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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第26話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:32:46

『ガルナハンのパワープラントを襲撃したテロリストの討伐隊を指揮するアスラン=ザラ一佐は、以下のようにコメントされています。そもそもテロリストというのは……』
「なあ、一佐ってどんだけ偉いんだ? 大佐くらい?」
「そうじゃない?」

 当直から解放された連合軍兵士3人が、基地の食堂でテレビを見ている。画面には、オーブ軍の制服を着たアスランが、笑顔でカガリと向かい合う映像が映っていた。2年前の終戦直後の物だ。

「はぁーあ。羨ましい……好き勝手に裏切りまくって、今じゃこれだろ?」
「そりゃオーブ軍だもの。アスハの姫様と親しくて、しかもコーディネイターだったら、実際何したってアリなんだろ? 未だに君主制だし」
「またコーディネイターか。また奴らか! 忌々しい! 壊れろ宇宙の砂時計!!」
「ひと括りにしないでください」

 今年度から配属される事になった、連合軍のコーディネイター兵士がぼやく。目や鼻など、顔のパーツがバランス良く配置された、人工的な美顔を曇らせた。均質化された遺伝子調整を受けた個体に見られる大きな特徴のひとつであり、個性に乏しく、本人は『記憶されない顔』として嫌っていた。

「倫理教育担当の上官だって、人種差別は良くないと言っていました」
「何だよ、お前らコーディネイターは存在自体が人種差別だろ?」
「そうですが。先輩が、『あの』プラントと同レベルの差別意識を持つのは耐えられません」
「……いや。そうじゃないが……ぅむ。問題なのは、プラントとザフトだよな」

 15歳で成人とされるコーディネイターには早熟な性格の者が多い。2歳下の後輩に切り返され、ナチュラルの兵士は言葉を喉元で押し込めた。

「そういえば……ガルナハンのテロリストの事、知ってるか?」

 3人目の兵士が、会話に再度加わってきた。

「シン=アスカを騙る野郎が混ざってるっていう、アレだろ?」
「本人らしいぜ。整形したわけでも何でも無くて」
「死んだんじゃ無かったのか?」

 コーディネイターとナチュラルの兵士が振り返ると、彼は得意げに人差し指を立てた。

「知り合いがいてな、情報を流してくれたんだ。間違いなくシン=アスカだって」
「はぁー……じゃ、反逆ってわけか? 元ザフトレッド、元特務隊FAITHの復讐劇?」
「ロマンティックだが、僕ら連合軍にとっては迷惑なだけの話ですね。敵が増える」

 コーディネイターの兵士が半眼になって溜息をつく。

「で、そのシン=アスカなんだがな……ナチュラルの女に倒されたらしい」
「うそ、マジで!?」
「そうだ。蹴られたらしい」
「……蹴り一発で沈んだのか? 訓練されたコーディネイターの兵士が?」

 ナチュラルの兵士が信じられないといった表情で訊ね返す。彼が入隊した頃は戦争末期であり、コーディネイターが優れた能力を持って戦闘技術に秀でており、ナチュラルを下等生物としか見ておらず、地球をただの大きい資源衛星と捉えていると、散々教育されてきたのだ。

「男なら誰もが持つ、致命的な弱点をクリーンヒットされたそうだ」

 その言葉に、コーディネイターの兵士は眉間に深い皺を刻んで瞑目し、ナチュラルの兵士は一瞬硬直した後、テーブルを叩いて爆笑した。

「ハハハハッ!! なに、悶絶? あはははっ!!」

 宇宙の化物と呼び、外見はともかく中身は別物だと思っていたコーディネイター像が、彼の中で一気に吹き飛んだ。100時間の倫理教育より、金的でもがき苦しむ元FAITHの話の方が、遥かに親近感が湧くのだ。
 戦争が終わったとはいえ、プラント政府は依然、ナチュラルとコーディネイターの差を喧伝している。
2年経っても、彼にとってコーディネイターは相変わらず超人であった。この瞬間まで。

「ハハ……そうか、あのフリーダムを墜としたシン=アスカも、アレは駄目なのか」
「そうだ、コーディネイターも同じ人間らしい」
「同じ、人間……そうだよな。金的くらって悶えるなら、人間かもな」

 コーディネイターの兵士が無言のまま、疲れた表情で頷く。

「ま、非公式情報だから余り広めちゃいけないんだ。他言無用だぞ」
「解ってるって。……お、時間だな。じゃあまた」

 別れる3人。ナチュラルの兵士が基地の通路を歩いていると、同僚に出くわした。

「よう、オーブ野郎が来てるぜ。襟は直しとけよ」
「ああ……お、ちょっと来い」

 同僚を引っ張り、近くのロッカールームまで連れて行く兵士。

「ガルナハンの事、知ってるよな」
「何だよ。シン=アスカの偽者がやったんだろ?」

 その言葉に、先程の話を聞いた兵士は得意げに胸を張った。

「お前になら話して良いだろう。だが、他言は無用だ。実はな……」

 噂は、連合軍の補給網とローカルネットワークを通じて、瞬く間に全世界へ広がった。
元ザフトのシン=アスカが生きていた事。ナチュラルの女性から金的を受けて沈んだ事。
何よりコーディネイターの男も、ナチュラルと同じ弱点を持つ『人間』である事。
 数時間後、シンの存在は『金的』の二つ名と共に、連合軍兵士達の心に刻まれた。

