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SCA-Seed_GSCI ◆2nhjas48dA氏_第30話

Last-modified: 2007-11-30 (金) 19:34:49

「デュランダル閣下、何度でも申し上げます。お止め下さい」

 機動要塞メサイアの司令室に立つ青年は、変わらぬ口調でギルバート=デュランダルに進言した。

「ダイダロス基地を抑え、戦略砲のコントロールは握りました。今こそ、ユニウス条約に代わる休戦協定を結ぶ時です。国力の差はあれど、この状況ならば有利な条件を提示できるでしょう」
「しかし敵はまだ残っているのだ、補佐官」

 ギルバート=デュランダルは、あくまで穏やかな口調を崩さなかった。連合軍の重要拠点を制圧し、戦勝ムードに沸き返っていた所に冷水を浴びせかけた補佐官は首を横に振る。

「最早暴力を振るう段階ではありません。レクイエムという切り札を失った地球連合に寛大さを示す事で、逆に萎縮させるのです。いかに強力な戦略兵器といえど、ひとたび使ってしまえば憎しみの原料となるに過ぎません」
「では、あのナチュラル共に対し、やられっ放しでいろと!? 世論が納得せんよ!」
「我々は世論を納得させる為に存在するのではありません。無論、議員の皆様を再選させる為でも無い。……選出コンピューターを改善すべきですね」
「な……!?」

 絶句した評議会議員に背を向けて、補佐官は再びデュランダルに向き直る。

「閣下……コーディネイターとは調整者を意味しています。気勢に乗り、加減の効かぬ戦略兵器で敵を追い撃つ事の何処が、調整行為なのでしょうか?」
「勿論、最終的には調整へと動いていく。しかし、今は平和の敵を討たねばならない」
「誤魔化すのは止めて頂きたい。平和という状態が如何にして創造されるのか、理解していらっしゃらない訳が無い。……あくまで、デスティニープランに固執されるのですか?」

 連合軍のアルザッヘル基地が大写しになったメインスクリーンの前で、2人は対峙した。

「そうだ、補佐官。私は私の出来る事で、世界を平和へと導いて行く」
「閣下、平和への貢献という意味では、デスティニープランは無益です」
「相変わらずだな、君は……初めて出会った時も、そうだった」

 苦笑し、髪をかき上げるデュランダル。

「実に長い間、君とはこの一点について議論してきた。だが、平行線だったな」
「人類は如何なる場合においても抑圧を憎みます。デスティニープランが生み出すのは反発と敵意、そして私欲を得ようとする良からぬ思惑だけです」
「それが滅びをひき起こすとしてもかね? 人はあくまで自由を欲すると?」
「そうです。このまま進めば、閣下は必ずや『自由』に敗れ去りましょう」

 補佐官の言葉に首肯したデュランダルは、静かに眼を閉じた。

「では……君は行きたまえ」
「は……?」
「君を、プラント最高議長代行に任ずる。私に万一の事があれば……つまり、万一私が自由の剣を持った歌姫に討たれる事があれば……その時は、プラントを任せる」

 補佐官の瞳が、大きく見開かれた。

「閣下!」
「命令だ。メサイアから退去してアプリリウス・ワンに帰還し、政務を遂行したまえ」
「拒否いたします! 私が閣下とお呼びするのはただお1人のみです!」
「2人に増やしてくれ。……今まで有難う、偽らざる感謝の気持ちだ」

 両脇を歩兵に掴まれ補佐官は叫ぶ。声を荒げたのは、これが最後だった。

「馬鹿な……閣下!! お止め下さい! 私は感謝など! ……離せ!!」
「レクイエム、発射準備を開始します。照準最終確認……月面、アルザッヘル基地」

 オペレーターの声と共に、目の前でドアが閉じた。

「……大丈夫ですか? 補佐官」

 R1資源衛星の無重力ブロックで覚醒した補佐官は、その声に眼を開けた。散った汗を拭い、傍に置いた水のボトルを手に取る。ストローを咥えて中身を吸い上げた。

「大丈夫です……どうしましたか」

 ベルトで固定された寝袋のような旧式のベッドから起き出し、彼は身体を動かして傍の女性兵士を見上げた。元オクトーベル3の警備隊員という事だけ聞いている彼女と視線を合わせる。

