです!」
『テロリストだ……俺はテロリストなんだ……』

 連合軍基地の自習室に引き篭もり、瞳を見開いたまま呟き続けるイザーク。インターフォンを使い、懸命に呼びかけ続けるシホ。

「ですからそれは濡れ衣で……」
『いいやもう駄目だ。これが裏切り者の末路なんだ。もう駄目だ、もう駄目だ』

「グゥレイトォ!」

 早々に説得を投げ出し、連合軍兵士とギャンブルに興じるディアッカ。

「チッ、おいコーディネイター、サイコロに仕掛けしただろ」
「そうだ絶対おかしい。勝ち過ぎだぜお前」
「なわけないでしょうが。負け惜しみはもっと素直に!」

 子供じみた小額でも、金を賭ければ盛り上がる物だ。基地食堂の定食代分を巻き上げ、御満悦のディアッカ。

「くっそ! もう一回!」
「エルスマン! 貴方も何か言って!!」

 シホの大声に耳を塞ぎ、服の袖から別のサイコロを零すディアッカ。

「あ、やべ」
「こ……この野郎っ!」

 少し離れたラウンジで、今後の戦術を話し合うヒルダ達3人。

「ここから先はドム2機とザク1機の編成で動く。シンもアンタ達が乗ってたザクを使うんだろうが、やっぱりあたしがぴったりくっ付いてた方が良いかね?」
「だな。シンは命令するのに慣れてない。手取り足取り指揮を教えてやれ、ヒルダ」
「ふむ……ん?」

 窓の外から聞こえる、遠く低いジェット機の音にヒルダは顔を上げた。手で太陽の光を遮りつつ、12発のジェットエンジンを轟かせて基地の滑走路に向かう、ダークグリーンの超大型輸送機を見遣る。
 小銃を肩にかけた連合軍の兵士が、窓辺に駆け寄ってきた。双眼鏡で機体を確認する。

「何だ……こんな時に!」

 双眼鏡を置きっぱなしにして、ラウンジを出て行く兵士。ヒルダがそれを取り上げ、覗き込んだ。

「……どっかで見た事あるねえ」
「あん? 何が」

 胴体に描かれた、青色の菱形が3つ横に並んだロゴを確認したヒルダは、訊ねてきたマーズに双眼鏡を手渡した。

「ああ……プラチナ、じゃないダイアモンドテクノロジーだ。ドムを売った会社だろ」

 基地の通信室に、5人が集まっていた。右手に包帯を巻いたシンに、ジェス、カイト、コニールそして、基地内部で最高位の階級を持つ、実質的な司令官の大尉。

『事態はやや複雑になっています、シン』

 モニターの向こうで顔を顰めるのは、ディオキアのミハシラ軍基地にいるエコー7だ。

『プラントとオーブ、親プラント国家などコーディネイターの多い地域では、先程のオーブ軍広報が流した通りの情報が広められ、反対にナチュラルの多い地域には……』
「俺達が見たままの情報が、出回ってる……」
「それも違う。住民は、基地の連中に強制なんかされてない。どっちも真実じゃない」
「真実ってものがどれだけ脆弱かを示す、良い証左だな」

 シンの言葉にジェスが反論し、カイトが鼻を鳴らした。

「こんな事をこの短時間でやってのける連中だ。只者じゃないし……執念も感じる。
何が何でも、ナチュラルとコーディネイターを戦わせたいわけか」

 コーディネイターとナチュラルは、互いに互いを信用しない。2つの異なる情報が同時にもたらされれば、恐らく他方が主張する事を頑なに拒み続けるだろう。2年前まで武器を向け合っていたのだ。当然である。まして今回のような状況ならば尚更である。

「宇宙にいるサハク司令官とは、連絡が取れないんですか?」
『ザフトとオーブ宇宙軍が、何か作戦を展開しているようです。通信妨害が強力過ぎて、宇宙の状況は解りません』
「ごめん、シン……私の街の所為なんだよな、テロリストになったのは」
「違う。基地で戦った連中は、最初からこのつもりだったんだろ。にしても、これからどうするか」

 消え入りそうなコニールの声にかぶりを振り、シンは嘆息した。

「何をすれば、良いんだ? 大人しく捕まって状況が好転するなら、俺が……」
『残念ながら、それでは済まないでしょう。既にミハシラ軍全体を巻き込んでいます』

 エコー7は深く溜息をついた。ガルナハンに向かったのはミナの命令によるもので、今回の全責任は彼女が負う事になる。しかし、その彼女との連絡はつかない。

「真実を、伝えるしかない」

 ジェスの言葉に、全員が振り返った。

「しかし、『真実』は既に流されてしまった」

 連合軍大尉の言葉に首を横に振って、ジェスは顔を上げる。

「カガリ=ユラ=アスハもラクス=クラインも、やる事は滅茶苦茶だけど悪人じゃない。
そして2人は、世界の権力を二分してる。彼女達に、直接伝えるんだ」
「どうやって? 今の状況を見れば、声なんかマトモに届かないってわかるだろ」

 シンがそう言って肩を落とした時、ドアが開いて兵士が入ってきた。大尉の耳元に囁く。

「……シン=アスカ君。きみの人間関係は、実に興味深いな」
「?」

 首を捻るシンに、渋い表情の大尉は言葉を続けた。

「ダイアモンドテクノロジーの人間が、君に会いに来た。MSを積める輸送機つきで」
「ダイアモンドテクノロジー……ぁあ」

 名前を復唱したシンの脳裏に、灰色のツーピースを着た少女の姿が浮かび上がった。

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