「っくし!! ぇあ……」

 輸送機内部の休憩室で、ティッシュボックスを抱えたシンは十数回目のくしゃみに呻き声を上げる。

「どうしたよ、シン。風邪?」
「かもな」
「さっさと逃げ出した所為でまだ捕捉されてないが、なるべく早く治しとけよ」
「ああ」

 鼻を赤くしたシンが、くしゃみのし過ぎで目の端に浮かんだ涙を拭った。隣に座ったディアッカが、味を合成されたオレンジジュースのカップにストローを差す。

「あのコニールって子、良かったのか? 挨拶も抜きで」
「街の人手が一気にいなくなって、忙しいんだ。邪魔したくなかった」
「あそこの連合軍は、ガルナハンの連中を憎んでる」
「それでも……俺達テロリストと一緒に引きずり回されるより、ずっと安全だ」

 指を組み、シンは呟くように言った。屑かごを足で引き寄せ、ペダルを踏みティッシュをまとめて捨てる。

「それよりイザークはどうなんだ?」
「飯は何とか食えるようになったな。今は部屋に篭ってる」
「まだか? 落ち込みすぎだろ……あ」

 トイレから出てきたイザークが、シンとディアッカの目の前を通る。

「おいイザーク、テロリストにされて気の毒だけど、ともかく今は……」
「知らなかった」

 虚ろな声と瞳を向けられ、ティッシュボックスを持ったままのシンは首を傾げた。

「民間人が乗っていたなんて、俺は知らなかったんだ。だが、知る方法はあったんだろう」

 半分以上が包帯で覆われたその顔を歩む方向に戻し、そのまま通り過ぎていく。

「……大丈夫か、あいつ」
「4年前、イザークは民間人が乗ったシャトルを撃墜した。敵艦から発進したものだし、戦闘中だったし、敵の方からは何の警告も無かった。だが、ともかくあいつは殺した」

 何処か遠くを見る眼で、ディアッカは続ける。

「で、2年前。お前が知ってる通り、俺達はザフトを裏切って歌姫の騎士団を援護した」
「ふうん……だから?」
「今回、あっさりテロリストにされたのは、自分がそういう事をしてきた所為だって思ってる」

 ディアッカの言葉に、シンは釈然としないながらも頷いた。

「因果応報……だったか。そういう考え方があるんだってさ」
「知ってるよ。自分のやった事は、後で自分に返ってくる……宗教用語だろ?」

 シンの言葉に、ディアッカは皮肉げな笑みを浮かべ、曖昧に首肯する。

「アイツは多分初めて、自分のやった事を振り返ってるんだ」
「なら励ましてやれよ。仲、良いんだろ? 昔の事は忘れろ、とか言ってやればさ……」

 その言葉に、ディアッカは小さく笑って癖のある金髪を掻き乱した。

「仲が良いから尚更何も出来ねえ……出来ないと解るんだ。これはヤツの問題だ」

『間も無く着陸態勢に入ります。所定の席に戻り、シートベルトを確認して下さい』

 女性の合成音声に、シンとディアッカは席を立つ。

「なあ、シン」
「うん?」

 空のジュースのカップを捨てたディアッカに、シンは振り返った。

「お前には居るのか? 仲の良いヤツ」
「ああ、『居た』」
「そうか」

 2人は別れた。ダークグリーンの輸送機が、吹雪きはじめたロシア平原に降下していった。

 ダイアモンドテクノロジー社所有の研究施設。雪で覆われ始めた滑走路に停まった輸送機を、半日前に到着したアズラエルが見つめている。

「シンは、あれに乗っているのですね?」
「その筈です」
「アスラン=ザラの討伐隊は?」
「ガルナハン基地を発ったあの機体を追っていたようです。13時間かけてあちこち飛びましたが、やはり振り切れませんでした。4時間後には此処へやって来るかと」

 その言葉に、アズラエルは頷いて微笑んだ。蟻の巣に流し込む為に水を汲む、幼子のような眼をしていた。

「ディオキアのミハシラ軍も、間も無く合流する予定です」
「思いのほか、スムーズに事が運んでいますね」

「彼らの司令官から、何らかの命令が出されたのでしょう。南米及び北米のミハシラ軍も、我々の協力企業の申し出に応じているそうです。また……」

 秘書は言葉を止める。その先を失念したわけではない。口に出すのを躊躇ったのだ。

「また?」
「未確認情報ですが……地球連合軍が、我々とミハシラ軍を、消極的ながら援護しているようで。詳細は不明ですが、軍の命令系統に乱れが生じているとか」
「そうですか」

