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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第27話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:33:19

「イザーク。俺達、行ってくるから」

 個室のドアを開け、ディアッカが呼びかける。灯りを全て消した部屋の奥で蹲り、聞き取れない呟きを繰り返すイザーク。外から差し込んだ僅かな光を反射し、見開いた瞳が底光りを放った。

「アスランの部隊が来る。追い返すにはお前が必要なんだけどな、隊長」

 隊長という言葉に、その肩が大きく跳ねる。包帯を巻いた顔を両手で覆った。

「俺は……プラントの敵になってしまった」

 全てはプラントの為。物心ついた頃から、イザークはそうやって育てられてきた。プラントの平和を守る為にザフトに入隊した。ジュール家の名を辱めまいという一心で、腕を磨いた。
 最高議長ラクス=クラインからテロリストの烙印を押されたという事は、イザークにとって死にまさる苦痛であり、アイデンティティの崩壊だったのである。

「失敗した母上の代わりに、俺はジュール家を担っていかねばならなかった……」
「ですから、ジュール隊長! 今回の件は濡れ衣で……」
「良いんだ、シホちゃん。んな事ぁアイツは解ってる」
「けれど……!」

 ディアッカに止められたシホの目の端に涙が浮かんだ。今のイザークは余りに痛々しかった。呑気なディアッカに噛み付き、クルーを叱咤していた彼の姿は、もう何処にも無い。

「まあ、もうすぐ討伐隊が来る。其処でじっとしてれば、『保護』して貰えるかもな」
「エルスマン!」

 非難めいたシホの言葉に、ディアッカは肩を竦めた。

「仕方ないだろ。イザークにも立場がある。此処で戦えば、コイツの罪状が確定するんだ」

 パイロットスーツを着た2人の影を、うずくまったイザークがじっと見つめていた。

「決めるのは、お前だ。俺はどうこう言えない。説得なんて野暮な真似もしない。でもな」

 ディアッカの言葉が途切れ、イザークは思わず顔を上げた。

「どんなになっても、お前は俺達の隊長だ。だから……安心、しろよ」

 そう言って通路を歩いていく。

「ジュール隊長……私は待っています。待っていますから……」

 シホもそう言い残し、ディアッカに続いた。独り残されたイザークは、通路から差し込む光をじっと見つめていた。

「討伐隊の到着は、おおよそ40分後となります。以上です」

 保安部隊用のブリーフィングルームで、ミハシラ軍のエコー7は報告を締め括った。

「馬鹿な……補給部隊はもっと遠くにいたのに」

 ダイアモンドテクノロジーの要員に反論され、彼女は眼を細める。

「指揮を取っているのはアスラン=ザラです。彼は所属こそオーブですが、元々はザフト。つまり……」
「電撃戦だ。ザフトお得意の戦法だな」

 ボルトを咥えたヘルベルトが、歯を剥き出して笑った。

「補給を置き去りにしてでも、態勢が整わない敵に急迫。少数精鋭の部隊で叩くって訳だ」
「じゃあ、アスランは第1陣にいるな。確実に仕留めようっていうつもりだろ」

 シンの言葉に全員が押し黙った。ラクス=クラインを頭目とするコズミックイラ最強の私兵部隊『歌姫の騎士団』。アスランは、その片翼といって良い存在なのだ。

「それでは、我々の状況を再確認します」

 発言を終えたエコー7が自分の席に戻り、代わりに『BC13』と書かれたヘッドギアを被った少女がボードの前に立って、周囲を見渡した。ダイアモンドテクノロジー社の生体CPUだ。