「定期哨戒を終えて、帰還しました。異常は見られません」
「そうですか。お疲れ様です。……君達は、どうして此処へ来たのですか?」
「え? いえ、ちょっとラクス様の方々とケンカしちゃって……」
「クライン議長の、『御手』と?」

 補佐官の問い掛けに、女性兵士はヘルメットを抱いたまま黙って頷いた。

「そうですか。とはいえ、この資源惑星はオクトーベル3に劣らぬ重要な価値があります」
「はい……アスカさんも、そう言っていました」
「アスカさん?」
「シン=アスカさん、です。此処は防衛網の死角で、小さな部隊なら通り抜けられるって」

 女性兵士の言葉に、補佐官は頷いた。

「その彼の言う通りです。君達は重責を担っています。これからもよろしくお願いします」
「はい! では、失礼します」

 勢い良く敬礼して退室する女性兵士を見送った後、補佐官は大きく息を吐いた。
 手元のPCを開き、メールのリストに目を走らせる。ふと指先を止め、眉を寄せた。

「アメノミハシラから? 連合軍の回線を使用して……何故、私に……」

 ロシア中部の廃墟、エイプリルフール・クライシスで放棄された市街。その瓦礫に寄り添うような形で、巨大なハンニバル級陸戦艦が停泊していた。

「あーあ、やっちゃいましたね」
「だ、駄目でしたか……?」

 艦内の格納庫兼メンテルームに横たわる、デスティニー兇留ο咾鯆瓦拿えた研究員。彼の言葉に、シンがその表情を伺いつつ応えた。

「ええ。補助用のジェネレータは、本来出力低下を補う為の機能なんですよ。パワーを上乗せする為じゃない。コンバーターが保たなかったんだ」
「カスタム機は修理が難しいって聞いたんですが、どうなりますか」
「ちょっと右腕は使えませんね。ま、多分ウィンダムのパーツで補えます。互換性はある」
「……初出撃で壊して、すみません」

 頭を下げるシンに、研究員は手を振ってみせた。

「こっちのミスでもあります。出力を上乗せできる以上、そういう事態を想定しとかなきゃいけなかった。
むしろ改良点を指摘して頂いて、感謝してますよ」
「なら、良いんですが」
「リミッターを掛けようか……いや面白くないな。アーガイルに相談してみるか」

 既に自分の世界に入ったらしく、データを納めたメモリスティックを掌で弄びながら去っていく研究員の背中を見送った後、シンは溜息をついた。

「アズラエルさんに、怒られそうだな」
「アスカさん。お嬢様が探してましたよ」
「……」

 通り掛かったメカニックに声を掛けられ、シンは肩を落としてかぶりを振った。

「ディアッカ、シホ。済まなかったな」

 艦内のラウンジにやってきてイザークは、開口一番そう言って頭を下げた。包帯を取ったその顔には、額の左側から右の頬に掛けて大きな褐色の痕が走っている。

「気にするなって、イザーク。それより良いのか? テロリストになっちまって」
「ああ。名誉がどれほど地に落ちようと、回復させる手段はある。むしろ……今の俺にとっては、死ぬ事、諦める事こそが何よりの不名誉、恥辱! 濡れ衣なのだからな!」

 握った左の拳を胸元に突き出し、イザークは言い切った。シホが微笑んで頷く。
 彼女にとって事の正誤はともかく、イザークが再起した事が何よりの吉事だった。

「しかし、『敵』はタチが悪いな。戦いようが無い……」
「デュランダルを裏切った俺達に恨みを持ってるとか、そういう次元じゃ無いしな」
「2種類の情報を同時に流して、ナチュラルとコーディネイターの間に溝を作る……一体、そんな事をして誰が利益を得るのでしょう?」