 淡白すぎるアズラエルの反応に何か言いかけた秘書だったが、そのまま口を噤む。

「では私、シンに会ってまいりますね?」

 雪原用の迷彩を施したコンプトン級4隻が、雪で彩られた谷間を進む。遥か彼方、視界外からそれを捉えたMA形態のムラサメ偵察型が、追加バッテリーパックを切り離して加速した。

「討伐隊……思ったより早い。アスラン=ザラが指揮しているからか?」

 自問するエコー7。付近のミハシラ軍中継基地に立ち寄って最後の補給を終え、出発した所で部隊の存在をキャッチしたのだ。
 エコー7らミハシラ軍の実働部隊は、ロンド=ミナ=サハクからの命令書に従った。正規軍との衝突を避けつつ合流せよ。手段は問われなかった。だから彼らは、声をかけてきたダイアモンドテクノロジーの申し出をあっさりと受け入れたのだ。

「……シンは、どうしているだろう?」

 難民キャンプを守ったその時から、エコー7はシンの危うさを見て取っていた。自身の死すら省みず、機体同士をぶつけて落下コースを変えたあの男。
 どんな時でも人を助けようという気概を忘れない彼なのに、自身に対してだけは酷く暴力的で、労りに欠ける。人々を結果的に助けているのだから、もう少し自分に甘くても良さそうだが。

「…………」

 何度かかぶりを振る。今は彼より、自身の合流だ。エコー7は操作をオートパイロットモードに設定し、操縦桿から手を離した。レドームを背負った航空機型のMAが、凍て付く空を飛んでいく。

「ダイアモンドテクノロジーへようこそ、アスカさん」

 研究員から差し出された手を、シンは戸惑い気味に握った。単なる防衛戦力として雇われた筈なのに、研究施設の奥まで案内される理由が解らない。自分のザクを調整したいのだが、あれやこれやと言い募られ、結局連れて来られてしまった。
 機体の事はヒルダ達に任せたのだが、やはりパイロットである以上、不安だ。

「ちょっとしたご決心が必要だったでしょ? 旧ロゴス系の企業に味方するのは」
「いや、どうせテロリスト同士だし、身を守り合った方が都合良いじゃないですか」

 冗談めかして研究員に告げ、シンは自嘲した。

「だから、見学なんてしてる場合じゃないんですよ。MSの準備をしないと」
「アスカさんのMSは、此方で用意させて頂いているんです」
「へえ、ウィンダムとかですか?」

 シンの言葉に、研究員は含みのある笑みを浮かべた。

「そうですね。ウィンダムの次の機体がありまして……」
「新型の量産機ですか」
「ええ、その試作モデルをカスタマイズした機体です。完全な一品物ではありません」
「量産機なら、直ぐに乗れるかな」

 エレベーターから降りたシンは、開いたシャッターを抜けた後、絶句した。

「……これは!」

 胴体部分は、確かにウィンダムを思わせる細身。しかしその他全てがシンの想像を超えていた。
 紅いV字アンテナ、額部分のセンサーそしてツインアイ。上からの照明を受け、目元の血涙のようなラインが淡く輝く。両肩と腰の左右には大振りなスラスターが計4基取り付けられ、フィンが伸びる。
 両腕にも眼を奪われた。大きく張り出した肘に、鱗状の積層装甲で覆われた両手。シンに向けられた掌には砲口が存在し、指先は鉤爪のように曲がり尖っている。
 両足の爪先から甲にかけては、ナイフのようなパーツが突き出しており、シンにはそれがビームの発生器であると解った。付け根を見る限りは可動式だろう。
 そして何よりも、背中から広がる紅い巨大なウィングユニット。中間に3対の小翼を持つその姿、まさに。

「これは、デスティニー!!」

 頭部パーツ、翼、掌部ビーム砲。黒光りするボディの所々を紅のラインで彩ったその機体に意識と記憶を揺さぶられ、シンは思わず呼びかけた。続いて感想を漏らす。

「ワルそー」

 研究員ががっくりと肩を落とし、物陰から反応を見守っていたサイが蹴躓いた。

「き、気に入って頂けませんか?」
「いえ、良いですよ。俺にぴったりな見た目です。極悪非道って感じで。アズラエルさんでしょ? こういう風に造れって言ったの。わかってるなぁ」

 背後の足音に、シンは其方を振り返る。瞳を鋭くさせ、犬歯を覗かせて笑った。

「お久しぶりです、シン。お元気でしたか?」
「此方こそ、アズラエルさん」

 黒と金の髪。蒼と紅の瞳。黒い防寒ジャケットに、灰色のツーピース。

 咎人の戦士は培った力を、戦火の魔女は鍛造せし剣を携え今、再度の邂逅を果たした。

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