「当施設の防衛対象は大きく分けて2箇所。半地下の第4ドックで整備中のハンニバル級陸戦艦と、中央エレベーターです」

 スクリーンが下り、施設周辺のタクティカルマップが表示された。赤い光点が2つ灯る。

「吹雪のため、滑走路は使用不能となっています。ハンニバル級を航行不能にされると、我々は敵の増援を待つのみとなります」

 誰かの喉が鳴る音が、やけに大きく聞こえた。

「また、施設中央のエレベーターはMSサイズの物資を搬送できるよう設計されており、当然敵のMS隊にも侵攻される可能性があります。更に第4ドックとも繋がっているので、此処を占拠された場合、外側と内側からドックが攻撃を受けます」

 少女は何の感情も表さない。小型ヘッドギアの各所でLEDランプが光る。

「少ない戦力を分散し、敵を撃退せねばなりません。しかし敵の第1陣さえ排除できれば、次の部隊ははるか後方。脱出は確実となるでしょう。なお、オペレーターは私『13番』が担当します」

 13番は其処で言葉を止め、シンを見た。

「弊社の防衛戦力は、ハンニバル級の護衛に回ります。エレベーターの方をお願いします」
「わかった。……良いか?」

 後ろを振り返った。思い思いに頷く面々。
「敵戦力の詳細は不明です。敵機を発見しても逸らず、まず情報収集を優先させて下さい。
私からは以上です」

 13番が持っていたポインターを縮め、スクリーンから光が消えた。

『まーアレだね。損な役回りってやつ?』

 吹雪の中、オルトロスを構えた黒いガナーザクが狙撃姿勢を取り、敵がやってくるであろう方角を索敵していた。モノアイが左右に動いた後、正面に戻る。

『ええ。部隊を大幅に先行させているとはいえ、数は此方よりも多い筈です』

 黒いザクの斜め前で大型シールドを立て、カービン片手に周囲を警戒する青いゲイツR。

『せめてジュール隊長がいれば……』
『止そうぜ。言うべき事は言った。戦力低下はどうしようも無いけどな』

 ジュール隊は中核を欠いていた。シホのゲイツRが防御を固めても、隙を突いて敵陣に切り込む者が居らず、ディアッカのザクが狙撃しようにも、敵の目を引き付ける者がいない。

『御三方、よろしくお願いしますよ?』
『まーあたし達も、隊長がいないんだけどね。機体の調整が遅れて』

 中央エレベーター区画の東側をジュール隊が、西側をヒルダ達3人が固めるこの布陣は、不安要素だらけだった。共に部隊の中心となる存在が居ないのだ。

『……来た。ゲイツR3機。マップで見て5時、7時の方向だ。司令部、聞こえたか?』
『把握しました。マップに反映します』

 ディアッカの低い声に、13番の幼さを残す声が返ってくる。

『ドック付近でも敵を感知しました。敵が第2ラインを越えるまで、攻撃は禁止です』
『了解……おーおー敵さんやたら急いでるなあ。隊列が組めてねーよ……ライン、越えた』
『攻撃開始』

 13番の声と共に、黒いザクはオルトロスを撃った。右端のゲイツRに収束されたビームが走り、腹部に命中して仰向けに倒れる。雪煙が小さく上がり、残る2機が左右に散った。

『その後ろ、M1アストレイ2機。波状攻撃で来るぞ!』

 黒いザクが立ち、スラスターを使わず移動を始める。狙撃点を読まれれば、集中砲火を受けるからだ。
長大なビーム砲を抱え、モノアイを敵の方に向け走るザクをカバーするように、青いゲイツRがシールドを突き出して前進を始める。上空のムラサメ偵察型がMSに変形した。

『さぁてと。あたし達も行くかね。ディアッカ、観測は続けて頼むよ?』
『任せろ』

 白い雪原を、3機の重MSが踏みしめる。大型のランチャーを右肩に担ぎ、十字のフレーム内でモノアイが蠢いた。ガルナハン基地で回収した2機に、ヒルダがダイアモンドテクノロジーに売った最後の1機。計3機のドムトルーパーが、次の瞬間猛然と加速する。