 シホがそう言うと、痕の端に触るイザークが渋い表情で応えた。

「今の所、誰も利益を手に入れる事は出来ん筈だ。兵器商人が戦争を起こして儲けるという筋書きはよく噂されるが……世界全体がダメージを受けている以上、戦争は損害にしかならん」
「対岸の火事を利用しようとかじゃあ無いの? 月のコペルニクスとか、マーシャンとか。
……ま、無いか。火星は火星で大変だし、コペルニクスはとにかく厄介事を避けたがる」

 肩を竦めるディアッカ。低く唸り、顎に手をやるイザーク。

「とにかく……戦争の芽は摘まねばならん。3度目の大戦が起きればプラントが保たない」
「クライン議長が、其処を理解していらっしゃれば良いのですが」
「そう、最大の問題はそこだ!」

 テーブルを叩いてイザークが立ち上がった。もう慣れっこなのか、殆ど同時に自分のコップを持ち上げ、衝撃を回避するディアッカとシホ。

「確かにクライン議長は平和を愛しておられる! だがやり方が拙い! 試行錯誤をしないにも程がある! 常に、やり方を変えていかねばならんというのに……」
「んな事言うけどイザーク、お前だって結構ノってたじゃん。俺もだけど」
「い……いやそれは、敵が分かりやすかったからだ。今度は違う。まず敵の正体を……」
「敵の正体を、知りたいのですか?」

 唐突に、背中合わせで座っていたエコー7が振り返った。サンドイッチを食べ終え、口元を拭った彼女が席を立つ。

「……勿論だ。ミハシラ軍には、心当たりがあるのか?」
「ええ。今の争いを望み、主たる役割を果たしているであろう者達を知っています」

 彼女は先程の戦闘を経て、彼女はジュール隊に対しある程度の信頼を寄せていた。高高度からの偵察中、彼らが死力を尽くして討伐隊と戦っていた事を確認していたのだ。

「ですが、知ってしまえば覚悟を固めねばなりません。それはプラントにとっても地球連合にとっても、あってはならない存在。それでも……知る事を望みますか? イザーク=ジュール」

 イザークが襟を正し、静かに頷く。それを見て、エコー7は再度口を開いた。

「6年前、1つの歪みが産み落とされました。『最後の50人』と、私達は呼んでいます」

「シン、状況は芳しくありません」

 艦内にあるアズラエルのオフィスへやってきたシンは、その言葉に小さくまばたきした。
節電の為か、室内は薄暗い。初めて会った時と同じく、2人きりである。

「芳しくないって、今以上に良くないんですか?」
「ジェス=リブル様は健闘してらっしゃいます。御自分の見聞きした『真実』を世界中に広めるという、ジャーナリストの使命に邁進していらっしゃいます。けれども……」
「伝わらない?」
「月並みな例えで申し訳ありませんが、海に砂糖を入れて甘くするようなものです」

 視線を伏せ、アズラエルは可能な限り申し訳無さそうな表情を作ってシンを見上げた。

「人は、最も心地良く都合の良い事を真実と呼びます。つまり、人の数だけ真実が存在するという事です。
極めて、主観的な概念です。特に国家間の真実というものは……まさに、千差万別」

 その言葉に、シンは小さく目を見開いて息を呑む。ガルナハン基地で、砂色のセイバーALTを駆るパイロットが告げた事と、殆ど同じ言葉を聞き取ったからだ。

「要するに、俺が言いたい事を真実だと、大勢に認めて貰う為には……」
「シンが、大勢と利害関係を一致させねばならないという事です」
「……今は、大勢が平和を望んでいないって言う事ですか?」

 シンの問い掛けに、少女は少し視線を外して言葉を留める。瞳が細まった。

「そもそも、平和が存在するのでしょうか? あくまで戦争が無い期間というだけの話ではないでしょうか。それが2年か20年か、200年かは定かでありませんが」

 少女の言葉にシンは嘆息した。妙な説得力があったからだ。何しろ相手は、CE以前から戦争に関わって利益を上げてきた企業の長なのだから。

「戦争を望む人間は僅かでしょう。けれども、戦争の無い状態には色々あって……大勢の理解が合致しないのは、まさにそのステップにあるのです」
「人類全員が願う、戦争の無い状態っていうのは……あると思います?」
「ありません。無いから、戦争が絶えないのです」