『マーズ、ヘルベルト! あたし達はオフェンスだ。ジュール隊を援護する!』
『おう!』
『了解!』

 脚部に仕込まれたホバー機構が唸りを上げ、雪を蹴立てる黒と紫のMS達。モノアイがせわしなく動き、突出した彼ら目掛けて飛び交うビームを膝の屈伸による軌道の微調整だけで回避していく。
 ビームの火線が集中した雪面が爆ぜ、上がった水蒸気を突き破り、ヒルダ機が突貫した。

『遅いんだよ!』

 ギガランチャーが火を吹いて、スラスターで跳び下がろうとしたゲイツRの左足を砕く。
発砲したヒルダ機を左右で挟もうとしたM1アストレイ2機に、マーズ機とヘルベルト機が襲い掛かった。
 背中のビームサーベルを掴み、振り向きかけた敵機の胴を一閃。火花を散らしながら2つに分かれてM1アストレイが沈む。もう1機はランチャー下部のビームマシンガンで胸部を被弾した所で、加速をつけたドムの体当たりをまともに浴び、吹き飛んでいった。

『ザクウォーリア3機! ……まだ来る! 一旦下がって、おびき寄せる!』

 ホバー機構で移動する為、後退も速度を落とす必要が無い。スクリーミングニンバスを展開したヒルダ機の後ろに滑り込んだドム2機が、膝を屈めランチャーを撃ちつつバックする。

『あ、やば』

 ヒルダが呟いた。吹雪の空に、鮮やかな赤紫が一瞬映ったのだ。

『司令部! アスラン=ザラだ! インフィニットジャスティスが来る!』

 吹雪を貫き、『赤』が突進する。背中のファトゥム-01を分離させて乗り、青白いスラスター光と共に地上のヒルダ機に迫った。

『チッ! 偉いんだから、大人しく後ろで指揮を取りな!! ……援護を!』

 放たれるビーム砲を急速後退しながらかわしたヒルダ機が、マーズ機、ヘルベルト機と共にビームマシンガンを向け、弾幕を張る。ビームシールドを展開してそれを防ぎ、Iジャスティスが2本のビームサーベルを連結させ輝く双刃を灯し、ファトゥムを踏みつけ跳躍した。ヒルダ機がビームシールドを展開し、刃に掠めさせて軌道を反らす。

『く……解っちゃいたが、まずいっ!』

 全力で後退させつつ、ヒルダは基地司令部に再び呼びかける。

『敵の主力が、エレベーターエリア目掛けて押し寄せてる! 5分保てば良い方だ!』

『第4ドック、ムラサメに砲台を破壊されました。制空権を取られかけています』
『ハンニバル級に積んだ、ベイオウルフは出せないのかよ!』
『既に作業に入っています。後3分で出撃可能です』
『被弾した機体をカバーしろ! 良いか、生き残るぞ!』
「……ッ!!」

 機内の通信機に入ってくる13番や保安部隊のメンバーの会話に、シンは歯を食い縛った。
今の自分には待つ事しか出来ない。また守れないのだろうかという恐怖に、身が竦んだ。

「使えるMSは無いか!?」
「え……」

 半開きのハッチに飛び込んできた声に、シンは思わず眼下を覗き込んだ。顔の半分以上を包帯で覆った銀髪の男が、研究員に呼びかけていた。機体の調整が終わるまで待つと言ったアズラエルが、椅子から立ち上がって、男に歩み寄った。

「MSでどうするのですか? ジュール様」
「討伐隊と戦う! 俺は……俺は大事なことを間違えていた!」
「イザーク……」

 相変わらず暑苦しく、耳をちょっと赤くして叫ぶイザークの名を呟くシン。

「本物のテロリストになるのですか? ジュール家の御名前はどうなるのですか?」
「家名は……取り戻せる! 今は、取り戻せない物を守る! このまま縮こまっていては、部下に申し訳が立たんのだッ!!」

 今まで何もしなかった自分を余程恥じているのか、涙さえ浮かべたイザークが吼える。

「ジュールさん! 実はですね、ハンニバル級にはこの機体に劣らぬ高性能な……」
「先輩、仕事しましょう仕事」

 背後の研究者2人を完全に無視して、アズラエルは歳相応の微笑みを浮かべた。

「ではザクを……いいえ。Bブロック格納庫の機体を、お使い下さい。一番近いので」
「Bブロック……?」
「案内板に従って下さい。ハッチも直ぐ傍にあります。まだメカニックもいる筈です」
「すまない……感謝する!」

 通路を走っていくイザークを見送った後、アズラエルはシンを見上げた。

「アクタイオンから拝借した機体ですが……ジュール様なら乗りこなせましょう」
「あの……危なくなったら、俺達をアスランに売って良いですよ? 脅迫されたーとか」

 シンの言葉に、アズラエルは笑った。

「御心配なく。私はダイアモンドテクノロジーの利益を考えて行動しているに過ぎません」
「そうですか。……でもアズラエルさん。俺はアンタが考えてるような……」

 機内の奥から響いた低い駆動音が、シンの言葉を中断させた。

「デスティニー! 動くのか!?」
「システムオールグリーン!! 何時でもいけます! 総員、緑のラインまで退避しろ!!」

 ハッチを閉じる。紅のツインアイに強い光が灯り、血涙のラインが淡く輝いた。機体が一歩踏み出して、中央エレベーターへのシャッターが開いていく。微笑を湛えて機体を見上げるアズラエル。

『ブルデュエル改、発進を確認。データリンク開始』
『やらせるかああぁ!!』
『エレベーター前、防ぎきれません! 分断されて、もう……じ、ジュール隊長!!』
『イザーク! イザークだな!? どっから出てきやがった!!』

 エレベーターに乗った黒と赤の機体が、上を見遣った。リフトが動き出す。敵の攻撃を受け始めたか、エレベーターシャフト内部の照明が落ちた。額とツインアイが闇に浮かび上がる。

『くそ、駄目だ!リフト停止! シャッターが閉じて、ハッチも開かない!』

 何か引っ掛かるような軋みを上げて上昇が止まる。空気が焼け付くような甲高い、身の毛もよだつ音が響き、巨大な光の翼がシャフト内部に広がった。旧機体の美しい蝶を思わせる姿はなく、所々が揺らめき千切れ、炎の猛々しさを帯びた真紅。人型のシルエットが一瞬垣間見える。

『ハッチは破壊して構いません。急いで、外へ!』

 五指のビームクローが一対、闇に生まれ出でる。機体を照らすそれを携え、炎の翼が一度たわんだ。

 分厚いハッチが内側から膨れ上がり、赤熱して十字に融け落ちる。その縁を両手で掴み、紅のラインで彩られた黒いMSが這い上がった。上体が現れ、翼が再び生ずる。

『シン……! 主役だからって待たせすぎじゃないかぃ?』

 ヒルダの愉しげな声に、機内のシンは小さく笑った。
 中央エレベーターを眼前に捉えたIジャスティスが、咄嗟に後退する。

『シン=アスカ、デスティニー供敵と交戦状態に入ります』
『把握しました。第4ドックにてベイオウルフ小隊始動。敵部隊の殲滅に注力して下さい』

 味も素っ気もないネーミングはシン自身によるもの。短い報告を終え、機体が上昇し空に浮かび上がる。

『アスラン=ザラ……アンタか』
『その機体、その声……シンだな!』

 張り出した肩、腰。背負った大型のウィングユニット。広がり、揺らめく光の翼。黒光りするボディ。
鮮血色のツインアイと血涙のラインは、対峙する者に生物的嫌悪感から来る恐怖を与える。
 光翼が後ろへ伸び、爆発的に膨れ上がって、デスティニー兇蓮懋咫戮北り懸かった。

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