 推測でなく断定したアズラエルに、シンは力なく頷く。出まかせには聞こえなかった。

「『真実』を伝えるだけじゃ、上手くいかない。じゃ、他に何をすれば良いんだろうな……」
「そうですね……シンには、何が出来ますか?」
「力を振るえます。力は、俺の全てです」

 恥じず、怖じず、気負わずシンは即答する。その反応に、アズラエルは微笑んだ。

「ならば、これからも中立地帯の治安を賊から守り続けるべきかと。たゆまず、諦めず」
「諦めず……?」
「最も重要な事は、諦めない事です。一挙に全てを解決するような魔法の杖を欲すれば、現実を見失います。喩えどうにもならない事と思えても、一歩ずつ進むべきなのです」

 笑みを深め、アズラエルは言葉を締め括った。嘘は言わない。生存欲求を既に放棄したようなシンに、甘言は通用しない。だから本心を言ったのだ。
美しく飾った理屈、空から見下ろすような信念、一騎当千の戦士等等、戦闘は終わらせても戦争の終結には何の役にも立たない。血の滲むような、誰からの賞賛も共感も得られず、かつ果ての無い『世界の整備』。その積み重ねが、暖かくて優しい世界への礎となるのだ。
 そしてそれが極めて困難だからこそ、ロゴスのような『戦争売り』達は何度でも現れる。
世界の鮮やかなる変革という幻想に、一体幾人の英雄が踊らされ、破滅させられた事か。

「解りました、やってみますよ。他の誰の為でも無くて……俺の為に。俺が満足する為に」

 だから、血染めの闇を抱えているにも関わらず、自然体でこう答えられるシン=アスカに、アズラエルは好意に似た感情を抱く。それは、憧憬の一種であった。
 何かを言いかけた彼女だったが、横で鳴った電話を取る。小声で何かを指示し、少女はシンに向き直った。

「ミハシラ軍のロンド=ミナ=サハク様から通信が入ったようです。行って下さい、シン」

『では……オーブの首長声明は届いていないのだな?』

 互いに顔を合わせたシン、ミナ、エコー7そしてヒルダ。ミナの言葉に、エコー7は首を横に振った。

「現在地点は通信状況が劣悪です、司令官。付近にケーブルが通っていませんので」
『カガリ=ユラ=アスハが直接、ミハシラ軍の総司令と……現在テロリストとして追われている集団の首謀者……これにはシンの名前が挙がっているのだが……その海賊2名を、オーブ本国に呼びつけたのだ。MS戦力を伴っての入国を許可している。尚、テロについては誤認だったと明言し、謝罪の言葉を述べていた。全ての討伐隊に、作戦中止を指示したらしい』
「罠だね」

 ヒルダが一言で切って捨てた。それに小さく頷いた後、シンがミナに問い掛ける。

「まさか行くつもりじゃないですよね? 俺だけを行かせて下さい。様子を見るべきです」
『そうもいかん。この声明をアスハの小娘が出したという事自体、由々しき状況なのだ』
「クライン派の問題ですか?」

 エコー7に首肯するミナ。

『今やオーブ軍はクライン派軍人と、クライン派に同調するアスハ系軍人の巣窟。あのクラインが出した声明を今回のような形で翻せば、軍は……ともかく、捨ておけぬ』

 エコー7が瞑目する。ミナには未だ、元オーブ五大氏族という意識が残っているのだ。

『危険は承知している。同行を命じるような事でも無い……各人の判断を、尊重する』

 別れの挨拶さえ無く、モニターが消えた。シンが舌打ちする。

「俺は行く。行くしかない。アスハ……あいつ、何やっても面倒を起こすんだな!」

 苦い『帰郷』を予感し、彼は紅の眼を細めて歯を噛み締めた。

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